【HH01】誇りを取り戻せ

担当午睡丸
出発2019/10/07
種類グランド 冒険(他)
結果大成功
MVPリコ・ポートマン(da1336)
MVSアドラ・マデラ(da0742)

オープニング

◆鍛冶場
 暗く、熱気の充満した酒場で二人の男が酒を呷っていた。

 双方ともに短躯である。いや、周囲で勝負の行方を囃し立てる者たちは皆、男も女も全て短躯の者たち――ドワーフであった。
 二人は身体を海老反りにして、まるで小樽のように大きく、見事な細工の施された銅の酒杯を飲み干していく。
 テーブルの上に山積みとなった酒杯の多さが、この勝負の激しさを物語っていた。

登場キャラ

リプレイ

◆先行隊、地下へ
 魔の森、『鍛冶場』へと続く洞窟内部を先行隊に志願したハウンドたちが慎重に下りていく。
「おおー……これこれ! これぞ探検! って感じだよな!」
 マジカルトーチに照らされた内部の様子に、ソレイユ・ソルディアスがどこか楽しそうに呟いた。
 入口付近こそ自然洞窟のようだった内部が次第に変化を見せ始めていたのだ。不規則だった洞窟の幅や高さは徐々に整えられていき、身を屈めることもなく楽に通行できるようになっていた。
「……明らかにコモンのサイズに合わせているな。それにこの壁……加工した跡がある」
 リディオ・アリエクトが壁面を興味深く観察する。
「……ん? リディ兄、それってどういうこと?」
「ここも遺跡の一部ってことさ。上の方は自然洞窟をそのまま利用したのかも知れないが、この辺は明らかに人の手が入っている。もっとも、どんな技術で造ったのかまでは俺にも分からないけどな」
 この地下遺跡の全体像は(おそらくはダークドワーフたちにとっても)不明である。長い年月の間に地表に存在したであろう出入り口の多くは土砂に埋まるなどしたのだろう。
「古代の遺跡……もしかしたら、お宝が眠ってるかも知れないぞ」
「ホント!?」
「……お二人とも、宝探しも良いですがまずは目的の遂行ですよ」
 やや後方を歩いていたセヴラン・ランベールが苦笑しつつ釘を差した。
「……あ、いや、ダークドワーフの事も忘れてないぞ、うん。な、ソレイユ?」
「そうそう! 罠なら任せなよ! じいちゃん仕込みの腕前見せてやるぜ!」
 二人は頷き合うとこれまで以上に張り切った様子で先頭を行った。
「やれやれ。とはいえ、遺跡と聞いては古代の文献などが存在するのではと気になりますね……」
「……遺跡は逃げませんし、そのダークドワーフたちに聞いてからの方がはかどるかと」
 傍らに立つシャルル・ムーフォウが、話しかけるというより呟くように言った。手にした魔法のランタンの灯りがなければ闇に溶けてしまうようなローブ姿である。
「なるほど。確かにシャルルさんの仰る通りですね。ダークドワーフたちがいつからここで暮らしているのかは不明ですが、いろいろと調べているでしょうし、古代の生活の痕跡など残してくれているかも知れません。後で調査する機会があれば良いのですが……」
「そろそろ罠に集中しないと、怪我しますよ」
 短く嗜(たしな)めるシャルル。第三者が耳にすれば多分に冷たい物言いだと感じるが、彼の場合は能動的に他人に助言すること自体が稀なのである。
「あ、いえ……確かに、いまはそういう場合ではありませんね。集中するとしましょう」
 それはセヴランも承知したところで、彼はシャルルの諫言(かんげん)を素直に聞き入れると持参した羊皮紙のスクロールに筆を走らせる。洞窟内の道筋や構造を記録するつもりなのだ。
(……遺跡。案外、ダークドワーフも同じように惹かれてここに住み着いた、とか……?)
 どこか高揚した仲間たちを眺めてシャルルはそんな事を思った。かように、遺跡というのはコモンの知的好奇心くすぐるものである。
「……とはいえ」
 こんな地下深くとなれば植物はあまり期待できず、周りほど盛り上がれないシャルルなのであった。

「……そこ、ちょっと照らしてくれ」
「おう、分かった……この辺か?」
 ウル・ギーフの指した壁面をゴンスケ・アステールが魔法のランタンで照らし出した。
 ウルは仲間たちにその場を動かないように言うと慎重に壁へと近づいていく。彼の知覚がランタンの生み出す陰影の中に違和感を覚えたのだ。
「……いくつか穴があるな。それに床にも不自然な切れ目があるように見える。調査隊の報告にあった罠の一つだろう」
「どれどれ……ああ、なるほどなァ。この辺の床を踏むと、壁の中に仕込んだ矢が撃ち出されてくるって寸法か」
 ゴンスケが罠の仕組みを調査し、説明する。
「剣呑なこった。ま、ダクドワ連中は全員把握してるか、目立たないトコに目印でもあるんだろう」
「だろうな……ふん!」
 射角を十分に考慮したうえでウルが床に体重をかけると、射出された数本の矢が対面の壁に当たって弾かれた。
「これでよし。どうせすぐに襲撃はバレるんだ」
「そういうこと。ご安全に! ……ってな」
 こうやって罠を一つ一つ解除しつつ、先行隊は暗闇に歩を進めていった。

◆最初の門番
 やがて先行隊は怪しげな像が設置された一角へと至った。

 それは翼竜と人間をかけ合わせたような奇怪な姿で、一見するとブロンズ製のような質感だった。
 おそらく調査隊の報告にあったゴーレムらしきものだろう。
 像はやや広くなった場所に設置されており、これ以上先に進むのであれば像の前方を通過する以外に方法は無い。
「やはりガーデンガーゴイルですか……さしずめ、最初の門番といったところですね」
 以前に遭遇した経験があるというノルーカ・ソルカがその正体を看破した。ギルドマスターの予想は的中したということである。
「つまり、これがダークドワーフ攻略戦の第一歩ということですわね……気合い入りまくりですわ!」
 戦意十分とばかりにエフィ・カールステッドがグリーヴァボウに矢をつがえる。
「こうなれば多少の騒ぎは避けられませんね……出来うる限り敵は排除していきましょう」
 セシリオ・レヴナントがミスリル製のショートソードを手に前に進み出る。彼は先行隊の中では最も重装備であることに加え、回復魔法による継戦能力の高さも有していた。
「その通り、邪魔な障害は排除するのみです……というわけですので『勇者』の兄さんが前衛でお願いしますね」
 アステ・カイザーもまたオーバーロードボウに矢をつがえながら、兄のエクス・カイザーに前方の守りを託した。
「任せろアステ。盾にして剣であるこの兄が勇者として戦おう!」
「と言いつつ持っているのは槍ですけれどね」
 多少の言行不一致はともかく、ガーデンガーゴイルを前に戦いの準備を進めていくハウンドたち。
「みんな、気をつけてね! もし怪我したら言うんだよ?」
 セース・エイソーアが射手たちのやや後ろに控えた。
 後続を安全に通過させる為にもルート上で脅威となるものは全て排除する必要があるが、この先の探索を考慮して罠に対処する者たちは少し下がった。消耗を避ける為だ。
 ハウンドたちは顔を見合わせると闇に照らし出された像へと接近していった。

「動きだしました!」
 シチャカ・メチャカが警告の声をあげた。
 ハウンドたちが近づくと像が――いや、ガーデンガーゴイルが動き始めたのだ。シチャカは自らも火の玉のようなガーゴイル、ウィローを像の近くへと差し向けて僅かでも援護と視認性の向上を図る。
 やがてガーデンガーゴイルは間近にいる者へと襲いかかった。
 標的となったのはセシリオだ。その鋭利な爪は彼の胴を的確に狙って薙ぎ払われ、回避もままならない。
「くっ!」
 その威力は纏ったエルヴンアーマーをもっても防ぎきれず、鎧の下に一筋の血を流させた。
 反撃すべくセシリオがショートソードで像へと斬りつける。だが、まるで石に刃を立てたような感触があった。
「……硬いですね」
「ああ、威力がかなり殺されている気がするな」
 エクスが同じような感想を口にした。得物であるロングスピアが効いていない訳ではないようだが、その威力が削がれていると実感していた。
「援護いたしますわ!」
 エフィが前衛を援護するべくガーデンガーゴイルに矢を射込む。が、こちらも石に矢が当たったような音が響くのみである。
「効いているのかいないのか……これはなかなかしぶといですね」
 同じく矢を撃ち込んだアステも手応えのなさを実感していた。硬い身体もそうだが、ゴーレムゆえの攻撃に対する反応の無さにも困惑する。
 幸いにもガーデンガーゴイルは周囲の敵に対して単純な行動を繰り返しているだけのようだった。つまり、前衛が崩れなければ射手による攻撃でいずれは倒せるということである。
 であれば問題はその前衛の耐久力だが、高い防御力を誇るうえに自分で回復できるセシリオの魔力が続く限りはハウンドの優勢だと思っていいだろう。
「とはいえ、このままではラチが明きませんね……みなさん、私の矢に続けて攻撃してください」
 ノルーカがそう告げると矢をつがえ直した。それを聞いたアステとエフィは戦技魔法オーバーロードを成就して攻勢に備える。
「何か手があるようですね」
「ではそれまで引き受けよう! うおっ!」
 ガーデンガーゴイルがエクスを切り裂くあいだ、ノルーカは新たな矢で狙いをつけて仲間たちの準備が整うのを待った。
「……撃ちます!」
 ノルーカの放った矢が空気を切り裂くような音を立てて飛翔する。矢はガーデンガーゴイルの身体を僅かに外れ、洞窟の壁面へと命中した。
 続けてアステとエフィの矢が放たれた。オーバーロード。限界まで溜めて放つその戦技によって威力の倍化されたそれは、今度は命中し――その身体をより深く穿った。
「よし!」
「手応えアリですわ!」
 ノルーカの射た『カブラアロー』によってガーデンガーゴイルの特殊な体の効力を失わせたのだ。
「ここが反撃のしどころのようですね」
「ああ!」
 状況を察したセシリオとエクスも攻め立て、シチャカのウィローもそれを援護した。これまでとは手応えが明らかに違う。
 カブラアローの効果はほんの僅かな間ではあったが、それでも状況を好転させるには十分だった。
 やがてガーデンガーゴイルは静かにその動きを止め――もう二度と動き出すことはなかった。

「いたいのいたいの、とんでいけー……はい、良くなったけれど気をつけてね!」
 戦闘後、セースがキュアティブによって治療を施した。いざとなれば彼女による後方からの回復支援も可能だろう。
 ノルーカの所持するカブラアローは残り二本。だが、このメンバーでのガーデンガーゴイルへの対抗策が編み出せたこともあり、あと数回程度の遭遇なら問題なく撃破できるだろう。
 先行隊は再び隊列を戻し、洞窟の探索を再開した。
 ここから先は調査隊による下調べも及んでいない未知の領域である。ハウンドたちは予断を許さない暗黒の洞窟へと慎重に歩を進めていった。

◆探索模様
「……ああ、なるほど。先ほどの右の通路から繋がっていたというわけですか」
「そういうこったな。その先にも分かれ道があったみてェだが、落盤で崩れちまってたぜ」
 セヴランがゴンスケの話を聞き取りながらスクロールに道筋を記していく。彼を始め、数名の備える特別な体内感覚は地下での地図作りにも有効だった。
「これは、思っていたよりも複雑な構造をしていますね……」
 セヴランが何度も書き込んだスクロールを眺めて言った。
 洞窟は明らかにその複雑さを増していた。遺跡が使われていた時代の名残なのだろうか、幾つもの分岐路によってアリの巣のような様相を見せていたからだ。
 後続の為には最短ルートを把握しておかねばならず、分岐路に差し掛かるたびに分担して調査を行なっているのである。
「しっかし、ご丁寧に回り道にまで罠を仕掛けやがってよ」
「それぐらいしかやることが無いのだろう。あるいは罠を作り、仕掛けることで技術向上に努めている、とかな」
 ウルが鍛冶場の情報を思い出して言った。古代のゴーレムまで改良する連中なのだ、罠の再利用や新規設置などは容易いことだろう。
「……足元部分の仕掛けは解除しましたので、あとは任せます」
「わかった」
 解除を終えたシャルルに促され、ウルが天井に張り巡らされたロープに矢を射て罠を空振りさせる。
 天井に仕掛られていた石が落下してきて音を響かせた。
「罠の多くは光源の死角を計算して配置しています。巧妙ですね」
「連中もこの腕前を正しく使えるようになりゃいいんだけどなァ。ま、いまは地道に進むしかねェか。動物でも棲んでりゃ助かったのによ……」
 洞窟内の生き物は虫ぐらいしか見当たらず、エンパシーで情報を得ようとするゴンスケの思惑は空振りに終わった。おそらくはダークドワーフたちの食料として狩り尽くされたのだろう。

「……こりゃまた、『いかにも』って感じだな」
「だね」
 リディオとソレイユは大きく口を開いた通路を前に顔を見合わせた。
 いわゆる落とし穴の類だ。リディオが発見、解錠した隠し扉の先にあったのはこれまでになく人工的な通路で、訝しんだ二人が調べたところこの仕掛けを発見したのである。
 開いた床板の長さは優に数メートル。簡単に飛び越えられる長さではない。もし気付かずに通行すれば下に転がる串刺しの骸(むくろ)と同じ無残な姿を晒すことになっただろう。
「んー……これぐらいなら届くかな? リディ兄、俺が先にホルスで飛び越えてみるよ。どこかに罠を解除する仕組みがあるかもしれない」
 ソレイユがマジカルトーチで落とし穴の先を指した。ダークドワーフが通路として利用している以上は罠を解除できると考えたのだ。
「それはいいが気をつけろよ、ソラ。向こうに着いた途端に別の罠が仕掛けられてないとも限らないぞ」
「げっ! 脅かさないでよリディ兄……。っていうか、ホントに無いだろうな……?」
「ま、こういう場所じゃそれくらい警戒した方がいいってことさ。解除は任せたぞ、ソラ」
 懸命に目を凝らして見てもそれらしいものは無いと判り、ソレイユは罠の先に投げたトーチへと転移したのだった。

◆最後の門番
 数々の罠、そして要所要所に設置されたガーデンガーゴイル。
 先行隊はこうした脅威に可能な限り対応しつつ、すでにかなりの深さまで潜っていた。

「……いま、何が聞こえなかった?」
 最初に気付いたのはソレイユだった。彼の並外れた聴覚が洞窟の奥から微かに聞こえてくる音を捕らえたのだ。
「では、少し偵察させておきましょう」
 セヴランがディレクトガガを成就してガーゴイル『ラプター』を洞窟前方へと送り出した。
 とはいえ特別夜目が効くわけではないので得意の飛行能力は発揮できず、壁伝いに歩いての索敵だ。それを補うためにシークレットスタイルを付与して隠密性の向上を図る。
「灯りが二つ……こちらに近づいてきます」
 セヴランがラプターの視覚情報を伝えると、ハウンドたちは一斉に手元の灯りを消して岩陰に身を潜めた。

「……この辺りか? 妙な音がしたっていうのは?」
「おおかた酔って罠でも作動させたんだろう。死んでなけりゃいいが……」
 近づいてきたのは二人のダークドワーフだ。どうやら鍛冶場へと帰ってきた仲間だと勘違いしているらしい。
「こっちは見張り番を終わらせて一杯やりたいところだってのに……ん? 何だ?」
 岩陰に人のようなものを感じ、片方がランタンを向けたその瞬間。
 ウルの射た銀の矢がランタンを目印に飛来し、そのダークドワーフの腿を抉(えぐ)った。
「ぐあっ! 何……」
 続けてもう一矢を受けてダークドワーフはその場に崩れ落ちた。リディオがオーバーロードを成就して放った銀のサンダーアローが肩口に命中し、感電させたのだ。
「や、矢だと!? て、敵襲だ!」
「悪いけど、あんまり騒がないでね」
 音もなく背後をとったソレイユがシノビブレードで斬りつけ、同じくシャルルのスピアがそれに続く。二人を含め、セヴランがシークレットスタイルを付与しておいたのである。
 こうして運悪く囲まれた二人のダークドワーフは即座に取り押さえられた。
「見張りのダクドワか……どうする? ふん縛って協力でもさせるか?」
 シノビダーツをもてあそびながらゴンスケが訊ねた。情報を聞き出すにはもってこいだが、ギルドマスターの情報によれば見張りがいるのは底近くだということだ。
 つまり、目指す場所は近いということである。

「……いましたわ」
 洞窟の行き着く先、地下の扉の前に居る二人のダークドワーフを認めてエフィが仲間を振り返った。
 文字通りの門番だが、魔法のランタンらしき光に照らされたその姿に緊張感は無い。何者も罠を潜り抜けてここまで到達できないと高を括っているのだろう。
「時間を掛けて鍛冶場に知られては厄介ですね……一気に無力化しましょう!」
 アステが弓に矢をつがえながら仲間を促した。
 すでにここまでのルートは判明し、他の者たちは地上に待機する仲間を誘導に戻っていた。ここで騒ぎを起こされて迎撃の時間を与えてしまうのは得策ではない。
 岩陰に身を潜めたままアステはマルチシュートを、エフィはポイントシュートを成就する。
「じゃあ……」
「撃ちますわ!」
 矢が闇を裂いて飛翔するに続けてセシリオが突撃し、ノルーカが援護の狙いをつけた。

 ――数分後。
 ハウンドたちは見張りを静かに打ち倒し、扉へと手をかける。
 鍛冶場は、もはや目前に近づいていた。

◆鍛冶場突入
 やがて制圧隊が洞窟最深部へと到着した。

 先行隊による調査および罠の解除の成果によって、後続のハウンドはほとんど消耗することなく制圧へと臨むことができる。
 そして、ついに鍛冶場の扉が開かれた。
 熱い空気がハウンドたちを出迎えるなか、先頭で乗り込んだのは――。

「わーい! 鍛冶場だー!」
 瞳を輝かせたフラールであった。
「うわー! すごい、結構広いんだねー!」
 興味津々に周囲を見回すフラール。
 鍛冶場は意外なほどに広い空間だった。天井までの高さは平屋の屋根程度か。
 当然ながら陽光は届かない。光源といえば、そこかしこに設置されたかがり火と松明の他は空間の中央に鎮座する巨大な炉から漏れ出る炎のみ。
 熱は感じるものの息苦しさを覚えないのは、遺跡の排気構造がまだ機能しているからだろう。
「あ、ほらほら! 他にもいろんなものがあるよ!」
 フラールが指した方向には様々な工房。ローレックの街の職人街にも負けないような設備が並んでいる。
「ふふ、ずいぶん詳しいんだな」
 そのあとを悠然と続くアリシア・コリンがフラールの博学ぶりをにこやかに褒める。だが、その間にも周囲への警戒は怠らない。
「ボクも最近になって鍛冶をやり始めたからねー。道具とか技術に興味があるんだよー」
「なるほど、好きこそものの……ということか。さて、さすがに気付いたようだな」
 鍛冶場は少しずつ騒がしくなっていた。短躯の姿が声を荒げ、こちらを指差している。
 ダークドワーフだ。
「まずはこの場をどうにかしてしまわないといけない、か。とりあえず逃げられなくしてしまえばいいのだろうが……」
 アリシアがこれから為すべき制圧行動の算段を立てていると、周囲から殺気が集まってきた。

「おぅおぅおぅ! テメエら、ここをどこだと思ってやがる!」
「コモン風情が……神聖な鍛冶場を踏み荒らして生きて帰れると思うなよ!」
 ハウンドたちを取り囲んだダークドワーフが口汚く罵る。誰も彼も職人然とした身なりをしているものの、手に手に斧を持ち、その目はコモンに対する憎悪に濁っていた。
「……」
 そんな罵詈雑言に対してヴァイス・ベルヴァルドは無言をもって正対していた。
 威圧感で職人たちを抑え、場の均衡を保つことの一端を担う。
「ちょ、ダークなドワさんがいっぱい……! ひいふうみい……あ、また増えた!」
 リザ・アレクサンデルは集まってくる職人を見ては指を折っていたが、やがて面倒になったのか数えることを放棄した。
「ま、いいか。どっちみち千切ってはなげ、千切ってはなげすれば良いんだしね」
「……はなげ?」
 そんなリザの発言を耳にしたベドウィール・ブランウェンが怪訝な表情を向ける。
「鼻毛を千切るのは関心しませんよ、リザ。鼻毛というのは埃から鼻孔を……」
「まってウィール変なとこで区切らないでそうじゃないから」
「まぁ個人の趣味は自由ですしね……さて、なかなかハードなお仕事になりそうですね」
「趣味じゃなーい!」
 リザの抗議を聞き流しつつも、ベドウィールは突発的な襲撃に備えて彼の一歩前を位置取っていた。
「ダークドワーフか……ふふ、相手にとって不足なし。むしろ燃えてきたわ!」
 マリカ・ピエリーニは闘志をみなぎらせて取り囲む職人たちを牽制する。
 一触即発の空気である。いつダークドワーフたちが襲いかかってくるとも知れない緊張感が続く中……。

「……こりゃあまた、ずいぶんと大勢でお越しじゃねェか」

 鍛冶場じゅうに轟くような声と同時に職人たちの輪が割れ、一人のダークドワーフが姿を現した。
「お前らが噂のハウンドって連中か。最近、ウチの若いのが世話になってるみてェだから礼を言っときてえところだったんだ。そっちから来てくれるってなァ手間が省けたってもんだぜ」
 不敵に嗤い、ハウンドたちを見据えるこの男。
 彼こそがこの地下遺跡のダークドワーフの長、鍛冶場を率いる大親方であった。

「わふっ……あれが大親方、ですか。肩書きからいって凄そうなやつですね」
 アレックス・パーリィは興味深そうに大親方の姿を観察する。
 身長は他のダークドワーフと大差ないだろうか。だが一回り以上に太く強靭な四肢と岩石のような胴体からは圧倒的な威圧感を覚える。
「ドワーフはカーシーに負けず劣らず力が強そうですが……」
「力ももちろんだが、警戒するべきことは他にもあるな」
 キース・ペンドラゴンが大親分の腕……いや、掌を指して言った。
 ギルドによって捕らえられたダークドワーフからの情報を思い出したからだ。
「大親方の『燃える掌』の噂ですね。確かに、そんなものに掴まれたら火傷では済まなさそうです」
 それを聞いたアイオライト・クルーエルが神妙な表情で頷く。
 嘘か真か、大親方の掌は金属を柔らかくするほどの熱を帯びるという。
 もちろん誇張や偽の情報という可能性も無視できないが、いずれにしてもこれだけのダークドワーフを束ねる人物なのだ。人並み外れた傑物であることに変わりはないだろう。
「至近距離での格闘戦に持ち込まれると危険かもしれない。それは覚えておこう」
「ええ、注意します」
「おいおい、なにコソコソ話してやがんだ。お前らケンカしに来たんじゃねえのかァ?」
 愛用の大金槌を肩に担いで鷹揚に言い放つ大親方。
「あのー、ひとつ聞いていいッスか?」
 フェルス・ディアマントが手を挙げる。
「なんだ、言ってみな?」
「せっかくの髭を剃ってしまうなんて、ダークドワーフっていうのはオシャレとは無縁なんスかね?」
 フェルスの言葉を聞いて職人たちが色めき立った。口々に罵りながら斧を床に打ち付けて怒るが、大親方が手をかざすと一斉に静まった。
「面白ぇこと言うな、デカいカーシーのアンちゃんよ。髭なんてもんに拘(こだわ)んのは古くせぇドワーフだけさ。それに俺たちはカーンみたいな見た目だけの連中とは違うんでな。真のオシャレってのは実用性……そして腕っぷしの中に在るもんよ」
「そうだそうだ!」
「さすがは大親方だぜ!」
 大親方を賛美する職人たちからは、もはや信仰にも似た熱気が感じられる。
「そんじゃ、ぜひその腕っぷしで勝負させてもらいたいッス。……まさか、自信がないなんて言わないッスよね?」
「いいだろう、存分に稽古をつけてやる。噂のハウンドとやらの実力、このゲナシン・ハンマーヘッドが見極めてやろう……おう野郎ども! コイツらを炉に焚べて鉄を打つぞ!」
 地下遺跡を鬨の声が揺るがした。

 大親方――いや、ゲナシンの号令によって鍛冶場の制圧戦がその幕を上げたのである。

◆職人
「ここはやっぱり露払い役が必要よね? さあ、取り巻きは私たちに任せて!」
 サーシャ・エラーギナがルミナパワーを付与したショーテルを手に叫んだ。
 その回避しにくい太刀筋で、攻め寄る職人たちに斬撃を浴びせ、肩口を斬り裂き血を滲ませる。
 職人たちは防具らしい防具を纏っていない。だが一度や二度の手傷ではまったく怯むこともなく、その勢いは止まらなかった。
「ふふ、ダークエルフを差し置いてダークドワーフを名乗るなどとは、片腹痛いと胃腸薬なのですよ」
 謎の対抗心を燃やすのはアンカ・ダエジフだ。
「呪われているというのなら、産まれた瞬間に家に雷が落ちたというこのアンカちゃんこそ真の闇なのです。よーし、『しーざ』、ステイ、ステイ……ゴー!!」
「俺はやるぜ、俺はやるぜ」
 闇エピソードを披露しつつ、下僕のシーザー・ハスキーヌをけしかけるアンカ。彼はグリーヴァブレードを手に職人たちへと躍りかかる。
「じゃ、ボクもやっちゃうよー! ヴィンドスヴァル!」
 フラールが別の職人たちへと向けて激しい吹雪で牽制した。押し寄せようとしていたこともあり多数の職人が巻き込まれ、幾人かは凍えたのか動きが緩慢になる。
 それでもたやすく逃げ出すような者がいないのはダークサイドゆえか、あるいはゲナシンの統率力ゆえか。
「さすがにダークドワーフは頑丈ね。この相手を『叩きのめせ』。だが『極力殺すな』、ね……。難しいけれど望むところよ! ゲナシンに挑む人の為にもやってみせるわ!」
「俺はやるぜ、俺はやるぜー!」
 フラールから魔法の援護を受けつつ、サーシャとシーザーは職人たちの勢いを受け止め続けた。

「おい! 何を手こずってやがる!」
「うるせぇ! 奴ら結構やりやがるんだよ!」
 職人たちの間から苛立ちの声が出始めた。
 それも無理はないだろう。相手は鍛錬を重ねたうえに十分な準備をしてこの場に臨んだハウンドなのである。
 いかにダークドワーフがコモンの中では比較的屈強な肉体を誇るとはいえ、この場にいるのはほとんどが職人だ。数の利をもってしてもそうそう押しきれるものではない。
「馬っ鹿野郎、正面から行ってダメなら囲んで一気に狙うんだよ! まったく、脳筋はこれだから……」
「なるほど、同感ですね」
「な、お前もそう思うだろ……へっ? お前誰だ……ぐわっ!」
 その職人は相手を視認できないまま背後から斬撃を受けた。戦闘の混乱に乗じて気配を殺したベドウィールが背後に回っていたのである。
 灯りの少ない鍛冶場では彼が身を潜める暗がりに事欠かない。追撃することは控え、攻撃するたびに身を隠すベドウィール。
 ミタマギリを付与したグリーヴァライモンによって、できるだけ多くの相手の魔力を消耗させることが狙いなのだ。
「ええと、ウィールが攻撃したのってどれだっけ……よし、たぶんあれ!」
 後方からの攻撃で混乱する辺りを狙ってリザの水の剣が伸びる。ベドウィールによって事前にミタマギリを付与されたそれは一人の職人の魔力を奪いきり、気絶させた。
「よし、狙い通り!」
(また適当に狙っていますね……あとでお説教です)
 喜ぶリザだが、この後ベドウィールからいろいろとお叱りを受けるのであった。

 そんな撹乱の効果もあってか、職人たちはハウンドから一旦距離を取ろうと動いていた。
「くそっ、後ろに回り込んでるのがいるぞ!」
「一度立て直せ……うおおっ!」
 幾人かの職人が突然地面に埋まった……否、落ちたのだ。
 地下の奥底であるはずのこの鍛冶場に、突如として落とし穴が発生していた。
「よし、いっちょあがりだな!」
 仕掛け人はアドラ・マデラ。戦闘のさなか、隙を見てマイスター魔法トラップピットによって落とし穴を生成していたのである。
 深さはダークドワーフの約二倍。そうそう簡単に登ってこられるものではない。
「ほら、今日は大盤振る舞いだぜ!」
 アドラはディレクトガガを成就するとガーゴイル『クリスタ』を穴底へと向かわせた。
「くそっ、あの小娘だ!」
「殺せ!」
 これ以上落とし穴を増やされては身動きが取れないと踏んだのだろう、職人がアドラに詰め寄ってくる。
「わわっ、後はおっさんに任せたぜー!」
「……」
 役目は済んだとばかりに退いた彼女に代わってヴァイスが前に出ると、ロングソードの柄を掲げて精神を集中させた。
 ――と。
「野郎、なんの真似……お、おい!?」
 数人が声もなくその場に倒れる。そして、もう動くことはなかった。
 カムイ魔法、デス。
 犠牲となったのは魔力を消耗し、なおかつ守護精霊の加護より外れた者だ。よってその数は多くは無いが――理由の分からない現象を前に人は恐れ、あるいは動揺するものである。
 それはダークサイドといえども例外ではなかった。
(……あまり殺すなというオーダーだったが、犠牲を無くして得れるものはない。彼らも、私も)
 明らかに勢いの落ちた職人たちに対して、ヴァイスは無言のまま剣を構えた。

◆大親方
 制圧戦が始まってすぐ、職人を仲間に任せてゲナシンへと一直線に向かったハウンドたちがあった。
「さあハウンドとダークドワーフ、どちらが強いか勝負よ!」
 混戦のなかをマリカが走る。その手に握ったグリーヴァファングの威力を少しでも向上させようとスマッシュを成就していた。が。
「おっと、そんな大振りじゃ届かねェぞ?」
「……ふっ、まだまだ!」
 爪はゲナシンの肌を薄く裂くに留まった。渾身の一撃はかわされやすい。手数によって補うしかない。
「わふぅ! 道を作りますよ!」
「大親方を抑えるッス!」
 アレックスとフェルス、ともにアースアーマーを成就した二人が続くとゲナシンの左右にそれぞれ位置取る。強固な防御力をもって文字通りの『盾』となるつもりなのだ。
 アレックスは瞑想剣エアリオラで、フェルスはバトルハンマーでゲナシンへと仕掛けた。斬撃と打撃がゲナシンの腕を裂き、胴を打った。
「うおっと! 若けぇの、コモンのわりにはやるじゃねェか……そらよ!」
 まともに受けたにも関わらず平然とした様子のゲナシンが、お返しとばかりに大金槌を振り払う。
「……ぐっ」
 強い衝撃がアレックスの肩口を捉えた。魔法の防御膜を纏っても防ぎきれない強烈な威力に苦悶の表情が浮かぶ。
(これは、そう何度も受けられませんか……)
 アレックスが悟る。明らかに並のダークドワーフとは段違いの威力、そして命中精度である。
「はっ!」
 攻撃後を狙ってアリシアがロングスピアを突き入れた。ミスリル製の穂先は的確にゲナシンの二の腕を捉える。
 さらにアイオライトが肉薄した。グリーヴァブレードでの鋭い斬撃を試みるが……このかすめ斬りもわずかに刃が届かない。
「おっと、危ねえ危ねえ……けっこうな業物だが、届かなきゃ意味が……お?」
 ゲナシンが肩口に刺さった矢を不思議そうに眺める。
 キースによる援護射撃だ。シューティングブレスを成就し、少しでも命中率を高める。
「いいねぇ。そうこなくちゃ面白くない……」
 ニヤリと笑って矢を引き抜くゲナシン。強靭な筋肉に阻まれたのか、矢はごく浅くまでしか刺さらなかったらしい。
「これといった防具もなしで……デタラメな筋肉ですね」
 アイオライトが呆れたように呟く。
「ガハハ! 青っちょろいコモンとは鍛え方が違うぜ! オラ、準備運動は終わりだ。来ねえならこっちから行くぞ!」
 短躯に力が漲(みなぎ)り、大金槌が唸りをあげる。

 戦いはゲナシンを包囲したままで続いた。
 相対する限り、彼の身のこなしは配下の職人たちと大差ないように感じられた。だが、包囲を受けているにも関わらず一向に倒れる気配がない。
 一方で得物である大金槌の扱いには目を見張るものがあった。ハウンド六人の攻撃を浴びつつ、強烈な反撃を的確に放ってくる。
 その狙いは盾役の二人、それもアレックスに多く向かっていた。最初に手傷を負わせたからか、あるいは相対的に見て軽装備だと判断したからか。
 やがて。

「どォォッせい!」
 ひときわ大きく振りかぶった大金槌の一撃をまともに受けて、ついにアレックスが膝をついた。
「……ぐっ。まだ、やれます……」
「だめだ、一度退くんだ」
 アリシアがそう促して入れ替わるように前に出た。アレックスの負傷具合は傍目にも判るほどに酷く、これ以上の戦闘が無謀なのは明らかだった。
「まずは一人。だが、この調子じゃちィとマズイな……フンッ!」
 ゲナシンが大金槌を捨てると、気合の声とともにその両の掌を灼熱化させる。
 そして彼は憎悪の表情を浮かべた。

「叩き潰してから炉に焚べてやろうと思ってたが気が変わった……コモンども、この場で消し炭にしてやる!」

◆掃討
 職人の制圧は順調に進んでいた。
 ハウンドは包囲の輪を打ち破りつつ鍛冶場を支配下に置いていく。だが、ここは予想以上に広く複雑である。
 敵も味方も自然と分散していくのは避けられなかった。

「はあっ!」
 レナ・ゴールドマンがルミナパワーを付与したグリーヴァオオダチで職人を斬り捨てると、それをリザとベドウィール手早く拘束する。
「よし……ウィール、そっちは?」
「片付きましたよ。まったく、ずっと気絶してくれていれば楽なんですけどね」
「それって死んでるよね?」
 『極力殺すな』というギルドマスターの命令遂行には拘束が不可欠だ。だがダークサイドが大人しく捕まるはずもなく、時には瀕死に追い込む必要すらあった。
 工房とあって幸いロープの類には事欠かないが、人手は多いほど良い。よって先行隊や対決隊からも余力のある者が協力しつつ、次々と職人を捕縛していった。

 鍛冶場の別の場所では雄叫びがあがっていた。セシリオがオベロンのフェイスガードの能力を使用したのである。
 抵抗できず、身体の委縮した職人たちへと向けてアンカがヴィンドスヴァルの吹雪を放つ。
「よし、大漁なのです……ネットアイドルの力、思い知るのですよ!」
「俺はやるぜ、俺はやるぜー!」
 さらにシーザーとともにハンティングネットを投げ広げ、一網打尽に絡め取っていく。

「『うん、わかった。がんばってねー!』……あのね、他のところはだいたい終わったってー」
 また別の場所ではフラールがテレパシーによって仲間の状況を確認していた。
「あとはこの辺りだけかなぁ……あ、サーシャ! うしろうしろー!」
「……よっと! たあっ!」
 忍び寄っていた職人の姿を見つけて声をかけるよりも早く、サーシャが身を翻してショーテルを叩き込んだ。
「気付いてたんだね、さすがー!」
「うん! でもありがと、フラール!」
 二人がその職人を捕縛する傍らではヴァイスが数人相手に無言でロングソードを振るっていた。
 全員の四肢が血に塗れたところで攻撃の手を休める。
「……頼めるだろうか?」
「はーい……ヴィンドスヴァル!」
 ヴァイスの一言を受けてフラールが吹雪で一網打尽にする。
(これ以上はさすがに不味かろうから、な……)
 鍛冶場制圧の成功はすでに見えた。ならば無益な殺生は彼の望むところではない。

 制圧戦は、ゲナシンとの対決の行方を残すのみとなっていた。

◆制圧
「オッッッラァァァア!」
 怒声があがった。
 幾度かの攻防の末、灼熱の掌……いや、灼熱の拳がフェルスの腹部を殴りつけたのだ。

 衝撃とともに凄まじい熱量が襲い、思わず膝をつくフェルス。
「……ほう? 倒れねぇとはやるじゃねえか」
「き、筋肉と……打たれ強さと諦めの悪さでは、誰にも負けないッスからね……」
 どうにか立ち上がると慎重に距離を取るフェルス。腹部を見るとプレートアーマーの一部が溶解しているのが分かった。
 アースアーマーに加えてガードを成就していたのに、である。
(こりゃあ、一気に勝負を決めないとヤバイッスよ……!)
 おそらく自分は次の一撃に耐えられないだろう。フェルスが目配せするとハウンドたちはその意図を理解し、動いた。
 アイオライトが湾刀で斬り裂き、アリシアが槍を突き入れる。
「ここで攻めきるわよ! あなたが倒れるまで、私は殴るのをやめない!」
 マリカのナックルが命中したと同時に付与されていたルミナの力が爆発的に解放された。エクスプロージョンだ。
「ぐあっ! ……フンッ!」
 さすがに怯んだゲナシンだが、すぐさまに打ち返した。灼熱の拳はスケイルアーマーをやすやすと溶解しつつマリカを吹き飛ばした。
「……くっ!」
「ここで燃え尽きろ!」
 マリカにとどめを刺そうと迫るゲナシン。そこへキースが矢と化したプファイルのCROSSを射た。
 だが、胸に矢を受けても彼は止まらない。
 灼熱の拳がマリカに振り下ろされる直前――何かが飛来してくるとゲナシンの足へと巻き付き、その短躯を地に倒した。
「うおおッ!」
「……なんとか、届きましたか」
 アレックスの投擲したボーラだ。満身創痍の彼がこれを命中させられたのは精霊の加護というより他ない。
「おのれ、コモンめ!」
 なおも呪詛を吐くゲナシンの上にフェルスの影が落ちる。
「悪いッスけど……ここらで終わりッスよ!」
 渾身のバトルハンマーが振り下ろされたと同時に――呪詛の言葉は止まった。

 鍛冶場の制圧は、ここに完了したのである。

◆対決へ向けて
「勝負……だと? この期に及んでか?」
 ゲナシンが心底呆れたような声をあげた。

 鍛冶場の制圧完了から数十分後。
 ゲナシンと生き残った職人たちは厳重に捕縛されていた。そのうえでハウンドたちはマクールの提案した二つの勝負の内容を彼に伝えたのである。
 ゲナシンが勝利した場合の見返りは、職人たちの即時解放。
「いいだろう、その勝負受けてやる。むしろ望むところだ……この鍛冶場の物は何でも好きに使うがいい」
 予想通りゲナシンは勝負に応じた。ダークサイドの霊修ゆえか、あるいは彼の中に眠るドワーフ本来の気質ゆえか。
 いずれにしても、いよいよ本来の目的――ディスミゼル遂行への最後の準備が始まったのである。

 その後、鍛冶場では命に関わるような負傷をした職人に手当が行われていた。
「ほら、じっとしないと手当できないよ?」
「うるせぇ! コモンなんぞに助けてもらう気は……いででで!」
 対応するのはセースを始めとする回復魔法の使い手や医療の心得のある者たち。無論、厳重に捕縛したうえ制圧隊が目を光らせている状況である。
 もっとも、勝負の提案を受け入れたゲナシンが職人たちを説き伏せたことで、少なくとも表面上は大人しくしているようだった。
 これも大親方のカリスマ性といったところか。

「手だぁ? 何言ってやがんだオメェ?」
「頼むよ。ほんの少しでいい」
 そんな職人たちに何やら話しかけているのはディオン・ガヴラスだ。どうやら職人に手を見せてほしいと頼んでいるらしい。
 だが、捕縛されているとはいえ相手はダークサイドである。コモンへの悪意に満ち溢れた彼らが簡単に聞き入れてくれるはずもなく、ディオンは根気よく頼み続けていた。
「ちょっと勝ったぐらいでいい気になってんじゃねえぞこのコモン野郎! ……おい、なんか落としたぞ」
 実際には『ちょっと』どころか惨敗だったのだがそれはともかく、ディオンが落とした革袋から覗いた鍛冶道具を見て職人たちの表情が変わった。
「なんだァ……? もしかして大親方と勝負するってのはテメェか?」
「ああ、俺だけじゃないけどな」
 それを聞いた職人たちは顔を見合わせると、不承不承といった様子で後ろ手に縛られた腕を差し出した。
「勘違ぇすんなよ! 大親方が勝負を受けてなけりゃ誰がコモンなんぞに……」
「自由になったらタダじゃおかねえかんな!」
 ブツブツと文句を言いながらも手を測らせる職人たち。どうやら勝負が終わるまで抵抗しないようゲナシンに言い含められていたようだ。
「……よし、と。それと、すまないないが手形も取らせてもらえないか……?」
「あーっ! もう、好きにしやがれ!」
 こうして、どうにか目的を達したディオンは準備の為に工房施設へと向かった。

 同じ頃、エルノ・ライネはダークドワーフの作り出した品々に目を輝かせていた。
「うーん、この酒杯の細工も、あの剣の精度も……どれもこれもすごいな。さすがドワーフだね。職人としては純粋に尊敬するよ」
 エルノの見る限り鍛冶場の職人の腕前は総じて高い。平均的にはおそらくローレックの街の職人街と同等の者が集まっているのだろう。
 そんな職人たちを束ねる大親方に挑むのだ。それを考えると自然とエルノの手が震えていた。
「自信なんてないけど……いまの俺の実力を測る良い機会だし、それに……ここでやらなきゃ男じゃないよね」
 エルノは鍛冶場の中央に鎮座する巨大な炉に向かい、金鎚を手に覚悟を決めた。

 一方で、鍛冶場内の酒場では……。
「さーて、肴の準備をしておきましょうか」
 持ち込んだ数々の食材を前に腕まくりするのはコニー・バインである。
 彼は勝負に花を添えるべく料理の腕を振るうつもりなのだ。
「ジャガイモ、ソーセージ、豚肉の塩漬けは下ごしらえして……あとは野菜や木の実類、と。それにしても、地下深くにこんなちゃんとした酒場があるとは」
 この酒場には十分な調理設備や器具が整えられていた。古代にこんな設備があったはずもなく、おそらくは職人たちの為にゲナシンが作り上げたのだろう。
 これもまた、彼らが紛れもなくドワーフであるということの証かもしれない。
「ともかく、種族の行末を決めるような勝負ですし、楽しく行きましょう☆」
 コニーは来たるべき勝負に向けて、酒に合うように考案したメニューを準備していくのだった。

◆技術を尽くして
 数時間後。いよいよ対決の時が訪れようとしていた。

 舞台となるのは酒場である。
 ゲナシンに加え、彼がこの鍛冶場で最も評価する三人の職人が同席する。これは勝負の公平さを保証する為のハウンド側の配慮だった。
『いくらコモンを憎んでいても仕事の評価は公平に下す。それが職人ってもんよ』
 とはゲナシンの談である。

「……えっと、まずは勝負を受けてくれてありがとう! 技術に飲み比べ……平和に決着できるなら、誰も痛い思いしなくていいと思うんだよ~」
 モエが空中で一礼する。彼女はハウンド側の見届人兼盛り上げ役の一人である。
「僕もがんばって盛り上げて、ひんぴょうするんだよ!」
 と、にこやかに挨拶をするモエではあったが、当然ながら職人たちの顔は険しく、睨むような視線が飛んでくる。
「あわわ……」
「あらあら、怖いお顔ね。強がってばかりじゃ疲れちゃうでしょう?」
 モエを背後に庇いつつ、ドール・ジョーカーが戯けるように言った。
「こちらの提案に乗ってくれているとはいえダークサイドだからね。警戒は怠らない方がいいよ」
 リコ・ポートマンがモエに言い含める。彼らにすれば命の行方がこの対決にかかっているわけで、そうそう楽しい気分にはなれないだろう。
(言葉で屈辱、か。口汚いのは好きじゃないけど……解呪の為なら、闇に堕ちるつもりでなじらせてもらおう)
 心中でそんな覚悟を決めるリコ。
 やがて最初の対決、技術勝負が開始された。
 勝敗の判断はハウンド側の製作物が『鍛冶場のダークドワーフの製作物と同等以上か否か』――つまり三人の職人とハウンドの腕前を比べてゲナシンが評価する。
「では、俺から……」
 エルノが布に覆われた製作物を机に置くとドールがドラムを鳴らして演出し、モエが布を取り去った。

 現れたのはごく小振りなダガーだった。

 長さ20cmにも満たないシンプルな刀身である。片刃の直刀で軽く、握りやすい柄の形状をしていた。
 ダークドワーフ、そしてハウンドたちが代わる代わるにダガーを品定めする。
「うん、小さくていいね。狩りをする時など一振り持っておきたいよ」
 リコがその扱いやすさを褒めると職人の一人が難色を示した。
「これだからコモンは……いいか、そんなか細い刃じゃすぐに折れちまうだろうが。ダガーってのはこう……太く短くあるべきなんだよ!」
「それは何でも力任せに扱うドワーフだからでは? 繊細な道具だからこそ有用な場面はいくらでもあるだろう」
「そうそう! 性能と見た目の両立は大事だよね!」
 援護なのか外野からヤジが飛んできた。
「わかっちゃねえな。ここぞって時にポッキリいったらどうすんだよ?」
「だからといって無骨な物しか作らないのは職人としてどうだろうか?」
「そうだそうだー! 可愛さが足りなーい!」
 またも飛んでくるヤジ。ちなみに声の主はリザである。
「……どうかなウィール? ちゃんとヤジっぽく聞こえた? 僕、こういうの向いてないんだよね……ウィールは得意そうだけど!」
「その割には楽しそうですよ」
 などと外野が盛り上がっている間にもリコと職人の討論は続いていたが……。

「……灯りで照らして柄をよく見てみな」
 ゲナシンの唐突な言葉に職人たちが顔を見合わせる。
「なんです大親方? 柄ァ……あ!」
 職人たちが声をあげる。灯りでダガーを照らして初めて、その小さな柄にドラゴンらしき装飾が施されていることに気付いたのだ。
 制作時間の都合からかさすがにディテールは簡略化してあったが、握りやすくする工夫か、手の形状に沿うように彫られていた。
 さらに目の部分に紫水晶の極小の欠片をはめ込んでアクセントとしている。
「その細工の為にあえて小振りなダガーにしたのかい……なぜ先に教えなかった?」
 そうゲナシンに問われてエルノは照れくさそうに頭を掻く。
「うまい言葉が浮かばなかったから……とにかく見てもらうしかないかなって。これが、いまの俺の全力の作品だから」
「フン。刀身の鍛え方はまだまだだがな。だが同じ時間でコイツらに同じ物が作れるかってェと……」
 ゲナシンはしばらく目を閉じて考えていたが……。
「よし、次の品を持ってこい」
 そう言ってハウンドたちを促したのだった。

◆機能美の先に
「じゃあ次は俺の番か」
 技術勝負の二番手はディオンである。だが、彼はその手に何も持っていなかった。
「……?」
「では、こちらにご注目を……」
 訝しむ職人たちの前にドールが進み出ると、先ほどと同じ布を机に広げた。そして。
「スリー、ツー、ワン……はい!」

 布を取り去ると、そこには酒杯が姿を現したのだった。

 なおも呆けたままの職人たちにドールが苦笑する。
「あら、豪快なダークドワーフは手品になんて興味なかったかしら? これも一つの『技術』なのだけれどね。では……」
「ありがとうドール。さて、見ての通り俺が作ったのはこの酒杯だ。好きに見てくれ」
 それは極めてシンプルな形状をしていた。装飾の類は一切無く、ひたすらに機能性を追求しているようにも見える。
「なんだか地味だなオイ。酒杯ってなぁこういうんだぜ?」
 職人の一人が同じような大きさの酒杯を持ってくると横に並べた。こちらには見事な細工が施されている。
「こいつで飲む酒は格別よゥ。なにせ大親方の作だからな!」
「ん~……? うーん……」
 酒杯の周りを飛びながら観察するモエ。
「大親方の酒杯、確かにすっごくキレイなんだけど……でも、僕はディオンの方がいいと思うんだよね~」
「ぬぅわぁにぃ! この細工が分かんねえのかシフールめ!」
「ええ~!」
「まぁまぁ……どうだろう、せっかく酒杯を作ったのだし飲み比べにはこれを使ってくれないか? 評価はその後ということで」
 割って入ったディオンがそう提案するとゲナシンは頷いた。
「フン、いいだろう。確かに見た目で判断するものでもないからな」
 こうして、技術勝負の評価は飲み比べの終了と同時に下されることになった。

◆杯を重ねて
 いよいよ大詰め、飲み比べである。

「お待たせいたしました……こちらが本日のメニューでございます」
 給仕役を買って出たスレイン・ケファルスとベドウィールが用意できた肴を運んでくると机に並べていく。
「こちら、豚肉の塩漬けを弱火でじっくりと焼き上げました。茸のサラダと一緒にどうぞ」
 コニーが丁寧に肴を説明していく。他には薄切りジャガイモを油で揚げ焼きしたものやソーセージ、ヘーゼルナッツとアーモンドなどいずれも酒に合いそうな品々である。
 その肴の数々を挟んで向かい合うゲナシンとレナ。
「これがダークドワーフとの最後の飲み比べになるかな?」
「気が早ェなカーシーの嬢ちゃん。ディスミゼルなんぞ、本当にできると思っているのか?」
 髭の無い顎をしゃくってゲナシンが嗤う。
「そもそも俺たちは呪われてるつもりなんぞねェ。俺たちこそが真実のドワーフなんだからな」
「それは、どうだろうね?」
 レナはリコの方をちらりと見た。傍目にも思い詰めているのが分かって怖いくらいだ。
「……どうかな? せっかく肴を用意して貰ったのだし、酒の量を競って食べられないのは残念だ」
「ハナっから強い酒で勝負しようってのか? ……面白ェ、受けて立とうじゃねえか。おい!」
 ゲナシンが命じると職人たちが酒場の奥から酒樽を運んできた。
「とあるルートで手に入れた錬金酒だ。先に断っておくがこいつァ効くぜェ……」
 ゲナシンがディオンの酒杯に透明な酒を注ぐ。対するレナはゲナシンの酒杯だ。
「「乾杯」」
 酒杯が合わさり、勝負が始まった。

 一杯目。二人は同時に飲み干す。
「……ッ!」
 レナが思わず顔をしかめた。まるで煮えたぎる鉄が喉を落ちていくような気分に陥る。
 もはや彼女の知る『酒』の概念に当てはまるかどうかも怪しい。
「くぅ~ッ……。どうだ? 堪んねえだろ?」
「……まぁまぁかな?」
 平然を装いつつ、肴を味わうレナ。
「なるほど? んじゃ、次だな」
 ゲナシンは嗤って二つの酒杯を満たした。

 二杯目。両者にはまだ余裕が感じられる。
「いい飲みっぷりよ!」
「二人とも頑張れ~!」
 ドールがドラムを響かせ、モエが別け隔てなくエールを送った。
「フン、お人好しなこった」
 赤みを帯びてきた顔で悪態をつくゲナシン。レナのそれは体毛に隠れて定かではないが、応援に応えるは少し不安定だ。
「お酒、お注ぎいたしますね……」
 スレインが三杯目を満たしていく。その際、さり気なくゲナシンの身体へと触れることで誘惑し、酔いを回らせようと試みるが……悲しいかな相手はダークサイドである。
「面白れぇ小細工だが俺たちには通用しねえよ。おい、勝負の邪魔ができねえようにしとけ」
 コモン相手にそんな気になるはずもなく、スレインは職人たちによって屈辱的なポーズで縛られると、
『私は神聖な飲み比べを汚しました』
 と書かれたプレートとともに酒場の隅に放置されることとなった。鍛冶場でのしきたりだそうである。
「ああ……どうかこの卑しいスレインの姿をご覧くださいまし……」
 そんな余興も起こりつつ、勝負は続く。

 三杯目。ここでほんの僅かだがゲナシンが飲み干すのに遅れる。
「どうした!? 大親方ともあろう者がもうペースが落ちてるぞ!?」
 それに目ざとく気付いたリコがヤジを飛ばした。
「……小うるせぇ毛玉だな」
 ゲナシンは外野の方をギロリと睨むと肴を無造作に口に押し込んだ。
 一方でレナはそんな幼馴染の言葉を聞いて渋い表情を浮かべるが、それも迫りくる酩酊の気配に掻き消される。
「……お酒は楽しく飲まなきゃね。ほら」
 レナが両方の酒杯に酒を満たした。

 四杯目、五杯目。
 この辺りから両者のペースは目に見えて落ちていった。
「大親方ァー! まだまだいけますぜー!」
「くらぁコモンども! また何ぞ小細工してんじゃねえだろうな!」
 職人たちが声をあげたと思えば、
「失礼だな! そっちこそ酒樽が服を着ているような生き物のクセに、音を上げるのが早いんじゃないのか!?」
「はい! ドワさんの、ちょっといいとこ見てみたい♪」
 リコやリザを先頭にして職人とのヤジ合戦が勃発し、二人を鼓舞する為にドールが舞い踊る。

 酒場は徐々に混沌の様相を呈していった。

◆熱いうちに打て
 どれほどに酒杯を空にしただろうか。

 両者はすでに限界に達していた――否、それを超えていた。
 目は虚ろで手足の動きは覚束ない。緩慢な動作で酒杯を呷るのがやっとだ。
「酒が全然美味しそうじゃないぞ! ドワーフのクセに、酒への感謝が足りないんじゃないのか!」
 もはや涙目でヤジを飛ばすリコ。
「レナ、辛そうだよ……?」
「大丈夫……絶対に勝つわ」
 モエやドールのように、もはや黙って見守る者も。

 やがて決着の時は静かに訪れた。

「俺の……負けだ……」
 震える手が酒を残した杯を落とし、ゲナシンはそのまま後ろに倒れた。
 レナは無言でそれを眺めると、空になった酒杯を静かに机に置いたのだった。

「……おい、ダークエルフのアンちゃん」
 職人たちに抱きかかえられたゲナシンがディオンを手招きする。
「この酒杯、底になんて書いてんだ?」
「それは……」
 ディオンが酒杯の底に刻んだのは一編の詩だった。

 ――器は用を為してこそ輝く。華美なるも、人の手に届かざるばくすみゆくのみ。

「俺たちへの警告のつもりか……?」
 ディオンは静かに頷き、それ以上は何も言わなかった。詩の意味が、これ以上もなく彼を打ちのめしていると感じたからだ。
「さっきまでの俺なら嗤って叩き割ったんだろうがなァ……力でねじ伏せられ、飲み比べでも負けたいまじゃ何も言い返せねぇ……それに技術でも」
 ゲナシンはディオンの酒杯を指した。
「お前の器、作りとしちゃまだまだだが……コモンが作ったにしちゃ妙に手に馴染んだ。何か工夫しやがったな?」
「それは……」
 ディオンがダークドワーフの職人に協力してもらった事を説明する。全ては、彼らの手に合った器を作る為だったと。
「そうか……じゃ、認めてやらねぇ訳にはいかねえな……」
 ゲナシンはエルノとディオンの作品をダークドワーフと同等以上だと評価した。つまり。
 ここにハウンドの勝利が決定したのである。

「……ケッ、コモンに負けたか。悔しいもんだなァ……」
 職人たちに抱きかかえられて歩くゲナシン。これから鍛冶場のダークドワーフ全てに敗北を告げるのだという。
 言葉とは裏腹に、すでにどこか諦め顔である。
「どうした! 君がそんなだから部下まで負けたんだ!」
 鋭い声が投げかけられた。リコだ。
「大親方とおだてられた結末がこれか! それとも酒だけ飲んで偉そうにしていればいいとでも思ってるのか!」
 リコが尚もなじる。彼の中に眠る誇りを呼び覚ますために。
「……そうだな。俺の器がまだまだだと言うのなら、ちゃんとしたドワーフの品と比べて貰わなくては納得できないな。逃げるつもりなら別だが」
「うん……俺も同じ条件でまた競ってみたいよ。本物の、ドワーフの職人とね」
 ディオンとエルノが状況を察し、あえて煽る。
「……ドワーフ、ドワーフ! ドワーフ!! ドワーフが何だってんだ! 俺たちは髭を、古い姿を捨てた存在なんだ! そしてこの地に俺たちだけの街を、世界を築く! そうしなければ俺たちは……何の、為に……?」

 そこでゲナシンは『初めて何かに気が付いた』ような表情を浮かべた。
 あるいは、この時すでに彼にかかった呪いが解け始めていたのかもしれない。

「自分たちだけの世界で技術を磨いても……それは誰が使うの? 誰の為に作るの?」
「そうだよ。ほかの人の存在を受け入れられないんじゃ、そこまでなんだよ……」
 リザとモエが続け、リコが叫んだ。
「思い出せ……君は、誇りあるドワーフだろう!?」

 熱せられた鉄が、容易くその姿を変えるように。
 その言葉が、最後の呪いのくびきを打ち砕いた。

「俺は……いや、俺たちはこれまで何を……何という無駄な時間を……」
 呆けたような表情が徐々に精悍なものへと変わる。虚ろだった瞳は澄んだ輝きを取り戻していった。
 ゲナシンは職人たちを突き飛ばし、外へと走り出た。
 そして鍛冶場の全てに響き渡るように叫ぶ。

「兄弟姉妹たちよ! このゲナシン・ハンマーヘッドがここに宣言しよう! いまこそドワーフの誇りを取り戻す時だ!」

 その瞬間、ゲナシンの顔に変化が起こった。
 剃っていたはずの髭が、ドワーフの誇りの象徴たる髭がにょきにょきを生え、戻ったのである。
 その変化は彼だけに留まらず職人たちにも波及した。ゲナシンから光の輪が広がるや、やがてそれは、このミドルヘイムに住まう全てのダークドワーフにも伝播していく――
 こうして世界中のダークドワーフは、あっという間に髭を生やし、通常のドワーフと変わらぬ見た目となった。
 いや、見た目だけではない。彼らは真実、『本当のドワーフ』となったのである。

「……やった、のか?」
「うん、リコ。きっと、これがディスミゼルだよ」
 酩酊したレナの肩を抱いたままでリコが笑った。
「この為とはいえ、いろいろ悪いことを言ってしまったな……後で謝っておかないと」
「そうだね。でもいまは、この種族の新たな門出に……乾杯!」
 二人が空の酒杯を合わせる。

 まるでドワーフの未来を祝福するような音が、鍛冶場に鳴り渡ったのだった。

◆次なる目標へ
 こうして『ダークドワーフのディスミゼル遂行作戦』は成功に終わった。
 このミドルヘイムからダークドワーフという存在は消え、全てが本来あるべきドワーフの姿を取り戻したのである。
 ゲナシン・ハンマーヘッドと、「元ダークドワーフ」の中でも罪の明確な者は、そのまま逮捕された。激しい気性こそあまり変わらなかったが、抵抗もなく、おとなしくお縄についた。抗えぬ呪いによってもたらした暴力や悲劇とはいえ、その記憶は彼らの中に残ったままだ。その罪から逃れようとは、しなかった。
 彼らはローレック城の騎士団に引き渡され、城の地下牢の虜囚となった――というのが、表向きの話だが、それを信じるハウンドなぞいない。耳を澄ませば、聞こえないだろうか? 城のほうから、トンカン、トンカンという音が‥‥はたして勇者王ローレックが何をさせているのか、正確なところは不明だったが、悪しきことではなかろうし、それにきっと、彼らは嬉々としてそれに従事しているのではないだろうか? ハウンドはそう思うのだった。
 そして、罪を犯していない元ダークドワーフは、そのほとんどが、ローレックの街の職人街で、まっとうな人生を始めたということだ。

 ディスミゼル。このハウンドギルド初の快挙は、もともと頑固な気質のドワーフらを、その偏見を打ち砕くのに十分だった。
 新しい者を認めようとしない彼等は、ハウンドギルドを白い目で見ていた。出来立ての、寄せ集めの、わけのわからない集団として。だが、同胞を見事に解放してみせた以上、もはやハウンドにとやかく言うドワーフは、ほとんどいなくなった。
 伝統を重んじる彼らでさえ、ハウンドという新たな力を信頼するようになった。おかげで、自らハウンドへの所属を志願する者まで現れ始めたという。

 新たなる仲間を得たハウンドたちは、やがて新たなる目標へと立ち向かうことになるだろう。
 いまだこのミドルヘイムに残る、全ての呪われし種を解放する為に。



 21

参加者

d.…………
ヴァイス・ベルヴァルド(da0016)
♂ 39歳 人
サポート
b.立派な遺跡、ワクワクしますね~ 灯りをヘッドライトに変更しました
ノルーカ・ソルカ(da0058)
♀ 20歳 ラ
サポート
d.取り巻きは私に任せて!
サーシャ・エラーギナ(da0168)
♀ 16歳 人
b.先行隊に参加します。 邪魔な障害は排除するのみです。
アステ・カイザー(da0211)
♀ 22歳 人
サポート
a.俺はこっちだな。隠し扉とかねえかなー。
リディオ・アリエクト(da0310)
♂ 21歳 人
b.先行隊で皆を弓で援護いたしますわね。後は不意打ちにも警戒いたしますわ。
エフィ・カールステッド(da0439)
♀ 18歳 人
a.おう、罠とかは任せとけー!
ゴンスケ・アステール(da0465)
♂ 21歳 カ
c.わふぅ!道を作りますよ!
アレックス・パーリィ(da0506)
♂ 24歳 カ
b.一先ずこちらへ。人数次第ではcへ向かいますね。
セシリオ・レヴナント(da0545)
♂ 27歳 ダ
d.やっちゃうよー!
フラール(da0547)
♂ ?歳 シ
g.お給仕などさせて頂けたらと思います。
スレイン・ケファルス(da0586)
♀ 29歳 人
c.制圧の時に大親方を抑える感じに動いてみるッス
フェルス・ディアマント(da0629)
♂ 17歳 カ
f.作り手の意地のぶつかり合いだな。
ディオン・ガヴラス(da0724)
♂ 21歳 ダ
g.では酒の肴の用意を。 楽しく行きましょう☆
コニー・バイン(da0737)
♂ 18歳 人
a.罠なら任せな! じいちゃん仕込みの腕前見せてやるぜ!
ソレイユ・ソルディアス(da0740)
♂ 17歳 人
d.んんー…他は向いてなさそうだし、こっちで頑張る…!
リザ・アレクサンデル(da0911)
♂ 19歳 人
b.こっちで回復援護を行う予定。皆気をつけてね!
セース・エイソーア(da0925)
♀ 15歳 ラ
c.まずは制圧、か。
アリシア・コリン(da0927)
♀ 24歳 人
g.大丈夫、絶対に勝つわ。
ドール・ジョーカー(da1041)
♀ 20歳 人
a.罠・索敵・迷宮踏破はお手の物だ。進路の確保を請け負おう。
ウル・ギーフ(da1051)
♂ 26歳 ラ
d.まずは気絶狙いで行きますね。
ベドウィール・ブランウェン(da1124)
♂ 22歳 人
c.ここは攻めるわよ!君が謝るまで私は殴るのをやめない!的な感じで!
マリカ・ピエリーニ(da1228)
♀ 24歳 人
g.ヤジ要因だ。『誇りを取り戻させて』『呪いを解くため』闇に堕ちる気でやる
リコ・ポートマン(da1336)
♀ 18歳 カ
e.ダークドワーフ達との、最後の飲み比べになるかな。
レナ・ゴールドマン(da1337)
♀ 19歳 カ
a.よろしくお願いします。
セヴラン・ランベール(da1424)
♂ 25歳 ラ
f.やれるだけやってみるよ。
エルノ・ライネ(da1581)
♂ 18歳 人
a.こちらで。灯りと、念の為に応急手当などの準備はしておきます。
シャルル・ムーフォウ(da1600)
♂ 29歳 ダ
g.よろしくお願いします。
モエ(da1613)
♀ ?歳 シ
c.後方より射撃で支援する…近接の間合いでは、特に注意が必要そうだ。
キース・ペンドラゴン(da1618)
♂ 28歳 カ
c.わかりました。接近戦の間合いには注意しましょう。
アイオライト・クルーエル(da1727)
♂ 24歳 人
d.ダークエルフを差し置いてダークドワーフなど、片腹痛いと胃腸薬なのです。
アンカ・ダエジフ(da1743)
♀ 24歳 ダ
サポート


対決、ダークドワーフ!

ついにダークドワーフの拠点である地下遺跡への攻略が開始される。謎の大親方とは? そしてギルドマスターの秘策とは……?