【HH02】女神を讃えよ!

担当午睡丸
出発2020/01/25
種類グランド 日常
結果大成功
MVPツヅル・アステール(da0395)
MVSチャウ(da1836)

オープニング

◆王よりの依頼
 神聖暦920年、1月。
 ハウンドギルドが音頭を取り、ハウンドが伝道師役となったXmas普及作戦は、ほぼ大成功といえる成果でその幕を下ろした。

 去る12月24日の『ノルン降臨日』を経て、年明けの1月6日までを盛況のうちに迎えたことで人々の信仰が高まり、その結果としてオーディア島中部に発生していた『ブラックミスト』が大幅に減少したとの報告がなされたのである。
 これはオーディア島の北部へと向けて進軍を続けているローレックの騎士団にとっては、なによりの吉報だった。

登場キャラ

リプレイ

◆大通りにて
 新年祭の当日。
 このローレックの街は始まって以来の賑わいを見せていた。

 ローレック王の宣言によって急遽休日と定められたこともあってか、街には溢れんばかりに人々が繰り出している。
 普段は大通りへの出店や露店の進出は許可されていないが、この日ばかりは特別だ。所狭しと並んだ店からは威勢のいい呼び声が飛び交い、食欲をそそる匂いが周囲に立ち込める。
 中には儲け話を嗅ぎつけたのか少々胡散臭い商人の姿も散見されるものの、これも祭りの醍醐味というものだろう。

「さあさあ、美味しい美味しい串焼きですわよー!」
 エフィ・カールステッドの屋台もそんな中のひとつだった。職人にでも協力してもらって作ったのだろうか、レンガを組んだ簡易な竈では串を通された獣肉が炭で炙られている。
「いかがですか? 新鮮な鳥や兎ですわー!」
 これらの食材は相棒のハヤブサ『レギオス』と協力して街近くの森などで調達したものだ。一口大に切り分けたそれらにサッと塩を一振りしただけの、シンプルかつ奥深い味わいがウリである。
「おっ! こりゃ美味そうだ……三本くれ!」
「こっちは五本ね!」
「はーい! ただいまですわー!」
 こうして大通りを行く市民たちがひっきりなしに買い求めていく。エフィの可憐さゆえか、それとも元貴族という風貌が目を引くのか、足を止めるのは圧倒的に人間の男性が多い。
「ありがとうござますですわー! んーっ……」
 少し途切れた客の流れにエフィは伸びをする。
「このお祭り……色々と思惑があるようですが、やっぱり楽しいことは良いことですわ。それに……自分で狩ってきたお肉なので元手もタダですし!」
 ハウンドには狩猟権が認められている。こうして気兼ねなく狩りをして生活の糧とできることも特権の一つなのだ。
「それにしても、働きすぎでお腹がすきましたわ~……うう、自分でも食べちゃいたいところですが、ここはぐっと我慢して売りますわよー!」
 炭に落ちた脂が煙となって鼻孔をくすぐるたびに決意の揺らぐエフィであった。

「あっー! ほらウィール! 串焼きだって!」
「そんなに引っ張らなくても見れば分かりますよ、リザ」
 そこを通りかかったリザ・アレクサンデルベドウィール・ブランウェンもまた、串焼きの香りに引き寄せられる。
「(じゅるり……)」
 もとい、引き寄せられるのは主にリザだ。
「道草は駄目ですよ。ショウさんとドールさんの大道芸を観に行くんじゃないんですか?」
「えー? で、でもホラ……出店を応援するのも祭りを成功させるのに必要だよ! きっと!」
 必死に訴えかけるリザ。すでに諦め顔のベドウィール。
「仕方ありませんね、ここでダダをこねられてもやっかいですし……って、聞いていませんね」
 ベドウィールが言い終わる前にエフィの屋台へと駆け出すリザ。
「こんにちは! 十本ね!」
「いらっしゃいませですわー!」
 エフィの串焼き屋台は、まだまだ大忙しのようだ。

 一方、大通りの別の場所では甘い香りが漂っていた。
「さあシース、女神さまのために、そして騎士団の皆のために頑張ろう!」
「う……何か、緊張する……」
 握った手を元気よく上げるセース・エイソーアの声とは違い、シース・エイソーアは緊張の色を隠せない。
 二人が用意したのは焼き菓子を販売する屋台だった。前日のうちに大量に用意したものを見栄えするように並べる。
「シース、大丈夫……? 屋台の裏で補充係とかでもいいよ?」
「う、うん……でも、一応は女神さまと皆の為だし……!」
 シースはいままでに見たこともないような大量の人出に圧倒されているらしい。それでも気丈に振る舞おうとする姿に思わずセースが微笑んだ。
「い、いらっしゃいませ……甘くて美味しいですよ……!」
「沢山ありますからね、どんどんどうぞ!」
 歩きながら食べられる焼き菓子はこうした祭りに合っているのか、なかなかの集客ぶりだ。商売人を自認するセースが接客の主となって買い求める客をさばいていく。
「はい……転ばないように、気をつけてね」
「うん! エルフのお姉ちゃんありがとう!」
 シースから菓子を受け取った子供たちが人波へと消えていった。街をあげての祭りとあってか子供の姿も多い。
「よかった。喜んでくれてるみたい……だね?」
「……うん」
 子供たちから視線を戻したセースは、いつの間にかシースの表情から緊張が消え、笑顔になっていることに気付いたのだった。

◆大道芸の誘い
 そんなふうに賑わう大通りで、不意に音楽が流れた。
 人々が目を向けると大道芸人らしき数名が姿を見せた。先頭を進むのはソル・ラティアスである。
 だが、なにより注目を集めるのはその姿だ。
 ソルが纏うのは、普段愛用している衣装をベースにしつつも、布地を追加するなどしてより華やかさを追求したものだ。聞き及んだリムランドやグレコニアの服飾文化も取り込むことで異国感を強調する。
 彼いわく、コンセプトは『無性の神』とのことである。そうした設定に合わせて仕草や表情も普段とは変えた不可思議なものにしつつ、リュートをかき鳴らしながら行進する姿に自然と耳目が集まってくる。
「……こりゃあまた千客万来ですねぇ。このローレックの街に、こんなにもコモンが住んでたとは驚きでさぁ」
 ソルは人出の多さに驚きつつ小声で仲間に話しかける。これだけの数となると、港町ウラートや近隣の開拓村からも危険を押して訪れているのかもしれない。
「みんな楽しそうですの! さすがお祭りですわねっ!」
 その頭上をレネットがくるくると舞い飛ぶ。
 こちらはシフールの名にそぐわぬ、まさしく『妖精』といった出で立ちである。白いネストドレスに水晶のティアラや貝殻細工のイヤリング、銀細工のネックレスなどで可憐に着飾っていた。
「こんなに大勢の人がいると、おしゃれした甲斐がありますのよっ♪」
 見せびらかす様にくるくる飛び回るレネット。
「本当にすごい人の数……みんなの足を引っ張らないように頑張るね……」
 サース・エイソーアは二人の後を緊張気味についてくる。こちらも猫のような妖精の姿だ。
「ま、そんなに気張らずとも大丈夫でさぁ。とはいえ、まずはここらで客を掴んどきますかね……明るめでノリが良いやつをいきますぜ?」
「うん、頑張るよ……」
「人をいっぱい集めればいいんですのねっ、がんばりますのー!」
 二人の返答を聞いたソルは頷き、いったんリュートを鳴り止ませた。
「……ローレックの街に集いし皆々さま。これなるは、女神の使いにより参上いたしました楽団に御座います」
 朗々と向上を述べるソル。
「本日は街を挙げての新年祭と聞き及び、我ら微力ながらもお楽しみいただきたく……しばしのお耳汚しなど平にご容赦を」
「失礼いたしますのー!」
「し、失礼します……!」
 三人は見守る人々に深々と頭を下げると……。

 華やかな曲を奏で始めた。

 ソルのリュートとレネットのハープ、サースの歌声がハーモニーを奏でる。
 一足早い春の訪れを予感させるような、元気で華やかな曲が大通りに流れたのだった。

◆大聖堂にて
 このように、大通りを中心として祭りが賑わうなか……。
 オーディア大聖堂は喧騒とは程遠い、荘厳な空気に満たされていた。

 それもそのはずで、率先して大聖堂を訪れているのは敬虔な女神教の信徒ばかりなのだ。
 いま堂内では信徒たちが女神像に今年の無事を祈り、聖職者やシスターたちから厄払いを受けるという、新年祭のミサが粛々と執り行われている。
 そしてその中にはヴァイス・ベルヴァルドの姿もあった。
「では、これを……」
「ああ、これは素晴らしい……」
 祈りを終えた人間の老紳士にヴァイスが差し出したのは青銅貨だ。
 それ自体はごくありふれた物だが、ハウンドが魔法によって念を込め、女神教の信徒が持てば幸運をもたらすお守りという触れ込みである。
 コインの表面を猪由来の『にかわ』によってコーティングして磨き、聖なるシンボルであるXが印されている。
「どうせ老い先短い身と、思い切ってこの島に移住してきましたが……女神さまの加護とこのコインがあれば今年も無事に過ごせそうです。ありがとうございます」
「……うむ」
 何度も頭をさげる老紳士をヴァイスは言葉少なく見送った。
 危険を承知でこのオーディア島へと移ってきたからには皆それなりの覚悟があるものだが、その覚悟を支える存在はやはり必要なのだ。
 あるいは信仰。あるいは家族。
(我々ハウンドも、その一つとならねば、な……)
「……なんだよおっさん。いつも以上に深刻な顔してるぜ?」
 そこへ茶化すようにアドラ・マデラが声をかけてくる。
 いま渡した『幸運のコイン』は彼女がアースアルケミーによって錬金した物である。もっとも、魔法頼りでは一日に数枚しか用意できないので残りの大半はごく普通の青銅貨である。
「しっかし、思ってたより人が来ねえな……大通りなんか歩けないほどの人混みだったぜ?」
 アドラが大聖堂を見回して不満そうに口を尖らせた。これでも平時に比べれば信徒の数も多い方らしいが、街中と比べればその温度差は歴然である。

「……そうだ! やはり挨拶は基本だからな! この俺など、どんな相手にも大きな声とステキな笑顔を振りまいているぞ!」
 聖所に場違いなほどの大きな声に目を向けると、ツヅル・アステールが信徒らしき人間の老婆たちと話し込んでいる。
 どうやら彼流の厄払い方法を伝授している最中のようだ。
「なぜなら挨拶をキチンとする人は人間関係もうまく回りやすいからな! それこそ『厄』といえるような不幸が降り掛かってきても、周囲に助けてくれる人が沢山いる。単純だが馬鹿にできない話だぞ!」
「なるほどなぁ! このカーシーのお兄ちゃん、良い事を言うわい!」
「さすがは天下のハウンドさんじゃなぁ!」
「はははは! もっと褒めてもいいぞ! あとアレだ。大きな声を出すと自分の気持ちも明るくなる。そうすれば、ちょっとした不幸くらい大したことはないと思えるようになるからな!」
 ふんぞり返るツヅルと、そんな様子に大いに笑う老婆たち。もはや大聖堂とは思えない賑やかさである。
「いい厄払いも教えてもらったし……それじゃ、あたしらはこれでおいとましようかねえ!」
「そうだねぇ……大きな声で話してくれて嬉しかったよ。歳を取るとどうにも耳が遠くなっていけないからねぇ」
「ほらお兄ちゃん、この飴ちゃんをあげるよ。それじゃあね」
「うむ、ありがたく貰ってやろう! では、階段などに気をつけて帰るがいいぞ!」
 ツヅルに見送られて老婆たちが帰路につくと堂内には再び荘厳な雰囲気が戻ってくる。

「嵐みてえなバアさんたちだったな……にしたって、騎士団を援護するには信仰心を高めなきゃならないんだろ……これで大丈夫かよ?」
「……それこそ、いまは信じて待つよりないな」
 怪訝な表情のアドラに短く答えると、ヴァイスは新たな信徒にコインを授けるべく歩み寄っていった。

◆賑わいのなかで
「それじゃ、しばらくの間そのままじっとしててね……あ、気楽にして大丈夫だよ」
 エルノ・ライネは目の前で緊張気味にしているカーシーの少女にそう微笑みかけた。
 二人は大通りの片隅で向かい合って椅子に腰掛け、エルノは少女の姿を手元の画用紙に描き写していく。
 こうした『似顔絵描き』が彼の今日の仕事なのである。
 しばらく間、黙々と絵筆を走らせるエルノ。
 やがて。
「最後に日付を入れて……っと、できた。はい、どうぞ」
 出来上がった似顔絵に少女は表情をほころばせた。早描きとはいえ、エルノの卓越した技術は少女の特徴をよく捉えている。
「あ、ありがとうございます!」
「こちらこそ、素敵な毛並みを描かせてもらえて嬉しかったよ。じゃあ、気をつけてね」
 一般市民にとって自身の絵を描いてもらえる機会などそうそうあるものではない。しかも、それがこんな華やかな祭りの日の思い出となるなら、なおさら特別だ。
 絵を大事そうに抱えて去っていく少女を見送ると、自然とエルノの頬も緩む。
「へへー! 思ったより大変だけど……ハウンドたるものこういう時こそ全力で盛り上げなきゃね!」
 疲労の色が見えるのも無理はない。エルノは他の出店などへの協力も惜しまず、数日前から看板や小物類の制作などで忙しい日々を送っていたのである。
 そこに加えて似顔絵希望者が予想よりも多かったのだ。
「すみません、二人で一緒に描いてほしいんですが……大丈夫ですか?」
「いらっしゃい! 二人でも三人でも何人でも大歓迎だよー!」
 二人組のエルフの女性を笑顔で迎えつつ、エルノは再び絵筆を手に取った。

「大聖堂の場所? ならほら、この道をこう行ったら……すぐに見えるから分かるよ」
 道順を尋ねられたソレイユ・ソルディアスは建物の向こうにそびえ立つ大聖堂を指して見せた。
 ここは彼が大通りの一角に用意した休憩所だ。焚き火をベンチで囲むようにして、祭りの客が身体を休めるようにしたのである。
 周囲との仕切りを兼ねたボードにはローレックの街の簡単な地図が描かれており、街に不慣れな者の為の案内所としての役割も担っていた。
「ソラ、また大聖堂の場所? 私も何回か聞かれちゃった」
 やりとりを耳にしたハナ・サルタバルタがそう言った。
「ああ。この日の為にわざわざ来るなんて、女神教のお祭りって賑わうんだなぁ」
 明らかに街に住むコモンではなかった。敬虔な信者が祭りの話を聞きつけてやって来たのかもしれない。
「街をあげてのお祭りになったしね! これだけ人が多いと慣れてる私たちでも苦労しそうだよ。助けになってたらいいけど……」
「ハナたちが用意してくれた看板のお陰だな」
 休憩所の入り口に掲げられた看板はハナ、地図や図解はエルノによる制作だ。字が読めない一般大衆にも配慮し、図案化することによって分かりやすくしてある。
「せっかくのお祭りだし、みんなに楽しんで欲しいよね! よーし! ソラ、頑張ろうか!」
「ああ、俺たちなりのやり方で盛り上げてやろうぜ!」
 二人はこのようにして案内や人混みに疲れた人々を受け入れて忙しく動き回っていた。

「やってるな、ソラ」
「あ、リディ兄! 来てたんだ!」
 聞き覚えのある声にソレイユが振り返ると、そこには義兄、リディオ・アリエクトの姿があった。
「確か、女神コンテストに出るとか言ってなかった?」
「ああ。広場に行く途中に近くを通りかかったんで、休憩がてら様子を見にな」
 街の広場ではハウンドギルド主催の演物がいくつか予定されている。リディオも参加者の一人らしい。
「そっか。しっかしリディ兄が女神って……興味があるような、見ないほうが良いような……」
 長年の付き合いゆえか、複雑な表情を浮かべるソレイユ。
「まー、俺なんかは賑やかしみたいなものだし、せいぜい女神っぽい雰囲気でも演出するさ……。ただ、やるからには全力でやるぞ?」
「ははっ、リディ兄らしいよ」
「ソラー? ちょっと来てー?」
 ハナの呼び声。
「あっと、ごめん。呼ばれてるや」
「忙しいみたいだな。じゃあ、頑張れよソラ」
「リディ兄もね! ……どうしたハナ?」
 リディオを見送って振り返ると、そこには人間の子供を連れたハナが。
「この子、迷子みたいなんだよ」
「そっか。じゃあ誰か迎えにくるまでここで待ってるといいよ」
「……ふえぇ」
 二人はいまにも泣き出しそうな子供をベンチに座らせた。こうした迷子の預かりもこの休憩所の役目なのだ。
「……はい、よかったらこれ飲んでね。あったまるよ。あと、クッキーもどうぞ」
 ハナが温めた牛乳とモンスター型のクッキーを差し出すと、子供は少し落ち着いた様子になった。話を聞くと、両親とはぐれたらしい。
「そっか……よし、俺も親が迎えにくるまでの遊び相手ぐらいなら務められるぜ」
「うん! 早く大好きなご両親が見つけてくれるといいね!」
 二人の言葉に、子供の表情が少し和らいだ。

◆芸は街を助ける
「さぁご注目! 世にも珍しい楽器の演奏で美女が踊るよ! もちろん美男子もね!」
 街角でショウ・ジョーカーが呼び声をあげると、その手に持つ氷のような外見のリュートに好奇の視線が注がれた。
「みなさん踊りや音楽はお好き? 女神の恵みに感謝して、今日は楽しんでね!」
 続けてドール・ジョーカーがそう告げてアイスリュートの調べを伴奏として踊り始めると、突然の大道芸を見ようと次第に人々が集まってきた。
 始めはスローな曲のテンポに合わせての優雅な舞いだ。ショウは演奏を続けながらもドールと対になるようなステップを踏む。
 そのまま姉弟はともに歌い始めた。
 その、女神に呼びかけるような歌詞に合わて次第に曲調がテンポアップしていく。やがてドールの動きは大きく派手に、そして堂々としたものへと変わっていった。
「はっ!」
 そこで控えていたオズ・ウェンズデイから次々とジャグリング道具のボールが投げ渡された。
 ドールはそれらを落とさないように宙に回しつつ、複雑なポーズを維持してみせる。
 そこで不意にリュートの演奏が止む。
 視線がドールから移ったその時、ショウがボールの軌道で出来た輪を宙返りでくぐって見せた。
 やがて姉弟が揃って一礼すると、街角に大きな拍手が巻き起こったのである。

「まずはこんなところかな……? それじゃ、打ち合わせどおりに宣伝して回ってよ」
 周囲から注目を集めたところで、ショウは待たせておいた『公示人』へと合図を出した。街中を巡り、このあと広場で行われるハウンドギルド主催の演物や、大聖堂でのミサへの参加を促す為である。
「では我輩は付き添って祭りの様子を記録してくるのである。これほどの規模の祭りはそうそうお目にかかれないであろうからな」
 オズはそう言うと公示人とともにこの場を後にした。先ほど姉弟が歌った歌詞や、公示人の宣伝文句は彼の考案したものであるらしい。
「見事な大道芸だったな、ショウ」
「……あ! ベルお姉さん! それにリザとウィールお兄さんも。みんな、見ててくれたんだね」
 周囲で見物していたらしいベル・キシニアに声をかけられてショウが駆け寄る。傍らには同じくリザとベドウィールの姿があった。
「人だかりから美しいリュートの音色がしたので立ち寄ってみたのだが……良いものが見られたよ」
「へへ、なかなかのものだったでしょ? 俺だってリザに貰ったときスゲーって思ったもん……ね?」
「ふぉのふぉうり!」
 串焼きを頬張りながら不明瞭な発音で返事するリザ。
「どうやら『その通り』と言っているようです」
 通訳するベドウィール。
「はは、二人はさすがだなぁ……ところでベルお姉さん、コンテストがそろそろだよね?」
「ああ。女神といわれたからには、私の美しさを披露せざるをえないからな。目に焼き付けさせるとしよう」
「それは楽しみだなぁ……」
 その時、大通りの方角から華やかな音楽が近づいてきた。見れば、ソル、レネット、サースの三人が大勢の人を引き連れてこちらにやってくる。
「それじゃ私たちも合流しましょうか。みんな、また後でね」
「広場でね!」
 ドールとショウは三人と合流すると、さらに華やかな集団となって人々を広場へと導いていった。
「では、私たちも行くとするか」
「(もぐもぐ……ごくん)そうだ! ウィール、女神コンの優勝者に女神イメージのティアラとか被せてみるのどうかな?」
「では急いでギルドの人に提案してみましょうか……というわけで、もう買い食いはダメですからね」
「……え!?」
 絶望的な表情を浮かべるリザを引きずりながら、ベドウィールとベルは人々の流れとともに広場へと向かうのだった。

◆女神コンテスト
 街の一角にある広場に設けられた即席の舞台。ここで女神コンテストが行われる。
 大道芸組の宣伝の効果もあり、周囲には大勢の人々が集まって始まりを今や遅しと待ちわびていた。

「あばばばばばばば……」
 そんな観客を目にして、緊張のあまり白目を剥いているのはアリアドネ・ウィステリアである。
「おー、なんだかスゴイことになってるねー」
 一方で、傍らに立つアレッタ・レヴナントはこの状況を前にしても余裕の表情である。
「な、ななな何を面白がってやがるんですかこんな状況で!」
「落ち着きなよ。観客なんてゴブリンの集団ぐらいに思っておけば気にならないって」
「な、なるほど……って、よけい気になるじゃねーですか!」
 緊張とツッコミが相まってぐるぐると目を回すアリアドネに、アレッタはあははと笑って見せる。
「確かに、思ったよりも集まっていますね」
「そうだね……これは大道芸に行った人たちが宣伝してくれたお陰かな?」
 同じく参加者であるアリー・アリンガムドミニク・レノーもまた、大量の観客に顔を見合わせた。
 とはいえ、この二人もそれほど動じているようではない。
「う~ん、詩人としては大道芸にも参加したかったけど……数あるコモンの中でも優美と評判のライトエルフとしては、女神コンに参加しなきゃ嘘よね~。折よく注文してた衣装も出来たし」
 そして余裕を通り越して自信に満ちた発言をするのはカモミール・セリーザだ。お祭り騒ぎに目がない彼女としては願ったり叶ったりなのだろう。
「こんなに大勢の人の前に姿を晒すなんてあまりできない経験ですし、たまにはこういったイベントではっちゃけるのも悪くないかもしれませんね」
「同感だよ。ふふ……それに『こっち』の格好で攻めてみるのも面白そうだしね」
 中性的なスタイルを常としているドミニクだが今日は趣向を変えているようだ。
「じゃあ、そろそろ準備をしてしまおうかしらね~」
 和気あいあいと戻っていくアリー、ドミニク、カモミール。一方で、そんな風に余裕があるのが信じられないアリアドネ。
「な、なんでみんな楽しそうなんですか……」
「ま、私たちは賑やかしになるぐらいのつもりで気楽にいこうよ。それに、人見知りを治すには確かにちょうどいい機会かもね」
「うう、胃が痛くなってきやがりました……」
「じゃ、そろそろ衣装に着替えようか……はいはい、こっちでしょ」
「ああぁ……」
 いまにも逃げ出しかねないアリアドネを引きずるように準備に向かうアレッタだった。

「おめぇら待たせたな! そろそろハウンドギルド主催の『女神コンテスト』をおっ始めんぜ!」
 司会役が舞台に立つと広場に並んだ観客へとそう宣言した。
 彼はタズランという名のカーンの靴職人だが、職人らしからぬ洒落た性格と軽妙な語り口からこの場の進行を任されたらしい。
「さて、ここにいる中に女神さまがどんな姿か見たことあるヤツはいるか? ……いねーよな? おっと、もしいたらそりゃあ結構キちまってるから、くれぐれも近づくなよ?」
 観客から笑いが巻き起こる。
「つまり、正解なんて誰も知らねえんだから、どんな女神の仮装をしたっていいってことだよな? てーことで色んな姿を拝ませてもううとしようぜ! ちなみにアピールの有無なんかは個人の自由になってる。それじゃ一番手は人気パン屋の看板娘からだ。通り名は『小麦粉の女神』……拍手で呼んでやってくれ!」
 タズランが一番手の参加者を紹介すると、いよいよコンテストが始まった。
「そんじゃ、俺らもやりますかい?」
「あら、ソルさんも女神じゃないの? 美人になると思ったのに!」
 残念そうなドールにソルは肩をすくめて笑った。
「へへっ、それも面白いとは思うんですがね、今日のとこは裏方に専念でさぁ……それじゃ、芸人らしく盛り上げていきますぜ!」
 ソルの合図で大道芸組のハウンドたちが演奏を開始するなか、参加者は思い思いの女神像を仮装という形で表現し、広場を取り囲む観客に披露していく。
 仮装のみならず言葉巧みにアピールを織り込む者や、奇抜な一発芸に終始している者など、参加者の傾向も様々である。
 大道芸組は参加者の雰囲気によって曲調を変えつつ、その登場を演出していった。
 このようにしてコンテストは進み……。
「……以上、ドワーフの大工であるチョッマの『マッチョ女神』に拍手を! いやー、すっげえムッキムキの女神だったな……。悪夢に、もとい夢に見そうだぜ。それじゃ次からは……いよいよハウンドギルドからのエントリーだ!」
 やがてハウンドたちの出番となった。

◆ハウンドの女神たち
「まずは『夜の織女な女神』、アリー・アリンガムだ!」
 大道芸組の演奏がしっとりとした曲調に変わり、アリーが壇上へと現れた。
 夜を連想させる色のイブニングドレスは身体の曲線を強調し、頭上の水晶ティアラが星の瞬きを連想させた。
 アリーは全身を観客に見せ付けるように壇上をゆったりと左右に動いた後、中央に戻る。
「見ろよこの衣装……まさしく夜空の女神だぜ。それに自信たっぷりでさすがはハウンドってとこだな……さーて、なんかアピールとかあるかい?」
「では……観客の方の素性などを当ててご覧にいれましょう♪」
「おっ、それじゃあ希望者はいるか?」
 タズランの呼びかけに若い男が何人か手を挙げる。
「それでは少し質問させてもらいますね♪」
 アリーが簡単な質問をいくつか投げかけた。やがて彼らからの回答をもとに性格や職業などを当ててみせると、観客からは軽いどよめきが起こる。
 対人鑑識の技術を応用したのである。
「すげぇな、どうして分かるんだ? これもハウンドお得意の魔法か?」
「ふふ……魔法ではなく知識です。女神を表現するのであれば、衣装や魔法だけではなく総合力が必要なのですよ」
 アリーは自信たっぷりにそう答えると観客へと一礼したのだった。

「さすがハウンドだ、のっけから驚かせてくれるな? 続いては『神秘の女神』、ドミニク・レノーの登場だ!」
 神秘的な曲に合わせ、白いローブのようなドレスを纏ったドミニクが舞台へと登場した。身体と同じくその頭部もベールに覆われ、表情を窺い知ることはできない。
「おっと、こりゃあ……?」
 タズランと観客が戸惑うなか、ドミニクはそれを脱ぎ捨てる。
 ローブの下から現れたのはレザーアーマーだ。普段は隠していブロンドの長髪を風になびかせながら、ドミニクは銀製のショートソードを掲げた。
「ユーゴ!」
 ドミニクがそう叫ぶと、どこからともなく鷲と馬のキメラであるヒポグリフが飛来してきた。彼女はその背に颯爽と騎乗すると、ゆったりと広場の上空を旋回する。
 その動きに合わせて観客たちの視線もぐるぐると回り……やがてゆっくりと着地したのだった。
「こりゃあ驚いたぜ。どういう演出なんだ?」
「女神さまというのはきっと、目を奪うような美しさ、魔を退ける勇ましさ、コモンを包み込む優しさ……そういう要素を兼ね備えているのではないかと思ったのさ。だからそれを少しでも表現できれば、とね」
「なるほど粋じゃねえか……ドミニクに拍手を!」
 ドミニクは観客からの拍手に一礼して応えると、再びヒポグリフの背に跨って舞台を降りたのだった。

「すげーのを連れてるな……じゃ、次はハウンドからの黒一点『狩人の守護女神』、リディオ・アリエクトの出番だぜ!」
 勇ましい曲と共にリディオが登場した。幾枚もの布を折り重ねるようにした狩人風の衣装は、まるでどこか遠い異国の草原に暮らす狩猟民族のようだ。
 頭上に輝く金細工の王冠や全身に煌めくアクセサリー類なども、定住しない民のような印象を強めるのに役立っている。
「ハウンドってのは魔法の使える狩人らしいからな。ピッタリってワケだ。それにしても……ホントに男かい?」
「ふふ、いまは褒め言葉と受け取っておこう」
 身体のラインを隠す衣装に加え、声色も若干変えていることで中性的な雰囲気の増したリディオ。事情を知らなければ女性と見間違う者は多いだろう。
「こりゃあ混乱してくるな! さて、狩人ってことはその弓矢で何かやんのかい?」
 背中のミドルボウと矢筒に収まったクリスタルアローを指して問うと、リディオは頷いて小さな木の板を三枚取り出して渡した。
「これを順番に投げてもらえるかな?」
 空中に放り投げられた的を射抜こうというのだ。観客の方へと矢が飛ばないよう、舞台上に設けられた板壁へと向けて弓を構えるリディオ。
「……いつでも」
「んじゃ、いくぜ!」
 タズランが投げた的は空中に放物線を描き――命中した矢によって割られた。
「はっ! ほっ!」
 一定の感覚を空けながら続けて二枚の的が投げられるが、リディオの狙いは的確にそれらを捉えた。
「こいつは大したもんだ……まさしく狩人の女神だな!」
「たまたまさ、今日はツイていたようだ」
「ご謙遜を……見事な腕前に拍手を!」
 リディオは巻き起こった拍手に一礼すると颯爽と舞台を後にした。

「お次はちょっとばかし刺激的なフレーズだな……『享楽の女神』、カモミール・セリーザ!」
 妖艶な曲にのって舞台へと上がるカモミール。水着と見紛うような露出度の多い衣装を身に纏い、ハープを手に観客へと手を振って応えた。
「はーい~、みんな~♪」
 そしてくるくるとカモミールの周囲を飛び回るシフールの姿が。チャウは、そんな享楽の女神のお供の妖精という役どころらしい。
「こりゃまたすげえ格好だな! これはライトエルフの男どもには目の毒なんじゃねえか……?」
「あらあら~、そうなのかしら~♪」
 気を良くしたのか、カモミールは観客に向かって色々とサービスなポーズを披露してみせる。
「はい、ちょっとだけよ~♪」
「おいおい、あんまりやりすぎんなよ……ところで、お供の妖精からはこの女神のアピールポイントとかあんのかい?」
「カモちゃんはいいエルフ……じゃなかった、女神さまですよ~♪ だってさっきご飯をくれたし、終わったらまたご馳走して貰う約束なので……もがっ!」
「はいはい、余計なことは言わないでね~♪」
 チャウを引っ掴んで黙らせるカモミール。どうやら餌付けして手に入れたお供のようだ。
「なんだか聞いちゃいけなかったみてえだな……ってことで本人からもアピールがあればどうぞ」
「じゃあ、ハープで一曲披露するわね~」
 そう言って演奏を始めるカモミールだが、腕前の方はなかなかである。観客がしばらくその音色に聞き惚れていると……。
「まだかなぁ……お腹すいた……あっ!」
 前方不注意のチャウがハープにつまずき、カモミールの胸元めがけて落下した。しかも、その際に衣装のトップを掴んでしまう。
 まさかの露出事件発生に男の観客たちが身を乗り出すが、次の瞬間そこにあったのは……。
「ざんねんね~。女神は健全なのでポロリはないのよ~♪」
 ハープで器用に胸を隠すカモミールの姿である。
「だめだこりゃ……後半いってみよう!」
 これ以上はコンテストの品位に関わると判断したタズランによってアピールタイムは強制終了となり、愉快な音楽とともに享楽の女神は片付けられたのだった。

◆栄冠は誰に?
「さあハウンドのエントリーも後半だ。『美しき戦女神』、ベル・キシニア!」
 勇ましい曲が鳴り響くが舞台の上に当のベルの姿は見えない。
「おっと……? うおっ!」
 次の瞬間、突如上空から降ってきた三叉槍が舞台に突き刺さった。
 次いでベルが舞い降りる。スカイランニングを成就して広場の上空に待機していたのだ。
「……ふっ」
 不敵な笑みを浮かべてグリーヴァブレードを構えるベル。その身には金色の装飾が施されたビキニのような形状をした鎧を纏っている。
 そのまま舞うような動きで刃を振ってみせる。四肢にはフチを赤や緑で彩った白い布が巻かれて風になびき、戦士の勇猛さと舞手の優美さを同時に感じさせた。
「こりゃまた肌の露出の多い鎧……なのかね? 俺は武具は門外漢なんだが、最近巷で噂の水着ってのに似てるな?」
「その通りだ。水着のなかでもビキニという物をモデルにして職人街で造って貰った」
「だそうだ、みんなもご要望があれば職人街へ! あとは何かあるかい?」
「そうだな……私は耳掃除が得意なのだが、それを披露するとしようか」
 ベルは舞台の上に座り込むと、太ももを指しながら優しい仕草と声で観客に語りかける。
「……では、よければ誰かこっちに」
 観客から大量の手が挙がった。

「いやー、大混乱だったな……では次は『静寂なる女神』、アリアドネ・ウィステリアだ!」
 静かな旋律と共にアリアドネが舞台へと上がる。
 シンプルなロングスカートを纏い、口元は長いベールで覆われていて表情がよく見えない。身体を飾るアクセサリー類もシンプルなもので纏められていた。
「これはまたエキゾチックな女神の登場だ。しかし顔がよく見えねえが……そのままでいいのかい?」
「……(コクコク)」
 ぎこちなく頷くアリアドネ。どうやらガッチガチに緊張しているらしい。
(ふおおおお……み、みんなが私を、ち、注目しまくってやがりますよ……)
 足がガクガクと震える。もし素顔を晒していたら蒼白なのが一目瞭然だろう。ベールを用意しておいたのは英断であった。
「なるほど静寂……てぇか、無口な女神さまみてえだな。アピールはあるかい?」
「……(コクコク)」
 またも頷きだけで意思表示すると、アリアドネは両の掌をぐっと差し伸ばした。その先にいるのは、街の住人から選ばれた審査員たち。
『審査員のみなさん……聞こえますか……静寂なる女神です……いま、あなたたちの心に……直接呼びかけています……』
 心のなかでそう話しかけると審査員たちが驚いて顔を見合わせる。
 あらかじめ成就してあったテレパシーによる遠話なのだが、知らない者にとっては結構な驚きのようだ。
『私はあなたたちを……いつも見守っていますよ……え? な、なんで直接口で言わないのかって? そ、そそそそれは、この方がなんか女神っぽいからで……』
 審査員からの思わぬ質問に小刻みに震えだすアリアドネ。遠話の最中に話しかけられるとは思っていなかったのだ。
『け、決して大勢の前で喋るのが、ききき緊張するからじゃねーですよ???? あ、あばばばばばばば……!!!!』
 やがて限界になったのかアリアドネは逃げるように舞台からその姿を消した。
 終わってみれば、静寂なる女神の名の通り一言も言葉を発することは無かったのである。

「何があったのかはよくわかんねーが、いろいろと大変みてーだな……。さて、いよいよハウンドのエントリーは次で最後だ。『旋律の女神』、アレッタ・レヴナント!」
 イブニングドレスを纏ったアレッタが優美な曲とともに舞台へと現れた。ただ、これまでと異なるのは彼女自らがアイスリュートで演奏しているということである。
 そのままアレッタはしばらく独奏していたが、やがて大道芸組も一人、また一人と演奏を始め……遂には三つのリュートとハープによる演奏が広場に鳴り響いた。
 ハウンドによる即席のアンサンブルだ。
 やがて曲を演奏し終えると、アレッタは客席に向かって淑やかに頭を下げた。
「こりゃ驚きだぜ……ハウンドってのは戦うだけじゃないってことだな」
「せっかくのお祭りですもの、音楽の楽しさも味わっていただけたらと思いまして……」
 装いに合わせるかの如く、あくまで淑やかに答えるアレッタ。普段の彼女を知る者であれば人違いかと思うかも知れないが、これもまた彼女らしい悪戯の一種である。
「それでは……最後にもう一曲」
 再び演奏を始めるアレッタ。
 優しく、素朴な曲を披露したあと……アレッタはルナを成就すると広場の周囲に用意しておいた的を狙い撃った。
 建物の影を走る光の矢の軌跡に、観客は大いに盛り上がったのだった。

 こうして全ての参加者の出番が終了すると、審査員たちによる採点が開始された。
 やがて。
「待たせたな! 第一回女神コンテストの栄えあるベスト女神賞は……」
 観客が固唾を飲んで待つ中、タズランが名前を読み上げる。
「……『美しき戦女神』、ベル・キシニアに送られるぜ! おめでとよ!」
 ベスト女神の栄誉はベルに贈られることとなった。審査員たちによればインパクトのある登場とアピールのギャップ、自身の魅力を最大限に活かした衣装が評価されたようだ。
「光栄だな。次は美しく戦う姿も披露しよう」
 女神をイメージしたティアラを戴いたベルのコメントをもって、初の女神コンテストは盛況のうちに無事終了したのである。

◆組手演武
 何度も沸き起こった歓声に引き寄せられたのか、すでに広場はキャパシティ限界の大衆で溢れんとする状態となっていた。
「えー、串焼き串焼き、美味しい串焼きですわー!」
 中にはエフィのように人の流れを察知して場所を移る商魂たくましい者もいる。
 そんな女神コンテストの興奮も冷めやらぬ広場では、すでに次の演物が行われていた。
 ハウンドによる演武の披露である。

「はっ!」
「むん!」
 コンテスト会場から一転、即席の演武場となった広場へと入れ代わり立ち代わりに登場し、勇ましい声とともに得意の得物を振るうハウンドたち。
 危険と隣り合わせのオーディア島で暮らしているとはいえ、大多数の人にとって戦いはやはり非日常だ。
 となれば、その危険を日常として過ごすハウンドの技量に興味を抱くのは至極当然のことだろう。街ではそうそう目にすることができない勇ましい姿をひと目見ようと、さらに多くの大衆が集まって来る。
 そして、また次のハウンドが広場に登場したのだが……。

「ちょっ! ウィール! なんだよこの衣装!」
 リザが抗議の声をあげた。不満の矛先はこの日の為にベドウィールが用意した衣装にあるようだ。
「ほう……思った通り、よく似合っています。ちなみにコンセプトは『女神の従者』ですよ」
 涼しい顔で説明するベドウィール。フィッシュテールスカートの女中服をベースに、さらに半ズボンとミニエプロンを合わせている。
 裾や袖には毛皮や綿で作られたモコモコの飾りがあしらわれているが、これはふわふわの雪をイメージしたものらしい。
 ちくちくと針仕事で夜なべしつつ完成させた力作である。しかし寸前までひた隠しにしていたあたりにベドウィールの用意周到さが窺えた。
「女神の傍仕えですから男性らしさは控えめにしてみました。大丈夫、ズボンだから男性用なのは誰の目にも明らかですよ?」
「んんっ……? 微妙だけど、たしかにズボンだから女装じゃない……つまり、セーフ……?」
 詭弁に丸め込まれつつ、リザとベドウィールの組手形式の演武披露が始まった。
 演武場には小物類の乗った木製の台や樽などの遮蔽物が置かれ、起伏のある状態となっている。屋内での戦闘を再現したものであるらしい。
「二人とも、がんばってよ!」
 ショウからの声援を受けて、二人が動いた。
「行くよウィール……覚悟!」
 ローレライを成就したリザが水の剣を繰り出した。一方のベドウィールは遮蔽物を利用してそれを躱す。
 リザは身の軽さを活かして派手に立ち回りつつ、あえて水の剣を小物に命中させて吹き飛ばしたり転倒させるなどして派手さを演出する。
 同時に、その猛攻から器用に立ち回るベドウィールの姿に歓声があがった。
「……随分と一方的な組手ですね、リザ」
「大丈夫! 手加減してるからさ……頑張って逃げ切ってよね!?」
(だいぶ調子に乗っていますね。観客が沸いているからよしとしますが……時間いっぱいまで付き合って、あとでお仕置きですか)
 両者の思惑を秘め、互いに距離を空けたままで組手は続く。
 やがて。
「そろそろ終わりかな……それっ!」
 頃合いだと察したリザが、樽の背後に身を隠したベドウィールへと向けて水の剣を放った。一見すると追い詰められたように見える構図だが……。
 転倒した樽の背後にベドウィールの姿は無かった。
「……あれ?」
「甘いですよ」
 次の瞬間、リザの視界が回転した。続けて、背中に衝撃が走る。
 遮蔽物に身を隠しながら一気に接近してきたベドウィールがリザを投げ飛ばしたのである。
「いてて……ウィール、いつの間に!?」
「攻撃に集中しすぎて視野が狭くなると手痛い反撃を貰いますよ、リザ。さあ、ご挨拶を」
 二人が観客に一礼すると、逆転劇に拍手が送られたのだった。

◆模擬戦
 演武の披露が終わると、今度は広場は仮初めの闘技場となった。
 最後の演物はハウンド同士による模擬戦だ。
 余興的な意味合いが多いとはいえ、魔法を操るハウンド同士の試合は単純な身体能力差だけでは優劣が確定しづらく、見応えのある対戦が多く見られた。

「……さて、いよいよ出番か」
 やがて両腕にシールドソードを装備したソーニャ・シュヴァルツが進み出ると対戦相手を待った。
「リザ……? 対戦相手はキミか」
「はは……よろしくね、ソーニャ」
 やって来たのは演武を終えたばかりのリザだった。少し意外そうなソーニャの表情を見て言い訳するように口を開く。
「さっきのでウィールに『気が緩んでる』って怒られちゃってさ。少し揉まれてこいってことになったんだけど……僕でいいかな?」
「それはスパルタ教育だな……もちろん、私は誰が相手でも構わないぞ。精一杯盛り上げていこうじゃないか」
 審判役のハウンドが進み出てくる。どちらかが負傷と呼べるほどに消耗した時点で勝敗が決定するのである。
「では……始め!」
「じゃ、お手柔らかに!」
「さぁ……心奮わせ、血潮滾(たぎ)る戦いを始めよう!」
 審判が試合の開始を宣言すると同時に、二人は広場内で出来うる限りの距離を取った。

「ただ戦っても面白くないからな……ここは見栄えも重視だ」
 ソーニャは初手にマルチパーリングの成就を選択した。持ち前の身軽さにこの戦技を組み合わせることでシールドソードによる回避力を高めるのが狙いだ。
「接近戦に持ち込まれる前に……少しでも!」
 対するリザも補充しておいた水筒を用い、ローレライを成就して水の剣を手にする。こちらはレンジの広さと水の剣がもつ様々な効果に期待しての選択だった。
「はっ!」
 攻撃有効範囲の差から先制したのはリザだ。距離を詰めようとしてくるソーニャに対して水の剣を放つ。
「ふっ!」
 だがその一撃はシールドソードによって逸らされた。回避しにくい水の剣の軌跡とはいえ、いまのソーニャなら見切ることが可能なのだ。
「次はこちらの番だな!」
 一気に肉薄したソーニャが仕掛けた。ミドルシールドでの防御が間に合わず、直刀がリザの腕を斬りつける。
 両者はその間合いを維持したままで攻防に移った。水の剣が宙を舞い、シールドソードが繰り出される。
 三度、四度と攻守が入れ替わるが……試合の主導権はソーニャにあった。一撃の威力はリザに分があるものの、ダメージレースとなれば回避能力の高い方が優勢となりやすいからだ。
 せめて再び距離を取ろうにもソーニャの動きの方がリザのそれより速い。
(くっ……せめて一撃……!)
 その時、リザの放った攻撃がついにソーニャを捉えた。
 水の剣が秘める冷気がソーニャの身体を蝕もうとする……が、彼女はそれに耐えた。強靭な肉体によって抵抗に成功したのだ。
「うそっ?」
「はあッ!」
 気合の声とともにソーニャがシールドソードを振り払う。
「……そこまで!」
 審判が試合の終了を告げた。よく見ればリザの四肢にはすでに多量の流血が認められる。
「勝者……ソーニャ・シュヴァルツ!」
 観客から大きな拍手が送られた。

「いたた……まさか、ああも当たらないとはね……。まいったよ」
「いや、もう一撃多く貰ってたらあの冷気には耐えられなかっただろうな……今日のところは私の運が良かったのさ」
 実際のところリザの水の剣の威力は大きく、場合によっては形勢逆転も十分にあり得ただろうとソーニャは実感していた。
「さて、私はまだまだ戦い足りないんだが……誰か相手になってくれないか?」
 次なる対戦相手を募るソーニャ。
 このあと、記念すべき連勝記録ホルダーの座に収まったという話である。

◆祭りの終わり
 その頃、大通りでは。

「……良かったね、ソラ。思ったよりも早く迎えが来てくれて」
「ああ、そうだなハナ」
 休憩所には保護していた迷子の子供を見送るハナとソレイユの姿があった。何度も頭を下げる両親と、振り返っては手を振る子供。
「ソラも……子供好きなのかな?」
「ん? ああ、そうだな……親がいない寂しさはわかるつもりだし、さ」
「……そっか」
 ソレイユの出自を思い出したのか、ハナはそれ以上は言葉を続けない。
「それにしても……ハナと一緒だとやっぱ面白いな。同じ仕事をやってても見てるとこが違うし……今日は、つきあってくれてありがとうな、ハナ」
「ふふっ、どういたしまして! ……でもソラ、まだお祭りは終わってないよ? まだまだ一緒に頑張ろうか!」
「ははっ……そうだな!」
 二人は笑い合うと、休憩所を訪れる人々へのもてなしを再開した。

「自分の想像する女神さまの絵を描いて欲しい……? うん、大丈夫だよ!」
 一方、エルノのところにはこうした依頼が増えていた。聞けば、広場での女神コンテストを観て感化されたのだという。
 中にはハウンドをモデルにして女神の肖像画を描いてほしいという者もあったぐらいだ。
「想い出に残ることなら……俺もできるだけ手伝わないとね!」
 人々の記憶と祭りの成功の一助となる為に、エルノは絵筆を走らせるのだった。

「はい、シース。今日はお疲れさま」
「うん、セース。ありがとう……お疲れさま」
 セースとシースの焼き菓子は完売御礼だ。片付けを終えた二人は午後の街並みを眺めつつ、とっておいた菓子を頬張る。
(今日は、楽しくて素敵な一日だったな……)
 言葉にせずにそう呟くシースだが、そこでセースの視線に気づく。
「……なに?」
「ううん、シースが楽しそうだと、私も嬉しいなって。本当に素敵な日だったね!」
「そ、そんなことは……」
 どうやらお見通しだったようだ。
「あ、そうだ……サースにもお菓子を持っていこうか!」
「……でも、二つあるよ?」
「これは女神さまのぶん! 喜んでくれるといいな……じゃ、いこうかシース!」
「うん……セース」
 二人は立ち上がると、祭りの雑踏のなかへと歩き始めた。

 また同じ頃、大通りを進む集団があった。
「さぁさ、ローレックの街の皆々さま! 一緒に歌い、踊りやしょうぜ! なぁに、祭りとなれば遠慮は無用だ、手拍子だけでも結構でさぁ!」
 ソルを始め大道芸組のハウンドが人々を囃し立て、先導する。
 向かう先はオーディア大聖堂。広場に集まった多数の者たちを、できるだけ新年祭のミサへと参加させる為だ。
「飛び入りももちろん大歓迎! 姉さん、こっちも積極的に合わせてくよ!」
「ええショウ! こうして目一杯楽しんで貰えれば、きっと女神や精霊が騎士団まで元気を届けてくれるわ!」
 ショウとドールもパフォーマンスで行進を牽引する。
 祭りによって多くのコモンが街に集い、ハウンドによる様々な催しによって女神への関心が高まった。
 その流れを大聖堂へと集中させるのだ。
「女神さまへのしんこー……えっと、『女神さますごーい!』って事ですわね? 元気で明るい曲でいっしょにお祈りしたら、きっとみんなそう思ってくれますの!」
「うん……みんなが楽しんでくれたらきっと大丈夫だよね……。一生懸命に、全ての人や女神さまに届くように、心をこめて歌うよ……」
 レネットが行進の頭上でハープを奏で、サースが歌う。


 鈴の音響く彼方まで

 星屑揺らす弦の弾

 踊る聖布に祈りを掛けて

 歌い舞えば闇夜も晴れる


 歌い踊る行進は、やがて大聖堂へと到着した。

◆冒険の始まり
「ふむ……これは想像以上の効果だな」
 ヴァイスは一変した大聖堂の様子にそう呟いた。
 ミサを希望する人々が詰めかけてすでに堂内は大わらわだ。聖職者やシスターたちが総動員で対応しているが捌ききれていないのは明白である。
「おいおっさん! コインがあっという間に無くなっちまったぞ! どうすんだよ!?」
 アドラが悲鳴にも似た声をあげる。ハウンド由来の品と分かった途端、あっという間に配り終えてしまったのだ。
「そうか……なら急いで量産しなければな」
「量産……って、人ごとだと思って気楽に言うなー!」
 これからしばらく、アドラは夢に見るほどコインを作ることになったのだとか。
(……厄払い、か。あの時、本当に効果のある物があったとするなら……)
 ヴァイスは祈る女性の姿に一瞬過去を思い出し、打ち消した。
「いや、仮定の話はよそう。重要なのは、これからどうするかということだ」
 自身に言い聞かせるようにヴァイスはそう呟いた。

「押さないでください! 堂内へは、これ以上は入れません!」
「順番をお守りください!」
 大聖堂の入り口ではシスターたちが入場整理に対応していた。無軌道な集団ではないので混乱までは起きていないが、収集がついてないのは事実である。
 その時――。
「ははははははははは!!!」
 大聖堂の屋根から高らかな笑い声がこだました。人々が見上げるとそこにはツヅルの姿が!
「いいだろう! 安全祈願……はともかく、厄払いとしてはよく効くと実証済みの儀式を教えてやろうじゃないか! この俺がな!!」
 そして、屋根の上で謎のポーズをビシーッとキメた。

 一瞬の沈黙。

 そして、大喝采。

「そう! これが!! これこそが!!! そのポーズだ!!!!」
 ビシッビシッビシッビシーッと謎のポーズ四連続をキメるツヅル。傾きかけた陽光に照らされ、若干の神々しさまで纏っているような錯覚すら抱く。
「テンション高く、自信をもってやりきることだ! 自分は世界一格好良いと思いながらな!」
 うおお、と地を揺るがすようなどよめきが起こり、人々が思い思いにポーズをキメだした。ある意味ではこれ以上ないほどの大混乱である。
「はははは! いいぞキミたち! さあ、女神への想いを込めて……いくぞ!」
 いまここに、大聖堂を巻き込んだ謎のポーズがビシーッと炸裂した。


 まさにその頃であった。オーディア島中部にて大きな転機を迎えたのは。

 ローレックの騎士団の眼前で、徐々に減少していったブラックミスト。もはや戦いでの不利は非常に限定的だ。これが、ローレックの街において信仰心が急激に高まった結果かどうか、それは我々コモンが断定できる事柄ではないが、しかし、そうだと信じていいはずの事である。
「おお……ハウンドたちがやってくれたぞ! 総員突撃! ブラックミスト発生装置を破壊せよ!」
「「「おお!!」」」
 騎士団長の指示で全騎士が突撃を開始する。
 そして獅子奮迅の戦いの結果、被害を最小に留めつつブラックミストの発生源を破壊することに成功したのだった。

 こうしてローレックの街を挙げた新年祭は成功に終わった。
 行く手を阻んでいたブラックミストは消え、騎士団のみならずハウンドたちも島の北部へと赴くことが可能になるだろう。
 つまりこの祭りは――オーディア島の未知なる領域への扉を開く為の、前夜祭でもあったのである。



 15

参加者

a.ふむ…
ヴァイス・ベルヴァルド(da0016)
♂ 39歳 人間 カムイ 月
サポート
c.【装】勿論でさぁ。創作だって構わねんで、気軽に乗ってくだせぇ。
ソル・ラティアス(da0018)
♂ 24歳 人間 パドマ 月
c.【装】楽しそうですのっ! 妖精っぽい格好でもいいですわよねっ?
レネット(da0035)
♀ ?歳 シフール パドマ 陽
f.さぁ、心奮わせ血潮滾る戦いを始めよう。
ソーニャ・シュヴァルツ(da0210)
♀ 20歳 カーシー(中型) ヴォルセルク 火
d.まー賑やかしにはなるだろ。
リディオ・アリエクト(da0310)
♂ 22歳 人間 カムイ 風
d.あばばばばばばば(緊張で白目をむいている)
アリアドネ・ウィステリア(da0387)
♀ 18歳 ライトエルフ パドマ 地
a.ははははははははは!!!
ツヅル・アステール(da0395)
♂ 19歳 カーシー(大型) ヴォルセルク 陽
b.簡単な串焼き屋さんでも行いましょうか。
エフィ・カールステッド(da0439)
♀ 19歳 人間 カムイ 月
c.歌と踊りと奇術と熱狂。こんなのがスキな女神ってどんな人か見てみたいね。
ショウ・ジョーカー(da0595)
♂ 16歳 人間 カムイ 月
サポート
d.さて、折角ですので一曲歌いましょうか。
アレッタ・レヴナント(da0637)
♀ 21歳 人間 パドマ 月
d.はい、ちょっとだけよ~♪
カモミール・セリーザ(da0676)
♀ 30歳 ライトエルフ パドマ 陽
サポート
b.俺達なりのやり方で盛り上げさせてもらうぜ!
ソレイユ・ソルディアス(da0740)
♂ 17歳 人間 ヴォルセルク 陽
e.やっぱりこっちだよね!
リザ・アレクサンデル(da0911)
♂ 19歳 人間 ヴォルセルク 水
c.うーんと、お歌頑張るの…。
サース・エイソーア(da0923)
♀ 16歳 ライトエルフ カムイ 月
b.うーんと、こっちかな?
セース・エイソーア(da0925)
♀ 16歳 ライトエルフ カムイ 陽
b.じゃあこっちで。
シース・エイソーア(da0926)
♀ 16歳 ダークエルフ マイスター 月
d.たまにはこういったやんちゃするのもいいものです♪
アリー・アリンガム(da1016)
♀ 25歳 人間 パドマ 月
c.みなさん奇跡はお好き? 女神の恵みに感謝して、今日は楽しんでね!
ドール・ジョーカー(da1041)
♀ 21歳 人間 パドマ 陽
e.(衣装をちくちく縫い縫い)…ん?私もですか?
ベドウィール・ブランウェン(da1124)
♂ 23歳 人間 ヴォルセルク 月
d.女神、と言われれば、私の美しさを披露せざるをえないな。
ベル・キシニア(da1364)
♀ 24歳 人間 ヴォルセルク 風
b.手伝いとか、あとは…んん、色々、とにかく想い出に残ることしたいな
エルノ・ライネ(da1581)
♂ 18歳 人間 マイスター 月
b.よーし!ソラ、頑張ろうか!
ハナ・サルタバルタ(da1701)
♀ 19歳 人間 マイスター 地
d.ふふ、たまには『こっち』の格好で攻めてみるのも面白そうだしね。
ドミニク・レノー(da1716)
♀ 21歳 ライトエルフ パドマ 水


騎士団を援護せよ!

大成功に終わったXmas普及作戦。しかし奮戦する騎士団にとってはあとひと押しが必要だという。ローレック王より依頼を受けたハウンドギルドが選んだ援護作戦は……お祭り!?