【リオ】花咲くコステイロ

担当九里原十三里
タイプイベント 日常
舞台ブラジル(America)
難度易しい
SLvC(紛争地域、島内)
オプ
出発2019/03/07
結果成功
MDPルイ・ラルカンジュ(pa0432)
準MDPリアム・イチカワ(pa1534)
中藤冴香(pa0319)

オープニング

◆飾り羽根咲くリオへ
 ぶっ倒れるまで踊り続けろ――学生達に、ゾフィ・ヴァルブルクはそう言った。
 UNICOの学生達は今回、リオ・デ・ジャネイロのカーニバルにローゼンナハトのメンバーや関係者で構成されたEscola de Samba(エスコーラ・ジ・サンバ。サンバチーム)に加わることになっていた。
「どうだ? 私もまだまだ、イケるだろう?」
 ゾフィは華やかなコステイロ(飾り羽根)を付けた白い「パシスタ」の衣装でポーズをとってみせた。
「私はこれで出る。だけど、『アーラ』や『バイアーナ』の衣装も捨てがたいよな! 多少、腹が出てても足が太くても気にすることはないからな! 大事なのは情熱(パッション)と、自分をどう魅せるか、だぞ?」

登場キャラ

リプレイ

◆本番前、楽屋
「ユリア、一応練習はしたけど、俺はホントにこういうのは夏祭りの盆踊りぐらいしか経験はないんだからな?」

 一条葵がピンクのカーテンの向こうにいる人物に向かってそう声をかける。
 すると、「ダイジョーブダイジョーブ!」という声が返ってきた。

「そんなに緊張しなくたって平気だよ、葵。私だってダンスは人並みにしか踊れなかったけど、リハーサルの時だって2人共バッチリだったじゃない」

 カーテンの向こうで着替えているのはユリア・ジェラードのようだ。
 本番の2時間前――カーニバルの準備をする楽屋は俄に慌ただしくなっていた。

「楽しむことがまず大事。だから葵、一緒に頑張ろう?」
「そうだな……楽しむのが第一だよな。踊れるかどうかは二の次でも」
「踊れるって! 昨日の練習、葵すごく上手だったよ?」

 着替えを終えたユリアはカーテンを引き、葵の前に現れた。
 その姿に、葵は思わず「おお!」と声を上げた。

「……キマってるな、バッチリだ」
「本当? でもこれ、まだ完成じゃないよ?」

 そう言いながら、ユリアはその場でくるりと回ってみせた。
 スパンコールやビーズで飾られた衣装には和の絵柄があしらわれ、胸元には大きな流水紋と舞い散る桜の花が刺繍されている。
 その姿に葵が思わず見とれていると、ファンデーションの色味を調整してた中藤冴香がクスクス笑いながら「前向いててくださいね?」と言った。

「ユリアさんはこれで4割位の完成度ですよ。葵さんも、遠くのお客さんから見てお顔がハッキリ分かるようにもう少しメイクさせてくださいね」

 冴香はそう言って葵の頬に手を添えて前を向かせると、肌の色より少し薄めのファンデーションを馴染ませた。
 隣の鏡台に座ったユリアはメイク用のケープを羽織ると、冴香の手元を見ながら自分で化粧下地を塗り始める。

「ねぇ、冴香さん、私のファンデも葵と同じ色でいいのかな?」
「ユリアさんは隣の列の3番と4番を使ってください。その方が肌の色に馴染むと思います」
「これ?」
「ええ。ベースの肌の色は個人個人で違いますから、それでお2人のお化粧の色味を合わせましょう」

 そう言って冴香はパフをパレットの上に置き、別の色のファンデーションを手に取る。
 葵はその向こうにあるまだ出番のない鮮やかな青のアイシャドウやラメを見ながら、「さっきので終わりかと思った」と小さく笑った。

「あれで下地だったのか。なかなか青が登場しないな……」
「ふふ、もうすぐですよ葵さん。あのセット全部使いますからね?」
「え、一色じゃないのか?」
「ええもちろん。完成をお楽しみに♪」

 そう言いながら、冴香は手際よくベースメイクを仕上げていく。
 部屋の奥では既にメイクを仕上げたルイ・ラルカンジュゾフィとAiフォンで自撮りして遊んでいた。

「ゾフィ先生は流石の貫禄ですね。綺麗です」
「何いってんだラルカンジュ! お前こそこの目元、アイシャドウ何色使ってるんだよ?」
「ふふっ、10から先は覚えてません♪」
「あっはっは! すごいなー! ほら、こっち向け! 動画撮るぞ! あ、いい! その角度、最高だ!」

 楽しそうに笑いながら動画を撮るゾフィ――恐らく、今回来られなかったUNICOの誰かに送るつもりなのだろう。
 ルイがカメラに向かって顔を傾けると、白と黒に重ねたターコイズがラメの効果で虹色光沢を帯びて輝いて見えた。

「コレに仮面と王冠を足せば、僕は完璧な『孔雀の雄』に変身します」

 そう言っておどけるルイのメイクは、これでもまだ完成ではないようだ。

「僕、世界一綺麗で、セクシーな孔雀になって見せます。ねぇ、サエさん?」
「ふふ、楽しみですね。ではそろそろ……ペースアップしていきましょうか」

 冴香はそう言って葵の頬にパウダーとチークをなじませると、いよいよ青いパレットに手を伸ばす。
 ここからが葵のイメージする「蒼」の衣装を完成させ、ペアで踊るユリアに合わせていく作業の本番である。

「わぁ、完成してきたね! 冴香さん、私もこの髪飾り早く着けたいな!」

 葵のメイクが仕上がっていくのを見ながら、ユリアが鏡台の脇に置かれた簪や飾り紐を指差す。
 冴香は仕上げに葵の目元に濃い青銀のラインを一筋加えると、メイク用手袋を外し、ユリアの後ろに立った。

「コステイロの飾り羽根が背中の上の方まで来ますから、髪は高めに結いましょう。このお花が……耳の上のこの辺りに来ます」
「素敵♪ ねぇこれも、桜?」
「八重桜ですよ。アイシャドウの色はこれに合わせましょうか」

 そう言って冴香が新しいパレットの蓋を叩くと、鮮やかに並んだいろいろな桜色が現れる。
 本番までもう少し――リオの街が俄に熱を帯び始めていた。

◆情熱の夜が、始まる
「あああああ……先輩! ヤスミナ先輩っ! 俺もう、眩しすぎて……! みれません!」

 アレゴリアの前に立つアレク・レイヴァは、本番が始まる前から既に大泣きしそうになっていた。
 傍らに立つヤスミナ・リベラがあまりにも美しすぎたのだ。

「まさか……ヤスミナ先輩が、サンバの衣装を着てくれるなんて! でも俺、絶対似合うと思ってました! だけど、もう似合いすぎだろ、って感じで! 天使! ヤスミナ先輩はまさに天使の中の天使です!」
「アレクったら。まだパレードがスタートしてもいないのよ?」

 もはや「拝み始めそう」な勢いのアレクを見て、ヤスミナがくすくすと笑う。
 パシスタや他のダンサー衣装に比べてやや露出は抑えめだが、それでもヤスミナはかなりセクシーな衣装を身に着けている。
 それがアレクにとってはそれはそれは眩しかったようだ。

「アレクも楽しそうでよかったわ。今回はあたしに参加を勧めてくれて、ありがとう」

 周囲には街頭スピーカーから流れる華やかな曲が響いている。
 沿道の客席には大勢の観客が詰めかけ、パレードのスタートを今か今かと待っていた。

「あたし達のエスコーラは先頭から7番目ね。ねぇアレク、私達の後に出発するエスコーラの衣装がすごく可愛いのよ! 若い女性だけじゃなくて、ちっちゃい女の子も、お婆ちゃんもみんないろんなお花の精になってるの。テーマが『秘密の花園』なんですって!」
「そうですね。どこのエスコーラも『パシスタ』や『アーラ』は若くて綺麗な女子が優先的に選ばれていますけど、俺たちと同じ『コミサン』は……ほら、子どもたちが主役のところもあるみたいですよ」

 アレクがそう言って指さしたのは、各エスコーラを回って撮影されている凱旋TVの画面だった。
 画面に向かって手を振る小さな女の子のコミサンたちの後ろから、彼らの祖母らと思われる「バイアーナ」衣装の年配女性たちが微笑む。
 それを見たヤスミナが「可愛い!」と声を上げた。

「3番目のエスコーラのダンサーね! どこかで会えないかしら?」
「本当に、ヤスミナ先輩が楽しそうで良かったです。だけど本番はこれからですよね、先輩!」

 2人がそう話していると、全体放送で最初のエスコーラがスタートする時間になったという合図があった。
 エスコーラの演奏を担当する「バテリア」たちが一斉に楽器を手にする。
 それを見て、「プシャドール」のオリバー・カートライトも「そろそろだな」と呟いた。

「プシャドール、って『引っ張る』の語源から来てるんだよな」

 オリバーは顔を上げ、周囲のバテリアたちを見回す。
 各エスコーラのバテリアは200人――その演奏に合わせて歌い、チームを引っ張るのがオリバーの役目でもある。
 リオのカーニバルはこのバテリアの演奏がなくては始まらない――いや、むしろ彼らが主役であるともいわれ、ダンサーの踊りを成功させるためにもオリバーとバテリアとの連携は必要不可欠であった。

「練習では上手くいってたけど、本番は一発……俺も、チームをちゃんと歌で引っ張っていけるようにしないとな」

 オリバーは少し緊張した表情でそう口にした。

「まあ……俺は、みんなが気持ちよく踊りを踊れるようにサポートしたいと思ってる。今日は頑張ろう、みんな、よろしく」

 バテリアたちは声を上げ、指笛を鳴らして沸き返り、首から吊り下げた太鼓を打ち鳴らして景気づく。
 彼らに鼓舞されながら、オリバーはアレゴリアの上へと駆け上がった。

(圧巻の光景……だな)

 アレゴリアの上からは、自分のエスコーラのメンバー、そして周囲のチームのダンサー、演奏者たちが遠く見渡せた。
 オリバーの傍らには大きな黄金のユニコーンがいる。
 大きく息を吸うと、オリバーは冴香が用意してくれたジャケットと帽子を手にした。

(冴香は、どこだろう)

 本番前の慌ただしさで、恋人の冴香とはあまり話ができずに会場入りになってしまった。
 今、彼女はどこにいるのだろうか――大人数のエスコーラを見回しながら、オリバーはマイクを手にし、長時間の歌唱に備えて喉の調子を整える。
 そしていよいよ、UNICOのエスコーラが出発する時間になった。

「さぁ行くわよ、アレク!」

 ヤスミナはそう言うと、持ち手のついた大きな2枚の布をはためかせてエスコーラの先頭に立った。
 アレクが頷き、同じく2枚の布を手にヤスミナの傍らに並び立つ。
 そして周囲が一瞬静まり返った後――暗くなったリオの空に、オリバーの歌声が響き渡った。

(楽しく明るく、そしてミステリアスでセクシーに……! あなた達の心を、あたしが盗ませてもらうわ!)

 怒涛のように押し寄せるバテリアのパーカス。
 それに押し出されるようにして、ヤスミナとアレクが舞い始めた。
 エスコーラのテーマは「怪盗(ファントム)」――その怪しく美しいダンスに、沿道を埋める観客の心が惹きつけられる。

(まだよ、みんな! 私達はこのパレードの先導……『予告状』を出すのが私達の役目よ!)

 アレクに2枚のフラッグを預けると、ヤスミナはコミサンの一団を飛び出す。
 そして観客の頭上に何かカードのようなものを振り巻いた。
 観客の1人がそれを手にし、驚いたような表情を浮かべる。
 ヤスミナは彼らと視線を合わせると、「よく見て」とウィンクした。

(プレゼントよ。本物じゃないけど、よく出来てるでしょ?)

 観客らが受け取ったカードには、パレードのテーマを印象づける怪盗「闇夜の夢想」からのメッセージが書かれていた。
 そしてバテリアの演奏やオリバーの歌にもますます熱が入り、ヤスミナのダンスがより激しくなっていく。

(ああ……! 思い切って誘ってよかった! 生きていてよかった!)

 4枚の布を手に、ヤスミナをエスコートするように舞いながら、アレクは歓喜にむせび泣きそうになるのをこらえていた。

(先輩がいるだけでもう幸せ……! ああ、ダメだ! 俺たちが先頭なんだから、最後まで盛り上げなきゃ!)

 自分の心はもう、最初からヤスミナに盗まれているのだろう。
 そんな事を思いながら、アレクは彼女のそばで踊り続けるのだった。

◆むせ返る、リオの夜に
 熱気と歓声が夜闇の静寂をかき消し、パレードの輝きが人々の心に彩(いろ)をつける。
 ああ、これが本場・リオのカーニバルなのかと紅嵐斗は思った。

(気を抜いたら熱気に呑まれる……おれ達怪盗がそんな事じゃだめだよね?)

 怪盗モチーフの衣装に身を包み、嵐斗はパンデイロをステッキの先で高く弾く。
 観客の視線が動くのを見ながら、彼らの心を煽るように嵐斗は少しずつその高さを増していった。

(ほーら、次はアレゴリアの上まで上がっちゃうよ! っと……危ない! 大丈夫! おれは大事な小道具を落としたりしないよ!)

 エスコーラと一緒に移動しながらパンディロを投げ上げる嵐斗の姿に観客は笑い声を立て、楽しんでいる。
 そこへ、2枚の布を手にしたヤスミナが飛び出した。
 コラボしよう、というのだ。

(せっかくだから、アドリブ入れましょ? 違うパート同士が絡んだほうが楽しいわ!)
(そうだね! 今回のおれ達のターゲット――それは『みんなの視線』だ! もう1発行くよ!)

 嵐斗がパンディロを高く跳ね上げ、その下でヤスミナが布を手に1回転する。
 そしてパンディロが再び嵐斗の手に戻ると、沿道から大きな歓声が上がった。
 曲芸師「マラバリスタ」はこうでなきゃ! という声であった。

(ほら、よそ見してると「お宝」を見逃すよ?)

 パンディロとステッキをジャグリングしながら、嵐斗は他のマラバリスタ達と戯れ、後方のアレゴリアへと近づいていく。
 そうしながら、嵐斗はダンサーからダンサーへと観客の視線を煽った。

(パシスタ、アーラ、バイアーナ! 全体を「群れ」として見ちゃったらもったいないよ! みんな、衣装もダンスも魅力的なんだからさ!)

 ダンサーたちと踊り交わし、パンディロを打ち鳴らし、嵐斗はエスコーラの中を飛び回る。
 そして、嵐斗が満載されたお宝の山のオブジェに飛び乗ると、それと交代して「パシスタ」衣装のエラ・ウォーカーが沿道に飛び降りた。

(ユー達、やるネ! だけど、ミーも負けないネ!)

 エラはコステイロの飾り羽をはためかせながら、パシスタ衣装を着た仲間達の列に飛び込んでいく。
 そして、金の延べ棒の先にぶら下がったネックレスのオブジェに目をつけた。

(本番の『獲物』はあれネ! 練習通り……行くヨ!)

 沿道の観客に向け、エラは自分の手にある手裏剣を掲げ、スポットライトの中でギラリと光らせてみせた。
 そしてネックレスに向かってそれを投げつけ――観客の前で「盗む」ように切り落としにかかった。

(命中ネ! もう1枚いくヨ!)

 手裏剣が勢いよく回転し、大きなペンダントのオブジェが延べ棒からずり落ちると、客席からは悲鳴に似た歓声が上がった。
 だがこれは、エラの手裏剣パフォーマンスをより効果的に魅せるための演出であった。
 エラの手から放たれた手裏剣が少しずつ切れ目を入れ――そしていよいよ軽量素材でできたオブジェの鎖を切り落とされる。

(ユー達、見てたネ? ミー、ゲットしたヨ!)

 巨大なルビーのペンダントトップを模したオブジェをエラが見事キャッチすると、観客が立ち上がり、手を叩いた。
 エラは嬉しそうにそれを観客に見せ付けながら、周囲のダンサーたちの間をぴょんぴょん飛び回った。

(この鍛えた肉体の力を、いまこそ発揮するときネ! 情熱なら、負けないヨ!)

 エラはTVカメラを見つけると、ゲットしたルビーを高々と掲げてみせた。
 きっと、ライバルのエスコーラのダンサーや関係者たちも後でこの映像を見るだろう。
 リオには歴史あるエスコーラや新進気鋭のエスコーラ――大勢の優秀な演奏者・ダンサーを抱えた古豪・強豪がひしめきあっている。
 その中で、若いUNICOの者たちが勝ち上がるのは並大抵のことではないかもしれない。
 だが今宵――その「存在感」を人々の記憶に残すことができないはずがない。

(ミー達も、そう簡単に「呑まれない」ヨ! さぁ、もっともっと盛り上がるネ!)

 ルビーを高々と掲げたエラが、心底楽しげにダンスしながらアレゴリアの後ろへと向かう。
 それと交代して現れたのが、葵とユリアのペアだった。

(さぁ、楽しんでいくぞ、ユリア)

 葵がユリアの手を取る。

(明日の事は考えず、この時間を俺たち2人で、全力で燃やし尽くす!)
(そうだね! その衣装も、とっても似合ってるよ、葵! ほら、見て! 私の衣装、楽屋で見るよりずっといいでしょ!)

 ほら、行こう!
 ユリアが葵の手を引き、振り回すようにスポットライトの下に躍り出る。
 腰布に縫い付けられた青いスパンコールがキラキラと光り、ミサンガの代わりに足首にくくりつけられた綺麗な組紐の先で、小さな鈴がシャァンと音を立てた。

(いいぜ、魅せつけてくれるな……ユリア!)

 無邪気にダンスを楽しむユリアの手を離さないように、葵はその後を追いかける。
 腰に挿した青い羽がはためき、彼女の姿はまるで蝶のようにみえた。

(スタイルが結構わかっちゃうけど、なんて言ってたけど……むしろ似合いすぎて別の意味で心配になるくらいだ!)

 ユリアに追いつき、向かい合って踊る葵の青い腰布にも沢山の鈴が縫い付けてある。
 そして、流水紋のあるそれがはためく度に、鈴の音が華やかに響き渡り、銀で刺繍された波の花がスポットライトに光って見えた。

(葵、ちゃんと踊れてるよ! ううん! 練習のときよりずっといい!)

 明るい笑い声を立て、ユリアが踊る。
 揺れる髪飾り、弾ける笑顔――その姿に、葵は思わず「可愛い」と呟いていた。

(いや、可愛いっていうのはユリアが言ったんだ……! っていうか、あいつ、かなりセクシー目の衣装を「可愛い」と言い切れるなんて……大物すぎるだろ! いや、でもユリアはやっぱり……!)

 派手な衣装で、いつもと違うメイクをして。
 華やかなスポットライトの下で笑う、ユリア。
 ああ、錯乱しそうだ、と葵は思わず気が遠くなりそうな感覚から自分を引きずり戻した。

(視線を集めるんだ……俺たちに。やるぞ、ユリア!)

 自分と同じように、「蒼」で統一された衣装のユリアの手を引き、葵がは「行こう」と笑いかける。
 そして2人して大歓声の中へと飛び出していった。

(風を読めば大丈夫って――先生がそう言うんだから、きっと成功するよな)

 リアム・イチカワは俄に強くなる風の方向を確かめながら、そう思っていた。
 観客席はアレゴリアよりも高く道の両サイドにそびえるように設置されていて、その全てが全世界から来た人々で埋め尽くされている。
 この中でもし、このカーニバルの演出のために自分たちの怪盗道具」を使うとすれば、より効果的で、そして安全なやり方を選ばなければならないだろう。

(大丈夫か、イチカワ?)

 ゾフィがからかうように笑う。
 周囲にいる女性ダンサーの数は10人や20人ではない。
 セクシーな衣装の女性たちが集まる雰囲気は普段のリアムにとっては間違いなく苦手なものだった。
 だが、今夜だけは大丈夫だとリアムは思っていた。

(今日の俺は、怪盗「Muse」。大丈夫、魅せてみようじゃないか。せんせー、行こう!)

 アレゴリアの上にいたゾフィをエスコートし、リアムは観客の前に躍り出る。
 周囲には、リアムと同じ衣装を着たマラバリスタ達の姿があった。
 エスコーラの中で自分の役目を果たすためには、群舞の1人として最後まで務めればよいのかもしれない。
 だが、リアムはそれだけで終わる気はなかった。

(せんせー、エスコートはここまででいい?)
(ああ、存分に弾けてこい!)

 ゾフィの手を離し、リアムは被っていた帽子を観客に向かって放り投げた。
 そして、ゾフィや周囲のパシスタ達の飾り羽根に紛れるようにしながら、「Muse」の怪盗姿へと変身した。
 手品のように姿を変えて現れたリアムに、観客が一斉に沸き返った。

(Museが何を奪うかって? それはもちろん、観客の視線、だな)

 熱風がヤシの木や、カーニバルのために設置された装飾のフラッグをはためかせ、人々の熱気を巻き上げ、アレゴリアへと吹き付ける。
 汗ばむ肌に、少しの涼しさを感じ、「今だ」とリアムは思った。

(密室空間とは程遠いな……今の状態なら、「アレ」を使っても大丈夫だよね)

 風が強いわ、と笑う観客の1人の女性と視線を合わせると、リアムはファントムブーケを放った。
 女性は驚き、そして笑顔になってブーケを振ってみせる。
 リアムはそれに手を振って応えると、客席に背を向けた。

(これからもっとすごいのを魅せるよ。見逃さないで)

 観客の歓声を背に、リアムはアレゴリアへと駆け上る。
 そして、財宝の山のオブジェの上へとよじ登ると、風上の方向を確かめた。

(ここからなら大丈夫。風が、「いらない効果」は吹き飛ばしてくれるよね、せんせー?) 

 アレゴリアの上から見下ろすと、自分たちの進むメインルートはダンサーや演奏者で埋め尽くされ、その色とりどりの群れに向かい、両脇の観客席に座る人々が声を上げている光景が一望できた。
 ここに今、自分たちが敵対すべき相手などいない。
 怪盗に求められる「仕事」は――人々を楽しませることのみなのだ。

(今日ここに必要なのは……俺が盗みたいのは、観客の心だからね)

 黄金のユニコーン像の上に乗ったリアムは、人々の歓声に応えるようにシルクハットを振った。
 飛び出した数十羽のピンク色の蝶の姿に、沿道の観客が沸き返る。
 蝶はすぐに催眠効果のあるガスへと変わったが、南風はガスを巻き上げ、空の上へと拡散させていった。

(上手くいったな、イチカワ!)

 アレゴリアの下で見ていたゾフィが手を振り、笑ってみせた。
 そして、両手で大きな「丸」をつくる。
 成功だ、という事だろう。

(中にはちょっと「エロエロな気分」になった観客がいたかもしれないけど、カーニバルだから少しくらいは大丈夫だろうしな!)

 沿道には情熱的にキスを交わすカップルの姿などもあった。
 だが、今日はカーニバル、そしてここは情熱の国ブラジルの、しかもリオ・デ・ジャネイロなのだ。
 観客が甘いムードになり、周囲の視線が目に入らなくなったとしても、それが蝶の効果なのか、祭りの熱気に酔ったのかは分からない。
 そして、リアムの蝶が観客の心を掴んだのは間違いないのだ。

◆この夜を貫いて
(みんな、けっこうハジケてるな。やっぱり、ハメを外すとこは外してもいいんだよな)

 イーノク・オルティスはアレゴリアの上にいるリアムを見上げ、思わず声を立てて笑った。
 そして、衣装の羽や装飾品がなくなってしまっていないかを確認した。

(さっきから、ずっと踊ってるし他のダンサーともみくちゃになってるからうっかりするとネックレスとか腕輪とか失くしそうだよな。よし……冴香にしてもらったメイクもまだ無事だ!)

 アレゴリアに装飾された巨大な金貨にイーノクが自分の顔を映すと、くっきりとアイメイクに縁取られた目元や、南国の花々をモチーフに描かれたボディーペイントはまだきれいなままだった。
 ダンスのために用意されたジャラジャラと揺れる宝飾品も、熱を帯びたその体に一層馴染んできたように感じられた。

(傷も……ホントにコレだと分からないな。まぁ別に、隠してもらったわけじゃないけど)

 我ながら派手な格好だ、とイーノクは改めて思った。
 着ている衣装の上半身は露出が多いが、イーノクの顔と腹部に残る大きな傷は、ドーランとメイクに隠れて目立たなくなっている。
 周囲の仲間とメイクを合わせた結果、むしろ衣装に馴染むように施された鮮やかなペイントやラメの色が強調されているようである。

(かっこいいな……これ。誰が用意したんだろう)

 イーノクは風上に向かって立ち、大きな旗を持ち上げた。
 黒地に、2本の枝に囲まれた黄金のユニコーン――重要ポジション「メストリ・サラ」のイーノクの持つ旗には、UNICOの校章が描かれていた。

(さぁ、いよいよ「ポルタ・バンデイラ」の登場だ! みんな、よく見てろよ!)

 旗を観客に向かって振り、自分たちの存在をアピールすると、イーノクは旗を冴香に手渡した。
 冴香は大きく広がったスカートの腰で旗の柄を支えると、観客に向かって笑顔で手を振り、ゆらゆらとステップを踏み始めた。

(見つけた……う……なんというかすごい衣装だな)

 アレゴリアの上のオリバーは、華やかな衣装の冴香を見て、カッと耳の裏が熱くなる感覚を覚えた。
 結い上げた髪に豪華な髪飾りを付けた冴香は、大きく露出した上半身に華やかなボディーペイントを施している。
 そして冴香が旗を手に腰を左右に振ってステップを降る度、首から腰にかけて装着されたアクセサリーが魅惑的な輝きを放った。

(だけど……パシスタに比べれば、あのスカートの分だけ露出は少ないのか……だけどそれでも、露出が多くて目のやり場にこま……いやいや! 歌に集中しないと!)

 オリバーが情熱的な歌詞を歌い、シャウトすると、バテリアの太鼓の演奏がより一層激しくなった。
 観客は立ち上がり、スタンディングオベーション状態になっている。
 ここからが、エスコーラの一番の「見せ所」であった。

(冴香! 行くぞ! 目を回すなよ!)

 イーノクが冴香の持つ旗の端を持ち、冴香の周囲をぐるぐると回り始める。
 すると、冴香のスカートに重なっていた羽根がふわりと舞い上がり、ダリアの花のように大きく、丸く膨らんだ。
 右に、そして、左に。
 イーノクは冴香の衣装を観客に見せつけるようにしながら、いたずらっぽい表情でコマのように冴香を回転させる。
 冴香もそれに応え、旗を翻しながら、楽しげにアレゴリアの周囲を回り始めた。

(審査員の皆様、ちゃんと見てくださいね?)

 優雅に、怪盗らしく不敵な笑みを浮かべながら、冴香は近づいてきた審査員席に向かってアピールする。

(ここから、次のダンスに繋ぎます……瞬きは、禁止ですよ!)

 冴香が旗を翻すと、その向こうから現れたのは「ハイーニャ・ダ・バテリア」のルイであった。
 その頭上には宝石を飾り付けた豪奢な王冠を被り、コステイロには大きな孔雀の羽が広がっている。
 ルイはバテリアの奏でる激しいパーカスの轟の中から現れると、観客に向かって艶やかに微笑みかけた。

(こんばんは、皆さん。今夜は、どちらからいらしたんです?)

 バテリアを率いるこのポジションは通常、女性ダンサーが務める。
 だが、仮面で隠したその素顔――そしてルイの性別は観客には容易に見破れぬよう、その鮮やかな色彩と輝きによって眩まされていた。

(今のご時世……男女に囚われる必要はないですよね? でも、孔雀の雄の美しさは皆さんにも知って欲しいんです。僕の、ダンスでね!)

 ここからが本番。
 ここから魅せるのは本気の姿――ルイは虹色に塗られた長い爪で観客を誘うような仕草をする。
 そしてそのままアレゴリアの財宝の山へと駆け上がり、遠くの観客に向かってその孔雀の衣装が見えるよう、大きく突き出た宝剣の柄を支えに、大きく身を乗り出してみせた。
 自分の魅力を見せつけるための危ういパフォーマンス――観客からは悲鳴が聞こえたようだった。

(ふふっ。大丈夫です♪ ちゃんとパルクールとポールダンスで鍛えてますから、落ちたりしませんよ?)

 表現の限界は、どこにあるのか。
 ルイはダンスを通じ、それを探っているようにも見えた。
 美を、そして自分自身を。
 このざわめくカーニバルの夜の熱気の中で何ができるのか――と。

(僕はパレードの夜に君臨する王……踊りの魂は、この指先に)

 体を大きく反り、ルイは歓声の中で腕を伸ばす。
 その手に、誰かがそっと触れた。
 ルイと視線を合わせ、微笑む冴香の胸元で、テレイドスコープペンダントがキラリと光った。

(待ってましたよ、サエさん。フェスでの秘密は墓場まで……準備は良いですか?)

 ルイがアレゴリアを飛び降り、冴香の傍らへと降り立つ。
 すると冴香が重く重なっていたスカートを外し、ペイントと装飾を施した脚が露わになった。

(いかがでしょう? 軽くなっちゃいました)

 旗はイーノクの手に戻り、そしてスカートは無数の羽になって風に舞う。
 新たな衣装に変身した冴香は、ルイと背中合わせになり、激しくダンスを踊り始めた。

(うふふ、大成功です。皆さん驚いてますね)
(さぁ、サエさん。一度僕らを目にしたら、二度と目が離せないくらいに、魅せつけてやりましょう!)

 もっと盛り上がれ、怪盗たち。
 誰かがそう叫ぶと同時に、アレゴリアの財宝の山の向こうから、色鮮やかな花吹雪が舞い始めた。

(よし……来たな! ほら、パシスタ達! もっと弾けて!)
 
 嵐斗がジャグリングしながら仲間を鼓舞し、そのダンスへと観客の視線を誘導する。
 その頭上では、オリバーがあらん限りの声を張り上げ、歌っている。
 激しく踊るダンサーたちをかき分けるように、嵐斗は踊りながらアレゴリアへと走った。

(アーラ、もっと前に出ていいよ! バイアーナ、おれと踊ろう!) 

 1人のバイアーナの手を取り、くるりと回る。
 そしてその勢いのまま、嵐斗はアレゴリアに飛び上がった。

(ああ、壮観だな! 観客もみんな、おれ達と一緒に踊ってる!)
(ミー達は、ミー達らしくいきまショウ! きっと、ミー達が他のエスコーラとは一味違うって、分かって貰えたはずデス!)

 嵐斗を追ってやってきたエラは、降り積もった花や羽根を振りまきながら、アレゴリアの上でくるくると踊る。
 その下でヤスミナが飾り羽根を翻し、観客に手を振る。

(アレク、ちゃんと楽しんでる?)
(もちろんですよ、ヤスミナ先輩! 最後まで、ちゃんとコミサンの役目は果たせそうです!)

 アレクは観客席のどこからか「ファンタズマ! ファンタズマ!」と叫ぶ声が響くのを聞いていた。
 ファンタズマはポルトガル語で「怪盗(ファントム)」の意味である。

 ブラボー、ファントム。
 もっとお前たちのダンスを見せてくれ、ファントム。

 沿道の人々がそう、自分たちを応援しているのだ。

 熱狂のまま、踊って、踊って、踊り尽くして。
 そしてパレードがゴールした頃、周囲は朝になり、熱い太陽が照りつけていた。

◆夜を明かして
「あー……一生分踊った気分デス……流石にちょっと疲れましたネ」

 メイクを落とし、衣装を脱いだエラは楽屋の椅子にどさりと崩れ落ちた。
 それを聞き、嵐斗が「おれも」と笑った。

「すごい熱気だったね……途中から、訳わかんなくなるくらい盛り上がってた。すごかったなぁ」

 中には、衣装を脱ぐのが大変なくらい全身筋肉痛になったダンサーもいたようである。
 だが、めいっぱい踊った怪盗達は心から充実した表情だった。

「オリバーさん、お疲れ様でした。喉は大丈夫ですか?」

 冴香にそう声をかけられ、オリバーは「どうにかな」と頷いた。
 一晩中歌い通し、流石にオリバーは少し声が枯れている。
 ペットボトルの水を一息に飲み干し、周囲を見回すと、一緒にパレードを演じた仲間たちもみんなやりきった表情をしていた。

「それより……びっくりした。冴香が踊ってる姿、上からずっと見てたから」

 オリバーにそう言われ、冴香はちょっと恥ずかしそうな顔をした。
 ダンスを踊っていれば気にならないが、普段に着るには少し、大胆すぎる格好だったかもしれない――と。

「……だけど、俺も一緒に踊ればよかったな」

 少し照れくさそうな顔を浮かべながら、オリバーは言った。

「衣装の布面積が少ないのは困るな……って思ってダンサーは断ったけど、もし俺もそっちだったら、俺がルイやイーノクみたいに、冴香と一緒に踊れたんだよな」
「そうですね。でも私……オリバーさんの歌を聴けるの、楽しみにして参加したんですよ?」

 冴香はそう言って微笑む。

「感動しました。バテリアの演奏とオリバーさんの歌で、エスコーラが……いえ、観客を含めたその場全体の空気が動くのが分かって。オリバーさんの歌で踊ることができて、本当に楽しかったです」

 アレゴリアが進みバテリアの太鼓とプシャドールの歌でダンサーが踊り、観客が沸き返る。
 それぞれの情熱が連鎖するように、次から次へと伝わっていく。
 昨夜は、そんな夜だったのだ。

「これが……リオのカーニバルなんですね」
 
 夜の熱気がまだ、その胸に渦巻いているような――冴香はそんな表情を浮かべていた。
 その顔を見ながら、オリバーは「だけど」と呟いた。

「冴香にそう言ってもらえるのは嬉しいけど……だけど俺、冴香を独り占めしたかった」
「えっ」
「冴香が、あまりにキラキラしてたから……だから」

 歓声を浴びて輝いていた冴香を、自分だけのものにしていたかった――。
 ゴニョゴニョと口ごもるオリバーの前で、冴香の頬が一気に赤く染まっていった。

 こうして、リオのカーニバルは熱狂の中で全日程を終えた。
 他のエスコーラとは一味違う魅せ方をしたUNICOの学生たちの姿は、リオの人々や世界中から集まった観客の記憶に深く刻まれた事だろう。



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参加者

a.じゃあおれはマラバリスタにしようかな。怪盗っぽいムーヴできそうだし。
紅嵐斗(pa0102)
♂ 20歳 英忍
a.ポルタ・バンデイラかハイーニャ・ダ・バテリアに挑戦してみようかと
中藤冴香(pa0319)
♀ 25歳 探魅
a.ポジションはコミサンでいくわね
ヤスミナ・リベラ(pa0422)
♀ 23歳 忍魅
a.ハイーニャ・ダ・バテリアは、女子じゃなきゃダメなんです??
ルイ・ラルカンジュ(pa0432)
♂ 24歳 英魅
a.面白そうなのネ!
エラ・ウォーカー(pa1057)
♀ 24歳 刃忍
b.【錦】冴香、衣装の着付け頼んでもいいか?俺はメインの歌を歌いたいな
オリバー・カートライト(pa1468)
♂ 22歳 忍魅
a.悩むけどマラバリスタかなー。せんせー、エスコートしますよー
リアム・イチカワ(pa1534)
♂ 20歳 英魅
a.やっぱやるならメストリ・サラやってみたいよな!
イーノク・オルティス(pa1600)
♂ 23歳 英機
a.ダイジョーブダイジョーブ!私も変わらないよ!楽しければいいの
ユリア・ジェラード(pa1688)
♀ 20歳 英刃
a.最初に言っとく。盆踊りぐらいしか踊りの経験はないからな?
一条葵(pa1712)
♂ 19歳 刃乗
a.あああああ…先輩、先輩!眩しすぎてみれません!
アレク・レイヴァ(pa2283)
♂ 21歳 刃弾
 私をエスコートしてくれるマラバリスタは誰かな?
ゾフィ・ヴァルブルク(pz0025)
♀ 38歳