【PF08】雪月城迎撃戦

担当野間崎 天
タイプグランド 授業(島外)
舞台イギリス(Europa)
難度やや難しい
SLvB(アメリカ程度)
オプ
出発2019/03/04
結果成功
MDPルイ・ラルカンジュ(pa0432)
準MDP中藤冴香(pa0319)
ブライアン・ビリンガム(pa1505)
大神隼人(pa0137)
アガーフィヤ・コスィフ(pa0970)
エラ・ウォーカー(pa1057)
斑鳩恭耶(pa1232)
栄相セイス(pa0459)
推裾スエソ(pa1498)

オープニング

◆潜伏のムーンアイズ
 薄暗い会議室には、既に何人もの男女が集まり、多くの資料をテーブルの上に並べていた。
 広いテーブルに乱雑に並べられたその中には、敵味方の武装であったり、各人物の性格であったり、拠点についての外観であったり……これから話し合われる作戦会議に必要な様々な要素が記載されていた。
 彼らは、多くの資料を回し読み、言いたいことを好き勝手言う。
「よくあんな絵で場所を特定できたな、ネッビオーロ」
「…………」

登場キャラ

リプレイ

◆ないよ、罠ないよぉ!!
「警備システムが何もないって入ってくださいって言ってるようなものだろ!? 俺が言うのもなんだけど普段からつけとけよ!」
 黒鳥由理の叫びに、推橋ソロラがまぁまぁととりなす。
 思わずツッコミの声をあげてしまうのも仕方がないだろう。この規模の屋敷で警備システムが「何も」ないのだ。不用心にもほどがある。
「……城だよね……城……」
 一通り屋敷の中を見て回ってきて、その報告をしたディルク・ベルヴァルドの息は、あがっていた。
 だが、いつも以上に声に張りがないのは、単純な肉体疲労のせいだけではないだろう。
「……城を攻められた時の……建築的仕掛けがあるはずなんだ……」
「だよな!」
「うん……例えば……崩落ポイントとか……逆に逃れられるポイントとか……閉じ込めたりとか……」
「あるよね!」
「そういう仕掛けを……建築知識を活かして見つけようと思ったんだけど……本当になかったよ……」
 がっくりと肩を落とし、ディルクはとぼとぼと食堂へ向かっていった。
 後でさらに調べて分かることだが、屋敷に改装したときに、そういう危ない仕掛けは全部つぶしたらしかった。
 一般的な生活をするのには、むしろ不便だったり、危険だったりすることもあるので。
 しかし、怪盗達が言うのもあれだが、このままでは、だれでも盗みに入ることができてしまうだろう。むしろ、今までいなかったとすれば、不思議な話である。
「監視カメラもないなんて、逆に怪しまれるかもしれないけどな」
 疑り深い泥棒なら、深読みしすぎて、狙いを他に変えるかもしれない。
 しかしながら、この度の襲撃者がそうすることはないだろう。
 ソロラは何かをあきらめたように言う。
「一番最初は情報戦と事前準備……まあ、少しでもこちらが有利になるようにやるだけだ」
 侘しさを覚えるディルクの背中を見送った二人は、仕事に取りかかった。
(これでも、元本職だからな)
 元々泥棒として生きてきて、怪盗となった由理。己の経験から仕掛けられたら厄介な場所へと監視カメラを仕掛けていく。
 そして、仕掛ける度に、チェックする。
「あ、ああ――聞こえてるか? 大丈夫だな。カメラの見え方はどうだ?」
 連絡する先は、電脳班の本丸。本館2階の一室に設けられたモニタールームだ。
(本当は、本丸は地下に置きたかったんですけどね)
 マクシム・ヴェッカーは、由理に「バッチリです」と返しながら、心の中だけで残念がる。
 この屋敷に地下室はない。
 元々なかったとしても、怪盗が本気になれば作れないことはない。
 されど、他の隠し部屋や罠、モニタにセンサなどなどなどなど、あれもこれもは時間も手も足りない。
 早ければ……そして、おそらくは今夜にも襲撃されるとすると、地下室を作ってからモニタールームを整備するなんて時間はない。
(彼らに作ってもらう隠し部屋は、小雪さんのガードに使いたいですしね)
 今頃、別の部屋を隠し部屋に改装しているミニオンズ達の事を思いつつ、マクシムは罠の調整へと移った。

 監視カメラをあらかた仕掛け終えた由理は、前庭にいたソロラの元を訪れた。
「ソロちゃん。手伝うよ」
「ありがとうユリ。それじゃ――」
 ソロラが由理に教えたのは、草を結んでおくだけの簡単なスネアトラップ。
 古典的だが、労力に対する効果は十分に高い。
 気付くことができれば、よけるのは簡単だが……
「簡単な罠で相手の気を引き、難しい罠にかかるようにする。まあ、陽動だな。ひっかからなくても、相手の通り道や対処法が分かるし」
 ソロラは、敵がスネアトラップに気付いて避けるとすると、どこを通るかを予想して、罠を得意とする配下と、よりバレにくい罠を設置していった。
 彼らの他にも、前庭で罠を作っているミニオンズ達が何人かいた。これだけの罠が張りめぐらせられていれば、奇襲を仕掛けるつもりでいる新月部隊は確実に面食らうであろう。
 前庭や建物の陰でのトラップを作り終えたなら、今度は森の方にも仕掛けなければならない。
「森の方は鳴子罠が中心だな。さあ、急ごう。戦場は待っててくれないからな」

◆小雪のひだまり
 トラップ作成で忙しく動き回る学生達の様子を、2階の部屋の窓から眺めていた菱沢 小雪は、ふと気配を感じて振り返った。
「窓の近くにいると、敵にみつけられやすいよ」
 声をかけてきたのは、廻環ゆめだった。
「囮、か。小雪がいいなら、いいけど。無理はしてない?」
 不安そうな顔をしている小雪を気遣うゆめの言葉に、小雪はぱっと表情を変えて、首を振る。
「いいえ。皆さんが私の為に精一杯良くしてくれていることは知っていますし……私に出来る事はしたいです」
「そう? ならいいけど」
 そこに、他の怪盗達も続々と駆け付けてきた。
「どうやら大きな戦いになりそうデスネ……出来るだけ誰も傷付いて欲しくないデスガ」
 推裾スエラも窓の外の様子を眺めて、声をこわばらせる。
「そうだな。工作、情報、戦闘……軍時代に戻ったようだな」
 崇培スロエも元軍人の血が騒ぐのか、声に緊迫感があった。
「しかも、軍時代にはなかった謎の能力付きか」
 敵の不可思議な能力に、スロエだけでなく、多くの怪盗達が警戒していた。
 されど、推裾スエソは元気よく答えた。
「不思議な能力だったらこっちだって負けてないよ!」
「言葉では言えない『仲間』と言う感情や証があるからね!」
「BOW WOW!」
 スエソとボルゾイのカエダも、少しでも小雪が安心してくれるようにと応えた。
 そして、スエラは小雪の手をとって微笑んだ。
「大丈夫デス、私達が傍にいマス! 安心してくだサイ、きっと皆戻ってきて、皆で笑えるようになりマスヨ!」
 その気遣いに、小雪の気持ちはすっと軽くなって、「ありがとうございます」とほほ笑んだ。
 なんとなく女性ばかりが集まったせいもあり、場の雰囲気が和んでいた。

 事前にトラップを仕掛けるのは、何も施設だけではない。
 ゲストルームの一室を中藤冴香氷見彩玻が借りて、ある作戦の事前準備を進めていた。
 怪盗達の十八番。変装だ。
 今でこそMNで一瞬で出来てしまうけれでも、達人が直接ひと手間かけると、完成度が段違いに変わる。
 忙しく立ち回り、手を高速で動かす冴香と、大きな鏡の前に座ってなすがままにされている彩玻。
「――はい。出来ましたよ」
「……ありがとうございます。いつもながら、さすがの腕ですね」
 鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめる彩玻の顔に満足した冴香は、一番の仕事道具である化粧品達を片付ける。
「彩玻さんも、演技上手にできていますよ」
「まだまだです。冴香さんのメイク術にも演技にも足下にもおよびません」
 普段と違い、変装した相手の口調で流ちょうに話す彩玻。謙遜する姿に思わずくすりとした冴香は、彩玻と瓜二つな姿で手を差し出す。
「それでは、彼女にもっと話を聞かせてもらいに行きましょう。変装は心もともなわないと」
「そうですね。相手を一瞬でも迷わせるめくらましになれるように頑張りませんとね」
 二人は仲良く部屋を後にした。

◆麓にて
 陽が町並の向こう側へと沈み、月と星が空にはっきりと見えるようになった。
 館の周囲は風や葉ずれのさざめきや、時々鳥の声が聞こえるくらい。闇にふさわしい静寂が広がっていた。
 だが、それは嵐の前の静けさ。
 麓(ふもと)には、夜闇に乗じて、新月部隊が展開していたのだ。
 状況開始の合図を待つ彼らは、既にチーム分けがされており、全員を確認することはできない。
 だが、ここ、館の正面へと向かう山道のところには、最大の人数が配置されていた。
 新月部隊のアルファ隊だ。
(現場指揮官の顔くらいは拝めると思ったんですけどね)
 一般の兵士は、現場指揮官の名前が「サトウ」と言うことは知らされたが、それ以上の事は知らされなかった。
 だが、今、部隊の前に立って作戦内容を説明しているムーンアイズ達の一人、リモーネがサトウと通信機を介さずに会話している様子から、能力の予想はついた。
(つまり、思念で指示できるのかもですね)
 兵士……に紛れ込んだルイ・ラルカンジュは、マクシムにこっそりとAiフォンからメールする。
(テレパシーってやつですよね。超能力って映画でよく見ますけど、あんな感じの連中みたいですよ。このアルファ隊には、4人いるみたいです)
 ちなみに、この思念会話については、フィクションの中だけでなく、実はローゼンナハトでも一部実用化されていたりする。
 それはさておき、ルイのことである。
 彼は、世界一の軍需企業ロッキー・マーフィー社のCEO、ブルー・スタークの計らいもあり、事前に新月部隊の一般兵として潜入していたのだ。
 いつの世も、情報は最大の武器となり得る。先にどれだけの情報を得られるかが戦況を大きく左右する。
 潜入に成功した彼は、持ち前の社交術で、他の兵士達との距離をすぐに縮める事ができた。新月部隊についての話は多く聞くことができたが、肝心のムーンアイズ達の超能力についてはほとんどわからなかった。
 単純に、一般の兵士には機密事項として秘されていた為だ。
 例外として知らされたのは、支給された武器のスペックが超能力で強化されていることと、作戦直前に超能力者の血を摂取して自身の能力を強化することになるということ。そして、今作戦の現場指揮官のコードネームが「サトウ」だということ。
 ムーンアイズ達の指示で、黒い軍服を着た者達が、一般兵達一人一人に何かを渡していく。ルイの元にもコネクターが回ってきて、小さなカプセルを渡した。
「その中に、例の『おくすり』が入ってるから、飲んでよ。飲みやすくしてあるけど、躊躇しちゃう人もいるなら、勇気づける歌を歌おうか?」
「うるさいわよ。相手に気付かれちゃうわ」
 リモーネの良く通る声での気遣いを、隣に立つ女性がたしなめる。
 その血がどれほどの効果があるのかは、不明であるが、これが渡されたということは、作戦開始時間も近いだろう。
(情報は欲しいですけど、どんな副作用があるかわからないですね)
 他の兵士達がカプセルを飲み込むのに合わせて、彼はカプセルを口に放り込むふりをしてポケットへと移した。
「では、アルファ隊はこのまま頂上の屋敷を目指して進むわよ。私に続きなさい」
 プラムが回れ右して道を上がっていくのに、他の者達も続いた。
(いよいよ始まりますね。みなさん、巧く誘い込んで捕獲してやってください♪)

◆嵐の前の
「このたびは、私の提案を受けていただき、ありがとうございますわ」
「私が、皆さんの役に立てるなら喜んで。それに……兄を逮捕するのに、これが役立つのなら、頭を下げてでもお願いしたいくらいです」
「ありがとうございます。大丈夫、私たちが必ず、守ってみせますから」
 屋敷の一室で、小雪とエリザベト・バリンデンが握手を交わした。
 直後に部屋の扉が不規則にノックされ、エリザベトが「お入りください」と入室を促した。
 扉を開けて入ってきたのはゆめ、スエラ、スロエ、イリヤ・ヴォエヴォーダ
 敵の部隊が麓まで迫ってきていることが告げられると、小雪の顔に緊張が走った。
 皆が守ってくれるとわかっていても、完全に恐怖を取り除くことはできないのだろう。
 だが、怪盗達は、少しでも小雪が安全になるように、さまざまな事態に備えている。
「いざという時は、逃走用の車も用意している」
「私も用意していマス!」
 イリヤとスエラは豪華な本棚の方を見て答えた。
 この本棚は、決まった順番で本を抜き出せば、隠し部屋が現れるようになっていた。この部屋は逃走ルートにも繋がる秘密の脱出路にもなっている。
「この通り、ルートは複数あるから、どれかは目くらましにも使えるな」
 イリヤの作戦に抜かりはない。が、それでも。
「俺が最後の『壁』となる。小雪とエリザベトを守るためにな」
 力強く誓うイリヤを、小雪が期待の眼で見上げる。エリザベトは、イリヤに小さくうなずきかけると。
「守っていただけるのはありがたいですが、今回の作戦の対象は小雪さんです。彼女の事優先でおねがいしますわ」
 エリザベトの言に、イリヤは当然だとばかりに頷く。
 そして、聞いておきたいことがあると、話題を小雪に戻す。
「お前は、結局、なぜこうまで狙われると思う。不都合なことの口封じか? それとも、兄妹の情愛か?」
 イリヤの質問に、小雪はしばし沈黙してから、返答した。
「……わかりません。今は兄の考えていることなんて」
 弱々しく首を振る小雪に、心当たりはないのだろう。
 イリヤは、エリザベトに向き直ると、彼女にも見解を聞いた。
「そうですね。単純に、世界中のムーンアイズを全員集めようとしているだけかもしれませんけど……けれど、それだけにしては、力の入れようが違いますわ……優位性を保ちたい、というのもあるかもしれませんね」
「優位性?」
「つまり、ムーンアイズの特殊な能力、それを活用した部隊など、ローゼンナハト側にはありませんもの。しかし小雪さんがいる限り、ダブルオーが超能力に対し完全に突出していることにはなりません。我々の研究発展を恐れている可能性も考えられます」
 エリザベトの考えに、イリヤはなるほどとうなずいた。が、エリザベトは全てを語ったわけではなかった。
(もちろん一番考えやすいのは、血の濃さ……やはり、肉親ですから。でもそれをここで語り、彼女を動揺させる必要はありませんね)
「お兄さん、『はるた』だっけ……? 彼もダブルオーに洗脳されているのかもしれないんだよね……捕まえて、助けられるといいね」
 ゆめの言葉に小雪が頷いた。彼を捕まえられるかは別の作戦が実行中であり、その作戦の援護も兼ねている本作戦だ。
「敵だったムーンアイズや他の連中は後で正当な裁きを受けさせるだけだ」
 スロエはきついことも言うが、裁きを受けた後については、何も言わない。
 小雪の憂いを帯びた表情は変わらないが、それを晴らそうと、スロエは笑う。
「大丈夫だ。なんであれ、敵は襲って来たいから襲ってくる。こちら側はそれを防ぎたいから戦う。それはお前の為でもあるが、お前の所為じゃない。皆やりたくてやっているんだ」
 小雪が責任を感じる必要はない。と言い切るスロエに、小雪も微笑み返した。

◆囮達の決意
 前庭の手前に仕掛けていた鳴子の音が天高く響き渡り、それを皮切りにダブルオー陣営のときの声が上がる。
 攻めてくるのは迷彩柄の軍服を着てアサルトライフルを抱えた一般の兵士が多数に、黒一色の軍服を着た推定・コネクター。それに混じり、戦場に似つかわしくないような、街中で普通に見かけるような格好で混じっている者達がいた。
 おそらく、彼らがムーンアイズだろう。
「思ったよりも見分けがつけやすいな」
「ひとりは、リモーネさんみたいですね。聞いていた通りの格好ですね。催眠には気をつけませんと」
 モニタールームで監視カメラの映像を確認した、エヴァ・マルタン集推スイホは、情報を手元の端末に打ち込み、各所へ通達する。
 服装の違いは、敵の作戦上のことなのか。あるいは、能力に溺れて、怪盗達をなめているのか。
「それほどの能力、まずは見せてもらおうか。作戦開始。総員配置へ、予定通りいくぞ! 連携し我らが力を合わせれば勝てぬ敵ではない!」
「それでは皆さん、お気をつけて」
 二人の指示が各所へとぶ頃、新月部隊、アルファ隊達が前庭に到達した。
 そのときを待ち構えていたのは、囮を志願した怪盗達。
 入り口の大扉を背に、それぞれの獲物を手に新月部隊をにらみつけた。
「ムーンアイズを素早く判別してってことだったけどよ、眼を見るまでもないってか」
「私のフェイスギアでなくとも、的確に見分けられそうだ」
 B・Bことブライアン・ビリンガムがブランド物の香水の瓶――実は特殊な手榴弾でもある――を手に、ブラック・ロータスこと煌宵蓮がノダチを構えて、敵の品定めをする。
 ほとんどが兵士で、時折コネクターが混じっているようだが、兵士の後方にわずかにゴスロリ服だのワンピースだの、ジャケットだの、パーカーだの、戦場に似つかわしくない服装の者がいるはずだ。
「行くぞ、B・B」
「おう!」
 気合十分の二人に対し、余裕を見せるのは一刀繚乱こと月羽紡
「いくらウェイカーの妹だからって、ここまでの精鋭で小雪さんを奪いに来るなんて……ふふ、私にも妹がいるのでわからなくはないですが、こんな強引なやり方は兄として失格ですよ」
 刀を振るうのが日常動作の延長という、常在戦場の女も、幼い妹の事は溺愛している。ウェイカーも、そうなのだろうか?
「難しいな。戦うより他に方法が合ったのかもしれないが、私も戦う事しか知らないし出来ない」
 推嵩サスウも、他の元軍仲間たちと同様、開戦前の空気に軍時代に戻ったように感じていた。
「ただ、守るべきものは守る。倒すべきものは倒す。それだけは間違えない」
 忍者刀を抜き放ち、空いた手で首のペンダントを握りしめた。
「じゃあ行ってくる。囮なんて慣れているし、ギアを換えれば腕も足も何とかなるだろう」
 通信機ごしにスイホへ、さらには昔からの仲間たちへ告げる。ギアのおかげでケガの危険が少なくなるのは、彼女をはじめ、ピグマリオ達の特権だ。
 だが、義足や義腕の破損だけで済めばいいが、乱戦の中や強敵の前で四肢の機能を失ってしまえば、四肢だけで済むとは限らない。それは、ピグマリオも他の怪盗も変わらない。
 スイホの心配の声に、サスウは静かに笑った。
「勿論、ただやられるだけじゃない。情報だって持ち帰るし、しっかりと戦ってくる」
 さて、そんな戦場の空気の中で、異彩をを放つのがスパローホークことアルフォンス・サインツ
 クロウのマントと仮面を装着した彼は、いかにもな怪盗姿。本来の怪盗としては正しいはずなのだが、彼の「見せかけている」態度と相まって、変な形で注目を集めていた。
 なお、変身後に仲間達へ「なんとなくボスっぽく見えるだろ?」と尋ねたら、「そんな迫力はありませんねぇ」「ボスが囮の一番槍に出たりはしませんしね」など散々だったのは余談だ。
 少しでも偉そうに見えるようにふんぞり返ってみるも、特に威圧感を与えられている様子はないことに、少しだけ落胆した。
 だが、いつまでもめげているような女々しい男ではない。
「……がんばるよ」
 小さな声の宣言に、彼の決意が凝縮していた。

◆激闘開始!
 一般の兵士とコネクターが駆け上ってきたそのままの勢いをかって前庭へ踏み込んで来るが、次々とスネアトラップにかかってつんのめり、転んだ。
 転んだ者をよけたり、踏んでバランスを崩したり、踏まれた者が悲鳴や文句の声を上げたり。怪盗達と接触する前から兵士達の気勢はそがれてしまった。
 また、草の結び目を運良く、あるいはめざとく気付いて避けた者が、次々と爆発で吹っ飛ばされた。
 仕掛けた者が思わずガッツポーズをしてしまうようなきれいな引っかかり方だった。
 こうして、広い前庭でも、敵の足並みを揃えさせず、敵をバラバラに前進させることで、怪盗達は少人数でも迎え撃てるようにできた。
 そして、怪盗達も前進し、ついに新月部隊との戦闘が始まった。
 囮達の狙いは、ムーンアイズ達の能力を調べることだったが、まずは邪魔な兵士達を払いのける必要もあった。
「我らを、ムーンアイズでなければ渡り合えない敵と認識させ、ムーンアイズが出張ってくるように仕向けなくてはな」
 ブラック・ロータスが速度重視のレッグギアによる軽快な動きで敵を動揺させ、間合いに入った者から順次切り込んでいく。
 一刀繚乱も、日本刀で兵士と対峙する。
「能力を使わないと私達を相手にできない『弱者』なのですから、これくらいが良いハンデになるのではないでしょうか?」
 くすくすと笑う一刀繚乱の挑発に乗って、一般兵士がアサルトライフルを一気に撃ち尽くす。
 高速で行われるリロードのわずかな隙に、一息で接近した一刀繚乱の刃が、兵士が銃口を向けるよりも早く閃いた。
 痛みをものともせずに反撃してくる兵士へ、更に切りつけるが、たしかに他のところの傭兵よりも耐えていた。
 それでも、まだまだこの程度。
「シラヌイ、でしたっけ? 動きを封じる者は捕まっていますし、楽勝ですね」
 彼女の余裕の挑発は続いた。
 サスウも一般兵士相手に大立ち回りを演じていた。
 敵が向ける銃口から弾道を予測して回避する。敵の数が多く、すべてを見極めることはできなかったが、致命傷を避けながら接近し、切り伏せるには十分であった。
(ただやられるだけじゃ敵は喜んで気が緩むかもしれないが、私は楽しくない)
 まだ、前哨戦。敵ムーンアイズの能力は一つも引き出していない。
 こんなところで足止めを食らい続けるわけにはいかないのだ。
 一方、敵が集まってくるスパローホークは、守備的に動いていた。
 クロウのマントで敵の装備品の情報を得て、モニタールームへ伝える。一般の兵士の持つ装備は事前にルイが潜入してみてきた物と変わらないし、コネクターの物も、以前から見かける電ノコやアサルトライフルで変わりない。
 敵の銃弾の一発がスパローホークを捉えると、クロウのマスカレードマスクが瞬間的に超科学電磁バリアを張って、守る。
 だが、そのバリアを貫通して、マントに弾かれた。
 銃に変わりないが、威力や命中が一般の品より上がっているのも情報通り、確実なようだ。
 押されているように見せて逃げるスパローホークを、敵は追いかける。
 数では勝っている兵士達は、簡単に挟み撃ちにもできると油断して追いかけるが、突然、足元が崩れて何にもがまとめて落下した。
「追ってくれば、そこを通るのは簡単に読める」

 さて、このように、正面から切りかかるのだけが、怪盗の能ではない。
「まだ罠に気をつけろ」
「早く屋敷に入って目標を見つけないとな」
 怪盗達と罠に当たらずにすり抜けてきた兵士達が、屋敷へと近づいてきたその時、突如地面の中から飛び出た者がいた。
「囮、捨て石、それもまた僕らしくて良いじゃない。やるだけやってみるさ、羅刹の名にかけてね」
 羅刹こと王玲瓏だ。
 トラップのない場所を通ろうとして固まった敵の密集地帯へと、手榴弾を投げ込んだ。
 兵士達の軍服に火の手が上がるが、その炎は勢いを増す前に水をかけられて消火された。
 その上、消火した水はヴェールのような軌跡で∞の字を描きながら、兵士達の頭上、空中にとどまっていた。
「炎なんか怖くありませんことよ」
 兵士達の後方で、ムーンアイズの一人が威張っていた。
「ああ。まったくだ」
 その意見に同意したのは、なぜか怪盗側のB・Bだった。
 B・Bは本館の脇に停めていたポンプ車のホースを握って叫んだ。
「炎を消すだけじゃねぇ。暴徒鎮圧にもお約束だろ?」
 ホースから勢いよく水が放出され、多くの兵士達を押し返し、転がす。
「影でひっそり、能力隠して生きてたんだろ。可哀そうになぁ! こういう場で、パーっと能力使いてぇよなぁ。いい機会だ、派手に見せてくれよ! お前らの『力』ってやつをよ! 俺様は、逃げも隠れもしねぇぜ!」
 ホースを脇に抱えたまま、右手をくるりと返して、B・Bは挑発する。
 そして、その挑発に、ムーンアイズは乗った。
 ホースから勢いよくほぼまっすぐに放出されていた水流が不自然に曲がったかと思えば、180度回ってB・Bのどてっ腹に直撃した。
「こんなに水があるのでしたら、わざわざこんなに背負ってくる事ありませんでしたわね」
 放水の勢いに吹き飛ばされ、何メートルも地面を転がったB・Bをハイドロハントのメロンは笑って大きなリュックサックを下した。
 水使いが操れるのは自分で用意した水だけなのか、どれほどの量を操れるのか、調査の意味もあって大放出したのだが、敵に塩を……水を贈ってしまったかもしれない。
 謎の力で手放されたホースは激しくうねり、操られずにあふれ出る水流は不規則に振りまかれ、結果的にはまだ敵へのかく乱として役にたっていた。
 ただ、それは味方をも巻き込んでおり、奇襲が微妙な結果に終わった羅刹も、水浸しになっていたが。
 羅刹は気を取り直して己の任務を果たそうとし、粘る。
「君達の全てを見せてよ……僕はしつこいぞ?」
 雨あられと浴びせられる兵士達からの銃弾は、銃弾受け流し特化のアームギアを活かして、ひたすら受け流す。一秒でも長く、一手でも多く相手の力を引き出す為に。
 だが、受け流し、回避するので精一杯で、反撃にまで手は回らない。
「これでも、くらいなさいな」
 いつの間にか、兵士達に紛れるほどの距離にやってきていたメロン。
 空中で水流を円形にし、高速で回転させると、羅刹へと射出した。
(これは、避けきれない)
 左にステップを踏んでかわそうとするが、フリスビーの倍ほどのサイズの水製チャクラムは羅刹の脇腹をかすめて飛んでいく。
 羅刹が倒れ込むように急いで姿勢を低くすれば、戻ってきた円盤が髪の毛先を切り飛ばしていく。そこまで読めても、ここまで体勢が崩れたら、次の攻撃を避ける事はできなかった。
(あとは、任せたよ)
 水の刃が羅刹の体を何度も刻み抵抗する力を奪うと、大きな塊と変じて彼のことを押しつぶし、彼の意識を奪った。
 気絶した羅刹にとどめを刺そうと、近寄ってくる兵士達に対して、スパローホークがマスクから閃光を放ち、目をくらませた。
 自分が、怪盗達の救助部隊が、辿り着くまでの時間稼ぎ。だったのだが、彼の光に対抗したかのように、スパローホークに向けて敵陣後方から光が奔った。
「光るだけなんて、弱々しいわよ」
「さすがお姉様!」
 メロンにお姉様と呼ばれたムーンアイズが、指先をスパローホークに向けていた。
「今のは、稲妻か……」
 クロウのマスクは、銃弾や爆発を検知してバリアを発動する。だが、電撃までは想定されていなかった。
 正解とばかりにムーンアイズ――『エレクトロマスター』のプラム――が、稲光を重ねてスパローホークへと穿ち、彼の全身をしびれさせた。
 感電して倒れたスパローホークの代わりに、狙うのは、いつの間にか襲撃に加わったフクロウ達を追い払いながら兵士達とやり合っていた一刀繚乱とサスウ。
「なんですか、このフクロウ達は?」
「これも敵の能力か?」
 何羽ものフクロウが一刀繚乱とサスウだけを狙って急降下アタックをしてくる。
 爪やくちばしが彼女らに与える衝撃は本物で、少なくとも幻ではなかった。
 試しに、一羽軽く切りつけて見ると、赤い血が滴った。ドロイドでもないようだ。
「ヤってしまいましょうか?」
「いや、動物でも殺すと悲しむ奴がいる」
 二人とも銃弾の嵐は避けられも耐えられもしたし、フクロウが夜森のハンターだからといってやられるほどではなかったが、集中攻撃を受けた状態で、雷撃までは避けきることができなかった。
 しびれて動きが鈍ったところに、集中砲火される。一般品であれば、防ぎきることもできたかもしれない弾丸も、少しずつ一刀繚乱とサスウの体に食い込んでいく。
 剣でも、ナイフでも、素手でも、一刀繚乱が自負する通り勝てただろう。
 サスウも、戦場での経験がもっと活かせただろう。
 だが、その間合いの外からの波状攻撃が彼女らに久しぶりの敗北を味合わせ、他の怪盗達への教訓として残したのであった。

◆戦闘継続
 屋敷の中に撤退する囮達と入れ替わりに、怪盗達の主力と救助部隊が前庭へと飛び出していった。
 アニタ・フィーニは特に、深紅のローラースケートでいの一番に飛び出していった。
 モーター式ローラースケート内蔵型レッグギアを着けた彼女は、ピグマリオ。
(コネクターも混じっているんですね。洗脳されているなら、彼らも解放してあげなきゃ)
 兵士達もコネクター達も、変わらずにアサルトライフルを撃ち続けている。
 怪盗達が奇跡的に回避したり、超科学的な装備で防いでいるからなんとか死者は出ずにいたが、この規模で撃ち合っていれば、普通は死人が出る。敵を殺しても構わないと、本気で思って撃ってきているのだ。
(もう本当の手ではないかもしれないけど、それを赤く染めて良い理由はないですよね)
 黒い軍服の男に狙いを着けてアニタは弾丸飛び交う戦場を駆けた。

 倒れたスパローホークと羅刹の元へ、栄相サイス推裾ソスエが駆け寄る。
「今安全な所に運びますからね」
 ソスエがスパローホークの焼けただれた肌に一瞬ひるみながらも、意を決して肩に担ぐ。所謂ファイヤーマンズキャリーという奴だ。
 本来なら、こんなにも重傷であれば、担架等で負担をかけずに運ぶ。
 だが、手は足りず、的をでかくするわけにもいかない。今はとにかく早く危険な戦場から逃げるしかない。
 サイスも、羅刹を抱えて必死に走る。
 邪魔しようとする兵士達は、屋敷の2階の部屋の中からソーニャ・グリンスカヤが狙い撃ち、近寄らせない。
「狙撃の醍醐味教えてやるよ」
 こちらの救助を助ける形で撃ったソーニャ。
 しかし、敵が倒れた兵士を助けようとすると、今度はその敵を狙撃して地べたを這わせた。
「狙撃戦ってのはいかに殺さず痛ぶって敵部隊の脚を止めるかが肝なんだよ。まぁ仲間を見捨てて特攻する奴もいるが――」
 人数が多く、数で押し切ろうとしているため、むしろそういう奴の方が多いくらいであったが、救助部隊が撤退した後には、敵が孤立したタイミングを狙って、容赦なく腹を打ち抜いていた。

『上官、右翼から回り込んでください。目標はそちら側の森の中ですし、罠で敵の出足が止まっています』
「了解だ」
 スイホの通信に短く答えた崎森瀧は、素早く転進して右手側へ走る。
 スネアトラップに躓いた敵をノダチで一刀の元に切り伏せ、アサルトライフルの銃弾が頬をかすめるのもかまわずに距離を詰めて進路上の兵士をなぎ倒す。
「囮役となった者達が危険を覚悟で情報を取ってきてくれたんだ。無駄にはできんぞ」
 囮役と変わらぬ勇猛さで突撃し、ムーンアイズの元へと駆ける。
 一直線に進む瀧を、背後から狙う兵士がいた。
 兵士が追いつき、滝の背中へと拳銃が向けられる。
 だがしかし、瀧は振り向くことなく、背後を突いたはずの兵士は引き金を引く前に脚を押さえてうずくまった。
「ご苦労。頼りになるな」
『はい。私は瀧上官のもう一つの体、もう一対の目、もう一つの頭になりますよ』
 通信機器ごしに聞こえて来た声は、集推スイヤ。元部下の大事な女のもの。
 ソーニャ同様、屋敷から狙撃して援護してくれている彼女になら、背中を預けられた。
 天翔ける紅き狼こと大神隼人も同じ方向へ突撃していた。
「やろーなんかに足止め食ってる場合じゃねぇ!」
 隼人も弾丸の雨を掻い潜りながら、兵士達を拳と蹴りで打ち倒して進む。
 兵士達は血のドーピングで能力が上がっているが、それでも紅き狼の手数にてこずり、重い一撃に意識を刈られていく。
 まさに鎧袖一触の勢いだった。
 地上では、そのままの勢いで敵陣突破が図られたが、狙撃班には変化があった。
「うわっ! なんだこいつら!?」
 ソーニャとスイヤ、二人がそれぞれ陣取っていた部屋に、フクロウが数羽ずつ飛び込んで来たのだ。
 こちらも追い払うのに必死で、狙撃は少し難しくなったのであった。

◆後ろで支える者
 集中治療室とした一室に、先ほど回収されたスパローホークと羅刹が担ぎ込まれた。
「セイス! 連れてきたよ!」
「もう大丈夫! この傷なら治せるよ!」
 全身に切り傷がある羅刹と、やけどの重傷を負っているスパローホークを勇気づけるように、栄相セイスは声をかけた。
 ソスエとサイスに礼を言うと、セイスはすぐに治療を開始した。
 まずは、より重傷のスパローホークから。
 熱傷用クリームを全身に塗り込み、滅菌包帯で巻く。正直、皮膚移植も考えるレベルだが、使えそうな自己の皮膚も足りないし、人工皮膚まで用意はしていない。
「ひとまず今はこれで良い。戦闘終了次第、町の病院へ。ショック症状が出たら、小雪さんの脱出ルートの一つを使ってでも、緊急で搬送だね」
 今後の動きを確認し、指揮所にも伝えると、次に羅刹の治療。切り傷一つ一つを消毒し、傷薬を塗っていく。特にひどい胴の傷を縫う頃にはもう次の患者が運ばれてきていた。
「あ、目覚ました?」
「くそっ。まだ俺はいかなきゃいけねえ」
 気絶して担ぎ込まれていたブライアンが体を起こそうとするのを、セイスが止める。
「駄目だよ。骨が何本か折れてるし、内蔵へのダメージも大きい。しばらく安静にしてないと!」
 だが……と焦るブライアンを落ち着かせるように、セイスは声をかけて寝かせた。
「頑張ったね! 今治療を行うから、後は皆に任せて一旦治そう! 大丈夫だよ、皆の事信じているでしょ?」

◆前庭での戦い
 ムーンアイズを狙うべく、兵士の壁を突破するために戦う者もいれば、屋敷の側にとどまり、敵を抑えるために戦う者達もいた。
 一番に飛び出していたアニタもそうだ。
 コネクターを主に狙いながらも、途中の邪魔な兵士は足の腱を切ったり、アームギアから伸ばしたワイヤーで巻き付けたりして無力化していく。
 いざコネクターとの戦いになると、高速回転の電ノコと、高周波振動するナイフとの削り合いとなった。
(パワーでは押されています……けど!)
 速さとトリッキーな動きで相手を翻弄し、ギアを少しずつ削っていく。
 アニタの方も、ギアを電ノコで削られるが……
(ちょっとくらい無理したって平気です! 少しでも多く無力化して助けなきゃ!)
 この戦いの後、自分達のように仲間になるかもしれない者達のことを思い、恐れを振り払った。
 アニタと逆側では、兵士達が上からの掃射を受けて戸惑っていた。
 空を見上げると、フクロウ達に混じって、人が飛んでいたのだから更に驚く。
 ロケット靴の噴射によって夜空を駆けていたのは、アガーフィヤ・コスィフ
 アバカンを遠慮なくぶちかます彼女へと、兵士達も撃ち返すが、上から撃つのと下から撃つのでは、有利なのはどちらなのかは、明白であった。
 次々と倒れていく兵士。ならば、もっと上から攻撃するしかない。と思った者が一人いた。
「……フクロウさん達、お願い」
 さらなる上空からのフクロウたちのアタックをかわしたアガーフィヤであったが、まさか利用されているだけであろうフクロウを撃ち落とす訳にはいかない。
 こうして、アガーフィヤはフクロウたちにたかられ、空中で鬼ごっこをする羽目になったのであった。
 危機がさった地上の兵士達は入り口の手前まで歩みを進められた。が、
「ん? なんでこんなところに玩具が? いや、ドロイドか!」
 とてとてと歩いてくる小さなロボット。動かなければただの玩具にしか見えなかっただろうが、この戦場で動き回るのなら、怪盗達の兵器であろうことは一般の兵士であっても想像がついた。
 とはいえ、プラスチック製にしか見えないその玩具の剣で、何かできるのかと、油断してしまっても仕方がないだろう。
 コネクターが30センチ程度のプラモを踏み潰そうと出した義足を、プラモの剣が斬り裂いたのだ。
 慌てて蹴飛ばそうするが、するりと避けたプラモは再度切りつけ、義足を斬り落とした。
「見ましたか! これがローゼンナハトの科学力です」
 フクロウ達に追われながらも、アガーフィヤが勝ち誇った。
 実は、この武器の『ビームソード』は、プラスチック製に見せかけた剣で、小さいながらも超科学的な高周波振動によって高威力を出すことが出来るのだ。ただの玩具に擬装させるときの為に本当のビームではないのが、少々残念だが。
 さらに、両肩のキャノンから煙幕を吐き出すなんていうギミックまでついていた。
 煙幕で敵が足止めされているうちに、アガーフィヤが手榴弾を投げ込めば、一網打尽だった。

 しかし、怪盗達の抵抗により時間を稼ぎ、敵は減らしたが、一部の兵士達とコネクターには、本館の中に入り込まれてしまったのだった。
『でも、このぐらいまでなら許容範囲ないです。館内の皆さん、作戦継続よろしくお願いします』
 マクシムのアナウンスに、館内の怪盗達は気を引き締めた。

◆ゆかいな仲間たち
 銃声や電流・水流の激しい戦闘音にかき消されていたが、前庭での戦いが始まってからほどなくして、森の方でも鳴子が鳴り響いていた。
 その音を聞きつけてやってきたのは、屋敷の外で待機していた――
「『怪盗☆探偵シャムロックとゆかいな仲間たち』なのですよ!」
 罠を鳴らして焦っていたベータ部隊の5人は、ぽかーんとした表情で声をした方を見上げた。
 太い木の枝の上でポーズを決めていたのは、緑色が基調の魔法少女風の姿をした少女――シャムロック・クラナド――と、
「ドーモ、ファントム・サワタリです」
 と合掌して丁寧に挨拶するニンジャ風の怪盗――澤渡龍兵――と、
「なんだかんだ言って、皆さんノリノリですね」
 こちらもヤる気に満ちていた銀色のPVCツナギにアンテナなどがついたSFじみたスタイルの怪盗――天空院星――。
 名乗り終えると、3人は地面に降り、シャムロックと星は拳銃を構えて、龍平は敵を跳ね飛ばす勢いで突撃していく。
 遅まきながら敵だと認識したベータ部隊も反撃に出た。
 まずは、男二人が前に出て、そのうちの一人が両手のひらを前に突き出す。すると、そこに盾があるかのように、銃弾が弾かれたのだ。
「これは、遠距離から仕留めるのは難しいですね。頼むのですよ」
「へいへい。ったく、人使いが荒いなうちのリーダーは」
 既に予定と違う事をやらされているのに、さらに一番からだをはらされる。それでもやるしかない。
 だが、彼にはもう一人の能力者が立ち塞がった。
「おまえの相手は俺だ!」
 拳に炎をまとった男が、龍平の顔面を殴り飛ばした。
「この熱さは、本物の炎か」
 殴られた頬を押さえて龍平は顔をしかめた。ヒリヒリと痛む肌は、少しやけどしていた。
「オラオラ! 全身やけどさせてやるぜ!」
 それから二人の殴り合いが続けられるが、龍平はすべて避け、代わりに連打でたたみかけた。
 最初の一発はただの偶然か。体術は怪盗に比べればまだまだのようである。
 このまま一気に仕留めようとした龍平だったが、後方からの悲鳴に思わず振り返った。
 見れば、シャムロックがファントムガンの銃口を星に向けようとしていたのだ。
「どうしたんですか!?」
 星がシャムロックの腕を押さえ込もうとするが、それでも腕は少しずつ動く。
 シャムロックも、何か言おうとしているようだが、口はわなわなと震えるばかり。少なくとも正常な状態ではなかった。
 龍平も慌てて二人の元へと駆け寄る――が、そのさなかにふと、いきなりシャムロックの腕が自由を取り戻し、星と二人で勢い余って倒れ込んだ。
 龍平がほっと安心した次の瞬間、敵の存在を思い出して振り返るが、敵は既に逃げ出しており、密集した木の陰に隠れてしまっていた。
 また鳴子などに引っかかれば位置がわかるかもしれないが、追うのは一苦労だろう。
「あれが敵の能力なのですか。やっかい極まるのですよ」
 後方に控えていた男――『ボディハック』のデラウェア――の月の瞳を見てしまった瞬間、体の自由が利かなくなり、声も出せなくなったシャムロック。ひとまず、今回遭遇した5人と判明した3人の能力をモニタールームの方へ伝えた。
「GTRさえあれば……」
 龍平が悔しがる。この辺りは特に木が密集していて、車を活用するのは無理があった。ただの山林であれば、無理矢理乗りこなしたかもしれなかったが。
「あとは、館内の皆さんに任せるのですよ」

◆怪盗VS超能力者
 前庭では多くの兵士やコネクターが倒れ、あるいは、既に本館内へ突入したことにより、とうとう怪盗達とムーンアイズ達が互いに間合いに入るようになってきた。
「……久しぶりだな、リモーネ……敵だとは知ってたが、こういう再会はあまりしたくなかったな」
 兵士の一人を一本背負いし、押さえ込んでから締め落とした大世宮典人が、見つけたリモーネに対して至極残念そうに話しかけた。
「げっ……」
 それだけで、リモーネが思わず歌を止めてしまう程の威圧感があった。あのとき……リモーネが一人でUNICOの学生達を襲撃した際には、一方的な奇襲であったり、列車事故で全員負傷していたりしていて、そんな風に思うこともなかったが、がたいの良い典人に明確な敵意を向けられると、怖い。
 抱いてしまった恐怖を自ら払拭するかのように、勇気の出るような歌が歌われる。
 されど、その歌声はすぐに止むことになる。
「歌に集中はさせない!」
 暁靫凜音がトランプガンをリモーネに向けて撃ちまくる。
 通常の銃に比べれば威力は低いが、傷つけるのが目的ではない。
 あくまでも、歌うのを邪魔するだけであれば、トランプガンはトランプ1セット54枚分もあって弾数が多い。
 次々飛んでくるトランプにピシピシされ、リモーネが嫌がっているのをかばうように立った兵士がアサルトライフルを乱射し、コネクターが電ノコを高速回転させて典人へと襲いかかる。
 だが、乱射していた兵士がスイヤの狙撃で銃を取り落とし、コネクターの電ノコは、瀧のノダチが受け流した。
「フクロウはどうにかなったのか?」
『まだです。たかられていてじっくりは狙えませんけど、援護は続けますよ』
 言うやドラグノフの弾丸が次の兵士の肩を貫いた。
 怪盗達の押せ押せムードの中、さらに追撃が入る。
 突如リモーネの足元から煙りが沸き立ち、周囲を黒く染めたのだ。
 黒煙はすぐに晴れたが、それと同時に隼人がリモーネへ拳を振り下ろした。
 顔面を殴り飛ばされ、よろけるリモーネに代わりコネクターと兵士が隼人を取り囲むが、隼人は巧みなステップで銃弾と電ノコの刃を躱してみせた。
「ちょっとちょっと! なんでボクのところにばかり集まってくるんだよ!」
 リモーネが慌てて文句を言うが、瀧が冷静に返した。
「催眠能力を持った奴が厄介だからな。一番最初に無力化する」
 喉や腹を狙って声を出せないようにするべきだ。との意見に、他の者も同意した。
 リモーネのフェアリーソングとブラッドのライフバーンの2重のブーストとも呼べるものがあれば一般的な兵士でも怪盗達と五分に殴り合えたかもしれない。あるいは、怪盗達に戦意減少の歌を聞かせることも効果的だったかもしれない。
 しかしながら、フェアリーソングは敵味方の区別なく効果が出る。その為、どちらかだけ狙うのは、こう、乱戦になってしまっては、難しかった。
 リモーネが頼りにしていた取り巻きの兵士達を、怪盗達は一人ずつつぶしてはぎ取っていく。
 護る人数が少なくなれば、リモーネを狙うチャンスも生まれる。
 隼人の拳と滝のノダチが腹部を狙い、典人のでかい手のひらが腕へつかみかかるが、リモーネはこれも転がるようにしてなんとか避ける。
「……すばしっこいな」
 典人がぼそりとしゃべる間に起き上がったリモーネは、凜音のトランプが顔付近をかすめても構わずに歌声を響かせた。
 夜空に相応しい子守唄。
 優しい調べが眠りに導く癒しの歌。
 リモーネの声が届く範囲だけ、にわかに戦闘が終了した。
 別世界であるかのような静寂な空間が現れた。
「あ、危なかったよ……」
 額の汗を拭って、リモーネは大きく息を吐いた。
 大きな寝息を立てる怪盗達を前に、リモーネは他の兵士にとどめを刺すように指示を出そうとして、周囲の兵士達も一緒におねんねしていることに気付いた。
「もう。それじゃ、ボク自分でやるよ」
 ナイフを取り出すと、また狙撃される前にと、急いで怪盗達へ近づいていく。
 殴られた分のお返しだと、隼人の前にしゃがみ込むと、ナイフを首筋へと当て、ようとしたところで弾かれた!
「なっ!?」
 狙撃が間に合った!?いや、弾かれたのは下からだ!
「ゴスロリ男の娘気取りにはお仕置きだ」
 寝たふりで実は起きていた隼人の腹パンがリモーネを悶絶させ、隼人に付き合って寝たふりをしていた典人が拘束して猿ぐつわをかませた。
「……リモーネの歌は上手いと思うがな。眠ったり死んだりしては聴けない……次は命のやり取りなんざ必要無い所でゆっくり聴きたいもんだ」
「ふんっ」
 典人の言葉に、まんざらでもないような態度になり、抵抗しなくなったリモーネであったが、さて。

◆別棟の攻防
「電子錠の一つや二つついてるかと思ったんだがな」
「……監視カメラがついてるだけ。もう、乗っ取って別の映像流しちゃったけど」
 ベータ部隊の5人は、東棟の裏口で、こそこそと話しあっていた。
 森の中で鳴子にひっかかり、変……いや、面白い3人との戦った後は、罠にも注意して進んだため、少し時間がかかってしまったが、ようやく辿りつけた。
「ここにいるの?」
「さあな。本命は本館だって言ってたからな。相手が裏をかいてきたときの為だからな、俺達は」
 さあ、開いてる入ろうぜ。と、男が扉を開けて中に入り、他の4人も続く。
 中は灯りがついておらず、注意深く進む。と、奥の扉が開き、廊下に出てきた。
「やっぱり正面以外からも来ましたカ」
 姿を現したのはエラ・ウォーカー
「なんだ。女が一人か。やっぱりこっちはハズレみてえだな」
 先頭の男が軽く言うと、エラの視線が鋭くなった。
「ミーが女で一人だからと油断すると、痛い目見るネ」
 言うや駆け出すエラに、パッションが炎を球のように丸めて投げる体勢に入った。
 次の瞬間、目を丸くした。
 突然廊下のあちこちにエラの分身が現れたのだ。
 10人に増えたエラが囲んでムーンアイズ達に斬りかかる。
 デラウェアが、せめて一人は動きを止めようと目をこらすが失敗し、シャテーニュが左右の腕を伸ばして一人でも多くの忍者刀を受けようとした。
「落ち着いて、この分身はホログラム。ただの映像だよ」
 ムーンアイズの一人、ブルーベリーが、この分身達のカラクリにピンと来て注意を促す。
 なんだ驚かせやがってと、パッションが再度炎を投げようとするが、もう遅い。
 既に狙いの距離まで達していたエラは懐から手榴弾を取り出すと、ムーンアイズ達の足下へと投げ込んだ。
「360度、覆えますカ? 煙なら穴をつけますヨ」
 吹き出たCNガスに咳き込むムーンアイズ達。
 どうやら、シャテーニュのバリアで360度防ぐ事は無理らしい。
「とりあえず、そこの扉で良い。一回逃げ込むぞ」
 ムーンアイズ達が、手近な扉を開けて中に逃げ込むが、全員に逃げられる前に、エラが駆け寄った。
 狙いはシャテーニュ。
 しんがりとなったシャテーニュも、エラの接近に気付いて、両手を前に出してバリアを張る。あるいは、元から一人扉の前に残って、中で仲間達が態勢を整えるまで耐えるつもりだったか。
 だが、エラはバリアがあることもかまわずに忍者刀を一閃!
「斬る……!」
 相手の一番の強みは、裏を返せば一番の急所である。
 全面の信頼を置き、突破されるとは全く考えていない場所をもし突破されたなら――
 エラの忍者刀の鋭さと、超能力のバリアの堅さ。
 最強の矛と盾の戦いは、矛に軍配が上がった。
 バリアが切り裂かれ、シャテーニュの腕から血が舞った。
 エラの連撃に、痛む手を前に出すが、バリアは張られず、斬られる為に差し出しただけとなった。
「駄目だ、集中出来ない」
 もう腕すら上がらなくなったシャテーニュはドアに背を預けるように、崩れ落ちた。
 エラは戦意を失ったシャテーニュを拘束すると、怪我人回収班に連絡した。
「この次は炎の奴ネ。でも、まだ残ってますカネ」

 ベータ部隊の残り4人が飛び込んだ扉。
 広めのゲストルームには、ふさわしきメイドが待ち構えていた。
 だが、この戦場にただのメイドがいるはずもない。
 隻腕のメイド――厳島火練――は、客人に優雅に一礼し、歓迎の言葉を述べた。
「贅を尽くしたおもてなし、ご堪能ください」
 言葉と同時にソファなどの調度品の陰からそれぞれマフィアが飛び出し、銃を向けた。
「死の舞踏を踊りましょう」
 マフィアの銃が火を吹き、弾幕の中に斬馬刀片手に火練が切り込んだ。
 それからのたった1分弱の時間。
 自らも背後から撃たれながら炎使いのパッションに斬りかかる火練。
 パッションは斬られながらも全力の火焔を火練にぶつけ、相打ちを狙う。
 ボディハックのデラウェアは、残りの二人を背にかばいながら、マフィアの一人の体を乗っ取り、他のマフィアの頭部に一発ずつぶち込んでいく。その後は、次の奴の体を乗っ取るが、そのときにはもう、マフィア同士でやられる前にやれな仲間割れが起きた。
 わずか10秒強でマフィアが全滅しそうになった次の瞬間、デラウェアの体が硬直し、倒れ込んだ。
 食器棚の中に隠れて気配を絶っていた石動詩朗が、デラウェアをエレクトリック弾で仕留めたのだ。
 通常の物よりも電流の強い弾に撃たれたデラウェアは、耐える事が出来ずに気を失った。
 それから数秒後、火練とパッションのノーガードの戦いも、火練が大火傷を負いながらもパッションを打ち倒して白黒ついた。
 そして、マフィアの生き残りがベータ部隊の残る搦め手担当の二人を蜂の巣にし、血と肉が焼ける匂いに満ちた戦いは終演した。
 まさに、敵も味方も死屍累々。
 とても、怪盗の戦いとは言えない後味の悪い結果となった。

◆歓迎の演説会
 本館へとなだれ込んだ兵士達だったが、いきなり怪盗の洗礼を浴びることとなった。
 館に入った兵士達がまず間違いなく最初に目にしたのは、大きく空間がとられたエントランスの正面に設置された大モニター。
 よく見ると端っこにパイナポーコンピュータコーポレーションのマークが入っていた。が、その意味を考える前にモニターのスイッチが自動的に入り、エヴァの顔どアップが大写しにされた。
 突然見せつけられたフルフェイスの仮面を被った人物のどアップを、思わず足を止めて見入る兵士達へ、エヴァは良く通る声で語りかけた。
 いかにローゼンナハトが素晴らしいか。
 いかにダブルオーが陳腐で協力するに値しないか。
「諸君は間違っている、我々は悪ではない……正義の味方だ! それを理解している小雪嬢は既に我らに味方している、君も我らの仲間になりたまえ」
 堂々とした演説であった。
 街頭演説であれば、多くの聴衆の心を揺さぶり、何人かのシンパも得られたかもしれない。
 だが、催眠アプリまで使用したこの演説でなびく者はいなかった。
(くそっ。一番偉そうな奴をターゲットにしてみたが、少し迷った程度か)
 散開する敵部隊を眺めながら、顔にはおくびも出さずに、心の中だけで悔しがると、改めて迎撃のための指示を飛ばした。
 そして、指示を受けて初めに接敵したのは、この男だった。
「ここから先は通さん……と、言っておこうか」
 兵士達の前に堂々と姿を現したのは、劉文。アサルトライフルを構えた自分達を前に、わざわざ姿を見せた敵へ向けて、兵士達は問答無用で引き金を引いた。
 爆音と共に銃弾が飛び続け、弾幕は文を逃がすことなく蜂の巣にした。はずだった。
「ばかな! これだけ食らって生きていられるはずが!?」
 兵士の一人が恐怖にかられて叫ぶと、文は口の端を上げた。
「思ったよりは効いた。なるほど、これが異能による強化か。ムーンアイズがくるまでの準備運動にはちょうど良さそうだな」
 文は拳を鳴らすと構え直し、兵士達がリロードする隙に接近すると、懐に入り込むと、全力で掌底をぶち込んだ。
 心臓を打ち抜かれた兵士が目を見開いたまま後ろによろめき、体勢を立て直すどころか、衝撃から立ち直る前に文の肘打ちが、裏拳が、跳び蹴りが流れるように次々と体の各所を打ち据えた。
 されど、敵は最初の掌底以外にはそれほどの反応を示さず、拳銃を取り出した。
「このタフさも、異能のせいか。なるほど、直接の手合いではないが、お前達の異能と俺の武芸、どちらが上か試すとしよう!」
 拳銃を向けられても意もせずに懐に飛び込み、今度は逃がすことなく寸勁で敵を体内から弱らせていく。
 敵が同士討ちを恐れずに拳銃を向けてきても、実際に銃弾を浴びせられても、名門紳士服店ハマーン特製のスーツにクロウのマントを羽織り、ファントムアーマーEXを下に着込み、超硬質化スプレーで固めた文を傷つけられない。
「純粋な力こそが真理! それが武の世界なり!」
 一人ずつ順に打ち倒した文。最後の一人が意識を失う直前に口走った言葉は、聞こえただろうか。
「ならば、ダブルオーの正義こそが、真だと理解できろうに――」

 館内侵入の一報を受け、探索開始されてからしばらくして、ガンマ部隊のサトウに小雪発見の報が入った。
 だが、2か所からだ。
 偽物を用意していることに、それぐらいはするかとサトウは納得した。そして捜索する各員に、両方とも偽物の可能性と、本物も他に変装させている可能性にも注意するように伝達した。
 それからしばらく、小雪発見と逃げられたという報告が続けられたが、だんだんと連絡の数が減っていった。
 小雪……ダミー込みで見つけにくくなったのではない。連絡がつく兵士の数自体が減っていたのだ。
 突入した兵士の数が、徐々に減っている。
 不思議に思ったときにはもう遅い。
 奴が闇から闇に葬っていたのだ。
「おい、この部屋もトラップだけだ」
「チクショウ! 外といい、エントランスの茶番といい、完全に俺達の襲撃バレてたんじゃねぇか」
「次行くぞ次! 他の連中はしっかりやってんだろうな!
 顔を真っ赤にした兵士達が、廊下に出ると同時に、隣の扉がバタンと閉じた。
「ガキどもが逃げ込んだのか?」
「追い込め! 突撃!」
 隊長格の号令で残りの3人がドアを勢いよく開けて中に入り込む。
 いたのは、事前に聞かされていた小雪の姿をした女。窓際の壁に背を預けて、兵士達を眺めていた。
 まるで、パーティー中に壁の花となって殿方からのお誘いを待っているような落ち着きようであったが、かけられた声は似つかわしくないものだった。
「ターゲット発見!」
「偽物の可能性もある、気をつけろ!」
「ゆっくりと手を上げて動くな!」
 兵士達が次々と声を荒げて銃口を向けるが、小雪は一切動揺を見せず、悠然としていた。
 兵士の一人がアサルトライフルを構えたまま一歩小雪へと近寄る。
 すると、背後から「うっ」と短いうめき声が聞こえ思わず振り返ると――仲間達がひとりでに崩れ落ちていく。
 そして、すぐに彼も仲間と同様の運命を辿る。わずかな痛みが腕に走ったかと思えば、体の自由が利かなくなり、床へと崩れ落ちた。
 なにが起きたか分からなかった彼の体を、小雪が部屋にあったロープで拘束する。
 そうして、全員拘束し終えると、床に転がしたまま、
「誰かはわかりませんが……守っていただきありがとうございます」
 誰もいないように見える空間に向かって小雪が礼を言い、次の部屋へ向かった。
(次はあの部屋か……ということは、最適な奇襲位置は――)
 仲間にも悟らせないよう気配を絶ったままの虚無、ヌルこと斑鳩恭耶は、小雪の後をつけた。
(超能力が使えても身体がスライムになったり壁を抜けられる訳じゃない、敵は『必ず人の形をしたまま侵入してくる』)
 多少方法が人間離れしていても、人間をやめた訳ではない。として、恭耶は襲撃者の進路を予想して先に潜み、逆に奇襲していたのだ。
 こうして、囮達の活躍もあり、順調に兵士は排除されていったのだが、一度は、小雪のいる隠し部屋につながる部屋まで来られていた。
 敵を早めに察知した怪盗達は、素早く本棚から本を抜き取り、隠し部屋へ忍ぶ。
 兵士が4名入ってきて、銃を構えながら室内を物色する姿を、マジックミラーから窺った。
 イリヤも、隠し部屋が開けられた瞬間に敵へ飛びかかれるように体をかがめて待つ。
 だが、兵士は隠し部屋や仕掛けに気付くことなく、部屋を出て行った。
 怪盗達はほっと胸をなで下ろした。
 万が一のときのための逃走ルートはまだ使わずによさそうだ。

◆新月部隊戦、決着
 プラムとメロンに対して怪盗がとった攻撃方法は、上からの狙撃だった。
(まだ狙撃してくる奴がいるのね。キウイ! フクロウ達にそいつも襲わせなさい)
(む……むりだよ……あれは……)
(ムリ!? ムリってどういう…………そうね。ムリね)
「お姉様! あれ!」
 プラムとキウイがサトウを通じて思念会話しながら空を見上げると、メロンが声を上げて指さした。
 その先には、夜空を飛ぶ小型ヘリ「カイオワ」ファントム仕様の姿があった。
 運転席の窓から突撃銃を出して発砲していたのは、ステラ・ワードだ。
「航空支援は戦の基本なのですよ!」
 フクロウとファントムで分け合っていた制空権が、一気に怪盗側に傾いた。
 夜間の低空飛行もこなすオイカワ。曲乗りもドッグファイトもこなすステラの航空支援は的確に残る敵陣の急所へと弾幕が撃ち込まれ、足並みと連携が乱れていく。
 だが、たった一つ、残念な事があるとすれば、カイオワが基本的には輸送機であり、武装がついていないこと。
 銃弾はステラ自身が窓を開けて撃たねばならない。
『ステラさん、危険です!』
 スイホの忠告がヘリの通信機から発せられるが、遅い。
 プラムの指がステラの乗るカイオワへと向けられ、稲光が走った。
 通常、ヘリや航空機に落雷があっても、航行不能になるような被害が出ることは少ない。
 なぜなら、どちらも金属製のパーツで全体が覆われていて、電流が内部に流れこまずにそのまま外に放電されるからだ。
 だが、窓が開いているならば……電流は中まで流れ込み、電子機器をショートさせる。
『だザザッぶでザザッ』
 通信機からの声もノイズまみれで聞き取れない。だがステラはこのピンチに笑みさえ浮かべて見せる。
「それでも!」
 これくらい想定内なのだとばかりに、すぐに次の行動へ移る。
 制御がほぼきかなくなったヘリの落下軌道を敵の真上にずらし、自分は外へと飛び立った。
 ヘリを丸々一台犠牲にしたステラの作戦は、大味過ぎた感じもしたが、おおむね狙い通りに働いた。
 ヘリの墜落でパニックに陥ったムーンアイズ達と、まあ、ステラならやりかねないという想いもあり、すぐにスイホから新たな進路を示された怪盗達。冷静に行動できたのは後者であるのは当然で、爆発炎上する機体から逃げようとする新月部隊隊員達へ、一気に詰め寄った。
「け、消した方が良いですの? いや、でも敵のですし、ジャマ? これはジャマですのお姉様?」
 炎上するヘリの消火をするか迷っておろおろするメロンに瀧が一気に迫る。
 振り切られるノダチの勢いを、眼前に作った水流の盾で削ぐが、完全には防げずに、メロンのワンピースの肩口をから鮮血が流れた。
「よくも!」
 メロンが叫び、盾に使っていた水を羅刹に使ったのと同じようにチャクラムとして瀧に放る。
 水の刃が瀧のガードをすり抜けて脇腹を割いていった。そして、やはり羅刹の時と同様に、戻ってきて背後からも瀧を狙うが、彼は動じなかった。
 返す刃が瀧を切り裂く前に、メロンの脚を銃弾が貫いた。
 その瞬間、水の刃は形を保てなくなり、その場ではじけて水たまりと化した。
『上官! 大丈夫ですか!?』
「ああ、おかげさまでな」
 もはや、痛みにのたうち回るだけで超能力を使うだけの集中はできなさそうなメロンと違い、軍隊でもまれてきた瀧は痛みには強い。

 プラムの方には、典人と隼人が迫っていた。
「メロン! 肝心な時に――」
 典人と隼人のどちらを先に狙うか、迷う間に二人はどんどん距離を縮める。
 更に、ステラもただ落下する機体から緊急避難した訳ではなかった。
 アガーフィヤ同様、ロケット靴で空中を飛び、アサルトライフルを構えていた。
「空はステラの領域なのですよ! てへペロ」
「今度こそ落ちなさい!」
 気付いたプラムが意地になって電撃を放つが、ステラのスピードについていけずにあさっての方へ流れていった。
 そして、プラムは、2の矢を放とうとして……撃てずに顔をしかめて頭を押さえた。
「……そろそろ、打ち止めか?」
 典人の言葉に、「まだよ!」と叫んで電撃を典人に浴びせるが、典人は耐えて、立ち続ける。
 その間に懐に潜った隼人が、電撃の合間に襲う。
 蹴りの連撃がプラムに入り、よろけた所を典人が羽交い締めにした。
 最後の抵抗に典人へ全身から電流を流したが、典人が意識を保ちきった。
「ここまでだぜ!」
 逆に、隼人のみぞおちへの一撃で、プラムが気絶した。
 その頃には、一般の兵士もコネクターも掃討され、手の空いたアニタとアガーフィヤとプラモのロボで、『アニマルテイマー』キウイも捕縛された。

 こうして、雪月城迎撃戦は、怪盗側の防衛成功で幕引きとなった。
 新月部隊の個々の能力は、まさに人間を超えた力であった。
 ある程度の連携もされていた。
 最終的に鍵となったのは、怪盗達の連携と、能力の引き出しの多さであろう。

◆ガンマ部隊
「くそっ。作戦失敗だ。まだ動ける者は全員撤退しろ」
 サトウの声はいら立ちと焦りに満ちていた。
 これだけのムーンアイズの精鋭を揃え、兵士の数も揃えた。
 それで、まさか少女一人さらえないとは、思えなかったのだ。
 そのうえ、引き時すら見つけられず、多くの兵士を失い、精鋭達もほとんどが捕虜とされた。
「ウェイカー様に申し訳が立たない……」
 今後の始末を考え、頭を悩ませるサトウであったが、新月部隊の悲劇はまだ終わっていなかった。
 慌ただしく車両に分乗するガンマ部隊の面々のけたたましい声に混じり、耳に入ってきたのは、妙に落ち着いた声。
「こちらの方がなにやら匂うと思えば……やっと見つけた」
 サトウが不穏な声に振り向くと、遠くに見えたのは高級ブランドのスーツを纏った男。
 だが、纏っているのはそれだけではない。
 裏社会で生きてきた人間の纏うただならぬ気配を感じさせた。
 裏社会というだけなら、新月部隊……ダブルオー陣営も相当なものだが、仲間ではないだろう。
(UNICOの追手だと!? 馬鹿な! 早すぎる!)
 早いのも当然だ。潜入していたルイから司令部――ガンマ部隊――のことを聞いた宵蓮は、開戦直後に囮として戦いからまもなく離脱し、ふもとに降りてきて、ガンマ部隊のことを探していたのだから。
 ノダチを手に駆け寄ってくる宵蓮に対し、サトウは舌打ちをしてガンマ隊にわずかに残していた兵士達に命じた。
「命を懸けて足止めしろ! ここで新月部隊が全滅するわけにはいかん!」
 急転回し宵蓮に群がる兵士達を、斬れぬものなどない!という勢いで切り伏せていく。
 だが、刀で一人一人切り捨てるしかなかった宵蓮は、すんでのところで、残りのムーンアイズ達は逃してしまったのだった。
『そうですか。首魁を上げられなかったのは残念ですが、そこまで被害を与えられたのなら十分でしょう』
 マクシムにサトウ達を取り逃がしたことを伝えると、問題ないと返事があった。
『頭が残ったのは、厄介といえば厄介ですが、手足はすべてもいだも同然ですからね。部隊を再建するのはかなりの骨でしょう』

◆アフターデイズ
 翌朝から、スエソが中心となって城の後片付けが始められた。
「本当、精悍だよね」
 陽の光の元に露になった光景を見渡し、スエソは大きなため息を吐いた。
 前庭の花壇は踏み荒らされ、ところどころに大きな穴が開き、水たまりや泥だまりが随所に見られた。
 屋敷の外壁には多くの弾痕が穿たれ、ぼろぼろと崩れ落ちている。窓も割れているのがほとんどで、ガラスが下に散乱していた。
 昨夜の激闘を物語る散らかりようだ。中は案外とスマートに事を済ませた場所もあるが、フクロウの羽が散らかっている部屋もあるし、部屋によっては丸ごと入れ替えた方が早いのでは? という惨状の部屋もあって、悩ましい。
 しかし、原状復帰がこの屋敷を使わせてくれた協力者から出されていた条件だ。直すしかない。
「準備よりも大変じゃないこれ?」
 誰かの嘆く声に、しかし、日本にはこういう言葉があるという。
「立つ鳥跡を濁さず。来た時よりも綺麗にして帰る。ってね。よーし、最後まで頑張るよ!」
 おー! という鬨の声に後押しされ、怪盗達は持ち場へと散った。

 一緒に部屋の掃除をしながら、ゆめは小雪に問うた。
「……ねぇ、どうしたいか決まってる?」
 ゆめの言葉に、小雪が小首を傾げた。
「無理してローゼンナハトに所属しなくてもいいんだよ?」
「……そういうことですか。私はこれからもローゼンナハトにお世話にならせていただくつもりです」
「…そう、小雪が決めてるならいいよ」
 話が終わると、二人は無言で掃除を続けた。

「……俺もある少数民族で迫害されて隠れて生きてきたから、何となく気持ちは分かる。今だけじゃなく、これからの事もしっかりと考えないとな」
 外の片付けをしながら、ソロラが、ムーンアイズの処遇を心配していた。
「この後のこともちゃんと考えないとね。ムーンアイズさんを守らないと」
「しばらくは怪我もやる事も沢山あるとは思いますガ、また皆さんと、小雪さん、そして新しくムーンアイズの方々も一緒に笑える日が来る事が一番良い事だと思いマス」
 サイスとスエラがほっこりと笑い合うと、その通りだと、周囲から喝さいが上がった。
 ついでに、監視カメラなどの、常時あった方が良いと思われるようなセキュリティは、サービスとして残しておくことにした。
 これぞ、きたときよりも綺麗に。だろう。

 こうして、小雪は守られ、新月部隊の多くを捕虜とすることができた。
 彼らの催眠を解くことができれば、戦力が増え、また一つ、ダブルオーの闇を暴いて、たくらみを阻止することもできるかもしれない。
 そのときが、楽しみだ。



 12

参加者

b.【FB】引き出しを開けるだけ開けさせる。情報をフィードバックするよ。
アルフォンス・サインツ(pa0087)
♂ 24歳 弾忍
g.【FB】ん……
ディルク・ベルヴァルド(pa0112)
♂ 23歳 乗知
c.ゴスロリ男の娘気取りのリモーネとやらはお仕置きしてやらねぇとな!!
大神隼人(pa0137)
♂ 22歳 刃忍
c.さぁ、「怪盗☆探偵シャムロックとゆかいな仲間たち」出撃なのですよ!
シャムロック・クラナド(pa0160)
♀ 20歳 英探
サポート
a.ふふ、しっかりと変装しませんと。
中藤冴香(pa0319)
♀ 25歳 探魅
サポート
c.正面から行く
劉文(pa0392)
♂ 22歳 英刃
g.【FB】部隊の一員として潜入して、内部から混乱させようと思います♪
ルイ・ラルカンジュ(pa0432)
♂ 24歳 英魅
a.【FB】「オペレーション:フルーツバスケット」。情報解析…送ります。
マクシム・ヴェッカー(pa0436)
♂ 27歳 探知
f.【FB】……。念のため、逃走用の車も用意しておくがな。
イリヤ・ヴォエヴォーダ(pa0440)
♂ 25歳 刃乗
g.治療活動なら任せて!でもあまり怪我しないでね!
栄相セイス(pa0459)
♀ 20歳 知魅
g.隠れて色々サポートを行うね・・・。
栄相サイス(pa0460)
♀ 20歳 英探
g.フン、我が力を見せてやる!
エヴァ・マルタン(pa0835)
♀ 27歳 知魅
c.……ここの予定だ。
大世宮典人(pa0940)
♂ 22歳 刃乗
d.ショータイムの時間です。
アガーフィヤ・コスィフ(pa0970)
♀ 20歳 英弾
e.バリアは任せるネ。バリアが無くなれば、皆戦いやすくなるはずネ。
エラ・ウォーカー(pa1057)
♀ 24歳 刃忍
c.狙撃を行う予定だ。
集推スイヤ(pa1090)
♀ 20歳 英弾
g.サポートとして情報の統括、頑張りますね。
集推スイホ(pa1091)
♀ 21歳 英魅
c.前線で戦う予定だ。
崎森瀧(pa1178)
♂ 24歳 英刃
f.任務了解…
斑鳩恭耶(pa1232)
♂ 27歳 刃忍
c.くー!燃える展開なのですよー!
ステラ・ワード(pa1302)
♀ 19歳 弾乗
b.楽しそうですね。
月羽紡(pa1364)
♀ 27歳 刃探
f.最後までやるよ。
廻環ゆめ(pa1420)
♀ 19歳 忍知
a.セキュリティ・・・罠などを仕掛けてくるな。
推橋ソロラ(pa1424)
♀ 22歳 英知
a.どこに仕掛けられたら困るかはよく知ってるからな。
黒鳥由理(pa1427)
♂ 21歳 忍探
f.こっちの予定、かな?
推裾スエソ(pa1498)
♀ 20歳 探魅
b.【FB】どんな能力者が来るのか、俺様が見定めてやんよ。放水車使うぜ!
ブライアン・ビリンガム(pa1505)
♂ 25歳 乗機
e.おもてなし致しますわ。
厳島火練(pa1582)
♀ 26歳 刃機
サポート
g.こちらで・・・色々とお手伝い、しますね。
推裾ソスエ(pa1632)
♀ 20歳 魅機
d.うん、頑張ろう。
アニタ・フィーニ(pa1687)
♀ 19歳 探機
b.久し振りの戦いだ、楽しみだな。囮となって情報を集めてくる。
推嵩サスウ(pa1692)
♀ 21歳 英機
c.敵の妨害をしようかなーと思ってる!
暁靫凜音(pa1739)
♂ 22歳 弾探
b.【FB】可能な限り情報をフィードバックする。各個撃破はそれからだ。
煌宵蓮(pa2148)
♂ 24歳 刃機
b.ま、やるだけやってみるよ。
王玲瓏(pa2227)
♂ 19歳 忍機
d.チッ、対物ライフルは使えねぇか…
ソーニャ・グリンスカヤ(pa2282)
♀ 26歳 弾機
f.私はこちらデ。皆さん、気をつけて下さいネ。
推裾スエラ(pa2328)
♀ 19歳 乗魅
f.護衛を行う予定だ。
崇培スロエ(pa2348)
♀ 19歳 英刃
 ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。
菱沢 小雪(pz0132)
♀ 21歳