【PF01】嵐を迎撃せよ!

担当旭吉
タイプグランド 授業(島内)
舞台Celticflute
難度普通
SLvC(紛争地域、島内)
オプ
出発2017/08/28
結果大成功
MDP棋流山デス男(pa0049)
準MDPヴェイン・アルカディア(pa0074)
羽乃森晴(pa0077)
エヴァ・マルタン(pa0835)

オープニング

◆学生会長選挙と委員会招致
 会長に立候補した者は下記の9名。

 リラ・ミルン(pa0389)
 棋流山デス男(pa0049)
 ヴェロニカ・ラプシア(pa0222)

登場キャラ

リプレイ

◆花開く君達へ
 君よ。薔薇の意志を継ぐ者よ。
 若い君がこれから歩む道は、長いローゼンナハトの歴史に新しく刻まれる事だろう。
 その道は、特異なようでいて凡百なものかも知れない。
 あるいは、凡百なようでいて特異なものになるかも知れない。
 人の噂は定まらぬもの。君の道もどのように伝わるか、定かでは無いが――

「‥‥嘆かわしい。示してやらねばなりませんね。悪の華――『美学』を」

 君よ。その胸に抱く美学こそは、紛れもない君の真実だ。

◆『嵐』への備え
 ヨーロッパ各地に伝わる民間伝承に、『ワイルドハント』というものがある。死者や妖精、精霊から成る伝説上の狩猟団で、彼らが空や大地を大挙して移動する様を目撃した者は死に至る、という伝承であるが――イギリス、イングランドのとある地方では、フランシス・ドレークが死後にこの狩猟団を率いているという伝説も信じられている。
 奇しくもここ、セルティックフルート島はかのドレークが財宝を隠した場所だという。海に現れた件の不審船の目的は未だ不明だが、島の財宝に用があるとすれば『頭領』ドレークの元に集う災厄『ワイルドハント』と言えない事も無いだろう。
 その海を飛ぶ一機のヘリがある。他の学生達に先行して偵察に来ているようだ。
「零さん、何かわかりますか!」
「不審船‥‥観光の客船でもない、島の漁船やUNICOの物でもない小型船。複数確認」
 レイミロ・ロンゴロンゴのヘリに、氷河零が同乗している。操縦に専念するレイミロを助けて零が双眼鏡越しに不審船を探していると、さしたる苦労も無く見覚えのない船が見つかった。IRレーザー盗聴器で船上の会話を聞き取ろうともしたが、流石にヘリからの盗聴では直接聞こえる自分達のプロペラ音の方が大きく、会話の詳細がうまく聞き取れない。
「ヘリを離れて、海に直接降りる訳にはいかないですしね‥‥。今はとりあえず、空から見える事を少しでも皆さんに!」
「了解」
 上空に留まって逆に怪しまれては本末転倒だ。海域を大きく旋回しながら、二人は不審船の行動を逐一学生達に報告していた。

 一方、陸でも『嵐』の前兆はあった。観光客に紛れた不審者達である。
「いいでしょう、私達が協力しますよ」
 不審者を洗い出すべく、島内の監視カメラ映像を把握したかったテレサ・イーグルトン。それでも自分達のホームグラウンドであるUNICOのセキュリティをハッキングする事に躊躇いがあった彼女は、UNICOのセキュリティ担当スタッフに正式に申し出た所、あっさり許可が出たのである。
「この事態ですので、今は普段よりセキュリティレベルを上げていますからね。不正なハッキングは難しいでしょう」
「ありがとうございます。怪しい人、怪しい動き、絶対に見逃しません」
 俯きがちでどもりがちな、いつものテレサとは違う。セキュリティスタッフと共にカメラ映像の監視をする『ホワイトレブナント』はあらゆる不当と不正を許さない。

『やぁ、すずきさんだよ。学生達の行動予定? こっちも今纏めてるところだけど‥‥』
 UNICOのセキュリティ強化の影響を運悪く受けてしまったのがエヴァ・マルタンである。彼女の技術を以てしても現状のUNICOネットワークのセキュリティは破れず、他の学生達の連絡内容などを盗み見る事ができなかったのだ。そこで、今回の学生会会長候補の一人でもある真純清輝が学生達の情報支援として行動を纏めていると知り、連絡を取った次第である。
「派手なサプライズを計画している学生も少なくないだろう、それで島民が逆に混乱してはよくない。『種明かしにならない予告』をするくらいなら、彼らの邪魔にもならないと思うのだけど。マスコミ対策にもなりそうだ」
『うーん‥‥』
 エヴァの電話口では、清輝が唸っている。時折忙しくキーボードのキーを叩く音も聞こえていた。
『完全な把握はできてないんだけど‥‥えーと、じゃあこの辺の時間に――』
 簡単な打ち合わせを手早く済ませると、エヴァは島を管理する行政の施設へと向けてミニバンを出す。島民への広い告知は、自分達より彼らに任せた方が何かと都合がいい。
「その前に‥‥クルーズ乗客のメールアドレスを頂戴しないと」
 車内でノートPCのキーを滑るように打ち、何度目かのアクセスでハッキングを成功させる。
 彼女は『プロヴィデンス』。遍く全ての摂理たる名を負う女は、予測不能な未来であろうと統制を崩す事を許さない。

 彼女らの下準備により、何も知らない島民やイリュージョンクルーズ中の乗客達は大抵の事は『イリュージョンイベント』として受け入れてくれるだろう。
 為すべき事を為せるかは、後は君達次第だ。

◆海からの『嵐』
 不審船相手となれば舞台は海。海へ出るには、何を置いても足が必要だ。
「乗り物の事なら任せてくれ! 小型船の手配もするし、メンテナンスも請け負うぞ」
 陸海空、様々な領域での活動手段を持つ自分達こそが相応しいと、『交通委員会』の招致に名乗りを上げている部活であるエクストリーム部。その部長であるヴェイン・アルカディアは、副部長の竜胆芽美と共に海への出発を間近に控えた船を見回りながら声をかけていた。
 これはUNICOの怪盗として島の宝を守る戦いであると同時に、学生同士でも実績を競う場であるのだ。そしてそれは既に始まっている。
「レイミロ、零、おかえり! 燃料補給ね」
「助かります。不審船のおおよその動きは掴めてきました、やはり港に着ける船が多そうです」
 帰還を労う芽美に、礼を言うレイミロ。会話が聞き取れずとも、動きをつぶさに観察していれば見えてくるものはある。上空からの偵察は成功だった。
「じゃあ、この辺りで実績を作らせて貰おうかしら」
 腰には拳銃を、肩には狙撃銃を担ぎ、手配された小型モーターボートの一隻に乗り込んだのはアウラ・メルクーリ。数ある部活でも最大人数を誇る射撃部の部長である。
 彼女の言う実績とは勿論、委員会――『学内警邏隊』の招致の為だ。
「私達の銃は、使えば必ず相手を傷付け、時には命を奪うものよ。でも、その威力を知っているからこその抑止力にもなり得る。警邏隊としての任務を全うできるのは射撃部だと示してみせるわ」
「私も手伝うよアウラ!」
 アウラの船に部員のアデライン・エルムズも乗り込む。彼女達に操縦技能は無いが、エクストリーム部経由で手配された船であるため操縦士もいる。
 もう一人、射撃部員であるアルフォンス・サインツもこの場にいたが、彼は同乗を断った為ボートは二人を乗せて出発していく。
(学内警邏隊か‥‥山岳部の方も希望してたよな‥‥)
 アルフォンスは三つの部活と同好会を掛け持ちしているが、その内の二つが同じ委員会の招致を狙っているのだ。どちらの招致に協力すべきか揺れ動く彼のような学生は少なくない。
(いっそ、二つの部活で共同でやればいいんじゃないか‥‥?)
 悩みながら、彼もコネで手配したクルーザーに乗り込んでいく。
「このような戦場です。船同士が接舷せねば攻撃できない格闘武器より、遠くから撃てる射撃が有利なのは道理でしょう。ですが」
 立ち上がるトゥーリ・コイヴを、黒い霧が一度、二度と包む。破壊衝動に忠実な『炎の剣』としての面を露わにした彼女は、剣のように対物銃のグリップ端を地に置いた。
「武道同好会だからといって、原始的な武道しかないとは思わない事です。必要に応じて使い分けてこその武道。人数ならこちらもほぼ互角。
 『学内警邏隊』‥‥その任、貰い受けます」
「存分に示すがいい。お前の精度が増し、火力となるのなら、我はトゥーリと共に在ろう」
 武道同好会副会長トゥーリの宣言に、花鼓鴇が不敵に笑んで寄り添う。
「ミーもお手伝いするヨー!」
「他所の部だが、槍剣に借りは作っときたいからな! 加勢するぜ」
 エラ・ウォーカーや、部が違うジェームズ・クレイトンまで集まってトゥーリを援護する。ヴォルク・ヴァレリィも特に何かを言う事はしないものの、黙ってトゥーリに従うつもりでいた。
 少なくとも、今の所は。
 その時、エラのAiフォンに着信が入る。島の外周を折りたたみ自転車で回っていた氷見彩玻だ。
『えっと‥‥その、トゥーリはそこにいる‥‥?』
「イルヨー! ちょっと待っててネ!」
 エラから代わったトゥーリが受けた連絡は、今この場にいない彩玻がその目で見ている光景だった。
『こっち、にも‥‥船、いくつか‥‥来てる』
「わかりました。場所の詳細を。そちらへ向かいます」
 港から出撃していった他の学生と差をつけるなら、またとない機会だ。彩玻から場所の詳細を聞いたトゥーリは、仲間達の顔を確認して言う。
「武道同好会、いざ」

 港の正面から不審船の迎撃に向かったアウラ達の船は、まず射程ぎりぎりから牽制の威嚇射撃をした。
「止まりなさい! 近寄れば次は撃つわ!」 
 言葉でも伝えるが、応答する様子はない。
「船、止まらないねー‥‥聴音装置は?」
「船のモーター音がうるさいけど、時々何か聞こえるわ。男の声がいくつか‥‥『用意しろ』って、何かしら」
 その間にも、船は迫ってくる。甲板上に人がいる事も判別できる距離で、更にこちらへ何かを構えている。
「望遠カメラ‥‥では無いわね。用意しろっていうのは、武器の事だったのかしら。アデラインさん、準備はいい?」
「いつでもいけるよ! 練習の成果、ここで見せちゃう!」
 アウラは狙撃銃を、アデラインは弾を睡眠弾に変えた狙撃銃をそれぞれできるだけ身を伏せて構え、波で揺れるボートから狙いを定める。
 先に発砲してきたのは不審船側だ。アウラやアデラインもこれに応戦し、船同士の距離を保ちながらの銃撃戦が続く。
 一発ごとの命中率は射撃部員達の方が上回っていたが、問題は相手の数だ。
(あまりに分が悪い‥‥もう少し『舞台』らしくなってからなんて思ってたが)
 狙撃銃の先にサプレッサーを装着するアルフォンスの頭上後方から、プロペラ音が迫る。
 先程までは偵察目的だったレイミロ達の機体が、今度は攻撃の応援として駆け付けたのだ。
「私より上手い射手はいるか」
 零がヘリのドアから狙撃銃の銃口を覗かせ、空から弾丸を放つ。
 不審船の男達も半数ほどは空へ向けて撃ち始めたが、レイミロが巧みにヘリを操り狙いを定めさせない。
「映画のワンシーンみたいに、か。『映画の出演者』側としては、割と命懸けなんだが‥‥」
 アルフォンスは操縦士に注文をつけると、スピードを上げたクルーザーの甲板に出る。激しく散る水飛沫は、その存在感を認めさせるのに十分だ。
「しっかりいい『夢』、見せてやってくれよルイ!」
 自分へと銃口を向ける男の、足元あたり。
 一瞬の狙いと共に、アルフォンスはそこを撃ち抜いた。

 港の表側での情勢が、UNICO側に傾き始めた頃。
 武道同好会の一行は彩玻と合流し、海を行く足が無い者にはエクストリーム部の二人が小型船を手配していた。
(こんな所に船で来て、上陸はどうやってやるんだろ?)
 彩玻には疑問があった。こちら側に港はなく、あるのは切り立った崖だけだ。船を着けた所で、上陸は――
(‥‥よじ登れないことはない、のかな)
 例えば今、手配された船に自分達がロープを使って伝い降りているように。
 このような乗船方法を咄嗟に思いついた彼らも、流石はエクストリーム部といったところか。
「船に止まる様子は無し。‥‥では、ひとまず」
 当然の事のようにトゥーリが対物銃を構えると、彼女は静かに目を閉じる。海風がさらりと髪を撫でた、その直後。
 海の彼方で、大きな爆発音がする。
「主砲があればそれを、と思っていましたが。漁船に化けていたようですので、甲板を狙いました」
「容赦が無いな。それでどうする。このままここで狙い撃つか? 我は構わないが」
 トゥーリの主戦力である対物銃は威力こそ大きいが、バイポッドで設置しない限りは発射できないため、海への遊撃には出にくい弱点がある。近接されれば反応しにくいのも確かだ。その為に鴇やエラ達がいる。
「俺は沖の方に出て新手がいないか見てくるぜ!」
「‥‥‥‥」
 自前の水上バイクを飛ばしていったクレイトンを見送るヴォルクの中に、沸々と湧き上がるものがあった。
「‥‥やはりつまらん。俺は打って出る。交通委員会、船はあるのか」
「‥‥俺達の事か!?」
「他に誰がいる」
 まだ招致が確定してもいないのに委員会と呼ばれたことに驚いたヴェインだったが、船はじきに用意できると伝えた。
「ここに皆で固まっていても仕方ないのも事実です。上陸させずに鎮圧できるなら、それが一番でしょう」
「じゃあ、ミーも遊撃にいってきマース!」
「私は‥‥残ろっかな」
 やがて手配された船にはヴォルクとエラが乗り込み、崖下にはトゥーリと鴇、彩玻を残して一行は沖へと出ていく。
 
 果たして沖には、まだ別の船がいた。
 しかし、既に一隻はその甲板がやけに騒がしい。
「よっ、お前達も来たか! 俺はワイヤーをちょっとばかりスクリューに巻き込ませてやったとこだ!」
 まるで悪戯でも成功させたような笑顔で、クレイトンが水上バイクを寄せる。船が動かない腹いせとばかりに発砲してくる男達の攻撃を何とかかわしきるが、ヴェインと芽美がある事に気付く。
「あれ? ヴォルクとエラは?」
「崖下からさっきまで一緒だったわよね?」
 周囲を見回す彼らの元へ、更に追撃の銃撃。いくつかは水上バイクや船を傷付けたが、やはりヴォルク達が見当たらない。
「まさか、どっかで溺れ‥‥ヴォルクー! エラー!」
「『荒野の狼』。ここに参上」
 ヴェインの呼び声に応えるように、まずはヴォルクが船上の男の背後からシノビブレードで斬り付け、絶打の一撃で気絶させる。それに驚いて注目し、一歩引く男の仲間の一人がふいに霧を纏い姿を変える。
「『風魔玉響』。ニンジャなりの戦い方、見せるヨ!」
 エラが隣りにいた男の手をクナイで斬り付け、持っていた銃を落とさせる。
 二人はぎりぎりまでこの船に近付いた所で他の仲間の船とは別行動を取り、密かに乗り込んでいたのだ。
「‥‥海で名乗るには、いささか格好悪いな‥‥それはさておきお前達、命は大事にしてほしいものだが」
 二人から至近距離で武器を突き付けられると、男達は一人、また一人と降参の意志を示した。
「では、船から降りてくだサーイ! でないと、命の保証ができないヨ」
 エラの意図が掴めないままでいる男達の背を、おもむろにヴォルクが海へ蹴り落とす。
「海に落ちた方が生きられると言っているんだ。死にたいなら船に残っても構わんが」
 やはり意味がわからない男達の半分ほどはとりあえず海に潜り、半分ほどは疑り深く残る。去り際に操縦室のエンジンから忘れずに鍵を抜き取ったヴォルクがエラと撤退した後、海の向こうからトゥーリの砲撃が船を襲った。

 この日、不審船でセルティックフルート島を目指した乗組員のほぼ全ては、その日の内に海上から救助されると同時に逮捕される事となった。

◆陸の『嵐』
 UNICOの学生達は、潜入者の足取りを追う。
「リンクなら、火薬の臭いとか危険な香りはわかるよね」
 狼を連れたシヴ・ゲイルドッティルは、狼を警察犬のように使って、武器を携帯しているであろう不審者を探した。狼もイヌ科であり嗅覚は鋭い。
 しかしながら、セルティックフルート島はUNICO所在地だけあって学生や講師が出歩いており、彼らの中には銃器を携帯している者や火薬の臭いをさせている者が少なくない。そのため捜査は難航し、残念ながら不審者につながる手がかりは得られなかった。
 シヴは他にも、白頭鷲を放って大空からも島全体を捜索させていた。こちらは港以外からの侵入を監視するのだ。

「どうだい、最近は?」
「ボチボチだな。客の入りも悪かねえ」
 繁華街では、やさぐれマフィア風の風体に変身したリュヌ・アカツキが、バーや酒場の用心棒を務めるその筋の者から噂話を集めていた。
 妙な騒ぎやシマを荒らされるようなことがあれば、教えて欲しい、とリュヌ。
 アルコールで口の滑りが良くなるため、夜の街は様々な情報が飛び交う。
 現時点では、侵入者が何を狙っているのかわからないが、騒動を起こすことが目的なら、いずれここを通して情報が入るだろう。

 メレディス・メイナードはショッピングモールや小売店を重点的に回る。
 セルティックフルートは常夏の島であり、あちこち歩き回ればすぐに喉が渇く。潜入者も人間だ。飲料水を入手しようとするはず。
 メレディスは観光客を装いつつ、怪しい風体の者はいないか、行きかう人々を観察した。
(財宝関係‥‥だとしても、ネイサン一味では無さそうですね)
 洞窟を探り当てたネイサンが部下を別行動させる理由はない。全戦力を投入して洞窟を攻略し、財宝を手に入れようとするだろう。そうなると、別行動している潜入者は、ネイサン一味のライバルか、敵である可能性が高い。
(街中ならホテル、郊外なら他に、拠点があるかも?)
 そう推理するメレディスには、ルシアン・グリフレットが協力している。
「ここも違ったか‥‥」
 何やら呟いて地図に印をつけていく。
 ルシアンは、キャンプ場など野宿や野営に適した場所に不審者がいないかどうかを調べていた。
 宝の横取りが目的なら、大きな荷物を運べるように大型の車両、オフロードカーを手配するはずだ。キャンピングカーもあり得る――といったことを考慮しつつ、一つ一つの可能性を潰して、潜入者の行動範囲を絞り込んでいく。

「‥‥かかったわ」
 Aiフォンの画面を見つめていたガブリエラ・ユレがニヤリとほくそ笑む。 
 彼女は情報屋を通して、挙動不審な余所者たちが泊まっているホテルの場所を知り、そこにWifiカメラを仕掛けていたのだ。しかも、わざと見つかりやすいように囮のカメラまで設置している。
「なんでカメラが仕掛けてあるんだ?」
「さては『伯爵』の手先が‥‥!」
「いや、それはあり得ない」
「ここは危険だ。とにかくずらかるぞ!」
 囮カメラに気づいた男たちは慌てて荷物をまとめ、チェックアウトする。その時、彼らが短機関銃など物騒なものをトランクに詰めるのが映っていた。
「どうやら、ビンゴみたいね」

 不審な四人組はホテルを出て移動する。
「きゃっ」
 焦っていたためか、男の一人が、通行人の女性にぶつかってしまう。
「痛いじゃないの?」
 抗議する女性に謝りもしないで、男達は去っていく。
(‥‥なんてね。上手くいったわ)
 女性はぶつかった際、相手に対人偽装レーダーを取り付けた。
(間違いないわね)
 裏社会で生きてきた者がもつ特有の空気というかニオイを、ヴェロニカは彼らから感じ取ったのだ。

 不審な四人組はレンタカーを借りて移動する。その動向は、テレサが手を回した監視カメラ網や、ルシアンのレンタカーショップへの聞き込み、ヴェロニカのレーダーによって把握されていた。
 さらに――
(影から逃れる事は出来ねェ、影はいつもテメェを見つめてるぜ)
 黒い服装を好む黒髪の追跡者、影と例えるに相応しい、石動詩朗も、彼らを監視していた。
 このようにしてUNICOの学生達は協力し、連絡をとりあい、潜入者を追いつめていく。
 四人を乗せた車は郊外へ走っていき、そこで留まった。
 降りた男達に、一人の捜査官が近づく。
 彼は犬を連れており単に巡回か散歩中と思われたが、後ろめたいところがある(武器を隠し持っている)男達は「嫌なヤツと遭った」という態度を隠せなかった。

 ワンッ ワンワンッ!

 何かを感じ取った柴犬が盛んに吠え立てる。
「どうした、ゴンスケ」
 捜査官は飼い犬の反応から、男たちの様子がおかしいことに気づいた。
「そのトランク、何が入っているんだ。開けてもらおうか?」
「ちっ」
 男の一人が舌打ちする。そしてトランクを開けるフリをして――隠し持っていたピストルを晴に向けた!
 銃声が鳴り響く。
「ぎゃっ」
 悲鳴を上げたのは悪漢の方だった。手を撃たれてピストルをとり落とす。
「武器を捨てなさい!」
 UNICO制服に身を包んだ天空院星が、洋傘に偽装した銃を撃ったのだ。
「鎮圧用のゴム弾ですが、当たると痛いですよ!」
 状況判断からの見事な早撃ちである。
 不審者四人組と捜査官達の、戦いの火蓋が切って落とされた。

 ガルルルルッ!!

 ゴンスケが威嚇する。
「!?」
「今だっ!」
 晴は柴犬に注意を向けた不審者へ、投げ手錠を放った。
「くっ‥‥しまった!」
 腕に手錠がガチャリとはまって焦る男を、晴はすかさず取り押える。
「確保っ!」
「警察の犬め。ハチの巣にしてやる!」
 サブマシンガンをトランクから取り出した男が反撃しようとするが、
「ぐはぁ!」
 トリガーを引く前に、星の撃ったゴム弾をまともに食らい、仰け反りかえる。
「クソッ、なんてこった」
 一人は逃げようとするが、背後からヴェロニカが忍び寄って男の首に細い鋼糸を絡みつかせた。
「うげえッ‥‥」
 ヴェロニカは蠱惑的な微笑を浮かべ、男の耳元で囁いた。
「バカね。逃がすわけないでしょ」

 不審者四人組は武器不法所持および傷害未遂で現行犯逮捕された。
 早速、取り調べが行われる。 
「腹が減ったろ。何か食べるか?」
 晴が出前を手配する。彼の出身国・日本では、取り調べの時、カツ丼の出前を頼むのが伝統らしいが、果たしてセルティックフルート島の飲食店でカツ丼を作ってくれるのかどうかは謎だ。
「‥‥‥‥」
 男達はだんまりを決め込んでいる。
「一体何の為に、この島に来たんだ?」
 これにも答えない。
「あら、口が堅いのねえ」
 そこに、癖のある長い黒髪を掻き上げ、豊満なバストを見せつけるように揺らして、アルカ・アルジェントが歩いて来た。
「私、カタいのは大好きよ。ウフフッ」
 艶やかな仕草と物言いで、男達を虜にする。
「ねぇ‥‥遊び足りないでしょ? もっと欲しいでしょ? それなら、私に全てを委ねなさい」
「あたしもあなた達に訊きたいことがあるのよね。教えてくれないかしら?」
 また、褐色肌の美人、ヤスミナ・リベラが、心を見透かすような青い瞳でじっと見つめ、いくつかのキーワードを挟んで会話を投げかける。
 注意深く相手の様子を観察したところ、特に反応があったのは「伯爵」という言葉だった。
 さらに。
「ネイサン一味がこの島に来てから、きみ達のような怪しい連中がやって来た。これってタイミング良過ぎだろ?」
 氷見侘助がズバリ、尋ねる。
 四人組は既に事情をかなり掴まれていると観念し、ついに口を割った。
「アンタらは、インターポールだな」
「任務に失敗した以上、もう戻れない‥‥俺たちを刑務所にブチ込んでくれ」
「身の安全を約束してくれるなら、少しは話す」
 ICPOに照会したところ、男達は前科のある犯罪者だった。マフィア崩れのフリーランスで、大金を積まれてある男の拉致を請け負ったらしい。
「俺達のターゲットは『伯爵』、ネイサン・ウィンスターだ。依頼人の名は明かせない……俺達が消されちまう。これだけは勘弁してくれ!」

◆死の陰の道と死の淵
 島外からの『嵐』と一応の決着が見えそうな頃、ここでは別の試練がUNICOの学生達を待ち構えていた。
 ネイサン一味とエリザベトの取り巻き達、両方を相手取りながら洞窟最深部のドレークの宝を目指す――怪盗としてはある意味、こちらこそが本命とも言えよう。

 洞窟第一の関門、通称『死の陰の道』。
 財宝を守るために仕掛けられた罠の数々は、無知な盗掘者や侵入者を幾度も死の罰で退けてきたようだ。
「白骨死体‥‥か。ぞっとしないな」
 洞窟を進む崎森瀧の視界の端に、壁に凭れたまま倒れたような人骨の残骸が見えた。
 一歩間違えれば、あれは自分達の未来の姿なのだと思い知らされる。
「仮にも競争である以上、あまり時間はかけられませんが‥‥この人数では、かけざるを得ませんね」
 同行するミセラ・リーヴィスが、自分達と共にこの道の攻略に当たっている学生達を振り返る。

 ――四人、だ。
 エリザベト側の取り巻きも人数に入れればもう少し増えるが、それでも多くは無い。
 向こうも入口の試練は最小限の人数での攻略を考えているらしい。

「人数が多ければ、人海戦術でマッピング作業ももう少し捗っただろうが」
「逆に考えてみようよ。この洞窟は道幅がそこまで広くはないし、合計体重も軽くなるから落とし穴系にはまりにくくなる、とか」
 罠の有無や分かれ道、現在地情報などをノートPCでデータ管理しマッピングしているニコライ・ホーキンズに、ジョー・プリンスが提案する。
「私達はそれで良くても、後から来る皆さんの方が人数は多いはずです。その時になって罠が発動してしまったら、笑い事では済みません」
「だとすると‥‥敢えて発動させておいて、わかりやすくした方がいい罠もあるかもしれないね」
 ネイサンには先行を許してしまっているが、エリザベト側に関してはここをクリアできなければ進めないのは同じだ。壁や床の感覚、人数の少なさゆえに一声かければ立ち所にに全員が静まる利点を活かし、一行は慎重に進んでいく。
 どれほど進んだか。暗くなる一方の洞窟で、ついに暗視装置の無い瀧が何かに足を取られ躓いた。
「っと、何かに引っかかったか? まさかこれほど暗いとは‥‥」
「洞窟ですから、明るくはならないですよ。LEDライト、付けますね」
 ミセラが瀧の足元をライトで照らすと、そこには人骨より柔らかく弾力のある、しかし何かに濡れた跡のある個所には大量の虫が――
「下がれ! 罠だ!」
 微かな振動を感じ取ったニコライとミセラに、半ば強引に瀧が後退させられた直後。今まで彼がいた場所には、天井から無数の槍が降り注いでいた。
「さっきの‥‥人の腕、だったのか‥‥?」
「今のが罠なら、発動する為の仕掛けがあると思うよ。昔の洞窟だから、センサーなんて無いはずだし‥‥床もよく見て歩いてみようよ」
 ジョーの意見により、一行はより一層慎重に罠を警戒しながら進むことになる。少ない人数で罠や迷路を確認しながらの進行であった為かなりの時間はかかったが、彼らそれぞれの能力が優れていた事、また後方支援が充実していた事もあり、この後無事最初の難関を突破する事となる。

 一方、洞窟の外では。
「ガーゼが切れましたね‥‥清輝さん、備蓄はまだありますか?」
「お疲れ様、スイホさん。備蓄の箱は全部あっちに纏めてあるよ、ガーゼは確か二列目!」
 栄相セイスが中心となって用意された洞窟外の救護所では、栄相サイス集推スイホも手伝って運ばれてくる怪我人達の処置に当たっている。清輝も必要とあらば手当を担当する傍ら、彼女は救護所の在庫管理だけでなくあらゆる地点の状況の管理も一手に行っていた。
(客船の方は‥‥特に被害の報告は無いね。色々あったみたいだけど、うまくやってくれてるのかな)
 Aiフォンの連絡履歴を一瞥して胸を撫で下ろす。マフィアのボスに一般の乗客を危険な場所から遠ざけてほしいと頼んでいたのだが、その時になぜか機嫌が悪そうだったのか印象に残っている。金でも要求されるかと思ったが、それは別件でアテがあるから構わないとの事だった。
(他にも誰か、彼に何か頼んだのかな)
 ちなみにその別件とは『かわいそうな籠の鳥』に関係する用事であるのだが、そこまでは清輝の把握するところではない。
(ま、お金とは別に後で御礼は言っとこう。それより今はこっちこっち!)
 学生会会長候補、真純清輝。ほぼ事務管理に徹するその姿は、怪盗達の会長候補としてはあまりに華が無く、地味に映った事だろう。
 しかし、それこそがこれまでを『普通』に過ごしてきた彼女の姿であり、彼女の目指す会長像でもあった。
 事実、彼女の縁の下の働きが今回果たした役割は、それなしでは全体が破綻していたかもしれないほど必要不可欠なものだったのだ。

「スイヤ、怪我人を回収してきた。恐らくネイサンの手の者だが、ほっといて死なれるのも後味が悪いからな」
 洞窟から救護所に現れたのは、大怪我をした男に肩を貸している瀧。
「どうやったらこんな怪我を‥‥とにかく、中へ」
 救護所の護衛をしていた集推スイヤがそれにいち早く気付き、瀧達を救護所内へ促していた。
 護衛を始めてからは敵襲らしい敵襲もなく、精々野鳥や野生動物が辺りを通り過ぎる程度で、スイヤの役目は本来の武力による護衛よりは救護所にやってくる怪我人を見つけ案内する事が主になっていた。中には罠によって歩行が難しい者もいるため、彼女の働きも重要なものになっている。
「酷い怪我‥‥はやくこっちに!」
 新たな怪我人に気付いたセイスが寝床に案内する。この救護所は当初、雨露や日照りを凌ぐテントも無かったが、早い内にそれに気付いた清輝がUNICOの医療スタッフに必要最低数の確保を要請したため、今は救護テントの中に簡易マットを敷いて寝かせる形になっている。
「もう大丈夫、安心して怪我を見せてね!」
「どうやったらこんな怪我‥‥何か、凄く固いものを押し付けられたか、叩き付けられたみたい‥‥」
 あらぬ方向に指が曲がり、痛みに悲鳴をあげる男と、その手を包帯で固定していくセイスを見ながら、サイスが怪我の原因を推理する。
「岩に‥‥、挟まれ‥‥う、ぐ‥‥っ」
「それは‥‥痛かったね。セイス、処置はこれで終わり?」
 包帯を巻かれた腕がそっと置かれるのを見てサイスが尋ねると、セイスは首を横に振る。
「骨折だから、ほんとはもっとちゃんと固定した方がいいと思う‥‥」
「しかし、ギブスの用意までは‥‥」
 スイホも困っていると、PCの画面から顔を上げた清輝が1本のアンプルを差し出す。
「使ってみる? この際出し惜しみはなしだ。この超科学の薬なら、何人かはすぐ治せると思うよ」
 それに、ネイサンの者なら回復させてから情報を聞き出す使い方もある――と、考えなかったわけでは無いが。
「ありがとう清輝さん! 使わせてもらうね!」
 心から感謝して回復薬を受け取ると、セイスは患者に注射した。

◆Welcome to Celticflute!
「皆さんこんにちは。私、今日は大西洋マカロネシアにある常夏の島、セルティックフルートに来ています」
 港に停泊している豪華客船をバックに、マイクを持って明るくおしゃべりするこの美人は、TV局のリポーターだろう。カメラマン、音響係、照明係などが周りにいるし、間違いない。このように見てわかる連中はまだいい。問題は見ただけではわからない記者連中だ。彼らは観光客に混じって島内をあちこち嗅ぎまわる。
(あの男は、ゴシップやスキャンダルを好む週刊誌のライター‥‥こっちはステイツの有名なタブロイド紙の記者だな)
 フェルナンド・コステンは人混みの中から、マスコミ関係者を見つけ出す。SNSを監視したり、インターネットで情報を集めた努力の賜物だ。
(さて‥‥奴らは『報道の自由』を遠慮なくふりかざすだろうから、俺達は『報道させない自由』でも行使するかね)
 フェルナンドのノートPCの画面には、セルティックフルート島のマップが表示され、その上をマスコミ関係者のアイコンが動いている。情報リンクは完璧だ。
 マスコミが動き始めたのと同時に、UNICOの学生達も行動を開始する。
 TV局の一団が港を歩いていると、前方からモクモクと煙が漂ってきた。
「スモークを頼んだ覚えはないぞ‥‥」
 ディレクターらしき中年男性がしかめっ面をしていると、煙の中から馬の頭をした人物の銅像?が現れて、動き出した!
 銅像に見えたのは表面に金属色コーティングを施していたからだろう。芸人がよくやる金粉を体に塗りたくるアレと同じ?
「レディースアーンド、ジェントルメーン! ようこそセルティックフルートへ。動画投稿集団・RUCGの部長が歓迎しよう!」
「RUCG‥‥?」
 美人リポーターが小首を傾げる。
「知らない? あ、そう……最近巷でプチ話題な動画配信者よぉ!」
 馬頭の怪人は(マスクを被っているので表情はわからなかったが)残念そうに一瞬声のトーンを落とすが、すぐにハイテンションに戻って喋り続ける。
「今から、大食い大会を開いちゃうぜ!」
 いつの間にか、大量のハンバーガーや郷土料理の出前が届いている。
「参加者は俺一人!? ノープロブレム! ギャラリーの注目を独占だ! こりゃ最高の舞台だぜ!」
「それじゃ派手に行きましょう」
 さらに、きらびやかなステージ衣装を着た真っ白な髪の少女が現れる。
「BGMは、UNICOのアイドルフィオナにお任せ! 歌いまーす!」
 ノリノリで楽しそうに歌うフィオナに、観光客の目は釘付けになる。
「うぉぉおおおっ!!」
 馬マスクの口から手を突っ込んで無理矢理ハンバーガーを食べる怪人も、インパクト抜群である。
「……おごっ!? げふ、ごほ……ぶふぉッ!」
 あーあ。無理したもんだから喉に詰まり、しかも、水を飲むにもマーライオンするにもマスクが邪魔になって、大変なことに!
 まあ、これはこれでウケをとれるので問題ない?
「まだまだ歌うからね! 応援よろしくー!」
 窒息しそうになってもがき苦しむ馬マスクをバックに、フィオナは可愛らしく歌って踊る……シュールな絵面だ。
「よくわからないが面白いぞ、撮れ!」
「ご覧下さい、大道芸人のショーです。さすがは観光地――」
 ディレクターが食いつき、リポーターがそつなくコメントした。

 この後も続々と、面白おかしい人物や興味深い出来事が、取材班を待っていた!
「ドラゴンよ……私、ドラゴンを見たんだから!」
 島民らしい女性が街頭インタビューに応じ、とんでもないことを証言する。しかも、近くの民家の壁に血文字で大きくこう書かれていた。

『竜が血の代価を求めて ケルトの笛で踊るだろう 街に破滅が訪れる』

 カメラが血文字をアップで映し、リポーターが真剣な面持ちで述べる。
「こ、これは、何かの予言でしょうか!? いったい誰がこんなことを――」
 その様子を見て、血文字を仕掛けた鈴木一狼は笑いをこらえるのに必死だった。 
(よし! 上手くいったぜ。こうも上手くいくと、おもしれぇな)
「竜の血‥‥ハッ! もしかして、竜血樹のことかも知れませんねぇ~!」
「知っているのかね、君!?」
 取材班に同行し、関係者か現地スタッフのように振る舞っていたスゥズ・アイロニーが、マスコミが興味を示しそうなネタを提供する。
「ええ、この島の特産品に、竜血というのがあるんですよぉ~」
「では、『ケルトの笛』とは、セルティックフルート島のことか!?」
「それについてなんだけど‥‥」
 と、謎めいた女性が話に加わる。
「出すもの出してくれるなら、いい情報をあげるわ‥‥ウフフ」
 蠱惑的な笑みを浮かべるその女性は、いかにもな怪しげな雰囲気をまとっている。まるで、裏社会に通じる情報屋のような。
 なんか凄い展開になってきた、と美人リピーターはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 *

「くだらん。誰かのイタズラだろう‥‥」
 当然、UNICOの学生達が仕掛けたこのネタに食らいつかないマスコミもいる。
 そんな連中にバーニー・アルプが目を光らせており、見つけ次第、仲間に伝えた。
(ここの裏の顔を知られてスプリングなんちゃら砲とかやらかされたら迷惑なのですよ!)
 マスコミへの対処は報道部員に任せてもらおう――そう意気込むシャムロック・クラナドは、UNICOの制服に身を包み、頃合いを見計らって準捜査官として職務質問を行う。
「コホン‥‥あなたは誰で、何をしているのですか?」
「私は週刊インタラクチャースプリングの記者でして、観光と取材に来ています」
「身分を証明するものを拝見させてもらっていいですか?」
「え、ええ」
 記者は緊張の面持ちでパスポートを見せる。シャムロックはいかにも堅物な婦人警官といった態度でそれに目を通した。
「‥‥よろしいです。あと、この島にはICPOの警察学校があります。取材をするなら、上の方にきちんと許可をもらって下さい」
「いえ、観光スポットを見て回るだけですから」
 これならごく自然に足止めできるし、記者の取材欲を委縮させることができる。 

 さらに手の込んだ妨害を仕掛けたのが、小林三代である。
「アタシ、売れるためならなんでもします。あなたの力でアタシの歌を広めて欲しいんです」
 彼女はセルティックフルート島にやって来た男性ジャーナリストに、売り込み中のミュージシャン「三杉美咲」(もちろん偽名)として接触し、艶っぽい仕草や表情で魅惑。島内某所に誘い出した。
「秘密の場所で、とびっきりいいものを見せてあげる」
 期待させる言葉に男性ジャーナリストはまんまと引っかかり、鼻の下をだらしなく伸ばして約束の場所へと向かった。そこで彼が見たものは――――
「アタシを見てえぇーー!」
 地下ステージに、ギターを掻き鳴らして現れた歌姫。
 それと、自分と同じようにやって来たスケベ面の男性達だった。
「こ、これはどういうことだね、ミス・ミサキ?」
「ダブルブッキング? いや、トリプル‥‥それ以上だぞ!?」
「マンツーマンの秘密オーディションじゃなかったのか!?」
 甘い密会を勝手に想像して期待を裏切られた男達は、怒りの声を上げて殺到するが、三代はまんまと逃げた。

 *

 実態のないドラゴン伝説を追いかけ、面白おかしい島民、あるいは、迷惑な歌姫に振り回されて、マスコミ関係者達は、時間と体力気力を大幅に消耗した。
 そんな彼らを迎えるかのように、クイーンマリー号から大音量でビッグバンドの演奏が流れる。ディルク・ベルヴァルドが機械をいろいろいじくり回した結果である。
(少しでも‥‥マスコミの目を‥‥逸られたら‥‥いいかな‥‥)
 自分にはこれくらいしか出来ないからとディルクは謙遜するが、賑やかなミュージックは疲れきったマスコミ関係者の耳に届き、彼らの注意をひく。
 次のルイ・ラルカンジュの行動に意味ある形でつながった。
「お帰りなさい、クイーンマリー号へ。セルティックフルート島での取材はいかがでしたか?」
 船外へ向けてルイの声が響き渡る。
「空振りに終わったあなたも、徒労でお疲れのあなたも。どうでしょう、今から船内シアターでいいものをお見せしますよ♪」
 なんだなんだと、報道陣は船内シアターに向かう。
 舞台の上に現れたのは、仮面の紳士ローズ・デュ・ロザリー。深々とお辞儀をしてショーの幕開けを告げる。
「大スクリーンをご覧あれ。今より公開されますは、壮大なお宝伝説と、それを狙う悪党ども……果たして結末は?」
 銀幕に、アクション映画が映し出される。
 おおまかなあらすじはこうだ。
 大海賊の秘宝を巡って悪漢どもと怪盗たちが人知れず、争う。
 船舶同士の海上戦闘に始まって、洞窟に仕掛けられた謎を解いたり、危ういところで罠を避けたり、手に汗握る戦闘シーンがあったりと、ハリウッド映画にありがちな展開だ。
「皆、見たことない俳優だな。無名の俳優を起用しているのか?」
「銃撃や爆発はCGか? 特殊効果か? まさか、ノースタントじゃないだろう」
 巧みな編集によって臨場感たっぷりの、ノンフィクション風になっていて、ライブ映像のような味わいがある。
「よくできた自主製作映画だな」
「まあ、いい余興になった」
 マスコミ関係者は拍手を送る。彼らは見せられた映像を、ルイの提供した娯楽と思い込んだようだ。
 加工した事実を見せることによって、隠すよりも効果的に、事実への興味を失わさせる。
 すべては、ルイの思惑とおりであった。
「ふふっ、皆さん良い旅を。bon voyage!」

◆『嵐』の片隅
 ひとつ。
 華やかな薔薇とは違う、道端の野花のような、小さな約束の話をしよう。

 クイーンマリー号が、内外共に『イリュージョンイベント』で盛り上がる少し前。
 エリィ・トウドウミリーツァ・クルィロワは、インドのムンバイで逃がし損ねた『小鳥』を今度こそ放とうとしていた。
 あの時は『証拠』が無かった。完全に逃がせる状況も調えられなかった。
 だが、今なら。船から確実に逃がすなら、寄港している今しか。
(前の時の情報、覚えてる?)
(うん‥‥信用してる情報屋からは、『ヤクを使ってた教祖様なら催眠くらいできたんじゃないか』って)
(薬漬けにした上で、催眠術を‥‥って事?)
 それぞれMNで変身し、『小鳥』である少女チャンドニがいる部屋の近くに控えながら、エリィとミリーツァはわかっている情報を確認する。
(最後に声をかけた時も、無反応だった‥‥もし催眠術にかかってたら、逃げる事を拒むかも)
(‥‥それでも助けるわ)
 エリィも無策でこの場に臨んだのではない。とあるマフィアボスと交渉し、チャンドニの夫だという初老の男ルドルフに不穏な噂を届ける事に成功していた。彼が教祖を務める新興宗教、『Perfekte Welt』の元信者がルドルフへの報復を狙って船に潜伏しているという内容だ。
 事実、それらしい男(正体はボスの部下達なのだが)がルドルフの行く先々で視線を向けるようになっており、今や彼は部屋の前に護衛二人を立たせて頑なに引き籠ってしまった。これではチャンドニのトイレさえ行かせてくれるかわからない。
 そんな時。船外から足音が聞こえ、ルイに招待された報道陣がやってきた。『イリュージョンイベント』の始まりだろう。
 エリィ達もイリュージョンスタッフとしてルドルフを舞台があるホールへ誘ったが、彼は拒む。
「では、私達がここで最後のイリュージョンを。護衛の方々もご一緒に」
 美女に変身した後野祭が誘うと、少しの間を空けて扉が開く。無表情のチャンドニはルドルフにしっかりと腕を組まれていた。
 三人は示し合わせたように頷くと、まず祭が後方を振り返り「あ!」と声をあげる。
「今、あちらでお客様を見ていた男が! 確認してまいります」
「い、いや行くな! 護衛の一人を行かせる、途中まで案内しろ!」
 護衛の一人を離脱させた一瞬の隙にエリィはMNから黒い霧を生じさせ、ルドルフと残った護衛の視界を妨げる。その闇に紛れてチャンドニの手を取ると、上着と帽子を被せてその場から連れ去った。チャンドニはルドルフに助けを求めようとしていたが、彼は真の意味で彼女の理解者ではない。
 追いかけようとしたもう一人の護衛を裏拳で足止めしたミリーツァがエリィに追いついた時、エリィはチャンドニにメモを見せる。
『あなたは幸せになっていいんだよ』
 あの時、残してしまった後悔と約束を、ようやく果たせた。
 後でルドルフが彼女の奪還を求めたところで、チャンドニが正気に戻ればその悪行は忽ち暴かれる事だろう。
 暴露か、沈黙か。あの男がどちらを選ぶにせよ、今のチャンドニには精神と体力のケアが必要だ。
 無事に船外まで脱出し祭とも合流した三人は、彼女を一時的に救護所へと保護するのだった。
 回復した『小鳥』が、無事故郷の親元へ帰るのはもう少し後の話――。

◆『嵐』の中で盗んだモノは
 マスコミ関係者達が見せられたのは、ルイの提供した映画だけではなかった。
 クイーンマリー号の乗客を集めるだけ集めて、シアターで一大ライブショーが始まったのである!
 財宝を狙う荒くれどもが現れ、舞台狭しと暴れまくる。
「ヒャッハー! 財宝はいただきだぜ!」
「そうはいくか、お宝は俺達のものだあ!」
 悪党と怪盗が対立し、激しいアクションが目の前で展開する。かなりの迫力だ。
「ちくしょう、伯爵様さえ居れば!」
 ジェームズ・ワース扮する、下っ端が悔しがる。
 そこに満を持して登場したのは、棋流山デス男の演じる『伯爵』。
「ふはははははっ」
 高笑いとともに、華麗に舞う。
「待たせたな諸君。一流の悪の華を見せてやろう!」
 存在感、威厳、キャラクター性、全ての面が輝いている。悪の親玉とはかくあるべき、という美学を感じさせる名演技である。
 生きざまが芝居になる、とはまさにこのことか。
 これを見た観客の一人であるライターが唸る。
「いいなこれ……創作意欲が湧いてくる!」
 ディレクターも並々ならぬ関心を示す。
「こりゃあ、売れるぞ。誰だ伯爵役の俳優は? あと、このショーの脚本家も知りたいな。ぜひ、映画にしたい!」
 脚本を担当したのは中藤冴香だ。彼女はそれだけでなく、MNを駆使して何役かの端役をこなし、持ち前の技能や知識で、衣装や化粧の指導などもこなした。
(さぁ、楽しいステージにしてしまいましょう)
 音声や演出を担当するのは、エリーゼ・クレーデル。彼女はネイサンと直接話した経験を活かし、伯爵の声を再現したり、ハッキングを駆使して船内シアターの音響や照明設備をフルに使い、光と音のイリュージョンを実現させた。
 林秀玲も、司会進行や解説役を買って出て、ショーを盛り上げる。
 侵入者達が意外と簡単に逮捕されてしまったので、舞台を本物の現場からクイーンマリー号に変えての興行であったが、棋流山が企画して皆で打ったこの大芝居は、仲間とUNICOの秘密を守り、かつ、「華麗に盗み出す」という点で、非常に意味があった。
 それでは、彼らはいったい何を盗んだのか?
  
『イリュージョンクルーズは素晴らしい経験だった』

 という虚構の思い出を作り上げ、『人々の注目と心を鮮やかに奪った』のである!

(ついでに悪名も頂いたよ……伯爵)
 ネイサンが洞窟で宝を得ることに成功しようが失敗しようが、このショーで悪名と正体を衆人の目に曝け出されたのだ。
 もはや悪党としては生きていけないだろう。
 痛快極まりない、悪党への仕置きであった――――!



 21

参加者

c.それじゃ派手に行きましょうか。
真白謳(pa0003)
♀ 18歳 弾魅
c.大量のギャラリー!大勢のマスコミ!最っ高の舞台じゃァないか!
馬並京介(pa0036)
♂ 25歳 刃魅
z.【悪華】嘆かわしい。示してやらねばなりませんね。悪の華――“美学”を。
棋流山デス男(pa0049)
♂ 25歳 英魅
b.さて、仕掛けてみようかしら
ガブリエラ・ユレ(pa0050)
♀ 21歳 弾探
b.招致も兼ねます。何を成すにも情報は要、一つに限らず足がかりを探ります。
リュヌ・アカツキ(pa0057)
♂ 24歳 忍魅
b.さァ、仕事の時間だぜ…招致も懸けてな。
石動詩朗(pa0059)
♂ 24歳 刃忍
a.招致をかねた活動をさせてもらうぜ
ヴェイン・アルカディア(pa0074)
♂ 22歳 刃忍
b.招致活動も兼ねて。こちらなら我々の力を発揮出来そうだからな。
羽乃森晴(pa0077)
♂ 19歳 英探
a.真の「お宝」が何なのか、悪党どもに解らせてやらないといけないようだな。
アルフォンス・サインツ(pa0087)
♂ 23歳 弾忍
b.潜入した不審者を捜索してみます。
メレディス・メイナード(pa0098)
♂ 20歳 探魅
c.SNS監視部隊とでも洒落込むか。
フェルナンド・コステン(pa0100)
♂ 19歳 探知
e.陰の道の方で罠解除を。負傷者などの連絡も余裕があればしてみます。
ミセラ・リーヴィス(pa0110)
♀ 19歳 忍知
c.…どうしよう…
ディルク・ベルヴァルド(pa0112)
♂ 22歳 乗知
b.招致活動兼ねてこっちだな。
ルシアン・グリフレット(pa0124)
♂ 21歳 英探
c.むむ、私も報道部員としてなんかやらかしちゃうのですよ!
シャムロック・クラナド(pa0160)
♀ 18歳 英探
c.よろしく。マスコミを観光客にぶつけさせたりして、無力化する予定だよ
ゲルト・ダール(pa0208)
♀ 21歳 知魅
b.観光客を洗ってみるわ、招致もあるしね。
アルカ・アルジェント(pa0217)
♀ 22歳 弾魅
b.怪しげな観光客を調査してみる。部の招致も兼ねてね。
ヴェロニカ・ラプシア(pa0222)
♀ 19歳 英忍
a.【武】俺も混ぜろー!って事で暴れてくるかな
ジェームズ・クレイトン(pa0243)
♂ 21歳 探知
z.【衛生】ちょっと別にやりたいこともあるのだけど、最終的に救護所へ向うわ
エリィ・トウドウ(pa0266)
♀ 25歳 知魅
サポート
z.真実を盗み、代わりに思い出を残そう。盗んで終わりじゃ怪盗の名折れだ。
ジェームズ・ワース(pa0279)
♂ 26歳 弾魅
z.裏で、何が起きているのか。気づかれにくくなるものですから。
中藤冴香(pa0319)
♀ 23歳 探魅
z.【悪華】…やる事、多いわね…。映像が上手く集まればいいけれど。
エリーゼ・クレーデル(pa0404)
♀ 18歳 忍知
サポート
z.気になることがあるんだよなー…
氷見侘助(pa0418)
♂ 21歳 弾知
b.まあ一応こっちに力を入れる予定
ヤスミナ・リベラ(pa0422)
♀ 21歳 忍魅
c.悪党を追っていてとんでもない物を見つけてしまいました。どうしましょう?
ルイ・ラルカンジュ(pa0432)
♂ 23歳 英魅
d.【衛生】招致に向けてだけじゃなく皆の傷を少しでも治したいから救護所を。
栄相セイス(pa0459)
♀ 19歳 知魅
d.【衛生】・・・救護所のお手伝い、を・・・出来るだけ・・・。
栄相サイス(pa0460)
♀ 19歳 英探
c.重要事件の目撃談をネタに売り込み希望のミュージシャンとしてマスコミ接触
小林三代(pa0527)
♀ 19歳 英魅
a.【招致】学内警邏隊に【武】で参戦します。よろしくお願いします。
トゥーリ・コイヴ(pa0587)
♀ 19歳 刃弾
サポート
c.自分……そして部員の各々が思う報道の姿をぶつけ、招致、獲りますよぉ~っ
スゥズ・アイロニー(pa0673)
♀ 24歳 英知
サポート
a.招致活動も兼ねて不審船対処するね。
竜胆芽美(pa0728)
♀ 20歳 弾魅
z.す、全ては…み、皆とが、学園の為に…。
エヴァ・マルタン(pa0835)
♀ 25歳 知魅
e.力になれるよう善処、する。
ニコライ・ホーキンズ(pa0879)
♂ 20歳 忍知
z.私は…やらなくちゃいけない事があるから、行くね。
ミリーツァ・クルィロワ(pa0886)
♀ 20歳 刃乗
d.ちょっと、修正。
真純清輝(pa0904)
♀ 20歳 探知
a.アデラインさんも来てくれると心強いわね。狙撃お願いしても良いかしら?
アウラ・メルクーリ(pa0908)
♀ 25歳 弾魅
a.やるか。
ヴォルク・ヴァレリィ(pa0952)
♂ 22歳 英刃
a.(続き)要請しておいて貰えると、お手伝いできるかもです。
レイミロ・ロンゴロンゴ(pa0957)
♂ 18歳 刃乗
a.レイミロの手伝いと戦闘。
氷河零(pa1000)
♀ 18歳 英弾
b.調査してみるよー
シヴ・ゲイルドッティル(pa1004)
♀ 24歳 知魅
e.ちゃんと支援をしていこう
ジョー・プリンス(pa1047)
♀ 18歳 刃忍
b.やっぱりこっちで。もちろん招致に関する活動はやっていきますよ。
天空院星(pa1054)
♀ 20歳 弾知
a.【武】鍛練の結果を見せる時ネ。ニンジャなりの戦い方、守り方を見せるヨ
エラ・ウォーカー(pa1057)
♀ 22歳 刃忍
c.さてと、やることはきっちりやらねぇとな。
鈴木一狼(pa1081)
♂ 20歳 刃忍
c.よーし、やるぞ!あっ、投票もよろしく! → 【投票】ミユ
遊里覧ミユ(pa1087)
♀ 18歳 忍魅
d.まだどこかは考えていないけれど、委員会招致の手伝いを。
集推スイヤ(pa1090)
♀ 19歳 英弾
d.委員会招致のお手伝いをしますね。
集推スイホ(pa1091)
♀ 20歳 英魅
a.【武】委員会招致…ふぁいとー
氷見彩玻(pa1093)
♀ 22歳 刃探
a.アウラ、了解だよー! 招致の為にも頑張ろうねっ。
アデライン・エルムズ(pa1094)
♀ 19歳 弾忍
b.監視に努めますね。
テレサ・イーグルトン(pa1126)
♀ 18歳 探知
e.よろしくお願いします。
崎森瀧(pa1178)
♂ 23歳 英刃