【PS】黎明に咲く薔薇と

担当九里原十三里
タイプイベント 事件
舞台日本(Asia)
難度やや易しい
SLvC(紛争地域、島内)
オプ
出発2020/03/21
結果大成功
MDP紅嵐斗(pa0102)
準MDPナタク・ルシフェラーゼ(pa0155)
ルイ・ラルカンジュ(pa0432)

オープニング

◆怪盗、過去へ
 明治時代の日本に行き、当時の様子を探ってくること――UNICOにそんな任務が下されたのは突然のことだった。
 期間は1週間、場所は東京。
 任務はローゼンナハトの開発したタイムマシンの実験を兼ねており、仕事は「実際の明治の様子を見てくること」だった。

「これが開国したての日本かぁ……えーと、まずどこに行けばいいのかな? 隅田川の桜とか、そろそろ咲くころだよね?」

登場キャラ

リプレイ

◆満開の桜堤
「はー、すごいな……桜が満開だ」
 オリバー・カートライトは隅田川の川辺を歩きながら、両岸に咲き誇る桜並木を見上げていた。
 明るい川岸には菜の花の黄色い花も咲き乱れ、川辺を歩く人、船頭を頼んで川面を下る人など、かなりの賑わいを見せている。
「ここが明治の日本か……華やかだな」
 21世紀には「言問橋」がかかる場所から渡し船に乗り、オリバーは対岸へ渡る。
 乗り合わせた客の口からは、伊勢物語の有名な歌が聞こえてきた。
「名にし負はば いざこと問はむ都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」
 船が対岸につくと、団子を蒸すいい匂いが漂ってきた。
 団子屋の店先に座り、小豆餡と白餡、味噌味の餡が包まれた3色の団子を食べながら、オリバーはぼんやりと隅田川を眺める。
(活気があって、一見華やかだけど、この影では色々な事件が渦巻いていたのか……)
 明治期には目まぐるしく移り変わる時代の空気の中で、様々な事件が起こった。
 自分たちが太刀の付喪神から聞いた話がたとえ事件に繋がらなくとも、近代化が進む街は密かに不穏な空気を隠している。
(そう考えると過去から未来にかけて、人って根本的なところは変わらないのかもな)
 皿を下げに来た茶店の娘に声をかけ、オリバーは「最近、妙な奴らを見なかったか」と声をかけた。
 すると、娘はちょっと言いにくそうにしながら、この時期は仕方がないのだ、と口にした。
「陽気がよくなる春先はどうしても変な人が多くなりますね。春の風はきっと『妙な気』を誘うんですよ。だから『浅草寺』さんの向こうなんか特に……」
 吉原遊郭の場所は、ちょうど浅草寺を挟んで西側だ。
 団子屋の娘はその辺りは春になると治安が悪くなり、近づくのは嫌だと思っているらしい。
(寺の裏側か。俺がさっき通ってきた場所だよな)
 オリバーは団子屋を後にし、今度は「長明寺」のすぐ近くの桜餅を売る店に向かった。
 店の前には令和の日本のタピオカ屋を彷彿とさせるような長蛇の列ができていた。
 列に並んだ客に声をかけると、「この店は江戸からずっとこうだ」とのことであった。
「だって『里見八犬伝』の滝沢馬琴がね、この店が1年で桜の塩漬けを何十って使ったって小説かなんかに書いてるそうだよ」
「滝沢馬琴……その人確か、有名な小説家だよな?」
「ああ。今もね、たまに小説の先生やら政治の先生やら、桜餅買いに来てるのを時々見かけるよ」
 去年はあの人に会った、その前はあの人を見た、と客らは口々に明治の有名人の名前を上げた。
 そうしているうちに、1人の客が「あっ」と声を上げて列の先を指さした。
「あの人知ってるかい? 井上薫(いのうえかおる)先生の家の人だよ」
 スーツを着た明らかにこの場に不似合いな男が店の裏口から桜餅を受け取り、そのままスッと離れていくのが見えた。
 家の人、というがいわゆる「秘書」のような人物らしい。
 井上薫は有名な「鹿鳴館」の建設を進めるなど、明治の近代化に寄与した政治家で、かなり影響力の大きい人物だ。
「そういえば井上先生は、吉原に『良い仲』の花魁がいるって話でね」
 1人の客がそう言った。
「桜餅はきっとその花魁への手土産だよ。年季が明けるまで、遊女はあそこから出られないっていうからねぇ。この時期に買って届ければ、花魁の機嫌も良くなるってもんさ」
 吉原には国の運営にかかわるような人物も出入りしている。
 もしかしたら、吉原を焼く計画を立てている人物の狙いは、「春の陽気に誘われた狼藉者」の仕業に見せかけ、重要人物の「暗殺」を行う事なのかもしれない――オリバーはそんな可能性を感じたのだった。

◆教科書で見た街
 浅草十二階、とも呼ばれた「凌雲閣」は浅草公園の中にあって、未来の東京の街にそびえる「東京スカイツリー」と同じくずば抜けた存在感を放っていた。
 赤レンガ造りの建物の中にはエレベーターがあり、最上階まで登ると、東京中の街並みや、その向こうの海や山々までをも見渡すことができた。
「すごいなー……空気がきれいだからかな? これ、お台場のほうまで見えてるよね? わぁ、海岸線の形も未来の東京と全然違う……!」
 ナタク・ルシフェラーゼは展望室に集まった大勢の人々に混じって明治の景色を楽しんでいた。
 真下には浅草寺が見え、皇居やできたばかりの鉄道、満開の桜並木も見える。
 明治時代随一の高さから景色を楽しむには、今がベストシーズンと言ってもよかった。
「えーっと……? ねぇお姉さん、『鹿鳴館』ってどれか分かりますか?」
 ナタクは近くにいた見物客に声をかける。
 すると、皇居の東側に見える建物がそれだと分かった。
「あれかぁ、歩いていくにはちょっと遠いなぁ。手前の工事してる広いところって何ですか?」
「去年から、東京駅の建物を作ってるんですって。たくさんの線路を引いて、何年もかけてとても大きな駅になるそうよ」
 令和の東京駅にあるあの特徴的な駅舎はまだこの時期にはまだないのだ。
 ナタクはひとまず浅草から「鉄道馬車」に乗り、日本橋を目指すことにした。
 既にこの路線は電車に切り替えることが決まっているというが、今はまだ客車を馬が引いていた。
(うーん……令和の日本にある移動手段が全然ない。日本橋から鹿鳴館までは歩きかな? 人力車……?)
 移動に悩みつつ、そして楽しみつつ、ナタクは日本橋の停車場で降り、そこから人力車で鹿鳴館へ向かった。
 工事中の東京駅の騒がしい様子を見つつ人力車に揺られていくと、
「おー、これが鹿鳴館かー! 中に入りたいけど……ああ、門は閉まっちゃってるな」
 ナタクは鹿鳴館の前にある大きな黒い門の前で人力車を止め、その向こうに見える建物を見上げた。
 白壁が美しい洋館は庭に囲まれ、その門は真っ黒な和風の作りになっている。
「ねぇ、お兄さん、この辺って良くお客さん乗せて来ますか?」
 ナタクは車夫の青年にそう声をかけた。
 そして自分のスマホを試しに見せてみた。
「凌雲閣とか、鹿鳴館とか、今の時期だと隅田川の桜とかもお客さん多そうだけど、こんな板切れを掲げて喜ぶおかしな人を見ませんでしたか?」
「?? そりゃ何の道具だい? 鏡にしちゃ映りが悪そうだね」
 車夫はちょっと待って、と言うと通りがかった別の車夫に声をかけた。
 さらに、その車夫が別方向から来たシジミ売りに声をかけ、そのシジミ売りがたまたま通りかかった顔見知りに声をかけ。
 そうする間に、ナタクの周囲には人だかりができていた。
「ああ、そういうのだったかは分からないけど、東京駅の工事現場の近くで変な奴を見たよ」
 そう声を上げたのは、日本橋にある銀行に務めているという銀行員だった。
 東京駅の工事現場を見ながら「カシャカシャ」音を立てていたらしい。
「写真をやる人かと思ったけど、写真機を持ってなかったんだ。だけど、ガラス乾板(写真を焼くためのガラス板)みたいなのだけ持ってたから、変な奴だと思ってね」
「それって、いつくらいですか?」
 こっそり眼鏡に仕込まれたカメラで撮影しつつナタクがそう聞くと、「東京駅の工事が着工した頃」だという。
 その頃はまだローゼンナハトはタイムスリップを成功させていないだずだ。
(うーん……ガラス板、って多分スマホだよね? これで、ローゼンナハトじゃない「未来の人間」が明治に来てる、っていうのはほぼ確実かな)
 聞き込みを終えると、ナタクはひとまず宿に戻ることにした。
 明日は東京を離れ、銚子へ向かう予定だった。
(行きは「川蒸気」に乗って銚子に……帰りは総武鉄道の「陸蒸気」で帰京したいけど、1日……うーん、2日見ておいたほうがいいかなぁ。あ、そうだ。切符も手に入るかどうか早めに確認しないと!)
 ちょっと時間はかかるかもしれないが、頑張って遠征してみよう。
 ナタクはそう決意し、明日の計画を立て始めた。

◆神田から秋葉原まで
 歴史の授業を受けるのとはわけが違う――紅嵐斗はそう思いながら、東京復活大聖堂教会(ニコライ堂)の横を歩いていた。
 美しい白壁が光り輝き、緑青を纏った大きなドーム屋根は周囲の街の中でひときわ大きな存在感を示している。
 令和の時代まで残るこの建物も、1981年に完成したばかりでこの時期はまだ真新しいのだ。
(周りは木造の建物ばっかりだし、高いビルもないから未来の景色と全然違うなぁ……えーと、あっちが上野だよね? 秋葉原は……そうか、さっき通って来たあの貨物の駅が今の秋葉原駅か! きっとあの線路が山手線なんだな!)
 神田川の横を通り、九段坂方向へ向かって歩く書生姿の嵐斗の横を、大八車に荷物を載せたふんどし姿の男が忙しそうに過ぎていった。
 スーツを着た洋装の人物がいるかと思えば、未だに江戸時代のままの生活をしているような姿の人々もいる。
 これが明治の空気なのだ――嵐斗はそう、感慨深く思った。
(事件を計画しているのが誰なのかはまだ分からない。だけど……おれ達の「未来」と、この時代に生きる人達の「今」を奪わせはしない)
 書店に立ち寄り、嵐斗が本を眺めていると奥から店主が「おい」と声をかけた。
 その手にあったのは「文芸倶楽部」と書かれた雑誌だった。
「探してるのはこれだろう? 学生さんに要るだろうと思って奥に何冊かとっておいたんだ」
「あ……えっと、おれは」
「違うのかい? あすこへ通う学生さんかと思ったよ」
 店主はどうやら、嵐斗が近所の「東京帝国大学」もしくはその予科である「東京高等学校」で学ぶ学生だと勘違いしたらしい。
 気がつけば神保町へ差し掛かっている。
 令和の時代には「古本屋街」として有名なエリアだ。
「外国へ行きたいからって、翻訳を勉強する学生さんやなんかもよく来るよ。大学でもセークスピアとかトルストイ翁を教えてくれるっていうけど、本気で留学したけりゃ教えてもらうの待ってたら間に合わないっていってね」
 店主はそう言いながら、話の種にとこの時期は廃刊となっていた「国民之友」や、幸田露伴が編集長となった事で人気の出た「新小説」を出してきた。
 嵐斗は、試しに「吉原遊郭を扱った話はないか」と話を向けてみると、店主は「それはあれだろう」と言って、「文芸倶楽部」の古い号を出してきた。
 掲載されていたのは樋口一葉の「たけくらべ」であった。
「そうか、『たけくらべ』の主人公の美登利は、吉原の遊女の妹なのか……」
 嵐斗は雑誌をぱらぱらとめくりながらあれこれと思案する。
「ねぇおじさん、吉原って江戸時代から何度か火事になって焼けたっていうよね? 今あの街が焼けてしまったら、何が変わってしまうのかな」
 歴史を変えるのを目的とする者がいるならば、「吉原を焼失させる事で何が変わるのか」と嵐斗は考えていた。
 単に多くの人を殺す事で「そこから分岐する未来」を変えるだけなのか。
 それとも、死ぬことになる大勢のその中に「未来にとって重要な人物、またはその先祖がいるのか――。
 すると、店主はこんな事を口にした。
「今この時代に焼けてそっくりなくなってしまったら、あの街はもう再建しないかもしれないね」
「再建しない?」
「御贔屓は多いし、華やかな街だけれども……それでも江戸の頃のような賑わいにはほど遠い。昔はあの街がお江戸の中心みたいなものだった。でもこれからの日本は、そうではないだろうからね」

 西洋化を進める日本はきっと、吉原の街を過去のものとして置きざりにしていくだろう。
 店主のそんな言葉を反芻しながら、嵐斗はしばらく九段坂方面に向かって歩いた。
 すると桜が咲き誇る皇居のお堀の脇に、不思議な雰囲気の娘が立っていた。
「あれっ? もしかしてユー、ミーのこと視えてるネ?!」
 嵐斗に気づいて声を上げたのは、エラと名乗る1人の娘だった。
 一見、西洋人にも見えるが明らかに人ではない――話を聞くと、忍者道具である「苦無」の付喪神のようだ。
「ミーのお家はあの洋館ネ! 今、桜がいっぱい見えてとっても景色いいヨ!」
「えーと……日本の付喪神、なんだよね? なんでカタコトなの?」
「ずっと英国のマスターと一緒にいるから言葉移ったヨ! ミーのお家、30年くらいずっとあそこネ!」
 エラが指さしたのは、この時代の「在日英国公使館(イギリス大使館)」であった。
 本体の苦無はイギリス公使のコレクションとして館内に飾られているらしい。
「その前は忍者の家にいたから、戦に出た事もあったヨ。でも今は、ショーケースの中ネ。ミーみたいなのに出番がないことはいいことネ。平和が何よりヨ」
「確かに、苦無には出番はないかもね。だけどエラ、吉原にいた太刀の付喪神が『未来から来た人間が吉原を焼こうとしてる』って言ってたんだ。そういう話、聞いたことない?」
 嵐斗がそう言うと、エラは「うーん」と言って首をひねった。
「最近は火付けの話は聞かないネ。だけど危険な人間の話ならいっぱい知ってるヨ! 実は紀尾井坂で内務卿が暗殺された時も、ミー達はその前に刀の付喪神から聞いてその計画知ってたネ!」
「えっ、内務卿って大久保利通……えっ、ホントに?!」
「まだまだあるネ! 桜田門の前で老中が斬られた時に使った刀とも話した事あるし、土佐の坂本竜馬を殺した真犯人もミーは知ってるヨ!」
 本題から少々脱線しつつ……嵐斗がエラの話を聞いていると、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
 今日はそろそろ戻ったほうがいいかもしれない。
 嵐斗がそう思い始めた時、エラがこんな事を口にした。
「そういえば、ユーが知りたい話に関係あるかは分からないけど、ちょっと前にこんな話をしてる奴らがいたネ。『井上薫と渋沢栄一がいっぺんにいなくなったら、歴史が変えられる』って」
「えっ」
「なんか『怪しまれないように2人を始末する方法さえ見つかれば未来の日本は』えーと、なんだったネ? ああ、『我々ダブルオーの思い通りなる』って……」
「いや、それだよ! エラ、おれが一番聞きたかったのはその話!!」
 思わず嵐斗はそう叫んだ。
 やはり出てしまったその名前――やはり、事件の計画の裏には、彼の組織が関わっていたのである。

◆宵町のあかり
 提灯に火が入り、ベンガラ格子に差し込まれた造花の桜が妖艶に浮かび上がる。
 夜遊びに繰り出す人々が沿道に集まり、何かを待っていた。
 すると通りの向こうから、先走りの男が道を開けに走って来た。
「紅薔薇花魁の道中で御座ーい! 紅薔薇花魁の道中で御座ーい!」
 人混みの向こうに、真っ赤な蛇の目傘がゆらりゆらりとやってくる。
 振袖新造2人と芥子坊主頭の禿(かむろ)を従えて現れたのは、青い瞳の太夫紅薔薇である。
 三枚歯の高下駄で外八文字を踏み、ゆっくりと客の待つ揚屋へ。
 吉原ではこうして「花魁道中」をすることは少なくなっていたが、見世は客寄せと客を喜ばせるため、こうして江戸に行われていた慣習の復活を試みていた。
(政治の先生も大変でありんすな。吉原に出入りするのにも、いちいち噂が立ってならぬと、このごろははばかる方が多くなりんした。わっちがここへ来た頃とはだいぶ勝手が変わったのでありんしょうな……)
 紅薔薇は大きな簪をしゃらしゃらと振りながら、周囲の客らに微笑みかけつつ、そんな事を思った。
 花魁がわざわざ遊郭を出て客の元に出向かなければならないのは、相手が盛り場に出入りするのをはばかる場合が主である。
 今宵の客もそんな事情を持った男だった。
「伊藤卿はもう、お役御免を喰らうかもわからない」
 紅薔薇に膝枕をさせながら、客は愚痴交じりにそんな事を言った。
 伊藤卿、とは内閣総理大臣の事であり、この男自身も彼の下で重要なポストについている人物だった。
 疲れ切っているのだ、と察した紅薔薇は煙管を置き、深い皺の寄った額に白魚のような指でそっと触れた。
「そしたら、次にそのお役目をお受けするのはお前様でありんしょう」
 紅薔薇がそう言うと、男はばかいえ、と言い深くため息をついた。
 だがどうにもまんざらでもなさそうな様子である。
「俺には荷が重すぎるよ。寄ってたかってなんだかんだと悪口を言われるに違いない」
「お前様はそんな御人じゃありんせん」
「いや、誰がなったってそんなもんだ。出る杭は打たれる……みんな、何かを思い切り打ちたくって金槌を持って待ち構えているんだから」
 怖いよねぇ。
 そう言って、男は少し笑みを見せた。
 少しほぐれてきたのかもしれない。
 紅薔薇は床へ誘うように、男の首筋に手を遣った。
「行灯を少し此方へ……お前のその青い眼が見たい」
 男はそう言って、紅薔薇の頬に手を伸ばした。
 小兵で、いかにも昔ながらの日本人らしい男だ。
 しかし男はその小さな肩に、「時代」という重い重い荷物を負って生きていた。
「私が嫌がっていては示しがつかないから他ではそんな事は言えやしないが、西洋の軍服は私にはどうにも肩が凝ってならんのだ」
 紅薔薇の瞳を下から覗き込むようにしながら、男は漏らすように言った。
「だが、西洋人のような青い眼をして、色打掛で道中を踏むお前を見ていると、同志を得たような気持になる」
「わっちが、お前様の同志でありんすか?」
「……我々の持つ『異質さ』は、あるいは今のこの国に相応しいのかもしれない……そう思えるのだ」
 この男は抱くよりも、抱かれたいのかもしれない――そんな思いが、紅薔薇の中で確かになった。
 紅薔薇は子供を抱くようにして男を布団の中へ引きいれた。

「わっちには分かりんす。お前様は、天下を取る御人でありんすよ」
 床の中で一息ついた後で、紅薔薇はそう男に囁いた。
 男はそうかな、と言いながら紅薔薇の乱れた髪に手を遣った。
「うっかりその気にさせられては後が怖いのだが……お前は玄人だ。俺の心を盗んで甘い夢を見せ、欲しいものを手に入れる……それが『傾城』というものだろう」
「だからこそでありんすよ」
 紅薔薇ははだけた真っ赤な襦袢の襟を引き、男に微笑みかける。
「お前様はわっちの価値を試し、見出して引き立ててくれた御仁でありんす。吉原の花魁は大名道具……お前様は既に、それを使いこなしているじゃあありんせんか」
「だが次の首相は俺じゃないよ」
 そう、男は笑う。
「今からもう、井上卿にお呼びがかかってるのさ。俺はそのまま留任して欲しいと言われてる」
 剣だこのあるぷっくりとした指で、男はそう言いながら指折り数えた。
 紅薔薇ならば外へ漏らしはしない。
 そう思っているのだろう。
「井上薫だろう、そして大蔵卿には渋沢に声がかかる……ああ、知ってるよな、渋沢栄一という男を?」
「渋沢様は何度か、花柚子さんのお客で……ああ、でもあれは井上様がお連れしたと言っていんしたか」
 井上薫、渋沢栄一――この2人の男の名は最近、吉原でよく聞く組み合わせだった。
 馴染の遊女はいても、遊女達には三味線や琴をやらせておいて、もっぱら2人で話し込んでいる。
 そんな事が続いているようだった。
「お前様、ひとつお聞きしてもようござんすか?」
 もしや、という気がして、紅薔薇は男に問いかけた。
「井上様と渋沢様、もしこのお2人がいなかったら、これからのこの国はどうなっちまうんでありんしょう? 例えばお2人がこの吉原でいる間に街中に火がついて一緒に燃えちまったりしたら……」
「そりゃあ大変なことになるだろうね」
 男は声を立てて笑った。
 少々きわどい質問だが、そこは紅薔薇の秘儀が冴えた。
 気分を害した様子もなく、男はこう答えた。
「井上薫は方々に顔が利く重鎮だ。俺もあの人に引き立ててもらわなかったら、今のお職を頂けていないよ。そして渋沢栄一は……あの人がいなかったらこれから作ろうっていう銀行だの会社だのが、下手したら何百っていう計画が真っ白になるかもしれない。そう考えると恐ろしいね」
 男のその言葉に、紅薔薇は確信した。
 吉原を焼こうとしている者たちのターゲットは、井上と渋沢の2人なのだ。
「ふふっ……妙な事をお聞きして悪うござんした。では、明日も早いんでありんしょう?」
 紅薔薇はそう言って、男の肩に布団をかけた。
「もうお休みなんし、桂様」

◆狙われた2人の男
「無関係な人間を巻き込んで、被害を出す悪者は嫌いヨ。そういう輩を倒すためだったら、ミーを使っても構わないヨ!」
 英国公使館からちょっと本体である苦無を「拝借」してくるもの怪盗ならばお手のものだろう――そう、エラは言った。
 ナタクも「そうかもね」と言って頷く。
「銚子の方では特に情報もなかったよ。奴らが活動してるのは主に東京都内なのかもね。スマホで東京駅の工事現場を撮ってたのが未来から来たダブルオーだとすると……あたしが聞いた話とも一致する。奴らを止めないとね」
「ああ、井上と渋沢以外の人間も巻き込もうとするような非道なやり方も奴ららしいな」
 オリバーはそう言って顔をしかめた。
 座敷から外を眺めていた紅薔薇は顔を上げ「どうでありんしょう?」と花柚子に声をかけた。
「井上様と渋沢様は花柚子さんのお馴染みのお客でありんす。あのお2人を狙っているならば、下手人は井上様と渋沢様が揃って花柚子さんのところに来る日を知ってるに違いありんせん」
「確かに、未来のダブルオーならそういう情報も得られるだろうね。あとは吉原を焼く『Xデー』はいつなのか……花柚子さん、心当たりはある?」
 嵐斗がそう言うと、花柚子は分からないと言った。
 だが、井上は吉原を訪れる際は必ず、花柚子に手紙を寄越すという。
「もしお手紙が届けばすぐに、わっちから皆さんにお知らせいたしんす。そうすれば……」
 花柚子がそう、言いかけた時だった。
 文使いの新造が一通の手紙を持って座敷に入ってきたのである。
 差出人は、井上だった。

「暗殺の決行日が分かりんした。来るのは3月29日の夕方……いつもより早く渋沢様をお連れするので、わっちや何人もの遊女で座敷を盛り上げて欲しい、と……」
 花柚子はそう言って顔を強張らせた。
 井上も渋沢も、自分たちがまさか暗殺のターゲットになっているなどとは予想もしていないに違いない。
 明治の重鎮2人の暗殺、そして吉原炎上――そのXデーは3日後に迫っていた。



 7

参加者

a.この時代の空気は、教科書じゃわからないからね。
紅嵐斗(pa0102)
♂ 21歳 英忍
a.情報収集するんだから、色々な場所に行く必要もあるよね?
ナタク・ルシフェラーゼ(pa0155)
♀ 25歳 乗魅
b.じゃ僕、青い目の花魁になるー♪ がんばって情報収集しますね♪
ルイ・ラルカンジュ(pa0432)
♂ 25歳 英魅
c.(クナイの付喪神)『吉原』を焼かせないよう、手伝うネ!
エラ・ウォーカー(pa1057)
♀ 25歳 刃忍
a.ひとまず情報収集に勤しむかな
オリバー・カートライト(pa1468)
♂ 23歳 忍魅
 誰も道具が内緒話を聞くとは思いんせん。だから付喪神は物知りでありんすよ
吉原柚花(pz0049)
♀ 19歳