【PF03】毒の尾

担当野間崎 天
タイプグランド 授業(島外)
舞台カザフスタン(Europa)
難度やや難しい
SLvS(空港程度)
オプ
出発2017/12/29
結果成功
MDPアリス・クラーク(pa0456)
準MDP天空院星(pa1054)
真純清輝(pa0904)
ナタク・ルシフェラーゼ(pa0155)
エヴァ・マルタン(pa0835)
劉文(pa0392)
エラ・ウォーカー(pa1057)
ユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
スティーヴ・カラサワ(pa0450)

オープニング

◆赤い蠍
 UNICO冬季特別演習。
 学生たちは武器密輸を生業とする国際犯罪組織(インタークライムシンジケート)『赤い蠍』を倒すべく、動いた。
 コロンビアでは武装グループを壊滅させ、バングラディッシュでは難民キャンプを支援、ボリビアでは密輸貨物機を制圧し、イランではゲリラの手に渡った戦車を破壊。
 北朝鮮沖では拉致された核開発技術者を救出し、ロシアでは武器を横流しする腐敗した高級軍人・秘密武器工場・秘密生物兵器研究所の存在を暴露した。
 ――と、まさに世界を股にかける活躍。

登場キャラ

リプレイ

◆「悪党どもに正義の鉄槌を。良き聖夜と新年を」
 バイコヌール郵便局消印の封筒から、カードと黒いナイトのチェス駒を取り出した可児丸警部は、短い文面を一瞥すると、部下へと声を張った。
「バイコヌールへ行くぞ。怪盗達め、怪盗対策班を舐めるなよ」

◆手始めの情報戦
 バイコヌールに到着した学生達は、それぞれ活動を始めるが、時代は情報戦。まずは情報収集等の下準備から始める者が大半であった。
「戦争の引き金になりかねない事などさせないよ。たとえ神が決めたことでも、ひっくり返してみせる」
 マフィアからの迎えの車に乗り込みながら、ゲルト・ダールはひとりごちた。行先はバイコヌール市街地。そこでマフィアや情報屋から話を聞く予定だ。
「ついでで乗せていってもらえますか?」
 ゲルトを呼び止めたのはアガーフィヤ・コスィフ。こちらも市街地に用事やコネがある口であった。
 渋るマフィアをゲルトがとりなし、アガーフィヤも相乗りさせてもらった。これで移動に使われる時間が短縮される。

 初日は大きな動きはなく、それぞれ探りを入れてきた怪盗達は、基地の敷地内のとある小屋に集まってきていた。
 市街地から戻ってきたゲルトもだ。情報を突き合わせている怪盗達へ、マフィアと情報屋から買ってきた技術者達の情報を提供した。
「こいつは賭博好きでマフィアにも金を借りてるくらい。そいつは、一人でいる時間も長いから、入れ替わるには丁度良いと思うよ」
 職員との入れ替わりを考えている学生達は、ゲルトの話を傾聴した。
 一方、同様に市街地でコネにあたってきたアガーフィヤだが、こちらは失敗。頼った偽造屋に各種身分証の偽装を断られてしまったのだ。
 宇宙局の身分証の偽造は荷が重い、と。
 だが、アガーフィヤが仲間に頼んで用意してもらったこのアジトは良い位置にあった。今は使われていなさそうな雑多な物置。主要な発射台から近すぎず遠すぎず、比較的少ない危険で基地の各施設の様子を探ったり侵入したりするのに向いていた。
「ようやく着いたネ」
 と、そこに大きく寄り道したために現地入りが遅くなったエラ・ウォーカーも到着した。会いたい人物のいる場所がバイコヌールから離れていたためだ。
「それで、会えましたか?」
 アガーフィヤの確認に、エラは「ばっちりネ!」と数枚のコピー用紙を広げた。
「餅は餅屋ネ。反政府ゲリラ達に協力してもらったヨ」
 用紙には、幾人もの名前と役職が連なっていた。赤い蠍は世界の武器の闇市場を支配する存在。こことの取引もあったということで、彼らが分かっている赤い蠍のメンバーの名簿を借りてきたという。
「よく貸してもらえたね」
「『闇が外に出れば、政府はより強権を持つようになるネ。それは望ましくないでショウ?』って説得したネ」
 こんな兵器、表の世界を恐怖に陥れる前に、闇の中で対応すべきネ。エラの言葉にその場に居た者達は頷いた。
「助かる。俺は基地で外部に気づかれずに核弾頭を作らせるにはどれだけの人間が必要か。ってところから考えてみよう」
「地図はHALCOに送ってもらった」
 サイドスワイプ――紅嵐斗は、基地の組織図と人員リスト、建物の位置関係等から候補者を絞っていくつもりだ。地図は戦場の勇気ことユウキ・ヴァルトラウテがHALCOに頼んだ物だが、建物内部の物はメディアの露出があるような目ぼしい所だけだった。
「とりあえずHALCOの協力も仰いで、基地関係者のリストから『赤い蠍』の連中を特定しておこうか」
 ファントム・サワタリこと澤渡龍兵もHALCOに繋ぎ、集められた膨大な情報を整理するのを手伝ってもらうことにした。

 さて、名簿が手に入ったと喜ぶのは良い。だが、これを鵜呑みにしたり、全てだと思うような甘い者は怪盗としてやっていけないだろう。
 ここからは、情報の裏取りと、より深部へ潜入する為の行動が必要となってくる。
 そして、こちらではまず、自分達の前に尖兵を送り出そうとしていた。
 ローゼンナハトの技術力の結晶、ドロイド達だ。
 神崎真比呂の鴉なドロイドも、基地内の人の様子や流れを観察するのに向いていたし、真純清輝の鼠ドロイドも建物への侵入経路を探るのに活躍していた。
 サイドスワイプのトンボ型ドロイドも、小型で目立たない為、関係者の追跡に役立っていた。ただ、
「この時期にトンボか」
「何の種類だろうな。捕まえてみるか」
 と、童心に帰った職員に追いかけられる一幕もあったとか。
 そんな職員から逃げ切ったトンボは、役目を果たして、新たな関係者を探し出していた。

 そうして、中での活動の礎を築いていった怪盗達であったものの、基地の総面積は約5000平方kmと広大である。
 施設も分散して建てられており、どこで製造しているのか、当てもなく探し出すのは難しい。
 事前情報のなく、現地で調査しながらの捜索。となると、単独で侵入して潜伏するよりは、職員に成りすました方が行動しやすいだろう。
 天翔ける紅き狼、大神隼人もこの選択肢を選んだ。職員に入れ替わる事で潜入を果たしたのだが……はじめのうちはろくな情報を得ることができなかった。
 誰々が女に振られただの、旨い酒を出すおすすめのバーだの、日常生活をちょっと楽しくする情報ばかり手に入り、蠍に直接繋がる情報は得られなかったのだ。
 成りすますという事は演技力も求められるし、その人物の行動範囲をなかなか逸脱しにくいので、仕方がないところであった。

 あてもなく探すのが難しいのであれば、当然、狙いを定めるもの。だが、今回はそういう者が少なかった。
 スターシーカーこと天空院星が今回の怪盗達の中で唯一、なんとなくでも初めから核弾頭生産工場の場所の当たりを付けて調査を始めていた。
(こういった怪しい工場っていうのは、実は結構目立つ場所にあったりするんですよね~)
 ただの希望的観測ではある。だが、狙いを付けずに漠然と探すのとでは、目に映る景色も、手に触れる情報の密度も、全く違う。
 もちろん、見当違いで無駄足になってしまう確率は高まるが……今回は無事にヒットした。
 この度発射される最新型宇宙ロケットを打ち出す事が出来る2基の発射台。それらから等間隔の距離にある工場群の中の一つだけ、他の警備がやたらと厳しい所があったのだ。
 一般の職員は排除されており、鼠一匹通さない警備網。
 他にここまで警備の厳しい場所はなく、ほぼ絞れたようなものだが、ここに侵入するにはまだリスクの方が高い。
 そこで、学生達は一つ策を講じる事にした。

◆いただき核弾頭
「大筋の流れを確認します」
 作戦実行前、無貌の黒水晶、マクシム・ヴェッカーが新たに用意したアジトに皆を集めて作戦の流れを語り、それぞれの認識の齟齬をなくしていく。
 作戦を滞りなく実行する為に必要なポイントはいくつかあるが、ここで些細な違いから連携に失敗すれば、大仕掛けは成功しない。
 作戦参加者全員が理解した事を確認すると、無貌の黒水晶が手元の端末を操作して生産セクションへメールが送信された。
 送信元が偽造され、暗号じみた文面になっているそれは、一般の職員が読んでもいたずらとしてゴミ箱に入れられるだろうが、蠍の関係者であれば、顔を真っ青にするはずだ。

 メールを送信してから小一時間程経った頃、狙っていた工場を張っていたドロイドのカメラに写った車両を確認し、
「動き出したみてぇだな」
 言い残して狼は若い職員に成り代わり、出陣した。

 ロシアへ北上するべく2台の大型トラックが道路を走っていたのだが、突如道が爆発し、陥没した。
 突然の事態にトラックは急ブレーキを踏み、滑るタイヤは穴ギリギリで停止した。
 積荷を考えると絶対に事故をおこすわけに行かない訳で、間一髪で止まれて落ちずに済んだことに、運転手と、爆薬を仕掛けたスパローホークことアルフォンス・サインツは安堵の息を吐いた。
 そこに若い職員がトラックへと駆け寄った。トラックの運転手が運転席のドアを少し開くと、職員は口を開く。
「すまねぇ、テロかもしれねぇからちょっとあそこの整備場まで避難してくれねぇか」
 職員の提案に運転手は急ぐ必要があると鬼の形相をするが、職員は冷静に言い返した。
「色々調べられたら面倒だろぉ?わかってる。すぐ出発できるし、悪いようにはしねぇからよ」
 不敵な笑みを浮かべた職員に何かを悟った運転手は、舌打ちすると扉を閉めて、職員の示した方へハンドルを切った。

「こんなところに寄らせやがって……遅れたら命がねえってのに」
 職員の誘導で整備場に入り停止したドライバーは、寄ってきた整備士達に八つ当たりすべく声をあげようとして、エンジンも切らずにドアを開き、
「こういうのはスピード勝負だ」
 屈強な整備士の一人――不動に引きずり降ろされた。
 わけも分からないまま床に押さえつけられた運転手が顔をあげると、蒼焔のイリューシャが両手にコンバットナイフを握って控え、更に後方にはブループリントが拳銃を向けていた。
 もう一台の方も、轍の刃こと大世宮典人が強引に扉を開き、麗しきウンディーネが戦闘態勢をとる側でエウリュアレが拳銃を構えた。
 助手席にいた男が運転席に移り、舌打ちをして素早く扉を閉めようとする。
「逃がさないわよ」
 ブループリントのトカレフが火を吹き、銃弾が助手席男の腕をかするが、そのまま扉は閉められ、タイヤが甲高い音を立てて急回転した。
 だが、車体は進む事も戻ることもできなかった。
 エウリュアレの2丁の拳銃がトラックのタイヤを次々撃ち抜き、走れなくしたのだ。

 パンクさせられた事に気付いた蠍の構成員は、先に邪魔者を排除すべく両方の車から一斉に飛び出し、懐から拳銃を取り出して乱射する。
「そんなものに当たらない」
 サイレンサーで抑えられた射撃音と、蒼焔のイリューシャや槍剣を掠めた弾丸が床で跳ねる音が小さく響いた。
 が、数発分でそれらは止まり、代わりに響いたのは、蒼焔のイリューシャに切られた助手席の男の悲鳴。
 もう一台のトラックの方も、バチッという典人の指輪による電気ショックの音と一瞬の間を置き運転手が床に倒れる音。
 精霊達に現実の武器など効果がないかの様に、銃弾を受けても構わず突き進むウンディーネに蹴り伏せられた構成員が気を失ってやはり倒れる音。
 核弾頭の運び屋達が制圧されて静かになった作業場へ、誘導を行ってきた職員が戻ってきた。
「こんなとんでもねぇ物を盗んだのは初めてだぜ♪」
 職員の変装を解いた狼がニカッと笑う。核弾頭を盗んだ者など、この世に何人いるか。
「ですが、まだ油断できません」
「もちろんだ」
 このハリボテ整備場を用意させた無貌の黒水晶の小言に答えながら狼は日中の仕事中に見て覚えた手順で荷台のコンテナを開け放ち、中を確認する。
 2台のコンテナの中に並ぶのは核弾頭半ダースずつ。

「こいつを被せて、宇宙基地までご案内だ」
 アルフォンスが、清輝が移動時間で引いた図面を参考にそっくりに作っておいてもらった通信衛星のハリボテをグリエラにも手伝ってもらって運んで来た。
 本物と比べれば一発でわかるチャチさではあるが、近づいて見比べられなければ十分だ。
 そして、積んでさえしまえば、近づかれる心配はぐっと下がる。
 しかし、その分、嵩が増して元のトラックだけでは乗り切らない。
「そんじゃ、それはこっちに積んじゃえば」
 グリエラがハリボテを積んでいたウニモビの荷台を指し示す。載せるための重機もかっぱらってきている。
「……俺が、操縦する」
「私も手伝います」
 典人とウンディーネが重機を操縦して幾つかをウニモビの方へ詰め込み直した。それらの重機にはキーがなかったが、怪盗達の手にかかればなんとかなるものである。
「タイヤ交換と、さっきの戦いでトラックについた傷、直せるだろうか」
 蒼焔のイリューシャが万が一のマシントラブルへの対処の為に呼んでいた北海技研工業の技術者は、任せろと一言良い、怪盗達が核弾頭の偽装と詰替えを行う間にパパッと修理を終わらせてくれた。
「宇宙人のみなさんには申し訳ありませんが……」
 最後に、スターシーカーが宇宙人向けに『宇宙人の皆さん、できればこれは受け取らないでください。』とメッセージを添えると、核弾頭は3台のトラックで運び出されたのであった。

◆大胆なすり替え
『すずきさん、こっち』
『OKまっぴー』
 不破のコーイヌールの先導でAAAは基地の中枢を進んでいた。
 お互いにハンドサインとアイコンタクトで声を出さずに意思疎通している。不破のコーイヌールはヌルが排除した警備員の服装をしているが、それで確実にごまかせる程真比呂に演技力はないし、既に一介の警備員が紛れ込めるような区画でもない。
 よって、誰かに合わないのが一番であり、会ってしまった時には、素早く気絶させて拘束して隠蔽するに限る。
(とにかく、すずきさんの身の安全を第一に)
 不破のコーイヌールは、廊下の角から先を覗き込み、後ろをついてきているAAAに目配せすると、ペアリングによって思念を伝えた。
(あの先の扉の先にいるはずだよ。ここの監視カメラは無貌の黒水晶さんが無力化してくれてるはずだから、気にしなくていいよ)
(ありがとう、まっぴー)
 AAAは不破のコーイヌールの頭を一撫ですると、廊下の先へと歩いていき、ドアをノックして名乗った。
 まもなく、部屋の主――今回の衛星打ち上げのプロジェクトリーダーからの返事があった。
「来たかね。入りたまえ」
 AAAは入れ替わった研究員として、堂々と部屋の中に入りターゲットと対峙した。名乗って信用されたということは、首輪の変声機も上手く働いてくれているのだろう。
 とはいえ、AAAも素性を隠す事に長けていても、演技が上手いわけではない。ボロが出る前に、報告と言う名の催眠術を全力で仕掛けたのであった。
 あっさりと。そう思えてしまうほど、AAAの見事な手腕で積み込む衛星が変更になったと言う話を信じこまされたリーダーが、電話で部下に指示を出そうとするのをAAAが止めた。
「人員はこちらで確保済みです。過剰な労働はミスを誘発します。無理は禁物、命に関わります」
「……そうだな。なら、後の事は君に任せるよ」
 一礼してAAAは部屋を後にした。
(技術職のひとは、少なくとも、規定遵守って面では真面目だからねー。事実と認識してくれれば、奇妙でも……捻じ曲げられたものでも、受容れてくれる)
 後は、真面目にお仕事してくれればOKさ。

「わかったわ。それじゃ始めるわね」
 Aiフォンの通信を切ると、ワンダー・ウィッチことアリス・クラークは工場内を見渡した。
 人工衛星をフェアリングに格納する工場だ。既にロケットのペイロードとして取り付けを待っていた人工衛星が鎮座していた。
 程なくして、3台のトラックが工場前に停まり、工場の中へと核弾頭が運び込まれた。
 これから、ワンダー・ウィッチの指示で、人工衛星の積み替え作業が始まるのだ。
「正しい知恵と正しい心で制御されてこそ科学は幸せな夢を導くのよ」
 本当なら、工場内で人気がなくなるタイミングを見計らったり、人払いし続けたりして、急いで作業を進めなければいけなかったのだろう。
 だが、AAAの説得のおかげで、焦る必要はなくなった。
「水に始まり、カドミウム、インジウム、ハフニウムに銀。中性子制御に適した物質は数あれど、入手難度と重量的に炭化ホウ素が適役よ」
 本物の人工衛星であれば不要なこれらの物は、武器庫の様な場所から拝借した。
 軍用車両の装甲材や防弾チョッキにも使われる強靭な素材だからだ。敵の武力を削いで自分達の利にする。今回の作戦にはマッチしていた。
 押し入るのは簡単ではなかったが、サイドスワイプや朱雀が見張りの排除に協力してくれ、犯行の瞬間を捉えた監視カメラの映像や在庫のデータは無貌の黒水晶が改竄してくれた。
「そこは、慎重に……ゆっくり下ろして……良いわ。後は崩さない様に包んで」
 無事に12基積み上げられた偽人工衛星。計算通りにフェアリングに収まったのを確認すると、ワンダー・ウィッチはほっと息を吐いた。

◆技術者も人の子
 さて、ハード面の準備が着々と進む中、ソフト面の方の攻略も進められていた。

 あくびをかみ殺しながら廊下を歩いていた技術者は、廊下の角を曲がってきた白衣の女性がふと目に留まった。
 研究棟という場所柄、格好自体は珍しい物ではないし、いまどき女性の技術者も大勢いる。
 だが、薄手の白衣から透けて見える色と体のラインが、普通の技術者で無い事を示していた。
「お疲れ様ね」
 挨拶してすれ違う彼女を若い男の技術者は振り返って目で追ってしまった。と、彼女の方も立ち止まり、振り返ってニコリと笑った。
 しばし見つめ合い、急に我に帰った技術者が「失礼しました」と先を急ごうとして、腕を掴まれた。
「良かったら、少しお願い聞いてもらえないかしら?」
 場所を普段使われる事のない微妙な位置の会議室に移した彼女と技術者。綺麗な女性と二人きりになりどぎまぎしている技術者に、彼女は身を寄せ、いくつかの資料を見せた。
「ここの計算、必要なんだけど、難しくて…教えてくれない?」
(なんだ、ただ分からないところ聞きたかっただけか)
 残念がる技術者へ、彼女は白衣をはだけてハイレグワンピ水着を見せながら熱っぽく言った。
「あとでいいことしてあげるから、ね?」
 やる気に火がついたようにバリバリと計算し出した技術者を見て、彼女――怪盗ジェンシャンはほくそ笑んだ。

 李紅花は、一層強引に技術者へ迫っていた。
 精神的にも、物理的にも。
「言う事を聞いてくれるならすっごく気持ちよくしてあげるけどなぁ?」
 トイレの個室に技術者を連れ込んで、キラークィーンは急所を押さえて舌なめずりした。
「それとも、紅花さんを袖にしちゃうの?じゃあココはもう要らないから海に捨てるね」
 何千キロ先まで捨てに行くつもりなのか。そんなどうでも良い感想は、靴に仕込まれていた刃を突きつけられれば吹っ飛ぶしかなかった。
「これでも駄目なら――」
「やる!何でもやらせてもらう」
 職業倫理なんぞトイレに流して、技術者がまた一人陥落した。

「最近、うちの部署で無断欠勤する輩が後を絶たぬ。連絡さえつかぬのだ、嘆かわしい」
「ふっ。厳しいことばかりぬかすから、愛想が尽きて出てったんじゃねえか?」
「いや、他の部署でもそういう者が増えていると聞いているよ。連絡がついたものも、いきなり人が変わった様に性格や振る舞いが変化している事がある、ともね」
 基地の市街地のバーに集う者は当然基地関係者がほとんどだ。部署ごとの部外秘はあれど、それ以外は好きに語らい、飲み明かしていた。
 適当に混雑していた店内に、また一人、新たな客がやってきた。その客はカウンターで一杯頼むと、店内を見渡し、おもむろにあるテーブルに近づいた。
 そのテーブルで飲んでいた3人が、そいつに気がつくと、思わず口笛を吹いた。
「ヒューッ!てめぇみてぇな美人がこんな場末のバーになんのようだ?」
「娼婦であれば、間に合っているがね」
 場違いな美女に3人は訝しむが、女――魅惑の火花は、構わず3人に顔を寄せた。
「あたしと賭けをしないかな?」
「賭け事は感心しないぞ」
 堅物そうな男が応えるが、魅惑の火花は不健全なものではないよと首を降る。
「ちょっとどちらが燃料が必要か、予想してもらうだけだよ♪」
 そうして魅惑の火花は、仮定の話をした。
 宇宙ステーションに物資を届けるのと、3.3tの大型探査機を公転面から鉛直方向に飛ばすのとでどれだけ燃料が必要か?と。
「ねぇ、どれくらいだと思う」
 しなだれてくる魅惑の火花を腕で押す堅物から、軽そうな男が代わりに抱き寄せる。もう一人の皮肉屋っぽいのが短く息を吐くと、3人は先程まで愚痴を吐いていた口にヴォトカを流し込んだ。
 すると、3人の科学者の目の色が変わった。決して酔った、というわけではない。その目は素面のときのように、真剣であった。
「正しい答えを出す為には正しいデータが必要なのは自明である」
「もっと詳しいデータを出してもらうぜ」
 魅惑の火花が「仮定」のデータを見せると、3人の技術者は熱心に計算し始めた。
 その後、他のテーブルの思考実験好きな者達を巻き込み、「仮定」の打ち上げ話で議論は朝まで続けられたのであった。

「というわけで、データの改竄を要求します」
 普段使われる事のない微妙な位置の会議室でPCに向かう技術者に、アヴローラは無慈悲な要求を突きつけた。
 酒場で行われた大演算会の検算とそれに合わせた発射データの改竄への協力だ。
「くそっ。なんで俺ばっかり貧乏くじを。大体はじめに言いだしたのは……」
「おや、文句がお有りですか?なら、あのことを奥方にお話してきましょうか?」
 アヴローラが写真を数枚並べて見せると、不満を漏らしていた技術者は震え上がった。
「わかった!やるから、それだけは――」
 たった一日の恋の炎が男の運命を狂わせたのであった。

◆魔術師達のお仕事
 打ち上げに必要なデータは揃った。
 今度は、システムへ介入してデータを書き換えなければならない。
 今まで作戦の進捗に合わせてちょこちょこ施設の警備網や連絡網へ侵入していたハッキング部隊を指示していたプロヴィデンスことエヴァ・マルタンは、いよいよ自分達メインのクラッキング作戦段階に入り気合を入れた。
「今こそ我らの力を示す!電脳の世界が現実世界さえ書き換える時代が来た事を教えてやるのだ!」
「で、書き換えはどんな風にするの?まさか核を宇宙に打ち上げますなんて普通に書き換えるのかしら?」
 隣でノートPCのキーに指を置いて小首を傾げるリーリヤ・クライネフにプロヴィデンスは激しく首を横に振る。
「そんなバカ正直に書き換えてどうするのだ!?」
「それはそれで面白そうじゃない?」
「バレたらこの壮大な作戦の川の流れが途切れてしまうんだ!」
 態度とは裏腹に慎重にアタックし続けてきたエヴァに対して、リーリヤは常に遊び心を忘れないでいた。
「新たな人工衛星に偽装して発射するのだから、それに合わせてだ!」
「わかったわ。それなら、私はベツレヘムの星、その名前を書き込んじゃだめ?」
「ん?ん~…わかった、そのくらいなら」
「皆のも」
「偽人工衛星は12基しかないんだ!」
 二人は常人では目で追うのも大変な速さでキーを叩き、文字が滝のように流れるモニタを目で追いながら話し込んだ。
 対照的な二人であったが、無貌の黒水晶や梟の眼、他ともしっかりと協力して行われたクラッキングは、周囲に気付かれる事なく無事にデータの書き換えを完了したのであった。

 アヴローラに脅されて協力していた技術者も、仕事を終えてほっと一息ついていた。
 既にアヴローラの姿も消えている。もう、解放されたと考えて良いだろう。
 さあ、自分の本来の持ち場に帰ろう……とした時、デスクの上にこっそり封書が残されているのに気付いた。
 まだ何かあるのかと、警戒しながら開けると、入っていたのは純粋な手紙であった。
 騙した事への謝罪と、注がれた愛情への感謝、惜別の心情。それらが書かれた手紙を読んだ男は、手紙を細かく千切って灰皿に入れると火を付けた。
(脅しの材料に使っておいて今更これか……だが、貧乏くじってのは撤回しないとな)

◆発射秒読み
 打ち上げ予定日を明日に控え、怪盗達の作戦は順調に進んでいた。
 ペイロードに核弾頭は積み終わり、最新型宇宙ロケットは発射台に移動し、液体燃料の注入が開始された。
 ここまでくれば、後は発射されるのを待つばかり……とはいかない。

 打ち上げ前夜の管制室は、せわしなく作業に没頭する職員達で賑わっていた。
 それぞれの席で、それぞれに与えられたミッションを時に見守り、時に指示する。だが、一人だけで行う事はほぼなく、現場の宇宙飛行士同様、連携が物を言う部署である。
 それ故、新人の挨拶回りも大事だ。と、一人の新人管制官がベテラン管制官に挨拶しようとしていた。
「これはご挨拶代わりですし、打ち上げは学者が決めたタイミングでやるんですから、学者と機械が動けばいいでしょう?」
 そうして差し出された物を見て、先輩管制官は眉を顰めた。
「おい、これは何だ」
「先輩方の手元が寒さで震えて、ボタン押し間違うと大変。ウォッカで温まりましょ」
 新人管制官――ブラックロータスの甘い誘惑。
 だが、かつて宇宙飛行士がスペースシャトルにコニャックを持ち込んで飲んでいたというロシアの宇宙基地でも、流石にミスの許されないミッション中に酒を飲む者はいない。
 自称新人に漠然とした疑惑が向けられる中、打ち上げに関するデータの最終チェックをしていた管制官が、データに違和感を持ち、調べ始めた。
 と、そこに一人の職員が肩に手をおいた。
「交代の時間ですよ」
 管制官は、目をモニターから話さずに返事をする。
「交代?いいや時間には早いはずだ」
 と否定する管制官に交代要員はなおも言う。
「いえ、交代です」
「一体何なんだ、おかしなデータを直さないと……事故が起きてからでは遅いんだ」
 管制官が邪魔する者へ文句を言おうと、肩に置かれた手を振り払って立ち上がった――瞬間、管制室の扉が開かれ、何者か達がなだれ込んできた。

「なんだキサマラ!」
 管制官達から誰何の声が上がると、襲撃者の一人が堂々と応じた。
「怪盗ホースマン、只今参上!」
 馬面の怪盗の大きな声に管制官達が、「怪盗?」「マジで?」「なんだあの被り物」「この忙しい時にドッキリかよ」等々微妙な反応をする。
 けれども、ホースマンが手近な所にいた管制官をはたいて指輪の電気ショックで意識を手早く奪えば、他の管制官達は深刻な事態を察して震え上がった。
 一方で、アヴローラの様に、誰何の声を無視して無言で望遠カメラの仕込み銃を突きつけ、黙らせている者もいたが。というか、そんな感じの者ばかりであったが。
「しっかり休んでください」
 縮み上がってどうする事もできないでいる管制官の首筋へ交代要員に扮していたクローバーのジャックが麻酔銃の針を撃ち込み眠らせた。
「どうしてこんな奴らが…警備員は何をしてたんだ!」
 叫びながらホースマンに気絶させられた管制官を受け止め、優しくワイヤーで縛り上げた隣の席の職員――ウートガルザ・ロキは高らかに笑う。
「守りし者達は、皆一時の夢の中さ!人は誰でも心の隙があるものだよ」
 裏でヌルが、気付かれぬように警備員を間引いていった賜物である。蠍でない一般の職員に手を出すのはあまり褒められた行為ではないが、美学の先にある信条を守る為には必要な任務であった。
 巡回や休憩、引き継ぎのタイミングを見計らって、少しずつ排除し、ロッカーやトイレに手早く隠す。
 必要とあらば、無線に応答し、今もなお露見するのを防いでいた。

 裏といえば……いや、一応表かもしれない。
「怪盗サイバーディアー参上、君達の努力と知識を盗みに来たよ」
 馬の相棒の鹿の怪盗が、こっそりと空いた席に付き、備え付けの端末を弄り始めた。どんな強固なセキュリティシステムも、内側に入り込んでしまえば脆い。
「盛り上がるシーンでこれを流すのもお約束でしょう?」
 無貌の黒水晶も「ツァラトゥストラかく語りき」のメロディを流して、場を盛り上げた。
 ミッションが滞りなく進んでいるように見せかけるようにデータを組み指示を出すサイバーディアーは今思い出したとばかりに馬の方を見た。
「生憎、生け捕りなら得意だぜ」
 制圧完了したことを確認して、ホースマンが手をパンパンと払った。
「で、これからどうするんだ?」
 作戦概要を良く理解出来ておらず、とりあえず突っ込んで暴れてみたホースマンがサイバーディアーに尋ねた。
「しばらくキミはすることないよ。また逃げるときにひと暴れしてもらうかもしれないだけだよ」
 ここからはまた、武力でなく、電子での戦いだ。
「後は任せたよ」
 対人特化なロキも、機械については、仲間に任せた。

 サイバーディアーは忙しそうに端末を操作し、逃走経路を調べて有効そうなものをいくつかピックアップしていた。
 するとそこに、Aiフォンへ入電。スピーカーモードで出ると、相手は梟の眼だった。
「ついでに軍事衛星データとか頂いて、もみ消し材料に使う?」
「いえ、そこまでは必要ないでしょう。何やら動いている方もいらっしゃるようですし」
 梟の眼の提案を無貌の黒水晶が取り下げた。
 今回の標的はバイコヌール宇宙基地でもロシアでもなく、国際犯罪組織の赤い蠍だ。
「私も待っている間に、何かやっておきましょう」
 クローバーのジャックもカタカタと端末を弄り始めた。開いたのはメーラーのようであったが、果たして。

 数時間後、モニターのチェック以外、特にすることがなくなった怪盗達は、本来の管制官達の代わりに長いカウントダウンを見守っていた。
 通常の打ち上げであれば、もっとも緊張するはずのところ。だが、怪盗達にとっては、この程度のプレッシャーはプレッシャーのうちに入らないだろう。
 再度流れる荘厳なメロディの元カウントが減っていくが、ここまできて打ち上げが失敗するかもと心配する者はいなかった。

「発射10秒前……5秒前、3,2,1…0!」

 モニターの先で、核弾頭を積んだロケットが、真っ直ぐ宇宙へと上がっていった。

◆仕上げの破壊
「これでよし」
 モニターに映る膨大なファイルが、自動的に消えていく様を見届け、自動消滅プログラムを発動したサイバーディアーは席を立った。
「さて、悪党どもの逮捕は警部殿にお願いしよう。俺たちは何事もなかったかのように、ここから立ち去るだけだ」
 蒼焔のイリューシャの号令で物理的な痕跡を消しにかかった怪盗達はこの場の最後の仕上げにかかっていた。

 時間は少し巻き戻り、カウントダウンが始まった頃。
「初日の出とともに蠍は星になる。その瞬間を目に焼き付けよ」
 マスコミらが集まる、基地外の打ち上げ観測スポットに待機していた可児丸警部は、怪盗特別対策班の元に届いたメールを睨みつけていた。
 送付元は、バイコヌール基地の管制室。
(やはり、奴らはあそこにいる)
 そんな警部の様子を陰から窺う者達がいた。
「ああ、あの警察?怪盗が現れるって噂を真に受けて来たみたいだよ。打ち上げ?当然するよね。目的あっての人工衛星だし、膨大なお金が掛かってる計画なんだから当初の予定通り発射するべきだよ」
 だって、怪盗が現れるから中止しますって情けない噂流されたら困るよね。そう噂を流していたのは春風の狂詩曲
 関係者の丸め込みに動く予定だったが、彼が丸め込むまでもなく発射の予定が揺るがなかった為、報道陣の情報操作に当っていた。
「この情報知っとる?あんたとこの記事にするのに丁度ええと思うでぇ」
 報道陣を捕まえてささやき、情報提供して興味を引くぬいぐるみのマーチの姿もあった。
 元々は一部の宇宙好きしか集まらない様なよくある打ち上げにここまで報道陣が集まったのは、無貌の黒水晶の予告状と、予告状で着いた興味の火を消さないようにした彼らの尽力の賜物だろう。
(ま、情報は真偽混じった適当なもんやけど、自社のみの特ダネ追い掛けてイリュージョンに立ち会ってもらいましょ)
 ぬいぐるみのマーチは、カウントダウンが進み緊張感が高まる報道陣に混じり、核弾頭を載せたロケットの行先を見上げていた。
 警部が強権を発動して突入するか迷っている間に、カウントダウンはゼロになり、ロケットは発射された。
 歓声が沸き上がる中、唐突に響いたのは発射の轟音とは違う方向からの爆発音。
「緊急事態だ!全員俺についてこい!突入!」
 警部の号令に、怪盗対策班のメンバーも鬨の声を上げて付き従った。
 報道陣の注目が警察の動きや爆発音のした方へ向いている間に、ぬいぐるみのマーチと春風の狂詩曲もその場を脱した。
「ほな、うちらも撤収やな」

 発射台からは離れた場所にある工場。あまり便利な位置ではなく重要な物が作られていなさそうな所で、学生達の残りの標的が作られていた。
 ICBMの生産工場だ。
 周囲に建物がなく、気付かれずに近づくのは困難な立地であったが、この男にはそんな状況は関係なかった。
 皇龍は小細工無用と、正面から突っ込んだ。しかも、武器も何も持たずにだ。
 護る方からしたら、とんだ愚か者に見えた。
 正面入り口の警備を仕っていた傭兵達は、無謀な不審者に対して笑いながらカラシニコフを構えた。だが――
「我が拳に砕かれたくなくば道を開けろ!」
 皇龍の一喝に傭兵達ですら動揺して標準がブレた。
 自動小銃をぶっ放しても怯まずに飛び込んで来る皇龍に驚いたのもあるだろう。
 撃ち出された弾丸のほとんどは不規則な動きをする皇龍を捉える事が出来ず、たまたま命中したものも、まるで効いていないかのように皇龍の動きは衰えない。
 銃の圧倒的なリーチの差を活かせず、格闘の間合いに入られた傭兵達は、愚か者と笑った事を後悔した。
「猛虎硬爬山!」
 4連打から強力な一撃を加えて一人を潰し、コンバットナイフに持ち替えた一人を絞め落とし、逃げようとした輩に投げつけると倒れたところへ追い打ちして撃破。
 見張りを全て倒した皇龍は、遠くの建物の陰に隠れていた炎の剣を呼んだ。
「邪魔者は倒した。愛しいアリスよ。炎揺らめく皇の剣で悪しき力を薙ぎ払え!」
 現れた銀髪銀瞳な炎の剣、トゥーリ・コイヴは急いで追いつくと、一つ頷き、皇龍と共に工場内に潜入した。

 操業中であった工場内でも、蠍による更なる抵抗が行われた。
 始めのうちは作業員ばかりで、脅せば散らせるような連中であり、炎の剣の破壊活動は順調に進んだ。
「核が搭載されてないとは言え、危険な兵器であるのには変わりはありません」
 ICBMのパーツを壊し、製造機械のコードを切断し、炎の剣は赦せない人を傷つける物をただ破壊していく。
 だが、段々と戦闘員が増えていき、
 蠍が最後の意地を見せるべく、おそらく無事な戦力を全てこちらへ差し向けているのだろう。
 さすがの皇龍でさえ、傷が目立ち始めていたが、炎の剣の破壊活動はまだ終わらない。
「あと、もう少し。残りは発射装置だけです」
 炎の剣からの報告に額の汗を拭う……と、入り口のシャッターの所に、迷彩柄のニンジャが立っていた。
「ドウモ、ファントム・サワタリです」
 丁寧なアイサツをする新たな敵へ、蠍のメンバー達は鉛玉で返事した。
 幾つかの銃弾がサワタリの身体を貫き、サワタリの身体がぐらつく。銃撃すらほとんど効かなかった皇龍と違う、確かな手応えに蠍の構成員の口角が上がるが、次の瞬間、目を見張った。
 倒れそうになった勢いで一気に加速したサワタリが障害物を上手く利用しながら敵へと肉薄、構成員がデタラメに撃った銃弾を綺麗に躱すと、人体の急所へ遠慮なく手刀や拳を叩き込み、意識を刈り取っていった。
「助かったぞサワタリ」
「兵器破壊のついでだ」
 言い捨て、サワタリは気絶させた蠍達を一纏めにして投げ手錠を利用して拘束した。
 その間に、発射装置を発見した炎の剣が、淡々と報告した。
「最後の、仕上げです」
 そして、噴出口へとレイガンを撃った。

 こうして、打ち上げ直後の爆発騒ぎへと繋がる。
 予想外の誘爆が起こり、大爆発となってしまったのだ。工場の屋根も吹っ飛び、作業員も戦闘員もほうほうの体で逃げ出した。
 怪盗達もそれは同じだが、この爆発のおかげで壊しそびれたパーツもなくなっただろうし、警部も突入できた。結果オーライだろう。

◆蠍の尾の最期
「くそぅ、なんなんだ一体」
「リーダー、ここは一回本国に引きますか?」
 基地と市街地との間にある倉庫跡地に、蠍の残党どもは集まっていた。
 蠍のメンバーだけが知る最後の隠れ家。ICPOが調査の手を伸ばすとしても、何日も後になるだろう、一見どうでも良いような場所に用意しておいたとっておきの場所だ。
 集まったのは、ICBMパーツ工場の爆発から逃れた数十名と、他の施設に潜んでいて無事だった十数名。合わせて50名前後。
 武器も隠しておいてあるが、戦闘技術に優れた者は、既にほとんどがパーツ工場で負傷している。
 ここからの再起は、限りなく難しいだろう。
「どうせ粛清されるだろうが……ここでおめおめと捕まるよりはマシか」
 リーダーがそう判断し、撤退指示を出したその時、倉庫内にコツンと言う小さな音が響いた。
「!伏せ――」
 そして、一拍置いてから、音と光の爆発が起こった。
 目と耳を同時に潰された者達は何が起こったのかも分からずに経過した数秒。
 視力が回復した頃に目にしたのは6人の怪盗の姿。
 聴力が回復した時に聞こえたのは、その中の一人の無慈悲な言葉。
「この状況、一網打尽にできるな」
 戦場の勇気が拳銃を抜き、蠍達へと向けた。
 向けられた内の一人の女性が両手を挙げて命乞いをした。
「わ、わたしは爆発テロから逃げてきただけで、あんな手榴弾も拳銃を向けられる覚えはありません…」
 震えた声と怯えた演技はなかなかであったが、今更ごまかしは効かない。闇夜の夢想によって事前に見分けられていた蠍達は、もう逃げる術はないのだ。
 そうでなくとも、テロから避難するからってこんなところまで来てしまうような一般人がいるはずがない。
「ユウ君、指示をお願いしますね」
 漆黒の髪と蒼眼を持つ鬼神の如き麗しき美女、一刀繚乱。芸術品の如き日本刀を抜いて構えると戦場の勇気の前に進み出た。
「一人も逃さない。全員確保だ」
 戦場の勇気の言葉に従い、怪盗達が散り、蠍の戦闘員達が銃やナイフを抜いて戦闘態勢に入った。
 だが、負傷者や非戦闘員ばかりになった蠍を怪盗達は追い詰めていく。
 サイレンサーも静かに敵を気絶させていく。ナイフを持って向かってくる相手を指輪からの電撃で気絶させて一人、それを見て距離をとろうとする相手に腕時計から伸ばした鋼糸を絡めて感電させて二人。
 戦闘力がない技術系の者達が我先にと向かう窓や扉は死神の様な姿をした砕色絢美が抑えた。
「このvitrailさんからは誰も逃げられないんだよーんダ!」
 変身の高揚感でいつもよりもハイテンションにデスサイズを振り回し、工場の中へ中へと追い返していた。
 そんな混乱のさなかだ。一人、また一人と消えたとしても、逃げ惑う人々も戦闘に集中する者も気にする事は出来ない。
「また一人捕まえられたよ」
 サイドスワイプが投げ手錠で捕まえた者をそのまま縛り上げ、先程手榴弾で潜入の切っ掛けを作った朱雀が首筋へ口紅へ偽装していた短剣を押し付け黙らせる。
 今度は、トランプを逃げる人の足を狙って投擲し、躓かせると、そこを二人で押さえ込み、物陰へと引き釣り込む。
 こうして、消えた人が増えてくると、気付いた時に一気に恐怖が人々を支配する。
「貴様らは一体何なんだ!」
 叫ぶリーダーがもはや敵味方関係なく銃弾を撒き散らし始め、流れ弾がいつ誰かの命を奪わないとも限らなくなったその時、その美しい肢体に銃弾を受けようとも一刀繚乱が接敵し、一糸乱れぬ動きで刀を振り切った。
「上層部は極刑も有り得ましょうが、この場での殺しはご法度…でしたね」
 峰打ち一閃に力尽き崩れ落ちたリーダーをくすくすと笑う一刀繚乱に代わり、戦場の勇気が先の質問に応えた。
「僕達はファントム」


「くそっ!遅かったか」
 あちこちで縛り上げられていた職員達を部下に任せ、可児丸警部は管制室へ急いだ。だが、到着した時には、既に怪盗達の姿はなく、モニターも全て青く染まっていた。
 おそらく中のデータは全て消され、ここに何者かがいた痕跡も全て消えて――いや、テーブルの上に一枚だけカードが残されていた。
 つかつかと近づきめくったカードには、蒼い炎が描かれていた。
 そのとき、警部の無線が応答を求め、警部が出ると、爆発の元へ向かった部下から報告が上げられた。
 爆発元の工場から離れた倉庫跡で、拘束された多くの職員と戦闘跡が見つかり、メッセージが書かれたカードがあった。と。
「なんて書いてあった?」
「『ささやかな贈り物です。今年もよろしく。ファントム一同』だそうです」
 無線のやり取りを終えると、警部は奥歯を噛んだ。
「怪盗どもめ、次はこうはいかぬぞ」
 唯一の痕跡を乱暴に仕舞うと、警部は管制室を後にした。

 年末に起きた謎の人工衛星打ち上げ失敗と、巨大な国際犯罪組織の壊滅というニュースは世界を駆け巡り、忙しい年末を更に騒がす事になった。
 これらの事件を受け、武器密輸組織の温床となっていた責任を追及されたロシア当局であったが、ICPOの捜査を受け入れ、沈黙を守って事態を諦観していた。
 本来であれば、強権を発動し、無許可で侵入したICPOを逆に非難してもおかしくないところであったのだが……この異常な事態にも怪盗が、サイバー忍者が関わっていた。
「あちこち現れては撮影だけしていくから、何かと思ったが」
「施設自体はロシアの正規宇宙港ゆえ、口が重くなる材料を用意していたでゴザル」
 サイバー忍者、スティーヴ・カラサワは基地内でロシアが国連制裁に反して国内で北朝鮮向けICBMと核弾頭を作っている証拠を多角的に撮影し、基地を脱した後に編集。
 ロシア当局に証拠映像を送り、今回の件について沈黙するように迫ったのだ。
 結果、ロシア当局は出血を最小限にすべく、ICPOの捜査を受け入れた。
「赤い蠍の悪事は、全世界にしらしめられ、ICPOの仕事も忙しくなるだろうな」
 アルフォンスは賑やかだろう基地の方を眺めてごちる。警部殿の名演技にも期待だ。と。

 こうして、年末の大掃除は、一大イリュージョンの完成で幕を閉じたのであった。



 21

参加者

e.真っ直ぐ行ってブッ飛ばす!
馬並京介(pa0036)
♂ 25歳 刃魅
e.直接的アプローチ!
鹿目淳一(pa0044)
♂ 25歳 忍知
b.よろしくお願いします。
神崎真比呂(pa0056)
♀ 21歳 刃乗
a.地味な準備も、グランド・イリュージョンのためには重要な作業だよな。
アルフォンス・サインツ(pa0087)
♂ 23歳 弾忍
サポート
g.厄介な毒針だけでなく尻尾も押さえておきたいね。
紅嵐斗(pa0102)
♂ 19歳 英忍
a.とりあえず盗み出さねぇことには始まらねぇからな!
大神隼人(pa0137)
♂ 21歳 刃忍
c.社交スキルでどうにかしてみようかな
ナタク・ルシフェラーゼ(pa0155)
♀ 23歳 乗魅
e.ロケット発射阻止とかさせないのですよ!
シャムロック・クラナド(pa0160)
♀ 19歳 英探
g.さて、ゴミどもはまとめてしかるべき場所に処分といこうか。
澤渡龍兵(pa0190)
♂ 21歳 乗忍
e.潜入して、技術者に接触するよ
ゲルト・ダール(pa0208)
♀ 21歳 知魅
f.悪しき力、全て打ち砕くのみ。
劉文(pa0392)
♂ 21歳 英刃
a.赤い蠍にツァラトゥストラを聴かせてやりましょう。
マクシム・ヴェッカー(pa0436)
♂ 26歳 探知
a.怪盗の辞書に「やってみる」の文字はない。「やる」か「できる」かだけだ。
イリヤ・ヴォエヴォーダ(pa0440)
♂ 24歳 刃乗
サポート
z.施設自体はロシアの正規宇宙港ゆえ、口が重くなる材料を用意するでゴザル。
スティーヴ・カラサワ(pa0450)
♂ 21歳 忍知
b.核弾頭の臨界阻止の処理は任せて。軍事施設なら中性子遮断に不自由しないわ
アリス・クラーク(pa0456)
♀ 19歳 刃知
f.兵器、破壊いたします。
トゥーリ・コイヴ(pa0587)
♀ 19歳 刃弾
c.芽美は技術者確保がんばるね。
竜胆芽美(pa0728)
♀ 21歳 弾魅
d.さあ、世界に我らの力を示す時だ!
エヴァ・マルタン(pa0835)
♀ 26歳 知魅
b.積み替えとか、さらっと言うよね……やってはみるけどさ。
真純清輝(pa0904)
♀ 20歳 探知
a.……現場か近くに、重機があればいいが。
大世宮典人(pa0940)
♂ 22歳 刃乗
c.技術者に接触してみますね。
アガーフィヤ・コスィフ(pa0970)
♀ 19歳 英弾
a.よろしくお願いします。
フィーア・シュヴァルツ(pa0971)
♀ 21歳 英刃
サポート
a.宇宙人のみなさんには申し訳ありませんが・・・(ぇ)
天空院星(pa1054)
♀ 21歳 弾知
g.よし、やるネ!
エラ・ウォーカー(pa1057)
♀ 23歳 刃忍
g.拘束しに行きますわ。
周立夏(pa1061)
♀ 22歳 忍魅
g.えーと…(色々考えている
氷見彩玻(pa1093)
♀ 23歳 刃探
サポート
c.アヒャヒャ、楽しくなりそうだね!
李紅花(pa1128)
♀ 21歳 弾乗
z.任務開始…
斑鳩恭耶(pa1232)
♂ 26歳 刃忍
g.さて、やるか。
ユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
♂ 26歳 英弾
サポート
d.クラッキングして、書き換えてみるわ。
リーリヤ・クライネフ(pa1259)
♀ 19歳 英知
e.管制官に紛れて、管制室に入り込みウォッカを勧めたりして下準備をば
シャロン・コーエン(pa1290)
♀ 20歳 探魅
e.こっちの乗っ取りと管制の確保とか、管制データを他チームに流して作戦援護
大鳥居京(pa1307)
♀ 19歳 弾知
g.関係者の拘束に行きます。
月羽紡(pa1364)
♀ 26歳 刃探
 ほっほっほ。年末最後の大掃除、しっかり頼むからのう。
神津小五郎(pz0014)
♂ 61歳