精霊の名の下に

担当ちま
タイプショート 部活
舞台アイスランド(Europa)
難度難しい
SLvB(アメリカ程度)
オプ
出発2018/03/06
結果大成功
MDPマクシム・ヴェッカー(pa0436)
準MDPルイ・ラルカンジュ(pa0432)
九曜光(pa0455)

オープニング


 1月、ヘザー・アンドッティルが急死した。28歳の若さだった。
 透けるような白い肌、湖水を映したような青灰色の瞳、プラチナブロンド。北欧美人の特徴を具現化したような彼女は、細く小柄な肢体からアイスランドの精霊と呼ばれ、国際的モデルとして世界の注目を浴び始めた矢先の出来事だった。
 死因は肺炎。もともと体が弱く、病気がちだったこともあり、突然ではあったがその死に不審なところはなく、不運が重なったゆえの病死である。
 彼女の早すぎる死を悼んで、彼女の恋人だった新進気鋭の3Dアーティスト、ジャン・ジェフロワが彼女の故郷アイスランドで追悼の個展を開くことを宣言した。


登場キャラ

リプレイ


 アイスランド首都レイキャビク郊外に建築された氷の宮殿。
 全てが氷に包まれ、七色のプリズムに彩られた豪奢な会場に、純白のスーツを纏い、眼鏡に偽装した暗視ゴーグルという姿で、斑鳩恭耶は堂々足を踏み入れた。パートナーはMNで女性の姿となり、雪の首飾りを首から下げたユウキ・ヴァルトラウテである。
 美男美女のカップルの来場に、一瞬で会場中の視線が2人へと集中した。詰めていた息をほうっと吐き出した後、あちこちでひそひそと、2人のことを知りたがる会話が沸き起こる。
「あのご令嬢はどなた?」
 との言葉を小耳に挟んで、恭耶はクッと喉を震わせた。
「なんだよ?」
「黒髪の美姫、まるで白雪姫だな?」
「は?」
 おまえまで、と横目で見て、ユウキはふいと顔をそらす。そして視線の先に、氷柱の前でルイ・ラルカンジュと話し込んでいるカイリー・オブライエンの姿を見つけて、そちらへ近づいた。

「やあ、先生」
 ユウキに名を呼ばれて、笑顔のまま振り返る。
「ユウキくん、恭耶くんも。2人が入ってきたのはすぐ分かったぞ。2人とも華があって、人目を引くからな!」
「あなたも美しい。そのドレス、とても似合っている」
 笑顔のカイリーを真正面に見つめ、恭耶が告げる。
 カイリーはぼっと顔を赤く染めて、どぎまぎしつつ「そ、そうか?」とドレスを見下ろした。雪の結晶の形をしたレースをふんだんにあしらった、膝丈のドレスがふんわりと広がっている。
「ルイくんが見立ててくれたんだ。わたしはこういうの、さっぱりだから。
 ありがとう、ルイくん。恭耶くんに褒めてもらえたのは、ルイくんのおかげだ」
 感謝の目で隣のルイを見上げる。
「ふふっ。だから言ったでしょう? 雪の妖精みたいでかわいらしいですよ」
 彼女を美しくドレスアップさせた自負と満足感が感じられる声だった。
「さあ、それでは作品を見ましょうか」
 そうして他の客たちや関係者たちにあやしまれないように、よく観察するのだ。会場、作品の位置、そして警備を。
「結構周囲の壁から氷が溶けてきています。水ですべらないように、ね。転んじゃうと恥ずかしいですよ」
 茶目っ気のある表情で言うと、ルイは自分の腕にカイリーの手を誘導し、彼女をエスコートしつつ会場を回り始めた。
 水、火、風、地、雷、光、闇。それぞれをイメージしたサファイア、ルビー、アメジスト、エメラルド、アイオライト、ダイヤモンド、タンザナイトが複雑な文様を描いた銀細工の台座とともに容器を飾っている。そのどれもが繊細な美しさで氷柱の精霊を引き立てていたが、抜きん出て氷の精霊と、それを表わすブルーダイヤモンドが秀逸だった。
 美を愛でる心が少しでもある者ならば、惹かれずにはいられない。
「こんなふうに永遠になれるなんて、羨ましいですね」
 その呟きに面を上げると、ルイがウィンクをした。
「僕だってモデルの端くれですからね」
「そうか」
 カイリーは少し考えて言った。
「わたしは、こんなふうに輝いている彼女を一度も見たことがない。だからルイくんの言うように、これが彼女の望んでいた姿なら……そうなれて、よかったと思う」
 事情の読み取れるその言葉に、ルイは軽く目を瞠ったが、何も口にしなかった。
 誰もが作品に見入っている時を見計らうように、ユウキがカイリーの手を引いて離れる。
「どうした?」
「この前のことなんだけど、ちょっと気になって。
 先生ってさ、ローゼンナハトになるのに反対されてたの?」
 声をひそめての問いに、カイリーは首を傾げる。
「ああ、シロウとのことか。
 いや、反対も何も、共通の知り合いから聞くまでお互いそうだと知らなかったし」
 ローゼンナハトであることを家族にも秘密にしている者は多く、珍しいことではない。
「じゃあなりたかったのは、講師? それとも、ローゼンナハト?」
 その言葉に、言外の意味をなんとなく察して、カイリーは答えた。
「前にも言ったが、講師の話を受けたのはローゼンナハトになって大分経ってからだ。講師になる前は製薬会社で研究員をしていた。講師にならないかと持ちかけてきたのは知り合いのローゼンナハトだが、今はこの仕事を天職だと思っている。
 それに、わたしがローゼンナハトでなかったら、おまえたちと出会うこともなかったぞ? そっちのほうがよかったか?」
 ユウキが返答に窮しているのを見て、カイリーはふふっと笑う。そして、カイリーが隣から消えたことに気づいて捜すルイと目が合って、カイリーは彼の元へ戻った。「遊びに来たんじゃないんですよ」との言葉に「ごめん」と謝る。
 ユウキは今、自分がどんな顔をしているのか分からなかった。

 客たちに混じって、恭耶も氷柱のヘザーを見ていた。精霊の姿をしたヘザーは美しい。現実に存在したとは思えないほど、神がかった美貌の持ち主だ。恋人である男の欲目というフィルターもあるだろうが。
 この個展を開くことをヘザーは了承した。しかしそれは今の状況を知り得る前の話だ。
 自分の死後、母親をあんなふうに泣かせてでも開きたいと、彼女は欲しただろうか?
(死した者の気持ちなど知りようもない)
 いささか感傷にすぎると、首を振り、背を向ける。
(ゆえに……私はただ美学を貫くのみ)
「任務了解……データを奪取する」
 呟き、その場を後にした。


(電子の精霊ですか。死後も美しく、永遠になれる。素晴らしい事です)
 マクシム・ヴェッカーは、擬装のために持っているグラスを揺らした。技術者の1人として潜り込んだ彼は、首尾良く会場に配備されたが、客に身分を知られないようにしろとの命令から、ドレスコードを守った雪結晶のタイピンやチーフをしたスーツ姿をしている。
 そうして招待客からは距離を取り、氷柱を眺めていると、ぽんと肩を叩かれた。
 白のつなぎ服姿の男で、首から提げた身分証が胸の所で揺れている。エンジニアだ。
「よお、お仲間。こっちはどんな具合だ?」
「……特に可もなく不可もなく、ですね。問題は起きていません」
 当たり障りのない言葉で応じたマクシムに、「そりゃ良かった」と男は屈託なく笑顔をつくる。
「前準備では問題なくてもいざとなったら不具合が起きるっていうのが、割とよくあることだからな」
 しゃべりながら8つの氷柱を順に見る男の目は技術者としてのもので、芸術に心を奪われている様子はない。
「この氷が効果的なのかもしれませんね。うまく冷やされて」
「それだけは感謝だな。氷で造るとの図面を見せられたときにゃ、金持ちの考えることは分からんと呆れたもんだが。おかげで配線をごまかすのにどれだけ苦労したか」
「ちょうどそのことについて考えていたところです。一体どうされたんですか? 後学のために、ぜひ聞かせてください」
 これだけの設備だ、相応の電力室があるはずだ、との見当に、眼鏡の奥の目が光る。
 はたしてマクシムの控えめな態度に気を良くした男は、作品の土台内部の構造から電力供給用の配線の場所まで説明を始めた。もしかすると本人も、誰かに話したかったのかもしれない。
 適度に相槌を打ちながら必要な情報を聞き出したマクシムは、
「ありがとうございます。大変参考になりました」
 と笑顔で礼を言う。
「こんなんでも役に立てたんなら、まあ良かったよ」
 どんな事の役に立ったか知ったなら、男はさぞ仰天するに違いない。


 開始の合図は、レストルームへ行くために会場を抜けるジャンの姿だった。
 会場はよく冷えている上、主催者である彼は大勢の者に囲まれてよく酒を口にする。そうすればトイレが近くなるのは当たり前だ。後を追ってレストルームへ入った恭耶は、鏡に映った彼にジャンが振り向くタイミングで絶打を入れ、気絶した彼を個室に運んで箱を解錠、データが入ったマイクロSDを盗んでレストルームを出た。そして氷柱の影に膝をついてパソコンを開き、定期点検するふうを装ったマクシムの前を過ぎ、何食わぬ顔でユウキたちの元へ戻る。
 指がカイリーの手をかすめ、その瞬間マイクロSDは彼女へと渡る。
「さあ行こうか」
 個室に閉じ込めているとはいえ、主役のジャンがいつまでも出てこなければ不思議に思い、探しに行く者も現れるだろう。時間はない。
 ユウキの腰に回された恭耶の手から、スカートのひだに紛れてイヤリングが滑り落ちていく。パン! という破裂音と同時に白い煙が噴出し、あっと驚く間もなく人の背丈を越えて周囲に充満した。
 悲鳴が上がり、混乱した人々が煙の中を右往左往しだす。同時に、ルイとカイリーは思い思いの氷柱へ散った。
 容器に嵌め込まれた宝石を盗むためだ。しかしルイは残念ながら、それにふさわしい技術を持っていなかった。ブラッディカードを容器と台座の隙間に入れ、刃を使って台座ごと剥がそうとする彼の背後に警備員の影が近づく。
 警備員は、突然煙の中から突き出してきた手に握られたスプレーの中身を浴びてその場に昏倒した。
「まったく無茶だな、キミは」
 ユウキだった。ルイの手際の悪さに少々呆れつつ、スプレー缶を取り出したクラッチバックを閉じる。
「助かったよ。ありがとう」
「いいからさっさと終わらせろ」
 スプレー缶を手に、ユウキはルイと背中合わせに立ち、煙の中をこちらへ近づいてくる者はいないか、油断なく視線を走らせていた。


 少々時間がかかったが、4人が宝石を盗み、人々とともに会場を出ていくのをマクシムが見送った。
 彼は逃げない。むしろこれからが彼の立てた作戦の真価が発揮する時だ。
 煙が沈静化し、警備員以外いなくなって閑散とした会場に、彼の打つキー音だけが響く。やがて意識を取り戻したジャンが痛む腹をさすりながら戻ってきた。
「一体……何の騒ぎだ……これは……」
 まだぼんやりしているジャンの元へ警備主任が走り寄り、しどもどになりながらも宝石が奪われたことを告げた。
「……えっ?」
「それだけではありません」マクシムが立ち上がってジャンの気を引く。「作品のデータが全て消去されました。おそらくは同一犯の手によるものでしょう」
「なんだって!?」
 驚愕に、完全にジャンの意識が覚醒した。氷柱へ走り寄ったが、そこにあるのはアクリル溶液だけでヘザーの姿は消えていた。
 もちろんそれをしたのはマクシムである。
「そんなばかなっ!? ……そ、そうだ。これで復元――」
 あせる指先で箱を開けたが、箱の中身は空だった。
 愕然となって一音も発せずにいるジャンに、頃合いを見計らい、マクシムは提案をした。
「ジェフロワ様さえ良ければ、私のほうで持ち帰り、復元できないか試してみたいのですが」
「できるのかっ!? できるならそうしてくれ! いや、しろ! 命令だ! ……明日が初日なんだぞ……」
 混乱しきったジャンから視線をずらし、マクシムは壁際に待機している警備員へ近寄るように合図を出した。
 それはもちろん警備員に扮したシグナ・ガントレットで、彼は台車を手にマクシムの元へ寄る。
「マクシム殿、表にトラックを回してきましょうか」
「ええ。事は急を要します。ただちに運び出してください」
「了解しました」
 シグナはジャンを見た。
(かわいそうに。すっかり青ざめているな)
 シグナは悼む心を伝えるように軽く帽子に指を添えて見せる。
 だが同情するのはそこまでだ。今は依頼人の願いが優先。
 会場を抜け、入口へ戻ると、すでにウニモビはそこに待機していた。ドローンの操縦桿から手を放した九曜光が、ドアの枠に肘をかけて身を乗り出す。
「作戦は順調みたいだね。これで4人が出てくるのを見てたよ。誰も彼らを疑っていないようだ」
「そうか。では俺たちもさっさと積み込んでしまおう」
「オーケイ。精霊たちをエスコートだ。
 あいにくリムジンというわけにはいかないから、今回はトラックの荷台で我慢してもらおうか」
 自分の口にした言葉に楽しげににやりと笑うと、光はシグナとともに会場へ入って行く。そしてやはりジャンに同情している素振りであいさつをすると、ジャンは「いいから早く運び出してくれ」と、光を急かせた。
「分かりました」
 光は応じ、ジャッキを使ってシグナの台車へ氷柱を移動させ、入口まで運び出し、ウニモビのクレーンを使って荷台へ載せる。
 積み込みが完了すれば、もうここにいる必要はない。あとは気づかれないうちに、すみやかに立ち去るだけだ。
 マクシムとシグナが乗り込むのを待って、光はウニモグを走らせた。
 最後まで、彼らを疑う者は出なかった。
 白昼、彼らの目の前で、盗みを成功させた。むしろ早くと言われた。これほど堂々とした盗みがかつてあっただろうか?
 そう思うと、自然と口元が緩んだ。


「まさかこんな方法があったとはな。実にあざやかな手並みだ。よくやった」
 海岸で待機していた船がアイスランドの地を離れると、シロウは彼らを絶賛した。
 それはローゼンナハトである彼らにとって、最大級の賛辞だった。


 後日。
 ルイは1人アイスランドの地を訪れた。
 アンナが独りで暮らすアパートを訪ねた彼は、閉ざされた扉にそっとノートPCを立てかけ、カードを滑り込ませる。
『あなたの美しい宝物は、思い出とともに、ここに。
 あなたの手の中で、永遠に輝いていますよ』
 その下に綴られた母の愛とヘザーの学名。彼女はまだ打ち込めないかもしれない。
 だけどきっといつかは……。

 それは、彼女が自分の娘の本当の姿と向き合える日。
 そしてそれは永遠ではない、いつかなのだ。



 13

参加者

b.Aiフォンとインカムは持って行く。皆と連絡が取れるようにね。
シグナ・ガントレット(pa0058)
♂ 19歳 弾知
a.じゃあ、衆目の気を引きつつ、宝石を狙ったり助力したりしますね。ふふっ。
ルイ・ラルカンジュ(pa0432)
♂ 23歳 英魅
b.然るべきタイミングでジャミングをかけますので、その間に退却して下さい。
マクシム・ヴェッカー(pa0436)
♂ 26歳 探知
c.精霊のエスコートは任せて欲しいな。
九曜光(pa0455)
♀ 22歳 乗魅
a.了解、ユウキ…任務開始だ
斑鳩恭耶(pa1232)
♂ 26歳 刃忍
a.オーケー、恭耶。やるか。
ユウキ・ヴァルトラウテ(pa1243)
♂ 26歳 英弾