【PF05】怪盗5番勝負!

担当野間崎 天
タイプグランド 授業(島内)
舞台Celticflute
難度やや難しい
SLvC(紛争地域、島内)
オプ
出発2018/06/03
結果成功
MDPリュヌ・アカツキ(pa0057)
準MDP桜葉千歳(pa0088)
澤渡龍兵(pa0190)
ドゥエイン・ハイアット(pa0275)
ルーカス・ヘルキャット(pa0899)
大世宮典人(pa0940)
明神小夜(pa0954)
キティ・ラップ(pa1077)
アルヴァ・リンドブロム(pa1577)

オープニング

◆暴かれた狙い
 オリジンフェスの裏で頻発していた児童誘拐や人身売買。
 学生達の活躍により、それらを行っていた人身売買組織の存在が明るみになった。

 「スケアクロウ」


登場キャラ

リプレイ

◆波乱のミスタコン
「はぁ。なぜ俺がこんなものに参加しなければならないのだ」
 ため息を吐きながら可児丸ジュスタン警部が置いたペンを、斧箭槍剣が拾い上げた。
「警部、俺も参加させてもらいますよ」
 そうして、警部の次に名前を書いた。
「こういう時こそ、滾る肉体美を見せつけねぇとな」
「では、こちらへどうぞ」
 警部と槍剣を大型のテントへと案内したのは中藤冴香
 参加者の控室として砂浜に設置されたそこには、ロッカーや化粧台と姿見、数々の水着等が抜かり無く用意されていた。
 これなら、急遽参加を決めた者にも対応できるだろう。
 警部の水着も冴香が試行錯誤しながら選んでいた。
 落ち着いた色合いの物から派手な物、定番の物から流行の最先端まで、次々と警部にイメージで当てはめ、これはと思えば試着を頼む。
 警部の好みも聞きながら似合う物を探す作業は、心が弾んだ。
 同時並行して、槍剣の水着選びも手伝う。流石にいつもの褌を「日本の水着」と言い張るわけにはいかないし、お互いその気もない。
 槍剣の滾る筋肉を魅せる水着として、白基調のブーメランパンツ。肉体を余すこと無く見せる事を取った。
 警部の水着も決まると、二人まとめて化粧を施し、冴香は満足げに二人を送り出した。  

「レディーース! アーンド! ジェントルマン! お待ちかねのミスターコンテスト、開始です!」
 早速始まったミスターコンテスト。
 凸字型のステージ上を、一般の参加者が何人か往復した後、まずは警部の出番となった。
 ボクサータイプの水着を履いた警部が、ステージ上をまっすぐ歩く。
 こういう場が慣れていないと素人目に分かる程に顔をこわばらせていたが、ひとまず一往復してステージからはける。
 次に登場したのが槍剣だ。
 堂々とステージ上を進んでいく姿は、威厳と自信に溢れ、盛り上がる筋肉が自己主張していた。
「暑苦しいとか言わせねぇぜ。これが夏のスタンダードだ」
 ポージングを決めた槍剣がニヤリと笑い、ターンして戻っていった。

 ステージとは別方向から爆音と共に吹き上がった煙幕にオーディエンスの注目が集まった。
 浜風に煙が流されて姿を表した影は、悠然とステージへと向けて歩みを進めていた。
(最高の舞台に最高のギャラリー、なら必要なのは最高のパフォーマーだよな!)
 馬並京介は、巨大な宝石の指輪をはめた手を大きく上げる。
 トレードマークのホースヘッドに、トレンチコート。その下は豪華なネックレスとブーメランパンツ。そして、鍛え上げられた肉体。
 その居で立ちに引き寄せられ、人の波が彼の方へと流れてきたのを確認すると、彼は上げていた手をくるんと回す。
 すると、その手には一枚のコイン。
 一瞬驚きの声を上げた観客に裏と表を見せると、次の瞬間には5枚に増やす。更に、そのコインを握って開けば右手からコインは消え、左手を開いてみせればそこに存在した。最後に両の手をぱちんと合わせて開けば、ハイビスカスの花が大輪を咲かした。
 拍手と指笛が鳴り響く中、花を人垣の先頭にいた少女にプレゼントしてステージに登った。
 トレンチコートを脱ぐと、京介は規定上のウォーキングを見せた。
 技の次は力。
 見せる為ではない、格闘や運動によって鍛え上げられた筋肉には無駄がなく、見る者を圧倒した。

「えっと、では、最後のエントリーは……」
 司会が参加者の紹介をしようとしたとき、海の方からまたも歓声が上がった。
 観客が注目するのは、海上を行く一台のクルーザー。
 会場へと一直線に進み、砂浜に乗り上げると、そこから降り立ったのは一人の怪盗。
 名は明かされぬが、拳銃貴族、ドゥエイン・ハイアットその人である。
 黒のブーメランパンツとマスカレードを装着した彼は、熱い太陽の光を体から滴らせる雫で煌めかせた。
 今までが鍛えられた筋肉をアピールする者が大半だった中で、彼は色気をアピールしてきた。
 他の参加者に対してとは目の色を変えて見る女性達にサービスしながらステージに上がると、まったく臆すること無くウォーキングをこなした。

 水着審査を経て、捜査官と怪盗の肉体美は見せてもらった。
 お次は、スピーチで知性を見せてもらおう。
 順番がシャッフルされ、4人のうちで最初に話す事になったのは、京介であった。
 技と肉体美は高評価であったろう、京介。
 皆の期待が高まる中、馬の口から語られた事は――
「いっけね。スピーチある事完全に忘れてたじゃん」
 観客が全員ズッコけた。
 そして、観客達がざわざわし始めると、京介はニヤリとした(馬面で見えないが)。
「……なあんてな。さぁ、楽しもうぜ!」
 観客の緊張をほぐした後は、動画制作で鍛えたアドリブも織り交ぜ、スピーチを乗り切った。
 その後に登壇した槍剣も、勇ましくスピーチを終えた。場馴れしているだけに、貫禄のある堂々とした喋りであった。

 準捜査官二人に続いて、警部がステージへ上がった。
 ICPOの制服をビシッと決め、冴香から知性的に見えるように化粧を直してもらった警部は、おごそかに持論を展開した。
「――であるからして、犯罪者はすべからく捕まえなければならないのです。以上」
 怪盗逮捕にかける強い意志を示すと、聴衆からは拍手がわいた。セルティックフルート島は観光地でもあるが、警察学校のお膝元。多少長いスピーチであったが、これらの話題は聴衆も賛同しやすかった。
 そして、何の因果か、次に壇上に登ったのは、何もかもが警部と正反対な怪盗サイドの男、ドゥエイン。
 白のタキシードに西武のガンマンのような帽子とガンベルト姿。直前の警部の制服姿との比較もあり、聴衆がざわついたが、怪盗にとっての制服とは一般からすれば突飛なものだ。彼は気にすることなく話し始めた。
 テーマも、警部と正反対。怪盗についてだ。
「さて、怪盗とは何か? 警部殿、答えてみたまえ」
 怪盗の様子を見に来て、最前列にいた可児丸警部へと、ドゥエインは問いかけた。
「ただの盗人どもだ」
 律儀に、だが、少々苛立った様子で答えた警部へ、ドゥエインはチッチッチッと指を振る。
 何もわかっちゃいない、と。
「教えてやろう、そう、この黒い相棒でね」
 警部が警戒した瞬間、ホルスターから早抜きされた銃口が警部の額に向けられる。
 警部はもちろん、周囲の誰も動けない中、ドゥエインはゆっくりと引き金を引いた。

 ビュー-ッ!

 勢いよく飛び出た銃弾は――否、水飛沫は、警部の顔と制服を水浸しにした。
「怪盗とは、そういうことさ」
 一礼して一人冷静にステージからはけるドゥエインを見送った観衆達は、次の瞬間大爆笑し、惜しみない拍手を贈った。
 警部はしばらくあっけにとられていたが、しばらくしてはっとすると「おのれ、怪盗め!」と顔を真っ赤にしたのであった。
 スピーチで聴衆に質問したり、小道具を使用したり、型に縛られない自由な発想で周囲の視線を、意識を盗む。
 ドゥエインは怪盗としての魅力を十分に発揮した。
 だが、それがミスタコンとして評価されるかどうかはまた別である。
「投票の結果、優勝は、可児丸ジュスタンさんです! おめでとうございます♪」
 優勝の盾と副賞の宝石を受け取った警部は、優勝盾を帯同していた廻環ゆめに預けると、宝石箱をつぶさに調べた。
「どうですか?」
 ゆめが警部に丁寧に尋ねると、警部は首を横に振った。
 どうやら違うものらしかった。

◆デッドヒート!
 空からの挑発を受け、警部と部下と準捜査官達は、海水浴場の駐車場までやってきた。
 そこで待っていた怪盗は4人。並んだマシンは4台。では、順番に見ていこう。

 ――エントリーナンバー1! 怪盗……いや、ニンジャ!? ファントム・サワタリ!
 バイクとおそろいの迷彩柄のニンジャ装束のサワタリ――澤渡龍兵――が挨拶した。
「ドーモ警部、さっきのセリフ、まるで自分がトップ独走してやると言いたげな態度だな」
 砂浜で叫んでいた「遅れてやってくるおまえらをゴールで全員逮捕してやる!」という台詞に対してだろう。
 ちなみに、ニンジャな彼の愛車も篠崎重工製の高性能ロードバイク――忍者1000H2――である。
「当たり前だ。怪盗ごときに遅れをとるわけがないだろう」
「いいだろう、その自信満々な表情を悔し顔に変えてやろう」
 警部の態度に逆に、マスクの下で満足気にサワタリは笑った。

 ――エントリーナンバー2! 普段は寡黙な大男! 轍の刃!
「『轍の刃』だ。あんた達の為に轍を刻んでやろう」
 轍の刃――大世宮典人――は、普段と違う姿にMNで変身し、口調も改めていた。
 決め台詞に込める意味も。
「俺達の為に轍を刻むだと……先頭は譲らないということか」
「そうだ」
 警部の推測に轍の刃は頷いた。
 本来であれば、雑魚を蹴散らす意味で使っているのだが、レースでの挑発にもちょうどよかった。
 彼の愛機は北海技研工業社製のスーパーロードバイク、北海NR750。使用者を選ぶマシンでも、轍の刃は余裕で乗りこなす。
 そんな彼がライバルと目すのが――

 ――エントリーナンバー3! 怪盗界のスピード狂! 流星のメルクリウス! 
「レース勝負受けて貰うよ、流星のメルクリウスに追いつけるかな?」
 サングラスで視線を隠した流星のメルクリウスこと、九曜光。レース部の部長であるメルクリウスは、まさにレーサーという居で立ちで、警部らに真剣勝負を挑もうとしていた。
 もちろん、轍の刃同様、他の怪盗の凄腕達にもトップを譲る気はない。
 愛機はメルクリウスも北海NR750。ただし、こちらは後輪だけをオンオフ兼用タイヤに履き替え、サスも幅をとるセッティングにしていた。
 ロードを飛ばすだけでない、荒らす展開が想定されていた。

 ――エントリーナンバー4! 騎士様にはやはり乗り物が似合う! 聖騎士!
 最後の紹介となったのは、現代の騎士、聖騎士ことエルフ・プレシス。騎馬の代わりにオフロードバイクに乗った彼女が颯爽と現れ、警部へと啖呵を切る。
「カニマル警部殿、貴殿に正義があるのなら私を捕まえてみせよ!」
 わかりやすい挑発。だが、正義感の塊のような男には、それで十分であった。
 ICPOが正義を疑われて怒らないはずがない。他の怪盗達へ向けられる者よりも鋭く聖騎士を睨んでいた。
 警部を翻弄する作戦としては、上手くいっていた。

 さて、怪盗側の紹介は終わった。既にエンジンを吹かしていつでも出発できる怪盗達に対し、警部も車に乗り込もうとする。
 だが、ミスタコンに参加しに来た警部や準捜査官の車は、普段使いな街のレンタカーや小型自動車。怪盗達のスーパーマシンに対抗するには心もとない……
 威勢よく挑発に乗った警部も、冷静な部分で勝負の厳しさを考えていると、準捜査官側にも援軍が到着した。

 ――エントリーナンバー5! ベニバナのスピード狂! 李紅花
「ヘイ警部ぅ!乗ってく?」
 警部の脇に車を滑らせて停まると、運転席の窓を開けて警部を誘う。
「怪盗なんかに負けてらんないっしょ?一発カマそうよ!」
 軽薄な言葉に警部は眉をひそめて近くにいた準捜査官に視線で尋ねると、莫水鏡もなんとなく無言で笑顔を作った。
 スピード狂なだけでなく、サディストでトリガーハッピーで他にも一般から見れば破綻しているところは多いが、それでも腕は確かだ。
 アストラマーチン社製のGT、DB11の助手席に警部が乗り込む。すると、紅花は警部にポンとドリンクやタバコを渡すようにアサルトライフルを渡した。
 警部は渡された通称アバカンが本物であることを確認すると、見なかったことにして座席の後部に放り投げた。
「え~邪魔する怪盗は撃っちゃってよ」
「レースでこんなものはいらん! それより、怪盗に負けるなよ」
「アヒャヒャ! いいよぉ!」

 ――エントリーナンバー6! 蒼き雷! 一条葵
(俺みたいなのが準捜査官なんて言われても警部さんも驚くだろうけど、あんま怪盗側寄りになっても勝負は面白くないだろ)
 紅花に続いて、ガラの悪そうな奴の登場に、警部は少しUNICOの教育について疑問を持ったとかなんとか。
 だが、振る舞いと心根が同じとは限らない。
 準捜査官として戦うと決めた男の駆る、忍者1000H2は、怪盗に臆すこと無く立ち向かっていけるだろう。
(それに怪盗側でやり過ぎる奴がいないとも限らないからその牽制も兼ねて、な)
 警部が放り投げた突撃銃を見て、葵は自らの役割を想定して、ヘルメットの機能でセルティックフルート島のマップを開いた。
 目的地まで極力一直線に行くのなら、住宅地を通ることになるだろう。だが、車で込み入った道を行くよりは主要道路を飛ばした方が早いだろう。
 ならば、警部を守る自分も、進むのは大通りだ。

 ――エントリーナンバー7! 紳士的な王子様! アルヴァ・リンドブロム
 遊撃班に所属していた彼女も、準捜査官と警部のバランスを整える為に参戦だ。
 アルヴァの愛車は、いわゆるロンドンタクシーだが、680馬力V8エンジン搭載の車種の性能は、GTにもそう引けを取らない。
 紳士的な態度に、警部の学生達への評価も上がったのは、まあ余談だ。

 こうして、合わせて7台のマシンが駐車場に並ぶと、ミスタコンで司会をしていた女性がフラッグを掲げた。
(あの旗が降ろされたスタートですね)
 タクシーのハンドルを握り、アルヴァが固唾を飲む。
 司会が周囲の安全と準備の完了を確認すると、旗は大きく振り下ろされ、全車一斉にスタートした。

 集団は、主に2つのコースに別れた。
 一つは、主要道路を時計回りに進むコース。警部を載せた紅花の車を中心にしたグループだ。
 アルヴァのロンドンタクシーと葵の忍者が先導するように飛び出すと、DB11が主要道路の山の方へとハンドルを切った。
 それを確認して聖騎士も誰かへ通信しつつ、中型オフロードバイクのスロットルを捻って体を倒した。
 ロード仕様の捜査官側の加速にオフロード仕様でついていくのは厳しかったが、視界が開けているおかげでなんとか視界に捉え続けることはできた。

 残りの怪盗の3人が進むのが、街中を突っ切ってショートカットするコースだった。
 並の腕では危険なだけで、ちっとも早くならないはずのルートでも、3人はハイスピードで街中を駆け巡った。
 現在、先頭を走るのはメルクリウスのNR750。マシン性能を存分に活かして快調に飛ばしていく。そのすぐ後ろにピッタリと轍の刃のNR750も張り付いていた。スタートダッシュでは、わずかな位置取りの差で後ろに着くことになったが、虎視眈々と抜くタイミングを窺う。
 数秒遅れながら、サワタリも続く。その際、ルートの効率化を図りながら、サワタリは周囲の注目も集めていく。
 段差を利用したハイジャンプに、壁や道路の溝を利用した急旋回、ド派手なドリフトの立ち上がりにウィリー、と、次々とアクロバティックな動きを決めていった。
「今のよく着地できたな! 5m? 10m?」
「宙空に軌跡で絵を描いてるかのようだ」
 サワタリの技は、道端のギャラリーが増えれば増えるほど、キレを増していった。
 常に周囲の目を気にすること、怪盗には重要な美学である。

 外周道路の方も、ここまではトラブルなくレースが進んでいた。
 葵が先頭で先導し、紅花と警部、アルヴァと捜査官達が一塊となって先を行き、怪盗の聖騎士が一人遅れる格好であった。
 しかし、怪盗として黙って後塵を拝するわけにはいかない。
 1つ目のトンネルを抜けると、聖騎士に短い通信が入った。
「設置完了だ。狙える」
 聖騎士も短く返事をすると――山に銃声が鳴り響き、着弾したアスファルトに大きな穴が空いた。
 DB11と聖騎士の間に着弾した弾丸は、Ba社製、12.7mm口径アンチマテリアルライフルの物。
 山に潜伏したトワイライトバレットこと、シグナ・ガントレットの威嚇射撃だ。
(風を感じろ。銃弾は必ず届く)
 狙撃の腕の見せ所と気合も乗せて放たれた弾は、またも狙い通りに道路を吹き飛ばす。
 先程よりも車体に近いところへの着弾。紅花が冷静に車体を操り、不規則な蛇行運転で狙いを付けさせないように動く。
「まあ、妨害しちゃいけないとは言ってないねえ」
「くそっ、怪盗め、姑息な真似を」
 だが余計な動きをすることは、後続が追いつく隙となる。
 聖騎士のバイクが一気に距離をつめて横に並ぼうとする。が、葵が割って入って聖騎士をブロックした。
「あんたら、やりすぎだ」
 ロンドンタクシーも同じくDB11の間に滑り込むと、流石にトワイライトバレットも威嚇で狙える範囲がなくなり、そのまま射程外へと逃れた。

 こうして、外周道路で一悶着あったうちに、街中でも動きがあった。
「おお、忍者が先頭に立ったぞ!」
 高級住宅街で運良くその瞬間を目撃できたギャラリーの叫び声と拍手、スマフォカメラのフラッシュ音が鳴り響いた。
 メルクリウスと轍の刃が平面的なルートを行く中、立体的なショートカットが有効になった瞬間であった。
 しかも、メルクリウスがその理解を越えた光景に目を奪われた一瞬の隙をついて、轍の刃がすっと先に出た。
 住宅地を抜ける直前に起きた順位変動。
 そのままの順位で住宅地を抜け、グラウンドへ向かう橋の上に到達するが、まだ先頭争いは終わらない。
 最後の直線、3人ともフルスロットル。
 先を行く忍者に、2台のNR750が追いつき――ほぼ同時に3台並んでグラウンドへとゴールした。

 しばらくして、外周道路から警部達が到着すると、グラウンドには一枚の写真が残されていた。
「アヒャヒャ、やられちゃったね」
「チッ、怪盗どもめ。姑息な妨害さえなければ」
 それは、怪盗3人でのゴールの判定写真。
 轍の刃が他二人をわずかに差してゴールしたところであった。

◆わずかな、いとま
 酷使したマシンを休ませる為に、レースに参加した準捜査官達がグラウンドに残り、他の者をキティ・ラップが森の入り口まで運ぶ事になった。
「随分面倒な挑戦吹っ掛けられましたなぁ」
 ミーニクーパーを運転しながらキティは後ろの席の警部へ話しかけた。
「まったくだ。だが、こんなふざけた真似、許しておけんからな」
 むすっとする警部へ、キティは、ペットボトルを差し出した。
「気ぃ詰まりそうなんは分かるけどな。飲まず食わずはあかんよ」
 警部の他の皆にも器用に運転しながら渡していく。警部はペットボトルのスポーツドリンクのキャップをペキっと回し開けると、一気にあおった。
 更に、食べやすいように小さめに作ったおにぎりを渡すと、皆それぞれペロリと食べた。
 極楽……と誰かがこぼす。
 クーラーの効いた車内は外の暑さを忘れさせ、ゆっくり丁寧な運転はハイスピードバトルで張り詰めた精神を適度にほぐしてくれていた。
 わずかな時間であったが、警部と準捜査官達は、適度な休息を取り、次の戦いの場へと着いたのであった。

◆賢者の森
 キティのミーニクーパーから降りた警部と付き添う捜査官達は、森の入り口で先に到着して待っていた準捜査官や警部の部下達と再合流を果たした。
 すぐにでも森の中へと突入しようとする警部達を静止するように、森の方から話しかけられた。
「警部、梟の別名をご存知かな?」
 到着した警部達が声のした方へ懐中電灯の灯りを集めると、木陰に佇む影がニヒルに笑った。
「森の賢者……、まさにここは私のフィールドなのだよ」
「おまえも怪盗か!?」
 警部の誰何の声に、怪盗クク――今井天――は「いかにも」と頷いた。

「しかし、児童の人身売買とは、なんともひどい濡れ衣を着せられたものだ」
 ククが怒りを隠さずに文句を言えば、警部は「濡れ衣だと!?」と訝しんだ。
 にらみ合う二人の間に入り、ゆめが警部に聞きたかった事を尋ねた。
「今まで怪盗は人身売買をしてきたんですか?」
「ぐっ……」
 警部は唸って口をつぐむ。まったくないとは言えないのだが、かなりのレアケースだ。
「今回の人身売買は本当に怪盗の仕業なんですか?」
「……今のところは、そう見ている」
 警部が、喉の奥から絞り出したような声で答えた。その想いを汲んで、ゆめは立て続けに質問した。
「この島に来て、怪盗に会ったって聞いたし、今回の勝負で何人か会ったけど、人身売買をするような人達でしたか?」
 警部は、答えを出せずにいた。今までの経験と合わせても、違和感は感じていたのだ。
 それが、この島に来て調べれば調べるほど、怪盗達と対峙すれば対峙するほど、違和感は増していた。
「もしも、本当に黒幕がいるのだとして。怪盗がこうやってたくさん出てくる……しかも警部が帰る時に――」
「そろそろおしゃべりもいいだろう。森は危険だから、引き返すなら今だぞ」
 ククはゆめの言葉を遮るように言うや否やコインを地面に叩きつけると、湧き上がる煙幕に紛れて森の中へと姿を消した。
 フクロウのように、音も立てずに。

「ええい!怪盗に遅れを取るな!すぐに俺たちも捜索に――」
「警部」
 顔を真赤にした警部に対し、桜葉千歳は予告状を見せてほしいと頼んだ。
「ヒントはこの予告状ですね。ブラックライトか炙り出しかその辺りかと」
 千歳の推理に、警部はすぐに火とブラックライトの準備を部下に指示した。
 自分達の乗ってきた車まで慌てて走っていくのを見送ると、羽乃森晴が静かに警部に話しかけた。
「先ほどの怪盗が言っていた事をどう思いますか?」
「なんの話だ?」
「ひどい濡れ衣だとのことでしたが……」
 警部は一笑にふそうとしたが、晴の真剣な顔を見て一つ咳払いすると、教え子に諭すように話す。
「確かに、やつらの犯行というには違和感もある。だが、怪盗だと言う以上、あいつも捕まえなければならないことに変わりはない」
 頼むぞ。と、警部は晴の肩を叩いた。そして、警部はしゃがむと、晴の隣でしっぽを振るゴンスケの頭をなでた。
 こちらの優秀な警察犬にも期待しているとばかりに。
 部下達が道具を持って戻ってくると、早速予告状に対して試された。
 ブラックライトを当てて見るが、こちらに反応はなし。
 次いで、ライターで下から炙ると、少しずつ何かが浮かび上がってきた。
「お手柄だな」
 警部の言葉に千歳は笑みを浮かべた。
 そして、予告状に浮かび上がったのは、森の地図。
「これで迷いにくくなるということなのか?」
 晴が地図を覗き込み、千歳と二手に分かれて探すにはどう範囲を振り分けるか話しはじめる。
 だが、桜朏空は地図……予告状にひっかかりを覚え、じっと見つめて思考を巡らす。

 その頃、考え込む空の姿はドローンによって空撮されており、その映像はククにももたらされていた。エリーゼ・クレーデルが対戦をフェアにするために怪盗側に流しているのだ。
(なるほど、これだとたしかにヒントは警察側がもらっている事になるな)
 ククは狼のアガーテとボルゾイのアインと並走しながら宝を探していた。
 ふと、2頭がピタリと止まり、地面の匂いをしっかりと嗅ぐ。それから方向を変えて少しずつ進み、ぶつかった樹の上に向けて吠えた。
 ククが登って確認すれば、木の枝に引っかかっていたのは、宝石箱。
 降りたククが2頭の頭をガシガシと撫で、箱を検める……と、ククの表情が曇った。
「くそっ、フェイクだ」

「では警部、この編成でどうでしょうか?」
「うむ。いいだろう」
 2班への分け方を晴が上申すると、警部が承認した。
「空さんは私と一緒にこちらへ――」
 千歳が空に出発を知らせるが、ギリギリで空がひらめいた。
「……宝の場所はわかりました。分ける必要はありません」
「なんだと!」
 警部はじめ全員が空のもとへ集まると、空は自分の考えを話す。
「――ということです。この辺りを全員で集中して捜索した方が良いでしょうね」
「よし、全員でむかうぞ」
 こうして警察側も森へと突入した。宝へと一直線に。

 そして、宝は見つけられた。
「ワンワンワン!」
「見つけたか」
 鳴き声に飼い主が駆けつけると、丸まったしっぽが激しく揺れた。
 樹のうろにあった宝石箱を拾うと、晴は他の捜査官達を呼んだ。
 集まった者達の前で晴が宝石箱を開けると、中には『正解』と書かれた紙とUSBフラッシュメモリが入っていた。
「正解?」
 千歳が首をひねると、後ろから声がかけられた。
「いやはや、さすがだな」
 ホラー展開を期待して千歳は振り向いたが、そこにいたのは大量の宝石箱を抱えたククと2頭の犬。
「宝探しに夢中になってしまい、気付くのがおそくなったが、この場所が『宝』か」
 頷いたのは空。
「予告状の最初の一文、『宝なら森に隠した。』……あぶり出された地図の『宝』の文字の位置がここです」
 宝石箱と書かず、宝と書いたのも、なるべく点で位置を示す為だったのでしょう。と、空は推理していた。
「いやはや、さすがだな」
 怪盗の敗北宣言に、警部は鼻を鳴らした。
「なら、後はおまえを捕まえれば良いな」
「おっと、それは困る。まだまだ怪盗と警部との勝負は続くのだから」
 ククは余裕たっぷりに言うと、コインを地面に叩きつけ、煙幕を張った。
 警部が慌てて部下たちを煙幕の中に飛び込ませるが、後の祭り。ククは夜の森へと姿をくらましたのであった。
「警部、追いますか?」
 晴の確認に、警部は首を振った。流石に今の人数で夜の森を人狩りするわけにもいかない。
 ひとまず、今回の勝負の戦利品を確認することにした。
「おい、あいつの持っていた物のどれかが本物だったんじゃないのか?」
「それはないでしょう。わざわざ『正解』と書いていますし、怪盗も敗北を認めていましたから」
 憤る警部へ冷静に空が述べる。
「……おい、USBメモリの中身を確認しておけ! 変なウィルスが入っている可能性もある、十分気をつけろ」
 やはりハスラー邸の物とは別だった宝石箱ごとUSBメモリを部下に預けると、警部は叫んだ。
「くそっ、怪盗め、一体いくつ偽物を用意しているんだ!」

◆それもそのはず
 いくつもの箱が現れていたが、そのどれもが良く似た偽物。
 それもそのはず、例の宝石箱のレプリカを、彼が量産していたのだから。
(どうやら、うまく混乱を助長できているようでゴザル)
 UNICOの特別教室の一つで工具を振るうのはスティーヴ・カラサワ
 商店街でオルゴールやシュエリーケース等を買い込み、それらをベースにエイジングとレジン製の綺麗な偽ジュエルを貼り付けてお手軽に作っていた。
 怪盗としては、もっと精巧な物を作りたくもなるが、そこは「時間と予算の都合」だ。精巧すぎて、偽物と気づかずに警部が満足してしまってもいけない。
 また一つ完成させると、中にはお宝を入れて封入。
(カプセルトイのダブり品でゴザルが、慰めにはなるでゴザル)
 ……そうだろうか?いや、きっとそうだ。

◆宴の前の楽しみ
 森から出た捜査官達が車に乗り込もうとすると、ワイパーのところに次の予告状が挟められていた。
 予告状に従い、上流街のとある名士の館へ招待された警部は、その前に高級紳士服店へ寄る事にした。
 そこでは、再び冴香が警部の着せ替えを十分に楽しんでいた。今度は服だけでなく宝石も含めてのトータルコーディネートだ。ついでにタイムキーパーを務める桜葉杏花から言われていた時間も稼ぐ事ができた。
 警部達が出発した後、すぐにもうひとり来店した。
「やあ、私もお願いしてもいいかな?」
 ジェームズ・ワースだ。直前で怪盗側でパーティに潜り込む事を決めた彼は、タイミングをずらして着替えに来たのであった。
「ええ、もちろんです」
 笑って受け入れてくれる幼馴染に彼も笑い返す。
「パーティでの勝負だが、サエの化粧も楽しみだしね!」

◆真偽入り乱れる
 パーティ会場にて、余興の内容が告げられると、警部は主に食って掛かっていた。
(優秀だがやや視野狭窄……警部殿には補佐が必要なようだ)
 陳華龍はそのまま切れ長の眼で警部と主のやりとりを観察していた。推理の第一歩は観察と予測だ。
(まずヒントを真に受けるなら疑うべきは館の主。彼が宝石を身につけているかは未確認であり、客を招く立場として彼は誰に招かれた訳ではない招かれざる客……だ)
 だが、警部の圧力をまあまあと抑える主の両手には大きなエメラルドやダイヤの指輪がはめられていた。
 また、招かれざるとはいえ、主を客とは言えないだろう。
 華龍はそろそろ良いかと警部の肩をちょんちょんと突付く。
「警部殿、冷静に。我々は捜査官、法の番人、真実を暴き闇を光で照らすのです」
「う、うむ。そうだな」
 準捜査官に悟され、警部は咳払いした。
 一度警部と共に離れる華龍の冷笑に、主は不敵に笑い返した。

「それで、なにかわかったか?」
 警部の小声での確認に、華龍は小さく息を吐いた。
「主自身になにか隠されている様子はないです」
 次の手を考えているとき、同じく警部と主の様子を陰からうかがっていたものがいた。
 ジェームズ・ワース、いや、アステロイドだ。
 主役をないがしろにする宝石――主役の物より目立つ宝石や誕生石を持つ者を探す為に、まずは主人を観察していたのだが、
(ダイヤやエメラルドより目立つ宝石はなかなかなさそうだね)
 流石にメジャーな物ゆえ、同じ宝石をつけている者はいたが、主の物よりは控えめな物ばかりであった。
(なら、宝石を髪や持ち物につけている人を探してみようかしら?)
 そう考えたのはエリーゼ。準捜査官として来ていた彼女は、今度は自分に小型盗聴器を仕掛け、準捜査官側の情報を怪盗側にももたらしていた。
 ここまで怪盗と準捜査官側は1勝対2勝。怪盗側に勝ってもらわねば困る。
 とはいえ、最後にこっそり勝利を譲ればいいのだから、探すのは真剣だ。
(イミテーションを見抜くのは、主催者側も難度が高いでしょうし……それなら装着位置かしら)
 というわけで、該当する者を探して、声をかける。
 だが、綺羅びやかな宝石で彩ったバレッタの淑女も、ハンドバッグにワンポイントで大きなルビーを付けた老婆も、次につながるヒントは持っていなかった。
 箱さえ見つかれば、鍵を開ける自信はあったのだが、そううまくはいかなかった。

 準捜査官側の捜査が難航していたが、怪盗側もすんなりとはいっていなかった。ジェームズ・クレイトンこと、美の騎士は、他の部屋や屋敷の周囲を調べて戻ってきたところであった。
(主が「そいつに貰って」と表現するんだ。意思のあるモノであるのは違いないが、そいつ自身は宝石箱に興味は無し――)
 ジェームズはそこから、直感に従って仮定を立てた。
(人じゃない気がするんだよな)
 というわけで、会場には動物がいなかったので、ブギーマン社製のジャーキー片手に他のところも探してきたのだが、ドロイドすらいなかった。
 会場で次に探すのは古典的な比喩の可能性。
(瞳を隠しているやつは……?)
 色付きグラスや前髪が隠れる程長い者を探し、ヒットした数名にさり気なく近寄り観察。一人になった瞬間にアタックしてみるが、
「宝石みたいな瞳だって? こんなおばあちゃんにありがとね」
「え、なに? ナンパ? お断りよ」
「そんな、じっと見られると、こ、こまります」
 皆、無関係だった。
 と、いうことは、最後の可能性に至り、美の騎士は情報の取りまとめを担当するディルク・ベルヴァルドに経過を報告すると、
「……うん、ルーカス、が、その方向、で、調べてる……」
 との言葉が返ってきた。美の騎士は通信を切ると、頭をかいた。
(俺こういうの、苦手なんだよなぁ。地道にやるか)

(例外もありますが、宝石に必要とされるのは美しさ、希少性、そして『硬度』です)
 一般客に変装して紛れ込んだフィロソフィ・トッド――ルーカス・ヘルキャット――は、宝石に注目して捜査をしていた。

 脆く、装飾に適さない石。
 宝石と誤認される石。
 合成・模造宝石。

 それらの宝石に見せかけられた類の物を探す。
(外れていたとして、様々な品を見て目を鍛える機会になりますし)
 勝敗自体への拘りが薄かったトッドが、勝負の鍵を握った。
 一人一人、一つ一つ、じっくりと宝石を確認していったために時間は要したが、勝負が早く着きすぎてもいけない。
 準捜査官側の捜査が空振り続ける間に、じっくりと鑑定を続け、途中で美の騎士も加わって効率が上がると、お目当ての一品をとうとう見つけた。
「その『エメラルド』、よく見せてもらっても良いですか?」
 トッドが、ある客に笑いかけると客の方も笑い返した。
「ああ、構わないとも」
 どこかで聞いた事があるような声の紳士が、首から提げていたペンダントを外し、トップをトッドの手のひらに載せた。
 トッドが直接触れて、間近で見て、最終的な結論を出した。
「やはり、『翠銅鉱』ですね。かつてエメラルドと間違えられた鉱石。つまりあなたが、『招かれざる客』です」
「お見事」
 紳士が音を立てずに拍手し、持っていた鍵を渡した。
「ただし、手に入れるより使う方が難しいと思うがね」
「心配には及びません。鍵穴は既に見つけていますので」
 そう答えると、トッドはとある絵画の元へと悠然と歩み寄った。
 そして、そこに描かれた宝石箱の鍵穴へと鍵を差し込んで回した。
 カチャリと音がして、絵画に見せかけた宝石箱が実際に開き、中から目標の宝石箱が現れたのであった。
 こちらも、美術品に興味のあるトッドだからこそ見つけられた違和感であった。
 トッドは、他に仕掛けがないかざっと見てから、宝石箱を取り出すと、
「宝石箱は怪盗が頂きました」
 会場中に響く声ではっきりと宣言し、煙幕を張って逃げ出したのであった。

◆一応の種明かし
「どこに逃げた!怪盗め!」
 警部が部下と準捜査官を引き連れて会場を後にしたのを見送った後、エリーゼが誰もいない空間に向けてつぶやいた。
「あなたが招かれざる客だったのね」
「そういう役割ですからね」
 いつの間にかエリーゼの隣に紳士が並び立ち、一瞬のうちに姿を林秀玲――信頼できない語り手――に変えた。
 勝負の最中に、エリーゼが情報を流していたその人であった。
「変わるものね、全然気づかなかったわ」
「気付かれないように動きましたから。情報が筒抜けでしたので簡単でした」
 出来る事はフル活用。まさかエリーゼのサポートとして、彼女を騙す事になるとは思いもしなかったが。
 ちなみに、ミスタコンの司会も彼女の変装であった。勝負を長引かせるお手伝いは、本当に多岐に渡るものだ。
 まだまだ勝負は続くが、ここまで無事に来れた事を二人は喜びあった。
「これで、しっかり2勝2敗同士です」
「そうね……」
 残る勝負は一つ。
 タイムキーパーの杏花からの通信でも、
「仮面の男はヘリで空輸されてくるみたいだよ。今のところ予測どおりみたいだから、皆、時間稼ぎもう少しよろしくね」
 おおむね時間稼ぎは順調だ。仮面の男もちゃんと空輸されてきそうだ。
 となれば、こちらもこのまま予定通り進めていこう。
 さあ、最後の仕上げだ。

◆追いかけっこ
 パーティから逃げ出した怪盗を追いかけて街中を走りまくった警部は、そのまま大西洋に昇る朝日を見ることとなった。
「いっぱいあるから慌てず食べてえな?」
 キティが警部や部下の捜査官達に食料を差し入れていた。規模としては、差し入れより、炊き出しと言ってもいいレベルかもしれないが、提供している品からすると、やはり差し入れか。
「そんなに好きなんやな、カップラーメン」
 あちこちからズルズルと麺をすする音が海岸線に響く。
 警部も差し入れを胃の中に詰めるが、時折あくびを噛み殺していた。
 怪盗5番勝負が始まってから、最低限の移動中や食事以外、ずっと怪盗を追い続けているのだがら、疲労はピークに達していた。
 こうも見つからないのは、怪盗達も島を出たからではないか?
 こちらも、ここに拘らず、島の外の別の怪盗を追うべきではないのか?
 疲れ果てた警部の心にかすかな迷いが生まれた、その時――
「おっと警部殿、疑いが晴れるまで調査する、そう言っておいてもうお帰りで?」
 警部が声のした屋根の上を振り仰ぐと、朝日を背にして二人の怪盗が立っていた。
「アナタが言うように、確かに怪盗にも色々居るだろう。だからこそ疑いを晴らし、示さねばならない」
 怪盗の一人、夜明けを征く者こと、リュヌ・アカツキはそう自分に誓ったのだ。
「おまえは……あのときの」
 警部もハスラー邸で対峙したときの事を思い出したようだ。
 そして、そのときにいなかった怪盗達もその場にいた。
「ようこそ警部、そしてUNICOの諸君。尻尾を巻いて逃げなかった事だけは、評価しようじゃないか」
 黒っぽい装束に身を包み、太いクチバシの付いた黒い仮面で顔を隠した怪盗が警部を見下ろす。
(『スケアクロウの一員』っぽい姿って、こんな感じで良いのか?)
 スケアクロウの一員として仮面の男へ誘導することになるとして、宍倉静は普段のサイレンサーと違う姿に変装し、普段よりも芝居がかった物言いをしていた。
「二人ともそこを動くな! まとめて逮捕してやる!」
「動くなと言われて止まる怪盗はいねえなあ」
 サイレンサーは屋根を飛び移りながら離れていき、夜明けを征く者は道路へと降り、タイミングを見計らって現れた、疾走する迷子――ダスティン・ガーランド――のバイクの後部に飛び乗って、逃げ出した。
「二手に分かれて追うぞ――!」

 二手に別れたうちの一方、住宅地では、サイレンサーとマサカー・フェイトが鬼ごっこをしていた。
「その程度の腕で、よく捜査官などと名乗れたものだ。何なら暫く、ここで待っていようか?ふふふ」
 屋根の上を駆け跳び回るサイレンサーの挑発を受けて、準捜査官の中からマサカーも屋根に上がって追いかけ回す。下の道では警部も必死に走ってついてきていたが、遅れ気味だ。
 それほど、二人は素速く、パワーレッグやワイヤーを使ったショートカットも効果的であった。
 なかなか二人の距離は縮まらず、マサカーは若干焦ってもいた。が、
(いやー、まぁなんていうかこういうのも修行だね修行)
 と割り切り、確実に捕まえられるときを待った。
 そして、サイレンサーが細い足場をめがけてジャンプしたときを、チャンスと見た。
(警部からも死角だろ。いけっ)
 マサカーはフリーズダガーをサイレンサーの着地する脚を狙って投げた。
 それでもサイレンサーは態勢を崩しながらも避け、狭い足場に降りてみせた。だが、とっさに動けないだろうところに、マサカーが一気に距離をつめて投げ手錠を放った。
(……決まればかっけぇ!)
 今度こその、トドメの一投。
 だが、サイレンサーはあえて足場から落ちた!
 サイレンサーの一瞬前にいた場所を手錠がすり抜けると、マサカーは急いで引き戻し、屋根からサイレンサーの落ちた先を確認した。
 すると、受け身をしっかり決めたサイレンサーがすぐに走り出し、路地へと姿を消したところであった。
 マサカーも慌てて飛び降り、警部もまもなく駆けつけたが、既にサイレンサーの姿はなく、路地の先では、いつもの人通りで街が賑わっていた。
 もはや群衆に紛れた彼を見つけることはできないだろう。
 だが、怪盗を取り逃がし、悔しがる警部の元に、一報。
「そうか、バイクの方は見つけたか。すぐに向かう」

 逃走するバイクはなかなか見つからなかったのだが、住民の通報から『たまたま』発見された。
 目撃情報から急行した警部が、ルートを予測して先回りし、気づいて逃げるバイクを追い立て――
 巨大な竜血樹の場所でバイクを飛び降りた夜明けを征く者を、とうとう崖際まで追い詰められたのだ。
「流石警部殿!」
 可児丸警部と部下達に取り囲まれ、逃げる場所のなくなった夜明けを征く者。
「観念してお縄につけ!」
 警部の最後通告にも、夜明けを征く者は不敵に笑う。
「しかし随分胸糞悪い濡衣だ」
「なんだと?」
 逆に警部は眉間にしわを寄せる。
「警部殿が『怪盗と手口が違う』と思っていたのは有り難い。俺は警部殿等には今のように純粋に刑事と怪盗として追い追われるものでありたいのさ。それは一つの信頼だ、それでこそ導ける物もある……意図せず不本意でも、交渉人が犯人を信頼し信頼させ至るように」
 夜明けを征く者の静かな語りに聞き入りそうになった警部は、一度大きく頭を振ると、部下たちに取り押さえるように指示を出した。
「ならば、純粋に捜査官として逮捕してやる。かかれ!」
 うおーーーーー、と、掛け声と共に部下が一斉にかかる。逃げ場はなく、この人数を同時に相手にするのは無理だろう。
 だが、夜明けを征く者は逃げのびた。
 崖の下へと飛び降りることで。
「馬鹿な!?」
 部下達と警部は慌てて崖の下を覗き込んだ。すると、岩場には大きなクッションが展開されており、夜明けを征く者をしっかりと受け止めていた。
 さらに、海の方から、小型の潜水艇が浮かび上がってくると、夜明けを征く者が乗り込んだ。
「くそっ!逃したか!」
 警部は、足元に落ちていた名入りのダーツを拾うと、次こそは捕まえてやるとばかりに強く握りしめた。

「ご乗車ありがとうございます。迷子先輩の方も逃げ切れそうと聞きましたよ」
 潜水艇となったロンドンタクシーを運転するアルヴァ……いや、水面の金月馬が夜明けを征く者に安心するように話した。
「ナビがなくなった途端に迷子。とならなきゃいいんだが」
 心配半分からかい半分な言い方に、水面の金月馬もくすりとした。
 こちらは、目的を達成した。
 杏花からは、仮面の男が空港に到着し、これからアジトに搬送されると皆にAiフォン等を通じて学生達へは伝えられた。
(さぁ我々は夜に隠された真と理を盗み出す。太陽の下、烏を捕まえるのは警部殿の仕事だ)

「しかし、なぜこうも逃げられるのか……」
 元凶のハスラー邸のときから、今までの4つの勝負、そして、サイレンサーと夜明けを征く者、疾走する迷子。誰も彼も、捕まえるチャンスがあってもあと一歩のところで逃げられている。
 そこにふがいなさを感じていた警部であったが、その理由を示した部下がいた。
「警部、大変です。捜査員の中に怪盗が紛れ込んで撹乱を図っています」
「なにぃ!?」
 捜査官達がざわついた。なるほど、内部に入られていたのであれば、捜査情報も漏れるだろうし、逃げる隙も作られ放題だろう。
 捜査官達が互いを見比べる中、
「彼かもしれません」
「いえあちらかも?」
 と、疑いの声がかかる。それは、警部への連絡役だったり、怪盗へ一番に飛びかかった者であったり。
 だが、警部は少し考えると、大きく息を吐いた。
「おまえたちのソウルフードは何だ!?」
「「「カップラーメンであります!」」」
 警部の問いかけに対して、捜査官達から息のそろった回答が返った。
 ただ一人、怪盗が紛れ込んだと報告した捜査官を除いて。
「騙されるものか、怪盗め。姿は上手く誤魔化したようだが、調査が足りなかったようだな」
 警部の自信満々の答えに、偽捜査官は満足げに笑った。
「可児丸警部お見事、私こそが助手三世です」
 捜査官の制服を脱ぎ捨て、正体を表したのは、怪盗の一人、助手三世こと小林三代だ。
「先程の食事風景は拝見させていただきましたが、あまりに突飛な質問に、面食らってしまいましたよ」
「ふん。言い訳は達者だな。何のつもりだったかは知らないが、のこのこと捕まりに来ただけだ」
 警部は本物の捜査官達に短く指示を出して包囲しようとした。が、助手三世が動く方が早かった。
 放たれたダイヤの指輪とイヤリング……に偽装された手榴弾が炸裂し、強烈な閃光が発せられた後に煙幕が巻き起こった。
 最初の閃光で目をやられた者達の視界が戻る頃には、助手三世は捜査員達の輪の中から消えていたのであった。
「くそっ。おちょくりよって」
 警部が飛んで火に入る夏の虫すら捕まえられず、苦虫を噛んだような顔をした。が、表情が歪むのはまだまだこれからであった。

「警部……助けて……!」
 聞こえたのは学生の声。準捜査官として帯同していた、明神小夜の声だ。
 後詰めとして捜査官達の後方についていた彼女の方へ、警部も部下達も一斉に振り向こうとしたが、大量の煙幕と催涙ガスがそれを妨害した。
 煙が晴れ、ガスの影響も落ち着くと、既に小夜の姿は消えていた。
 代わりに落ちていた携帯カセットテープレコーダーを、警部はすぐに再生した。
「少々捜査官が多いので小娘は預かった――なおこのテープは自動的に消滅する」
 警部が巻き戻す暇も聞き直す隙も与えず、テープは白い煙を吐き出した。
 うんともすんとも言わなくなったカセットレコーダーを地面に叩きつけると、警部は叫んだ。
「やはりただの人攫いか、こいつらは!」

◆事件の裏側
「……あ……お疲れ……荷物はもうとどいてる、よ……」
「良いタイミングだったね」
「お疲れ様です」
 とある邸宅の一室でノートPCに向かっていたのはディルクと杏花。モニターに映る警部達は、準捜査官が眼の前で誘拐され、ひどく慌てていた。
 その彼に挨拶を返したのは、その誘拐されたはずの、小夜だった。
 小夜――ここでは夜想曲と呼ぶべきか――もモニターを覗き込むと、ドローンからの映像を見て安心したように小さく息を吐いた。
「きっと……仲間思いの警部なら追いかけて来てくれる筈。そう、思っていた通りでした」
 怪盗の犯行に怒る警部をゆめとエリーゼがなだめ、水鏡が聞き込みをして、証言を元に小夜の足取りを追っているようだった。
「こっちの方は準備できてるのです」
「誘導もしてきたから、そのうちここも見つけてくれるんじゃないかな?」
 シャムロック・クラナドエドワード・カーライル――クローバーのジャックと帽子屋が隣の部屋から夜想曲を呼びに来た。
「ありがとうございます。私もすぐに準備しますね」
「……俺も……移動するよ……カードも……仕掛けたし……」
「僕も。後は、警部達が早く来てくれるようにせっついてこないとだね」
 夜想曲は手品道具のシルクハットを抱えて、届いた荷物の置かれた隣の部屋へと急ぎ、ディルクと杏花も、ノートPCを抱えて、部屋を出た。こちらは、建物ごと移動だ。
「じゃあ、私も実況の方に戻るのです」
「僕も。あっちもこっちも、やること意外といっぱいあるじゃない」
 実は、ジャックの提案で、この可児丸警部との怪盗5番勝負は、生中継されていたのだ。
 今回もハスラー邸のときのように、あちこちの監視カメラや学生達の仕掛けたカメラ、ドローンやドルイドの映像をつなぎ合わせて中継し、そこに、ジャックが実況として、帽子屋が解説として喋りを加えて、24時間という長丁場の盛り上げに貢献していたのであった。
 怪盗の先輩方や同輩達から二人のAiフォンに届くファンメールや雑談のお便りを読む限りは、なかなか盛況のようである。アドレスを公表していないのに先輩方からも届くのは、流石というところか……少し怖い。
 長時間の中継。更に、合間合間にこの場所の設営を手伝ったり、現場に出てエキストラとして働いていたのだから、ジャックも帽子屋もかなりフラフラであった。が、実況・解説席に戻った二人は、それを視聴者へ感じさせずに声を張った。
「お膳立ては済みましたね」
「はい、怪盗と警察の最後の勝負の舞台は整いました! 最後の勝負がどちらに転ぶのか、最後まで私の実況と共に見守るのです!」

◆最後の事件
「ここなんだな!?」
「はい、警部」
 可児丸警部の確認に、水鏡がはっきりと肯定した。
 警部と部下と準捜査官で囲んでいるのは高級住宅街の一画にある邸宅だ。
 小夜をさらったらしき者の怪しい車両の行方をたどり、到着したのがこの近辺。
 近所で聞き込みを続け、得られた情報によると、この邸宅は、住民が最近引っ越して出ていき、今は空き家になっているはずなのだが、今も人の出入りがあるらしい。犯罪の匂いがした。
 仲間を連れ去られた事に怒りと責任を感じる準捜査官の事情を考えて、警部は突入部隊に学生達が加わることを許可した。
 警部の部下達が表玄関と裏口を固める中、警部と準捜査官達は、鍵の開いていた窓から侵入した。
 そして、警戒したまま1階の端から順に部屋を調べていった。
 1階は特に変わったところが見られない普通の邸宅……もちろん、家具などは取っ払われた後で、がらんどうとはしていた。
 だが、ホコリのたまり具合が、少ない。誰かが定期的に活動していてもおかしくない。
 警戒を強めて、一同は2階へ。すると、空気が一変した。
 最初に開けた部屋は、まるで監視ルームのよう。
 狭くはない部屋の壁一面に吸えられた数多のモニター画面が、街中の至るところを映し出していた。
「ここで、今回の茶番を眺めていたと言うことか?」
 警部は画面を食い入るように見た。
 明らかに誰かが何か良からぬことを企んでいるような部屋。しかしながら、ここには誰もいなかった。
 すると、隣の部屋から、コトッ……と、小さな音が聞こえた。
 警部と準捜査官は、静かに隣の部屋のドアの前に移動し……警部の合図で一気に突入した。
「ICPOの可児丸だ!」
 警部が、銃を構えて大きな部屋中に聞こえる様に宣言した。
 警部も、準捜査官達も、油断なく部屋を見渡すと、今度の部屋は、まるでラボのようであった。
 壁際に並ぶ薬品棚。
 テーブルの上のビーカーや試験管に入った試薬達。
 そんな部屋の真ん中に、彼女は倒れていた。
「! 小夜さん!」
 水鏡が気付くと、慌てて小夜の元に駆け寄る。警部が「うかつに動くな!」と静止するが構わずに。
 仕方なく、警部も周囲を警戒しながら追いかけ、残る学生達も続く。
 水鏡が小夜に呼びかけるが、返事はない。
 代わりに小夜の口からは、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「ほっ。よかったわ。心配はいらないみたいね」
 さらわれた者が無事救けられたわけだが、まだ安心はできない。
 連れ去った狼藉者の方は、既に逃げ去った後なのだろうか。否。
「警部、こっちにも、人が倒れてるよ」
 小夜の倒れていた場所からテーブル挟んで反対側から、ゆめが呼び、警部が周囲への警戒を解かぬまま慎重に近づくと――
「こいつは、怪盗か!?」
 床に倒れていたのは、仮面の男だった。
 こちらも意識はなく、おそらく、小夜と同じで寝ているのだろう。
「……ん? これは――」
 そして、警部は、脇に落ちていた宝石箱を拾い上げ、開いた。
 中には、カードとUSBメモリが入っていた。

『天から見下ろす我が目に映らぬ物無し。故に警部殿に事実を委ねる。
 彼の者は幼子たちを拐かした案山子の長。じき、彼の罪は君の手元に集まるだろう。
 事情はあれど疑いの眼は若き芽には厳たるものだ。故に私は彼らに手を差し伸べた。
 彼らがどんな花を咲かすか見届けるは長上の役目だろう、警部殿』

「どういうことだ?」
 この時点では、まだわからない言い回しもあったが、直に、USBメモリの内容の解析が終わり、スケアクロウが事件に関与した証拠が集まりだすと、理解が追いつくだろう。
 されど今は先に――
「仮面の男! 未成年者略取及び誘拐の疑いで現行犯逮捕だ!」

◆警部の信頼
 翌日、スケアクロウのボス、仮面の男ことクロウを手土産に、警部達は島を後にする事になった。
 空港のロビーでは、見送りに来た学生達が警部を中心に輪を作っていた。
「今回は災難でしたね」
 水鏡が警部をねぎらうと、警部も付き合ってくれた学生達に礼を述べた。
「おまえにも、ひどい目に合わせてしまったな。面目ない」
「いいえ、お気になされずに」
 誘拐された小夜に警部が頭を下げた。
 クロウ逮捕後に目を覚ました小夜は、誘拐されてからの顛末を証言した。
 筋書きは少しずれ、謎の第三者が眠らせた事になったが、語りに矛盾はなく、警部を信用させることはできた。

「UNICOでも前々から追ってた事件がこうもアッサリ片が付くなんてビックリです。これも可児丸警部が幸運を運んできてくれたかもしれませんね」
「警部殿の栄光が、そのまま俺らの勝利になる……ってな」
 静も皮肉げに付け足すと、警部は自嘲気味にうなった。
「一つの事件は解決し、誘拐犯は捕らえられたが、多くの怪盗は逃してしまった。まだまだ勝利にはほど遠いな」
「そうは言いはっても、またバカンスにでも来てな? 根詰め過ぎたらあかんよ」
「怪盗を追うのに忙しくてそんな暇はないが……近くに着たときには寄らせてもらおう」
 キティの気遣いに、警部も笑う。
 水鏡が警部に握手を求めると、警部も自然と応じた。
「またお会い出来るのを楽しみにしています」
「ああ、また怪盗を追う現場で会おう」
 警部は学生達との再会を誓う。今度もまた学生のうちに会う者もいるだろうし、正式な捜査官となっている者もいるかも知れない。
 あるいは、捜査官と怪盗として、かもしれないが、それは警部には預かり知らぬところだ。
「今回散々おちょくってくれおった怪盗どもめ、全員まとめて逮捕してやるから、首を洗って待っていろ!」
 ロビーで叫ぶ警部の声色は、なんだか少し嬉しそうで、学生達からも自然と笑みがこぼれたのだった。

◆終焉、そして
 可児丸警部は去り、スケアクロウも壊滅し、新たな学生会長も決まった。何かが終わり、何かが始まる、そんな時期だったのだろう。
 だが、今回の事件をこれで終わらすわけにはいかない――そう感じる学生は少なからずいた。
 仮面の男クロウの手にしていた超科学、そして語られた、ダブルオーなる組織。ブギーマン事件の時から感じていた不穏な影。
 それらについてこれまで、UNICOから正式な情報開示はなかった。しかし、ローゼンナハトが何も知らないとは思えない――高まる声に、マキシミリアン・エナー学長は、ついに決断した。

 UNICOの大講堂。集められた学生有志、演台にはもちろん学長。
 学長は、いつもよりかすかに険しい表情で、語りだした。
「すでに気付き、納得している者も多いだろうが、ここであらためて伝えておこう‥‥ローゼンナハトは、非常に厳格な情報管理を行なう秘密組織だ。その資格がある者にしか、その情報は提供されない。なぜだかわかるかね‥‥メンバーの誰かが拘束され、拷問を受け、組織の秘密を漏らされては、重大な事態になるからだ。漏れる情報は少ないほうがいい、そのほうが殺されるリスクを負うメンバーも減るというものだ‥‥そこまでしなければならないのも、まさに、ダブルオーのような組織が存在しうるからなのだよ」
 学長は帽子を脱ぐと、学生らをにらみつけるようにしながら、続けた。
「最初にハッキリ言っておく。UNICOの学生は、すでにローゼンナハトの同胞であり、その素質と人間性を信頼している。しかし、現在の実力を信頼しきってなどいないよ。君たちが『ローゼンナハトの正式なメンバー』であるかどうかを、イエスノーで答えねばならないとしたら、答えはノーと言わざるを得ない。まだ見習いみたいなものだからね。そして、そのような未熟な怪盗を、大量に受け入れるUNICOのようなシステムは、実はローゼンナハト内部からも、多くの異論があったのだ。未熟なメンバーの安易な増加は、情報漏洩のリスクに繋がるからね。もっとも、セルティックフルートという地政学的に優秀な場所が確保されていることや、国際的警察学校という体裁を整えることで、多くのリスクに対処できるようになったわけだが‥‥おっと、これについては今回は語らないでおこう‥‥ではなぜ、UNICOは必要とされたのか? それは、将来的に、怪盗の大量育成が必要になると考えられたからなのだ」
 学長はいったん目を揉み、そして。
「‥‥世界は、進歩し続けている。飛行機等、移動手段の発達。EU等、国境の減少やグローバル化。コンピュータの高性能化と小型化。高速インターネット網‥‥これらは全人類に、たしかに恩恵を及ぼしている。だが、もっとも恩恵を受けているのは、犯罪者達なのだ。21世紀、犯罪者集団もまた、未曾有の発達を続けるだろう‥‥インタークライム。ローゼンナハトは、もう何十年も前から、いずれ我々に匹敵する恐るべき犯罪組織が世界を蹂躙するであろう、と予測を立てていた。それゆえに、リスクを承知で、UNICOが設立されたのだ。そしてその決断は正解だったといえる。なにしろ君たちは、ダブルオーの影を掴んだのだからね」
 ダブルオー。それはなにか。
「まさか、ローゼンナハト上層部でさえ掴んでいなかった情報を、君たちがね‥‥しかもよりによってダブルオーとは。では、いよいよ語ろう、君たちが掴んだ情報だし、君たちはもう当事者なのだからね。だが、最初に約束してほしい。ダブルオーはもっとも危険な組織だ、講師の許可なしに、絶対に深追いしてはならない。
 ダブルオーのことは、実はよくわかっていない。奴らもまた、ローゼンナハトと同程度に秘密的組織だからだ。完全なピラミッド構造と思われるため、その全容はまったく掴めていないのだ。
 ダブルオーは、正式には『オールドオーダー』という名称であることがわかっている。OldOrder、略してOO(ダブルオー)が通称だ。そのまま解釈すれば『旧体制』となるね。
 実は、ローゼンナハトとダブルオーは、長い間、ずっと敵対関係にあった。よきライバルならぬ、悪しきライバルだよ。英国の貴族が中心となり、ローゼンナハトが結成されたのが12~13世紀とされるが、ダブルオーは14世紀に初めて、その存在が確認された。当初は、職人集団による秘伝の伝承を目的とした秘密結社であったとされる。ちなみに、あの有名なフリーメイソンは、かつてダブルオーの下部組織だったのだよ、今はふつうの組織に生まれ変わっているがね。で、この結社が、やがて秘密性・過激性を増し、『目的のためには手段を選ばない』という悪の組織へと変貌を遂げ、世界各地で様々な工作を行なうようになっていったのだ。
 豊富な資金と高い美徳を持つ者が集まり、世界の文化・平和の保持を目指した我らがローゼンナハト。ダブルオーは、その対極のような存在といえるかもしれない。我々はしばしば戦闘を繰り広げてきた‥‥もっとも、お互い秘密組織なので、大掛かりな戦争は一度もなく、どちらかといえば散発的で偶発的に、だがね。まさに宿敵といえる存在だったようだ。
 だった、というのはね‥‥ダブルオーは消滅した、と考えられていたからなのだよ。
 産業革命あたりから、ダブルオーは必然の方向へと変質していった。武器商人だ。そして、戦争を起こすべく世界各地で画策を行なった。二度の世界大戦にも、ダブルオーの関与が各所に見られたのだ。
 ローゼンナハトは可能な限り、戦争を、破壊を、すなわちダブルオーの暗躍を阻止せんとした。そしてその切り札として、ICPCの設立があった。国際的な警察機構の誕生は平和にとっての悲願であったのだ、もはや各国は、国際化する犯罪を前に、手も足も出なくなってきていたからね。また、ICPCを通した外交で、平和を維持するというもくろみもあった。
 だが、これは頓挫した。設立直後のICPCを、ナチスが私物化したからね。そう、ナチスの裏にも、ダブルオーの影があった‥‥もっとも、ヒトラーの暴走はダブルオーにも想定外だったようだがね。ナチスは暴虐を尽くし、ICPCを壊滅させもしたが、まさにその悲劇が、各国の危機意識を集合させ、ICPOとしての再興や、ECの設立、国連の見直し等に繋がっていったのだから。
 もう戦争はごめんだ、もう独裁者はたくさんだ‥‥それが西欧諸国の標準的なコモンセンスとして確立すると同時に、ダブルオーもまた、その姿を消したのだ。我々ローゼンナハトはずっと、奴らがやりすぎて自滅したものと思っていた。平和を望む声に押されて、徐々に活動できなくなっていったのだ、とね‥‥
 だが、それは甘い考えであったようだね。まさか何十年も姿を潜めて、今になってその名を聞くとは‥‥おそらくはあの失敗を元に、より狡猾になり、ずっとずっと時間をかけて準備してきたに違いない。
 さて、ダブルオーについては、語れることはこの程度だ。嘘ではないよ、これだけ長くあいだ戦ってきておきながら、まったく情報を掴めていないのだ。相手の本部も、ボスも、その正確な目的さえも、一度も掴めたことはない‥‥まあ、これはお互い様なのだがね。目的は、単なる金儲けではないだろう、使い切れぬほどの富ならすでに得ていると思われるし。表立った領土的野心も感じない。これは私の推測だが、裏から、世界の各組織を掌握し、結果として『陰からの世界征服』といったところではないだろうか‥‥おっと、長く語りすぎたかな。少し水を飲ませてもらおう」
 ごくり。水を飲むと、学長は、無理に微笑んでみせた。
「貴族という、持てるものの美学から生まれた我々ローゼンナハトと、持たざる者が集まって、権威に対抗するかのように生まれた奴らダブルオー。
 平和を目指す我々と、争いさえ利用する奴ら。
 同胞を大事にする我々と、同胞さえ非情に切り捨てるダブルオー。
 おそるべき犯罪組織の誕生に備えていたら、もっとも恐るべき相手が姿を現した‥‥それが、ローゼンナハトの直近の現状なのだ。
 奴らの真なる目的はいまだ不明だが、その行動はいずれも許されるものではない。ファントム一丸となり、これに立ち向かわねばならない‥‥だが、繰り返す、約束してくれ。絶対に、深追いしてはならない。
 もし、もしもだ。奴らに捕らえられたなら、決して仲間を売らないように。もっとも、UNICOの正体に気付いているふしがあるので、その学生というだけで、全員ターゲットにされる危険はあるのだが。そして望みを捨てないように。我々ローゼンナハトは、同胞を見捨てることはしない。必ず助けにいこう」

 ――長い話が終わっても、拍手はなく、ざわめきもなかった。
 学長が退出すると、学生らは顔を見合わせた。そこには、昨日とは違った意味を持つ『同胞』の顔があった。



 20

参加者

a.HEY!皆ノッてるかぁ!さぁ俺達で最高の幕開けにしてやろうじゃないか!
馬並京介(pa0036)
♂ 26歳 刃魅
e.【怪盗側】借りを返しに。
リュヌ・アカツキ(pa0057)
♂ 25歳 忍魅
サポート
b.この銃を使うのは初めてだな。
シグナ・ガントレット(pa0058)
♂ 20歳 弾知
c.【怪盗側】あ、警部にちょっかいかけるから、捜査員側のやつらもよろしくな
今井天(pa0066)
♂ 20歳 英探
c.[捜査官側]俺はこちらで。
羽乃森晴(pa0077)
♂ 20歳 英探
c.私は【捜査官側】で参りますね
桜葉千歳(pa0088)
♀ 20歳 英弾
g.…………えっと……
ディルク・ベルヴァルド(pa0112)
♂ 23歳 乗知
a.【捜査官側】の予定だ
斧箭槍剣(pa0114)
♂ 21歳 刃乗
g.さぁ、怪盗vs警察のガチバトル、君はどっちを応援する!?なのですよ。
シャムロック・クラナド(pa0160)
♀ 19歳 英探
b.【怪盗側】ドーモ警部、ひとっ走り付き合ってもらおうか。
澤渡龍兵(pa0190)
♂ 22歳 乗忍
g.警部と一緒だよ
莫水鏡(pa0196)
♀ 20歳 忍魅
e.【怪盗側】煽って挑発して逃げまわりゃいいんだろ?
宍倉静(pa0201)
♂ 20歳 忍探
c.警部がいるから……よし、【怪盗側】だな
ジェームズ・クレイトン(pa0243)
♂ 23歳 探知
a.【怪盗側】見ているがいい、この私の、エレガントな魅力というものをな。
ドゥエイン・ハイアット(pa0275)
♂ 26歳 英弾
d.謎解きは参加するけど準捜査官側か怪盗側かは偏り次第で。半遊撃だね。
ジェームズ・ワース(pa0279)
♂ 27歳 弾魅
g.主にa,dにてお化粧や着付けのお手伝いに回ろうかな、と考えています。
中藤冴香(pa0319)
♀ 25歳 探魅
d.【捜査官側】警部への助力が基本だけれど…謎解きに、鍵開け…面白そうね?
エリーゼ・クレーデル(pa0404)
♀ 19歳 忍知
c.さて…では時間稼ぎを頑張りますか
桜朏空(pa0437)
♂ 21歳 英探
g.Aiフォンで識別可能な宝石箱のレプリカを作って混乱を助長するでゴザル。
スティーヴ・カラサワ(pa0450)
♂ 21歳 忍知
b.レース勝負なら受けずには居られないね。乗属性1位としてレース部長として
九曜光(pa0455)
♀ 22歳 乗魅
e.警部配下の捜査官に紛れ込み、正体を明かすことで混乱を生じさせましょう。
小林三代(pa0527)
♀ 20歳 英魅
d.【怪盗側】どう転ぶにせよ、敵役が居なくては始まらないでしょう。
ルーカス・ヘルキャット(pa0899)
♂ 20歳 探知
b.……レース参加。【怪盗側】で。
大世宮典人(pa0940)
♂ 22歳 刃乗
e.捜査官側で…参加しますね。
明神小夜(pa0954)
♀ 20歳 乗知
g.警部はんのサポート行くでぇ
キティ・ラップ(pa1077)
♀ 20歳 弾知
b.アヒャヒャ、私くらいは警部さんに味方してあげよっかな。
李紅花(pa1128)
♀ 21歳 弾乗
b.せいぜい翻弄させてもらおう
エルフ・プレシス(pa1173)
♀ 27歳 刃乗
g.誘導とか調整とか、そういう感じの予定ですっ
林秀玲(pa1187)
♀ 21歳 英魅
d.警部殿をお助けしようか。
陳華龍(pa1190)
♂ 26歳 弾探
e.よろしくお願いします。
マサカー・フェイト(pa1383)
♂ 20歳 忍探
g.警部と一緒にいるよ
廻環ゆめ(pa1420)
♀ 19歳 忍知
g.僕は通りすがりの「帽子屋」だよ。アフターケアまでお任せあれ、ってね。
エドワード・カーライル(pa1426)
♂ 23歳 忍知
g.進捗把握、確認、共有役をやるよ‥今回は速過ぎても遅すぎても不味いからね
桜葉杏花(pa1513)
♀ 18歳 知魅
f.遊撃役です。それと、怪盗らしく格好よく退場する手伝いもしたいですね。
アルヴァ・リンドブロム(pa1577)
♀ 19歳 乗機
b.【準捜査官側】体制側ってガラじゃないが、こっちで参加だ。
一条葵(pa1712)
♂ 19歳 刃乗
 準捜査官の諸君、よろしく頼むぞ。怪盗は首を洗って待っておれ!
可児丸ジュスタン(pz0110)
♂ 45歳