【SH13】御前試合本戦17

担当 北野旅人
出発2017/09/03
タイプ イベント S(Lv350以下) 連動
結果 大成功
MVP 毒島右京(ka01318)
準MVP 平口 工助(ka00157)
鷲巣 一犀(ka01805)





オープニング

◆本戦開催にあたって
 この日、御前試合の本戦が開催される。
 今回の御前試合は、山王祭の一環という形であり、民衆への勇気付けの意味が大きい。ゆえに、将軍だけでなく、広く大衆が観戦できる形での開催となった。
 本戦の参加者は、全部で12名の予定だ。トーナメント形式だが、シード枠が4つあるため、まず4戦が行われ、準々決勝にシード選手が入ってまた4戦、準決勝2戦、そして決勝となる。
 さて、本戦の参加者だが、すでに2回、本戦のための予選が行なわれ、来世人6名の参加が決定している。


登場キャラ

リプレイ

◆予選参加者たち
 宮本 伊織は、二天一流らしい二刀流と、さらに軽量の具足を纏っていた。
「父上には馬鹿にされましたが。来世人が重厚な装備をしてくるは周知の事実。防具で固めるは当然のことでしょう」
 そうぼやく伊織に対し、三枝 守全はいかにも軽装といえた。愛刀の村雨丸を腰に差す以外は、いつも通りの侍装束なのだ。
「あれで勝てるつもりなのかしら‥‥」
 銀石 辺結は、守全をいぶかしげに眺めながらも、自身の装備の手入れを怠らない。大型和弓、笛籐に、たっぷりの矢筒。そして矢の構えを早める弓懸――辺結自身も大和人であり、防具という意味では軽装だが、それは遠距離戦・攻撃に特化したためだ。
「一対一なら、その過信も許されると思うけどね。こんな乱戦じゃ武士の誇りなんてなんの役にも立たないよ」
 富士 影百も辺結に同調する。ちなみに影百の装備は、かなりゴツいほうだ。得物は7メートルにも達する山姥の槍であり、ふところに十字手裏剣も忍ばせている。防具は、神威忍者装束の大業物にラージシールド。大胆で重厚な攻撃と、素早い身のこなしが期待できそうだ。
 重装備といえば、動物を連れた参加者もいる。
 毒島 右京は、名馬松風の血を引く巨大戦馬、浦風にまたがっている。得物は、天下三槍の日本号、最上大業物。沢庵デザインのド派手な僧兵服は、ドラゴンアーマーに大部分を隠されていた。
 鷲巣 一犀は、名馬内記黒の血を引く優良馬を乗りこなし、手には、その馬への強威力を4回無効化する鬼榊が握られていた。そしてふところには卜伝の手裏剣16本。
 鏑木 奈々は、ぬりかべを引き連れていた。良性能の巫女装束に、M16Sアサルトライフル。この組み合わせが、何をもたらすのか。
「んだんだ。人を楽しませるってな色々あるべよ。おらも、動物と人間が協力する事で楽しませてみるべ」
 牧葉 真夏は、かたわらのアイアイの背中をさする。アイアイ、赤兜ノ子。カワイイわりには恐るべきポテンシャルを秘めた小熊である。そのアイアイは今、忍者の秘術が施され、かわしづらくなる爪が装備されていた。そして真夏自身は、解呪の魔力を秘めた双頭ノ白蛇の短刀を得物に、井伊直虎愛用品と同型の胴丸といういでたちだ。
「行こうかアイアイ。アイアイも楽しめよー」

 そんなライバルたちの姿を、遠前 九郎は、畏怖と尊敬の念で眺めていた。
「御前試合ってすげぇ規模なんだな‥‥ホントは見に来ただけなんだが、どうやらうちの誰かが俺を参加者登録してたみたいでよ‥‥」
 出なさい、と言われたときは、「は!?」となったが、あわてて揃えた装備は――守全と同型の村雨丸に、真っ赤で鬼のような、井伊直政の具足。なんとか見た目は劣らぬよう準備できたが。
「どれくらいの相手がいるか、いちかばちか、やるしかねえか」
「そうです、やるしかありませぬ」
 横で強くうなずいたのは、大和人、湧口 瑞希。転移・不意討ちを行なえる赤鬼武者の大太刀を得物に、一ノ太刀で移動を高める毘沙門天にちなんだ侍装束、そしてドラゴンアーマー。初陣で場違いかもしれぬ、と気後れもあるが――
「来世人様は皆お強い‥‥わたくしは女子で、正式に武士と認められる事すらできない。けれど勝てるとは思えずとも勝とうという思いまで捨てる気はございませぬ!」
「そ‥‥そうだよな! やるっきゃねーか!」
 九郎も、瑞希に鼓舞される――そんな姿を、高杉 蘭子は好ましく見つめる。
「御前試合とはいえ折角のお祭りですもの、楽しまないと損ですわね。そして観客の皆様を楽しませる、そんな戦い方ができたら素晴らしいわね」
 蘭子は、踊れば観衆を魅了できるアメノウズメの水着をドラゴンアーマーで包み、得物は、合気ノ舞と相性のいい黒鬼舞剣、そして、南部鉄器のフライパン。自分がプロデュースした品だ。
「南部鉄器の宣伝の約束忘れていませんわよ。これで、あの方の目を醒まさせてあげましょう」

「ふっふっふ、戦うアイドルの実力今こそ見せる時ね。私の得意な空中戦見せてあげるんだから!」
 沖田 芽衣子。神威忍者装束を現代製ボディアーマーで覆い、得物は人間無骨(にんげんむこつ)と呼ばれるいわくつきの名槍だ。
「十兵衛さんか武蔵さんと戦いたいんですが、面白い試合をせよと言われましても‥‥跳んでみますかね?」
 藤枝 桜花も、神威忍者の装束姿で、得物は3メートルもある鬼切の大太刀。
「今回は30分。前の予選で友情の拳は交わしたし、今回はやる時は殺す気でやっか」
 平口 工助。今回の予選皆勤賞であり、ギルドでも指折りの猛者であるが、まだ本戦出場を決めていない。
「勝負は時の運‥‥乱戦ならなおさら。ま、楽しくやっぜ!」
 正確な溜め攻撃が行える八幡武神具足の他は、なんの得物も持っていない工助――しかし、彼の体内にはすでに、弁慶ノ伎によって、必殺の武器が隠されていた。
「あー予選だよな。ま、いっちょ楽しもうぜ!」
 不知火 焔羅は、すでに鎧すらなかった。いや、得物として銀のナックルはつけているのだが。
 防具? フンドシ、以上。そんな具合なのに、武僧の彼は、すぐには沈まぬ体力で滾っていた。
 そして、マッスル・オネェもフンドシ一丁であった。しかし、武器は二丁。M4アサルトライフルと、対物ライフルである。
「な、なんかランボー(乱暴)な姿だなぁおまえ‥‥」
「人のこと言えた姿じゃないわよ」
 そんな焔羅とマッスルのやりとりを、鈴鹿 恵子々は「やれやれ」と眺める。
 恵子々は、超重な具足で耐久性を高め、足は韋駄天の足袋で補っていた。しかし、まきびしを隠す以外は、ほぼ素手である。だが彼女には、秘めたる力――必殺の拳があった。
 そして、小冷 煌尚にも。
「ふっふっふ‥‥我に秘策在り‥‥」
 分身を炸裂させ行動不能にする霧隠鹿右衛門の忍者装束に、19体もの分身を生み出す(ごく短い時間だが)百鬼虚無僧妖怪の編み笠。得物は強烈なアイヌ毒付きの忍者刀に、同じく毒で麻痺させる打矢。その狙い、果たして通じるか、どうか。
 最後に紹介する予選参加者は、森住 ブナ。マシュマロ団員B用骨兜をかぶり、龍ノ首ノ珠の指輪をつけて、魔法主体に攻防を繰り広げるつもり――だが、その前に。
「民代表! 私だ、ましまろ団員Bだ!」
 突然、なにやらおっぱじめてしまった。いや、それは演説ではない、直訴だ! 相手は将軍!
「将軍‥‥戦いを盛り上げるもの、それは褒章だっ! 将軍に褒美を要求するぞ!」
「なっ、無礼者! 手打ちにいたすぞ!」
 当然、将軍護衛の者が刀に手をかけるが、相手は予選とはいえ御前試合参加者。そう簡単には斬れない。そこへブナはたたみかける。
「私が勝ったら幕府の役人をそれぞれ地方に配属させ、民と同じものを食って貰う! 藩の連中も幕府の役人を飢えさせるわけにはいくまい。無論、私も抜き打ちで視察に行くからな!」

「‥‥な、なんか途方もなく不遜なことをのたまってますが‥‥?」
 そばにいた老中が、おそるおそる家光の顔色を窺う。だが、家光は不敵に笑い、こう告げた。
「捨て置け。これで民が盛り上がるならいいではないか」
「はっ‥‥」
 変わられましたな、上様――老中は、いい意味で、そう感じた。

 そしてこちらは、観戦席。予選には参加しない者たち。
「皆さんの熱意が伝わってくるようで‥‥すごいですね。試合には出られませんがしっかり応援したいと思います!」
 水上 澄香の言に、本戦参加者、越中 団次郎はふふっと笑う。
「誰が勝つやらわからないけど、誰が勝ち上がっても僕は頑張るだけ。僕が本戦にいるのか不思議だけどね」
「そうかしら。誰が本戦にいたって、不思議じゃないのかも」
 そう答えたのは、溢田 純子。皆をやさしく見守る彼女には今、人魚のしっぽと、燃えるような翼がついていた(いずれも幻影だが)。純子は観戦者として、空から見守るつもりなのだ。そしてその様子は、斑鳩占術の念話によって、澄香や――なんと、将軍にも伝えられる手はずとなっていた。
「どうせなら普通には見られない角度の戦いを見てみるわ。英霊の力で視力を補って、朱雀の翼で飛んで、上から見える戦いぶりを実況するわ」
 純子はそう言うと、空へと舞い上がった。すでに予選会場には、クジで配置の決まった参加者たちが、スタンバイを終えようとしていた。

◆予選開始
 おのおの、10メートル程度の間隔。どちらかといえば近距離戦を得意とする者に有利で、端にいくほど有利といえようか。
 だが、どういう配置となったかは、あえて省くことにする。なぜなら――
「始めェ!」
 合図だ。完全ランダムのスタートタイミングだったが、ほとんどの者は、必要な魔法はすでに成就し終えている状態だった。
「皆さん‥‥頑張って下さいね! ああっ!?」
 澄香は、思いがけぬ事態に面食らい、そして、この試合が大混戦になろうことを、早くも予感した。

「だりゃああああ!」
 大混戦・大混乱の原因その筆頭は、一犀であった。彼のまたがる戦馬が、とんでもないスピードで会場内を駆け巡ったからである。
 この馬、ただでさえ自動車ばりの速度を誇るのに、馬自身の扱う魔法によりその速力は2倍。さらに一犀による『忍頭ノ誓』が合わさり、その最高速度は新幹線を超え、リニアモーターカーに届かんばかりに加速させられたのだ。それが芽衣子を轢き逃げせんと迫――
「あぶっ、ないじゃないの!」
 っと、神威ノ伎により超回避成功。
「あれはいけませんね」
 辺結は、暴走戦馬に危機を感じ、狙い澄ました矢を射掛ける。与一ノ弓による高い精度――それでも、当たらぬ。また、仮に当てても、鬼榊がその威力を無効化したことだろう。
「なんじゃこりゃあああ! 速過ぎて狙えんわ!」
 ブナ、憤慨。しかし、神楽は舞う。そして。
「私の邪魔をする奴は、誰であろうと取って食うじょ!」
 効果を上昇させた素戔嗚息吹迎えノ舞、成就。これといったターゲットはなく、なるべく巻き込むように。焔羅、蘭子、恵子々、アイアイ、そして一犀と戦馬も捉えた。これはラッキーヒット。
 しかし、ブナもまた、狙われる立場にあった。多くの参加者が、『除傷形代道術を使う者を標的』にしていたのだ。その中でも、筆頭の形代使いがブナだったのである。ブナは効果上昇・仙級であり、さらに龍ノ首ノ珠により、半々の確率で型代焼失を防ぐからだ。
「このっ!」
 恵子々が、金剛力士真言による強烈な拳をブナに打ちつけるが、型代により無傷。そして燃え尽きず。そんな符が4枚もあるのだから。もっともこの後、恵子々はまきびしによりその1枚を焼失させるのだが。
「あれはひとまず無視じゃ、まずこっち!」
 奈々もブナを警戒するが、ひとまず仙級なゐふる霊迎えノ舞を成就。お供のぬりかべ『ベガ』を巻き込む荒業だが、防御力を高めたベガはすぐには死なぬ、という計算の上である。
 猩々ノ舞により猩々非色に染まった奈々の魔法は、抵抗しづらい。多くが巻き込まれ、かつもろにダメージを受けることに。
「くわばらくわばら」
 影百は分身を伴いつつ、猿飛の足を活かし今のところ脅威に巻き込まれず。辺結も飄ノ氣を発現し、気配を殺し戦域離脱し立て直しを図った。
「ええい、型代も魔法も内記黒もうっとうしいんじゃあ!」
 右京も、一犀ほどではないが、暴走車並みの速度で巨大な馬を駆れる。しかしまずは、阿修羅王真言で手数を増やし、突進、そして浦風との阿吽撃! ブナを襲う槍とひづめ。多重攻撃はブナの型代をさらに2枚焼失させた。慌てたブナ、急遽もう1枚を増産。
 ところで。除傷形代道術を使っている者は、もう1名いた。煌尚である。しかし彼は、あまりマークされていなかった。なぜか?
「ふっふっふ‥‥形代と分身で守る俺に死角なし‥‥多分‥‥」
 がっつり貼られた型代4枚。さらに分身4体。いざとなれば百鬼虚無僧妖怪の妖力を借り、分身+19体という荒業もできる。ま、ほんのちょっとの間だが。
「23体の分身で惑わせれば受けも抜群‥‥そして刀と打矢で麻痺させ戦闘不能に追い込むのだ‥‥ここで目立てば覚えメデタク‥‥仕事量とご飯の量が反比例する‥‥夢のひきこもり生活に近付くに違いない‥‥一方的な戦いの始まりだー‥‥」
 煌尚が芽衣子に斬られた。だがそれは分身、そして装束の力で炸裂した。あいにく、体力を残す芽衣子はふらつかなかったが。
 煌尚は続けて桜花へ打矢を浴びせた。体力のない相手であれば、麻痺させていただろう――
 ‥‥そう。煌尚の『麻痺させまくり作戦』は、体力の高い参加者が多い現状で、あんま、役に立っていなかった。そんな理由もあり、またブナのが目立っていた点もあり、煌尚はそんなに狙われないでいたのである。
 しかし、その願ったりかなったりは、終焉を迎えた――よりによって、ブナの手で。その猛吹雪が、一発で煌尚をノックアウトさせたのだ!
「ぎゃー‥‥ちょっ‥‥まっ‥‥うん、今度こそ部屋から出ない‥‥」
 煌尚、最初のリタイア者。

 上空から、大乱闘でスマッシュな仲間達を見下ろす純子は、終始、目と口を丸くしっぱなしであった。
「これはすごい‥‥みんな頑張ってるわね! 見る人も見応えあるでしょう。多角的に見れば今まで見えなかったみんなや‥‥期待をかけてる人の力も見えるかもしれないわ」
 やがてその目は、大和人の2名へと吸い込まれていく。伊織と、守全と、それと相対する者へと――

 蘭子は、フライパンを握り、魔王神璽ノ舞を踊っていた。そのおかしみ深い姿に、伊織は二刀を向けるが。
「伊織様、なぜバールを捨てたのです‥‥」
「そんな恨めしそうに言われましても‥‥逆に尋ねたい、なぜそんな珍妙な武器を?」
「これは南部鉄の宣伝のため‥‥」
「では、バールは?」
「バールを握るのに理由など不要! 伊織様、目を醒ますのです!」
 パッコーン。フライパンに殴られた伊織は――目を醒まさず、気絶した。いや、ここまであんまりいいところもなく疲弊していたもので。伊織、リタイア。
 そして、こちらでも。
「少なくとも大和人の2人は相当手強いだろうなぁ。そんな相手と刀を交える機会が貰えたんなら、貧乏くじ体質も悪くはねぇかな」
 九郎は、望みの相手、守全と向き合っていた。守全の刀はすでに抜かれ、抜刀術は使えぬ状態。
「こうなった以上は本戦出場目指してガチらせてもらうぜ! 骨を切らせて命脈を断つ! ってな」
 一ノ太刀を成就させ、奇しくも村雨丸同士が交錯した――守全の切っ先がさきんじてに九郎を切り裂いたが、威力は九郎のが上。まさに骨を切らせて命脈を断ったのか、血を噴いた守全はうめき、うずくまり、片手をあげて「参った」と口にした。
「やった、やったぜ! ‥‥ぐわあ!?」
 だが九郎はアイアイの爪に襲われ、瀕死に。リタイア。
「と、とんでもねー試合だぜ‥‥でも、少しはやれたか‥‥」
 九郎は満足感の中で意識が遠のいていく。そんな様子は、誰もが見ており、熱狂している。
 そう、これだけの衆人環視の中で、しかし、この凄まじい戦況の中で、いったい誰が気付いただろうか。血に伏せる守全の出血が、いつの間にか止まっていたことに――

 さて、その間にもいくつもの戦いが、やりとりが、大きな打撃があった。リタイア者が出始め、ほとんどの者が傷つくなか、真夏はアイアイとともに、楽しげであった。
「頑張ってんなーアイアイ。けど、あのマッスルはどこに‥‥うぐぅ」
 胴丸に強烈な衝撃。大口径で撃たれたのだ。方向を考えれば――
「‥‥海か! くそっやられたべ」
 ルールでは、『面白くない試合・一方的すぎる試合』は禁じられ、審判により指導がいくことになっている。飛行がまずいと言われている以上、水中からの射撃は反則を取られる可能性が高いはずだ。
 だが‥‥審判が指導するのはいつだべ? 10秒後? 20秒後? アイアイを行かせても水中では‥‥
「かはっ‥‥」
 アイアイが真夏の前に立ち、両手を広げて盾になろうとするも、射撃は真夏を正確に捉え、戦闘不能にしてしまった。
 直後に、マッスルは審判により『海より出ること』を命じられ、従う。
「指導されちゃあ、本戦に残るには、ラスト1人になるしかないわねぇん」
 砂浜に伏せ、相変わらず対物ライフル、そしてアサルトライフルで射撃を継続。マッスルはあまり狙われなかった。容姿のせいではない(失礼)、たしかに狙撃は脅威だが、中心で戦う連中は、もっと脅威がいっぱいだったのだ――

 そのライフル弾を、工助は自身の腕から生えたコンバットナイフではじいていた。
「チッ、うっとうしいな。けど、弁慶ノ立往生の前には無意味だぜ」
 弁慶ノ伎、そして仙級摩利支天隠行真言。範囲魔法はともかく、魔法や射撃にも強い工助は、さらに今回最大の体力をも誇っていた。すでにある程度傷ついていたが、余裕が見える。
「長く楽しみてぇから、あまり動かず体力保存っと‥‥おっ?」
 その前に立ち塞がるは、焔羅! すでにフンドシは外れており(被弾して外れたのか自ら脱いだのかは観客に聞いてくれ)、そのパオーンヌは、お盆1枚でガードされていた! 焔羅100%伝説!
「焔羅か、相変わらずやらかしてんなあ」
「お盆が無ければ危なかった‥‥バカやらかすの、おまえも好きだろ?」
「バカは好きだけど、ソレと一緒にされたくはないっつの!」
 工助の腕から生えた長大な志田大太刀が焔羅を斬る! だが焔羅は工助に組み付き、その足に関節技を極める!
「ぐあっ、やるなっ」
「へっへっへ、バカっぽい奴が、いかにも強そうな奴を、足元から極めて倒して行く姿は、痛快だろ? みんなの歓声が、俺に力をくれる!」
 観衆から、キャーとかウワアアアとか声があがる! けど。
「‥‥なんか歓声がおかしなかんじが‥‥へーいみんなどーしたー?」
「お盆取ったせいですよ、っと」
 工助を押さえる焔羅に、桜花の鬼切が一閃! 焔羅、アヘーと白目むいて、リタイア。
「おっと、助かったぜ桜花」
「いえ、もう少し工助さんを弱らせてくれたほうがありがたかったんですが、なにせ粗末なものがぶらりぶらりしてたもので反射的に」
「そっか。じゃ、仕切りなおすか、こんなふうに、なっ!」
 工助の大太刀が真紅の幻炎を纏う! 切り札の特殊効果で、超大太刀同士が激しくぶつかり合う! この瞬間、2人には何の策もなく、ただただ純粋に打ち合うばかりで――結果は、工助の勝利であったが、勝者の口にも敗者の口にも、同じ笑みが浮かんでいた。

 さて、戦局は一気に収束を始める。
「せめて一太刀、届かせたでしょうか‥‥上様、こんな志を持つ大和人もいることを、どうか‥‥」
 瑞希、高い体力とドラゴンアーマー、無構ノ氣で粘るも、新人の割に意外と狙われる機会が多く、影百の槍の大薙ぎに倒れる。
「くうっ、不覚‥‥!」
 芽衣子、ブナの吹雪に巻き込まれ、力尽きる――しかしこの時、ついにブナも、型代と法力が尽きたところであり。
「私は負けぬ、将軍より民の未来を、憂えているからなっ!」
 そう吠えるも、すぐに集中攻撃を受け、恵子々が今度こそ、鉛のような拳を叩き込み、ばったりダウン。
「ぬおおおおっ!?」
 そしてついに、大混乱の元凶・一犀が奈々のなゐふる霊迎えノ舞により、昏倒。内記黒の血を引く馬のほうが生き残ってしまったが、主人が倒れたため、ここで退場。意識を失った主人を背に乗せたままの戦域撤退は、まさに内記黒の逸話そのままの姿であった。
 そしてその奈々も、ついに辺結の矢により倒される。奈々もまた、ぬりかべのベガを残しての退場となった。
「ふっ‥‥暴れるだけ暴れたわ‥‥」
 そう。序盤戦では『他人にとっても妨害となりうる』という理由であまりマークされなかった後衛陣は、ここに来て急速にターゲットとなったのだ。
「うあああああっ!」
 辺結もまた、右京と浦風のコンボにより、地に沈められた。そしてついに、マッスルも皆の標的に。
「ふふ、ただではやられないわよん‥‥阿修羅王真言!」
 マッスル、手数を増やしての、高速アサルトライフル射撃! それはビシビシと右京&浦風を穿つが、しかし右京は止まらぬ!
「それで殺れると思うたかい? ――阿修羅王真言!」
 右京の必殺コンボが、マッスルを蹂躙! 業雷の僧兵装束効果も発揮され、マッスルは三蔵念占術を活かすいとまも与えられず、その体力を奪い去られる。
「不覚‥‥ね‥‥」
「三蔵ありがとさんじゃ」
 そのうえ右京、マッスルの三蔵念占術を浴びて、今受けたダメージを回復する始末。三蔵念占術は瀕死になろうが死亡しようが持続するのだ。
 と、同時期に恵子々が工助に倒される。高い体力とA効果で強靭なタフネスを発揮したが、蓄積したダメージはそれを上回った、ということである。
「序盤に魔法を受けすぎましたね‥‥無念」
「や、よくやったと思うぜ」
 工助は、腕から伸びる大太刀を振り、残るメンツを見据える――蘭子、右京、影百。
 蘭子は、魔法被弾によりかなり消耗していたが、とどめを刺されることはなかった。ほとんど狙われなかったのだ。理由は単純、合気ノ舞により、絶対的な回避力を発揮し続けていたからだ。そんな相手に挑みカウンターを貰いにいくような輩は、いるわけがない。
 そして、残ったメンツは、魔法攻撃等に頼る相手ではない。この時点で蘭子は、絶対的な優位性を誇っていた、といえる――そう、実戦ならば。
(まずいですわね。この状況は――)
 蘭子の危惧。それはすぐに、突きつけられる。
「高杉蘭子、警告! 一方的な戦いをやめるべし!」
 審判の宣告。やむを得まい。蘭子は合気ノ舞をやめると、あえてドラゴンアーマーも脱いで舞神の水着姿となり、魔王神璽ノ舞を始めて美しく輝き出した!
「おーっほっほっほ! こうなりゃ魅せる戦いですわ! さあ、かかってきなさい!」
「それっ」
 影百の手裏剣牽制! 蘭子はかわす――が、水着がぽろり。
「あらっ、いやんですわ」
「蘭子、警告、警告! ただちに隠しなさい!」
 観衆はヤンヤだが、審判に追加で注意を受け、いそいそと紐を直すが、そこを右京に狙われ、蘭子、どうにもならずリタイア。
「ははっ、蘭子らしっな!」
 工助が笑ってるうちに、残る2名は。
「順番的には、こっち!」
 影百は猿飛の脚力で浦風に追いつき、大槍を振るう。右京はそれを、ドラゴンアーマーで無効化。
「槍対槍か。楽しいのう」
 阿吽撃。回避に自信のある影百にとり、この、防御行動を制限させてくる相手は相性が悪い。だからこそ先に右京を倒しておかぬ限り、勝ち残りの目はなかったのだ。
 だが結局、地蔵菩薩慈悲真言を駆使していた右京には及ばなかった。分身の『正解』を捉えられ、ついに影百も、瀕死に追い込まれ、リタイアとなった。
 残るは、右京vs工助。だが工助は見るからにボロボロであった。
「ハッ、さすがにすげぇな右京は‥‥」
「降参するかいの?」
「それはねえぜ!」
「そう言うと思ったわい」
 両雄が交錯し――嫌味のない笑顔の赤髪の男が、倒れた。

「‥‥すごい戦いでしたね」
 澄香は一部始終を見ていた。槌ノ子機巧と、その内部から出た槌孫の中継により、5方向より観戦できていたのだ。
「誰もが工夫して、それが活かされたり、その裏をついたり‥‥なんとも濃密な展開でした」
「いやほんとうに。すごいもんね、来世人ってのは」
 純子も隣に降り立ち、小さく拍手すると。
「将軍様に伝えるのも、ほとんど忘れて見入っちゃったよ。上から見ようがどう見ようが、解説が追いつかない戦いだったね、これは」

 そして。将軍の意も受けながらの、予選通過者選考では。
「それにしても情けない、宮本殿と三枝殿はまったく歯が立たなかったではないか」
「まあ、それを申すな‥‥で、活躍といえば、一犀と申す者はいかがか?」
「たしかに目を見張る動きを見せたが、しかし右京殿も騎馬戦の者。同じような者を選ぶのは少々‥‥」
「では、大勢に狙われながら非常な耐久を見せたあの娘は?」
「ブナのことか? 上様にあのような無礼を働いた者を選べるわけがなかろうが」
「善戦という意味では、工助殿がよいのではないかな」
「賛成でござる。ではもう1名、戦いを見てみたい者は?」
「影百殿か、蘭子殿か、真夏殿か‥‥面白き趣向を考えるなら、蘭子殿か真夏殿はどうであろう」
 ――こうした議論の結果、右京のほかには、工助と真夏が選ばれることとなった。

◆本戦、初戦、第一試合:鈴城 透哉vsアイナ・ルーラ
 いよいよ始まる本戦。最初は、発表どおりのカードだ。
 透哉は、貫通攻撃に強い法力付きの仏胴に、僧兵蒼玉の根付を使う。青白いオーラを纏うことで、30秒程度なら格闘攻撃・射撃攻撃を半減させる、まさに短期決戦向けのアクセサリだ。得物は、二刀流に向いた武蔵金重の太刀と、【莞爾斬】という特殊な攻撃を行える太刀である。抜刀ノ太刀はすでに成就され、阿修羅王真言も記憶していた。
「試合表見て雪辱までの道に気が遠くなったけど、雪辱の相手は十兵衛だけじゃなかった」
 透哉は、10メートル先に立つアイナへ強い視線を投げかける。
「予選で負けたアイナさん。対戦の約束果たせなかった守全さん。前人未到の宮本武蔵‥‥今まで一緒に戦ってきた仲間全員! 将軍にも成長見せると約束した‥‥全勝負全力で戦わなきゃならねぇよな!」
「全勝負、だと? 透哉、先を見据えるのは良いが、私は負けるのが大嫌いだ、故に私が勝つ!」
 アイナは武蔵坊弁慶の装束に、得物は赤鬼武者由来の大太刀だ。一度だけ転移攻撃が可能なこの武器も、短期決戦に役立つのか。なお、弁慶ノ伎によりブレードオブブラックとガリアンズソードを体内に取り込んでいるのだが、透哉はそれに気付いているかどうか。ほか、一ノ太刀も使用可能だ。
 やがて、声がかかる。よーい‥‥はじめ!
「「うおおおおっ!!」」
 両者、突撃! アイナの腕からガリアンズソードが伸び、鞭状となって透哉を襲う! が、これはかわされ、透哉の莞爾斬はアイナを捉えた。これは時間差で威力が発生するという怪しげな攻撃だ。
 その後、愚直に斬り合うこと数秒。莞爾斬の時間差威力を受けよろめいたアイナ、一度距離を取る。そして透哉も図ったように後ろへさがるや、両者は魔法を使用。阿修羅王真言と一ノ太刀だ。
「親譲りの負けず嫌いの性分なので、勝利以外の道は無い!」
 アイナ、赤鬼武者の妖力にて転移し、背後から透哉を捉えた! 強烈な一撃、しかし、透哉は止まらず!
「これが勝つ為の二刀流だ!」
 二刀が凄まじいスピードで煌き、アイナはざくざくと切り裂かれ――
「そこまで!」
 勝者、透哉。

 目を開けると、そこには透哉がいた。アイナは弱々しく、だが不敵に笑う。
「『二本でも一ノ太刀ラリアート』を出す余裕がなかったな、これが‥‥」
「アイナさんの戦い方も、俺の中に活かされてる‥‥このまま、勝ち続けてやるさ!」

◆第二試合:ミスト・カイザーvs牧葉 真夏
「いやまあ、こんなことになるような気はしてたでござるよ‥‥」
 ミストは、アイアイを眺めながら、ぷひー。真夏もクスクスと笑ってしまう。
 両者の距離は10メートル。再びの接近戦。
 ミストの装備は、爆身の忍者装束に、鳶加藤の忍者刀。そして切り札の黄金銃をふところに。すでに猿飛ノ術を成就させ、すぐに分身ノ術も成就させる予定だ。
「さて。姉上曰く、沢庵和尚の子孫(自称)として、恥は晒せぬでござるな」
 ミストは冷静に戦略を組み立てる。真夏も会釈すると、お手柔らかにな~、と言いながらも、勝つための方法を模索した。
 そして、試合は始まった。
「ブワーッ!」
 アイアイが吠えながらミストに爪攻撃! 戦友ノ誓で底上げされた威力や命中、付爪によるかわしづらい効果、アイアイ自身の剛力による倍化威力を加味すれば、加速した忍者さえも捉え、必殺の威力を与えることが可能だ。
 しかし。分身を攻撃してしまっては、そうもいかない。爪は分身を捉え、それが炸裂し、アイアイを苛立たせる。
「一気にいくでござるよ」
 ミストはアイアイを無視。真夏自身を短期決戦で倒すつもりだった。忍者刀に斬られる真夏は、しかし、全身を白く発光させると――
「ななっ!?」
 ミスト、分身が全て消失し、猿飛ノ術の効果も終わってしまった!
「解呪ノ誓、効いてくれたみてーだな‥‥アイアイ!」
「ガウー!」
 そして、真夏とアイアイの連携攻撃【猛き嵐】! ミストはもろに攻撃を浴び、大ダメージを受ける。
「むむむっ、いちかばちか‥‥ラストシューティング!」
 ミスト、このままではすぐにダウンしていただろう。それは苦し紛れの黄金銃であった――だが、それが、真夏の鎧のもろい部分に、まさに偶然に、幸運にもぐりこむとは。
「うぐっ‥‥!?」
 その一撃が、真夏を瀕死に追い込んだのだ――ミスト、土壇場で幸運の勝利を掴んだ。
 だが、試合終了をすぐに気づけなかったアイアイが、ミストをしばしボッコボコにしたのはご愛嬌である。よーしよしよし。

「むぐぐぐ‥‥だからケモノ相手は苦手でござる‥‥けど、やはりこの黄金銃、なにか『持っている』でござるな」
 ミストはよろよろと次戦の準備へ。真夏は、アイアイに「よくやった」と言うと、晴れやかに観客席へ向かった。

◆第三試合:ト・アミvs毒島 右京
 見事、予選を突破していたト・アミであったが、本戦では、のっけから意気消沈していた。
「砂浜だけだと、どうにもならんのである‥‥」
 水中戦や諜報が得意な自分には、本戦ルールはどうも合わない。神威忍者装束に、M4アサルトライフルを二丁。猿飛ノ術、海豚ノ術、玄武水帝占術もあるが、遮蔽物はなく、水中もダメらしいので、お手上げな気分だった。
 ましてや、相手があのコワモテ右京と、デカブツ浦風とあっては。
「よーい‥‥はじめっ!」
 始まってしまった。ト・アミ、うおおおおとライフルをフルオートでバラまく。それしかない、一か八かの勝負であった。
「当たれ当たれ、でかいんだから当たるのである!」
 当たった、当たった、数発の手応えアリ! おっとこれ、もう一丁カラにすればいけるんでないの‥‥
 が、そのときはこなかった。
「おんどりゃああああ!」
 フルオート2セットめより早く、六本腕(阿修羅)な右京が、浦風との阿吽撃! 強烈なひづめを受け、名槍六連撃をかわしきれなかったト・アミは、怒涛の鉛弾を浴びせきる前に、怒涛の猛撃で地に沈むのだった。

「やれやれ‥‥とんでもない試合に出されたもんである。これは命がいくつあっても足りん系であるな」
 ト・アミがぼやくと、右京は、不気味な笑みを浮かべて言った。
「命がいくらふっとんでも、わしが生き返らせてやるわい」

◆第四試合:越中 団次郎vs平口 工助
「工助君がきたかー。こりゃつらい相手だねー」
 そう言う団次郎の装備は、ドラゴンアーマーにポリカの盾、得物はエアリオラの剣だ。1回だけ、4倍威力を出せる謎の西洋剣である。なお、もう1つ装備がふところにあるが、あえて使わないつもりらしい。
 魔法は、抜刀ノ太刀と光世音菩薩真言。攻守に長けた組み合わせといえようか。
「この試合勝っても次は赤井君なんだよね。一方的な攻撃が待ってるよね‥‥」
「次の心配より今のを心配しなって」
 工助に言われ、団次郎はすまんすまんと謝り――そして試合が始まった。
「うおおっ!」
 団次郎の攻撃は、エアリオラでの斬撃だ。抜刀ノ太刀により、工助は回避しづらい戦いを強いられる――しかし、工助の摩利支天隠行真言により、団次郎も狙いづらい攻撃を強いられる、という、なんともひねくれた立ち合いとなった。
 工助の、幻炎を纏った大太刀は、八幡武神具足の溜め攻撃もまじえて団次郎を襲うが、団次郎は光世音菩薩真言の加護により致命傷にならぬようダメージを抑え、かつドラゴンアーマーで無効化したりもして、これまた複雑な攻防戦。
 見た目は、大のオトナが、武骨に斬り合っているだけである。しかしそこには、多重に仕組まれたイクサのカラクリが渦巻いていた。
「ははっ、こりゃ楽しっな!」
 工助はからから笑って刀を振るう。
「そうかい、僕はもう疲れたよ、っと!」
 団次郎は頃合を見て、エアリオラの爆発的威力を解放させることにした。頼む、これは当たってくれよ‥‥当たった!
「くおおおっ!? や、やるじゃねっか!」
 それでも工助は笑うもんだから、団次郎も疲れた笑みを返すしかなかった――が、ともかく今の一撃が、この戦闘を決定づけた。
 目に見えて消耗した工助は、団次郎のリードを減らし切ることができず、ついには――戦闘不能に。
「勝者、越中団次郎!」
 満身創痍の団次郎は、笑顔で聴衆に手を振ったが。
「はあ~‥‥これでやっと準々決勝進出かい。しんど」

◆準々決勝、第五試合:鈴城 透哉vs宮本 武蔵
 ついにこの時がきたか、と透哉は武蔵を見据える。
「目の前の高い壁、無視なんてできないさ。この壁必ず越えさせてもらうぜ!」
「この武蔵を越えられるかな、少年」
 武蔵はしれっと言う。透哉と同じ二刀流で、防具もつけぬ姿で。
「ああ、やってみせるさ。来世人として持つ二つの属性の力、神代と大和の力が融合した鎧、晴明が残した根付の力‥‥今まで歩んだ全部の結果使って、来世人の成長を見せてやるぜ!」
「面白い。さきほど戦いぶりは見た。こちらも全力で行かせてもらおうか」

 試合が始まった。
「阿修羅王真言!」
「むっ」
 阿修羅の幻影を纏った透哉を確認するや、武蔵は風のように後退した。そして透哉は一度も攻撃することなく、その効果を終わらせてしまう。
「なるほど‥‥阿修羅王の危険さはわかってるってわけだな」
「‥‥‥‥」
 透哉は悟る。武蔵に阿修羅王真言は効かないと。こちらより素早く逃げられてしまっては、この魔法は意味を為さない。
 だが、それは透哉に失望ではなく、希望を与えた。あの武蔵にも、恐れるものがあったのだ、と。
「なら‥‥勝てるかもしれねえ! 行くぜ!」
 透哉は駆け寄る! そして二刀を振るう! 武蔵も当然、二刀で応戦! 観衆の多くも、透哉自身も、四本の刀による激しい打ち合いを予想したのだが――
「‥‥ぐぐっ!」
 こちらの攻撃が、刀でさばかれることがほとんどない。まるで川に流れる木の葉のように、武蔵はゆらゆらとその身だけで透哉の攻撃をかわす。
 だが、全てではない。
「ぬうっ、やる」
 透哉の切っ先は、たしかに武蔵を捉え始めた。幾度も。致命打には遠いが、たしかな手応え。
 むろん、透哉自身もすでにめっぽう斬られている。しかし、まだ。鎧の力も根付の力もあり、その体力には余裕があった。
「驚いたぞ」
 武蔵はそこで距離を取り、しばし、透哉と睨み合う。
「へへっ、ここまでまともにやれるとは思ってなかったってか? それとも、負ける気がしてきたか?」
 透哉は挑発する。もちろん、それに流される武蔵だなどとは思っていないが、己自身を鼓舞するために。
「貴殿は強い、認めよう。ならば拙者も、最終奥義を出さねばなるまいて」
 武蔵はそう言うと、目を閉じ、コオオオ‥‥と、不思議な呼吸を始めながら、二刀をそれぞれ円を描くように大仰に回し始めた。

「‥‥なんでしょうあれ。魔法? 氣?」
 観戦中の澄香は、見慣れぬ事態に息を呑む。
「なんか、二刀での円月殺法、みたいな‥‥?」
 純子も、会場を包む異様な気配を肌で感じていた。

 透哉は焦っていた――あれはなんだろうか。最終奥義だって? 幻影? 謎の氣?
 いや、敵に呑まれるな。けど、今すぐ攻めるべきなのか、それとも逃げるべきなのか‥‥
「‥‥いや、今の俺に後退はねえ! 行かせてもらうぜ、武蔵さん!」
 透哉は阿修羅王真言を成就させると、一挙に前へ走った! すると武蔵、謎の構えを解かぬまま後退。
「阿修羅はやっぱ嫌うのかよ、けど、このまま――うっ!?」
 足に痛み。なんだ、何か鋭い物を踏んだ? たとえば、まきびしみたいな――
「わぶっ!?」
 と、意識が一瞬飛んだその隙に、顔になにかぶつけられた。粉? うっ、目が開けられな‥‥
 直後、首とふとももを鋭く斬られた。それが致命傷だと、透哉は自分でもわかった。まさか、こんな――
「若者相手に大人げないとは思ったがな。武蔵の本気だ」

「‥‥汚い、忍者の自分から見ても、なんと汚い」
 ミストは理解した。言葉と大仰な動きで相手の意識を縛り、逸らし、行動を誘導し、相手の意識外でまきびしをそっと撒き、そこを機に目潰し玉からの必殺攻撃を仕掛ける、というコンボ。
「あれは氣じゃないわね‥‥熟練の、というか、老練の、というか」
 芽衣子も、武蔵の新しい側面を知り、身震いした。体力でも技量でも法力でも氣でもない、戦いのやりようを、彼は知っていたのだ、と。
「こええ相手だなあ‥‥」
 九郎は、自分もあんな戦いができるようになれるだろうか、と考えずにいられなかった。

◆第六試合:ミスト・カイザーvs服部 半蔵
 忍者vs忍者。こちらも注目の一戦。
 柿渋色の忍者装束に忍者刀。前回と同じいでたちの服部半蔵は、「やりづらいな」と眉をしかめる。
「同じ忍者同士が、こんな衆人環視の中でとは。陰に生きるべき存在同士が、因果なものよな」
「そ、そうでござるな‥‥」
 わりかしド派手にやっちゃうミストは、そっと目をそらした。

 試合が始まった。
「四代服部半蔵、参る!」
 後方へ跳びざま、半蔵は手裏剣を乱打した。分身してなおそれを浴びたミストは、追撃しようとして、足元のまきびしに気付くと。
「迂回‥‥否!」
 猿飛の脚力で、半蔵以上の大ジャンプをかますと、そのまま半蔵を踏みつけるような形で忍者刀を振り下ろし!
「疾風迅雷!」
 相手の左腕を深々と切り裂き、両者、左右へ転がる。ミストは無傷か――いや。
「耐えたか、やはりな」
 半蔵は、落ちてくるミストの顔へ、含み針を吹きつけていた。口に忍ばせた毒針であったが、ミストはそれが刺さっても動じない。痛いけど。
「一挙に攻める!」
「むっ‥‥」
「弥七流・必殺風車!」
 組み付いたミスト、半蔵を放り投げた! 背中を砂浜に打ちつけ、うめく半蔵。
「とどめだ、ラストシュー‥‥あれ?」
 ミスト、ふところの黄金銃が、ない?
「これか? それ、返そう」
 なんと、半蔵の手に収まっていた。投げられた際にすり取ったのだ。そしてそのまま引き金を引き、ドゴォン。しかし、銃はミストをわずかに逸れた。
「ぬうっ、拙者の知る来世の拳銃とは勝手が違うな‥‥」
 機を逃した。半蔵は不覚を悟る。そしてミストは、得た機に乗る。体制整わぬ半蔵へさらなる格闘を畳みかけ、半蔵は後手後手のまま、自爆ぎみの忍び玉も決まらず、ついに気絶へと追い込まれたのだった。

「いけると思ったが‥‥勝負とはわからぬものよ」
 半蔵はミストに一礼。ミストも深々と一礼。
「この銃‥‥本当に、恐ろしいものでござるな」

◆第七試合:毒島 右京vs柳生 十兵衛
 右京も、多くの面々も驚いた。十兵衛は甲冑を纏い、馬に乗って現れたからだ。
「ほう‥‥本気、というこっちゃな」
 すでに騎乗していた右京が凄む。十兵衛はフフンと笑う。
「武蔵殿が本気を出しているのに、俺が本気を出さぬわけにはいくまいよ」

 試合開始。右京の勝利へのパターンは決まっていた。可能な限り阿修羅王真言で手数を増やし、浦風との阿吽撃を繰り出すことだ。
 右京は、勝算があった。
(いかに騎馬戦に長けた武者とて、わしの浦風にはかなわないと思うんじゃが‥‥だが、先に馬を潰す!)
 最初の阿吽撃のターゲットは、十兵衛の乗る戦馬! 強烈コンビネーションを、馬はまともに喰らい、ヒヒィンといなないて横倒しになる。
 だが、十兵衛はそれを見越して動いていた。すでに馬の背を跳んでおり、強烈な太刀筋が浦風を斬り裂く!
 馬が一頭倒れ、十兵衛は見事に着地し、そして右京は距離を取った。大きく出血する愛馬を癒すべく、地蔵菩薩慈悲真言を成就すること、3回。
「なんて奴じゃ。一撃でどれだけの威力をぶつけるつもりじゃい‥‥」
 右京、冷や汗たらり――だがそれは、十兵衛も同じであった。
「なんて馬だ。一撃のもと、お互いの馬を犠牲にするつもりだったがな‥‥」
 与えた傷は魔法で回復される。追撃しようにもあの馬の足にはかなわない。おいおい、どう勝てというんだ?
「ともかく、やることは変わらんのじゃ。阿修羅王真言!」
 右京、再び十兵衛に挑む!

 ――そうしたやりとりが、何度行なわれたか。十兵衛は阿修羅王阿吽撃を受け続けた。ポイントポイントで凄まじい捌き方を見せるも、傷は深まるばかり。
 十兵衛の一閃は、浦風にも右京にもぶつけられ、いずれも強烈な傷を与えはしたが、大きく距離をとった右京は必ず魔法で全快してしまう。
 十兵衛の焦り――このままではやられる。
 右京の焦り――このままでは法力が尽きる。
 だが、軍配は右京に上がった。法力がまさに底をつきかけた、その最後の阿修羅王真言による攻撃で、十兵衛はついに膝をついたのだ。
「ダメだな、こりゃ‥‥完敗だよ、俺の」
 十兵衛、瀕死により敗北。

◆第八試合:越中 団次郎vs赤井 狐弥
 狐弥は目を丸くした――団次郎が、般若幽霊の面を装着していたからだ。それはさきほどの試合では使ってなかったものだ。
「‥‥隠していたのですか?」
「ああ、胸の中にね。呪われたまま戦ってたんだよ、はは」
 そう語る団次郎は、注意深く狐弥を観察する。神威忍者の装束に、マジカルシールド。【無想連斬】を使える武蔵了戒の太刀と、神器の草薙剣。
(猿飛ノ術の超回避と、草薙剣か無想連斬で圧倒するつもりだろうけどね、そう簡単にはいかせないよ)
 狐弥は、実はさらにまきびしを忍ばせての参戦だ。だが、相手は忍ばせているもののレベルが違った。
(無想連斬を使えば法力は完全に潰える‥‥つまり、般若幽霊面の魔眼に完全に無防備になり、そのままやられる、というわけか。ずいぶんな策士じゃないですか)

 そして試合が始まった。お互いの距離は50メートル。狐弥は草薙剣による草薙烈風を放とうとするが、ふと、手を止める。
「盾を構えましたか‥‥」
 ポリカーボネートの盾。あらかじめ構えていれば、草薙烈風の威力は半減される。光世音菩薩真言の加護を受ける団次郎に与えられるダメージは微々たるものになってしまう。そのために法力を消耗するのは得策ではない。
「なら、待てばいい」
 盾は、構え続けていなければ真価を発揮しない。あらかじめ構えているかどうかはその場でわかるし、移動しないのであれば、あちらは光世音菩薩真言が解けるだけだ。法力を消耗するのは、相手側になる。
 一方の団次郎は、やや焦りを感じていた。
「まずいね。相手は冷静だよ。盾を構えててもダメってんなら、僕にはがむしゃらに向かう以外ないじゃないか」
 そうと決まれば、無駄な時間を過ごすわけにはいかない。全力で距離を詰める――当然、草薙烈風を浴びる。けっこう痛い。だが、次が問題だ。人外の移動速度を持つ相手だ、逃げに徹されると、こちらの剣をぶつける前に、会場の反対側までビューンとされちまう。そうとわかっていても、僕はがむしゃらに突っ込む以外に手はないんだから。はは、つらいね‥‥

 そんな戦いが続いた。通常、いかに足が速いとはいえ、そう広くない会場内で追いかけっことなれば、足の遅いほうもいずれ追い詰めたり追いついたりできるものである。
 しかし、それは『相手がとんでもなく足が速い』場合は当てはまらない。第七試合でもそうであったが、このような状況においては、足の遅い側には、戦いの主導権を握る術がまったく失われる場合もあるのだ。
 なので、団次郎はがむしゃらに走り、走り、とちゅう光世音菩薩真言を成就し直し、また走るだけであった。いっぽうの狐弥は凄まじい身ごなしで距離を取っては、草薙烈風を浴びせ続けた。呪われている団次郎は、一度転倒してしまったほどだ。
 だが、勝負はここで変化を見せる。
「うっ‥‥?」
 狐弥の身体が硬直する。魔眼による恐怖が、その身体を縛ったのだ。団次郎、千載一遇のチャンス到来――そう、狐弥は草薙烈風で法力を消費し続けることで、魔眼への抵抗力は下がっていたのだ。かといって、相手と目を合わさずに戦い続けることは不可能。団次郎は運よく、魔眼を決めることができたのだ。
 しかし、魔眼の効果は長くはない。3秒か、十数秒か? 団次郎は走る、必死に距離を詰める。そして――
「ここだあっ!」
 エアリオラの爆発的威力が狐弥を襲う! 無防備な狐弥は大ダメージを受ける。団次郎、続けて剣を振り上げ、振り下ろす! 狐弥はうめく!
 そこで狐弥が立ち直った。すかさず距離を取る。仕切り直しだ。
 この時点で、両者とも大きな傷を負っていた。再び魔眼が決まれば、今度こそ団次郎の勝ちであったかもしれない。だが――

「これが、勝負ってやつか‥‥」
 膝をついたのは、団次郎であった。ついに、再びの魔眼が通ることなく、法力が、つまりは万策が尽きてしまったのだった。

◆準決勝、第九試合:宮本 武蔵vsミスト・カイザー
 今日はなんという日だろう、とミストは思う。
 赤兜ノ子と戦い、服部半蔵と戦い、そして宮本武蔵とは。
「ふむ。この黄金銃を信じて、一発、試すでござるか」

 試合が始まった。武蔵は、汚い手は使わず、真正面に向かってきた。
「むうん」
 流れるような二刀。ミストの分身4体を一息で斬り裂き、炸裂させてしまう。ミスト、忍者の優位性をいきなり奪われ、動揺。
「意味のわからない謎必殺技が通じぬのは承知‥‥ここは愚直に斬らせていただく!」
 ミストはそう言いざま、あろうことか黄金銃を抜き撃った。さすが忍者きたない。
 だが、すでに試合を見ていた武蔵には、さすがに通じなかったようだ。すんなりとそれをかわすと。
「知ってると思うが、その刀で拙者は倒せぬし、拙者はおぬしの身ごなし程度、わけもなく斬り裂けるぞ。まだやるか?」
「もちろん」
 だが、戦果はおおむね、武蔵の言った通りとなった。ミストは一太刀も浴びせることなく、凄まじい剣術を浴び続け、そのままノックダウンしてしまった。
 戦いは非情である、ぷひー。

◆第十試合:毒島 右京vs赤井 狐弥
 試合が開始された。
 この戦いにおいては、狐弥も『一方的な退避』はできなかった。浦風も素早く、かつ機敏に反応できる馬だからだ。
 草薙烈風で右京と馬を同時に攻撃できるが、右京の地蔵菩薩慈悲真言は、そのダメージを回復させてしまう。無想連斬も微妙だ――決定打がない。
 ともかく、戦うしかなかった狐弥。なにか、決定的な好機が訪れるのを期待して。
 だが、それは訪れなかった。阿修羅王真言に頼らず、ひたすら距離を詰め阿吽撃を繰り出し、傷つくたびに地蔵菩薩慈悲真言を成就する右京に対し、狐弥はその法力を絞り切れず、また相手の優位を突き崩すほどの幸運も訪れず、傷を増やしていき、ついに意識を失った。

「‥‥せめて、毎試合ごとに、準備を変えられれば、また面白かったのでしょうけどね」
 狐弥の言に、右京も同意してうなずく。
「こうしたトーナメントをのしあがる。そこにはカードによるバクチも大きいってこっちゃな。わしは、たまたま手札にいいのがきたっちゅうだけじゃろうな」

◆決勝、最終戦:宮本 武蔵vs毒島 右京
 カード、バクチ‥‥それを語った右京だが、あの武蔵という相手のカードだけは、読み切れないでいた。
「これまでの戦いで、ある程度の手札はオープンされとるがの。しかし、あとどれだけイカサマ札を忍ばせているかは、仏さんのみぞ知るじゃな」

 最後の試合が始まった。右京は再び、例の戦法をとった。浦風の猛撃と右京の槍連打が同時に襲い、武蔵の回避を縛る!
「ぬうっ」
 浦風の攻撃を受けながら、右京の六連撃を全ていなし、武蔵は――二刀で浦風の両後ろ脚の腱を切る!
「!?」
 浦風の走りが止まり、右京もその場に釘付けされる。だが右京には浦風を癒す手段あり!
「待ってろ、今――」
「させぬ」
 真言詠唱中の右京に、武蔵が飛びかかる。そして、その背を狙った強烈な一撃が叩き込まれる!
(しばし痺れてもらう。そして――)
 武蔵の老練な急所攻撃。それは狙いたがわず、無防備な右京を襲った。
 だが、地蔵菩薩慈悲真言は成就された。回復した浦風は素早く駆け出し、武蔵との距離を取る。
「し、しくじったのか‥‥」
 しばし茫然とする武蔵。そして安全な距離を取った右京もまた、言い知れぬ恐怖を拭おうとしていた。
「い、今なにかされかけたのう‥‥しかし‥‥」
 ドラゴンアーマー。それが武蔵の秘技を無効化したのだ。
「‥‥」
 武蔵は動かない。右京は、今しがたの恐怖を即座に抑え込み、武蔵を睨む。
「あの奇襲は、もう喰らわんぞ。行くぞ浦風、やるだけやるんじゃ」
 右京は己を貫いた。武蔵もまた、必死に守り、必死に反撃したが、その体は徐々に傷ついていく。
 展開は、十兵衛戦に似ていた。だが、体力は武蔵のほうが下のようであった。要所要所で信じられぬ動きを見せたが、それは戦局を覆す決定打には到らず、ついに――

「御前試合優勝は、毒島右京!」
 審判の声が響き、観衆の声が轟いても、右京は、血まみれのまま運ばれていく武蔵を見つめていた。
「つ、ついに来世人が勝ったんか‥‥」
 ――右京だけではなかったのだ、『あらゆる局面に対処』しようとした参加者は。だが、右京の準備は本当に、攻守バランスよく、多くの相手に優位に立てるものであった。
 むろん、そんな右京を倒しうる方法も、いくらでもあっただろう。今回はたまたま、そんな相手と当たらなかっただけだ。そして、そのたまたまを引き寄せたのも、多大な計算があったからこそ、ということだ。
 そしてその計算が、武蔵さえも上回ろうとは。こうして右京は、前人未到を成し遂げたのだった。

◆もう1つの戦い
 その後、皆がどう騒いだとか、将軍が何を述べたとか、そこは省略させていただく。
「ともかくみなさん、お疲れ様でした‥‥冷やしたジュースで体を休めて下さい」
 澄香が参加者にジュースを配る。
「これはかたじけないです‥‥あっ美味しい」
「ふう、苦いグレープフルーツジュースである‥‥」
 瑞希やト・ア、イらがそれをちびちびやっていると、向こうから武蔵ら、大和人の面々がやってきた。治療を終えたらしい。
「来世人が優勝されるとは‥‥それに比べ、私はなんとも情けない」
 伊織はそう言いながらも爽やかな笑顔を見せる。守全は相変わらず無表情で、十兵衛はにやにや、そして武蔵はぶすっとしている。
「もはや拙者程度の武士では相手にならぬとわかった。では、公務が溜まっているゆえ、これにて」
 守全は一礼すると、真っ先に背を向けた。すると武蔵が、右京にこんなことを言う。
「おぬしの魔法なら、多少の大怪我はすぐ治せるのであろうな?」
「え? あ、ああ、戦いで見せた通りじゃが」
「わかった」
 と、言い終わるより早く、武蔵は刀を抜き、守全の背中を深々と切り裂いていた。
「なっ、何を!?」
 辺結が叫ぶ頃には、桜花が武蔵を取り押さえようとしていた。が、武蔵は守全をねめつけたまま、叫ぶ。
「十兵衛!」
 呼ばれた十兵衛も、守全に斬りかかった。さらに血を噴く守全――それが、忽然と消え、数十メートル先に転移出現した。その姿は。
「‥‥天草四郎!?」
 アイナが指差す。なんと、守全は消え、代わりに鬼将・天草四郎が現れたのだ。そしてその四郎は――何も発することなく、再び忽然と姿を消してしまった。
「予選の際、あやつは大怪我を負いながら、血の止まるのがあまりに早かった」
 武蔵が、なにやら語り始めた。
「何かが引っかかったのだ。予選の戦いぶりも、まるで、わざと負けるかのようでな。いや、それ自体は理解できなくもない。だが‥‥一度疑えば、もう止められぬでな」
 武蔵は語った――守全の左頬には、大きな傷があったこと。そして武蔵自身がかつて、四郎の頬に切り傷を負わせたことがあること。その傷は四郎の頬に、今も残っているのを確認していること(これも武蔵自身の秘技のなせるわざらしい)。以前試合をした際も、まるで傷を負わぬように降参していたこと。もとより、守全には腹の読めぬ部分が多すぎたこと。
 それらが符号し、武蔵は守全の正体が『ほぼ天草四郎である』と思うに到ったのだという。それを十兵衛にも話し、こうした『確認行動』に出たのだという。
「えっ‥‥あの守全さんに、四郎が化けてたって? いつから?」
 透哉の動揺に、武蔵はこう返す。
「さあな。だがたぶん、最初からであろう。ああ、最初というのは、幕府に仕官した時点という意味だが」
 この話は後日、裏付けられた。三枝藩に守全という子が生まれ、育ったのは間違いない。それは鬼ではなかったはずだ。だが守全は、いつしか頬に傷があり、それは仕官の時点で確認できていたというのだ。
 まあ、高位の鬼ならば、個人に化けることができる者もいる。言い換えれば、四郎はいつでも、守全に成り代わることは可能だったのだ。
「え、え? つまりどーゆーこと?」
 焔羅がぽかーんとしているので、蘭子が解説する。
「もし四郎が、目的をもって守全に化けていたとしたら‥‥まあそうとしか考えられませんが‥‥来世人ギルドや幕府、将軍の鬼・化身対策の、まさに中枢を覗き続けていた、ということですわね。将軍直属の対化身組織の長であり、来世人ギルドの大規模作戦の指示役さえ勤めていたのですから」

 ――この日、江戸を震撼させうる重大な事件が2つ起こったが、四郎の件に関しては、幕府が厳重に情報を押さえつけた。江戸の庶民は、いや日本中はただ、無敵の剣豪たる武蔵がついに破れたことに打ち震えるだけだった。
 しかし。守全はもちろん、もう江戸城に姿を見せることはなかった。そして、守全の飼い犬の伊豆丸も、守全の役宅からいなくなっているのだった。
 今年の大規模な山王祭は、間もなく終わるだろう。だが、この日ノ本で、鬼が、化身が織り成すドンチャン騒ぎは、いまだ衰える気配がなかった。



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参加者

b.とりあえずロープに飛んでみねぇとわかんねぇよなぁー!とうっ!
不知火焔羅(ka00012)
Lv214 ♂ 23歳 武僧 来世 異彩
b.戦うアイドルの実力見せて上げるわ。
沖田芽衣子(ka00120)
Lv100 ♀ 22歳 武忍 来世 大衆
b.ま、ヨロシクな。
平口工助(ka00157)
Lv256 ♂ 22歳 武僧 来世 傾奇
a.よろしくお願いします。
赤井狐弥(ka00215)
Lv161 ♂ 20歳 忍僧 来世 影
b.私の邪魔をする奴は、誰であろうと取って食うじょ
森住ブナ(ka00364)
Lv144 ♀ 15歳 神陰 来世 異彩
c.皆さん…頑張って下さいね!
水上澄香(ka00399)
Lv191 ♀ 17歳 陰傀 来世 異彩
a.目の前の高い壁、無視なんてできないさ。この壁必ず越えさせてもらうぜ!
鈴城透哉(ka00401)
Lv218 ♂ 15歳 武僧 来世 傾奇
b.この試合を南部鉄器職人に捧げますわ。伊織様、目を醒ますのです
高杉蘭子(ka00512)
Lv295 ♀ 20歳 武神 来世 傾奇
b.面白いと言われましても……跳んでみますかね?
藤枝桜花(ka00569)
Lv190 ♀ 23歳 武忍 来世 質素
a.姉上曰く、沢庵和尚の子孫(自称)として、恥は晒せぬでござるな(ぷひー)
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv268 ♂ 24歳 武忍 来世 大衆
a.透哉、先を見据えるのは良いが、私は負けるのが大嫌いだ、故に私が勝つ!!
アイナ・ルーラ(ka00830)
Lv94 ♀ 24歳 武僧 来世 傾奇
a.ははは…。笑うしかないねこりゃ。なんで此処に僕がいるんだろう
越中団次郎(ka01138)
Lv125 ♂ 32歳 武僧 来世 傾奇
b.よろしくお願いします。
鏑木奈々(ka01307)
Lv188 ♀ 18歳 神陰 来世 麗人
b.よろしくお願いします。
毒島右京(ka01318)
Lv97 ♂ 35歳 陰僧 来世 大衆
b.よろしくお願いします。
富士影百(ka01570)
Lv108 ♀ 18歳 武忍 来世 影
b.『除傷形代』を開始前使用してる人に付いて回り、開始直後に攻撃します。
鈴鹿恵子々(ka01589)
Lv163 ♀ 20歳 武僧 来世 異彩
b.よろしくお願いするわよん。
マッスル・オネェ(ka01616)
Lv127 ♂ 20歳 僧流 来世 異彩
c.空から見てるわね。邪魔にならない様注意するつもりよ。
溢田純子(ka01629)
Lv181 ♀ 25歳 僧流 来世 傾奇
b.ふっふっふ…形代と分身で守る俺に死角なし…多分…
小冷煌尚(ka01631)
Lv113 ♂ 23歳 陰忍 来世 質素
b.御前試合ってすげぇ規模なんだな…。は?え、俺予選参加すんの!?
遠前九郎(ka01660)
Lv195 ♂ 19歳 武流 来世 傾奇
a.砂浜だけだと、どうにもならんのである…
ト・アミ(ka01685)
Lv141 ♂ 50歳 忍流 来世 質素
b.行こうかアイアイ。楽しむといいべ
牧葉真夏(ka01759)
Lv93 ♀ 25歳 神誓 来世 異彩
b.よろしくお願いします。
鷲巣一犀(ka01805)
Lv86 ♂ 33歳 忍誓 来世 質素
b.『除傷形代』を開始前後に使用してる人に向け、開始直後に攻撃します。
銀石辺結(ka01862)
Lv215 ♀ 20歳 武風 大和 異彩
b.初陣ですし場違いなのでしょうが…全力を尽くし、戦ってみせます!
湧口瑞希(ka01873)
Lv216 ♀ 19歳 武空 大和 異彩
 今回の勝負は、誰が勝つやら、正直わからんよ。だからこそ‥‥滾る!
柳生十兵衛(kz00009)
♂ 30歳 大和