【SH14】深淵より昏く

担当 月華霊夜
出発2017/10/24
タイプ ショート A(Lv250以下) 連動
結果 大成功
MVP 森住ブナ(ka00364)
準MVP 莱堂 凌駕(ka00613)
御前 輔兵衛(ka01901)





オープニング


 畜生腹。

 それは1度に2人以上の子を産んだ女性を罵った言葉。
 男女1人ずつ双生児の場合、前世に前世に情死した男女の生まれ変わりだとされ、忌まれた。


登場キャラ

リプレイ


 江戸の片隅、とある下町の長屋。
 何の変哲もない、平凡なその場所に葛城左衛門の診療所『骨接ぎ葛城』は存在する。

「先生ぇっ! 肩が、おらの肩が外れちまったよぉっ!」
「先生! この子の足が‥‥治してやって頂けませんかっ?!」
「急患だぁ! 吉二の奴が、腰を‥‥!!」

 決して広くはない診療所には、悲鳴や呻き声が絶え間なく響いていた。
 あちらこちらから、怪我をした町人達が葛城左衛門に救いを求めてやってくる。
 普段は葛城左衛門のみで営む診療所に、この日は見慣れぬ者達の姿があった。

凌駕君。この人の肩を直すから、押さえておいてくれるかい?」
「よしきた。任せてくれ‥‥!」
「センセ、センセ! 此方の患者の治療終わったじょ!」
「おぉ、ブナちゃん。では、腰をやった人を頼もうか」
「任されたじょ! って、腰を捻りながら一回転した? どんな器用な転び方を!?」
「お湯を沸かしてきました。そろそろ、足りなくなりそうでしたので」
桜花さん、助かるよ。そこの桶に溜めておいてくれるかい」

 医術に長けたブナと、専ら2人の補佐に専念している凌駕。雑務を熟す桜花だ。
 突然、手伝いたいと診療所を訪れた彼女らを、葛城左衛門は特に拒むことなく出迎えた。
 来世人の訪問。それが何を意味するのか、彼自身、理解している筈だが‥‥。

(本当、人が良いんだな先生。‥‥治療費も、殆どとっていないし)

 患者に布を巻いた木片を噛ませながら、凌駕は葛城左衛門の横顔を見やる。
 この時代の医療費は、現代日本と比べると驚くほど高額だ。
 下町の町医者でさえ、1度の診察で最低10匁‥‥2万円はかかる。
 薬代なども加味すれば、1両以上かかるのは当然のこと。

「どぉれ、私が見事治してしんぜよう! ここを、こうするとぉ!」
「ひぎぃっ!!」
「‥‥あれ? 間違ったじょ? あぁ、いや、大丈夫だよ!」
「らめぇっ! 助けてぇぇっ!」

 腰を痛めた患者がブナの治療を受ける様子を横目に、桜花は葛城左衛門に声をかける。

「仲間がご迷惑をおかけしますね」
「いやいや、彼女の腕は素晴らしい。来世人の医術には、勉強させられるよ」
「下手したら拷問にも見えるけどな‥‥」

 騒々しくも賑やかな診療所には、まだまだ多くの患者達がやって来る。
 新たに駆け込んできた涙目の少年の対応に向かう葛城左衛門。
 そんな彼らの後ろ姿を眺めながら、凌駕と桜花は小さく頷き合う。

 ――似ている。

 葛城左衛門の面立ちには、僅かにだがそう思えるだけの既視感を覚えるものがあった。
 彼は、確かに似ている。あの新免と――‥‥。


 過去。森羅万象に存在するもの。
 今、この瞬間に生じたものであろうと、一寸経てば過去は生まれる。

 幾ら捨て去ろうと。
 幾ら消し去ろうと。

 過去が存在したという『事実』だけは、どう足掻いても消すことはできない。
 遥か彼方に置き捨てられた『過去』を辿れば、『今』が見えてくる筈だ‥‥!

『たぶん。いや、知らんけど』
『台無しでござる‥‥!!』

 直前までは格好良かったのに、最後の1言の念話で龍重は全てを崩壊させた。
 思わず輔兵衛がツッコミを入れたのも、無理もないこと。

『しっかし、何故か皆、俺から離れてゆくんだ。どうしてだろうな?』
『龍重殿が、あのような刺繍が施された外套を羽織って女人ばかりに声をかけるからでござる!』
『いやぁ、はっはっはっ。何か転んで尻に顔を押し付けちまったのが悪かったな!』
『最低でござるっ!!』

 いったい何をしているのかと、クリスタルは青筋が浮かんだ眉間を揉む。
 ともあれ、外れかけた話題を引き戻すように彼女は続けた。

『ある程度の情報は集まってきたわね』
『う、うむ。どうやら、筑前の方からやって来たようでござるな』

 人遁ノ術で町人に紛れ、或いは、人助けをしながら長屋周辺で行った情報収集。
 その甲斐もあり、葛城左衛門に関する情報はかなり集まっていた。
 輔兵衛が荷物を運ぶのを手伝った老婆が、彼がやって来た当時のことをよく覚えていた。

『何でも怪我をしていた上、酷く憔悴しきっていたようでござる』

 十数年前、筑前国からやって来たと言う葛城左衛門は、それはもう酷い有様だったらしい。
 頭に怪我をしていた彼曰く、旅の途中の山道で転がり落ちてしまったとか。
 他にも、彼方此方に打ち付けたような痕が残っていたという。

『南ってのは、筑前のことだったか。となると‥‥』
『繋がってくるわね、あの姉妹‥‥あの一家と』

 出身は恐らく筑前国。その上で、新免姉妹と容姿が似ている。
 こうなってくれば、葛城左衛門があの2人と血縁関係にある可能性は高い。

『あの娘らが、彼処まで歪んだ理由を知っていそうね』

 何処までも排他的な新免姉妹。
 歪で淀んだ彼女らの人格を形成したのは、間違いなく幼少時の経験にようもの。
 仮にそれを知ったところで、同情するつもりは微塵もない。
 だが、嘗て追い詰め、今後も関わる可能性が高い以上、クリスタルは知らなければならなかった。

『僕達と同じ双子だからねー。やっぱり気になっちゃう感じかな、ミスト
『そうでござるな姉上。きっと拙者達と重ねて見ているでござるよ?』
『黙りなさい愚双子。それから愚妹、惚薬は抜いといわよ』
『えーっ』

 念話に割り込んできた妹達のことはさておいて。
 聞き込みで、葛城左衛門自身は、あの姉妹とは似ても似つかぬ温和な人物だと解った。
 それほどの人間が、兇状持ちである新免姉妹の情報を黙して語らない理由とは‥‥。

『‥‥家族は居ない、と言っているらしいけど‥‥』
『件の姉妹が1度だけ、あの人に逢いに来たようでござる』

 それは本当に偶然の産物。

 江戸を訪れたばかりだという旅人から、輔兵衛が得た情報だった。
 ついつい飲みすぎて、道端の物陰で酔い潰れていた時、微かに耳にした会話。



 ――お爺ちゃん。元気そうだったね、狗ちゃん。
 ――ええっ。狗達を捨てて、嘸かし気楽な人生だったでしょうね。


 太陽が西の彼方に沈み、夜の帳が下りる。
 この日の患者全ての診療を終え、閉じられた診療所の奥。
 其処では集った来世人達と、葛城左衛門は向かい合うようにして座っていた。

 日中情報収集に出ていた者達も含め、総勢8人。やや手狭ではあるが、致し方ない。
 重苦しい沈黙が支配する中、が口火を切る。

「葛城左衛門様。わたくしは、無理に貴方様から2人のことを聞き出そうとは思いません」

 昼間、クリスタル達が集めてきた情報。
 それらを元に推察された、新免姉妹と彼との関係。
 恐らくは姉妹の祖父であろう人物に、閑は静々と言葉を紡ぐ。

「あの娘達は兇状持ち。その罪は重く、罰を受けねばなりません」

 彼女達が積み重ねてきた罪は、余りにも重い。
 幕府に捕まれば、恐らくは親兄弟と同じ末路を辿るだろう。
 だが、だとしても――。

「罪を悔いる心があれば‥‥やり直せると信じています」

 無言を貫いていた葛城左衛門の頬が、僅かに動いた。閑は尚も続ける。

 自然万物に宿りし、八百万の神。
 それほど多くの神がおわすなら、罪深き者に救いの手を差し伸べる神が居てくれても良い、と。

「望まぬ罪を背負っている方も居られますし、そのような神の御心をお伝えしたいのです」
「まー僕は難しいことはさておいて、同じ双子として気になるんだよねー」

 何処か戯けた口調でミアが口を開けば、葛城左衛門が双眸を見開く。
 彼の溺愛する弟は現在この場には居ないが、自分達は紛れもなく男女の双子だと続けた。

「似た境遇かもしれない2人を見過ごせないんだよね。知っていることを、教えてくれないかな?」

 そう言って持参した焼酎の徳利を差し出しながら、ミアはじっと正面から見つめる。
 葛城左衛門は俯き、固く両拳を握りしめながら肩を震わせていた。
 そんな彼に対して、凌駕がポツリと零す。

「名は体を表すって言うよな? 俺の名前な、じーさんがつけてくれたんだ」

 『名』とはその物や人の性質や、実体をよく表すという。
 名前には、其の子に対して『そう在って欲しい』という願いが込められているのだ。

「俺は『常識をはみ出すでっかい男になれ』だったんだが‥‥あの姉妹は、どうなんだ?」

 暫しの静寂。

 俯き肩を震わせる葛城左衛門の両拳に、ポツポツっと雫が滴る。
 ゆっくりと顔を上げた彼の両眼は真っ赤に充血し、滂沱の涙が深い皺を伝い落ちる。
 彼は、じっとブナの方を見やった。「んっ?」と、彼女が小首を傾げる中――‥‥。

「あの子達の‥‥孫達の名は、娘がつけたもの‥‥」

 独楽とは、伝統の玩具。
 狗とは、愛玩動物。
 何方も人に愛されるものであり、一般的に広く受け入れられているもの。

 そして二人揃って狛犬。阿吽となりて、生まれた時から死するその時まで。
 誰からも好かれ、守り救えるように育って欲しいという願いを込めて付けられた名。

「出来れば、ブナちゃんのような娘に育って欲しかった‥‥!」

 まるで血を吐くように叫んだ後、葛城左衛門はポツリ、ポツリと語り出す。
 新免姉妹の過去を――‥‥。


 葛城左衛門は、筑前国の某所の村にて古くから続く接骨医の家系だった。
 一人娘である『佳代』も、見た目麗しい女医として村の人気者だった。

 ――あの男が、村に現れるまでは。

 名が示す通りの無頼者に、佳代は無理やり手篭めにされた。
 男は無法の限りを尽くした後、役人に追われるように姿を晦ました。
 一時の悪夢が終わり、村の人々はそれを一刻も速く忘れようとした。

 だが、現実は非情。
 佳代が男の子供を孕んでいることが発覚したのである。
 それでも彼女は、微笑みながらこう語ったらしい。

「子供は天からの授かりもの。この子は、私が立派な医者にしてみせます」

 そんな彼女を嘲笑うかのように、生まれたのは双子の姉妹。
 先に生まれた独楽を養子に出すよう勧めても、佳代は首を縦には振らなかったらしい。

「この娘達は、私の可愛い娘です。2人共、私が立派に育てます‥‥!!」

 何処までも慈悲深く、博愛精神に満ちた女性だったのだろう。
 だが村の者達の反応は冷たく、瞬く間に村八分にされた。
 それでも佳代はただただ、必死に双子を守り続けた。
 この娘達は悪くない。世の中に反する自分が悪いのだから、と。

 連日連夜、心身共に虐げられ続けた佳代は、やがて身体を病み‥‥。
 姉妹が物心を付く前に、この世を去ることになってしまった。
 幼い我が子達を残して逝くことだけを悔いながら、葛城左衛門達に後を託して。

「だが私は‥‥耐えられなかった‥‥あの子程、強くはなかったのだ」

 こめかめに残る傷痕‥‥村人にぶつけられた石の感触を思い出し、彼は顔を歪ませる。
 佳代亡き後も、執拗に村人から虐げられ続けた末に――葛城左衛門は、姉妹を見捨てた。
 泣き縋るまだ年端もいかない彼女らを置いて、ただ一人、江戸まで流れてきたのだ。

「‥‥佳代さん、ですか。とても真似出来そうにありませんね」

 弄ばれて出来た望まれぬ子、それも双子を産み育てようとした。
 医者の家系であり、周囲よりも僅かながらも裕福だったが故に取れた選択。
 だが合理よりも情理をとったその決断と博愛精神に、同じ女として桜花は舌を巻いた。
 葛城左衛門の決断は非情なれど、間違いだとは言い切れない。
 その状況に追い込まれれば、誰でもしてもおかしくはない選択だ。

 ――此処で、新たな疑問が生じる。

「では、その後の彼女達は誰が‥‥?」
「‥‥一度だけ、あの娘らが来て語ってくれた‥‥あの男の、畜生以下の所業を‥‥!!」

 憤怒と憎悪の感情を露わに、葛城左衛門が叫ぶ。
 新免姉妹が、彼処まで歪んだ原因。それは――‥‥。


「うちらの話を聞いたお爺ちゃんの顔、面白かったね!」
「ええ、ええっ。ちょっと興奮する位、素敵な顔だったわ」

 薄暗がりの中で起き上がり、同じ顔をした姉妹が語り合う。
 汗の滲む肌を拭い、乱れた衣服を整えて。

「でも、あの頃は大変だったね! 父さんにも、兄さん達にも『遊ばれ』てたから」
「そうね、独楽姉。でも、もう大丈夫。狗達は『遊ぶ側』だから」

 祖父に捨てられた後、村に姿を現した父親と腹違いの兄達。
 その3人の手で、2人は徹底的に『玩具』にされたのだ。
 その最中に、戯れにと技を仕込まれた。
 祖父が残していった柔道整復術の秘伝書に、護身術の心得。
 独楽が前者を、狗が後者を叩き込まれた。

「仕返し出来て、嬉しかったよね!」
「そうね。今思い出しても‥‥はぁ‥‥っ♪」

 生まれ故郷の村は、最早、存在していない。
 他でもない彼女達の『練習台』として、時間をかけて使い潰された。
 自分達が虐げた者の手で滅ぼされる。正しく、因果応報とでも言うべきか。

「‥‥ともあれ、様子だけ見に来たけど長居は無用ね。帰るわよ、独楽姉」
「うん! それじゃあね、おにーさんっ♪ 江戸で農民の格好は目立つよぉ?」

 2人が起き上がった地面に倒れ伏すのは、ズタボロにされたミストの姿。
 口封じを警戒し、長屋周辺で付近を彷徨いていたのだが、変装した姿が悪かった。
 様子見だけしに来た姉妹に見つかり、ちょっと『悪戯』されてしまったらしい。
 運悪く念話も繋がっていないことから、姉達も気付くことができなかったのだ。
 激痛と体力の消耗で、彼は呻き声一つ上げることなく、その意識を手放した――‥‥。



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参加者

a.裏づけがないとなんともなー
吉弘龍重(ka00291)
Lv154 ♂ 17歳 武忍 来世 大衆
c.センセのお手伝いかのぅ?(情報ゲットは丸投げです
森住ブナ(ka00364)
Lv163 ♀ 15歳 神陰 来世 異彩
b.合理的ではあるんですよ。この時代の栄養状態じゃ双子は育つ前に死にますし
藤枝桜花(ka00569)
Lv227 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
c.じーさんの人柄を知りたいからこの人の手伝いしようかと考えてる。
莱堂凌駕(ka00613)
Lv253 ♂ 17歳 忍僧 来世 大衆
c.お約束の口封じが怖いので、念の為に周囲の警戒を(ぷひー)
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv200 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
b.来世人の双子を代表する僕たち参上☆ 敢えてド直球で聞きに行くぜー。
ミア・カイザー(ka00679)
Lv171 ♀ 24歳 陰忍 来世 異彩
c.あまり問い詰めても頑なになられるかもですし、少し遠回りしようかと。
庚閑(ka01503)
Lv130 ♀ 15歳 神陰 来世 麗人
a.情報収集は諜報員の基本ね。きっちり押さえるわよ。
クリスタル・カイザー(ka01634)
Lv260 ♀ 29歳 忍流 来世 大衆
a.微力ですが、周囲で聞き込み先生の評判や最近のご様子を調べるでござるかな
御前輔兵衛(ka01901)
Lv142 ♂ 23歳 僧水 大和 質素
 ずっと一緒だよ狗ちゃん。うちらは、この世でたった2人の家族だもんっ♪
新免独楽(kz00075)
♀ 18歳 大和