晩秋の刹那

担当 Toro
出発2017/11/05
タイプ イベント C(Lv無制限) 日常
結果 成功
MVP ミスト・カイザー(ka00645)
準MVP 藤枝 真沙花(ka01870)
水上 澄香(ka00399)





オープニング

◆夕景から日が落ちるまで
 秋空は変わりやすい、という。
 秋空は高いという。
 きんと冷えた晩秋の空気が、釣瓶のように早く沈む太陽が、澄み渡った空に彩りを添える。午(ひる)も過ぎた街は、人々の歩調も自然と早くなるというもので。
 そんな中、来世人・渡会 衣依は京都の街の中を足早に歩いていた。その姿は、『来世人』としての常の姿ではない。かつて、悪逆に手を染めた『死霊玩具師』とうそぶいた頃の姿であった。‥‥コートと帽子がないだけ、ともいうが。
 彼が向かう先がどこかは、多くの者には関係ないもの。つまらぬ顛末があるだけの場所。

登場キャラ

リプレイ

◆合縁奇縁
 ミスト・カイザーがその日、藤枝 藤花を連れて京都に足を向けたのは普段の自分とは違う一面、本来の『自分』を彼女に見てもらいたかったという気持ちがあるのだろう。
 冗談を交えてでしか語れぬ話し方も、彼なりに場を紛らわせる道化としての一側面のために装っている‥‥と、彼は認識していた。果たして、周囲が正しくそう理解しているかは別問題なのであるが。
「待たせちゃったかしら」
「いいや、全く。大丈夫でござるよ」
 藤花の言葉に、ミストは首を振って応じる。互いに、一挙一動で緊張したりする間柄でもないのだろう。二人の間の空気は和やかで、どこかほのぼのとしたものさえ感じさせた。
 では、とミストが手を差し出すと、藤花は喜んでその手を掴み、歩き出す。傍から見ても似合いの2人には、年齢差など瑣末な話である。
「杏花、子孫とは言え、人の逢引を覗くのは趣味が良いとは‥‥」
「問題ありません、わたし達の将来とご先祖様の婚活にかかわる重大事なのです」
 一方、藤枝 真沙花は困惑していた。
 子孫と名乗る藤枝 杏花が、同じく子孫である藤花の恋路を見守ろうではないかと持ちかけてきたのだ。無論、これはいまだ独身である真沙花に恋愛のなんたるやを教えるため、付き合いの作法を理解させるためであり、杏花なりの戦略のひとつである‥‥と、本人は主張している。
 どこまでマジなのかはさておき、来世人同士のデートを見守る真沙花の視線は、主に子孫の側へと強く注がれている。男性をどうすればうまく魅了できるのか‥‥推し頃の彼女がそれを考えるのも、当然といえば当然だった。
 背後の二人はしかし、隠密技術があるわけでも忍者としての属性を有す者でもない。唯一さとられないように立ち回れるのは機巧ぐらいのものだが、それにも限度がある。
 ‥‥そのうち尾行がミストにまかれるかバレるかするまでは、それなりに楽しめるのではないだろうか、彼女ら。

「ひよ。その着物、いいね」
「‥‥何か用か? 私は日が高いうちに用を済ませたいのだが」
 相葉 楡渡会 衣依の姿を視認できたのは、ひとえにその姿が見覚えのある‥‥狐面がないことを除いては、『釜衣』と名乗っていた頃の姿であることに由来する。
 大坂で、以前の彼の姿を見た。それだけで思うところがあったのだろう。声をかけた相手の顔が実に渋いことに、彼は気にしたふうもなく言葉を続ける。
「金彩かな? お陰で人混みでも、すぐわかるよ」
「‥‥因果なことを言うのだな、貴様は」
 楡の言葉に、衣依はその渋面をさらに歪ませた‥‥ような気がした。一瞬の変化は、なかなか察せられるものではない。しかしながら、苛立ちからか緊張からか、喉を締め、わずかに息遣いに変化が見られたことを楡は聞き逃さなかった。だからといって、何ができるとも思わないのだが‥‥。
「あの、衣依さん、楡さん。どちらへ‥‥?」
 そこに、さらに水上 澄香が現れたとなればいよいよもって衣依の眉間の皺は深くなる。狙ったように現れた相手に対し、しかし衣依は楡の時ほどに険しい表情を見せなかった。‥‥どこか不服なのは変わらなさそうだが。
「今から秋の京都とか見にいけない? むしろ行こう? 今の季節なら紅葉とか綺麗っしょ?」
「いや、待て。用があると」
 肩に手をおいた楡が、なかば強引に彼を引っ張ろうとし。
「‥‥お師様への報告、ですか?」
 澄香の言葉に硬直した彼は、自らを律するように深く息を吐くと無言で2人の手を振り払い、ずんずんと歩き出す。怒っている。間違いなく気分を害している。
 だが彼は、どこか不満げな楡と、何かを察したような澄香に顔だけ向け、ぶっきらぼうに告げる。
「今から行く場所は方位が兇(わる)い。先に方違(かたたがえ)神社に向かう‥‥観光なのだろう? ついてくるなら好きにしろ」
 そのまま真っ直ぐ向かう彼に、2人は顔を見合わせてから、少しだけ笑った。

◆運否天賦
「ミストさん、はい、あーん」
「かたじけのうござる、藤花殿‥‥うむ、美味でござるな」
 ミストと藤花の『逢引』は、非常に清い‥‥陰で見ている杏花からすればなんとも平穏な、いいようによっては「味気ない」ものであった。
 秋の深まりを肌で感じ、近隣の店やらをひやかし、歩幅と歩調を可能な限り緩やかに、時間の流れを楽しむ。1分1秒を争う戦いの中にあって、できるだけゆっくりと時間を楽しめる機会は大事にすべきものだ。激闘に激闘を重ねて、来世人の戦いが激化してからすでに季節は3巡しようとしている。
 姉とともに冒険家として生きてきた彼に、もはや『遠い所』はないのかもしれない。時代すらも超えてしまった今、行くべき場所はどこなのか。
 判然としない未来にあって、しかし彼には『戻るべき場所』だけは明白であった。
 藤花はといえば、すでに多くの家族‥‥娘達とともにある。さらには『先祖』まで現れたとなれば、寛永にあって背負うものが随分と増えたもので。
 娘達もしたたかだが、やはり母としての責任は重い。1人で背負うにはあまりに厳しい重みも、かたわらで支えてくれる人がいるからこそ、立っていられる。歩き続けることができる。
 互いを支えてくれる相手に巡り会えたことは、両者にとってどれだけ重要だったか、などと‥‥傍目から見ても語るまでもない事実だったのかもしれない。

「うーん、いい雰囲気なのにどこか目に悪い光景なのです‥‥清いというか‥‥」
「そ、そうか? あの『あーん』は、その。来世人というのは相手が腕に怪我をしてなくてもするものなのか?」
 杏花はその清い交際にずいぶんと思う所があるようだが、真沙花にとっては随分と、刺激の強い光景だったらしい。寛永の恋愛事情というのがどうなのかは脇において、彼女自身の人生経験上ではそうそう見ない光景だったようだ。よしんば見たとて、彼女の言葉通り病床に伏した相手に対して、が一般的だろう。他人との関わりというのは様々な経験の追体験と似ている。自分とまったく違う身の上であればなおさら。
 そうかんがえれば、来世人ギルドに身を置く大和人の得る知識、経験、他者との相互理解の齟齬からくる驚きたるや来世人が考えている以上であることは間違いなく。
「な、なあ杏花。来世人はあんな‥‥歩く時にあんな手のつなぎ方を?」
「ああ、あれは『恋人つなぎ』ですねえ。ミストさんもお母さんも、真っ昼間に素面で堂々といちゃつけるなんて喜ばしいのです☆」
 来世人の‥‥というか『現代』の恋人同士であれば一度は行う指を絡めた手のつなぎ方にいたっては、すでに真沙花は卒倒しそうな勢いで顔をそらした。直後、穴が空くほど食い入るようにガン見しているので、今後の役に立ちそうではある。‥‥あるのだが、本来のペースで恋愛をして、婚姻に至ってという彼女のロードマップがえらい崩れているような気がするが、随分と歴史が変わった今となっては、些事というものか。

 澄香は、方違神社へ参拝する衣依の姿に、不思議なものを感じていた。
 古式ゆかしいプロトコルに沿った完璧な参拝作法。足取り一つに至るまで、宮司を親に持つ彼女が感心してしまう程度には礼節に満ちていた。
「ひよってさ、言うことは乱暴なのにやることは割と丁寧だよね」
 その様子を見ていた楡は、あきれたように彼の所作をそう評した。そうなのかもしれない、と澄香は思う。おおむね多方面に対して拒絶的な態度を示すが、その実、おいすがる者を蹴落としたことは少ない‥‥はずだ。
「で、ひよ。行き先ってここから遠いの?」
「そうでもない。‥‥なんだ、紅葉狩りがしたいとでもいうのか」
 楡は、自分から質問しておきながら、衣依の返答にすこしばかり頭を捻って考える。ややあって首を縦に振った彼は、澄香をちらりと見てから改めて、告げる。
「俺達は、たまには世の中の綺麗なとこも見ておいた方がいいと思うんだ」
 その言葉に、衣依はいささか不服そうな表情を浮かべはしたが。それでも強く否定することはなく、その提案に首肯を返す。
 彼の表情、態度、その一つ一つから類推される行き先と言えばひとつ‥‥師の墓でなければ、おそらくは彼の罪を精算するための場所なのだろう。澄香は数歩遅れて2人について歩きながら、衣依の表情を理解しようとした。だが、声色や表情よりも深い所に隠された真意ばかりは、彼女にも計り知れなかった。

◆愛別離苦
 散策に訪れたミストと藤花は、急速に沈みつつある太陽に視線を向けた。日常が終わる。来世人達には、永い平穏と言うものは基本、訪れることのない概念だ。
 この一日が終わればまた激しい戦いに‥‥ともすれば九尾ノ狐・リンリンとの決戦もひかえているのだ。幾度となく命の危険に晒された彼らとて、恐れを持たぬわけではない。だからこそ、一日の終りを惜しむのだ。
「藤花殿、拙者は貴殿を思う気持ちは誰にも負けぬ。ゆえに、拙者は藤花殿を、貴殿の子らの力になりたい」
 ミストは、人気がない場所で静かに片膝をつくと、腰に佩いた大太刀を捧げ持つようにして藤花と向き合った。彼女から与えられたそれに込められた願いを、おそらく彼は真に理解している。
 ゆえに、彼は与えられた力でもって藤花を守りたいと思うのだ。彼女に釣り合う男かどうか、自問自答し続けても良い答えはでないだろう。‥‥悩み続けてこその人生である。あるいは一生、答えは出ないのかもしれない。
「貴方の背中は私が守るわ」
 藤花は、そっとミストの肩に触れ、それから左手薬指にはめられた指輪に触れる。愛する者同士が身につけることを許された指輪。彼女が贈ったものだ。ミストがどれほど自分を想っているかがよく分かる。自分もまた、彼を大切に想っている。背中を預けるに相応しい恋人として。
「愛しているわよ、ミスト君。これからもずっとね。私の忍者さん♪」
 互いに頬を染めはすれど、夕陽のまばゆさの前には色合いも不確かで。
 物陰で固唾を呑んで見守っていた真沙花はそのあまりの甘酸っぱさに頭から煙を吹いて倒れ。杏花は慌てて彼女を引きずると、とりあえず大坂ギルドまで連れて行くことにした。
 ‥‥果たしてどの程度参考になったものやら。

「‥‥ここ火事かなんか、あったの?」
「ああ。呼怨霊符道術の力で焼き討ちした」
 そして、楡達3名は焼失したと思われる代官屋敷の前に来ていた。近場に花街があったことで、2人も薄々気付いていたようだが‥‥彼が『釜衣』の名でもって襲撃した場所のひとつであった。
 無残に焼け落ちた後が修繕されようとした気配すらないのは、かの代官が死んだ後に諸々の資料からその悪事が広まったがためである。なお、彼が抱え込んでいた女性達はその一部が消息不明だというが‥‥。
「あの頃の私についてはお前達のほうが詳しいだろう。娘の幾人か、など。かかずらっている暇など、私にはなかったこともな」
「分かっています。でも、見殺しにするような人では無かったと思います‥‥あの時も」
 自嘲気味の衣依の声を遮り、澄香は続ける。‥‥果たして彼は、何を思って『釜衣』となったのか、と。「さてな」、とそっけなく返した彼は、澄香から受け取ったブーケを門扉に備えると、沈みかかった夕陽に視線を向けた。
「こちらに来て、奪われ続けて八年。逃げ出して師を仰いで一年。彼と訣別して、外道に落ちるのにまた一年。外道を歩んで一度死ぬまで、半年。‥‥『当たり前』を望み続けた少女達は多くが死んだぞ。それを見て何をかせんと思って、道を外すことは『悪』か」
 問いかけてきた彼の目に、濁りや恨み、悪意はかけらほども見られなかった。純然たる疑問としての問い。彼はなにものかを助けたいがゆえに、なにものをも救えなかった道化なのだ。
「さあね。俺達が決めることじゃない」
 楡は肩をすくめると、代官屋敷の跡から踵を返す。そっけない態度に慌てた澄香が後を追うが、衣依はしばしそこから動くことはなかった。

「‥‥力が足りずに絶望したら、あの人のようなことになるんでしょうか」
「『1人なら』そうかもね。でも、俺達もひよも1人じゃないし、あいつももう、いつまでもままならないことに泣きわめく子供じゃないでしょ」
 夕闇が迫る中、楡はそういってくすりと笑ってみせた。



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参加者

b.よろしくお願いします。
水上澄香(ka00399)
Lv103 ♀ 17歳 陰傀 来世 異彩
b.こちらスネーク、ミッションを開始するのですw(真沙花さんと追跡開始)
藤枝杏花(ka00565)
Lv165 ♀ 15歳 傀僧 来世 異彩
c.では籐花殿、たまには二人の時間を過ごしましょうぞ。
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv280 ♂ 24歳 武忍 来世 婆娑羅
b.衣依についてって紅葉狩りでも誘ってみようかな? 墓参り出来たらいいなと
相葉楡(ka01176)
Lv104 ♂ 27歳 武傀 来世 異彩
c.…わかったわ(ぽっ)>ミスト君
藤枝藤花(ka01346)
Lv208 ♀ 40歳 武僧 来世 傾奇
b.あー、杏花。人の恋路を覗くのは…ほうほう、逢引とはこうするのか。
藤枝真沙花(ka01870)
Lv146 ♀ 17歳 武火 大和 大衆
 面白いことなど、ないぞ。
渡会衣依(kz00040)
♂ 19歳 陰僧 来世人