【開発】法橋末画巻

担当 Toro
出発2017/11/24
タイプ ショート C(Lv無制限) 日常
結果 大成功
MVP 相葉楡(ka01176)
準MVP ミア・カイザー(ka00679)
藤枝 桜花(ka00569)





オープニング


 装飾絵師・俵屋宗達。絵師として名を轟かせた彼は、同時に町絵師として異例の法橋上人位(ほっきょうしょうにんい)を持っていたとされている。
 そして、寛永における彼は熱心という程ではないにせよ、仏僧の位を持つ身として仏の道に明るく、また、相応に仏門につながりを持つ人物でもあった。

 日蓮宗本山・頂妙寺。来世とは異なる地に所在を構えるその寺に来世人ギルドの面々を呼びつけたのは、彼とこの寺の住職、珖摂(こうせつ)との連名である。
「セツの奴から話は聞いてる。お前さんがたがなにか、新しい道具やら何やらを必要としてるってのはな」

登場キャラ

リプレイ


「絵を描けば体に障るだろうに、それでも描いてくれるってことは。それだけ気迫溢れるものを、ということなのかな」
 相葉 楡の問いかけに、宗達の表情は好々爺めいた表情を崩さない。かたわらの珖摂が、代わりに言葉を紡ぐ。
「然り。拙僧の法力は魂ある図画や書でなくば効果が薄い、または何も及ぼさぬことが殆どであるゆえに、宗達殿を介して来世人殿の力になれれば、と話した結果である」
「以前、似た様な問いを受けた事があるね」
 潤賀 清十郎はごくりと息を呑み、筆を執(と)って考える。敵とはなんぞや。生と死とはなんぞや。単純な問いだけに、来世に来た当初とは様変わりしていてもおかしくない問いである‥‥人、鬼、化身の三様の善悪の所在がゆらいだ今であれば、なおさら。
「そこまで言われたらなおさら、手は抜けないわね。待ってなさい、私も本気で絵に向き合うわ」
 藤枝 藤花は珖摂の言葉と宗達の態度に発奮したか、持ち込んだ絵画セットを広げると、自らの『言葉』を示すべく作業に取り掛かる。楡も、すでに己を表現すべく作業を進めている。両者が全力で絵に向き合うというのなら作業時間は決して短くはあるまい。当然、2人の老人は待つにやぶさかではない様子だが、来世人の側はそうはいかない。
「それでは僕が、言葉でお答えしましょう。あくまで精神論として、ですが」
 空木 椋はどう場をつなごうかと慌て始めた田原 雪津にかわって立ち上がり、2人と相対する。物腰柔らかな動作と中性的な表情からいかにも気弱そうに見える彼だが、とんでもない。この場にいる者達にひけをとらぬ芯の強さを備えているのだ。
「生きる事は頭と心で、考える事だと僕は思います。考えることをやめたなら、それは死んでいるのと変わらないのではないでしょうか」
 椋の言葉に、一同は深くうなずく。多くの相手に触れ、好意も敵意も多く味わい、それでも彼は固着した考えを持たなかった。常に敵味方の固定観念で相手を捉えず、理解しようと尽くしてきたであろう彼らしい回答とも言えようか。続く言葉も、然り。
「敵は、基本的にはいないと思っています。相手を敵だと思いたくない、が正解かもしれませんが‥‥」
「なるほど。君は相手に敵意ありきで接することはないわけか。しかし、相手はそうと限るまい?」
 椋の言葉に、宗達はにやりと笑みを浮かべながら問いかける。先程までとは一変、どこかいたずらめいた、底意地の悪そうな笑みだ。雪津がびくりと身を固くしたのは、その表情を知っているからか。
「ええ、それはそうでしょう。人にも化身達にも、それぞれ違うところがあるでしょう。こちらが避けようとしても衝突することはあるはずです」
 だからこそ、と椋は言葉を区切った。柔和な印象はそのままに、強い瞳で宗達に視線を合わせ。
「僕は例え意見が食い違う相手でも、どこかで折り合いをつけたいと願っています」
 必ずしもそうではないが、と気弱げに加えた彼に対して、しかし宗達はふっと表情を緩める。
「正直な方だ。なに、目指すことに代価は必要ない。いかようにも手を尽くすことは無駄ではないでしょうや」
「まこと身につまされる話でありますれば、拙僧ら宗派を異にする仏僧には耳の痛い話で」
 宗達の言葉に、珖摂も気恥ずかしそうに禿頭を掻いた。必ずしも思い通りにはいくまいが、しかしその決意、意思は尊いものだ、と。
「それじゃあ、次は僕かな」
 ミア・カイザーは椋と入れ替わるように前に出て、悪戯っ子めいた雰囲気で2人に視線を向ける。掴みどころのない、というのが第一印象であろうか。
「来世では様々な危険領域を踏破してきたし、来世人の日々も含めて振り返ると、僕にとっての『生』とは、危険を克服する緊張感と達成感かな」
 自らの半生を指折り数えて思い出そうとするミアの姿に、宗達は思わず身を乗り出しそうになり、すんでのところで自制した。元・冒険者である彼女の言葉を深く理解しようとすれば、積もる話もあるだろう。だが、本質はそこではない。
「成程。では、死についてはどう感じられるか。緊張感を欠いた物事かな?」
「‥‥『食い殺される』のだけは受け入れがたいね。人の祖先が捕食される側だった本能もあるだろうけど」
 宗達とミアの問答が、わずかに食い違いが生まれた。『死とはなんぞや』、の問いかけに、『否定したい死のありよう』を選んだのだから当然だ。くわえて、寛永の人間には『人間の祖先』、進化論の本質は分かり得ない。
 であれば、この問答は無意味だったか? ミアは、的外れな答えをしたか? まさか、である。その答えには続きがあり。宗達は、『祖先』を『かつての人食い鬼に捕食されてきた人々』と置き換えて聞いていたため、全く違和感なく受け入れていたのだ。最後まで聞いてから、分からなければ問えばよいと。
「だから僕は、鬼や邪悪な化身を『敵』と定めている」
「ふむ。受け入れ難いものを強要する相手は敵、と。当然の本能よな」
 きっぱりと主張を貫徹したミアに、宗達は感心したようにうなずき返す。彼女は、きちんと理由ありきで話せる相手であると。
 そんな彼らから離れた場所に陣取り、音もなく立ち上がる影があった。藤枝 桜花である。
 最上大業物の童子切安綱、その控えを佩いた状態で身構えた彼女は、静かに刀に手を添えた。何事か始まるのかと緊張する一同の前で、彼女は裂帛の気合のもとに刀を抜き放つ。
 滑らかな抜刀術から、流れるように演武に移行するその動きに舞のような優雅さはない。ひいき目にも無骨、まこと荒く削られた巌(いわお)のようなそれは、しかし観るものを引きつける。
 わずかずつなら荒っぽいだろうが、繰り返し振り下ろされ、薙ぎ払われ、切り上げ、突きを交え、あるいは刀を収め、拳を振るう姿は、型を磨き実戦をくりかえし磨き上げられた鍛錬のほどを思わせる。それらすべてが彼女の人生、彼女の『生』であることを否応なしに、宗達らは思い知るであろう。
 そして同時に、戦いを奪えば生きる道なしと叫ぶようなその演武は、彼女の『死』の概念をも否応なしに想起させる。‥‥果たして『敵』とは、彼女にとってなんなのか。
 珖摂のような戦いから遠い者には『斬るべき相手』として映り、しかし同時に、自らの技巧を磨き上げた宗達が見れば『自分自身と戦う姿』にも見える。さながら彼女の多彩な技倆(ぎりょう)が見せる万華鏡のごとく、人格と経験を映す鏡にも見えようか。
 刀を鞘に収め、正座した桜花の姿に宗達らが何らかの問いや感想を述べることはない。だが、彼女に向けられた理解の視線こそが、意思疎通が成ったことを示していた。


 清十郎は問答を続け、あるいは演武を見せる仲間を横目で眺めながら、かつての己を思い出す。
 敵とはなにか、を問われたときに述べた答えは基本的に変えるつもりはない。ないが、その道程がいかに厳しいか、は思い知らされてきた。
 戦うとなれば敵が要る。敵を求めて戦い、真実の所在に頭を悩ませたことも一度二度ではないだろう。懊悩する彼を気遣うように犬達が彼を見つめるが、彼は軽く笑みを返し、筆を置いて書を広げた。
「‥‥ほう」
 感銘の声を上げたのは、珖摂。取り立てて上等な出来ではないが、ただ『せいし』と仮名書きされただけの書を掲げた清十郎が、物怖じせず自分達に視線を合わせている、という事実。取りも直さず、それは自らの書に信念と自信を持ち合わせているということでもある。
「生き死にであり、静かに思う事であり、己を制する事であり‥‥物事を直視する事でもある、そう思うんや」
 清十郎の言葉に、『外敵』へ向けられた言葉がないことは宗達と珖摂、両者が感じ取っていた。だが、その理由は言わずもがなであろう。書にて伝え、自分達のために言葉を尽くし補足までした相手に深く問いただすのは無粋である、と両者は判断したのだ。
「君の書からは多くのことが感じ取れる。わずかな言葉に多くを託す我々の文化の妙を、君に思い知らされるとは思わなんだ」
 満足いったような宗達の表情に、清十郎は胸を撫で下ろす。

「それじゃあ次は俺だね」
 楡は、書き上げた絵を持って二人の前に歩いてくる。藤花は作業が佳境に入ったようだが、もう少しかかるだろう。
 彼が2人に見せた絵は、なんというか‥‥非常に物悲しさを感じさせるものであった。朝焼け、あるいは夕焼けを示す茜に彩られた町並みは、荒廃の極みにあるそれだ。光のコントラストいかんで朝夕いずれかは判別つけられよう、と考えるだろうがとんでもない。彼の画力は、それを悟らせぬ域にあったのだ。
 さらに、片隅に差す光の中に姿を見せる黒猫も絶妙なアクセントである。不幸の象徴ともとられるが、江戸時代以前では『福猫』といわれ吉兆だったそれ。
 見る者のありかたを反映する絵は、楡の回答であり問いかけとも思えよう。『俺の回答はこれだけど、どう見えるか』と。
 自らの答え、その解釈を相手に委ねるのはある意味、非常に挑戦的だ。だが、絵師としての本質でもある。あるいは、『どちらでもある』のだろう。相反するものの中に、相通ずるものがある、という意味で。
 宗達はその出来にうなり、珖摂は満足げに笑ってみせた。両者がどう見出したのかは、表情から推し量るのみであるが‥‥。
「出来たわ! さあ、見て頂戴!」
 そんな2人をよそに、藤花は全霊を傾けた絵を仕上げ、両者の前に堂々と立てかけた。
 ‥‥2人の反応は『絶句』、としかいえないもので。どう表現したものか迷っているのがありありと分かるほど、『表現しづらい表情』であったのだ。
 描かれたのは、混乱や騒乱、人々の叫喚が見えるようなありさまだった。かのピカソの『ゲルニカ』を想像すれば分かり易いのかもしれないが、それとも違う。犠牲となる人々の表情、襲う側の者達の粗暴さは現実離れした筆致からは想像がつかぬほどに写実的だ。一見ミスマッチに思えるものの、明らかに意識して写実性と超現実主義をかけ合わせたようなそれは、彼女の『襲う側』に対する強い敵意が潜むことを思わせる。
 問いかけ全てに応えることをあえてせず、『これが私だ』と言わんばかりの自信と自覚をもって表現されたそれに、ただただ2人は圧倒されるばかり。何事か語ろうとしても、半端なものになってしまうだろう、という懸念が全身から感じ取れた。
「‥‥まこと凄まじきものですな、宗達殿」
「いや、恥ずかしながら。来世人の方々の才を、浅学非才な我が身で測れるというおごりがあったようですな、わしには」
 珖摂の問いに、宗達は頬をかきながらそう応じた。それが褒め言葉なのかどうかは兎も角、全員の回答があってこそのものだというのは分かるだろう。
 2人は認めざるを得なかったのだ。彼らの言葉、その重みに答えねばならないというごくごく単純な道理に。

「あえて望むのが許されるのなら、己を保てんようになった時に心を支えてくれるような‥‥そんなものに、美しい花が描いてあればなおさら、僕は嬉しいのですが」
 清十郎の希望に、宗達は笑って頷く。草花木果の写実性にかけては、弟子の宗雪ともども、俵屋一門の得意分野であるからだ。効果まで可能かは、言明しなかったが。
「それじゃあ僕は、武器を封じて持ち歩ける巻物を☆」
 ミアはにこにことした表情でなかなかの無茶振りをする。だが、剣を佩き武器を構えて歩き回れぬことがある場合を思えば、案外悪くない提案なのかもしれない。
「私も似たようなものですが‥‥随伴の化身や動物を入れておける檻の絵などを」
 桜花はそう告げてから、「本当は法力をとどめ置ける術者の絵がいいのだが」と小さく付け加える。具体性のある絵の提案に、宗達もどこか嬉しそうである。
「拙僧の法力でどこまで実現できるかは保証しかねるが、中々得難い経験と意見だった。感謝申し上げる」
「まあ、描くだけならわしの仕事だ。男・俵屋宗達、一世一代の絵仕事といこうじゃねえか、なあセツ、宗雪も加賀で忙しいんだ、お前もしゃんとしろよ!」
 珖摂と宗達、両者ともに満足げで非常に何より、何よりなのだが‥‥最後に気がかりな言葉とともに無茶ぶりを受ける雪津までが、なんというかワンセットなのは致し方ないことなのだろうか。



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参加者

c.書も絵も出来ないので、ただ考えを述べるに留めます
空木椋(ka00358)
Lv252 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
z.書も絵も言葉も苦手です故。
藤枝桜花(ka00569)
Lv244 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
a.未熟やけれど、書けるだけ書いてみようと思うよ。
潤賀清十郎(ka00609)
Lv226 ♂ 27歳 神忍 来世 異彩
c.うーん。思いついた事をつらつらと。
ミア・カイザー(ka00679)
Lv218 ♀ 24歳 陰忍 来世 大衆
b.よろしくお願いします。
相葉楡(ka01176)
Lv154 ♂ 27歳 武傀 来世 異彩
b.画家としてその魂を絵に込めるわよ 趣味で掻いている超現実主義風で!(ぇ
藤枝藤花(ka01346)
Lv140 ♀ 40歳 武僧 来世 異彩
 ‥‥色々ありました、ものね。
田原雪津(kz00036)
♀ 22歳 神僧 来世人