粉雪の寛永からあなたへ

担当 九里原十三里
出発2017/11/30
タイプ ショート C(Lv無制限) 日常
結果 大成功
MVP ミスト・カイザー(ka00645)
準MVP 空木 椋(ka00358)
花屋敷 らみ(ka01654)





オープニング

 来世人ギルドの庭に小雪が舞い始めた。
 塗保 舞己は筆を止め、窓の外の白い空を見上げた。
 今日は特に冷える、と思い始めた矢先の雪である。
「けっこう降ってきたね。雪かきしなくちゃいけなくなるかな?」
 書類を整理していた仲間が言う。
 どうでしょうね、と舞己は答えた。

登場キャラ

リプレイ

◆雪の日本橋で
 降る雪が街の音を吸って、日本橋は静かに白くなっていく。
 グレース・マガミは半紙の上に文鎮を置き、筆にそっと墨を含ませた。
「親愛なる十蔵さんへ。あなたが天国に旅立たれてから、2年ちょっとが過ぎようとしています」
 柔らかく筆先が走り、墨の香りが部屋に漂う。
 火鉢の上の鉄瓶がかたかたと音を立て、湯気を上げている。
 グレースは心静かに手紙を綴った。
「あれから思いがけない事に巻き込まれ、お墓参りにも行けなくなりましたが、義娘やあなたのご先祖様と一緒に割と楽しく暮らしています」
「いつか天国にいるあなたに会えたら」
 そこまで書きかけて、グレースは筆を止めた。
 顔を上げると、小さな少女がにこにこと笑いながら部屋を覗き込んでいた。
 雪ん子である。
「あーっ、雪ん子さんここにいたんですかぁ? 見つけちゃいましたよぉ~!」
 廊下を走ってきた花屋敷 らみが背後から抱きつくと、雪ん子はきゃー、と笑い声を立てた。
 隠れんぼして遊んでいたようだ。
 らみはグレースの手元を覗き込み、「あれぇ?」と首を傾げた。
「どなたかにお手紙ですかぁ?」
「ええ。亡き夫への手紙を……ね。今日は静かだし、ちょっとそんな気分だったものだから」
「あ、じゃあお邪魔しないほうがいいですねぇ。お手紙ファイト、ですっ!」
 小声で小さく腕を振り、らみは障子を閉めて雪ん子を連れて行った。
 雪ん子はギルドの建物の中を見回し、物珍しそうにしていた。
 らみと雪ん子が手を繋いで歩いていくと、廊下に何だかそわそわしているミスト・カイザーがいた。
「お兄ちゃん、何してるの?」
 雪ん子が声をかけると、ミストは「あのその」と少し口ごもった。
 そして、たどたどしくこう言った。
「藤花殿を……その、待ってるでござるよ」
「とうかどの?」
「拙者は……先だっての天草四郎との一戦で死亡フラグを……それで、やはりその……生き残ってしまったからには、その……回収はせねばならぬと……」
「?? お姉ちゃん、しぼうふらぐってなに?」
 雪ん子は首を傾げてらみの顔を見た。
 すると部屋の戸が開き、藤枝 藤花が姿を表した。
「お待たせ、ミスト君。じゃあ、行きましょうか」
「あ、ああ……では、ちょっと……静かな部屋に……行くでござるよ」
 かちかちになっているミストと、それに対して「何かを察している」雰囲気の藤花。
 それを見たらみは「ははぁん」という顔でニヤリと笑った。
「雪ん子さん、お2人を応援しましょう! ふぁいと、ふぁいと、ですっ!」
「おーえん? おどるの? ふぁいと! ふぁいと!」
 チアダンスを始めたらみの足元で真似してぴょんぴょこ跳ねる雪ん子。
 ミストはカーっと顔を赤くし、藤花を連れて足早に奥へ入っていった。
「どうも。藤枝家繁栄の為、暗躍中のアンカちゃんです」
 廊下で踊っている2人の後ろからぬっ、と現れたのは藤枝 杏花であった。
 ミストと母の様子を察し、物陰から観察していたようだ。
「お母さんとミストさんの既成事実成立はどうやら確定的に明らかです。が……それよりも私たちのご先祖様の真沙花さんの婚活を成功させないと、藤枝家の命脈は成り立たなくなるのです」
「?? こんかつ?」
「というわけで、お2人もお庭の足湯に参加するのです」
 杏花は雪ん子をらみと自分の真ん中に挟み、3人で手を繋いでギルドの庭のほうに回った。

◆湯気の香り
 庭木が真綿のような雪を被り、少しずつ風景が変わってゆく。
 縁側の先では空木 椋塗保 舞己が大きなタライを並べ、湯を準備していた。
「椋さん、お水これくらいでいいですか?」
「もう少し深くしちゃいましょうか。今日は寒いですし、みんなで温まりましょう」
 椋はそう言いながら神代の指輪で水を湯に変えた。
 静かな庭に温かい湯気が漂う。
 藤枝 真沙花は足を湯に浸け、「あ゛ー」と気持ちよさそうな声を出した。
「温まるなー。お、来たか雪ん子。こっち来い。足湯するぞ」
「おゆ? おふろ?」
 雪ん子は真沙花に手招きされ、湯に足を漬けた。
 無邪気に雪ん子が「あったかい!」と喜ぶのを見て、椋が「良かったですね」と微笑んだ。
「じゃあ、早速始めましょうか。これからみんなで温石(おんじゃく)を入れる袋を作るんですよ」
 椋はソーイングセットを準備し、濡れ縁の上に置いた。
 足湯で温まりながら会話を楽しみつつ縫い物をする、という趣向なのだ。
「杏花がな、婚活をしろとせっつくんだ」
 真沙花は雪ん子を膝に乗せ、お湯に足を浸しながら小布を縫い始めた。
「とはいっても私は今まで武の道を進むばかりで、この歳まで浮ついた話も無かったからなぁ。好きな相手も心当たりが無いし……」
「それ、分かるかもですぅ。らみもまだ『ひとりだけ特別に好き』ってわからないんですよぉ」
 らみも裸足になり、足を湯に浸けた。
「そういうのってさみしいのかなぁ、って。でもぉ、らみってモテたことないし……舞己さん見てると頑張って欲しいな、って思うんですけどぉ」
「え? 私ですか?」
「そうですよぉ。舞己さんにはもっとお仕事だけじゃなくて、楽しむこととか幸せになることに頑張ってほしいですぅ☆」
「そうですねぇ……」
 舞己は「うーん」と考え込んだ。
 すると、杏花がその横に座り、ずい、と舞己の顔を覗き込んだ。
「舞己さん、もしや『何か』あるのでは?」
「え、いえ……むしろ何にもなくて困ってるくらいなんですが。杏花さんは好きな人はいないんですか?」
「アンカちゃんは清らかな永遠の15歳なので、初恋はまだなのです」
 同い年の杏花が堂々とそう言っているのだから、らみは焦ることはないのかもしれない。
 だが、2つ年上の真沙花は相変わらず悩んでいるようだ。
「まず私が子孫を残さないと、あそこにいる藤花さんとその娘たちに繋がらないしなぁ……なぁ、雪ん子。良い男の獲得方法って何か無いのか?」
 真沙花は奥の座敷にいる藤花の方を見ながら雪ん子の頭を撫でた。
 藤花はミストと向かい合って座り、つらつらと他愛もない話をしながら、彼が「言い出す」のをじっと待っている。
「雪……積もりそうでござるな」
「ええ、そうね。ミスト君お茶飲む?」
「……ああ。いただこう」
 雪ん子は真沙花の膝の上から2人の様子をじっと見ていた。
 そして、にっこりと笑うとこう言った。
「好きな人はね、いっぱい見ちゃうの」
 雪ん子の視線の先で、ミストと藤花が互いを見つめ合っている。
「見ない見ないってしてもね、見ちゃうの。だからね、もっと近くでずっと、いっぱい見られるように仲良くなるの。それがね、幸せなの」
 座敷の奥で、ついにミストが口を開いた。
 そして、思い切ったようにこう切り出した。
「藤花殿……聞いていただけるか」
「はい」
「今の拙者は未熟な若輩者、そして来世人としての使命も道半ばゆえ……大層なことは言えぬ」
 ミストは大きく深呼吸した。
「だが藤花殿……拙者は、拙者の心の全てを貴女に捧ぐ」
 ええ、と小さく頷き、藤花が優しい眼差しでミストを見つめた。
 そして――。
「拙者……俺の生涯を掛けて、貴女と貴女の家族を護り続けさせて欲しい」
 精一杯のプロポーズの言葉。
 はい、と藤花が頷いた。
 いつの間にやら外の足湯組が部屋の外から覗いており、「きゃー」という黄色い歓声が上がった。
「正直な話ね……良いのかな? 思わなくは無いわ。今はフリーといえ子持ちだし年の差も大きいし」
 藤花はそっとミストの手を取り、言った。
「でもミスト君なら、全てを受け止めてくれるって信頼できるの。ミスト君、貴方に全てを預け貴方の全てを受け入れるわ。そして、貴方の背中は私が守る。だから……共に行きましょう。共に、永遠に」
 ミストは大きく頷き、藤花の手を強く握りしめた。
 
◆海雪の彼方へ、ギルドの庭へ
 降りしきる雪の合間をウミネコが飛んでゆく。
 波頭が白く湧き立ち、大きなうねりとなって荒岩で弾ける。
 北風が甲高い音を立て、それが女の鳴き声のようにも聞こえる。
 黒い雲が逆巻いて、遠くの島影は灰色に霞んでいる。
(誰もいないな……)
 梧桐 茶倉は岸壁に立ち、海を見つめていた。
(みんな今頃……誰かのところにいるのかな)
 恋愛は分からない。
 誰かを好きになったり出来ることは凄いことだとは思う。
「彩葉!」
 茶倉は海に向かって妹の名前を叫んだ。
 面と向かっては照れくさくても、ここならば大声で言える。
 お土産のジャムで素っ裸にさせられた。
 恥ずかしいコスプレをさせられたりもした。
 だけど、やっぱり大切な妹だ。
「彩葉、大好きだ! これからもよろしくな!」
 誰もいない海。
 茶倉の本当の気持は、海だけが聞いている。
 ……はずだったの、だが。
「あーっ、おまえ!」
 こっそり遠くから茶倉を撮影していたかめらおが「やべっ!」という様子で逃げ出した。
 茶倉は顔を真赤にし、かめらおを追いかけた。
 とっ捕まえたかめらおを連れて茶倉がギルドに戻ると、仲間が縁側に集まり、足湯を楽しんでいた。
「お帰りなさい、茶倉さん。寒かったでしょう? 一緒に温まりませんか?」
 椋が手先や鼻を赤くしている茶倉を見てそう声をかけた。
 手元では温石の小袋が完成している。
「すっかり積もりましたね、雪。明日の朝には雪だるまが作れそうですね」
 椋は冷えた手先を温石で温めながら真っ白になった庭を眺めた。
 その隣に座る藤花とミストはすっかり舞い上がった雰囲気である。
「因みにミスト君が婿入りよねやっぱり……そうなるわよねぇ?」
「藤花殿、またその事はじっくり考えるでござるよ」
 幸せそうな2人の足元では雪ん子が「らぶらぶ♪ らぶらぶ♪」と言いながら嬉しそうに跳ね回っている。
 来世人の誰かに教わったようだ。
「ふふふ、舞己さんも幸せにならなきゃですねぇ」
 らみがそう言って舞己の頬をつついた。
「らみは舞己さんのこと、だいだい、だぁい好きですよぉ♪ あ、もちろんみなさんのことも♪ 皆さん幸せになって欲しいですぅ♪」
「ありがとうございます。私もらみさん大好きですよ! さて、せっかくですから小豆ともち米用意してお赤飯しましょうか。ミストさんと藤花さんのお祝いと、これから幸せになる人は『前祝い』ですよ~!」
 空が暗くなり、雪が激しくなってきた。
 来世人の者たちは雪ん子を連れて部屋の中に入った。
「そろそろ……本格的に冬ね」
 グレースは仲間の楽しそうな声を聞きながら小さく笑った。
 そして、亡き夫への手紙の最後にこう書き足した。
『追伸 次の恋を探してもいいかな? と思えるようになりました』
 静かに雪が降り積もる。
 全てを柔らかく、白く包み込んでいく。
「みんなしあわせになってね。またくるね」
 雪ん子は翌朝、そう言って何処かに帰っていった。
 きっとまた、いつか会いに来てくれるだろう。



 7
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参加者

z.良ければご一緒に足湯でもしながら、温石を入れる袋物を造りませんか?
空木椋(ka00358)
Lv190 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
a.ご先祖様の婚活の相談をしに来ましたが、舞己さんのコイバナも聞くのです。
藤枝杏花(ka00565)
Lv161 ♀ 15歳 傀僧 来世 異彩
a.と、藤花殿、とりあえず先日、立てたフラグの回収作業を…(ぷひー)
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv204 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
a.…はい、ミスト君(いつになくしおらしい
藤枝藤花(ka01346)
Lv178 ♀ 40歳 武僧 来世 大衆
b.亡き夫への手紙をしたためているわ。
グレース・マガミ(ka01643)
Lv128 ♀ 28歳 神傀 来世 麗人
z.舞己さんのこと、応援しちゃいまぁす!
花屋敷らみ(ka01654)
Lv169 ♀ 15歳 陰僧 来世 麗人
c.わ、私には恋愛とかそういうのはよく分かんねぇから、さ…
梧桐茶倉(ka01729)
Lv116 ♀ 19歳 神忍 来世 大衆
z.私も足湯に付き合わせてもらうか。 恋愛ねぇ…。
藤枝真沙花(ka01870)
Lv163 ♀ 17歳 武火 大和 異彩
 うーん……どうでしょうね、私は。恋をするべき……なのかなぁ。
塗保舞己(kz00043)
♀ 23歳 武忍 来世人