【SH15】迷い人Sの落着

担当 K次郎
出発2018/01/13
タイプ グランド S(Lv350以下) 冒険
結果 成功
MVP 水上澄香(ka00399)
MVS 九条鰤々之進(ka00875)





オープニング

◆そのときギルドに戦慄奔る
「天草四郎から連絡があったって!?」
 情報を聞きつけ江戸のギルドに駆け付けた来世人、そしてギルドに協力する大和人たち。
「ああ、テレパシー的なやつでこっちへ要求を突き付けてきた」
 と、答えるギルド職員。その要求内容とは?
「簡単にいうと『捕虜の無条件解放』だ」

登場キャラ

リプレイ

◆策略と宿命と
 三太を救いに向かった先、待ち受けたるは黒田官兵衛と化身軍団。
「この戦い、見届けねばならぬ」
 避難を促された三太だったが、こう言ってその場を動かない。
「三太さま、仕組みましたね?」
 それを聞いてカミラ・ナンゴウが囁いた言葉だ。
「いや、わしとて死にたくは無いが、お前さんらの戦う姿をこの目に焼き付けるのはわしの宿命(さだめ)じゃと思っておるよ」
 三太は一体全体、どんな宿命を抱えているというのだろうか。
「では、ここをささっと片付けて後でゆっくりと聞かせて頂くことにしましょう」
 カミラが法力を込めると、指輪から法力の盾が展開する。まずはここを切り抜けること、話はそれからなのだ。
「では、三太さん。せめてこちらにお乗り下さい」
「ほう、こりゃこりゃあ。乙姫様が竜宮から迎えにくてくれたかのう」
 乙姫、ではなく水上 澄香が手招きするのは4輪のついた牛車のような亀のような乗り物。そう、亀甲車なる変わり種の機巧である。この亀甲車、中に乗り込むことが出来るのだ。
 なお、この戦いに亀甲車は計三体投入されている。まさに決戦兵器。
「急いで下さい」
「来たっ!」
 澄香が早く、とせかす。なにせ、空から妖怪烏の編隊が近付いて来るのだ、カミラは油断なく盾を構える。
「素戔嗚息吹迎えノ舞っと!」
 予備動作の舞も無く、霧ヶ峰 えあ子が敵先鋒の編隊に吹雪を放ち損害を与える。何匹かの烏が叩き落された。
「今の内だよ☆」
「かたじけない」
 三太が亀甲車に乗り込もうとした瞬間、足下に何か気配を感じた‥‥。
「いるっ!」
 確かにいる。地下に何か。
 このまま敵が浮上してくるのか? 亀甲車の下からは結構マズイ。
 が、しかし。
「ふぅ、間一髪だね」
 そう言って汗を拭うリアクションを見せたのはマティルダ・モロアッチだった。
「一体何が?」
「ちょっと借りてきたぬりかべ型の機巧にガッチリガードしてもらっているからね」
 澄香の問いに、マティルダはどんなもんだい、とばかりに胸を張ってみせた。
 どうやら、三太が乗る亀甲車の地下はしばらくは守れそうであった。もちろん、敵を倒さねば押し切られてしまうだろうが。

 そう、地下からは巨大百足どもが襲ってくる。時折その姿を地上に晒し。
「地下からくるってことは将軍巨大百足かな」
 と越中 団次郎の予想通り、将軍巨大百足が地中から姿を現す。そして別の巨大な百足も。
「あれ? こいつは地中には潜れなかったはずじゃ?」
 黒巨大百足と呼ばれる化身のはず。水中戦が得意だったような‥‥?
「キキキッ」
 官兵衛の嘲笑が聞こえる。奴が何かした、ということか?
「嫌な笑い声なのだ。あんな奴にサンタさんはやらせないのだ」
 キッと官兵衛を睨む藤 あきほは奴に狙いを定める。
「僕が官兵衛に必殺の千絵代すぺしゃる(命名あきほ)をプレゼントしてやるのだ。そうしたら四郎や人を食べない鬼も信じてくれるかな?」
「何をだい?」
 あきほの呟きに傍らの池袋 春子が問い掛ける。
「僕もサンタで、誰もがサンタになれる、って」
「とんでもねえ、僕がサンタだよ」
 が、すでにすぐ近くにサンタがいた。
 悪戯玩具で変身した団次郎だ。
 サンタのイメージと、三太を守り、そして官兵衛に敗北を、仲間に勝利をプレゼント。それがサンタのお仕事なのだ。
 そんな来世人の思惑など関係なく敵は仕掛けてくる。
「なんだか、僕たちアイドルより目立ってない?」
「まぁ、ほらそこはこの後の活躍で挽回しましょうよ」
 サンタ姿の団次郎を指してぼやく田中 カナタ土方 萌がなだめるが‥‥。
「痛っ! ああん!? なにしやがんだ!」
 高速で突っ込んできた烏についばまれ、萌は怒りをあらわにする。
 っていうか、結構痛い。
「結構やられているのです。すぐ治すのです。その前に、砂を喰らいがやるのです!」
 和ゴス装束から砂を取り出し、烏に投げ付けると、藤枝 杏花は地蔵菩薩慈悲真言を唱えだした。
「痛そうだべな。もしかすっと、百足の剛力波が烏にも効いてるんだべか?」
 とは牧葉 真夏の予想である。それは確かに当たっていた。しかも、それが高速で飛行して襲ってくるのだ、厄介この上ない。
「関係ねぇ。軍師の策だろうが正面からぶち抜いてやるさ!」
 そう意気込む遠前 九郎は頼もしい。
「具体的にはどうする?」
 そんな九郎に背中合わせで剣を振るう海動 涼が問い掛けた。
「上から来るなら叩き落す! 下から来るなら踏み潰す!」
 特に策は無いが‥‥。
「そうだな。近付いてこないならそれでよし。魔法を使われたら何とかして抵抗してやるさ」
 そして、涼もそんな風に返し‥‥力こそパワー。より強い力でぶん殴ればええんや!
「と、とりあえず、援護はしますね」
 脳筋コンビと化した二人をフォローするように藤枝 梅花は神楽法のための舞を始めるのだった。
 とはいえ、何か策は必要なのだが、ここで採られるのが来世人の黄金パターンと化しつつある壺中天道術での飛行を封じての掃討である。
「!」
 そんな壺中天道術を使わんとするアステ・カイザーに迫る妖怪烏。何か魔法を使おうとする者を潰そうとしているようにも見える。
 だが、アステに近付いた烏はほとばしる雷撃に阻まれる。
「おー、よくやったんじゃあ」
 常磐 豊がねぎらったのは傍らに何体も連れた稲妻鬼火であった。そして弱った烏を豊がアサルトライフルで撃ち落とす。
 時間を稼げばいい。後は‥‥。
「アステちゃん、もう少し待って!」
 カーモネギー・セリザワが用意した亀甲車の上に飛び乗り、カナタが警告を発する。
「今のタイミングじゃあんまり巻き込めなそう」
 妖怪烏は空をいう無限に広がるフィールドを動き回り、壺中天道術の効果範囲は直径50mだ。なるべく多くの敵を巻き込みたいところ。
 それを受けてアステが陰陽法を中断し、もう一度仕切り直し。
「気を付けて、その辺に来ます!」
 不意に響く空木 椋の声。
 ゴゴゴ―――。
 地響きのようであり、何かの呼び声のようでもあり。
 地下から出てくる巨大百足。
「よっ、と!」
 出てきた百足に相葉 楡がハンマーを叩きつける。
 だが、鈍い音がして、ハンマーを持つ手が痺れた。
「かたっ!」
 かなり硬い体皮に覆われているようだ。
 面倒な敵である、長期戦になりそうな予感。
「壺中天道術!」
 アステが展開する特殊空間が周囲を包み込む。
 あんまり空の敵を巻き込めなかったが、数を減らすことが優先だ。

◆主張と思惑と
「わん!」
 犬の‥鳴き声?
『玉』
 そう、玉だ。宝石の如き光を放つ玉。
(一体、なんだというんじゃろ?)
 暦 紗月は脳裏に浮かんだヴィジョンに対して浮かぶ疑問に首をひねる。
 それは三尸占術によって与えられた白昼夢であることは理解できた。だが、その内容に関しては未来を示すものとしてあまりに抽象的過ぎて何ともいえない状況であった。
(犬となると思い当たるのは‥‥伊豆丸? それとも十房じゃろか?)
 今、ギルドや四郎関係で思い当たるのはその辺りだろうか。そして『玉』となると心当たりは浮かばない。斑鳩占術にて念話している仲間にもイメージは伝えたが、今の時点でそれを考察している余裕は無かった。
 何せ‥‥天草四郎がそこにいるのだから。

 四郎の抜刀術は超危険。それはある程度認識されていた。
 もちろん、認識しているのと防ぐことは別問題である。
「あっ!」
 そして、その刃の最初の犠牲者となったのはミネルバ・マガミであった。
 四郎に接近していたわけではない。だが、丹田放占術によって味方をサポートしようと前線付近にいた彼女を突如として何かが切り裂いたのだ。
 それは、水が刃となって閃くが如く。明らかに普通の刀の攻撃範囲では無い。刃が伸びたように見えた。彼女の動きに何かあると踏んで四郎は斬ったのだろう。
「のわー! 形代が全然効いてないぃぃ!」
 嘆いたのは森住 ブナ。あ、いや、マシュマロ団B。悔しがり地団太を踏む。彼女の生み出す除傷形代はかなりの効果を誇るものだ、だが、それが全く効果を現さないということは、四郎の一撃が恐るべき威力だということ。
 いや、それどころかミネルバは糸が切れたかのように動かない。
「待ってて、すぐ行く!」
 慌てて駆けつける八十神 不動。吉祥天の力で治癒を施すつもりだ。
 だがそこは四郎の間合いでもあるということ、下手をすると彼自身も危ない。
「一旦連れてけぇ!」
 叫びとともに四郎の真っ向に飛び込んだのはしなやかな動きから力強い踏み込みを見せた村正 一刀だった。俺が引き付けるから離脱しろ、と背中が語る。
「行くぞ、ミスト!」
「応よ!」
 一刀の動きに呼応しミスト・カイザーも四郎の右側から襲い掛かる。
「!」
 だが、四郎は二人の攻撃を難なく回避してみせた。
「あんたが何をしたいかは正直わからねぇ」
「そうか」
 一刀は身体を通して出る言葉を吐き出し、四郎はただ静かにそう応じる。
「だが、今は全力であんたに当たるだけだっ!!」
 気を緩めれば自分だけでなく、仲間も死ぬ。自分の後ろに、確かに茂呂亜亭 萌瑠の存在を感じ取り一刀は更に言葉を絞り出す。
「それでいい」
「!」
 四郎が飛ばすのは、無機的で無慈悲な刃。それは一刀の胸を深々と切り裂いた。
 更に追い打ちが‥いや。
 四郎は何かを避けるように縁側からギルドの建物内へと飛び込む。
「ちょっと、狙えないじゃない!」
「チッ、そっちへ行くのかいっ!」
 雫石 露花蓮美 イヴが同時に悪態を吐く。
 前者ギルドの隣の建物の上で、後者はギルドの庭にオフロードバイクで乗り込んでいた。両者とも得物は弓だ。
 しかし、四郎は射撃での攻撃があると判断したのか屋内へ移動したのである。これでは安易に狙えないし、屋内までバイクで乗り込むわけにもいくまい。
 ならば追いすがって接近戦を挑むまで。
「待ちなさい!」
 普段は弓を持つことが多いその手には、刃が煌いている。
 升田 千絵代は畳を蹴り、四郎に斬りかかる。
 一ノ太刀を乗せたその一撃は四郎の刀によって受け止められた。鍔迫り合いに力が篭る。
 そして、その力と共に千絵代の口から出てくるのは怒り。
「伊豆大島の晴ちゃん‥‥覚えているかしら?」
「‥‥」
 大島で鬼の襲撃を生き延びた赤子。その名だ。
「貴方が見つけて私たちが助けた子」
 眼鏡の奥で熱い瞳が四郎を射抜く。
「貴方が守全さんだったときの話よ! 実験とやらで犠牲になって‥‥親の愛も知らずに生きていくのよ!」
 それだけではない、あの島では様々な悲劇があった。その元凶ともいえる。いや、元凶と認識している四郎を、千絵代は許せなかった。
「‥‥」
 だが、四郎にそれに対し向けられる感傷など無い。いや、そういうことが出来ないのだろう、というのは先の四郎との会談で何となくは感じられた。
 ただ、一つだけ明確なモノが返ってくる。
「っく!」
 それは刃。飛び散る血が、千絵代の肌を朱に染める。
 血が飛び散る最中、別の刃が四郎に伸びる。
「話し合いくらいしてもいいのではっ!」
 そういいながら薙ぐは刃。
 柱を蹴って跳躍した藤枝 桜花の攻撃は四郎を捉える。
 当たった。だが、手ごたえは薄い。それに、鬼の身体だすぐにその傷は塞がるだろう。
「話しならば、先日しただろう」
 四郎はそう冷たく応える。
(せめて鬼の捕虜を連れてきてこの場で話し合いをしたいとろですけどね)
 本気で刀を振るいつつも桜花はそう考えていた。誰か、そう、妹の誰か辺りに行かせて捕虜を引っ張ってこれないか、と考えたものだが。
「あの子たち、こっちにはいないわよ」
 とは母、藤枝 藤花の弁。そういう彼女は娘の横で拳を振るう。
 捕虜の説得とかそういう類の話は妹たちの方が得意なのだが仕方ない。結局武闘派は武闘派らしくぶつかってみるのが運命なのかもしれなかった。
「‥‥」
 反撃で放たれた四郎の無情の剣は桜花の分身を薙ぎ、空を切った。
「問答無用、といったところですか。せめて、今後の展望など話していただけると嬉しいのですが」
 要望と刃、その両方を放つ桜花だが、あっさりと四郎にかわされる。
「つれない方ですね」
「話を、とのたまう割に刃は鋭いのだな」
「ええ、これで死んだのならそこまでの男ということです」
 桜花と四郎の視線がぶつかる。
 その瞬間、桜花が真横へ飛び退いた。
「でりゃあああ!」
 桜花がいた場所に突っ込んで来る気迫。それは、そのまま四郎へと向かう。
「!」
 桜花に気を取られてか僅かに反応が遅れる四郎。そこを鈴城 透哉の大太刀が切り裂いた。
「おおおっ!」
 更に間髪入れず透哉は鍔迫り合いを挑むように身体を押し込んでいく。
「あんたが知らねぇ情ってヤツが、力になることを教えてやるぜ!」
「好きにしろ」
 先の会談で「情など無い」と言い放った四郎に対し、だったら「情」の力を見せてやろうと意気込む透哉が選んだ戦法は‥‥とにかく真正面からぶつかること。
「いっけぇー!」
 そこへ同じように真っ向勝負を掛ける一刀の太刀が振り下ろされる。
「‥‥!」
 鬼らしい膂力で透哉を弾き飛ばすと、一刀の一撃を間一髪で回避する四郎。
「情の力とやらはその程度か?」
 それは挑発か、それとも純粋な疑問か。かの鬼の表情からそれを読み取ることはできない。
 だが、確かに、彼は何かを求めている‥‥そう感じずにはいられなかった。
「‥‥挑発に乗って不用意に飛び込まないで下さい。時折、とんでもない力で相手を切り伏せるくらい出来るみたいですから‥‥」
 萌瑠が受けたのはそんな天啓。打刀が四郎の力についてヒントを伝えて来たのだ。最初にミネルバを一撃で切り伏せたのはそういうことなのだろう。
 彼の意図はわからない。そして‥‥恐ろしく、強い!

◆鬼さんはこちら
(ううん、あの辺りだろうか)
 そんなギルド内での大立ち回りからほんの少し離れた場所。というか、大立ち回りの真下。そこに小冷 煌尚はいた。そう、土遁ノ術で地中に潜っているのだ。なんでそんなことをしているのかというと地中に小反閇道術で結界を張り、四郎に嫌がらせをする為である。式神の警戒による視界があるとはいえ、屋内であるため、上も見えないし自分のポジションを把握するのに限界がある。なので、嫌がらせのためにいくつか小さな結界を作るのだが、そんな折‥‥。
(ここは?)
 煌尚は土壁を抜け、何やら空間に入り込んだ。
「鎮まられよ!」
 御前 輔兵衛の声が響く。
 ここはギルド地下。人を喰わない鬼たちを捕虜として隔離しているスペースである。
「一体、何が起きているんです?」
「四郎様がいらしてるのかい?」
 ざわめく鬼たち。
 どうやら鬼たちは四郎の動きを知らなかったような反応だ。だが、現状を知ればどう動くか予想がつかない。
「とにかく落ち着いてくだされ。まずはそれからでござろう」
 輔兵衛は両手を広げて鬼たちをなだめるようなリアクションを見せるが、ざわめきは納まるどころか伝播していく。
 まずい。軽挙妄動。迂闊な動きは大きな事態に発展しかねないのだ。
「まずはこれを見てくれ。こいつをどう思う?」
 そういって九条 鰤々之進は筒状のそれを、紐を解くとバッと開きその全てを曝け出す。
「すごく‥‥艶やかです」
 子鬼がそう答える。
 そこに描かれたるは艶やかな花の絵。作者は今をときめく神絵師、俵屋宗達。
「ほほー」
「いやいや」
 それを見た鬼たちの間からのどかな声が上がる。
 この絵には心を穏やかにするような法力が込められているのだ。
 もうひと押し。とばかりに今度は琵琶の音が響く。
「お聞き下さい。『友達賛歌』」
 そして始まるリサイタル。
 いや、ちょっと待て。
「まず、上で何が起きてるか説明します。あと、この間の私たちと天草四郎の会談についても」
 鰤々之進の曲をBGMに大門 豊が語り始める。流れ的に聞いて貰えそうな雰囲気にはなってきた。
「よかろう。話を聞こうかのう」
 そう応じたのは鬼たちの長老格である鴉翁だ。四郎とは伝心にて連絡を取っていたらしい彼だが、今回のことは彼も知らないような様子である。
「さんきゅ~♪ ふれんど~♪」
 曲に乗せ鰤々之進が礼を述べた。
「さて、四郎ですが、最初は伝心であなたたちの解放を要求してきましたが、まずは交渉をとこちらが求めたところ連絡を絶ち、今、上に来ています」
「して、この騒ぎは?」
「予想はついていると思いますが、戦っています」
 豊の答えに鬼たちがまたざわめく。だが、それは鴉翁が手で制す。
「会談では、四郎は貴方達の事を今しばらく私達に預けると言っていました。特に期間の定めは無く、こちらから訊いても回答はありませんでした」
 簡潔に会談の内容を伝える豊。
「結果としては、会談は決裂しました。‥‥四郎はそもそも私たちと協力する気はないようです。‥‥利用する気はあるのかも知れませんが」
 そして次に伝えたのは‥‥あくまで彼女の認識だ。
「四郎は、自分は情ではなく理で動く、と言ったそうだ。だとしたら、貴方たちと一緒にいるのも、今ここに来たのも、そういうことだと思う」
 豊の言葉に付け加えるようにマルグリット・ニッタが続けた。
「それはどういう?」
「四郎様は我々のことは‥‥」
 また、鬼たちが騒がしくなる。
「『私と豊は』、四郎に貴方たちは任せられない、そう思っている。会談でも自分の目的と研究がどうのと語っただけ、他のことなど面倒臭そうに語っていただけだと。貴方たちの生死や将来は、残念ながらやつの一番の目的ではない」
 更にマルグリットは続ける。やや過激な言葉を織り交ぜながら。
「なんだと! 勝手なことをいうな!」
「一体、何が言いたいんだ!?」
 鬼たちの中から激しい口調も出てくる。
「いや、ちょっとお互い待って欲しいわ」
 そこへまぁまぁ、と割って入ったのはクリスタル・カイザーであった。
 鬼と来世人のやり取りが何か変な方向へいこうとしているのを感じたからだ。
「セイセイセイだ」
 そこに合わせて、鰤々之進も再び絵巻物を掲げる。
「彼女らもあくまで『自分たちの意見』を述べているだけなの。来世人の認識や総意がそういうことではないわよ」
 クリスタルの言葉に、豊とマルグリットも頷く。あくまで個人的な意見をぶつけていたに過ぎないし、その内容に明確な意図を感じられず鬼が苛立っただけなのだ。
「今、上とも遠話してみたのだけど、四郎は目的も特に語っていないそうよ」
 更に斑鳩占術で上から得た情報を伝える。
「最初は返せと言ってきて、こちらが話し合おうと言えば連絡を絶ち、直後にこれだ。正直、信用以前にわけがわからない。俺は、上にいる四郎は偽物じゃないかとすら思っている。だから少なくとも上に行って四郎と合流、なんて考えだけは待って欲しい」
 結局のところ、騒ぎを大きくしたくないのが来世人側の望みである。田中 真司は鬼たちにしばらく様子を見た方がいいと言いたいのだ。
「偽物か、はともかく、あまり四郎殿は信用されてはおらぬようだな」
 そう言った鴉翁はどうしたものか、と考えている様子。
「お姉ちゃんたちは四郎様が嫌いなの?」
 見知った子鬼がマルグリットに声を掛ける。
「‥‥の前遊んだ時に言っただろう? お姉ちゃんは警察だ。悪いやつを見分ける目には自信がある。信じてくれないか。ここにいてくれれば毎日でも遊びに来るし、どんな悪人からでも守ってやるぞ?」
 マルグリットは以前投げた言葉を再び紡ぐ。
「そんなことをいって、俺たちを殺そうとするんじゃないのか!」
「ああ、なんで四郎様を排除しようというんだ。何か企んでるのか!」
 だが、鬼の中にも特に疑心暗鬼のままの者から声が飛ぶ。
「‥‥新免姉妹の話ですか。今更ですが、あれは完全にこちらの手落ちです。今更、私如きが謝っても済む問題ではないでしょうが、改めて謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
 そう頭を下げたのは豊だ。
「ただ、四郎はその件に関しても何も追及はしませんでした。もし知っているなら何も言わずに許せるわけがない。あるいは‥‥どうでもいいと思っているかです」
 頭を上げた豊は更にそう続ける。
 そんな豊に、なんだこいつは? 的な視線が鬼たちから向けられる。
「待って待って、一方的に意見をぶつけるだけなのはよくないわ」
 不穏な空気を感じ、クリスタルが冷や汗もので割り込む。
「結局、お主たちは、われらに何をさせたいのだ?」
 鴉翁の言葉が鬼たちの意見を代弁していた。来世人は何が言いたいかよくわからないのだ。わざと煽っているようにも、時間を稼いでいるようにも、それどころか騙そうとしているようにも見えてしまっている。
「何をさせたいか、ってなると‥‥とにかく、俺としては上の四郎のところに行こうなんて気を起こさないでもらえればありがたい。それだけなんだ。どうしても行く、というなら上は戦場だ、子供はここに置いていけ。大人が俺たちと見て来て安全だと判断すれば子供も連れていけばいい」
 真司は具体的な要求と、案を突き付けるが。
「子供は人質ってことか!」
「いや、そうじゃなく!」
 だが、そんな話では鬼たちも納得はしない。
「やはり、こいつらは信用できん!」
「ああ、俺たちも四郎様のところへ!」
 空気が、歪む。
「都合のいい、虫のいい話であるのは重々承知。だが、流さぬで済む血を流すこともなかろう。四郎を信じるならば、心静かに待ってもらえぬか」
 輔兵衛は土下座までして押しとどめようとするが、このままではいつ爆発してもおかしくない。
 そんな折、鰤々之進が弾き続けていた琵琶の曲調が変わる。
「聞いて下さい!」
 そして、大音声。その大きさに皆の視線はそちらへと集中する。
 視線の先にはマスクの少女、陣内 秋葉
「鬼の皆さん、プロレスをやりましょう!」
 次いで紡がれた言葉は‥‥プロレスしようぜ?
「もう、四郎さんにゼンブ頼ってるだけじゃダメです! 一人じゃ知恵も出ないです。だから、どうするかみんなが本気で考えませんか? ‥‥いつまでも鬼からも人からも隠れ続けますか?」
 声を張る秋葉。四郎を否定するものではなく、かといって来世人の都合を押し付けるわけでもない。だが、その先へ行くには、どうする?
「別の道を探しましょう! プロレスもそのひとつです。人の前に出て、表現して、わかってもらいましょう!」
「え、あ、えーと。陣内さんはそう言っているけど。ぷろれす? 以外にも人と仲良くなる道はあります。なんでも良いんです」
 花鶏 鶸が秋葉のいいたいことをフォローする。プロレスしよう、というのは極端な意見なのだが、まぁ、なんか、その場は一気に毒気を抜かれてしまう。
 しばしの沈黙。流れるは鰤々之進の琵琶の音とよくわからん歌。
 そして。
「四郎殿の考えがわからぬ以上、急ぎここから出て行くことはすまい。だが、何名かで確認にも行きたいところではあるな」
 鬼たちも納得させるように鴉翁は考えを述べた。
 それが事態に影響を及ぼすのか、それとも何も無いのか。それは誰にもわからない。

◆どったんばったん
「二匹目ぇ! まぁ、こんなもんだろ」
 九郎の振り下ろした刃が地上を這う妖怪烏を両断した。
「だが、攻撃も厄介だぞ。油断するな」
 傍らの涼が烏の嘴(クチバシ)についばまれた傷跡から血を流しながら忠告する。
 真夏が危惧した通り、烏の攻撃力は上がっていた。地味に痛いのだ。
「?」
 と、その次の瞬間、涼の動きが止まる。
「麻痺ですか。私の舞だけではカバーしきれませんから魔法のご利用は計画的に」
 梅花の榊樹女ノ舞でのフォローがあるとはいえ、来世人も魔法で法力を消耗するればあっさりと麻痺させられる可能性も増してくる。
 ハッキリ言っていやらしい敵がこの妖怪烏。
 だが、最大の武器である飛行能力を奪っているのだ。
「‥‥鳴る神霊迎えノ舞!」
 萌の舞、いや、洗練されたダンスともいえる予備動作が雷を降らせ、地を這う烏を穿つ。
「討ち漏らすじゃねぇっぺよ、アイアイ」
 もはや死に体の烏を、真夏の指示を受けた赤兜ノ子アイアイの爪が切り裂いていった。
 体格的には負けないアイアイに烏どもは弱りながらもイケイケで嘴を立てるが‥‥その肉を抉ること能わず。
「流石に妖ノ体を貫くことはねぇっぺな」
 取り込んだ烏は大方片付けた。後は百足だが‥‥。
 出てこない。
 一切取り込まなかったのか?
 いや、特殊空間展開時には地上にいた個体もいたはずだ。だが、地中に潜ってからまったく浮上してこなかった。
「何かカラクリがあるのかもしれんのう」
 凄味の利いた声が亀甲車の一台の中から出てくる。
 亀甲車の中でレスキュー担当として待機していた毒島 右京だ。
「出てこないなら今の内に治療出来るもんは治療しとかんとのう」
「確かに出ていきよるのは見られん」
 応じたのは救急車ならぬ亀甲車の持ち主である橘 二十九だ。見えない、というのは彼女が潜脈占術によって先程地上に出ていた百足を一体コントロールしているからなのである。
「指揮している個体でもいるのかな?」
 とはカナタの推測。
 だが、そこまでは不明だ。
「官兵衛威が何かしているかもしれないですね」
「何かに連動してるケースもあるっぺ」
「もしくはその両方か‥‥」
 椋や真夏も考えを述べるがあくまで推測に域を出ない。そんなことをゆっくり考えている余裕もない。すぐに時間が来る。特殊空間のタイムリミット。
 既にいくつかの魔法の効果が切れていた。アイアイの妖ノ体の発揮なども。何度も使うと効果終了までの時間でどんどん法力を消耗してしまうだろう。戦況によっては連発するのも得策では無かった。
「そういえば‥‥官兵衛はなぜ三太さんのことを知っているのでしょう?」
 ふと、椋の脳裏に疑問が浮かんだ。
「ギルド内にスパイが紛れ込んでいる? そして‥‥害する価値がある、と?」
 疑問は尽きないが時間も無い。
 ともあれ、官兵衛に関しては、既に動き出した者たちがいる。いや、いた。
 そして、時は動き出す。

「官兵衛! やってやるって! んだな、これが」
 特殊空間が展開する直前、吠えるアイナ・ルーラ は既に範囲外へと飛び出していた。グレン・ギーガーの朱雀炎帝占術によって与えられた紅の翼が、それを可能にしたのだ。
 ターゲットは官兵衛。
「キキッ」
 その官兵衛が煙管を構え何かを発する‥‥が。
「おやぁ、効いていませんねぇ」
「アレは苦かった‥‥苦かったんだぞ!」
 何かを仕掛けられたのに気付き、アイナが官兵衛を睨む。戸隠天狗は土の味。特殊な忍者食によって毒や睡眠などに完全な抵抗力を得ているのだ。
「口直しは勝利の美酒でさせてもらう!」
 まずは一太刀。
 だが、官兵衛はそれを避けない。
「!」
「痛いですねぇ」
 確かに斬った。だが、傷は‥‥無い?
 怯んだアイナに襲い掛かる妖怪烏。
「ぼーっとしてはダメですわ」
 だが、烏どもは炎を纏いし熊鷹に割り込まれる。
 それはグレース・マガミが放った機巧だ。
「助かる!」
 気を取り直し、油断なく構えるアイナ。
(しかし、こいつは一体。プロレスラーのタフさともまた違うが‥‥)
 そんな疑問も浮かぶほど、官兵衛はピンピンしているではないか。
 更に飛来する光の矢が突き刺さる。
「キーッ! 痛いじゃないですか。目障りですねぇ」
 月読命ノ舞で放たれたものだ。それを受け、官兵衛はやや怒ったような声を上げた。
 そして、次の瞬間、それを放った潤賀 清十郎に向かい妖怪烏が急降下してくるではないか。清十郎は第二射を放つべく舞の途中だ。
「危ないデス!」
 気付いたファウラ・クルシューエが警告を発すると、清十郎は舞の流れに組み込むかのように烏の突撃を回避する。
「気付いてもろて助かったわ」
「いえ、回復やサポートはこちらに任せて集中してくだサイ」
 ファウラの言葉に清十郎は頷くと、またも官兵衛をターゲットに光の矢を放った。
「ムッキー!」
 官兵衛が苦虫を噛み潰したような顔をする。
 だが‥‥。
(痛がるということは効いていることは効いているのか? だが、負傷している気配は無いが‥‥)
 わからない。アイナは近くで目の前の官兵衛の様子を見ながら首を捻る。
 だが、どんな敵でも倒すチャンスは必ずあるはずだ。
 それを為すために‥‥春子は官兵衛を巻き込み壺中天道術を成就させた。
「壺中天道術ですか。馬鹿の一つ覚えですねぇ。キキキ」
 周囲を包むモノトーンにも官兵衛は動じない。むしろ、何を仕掛けるつもりだ、と油断なく構えている。
 飛行と魔法の成就を封じ、官兵衛の逃亡を防いでいる。だが、特に来世人からの仕掛けは無く‥‥。
(何やってるんだい、あきほ。迷ってるんじゃないだろうねぇ?)
 内心穏やかではない春子。
 そして‥‥。
「ハァハァ、スピード遅いのだよ!」
 地中からあきほが現れる。
 そして、その手には‥‥。
「なんですぅ、それは?」
 官兵衛が怪訝な顔をするのも仕方ない。あきほの手には、何やら紙束が握られていた。それは太上神仙秘法道術の霊符。
 その数、なんと76枚!
「今、必殺の、千絵代すぺしゃる(命名あきほ)なのだよ~!」
 紙の厚みで攻撃。まるで札束でぶん殴るかのように、霊符が風羽根となってターゲットである哀れな官兵衛へと飛来する。圧巻の物量。
「戦いは数なのだよ~」
「キッ‥キキキァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 響き渡る鬼の悲鳴。それは風羽根が全てが着弾仕切るまで続いた。
「やったか、なのだよ!」
 そして‥‥。
「流石に死を覚悟しましたよ」
 と、ピンピンした官兵衛が!
「なっ‥‥」
 さしもの来世人たちも動揺を隠せなかった‥‥。
 特殊空間は失われ、仕切り直しである。

◆シ戦の果て
「ああ、どうなんやあの大きさは‥‥」
 蓑下 海里は嘆息する。
 別に、一部女性陣の胸元を見て自分と比較したからではない。無いったらない。
 回復役という役目は、正直相手が四郎一人なため、忙しく無いようにも思える。だが、その一撃は強烈で、傷をキッチリ治すには手間が必要だった。二太刀、三太刀も受ければ瀕死に陥る、いや下手をすると一太刀ということも有り得る。そんな状況では吉祥天慈悲真言の使い手が不動一人しかいない状況では早目早目の回復が必要であった。
「焼け石に水、じゃな。いや、少しでも冷やせるならええほうじゃ‥‥」
 戦況をみつめながら鏑木 奈々も唇を噛む。
 猩々ノ舞は使っておいた。そして、自分の呪禁道術を紗月のとゐ波占術を何度か使った後に仕掛けるが四郎の力を封じるには至らない。
「流石に、全然削れませんね」
 法力を刈り取る鎌を振るう伊東 命が奈々の呟きに応じるが、そもそも攻撃が当たらない。1回当てたが、恐らくは大した影響は無いだろう。四郎自身、魔法を使っている気配がほとんどなかった。
 ここはどうにかして角でも折りたいところだが‥‥。命はチラリと圧倒的に怪しげなマスクを被る女の方を見た。
「ああ、もう、一体、どいうつもりですの」
 女、マシュマロ団Rこと高杉 蘭子は苛立っていた。
 四郎が全く彼女の間合いに入って来ないのである。
 仕方のないことだ、先の会談でも彼に対する敵意を隠さず、そしてこの場では殺気も隠さないのに仕掛けてもこない。明らかに何か狙っていると判断されているのだ、無理に近付く道理も無い。
 チラリと紗月の方を見るが‥‥紗月は首を振るのみ。三尸占術の予知夢で四郎の動きが読めないかなー、などと細い糸をたぐるが、そんな都合のよいことは奇跡でも起きぬ限りは無いのだ。
 知り得る未来をコントロールすることなど、それは神の所業なのだろう。
 千絵代が宿曜道術によって得た危険予知も、あまり得たくないものであった。
「ダメよ!」
 その言葉は夫である遠野 絃瑞に向けられた。
 四郎に対する怒りからか、絶違ノ伎を使ってでもチャンスを掴もうとする千絵代。だが、それは傷を治さぬと両刃の刃。それを見守り、そして、必要とあらば‥‥身を挺して守る気構えの絃瑞。
 だからこそ起きる危機。千絵代には予感が有った。夫が自分を庇い鮮血に染まる姿が。
「危ない!」
 そしてそれは現実に‥‥いや、四郎の刃が届く瞬間、絃瑞は確かに妻を庇おうと動いた。だが、絶違ノ伎を使っていた千絵代の動きは衰えてはいない。攻撃は避けられなくとも‥‥夫を逆に庇うくらいは出来る!
「いけません!」
「ああ‥よかった‥‥」
 夫の無事を確認し倒れる千絵代。
 四郎の追撃を恐れ絃瑞は妻に覆いかぶさる。
「‥‥」
 だが、追撃は来なかった。
「なるほど、情、か」
 そう、四郎が呟いたように、絃瑞には聞こえたのだった。

 そして、遂に蘭子のイライラもピークに達する。
「四郎!」
 直接四郎に問い掛ける。
「貴方のおっしゃる平和は誰もが望んでいること。ですが、貴方は実験で大島に鬼を送り、多くの人が亡くなり傷付いた」
 四郎は戦いながらも一応耳を傾けている‥‥ような気はする。
「理想主義者はいつも実験を繰り返しては失敗する、現に貴方は‥‥里の鬼を守れなかった!」
 蘭子の怒りはわかる。大島の悲劇を見ればそういう感情も湧くだろう。
 四郎は蘭子を見る。その瞳を射るように。
「彼女ら‥‥若黒曜様たちはわたくしたちが守りますわ! 人と交わり知ることで自己の力で平穏を掴んでもらう‥‥そう、貴方は不要!」
 イライラと、何よりもずっと抱えていた怒りを蘭子は吐き出した。
「誤解がある。俺は伊豆大島に鬼を送り込んだわけではない。すでに伊豆大島に出現していた鬼を、可能であれば、抑え込もうとしたにすぎぬ」
 四郎は淡々と告げる。
「たしかにそれは実験だったな。そして結果は、抑え込めなかった、ということになるか」
「このっ‥‥他人事みたいに‥‥!」
 蘭子はさらに激高した――が。
「ところで高杉蘭子。今言ったことは確かな約定でいいのだな?」
 四郎の問いに、蘭子は「えっ?」と気をそがれる。
「言っただろう。若黒曜様たちは自分らで守る、と。平穏を掴ませる、と。それは俺が死んだ場合、確実に履行してくれ。頼む」
 四郎は、頭こそ下げなかったが、「頼む」と言った――それは多くの者をあぜんとさせた。
 だが、むしろ怒りを招くトーンでもあった。勝手に殺し合いを仕掛けてきておきながら、もし自分が負けたら「言ったことはちゃんと守れよ」というようにしか聞こえなかったからだ。
「なんというふざけた態度‥‥貴様がしたことで、どれだけの死者が出たのだ!」
 何度でも仕掛ける、この細山 三次郎なる武士は。
 狙いは氣を用いたカウンター。
 だが、四郎の抜刀による村雨丸の水の刃は遠間を切り裂く。故に間合いが大事。熱田大神の加護を受けし三次郎の大太刀ならば確実に届くが、だからことチャンスを外せないのだ。
「ぐっ!」
 四郎の攻撃は‥‥ドラゴンアーマーに弾かれる。
「でりゃあ!」
 好機! 氣を練り、反撃の刃が四郎に還る。
 更に紅葉ノ氣を発揮し武器を落とせば!
「獲った!」
 執念の一撃が、四郎の手から村雨丸をはたき落す。
 そのままどうにか刀を蹴り飛ばしたいが‥‥手が足りぬ。
「どきなさい!」
 そこへハイスピードで何かが来る。
 桜花の決死のスライディングだ。
 そしてそのしなやかな脚が村雨丸を弾き飛ばす。
「!」
 だが、四郎には超転移がある。すぐに愛刀のもとへ飛ぶ。
 そこに偶然いたのは雫石 零士だった。
(こっちか!)
 内心焦る零士。機巧を自律行動させ戦っていたので、自分は状況を確認するだけだったのだから不意の事態に戸惑うのは仕方ない。
(だけど‥‥こうなりゃ)
「四郎! 妹が世話になった借りだ!!」
 意を決して刀を拾う四郎に飛び掛かる!
 刀を拾う割に、やや動きが鈍い四郎。そう、そこは偶然にも煌尚が嫌がらせで張っていた結界の範囲内。
「むっ」
 四郎と零士はもつれ合いながらふすまを倒し‥‥廊下へ転がり出る。
(いまだ!)
 その心の声は、羽柴 司の斑鳩占術を通して、妹・露花のもとへ。
 ずっと、外で待っていた。
 露花の弓から、矢は放たれ四郎の角に突き刺さる。
「これで、一矢!」
 だが、角を折るには至らない。
「あの時、私が感じた怖さ‥‥それには及ばないかぁ」
 肩を落とす露花。
 だが、チャンスタイムは終わっていない!
「今までのみんなの動き、それは全部あんたへの感情が繋いだものだ! だから‥‥」
 そこに挑むは透哉。途中で姿が見えなくなっていたと思ったら、鎧の力で姿を消していたのだ。前の戦い、まるで歯が立たず、その悔しさを糧に得た鎧。
 そして、皆の想いが繋いだこのチャンス。完全な不意打ち。
「あんたは情を知らないんじゃない‥‥知ろうとしなかっただけだっ!」
 弁慶ノ伎で取り込んでいた切り札の槍を顕現させ、今、その必殺の一撃を四郎に向け‥‥。
 ガッ―――。
 だが、届かない。槍が柱に引っ掛かる。
 千載一遇のチャンス。その槍は‥‥屋内で取り回すにはあまりにも長すぎた。ずっと体内に取り込んでいたせいで長さと空間の把握に誤差が生じていたのだ。
 その間に四郎は態勢を立て直していた。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
 透哉が咆哮する。
「まだ、終わってねぇ!」
 しかし、諦めない。一刀は息つく暇も与えず四郎に斬りかかる。
 それは回避された。だが、そのブラインドからミストが走り込んでいた。ミストの動きを確認し一刀がニヤリと笑う。
 イチかバチか、激突直前での神威ノ伎による転移。ミストは四郎の右後ろに回り込むと‥‥黄金銃を撃ち抜いた。
「!」
 ダムダム弾が爆ぜる。腕を狙うつもりだったが転移の飛びざまで細かい狙いは厳しくアバウトな狙いを付けて撃った。
 命中。衝撃で四郎がよろける。
 そんな時だ、動きが変わったのは。
「下から何人か来るそうよ!」
 遠話を受け、藤花が告げる。
「やれやれ、やっとですか」
 桜花はそれを受けて肩をすくめた。
 そして、もう一人‥‥。
「大丈夫かー! 来世人ぉー!」
 勢いよく飛び込んできた小さな影。
 そう、導師・十人。
 今まで、危ないからとギルド職員に止められていたのを振り切って戦場へやって来たのだ。
 事態は‥‥動くのか?

◆混戦
 三太を巡る戦いは混戦の様相を呈していた。
「へ? 天草四郎がギルドに?」
 斑鳩占術により江戸からもたらされた情報もあり、来世人側が困惑するのも致し方ないことではある。
「四郎が来よったか。わしも‥‥そろそろかのう」
 保護する亀甲車の中で三太がぼやいたのを同乗していた霧原 矢塚は聞き逃さなかった。
「四郎との決着をつけろとか、見届けなきゃならないこと、とか、あんたは結局何を見たいんだい?」
 矢塚はストレートに問い掛けた。チラリと傍らの澄香の様子を見ながら。
 澄香は言った。三太の望みを叶える、と。その為に必ず守るのだ、と。
「ほっほ、そんな怖い目で見んでもいいじゃろ」
 ややおどけた様子で三太は笑う。
「うん、あたしも聞きたいなー」
 お爺ちゃんお願い、といった風情でえあ子も三太に上目使いでお願いだ。
「四郎との決着は、アレが現れたということは何かしらの落としどころがあるじゃろう。そして、ここで見届けたいのは‥‥お前さんらの、苦難に負けぬ強さじゃよ」
 三太は開閉扉の隙間から戦況を眺めつつ呟いた。
「だったら、しっかりと目を見開いて‥‥っと、嬢ちゃん、来るぞ」
 そう言い掛けて矢塚は式神越しに敵の動きを捉える。
「はい、捕捉しています。正面と、右斜め後方から」
 澄香の目となっているのは亀甲車から‥ではなく、その周囲を縦横無尽に動き回る狼型の機巧であった。矢塚の式神から異常を認めれば、機動力を駆使して狼機巧がそちらの哨戒を行うのだ。
「正面の敵、真玄武砲。発射!」
 澄香の号令と共に放たれた弾丸は妖怪烏の編隊の中心へ。
 直撃した一匹を吹っ飛ばすと共に、ドーンと轟音を上げてビビらせ編隊を乱す。
 だが、その間に右斜め後方の編隊が接近してくる。
「えあ子さん、後ろの敵、お願いします」
「りょーかい☆」
 後方の開閉扉から、超高速ノ舞によって放たれた吹雪が烏どもを凍えあがらせた。
 その後も警戒を怠らず敵に備える。
 地下からの百足の突き上げは、まだしばらくはマティルダの塗壁型機巧が防いでくれるだろう。
「百足、左から!」
 だが、今度は地上に出た百足がそのまま移動し襲い掛かる。
 しかも将軍巨大百足。デカくて硬いヤバいヤツ。
「やらせません」
 カミラの手から手裏剣が無数に放たれる。
 だが、それは百足を傷付けること能わず。
「効きませんね。ですが‥‥注意は引けました」
 同じく霊符を飛ばし攻撃していた真神河 絶斗はその姿を認め、確信する。
 そこには沢山の腕を増やした幻影を纏いし団次郎。そう、阿修羅王真言。
 か・ら・の。
「秘剣・燕返し!」
 自らの生命力を代償にその名を持つ大太刀から放つことが出来る必殺剣。
 それが連続で何条もの剣閃を生み出し、百足の強硬な身体を切り裂き、弱らせていく。
 ピンチと感じた百足は慌てて土の中へ逃亡。
「ごめん、回復頼むよ!」
「お任せです、団次郎様」
 削った生命力は根子 ナラが〇っと回復だ。法力と違い生命力なら回復は比較的容易であり、大技の連発も可能というわけだ。
「頼りになるのう」
 三太は散歩にでも出かけるのか、というような呑気な口調でそう言うのだった。

 しかし、戦闘が激しくなれば徐々に消耗していく。それはつまり、魔法等への抵抗が弱まっていくという消耗も存在する。
「ああっ、クマーが!」
 杏花の連れて来た熊の動きが止まる。妖怪烏の麻痺波だろうか。
 いや、それどころか周囲の仲間も何人か麻痺しているではないか。法力の消耗が、こういった事態を招いているに他ならない。
 そこへ容赦なく烏の編隊が迫る。
「やらせねっぺ」
 だが、動けぬ熊を救うように立ちはだかる小さな羆。アイアイが先頭の烏の顔に爪を立てる。
「―――薬師如来真言」
 その間に椋の真言が麻痺した仲間たちを癒す。
「大丈夫です? 必ず治しますから」
 特殊な数珠を以って放たれるそれは、消耗が激しく広い戦場では大きな効果を発揮している。
「椋様、後ろ!」
 そんな椋を狙ったのか、それとも偶然か。彼の真後ろに百足が浮上してきた。
 凶暴な牙が椋を貫く‥‥その前に。
「ああっ!」
 警告を発し、そして今度は自ら盾となった梧桐 天兎。その胸から赤い血が流れる。
「天兎さん、無茶を!」
「い、いま‥椋さ、まをやらせ‥るわけに、は‥‥」
 更に口から零れる紅。
「離すんじゃあ!」
 豊のアサルトライフルが火を噴き、更にアイアンの爪が百足に止めを刺す。
 牙から離れ、糸が切れるように倒れる天兎。
「おっと」
 が、そこへ駆け込んだのが右京と二十九の乗る救急車ならぬ亀甲車。
 素早く怪我人を中に引き摺り込むと、右京が。
「おう、ちいと待っちょれ」
 などと強面で言い放つので、きっと中では臓器売買とか行われているに違いない。
 あ、いや、ややあって、天兎は元気バリバリで亀甲車から解放されるのだった。
 このように来世人側は自分の出来ることをフルに発揮して敵に対抗し、少しずつだが敵の数を減らしていく。
「回り込め、九郎!」
 声だけ聴けばわかる。意図すること、動き、それを背中で感じ。
「おう、そっちは任せた」
 涼の声に、九郎はそちらを振り向かずに動き、百足を袈裟掛けにする。お互い信頼して動いているのだが、戦いを続ける中でそれが更に洗練されていくのがわかる。
 より手慣れた連携で、カナタと萌も動く。
「そーれっ!」
 カナタが振るう一撃。それにシンクロするように萌も刀を振り下ろすのだ。
 太刀に込められし共振の力。
 萌の合わせて放った攻撃は百足の脚に阻まれる。だが、それはカナタの一撃を通すための共振した一撃。
 一ノ太刀を乗せ振り抜かれたカナタの刃は、猛威を振るっていた将軍巨大百足の内の一体の胴を両断したのだった。
 連携した動き。それが来世人側の最大の武器。
 だがしかし、敵も何か連動した動きを見せている。
「カモちゃん砲、ファイア~!」
 そんな時だ、カーモネギーの亀甲車から放たれた砲撃が、敵の動きのキーマンではないかとも考えられる官兵衛の方へ飛んでいったのは。
「あ~、うっかり流れ弾♪」
 などと言っているが、ちゃっかり狙ってる。
 そして、その一撃が、戦いが終わりへと向かう号砲となるか。

◆迷い人Sの落着
 来世人、四郎、捕虜の鬼たち、そして十人。
 その場に集いしは‥‥やはり導かれし故か。
「この鬼の人たちは大丈夫です! 四郎さんがどうしたいのか確かめに来ただけですから!」
 秋葉が声を張り上げて主張する。それは戦っていた者たちにハッキリと届く。
「むむむむ、なんじゃ、なんじゃ、なんなのじゃあ! わらわの神眼にビビッと来まくりじゃぞ!」
 そして、十人うるさい。
 あ、いや、何かおかしい。
「これは‥‥」
 四郎の様子がおかしい。
 本人は平静のようにも見えるが‥‥その右手の甲には、何か文字が浮かぶ。
「えーと『智』?」
 確かにそのような文字に見えた。
「これはなんなんだぁー! 流石のブナちゃんもよくわからないよー!」
 取り敢えず十人に問い詰めてみるブナ。
「ええぃ、あまりがっつくな! きっとあれじゃ、サンタが何か知っている筈じゃ! うん」
 確信があるのか、出まかせなのか、ちょっとわからないが十人はそう言い切った。
「アバウト過ぎだよぉ!」
「うるさいわー!」
 子供の絡みだ‥‥皆、そう思った。きっと本人たちは否定するだろうが。
 戦場の空気が僅かに緩む。
「‥‥これくらいでいいだろう」
 そういってあっさりと刀を納めたのは四郎であった。
「四郎殿」
「お前たちの解放が目的なのに、お前たちを巻き込むわけにもいくまい」
 鴉翁に応じる四郎の言葉に、周囲の者は皆おもわず耳を疑った。
 今までの彼では考えられないような言葉が飛び出してきたからだ。
「来世人の成長、その具体的な強さ、十分に把握した。俺が負ける予感はしないが、このまま戦っても来世人らの膝を折らせるのは至難の業のようだ。つまり、俺達は互角の戦力として評価できるということだ」
 四郎は十人を見つめる。そしてわずかに、首をかしげる。
「しかし‥‥この娘はなんだ? またも検討すべき要素が増えたということか?」
「わらわは、えーと‥‥導師じゃ! つまり来世人をだな‥‥導く‥‥うっ右目が‥‥智‥‥あっそうじゃ、玉じゃ!」
「玉、か」
 四郎が右手を掲げた。そしてそこから、浮かび上がるようにして、さきの『智』と書かれた青い玉が出現する。
「その玉じゃ! それを集めて、来世人に託して、そのために導いて‥‥おい四郎! その玉をよこすのじゃ!」
「断る」
 四郎の玉は、再びその右手へと、ずずずと埋没していってしまった。
「ああー返せ!」
「おまえの物ではないだろう」
「くっ、じゃが、玉を持つ者はわらわが導かねばならぬのじゃ、たしか‥‥わらわに導かれるがよいぞ!」
「だが断る」
「ああん、いけずめ!」
 地団太を踏む十人。まあこの状況では、来世人ですら、四郎の言い分のが妥当に感じているのだが。
 ともかく、四郎が戦闘態勢をとき、謎のやりとりが挟まれたことで、なし崩し的に休戦状態となる。勝利とも敗北ともつかぬ状況だ。
「どうやら、三太を救うことが出来たようね」
 安房国から江戸まで遠話が届く。クリスタルはあちらの仲間からの報告に安堵した声で皆に告げるのであった。

◆求め人Sの継承
 砲撃は官兵衛に回避された。
 だが、その隙に眼前に迫るは湧口 瑞希の刃。
「キキーッ!」
 刃は当たらない。だが別のモノが直撃する。いや、それは確実に当たるのだが。
 嫌がらせのように放たれる清十郎の光の矢。
「ええぃ、鬱陶しいですねぇ」
 延々と続く来世人の攻撃に官兵衛は苛立っているようにも見えた。
 絶え間ない攻撃、さすれば態勢を立て直す時間も出来る。
「こっちも鬱陶しい!」
 もはや苛立ちを隠さぬ官兵衛。
 吹き矢をちまちまと飛ばしてくる希有亭 波新に超転移で近付くと、煙管を叩きつけた。
「キャッ!」
 露出多めの波新の肌が赤黒くなるほど強い打撃だ。軍師タイプとはいえ鬼は鬼。力強い。
 だが、波新に気を取られている隙に、アイナとミア・カイザーが急接近していた。
 二人同時に官兵衛の前に立ち塞がり‥‥大きく息を吸い込む。
「何ッ!?」
 そして。
「「ダブルれっどふれいーーーむ!」」
 アイナとミアの口から放たれたのは、炎。強烈な辛さでダメージを受けつつも口から炎を吐ける神代の飯神様特製品だ。
 ダブルの炎が官兵衛を包み込む。
「熱っ! 熱っ!」
 炎に巻かれ悲鳴を上げる官兵衛。なんと、炎が頭巾に燃え移っているではないか。
 慌てて頭巾を捨てる官兵衛の頭の上。そこに隠された角が来世人たちに晒される。情報通り、1本は折られており、残りは6本。
 それどころか、炎は官兵衛の服にまで燃え移っており、のたうち回る。
 そう、その僅かな隙。アイナに一ノ太刀を使わせ得る隙。
「もらった! 益洲‥‥」
 露わになった頭頂部に振り下ろされる聖剣?
「刈刃ぁーーー!!!」
 手応えアリ。
 飛ばされしは官兵衛の角一本。
「お、おのれぇぇぇ!」
 怒りの官兵衛。だが、その動きは‥‥逃げの一手。
 躊躇いもなく転移しその場から姿を消した。
「逃がしたか‥‥」
 取り逃がしてしまった。だが、敵将の逃亡は戦場に大きな転機を生み出す。
 いままで組織立って動いているように見えた妖怪烏や巨大百足どもの足並みが揃わなくなったのだ。
 そうなれば‥‥来世人にとっては大した敵ではない。結果、化身どもは倒され、逃げて行ったモノもいるのであった。

「おお、これが来世人の力‥‥」
 感慨深そうに呟く三太。
 そしてもう一つ、江戸のギルドからの遠話にて四郎との戦いには一応の決着がついたとの連絡が既に入っていたのである。
「三太‥‥さん?」
 亀甲車の中で、三太の妙な様子に澄香は気付く。
「涙‥‥」
 そう、三太は涙を流していた。
「え、三太さんどーしたの!? どこか痛いの?」
 オロオロとえあ子が問い掛けるが、三太は涙を流し来世人たちの姿を眺めているだけだ。
 そうしている間にここへ来た目的である三太の無事を確認しようと来世人たちが集まって来た。
「永かった‥‥」
 集まった来世人に対し、三太は万感の想いを込めてそう言ったのだ。
「娘さん、手を」
 三太に促され、澄香は手を差し出すと‥‥その手には何かが握らされた。
「これは‥‥『孝』?」
 それは『孝』という文字が浮かぶ、青く光る玉であった。
「この辺りの者はわしのことを仙人と呼ぶ者もおるようじゃが、ただ、少しだけ永く生き過ぎた爺じゃよ。その玉は持ち主を選び、力を与える。その代わり『己の使命を為す』ことを求められる不思議な玉じゃ。天狗がいうには世の中に8つあるらしい。わしは玉の力で戦国の世を生き抜いた。主君であり父であるおやかたさまのため、ひたすら戦いに明け暮れ、己が使命を果たし‥‥じゃが、父を喪った今、むなしさだけを抱えて生きておった。戦を繰り返した、父子の贖罪のためだけに、こうして無駄に生き永らえておったんじゃ‥‥じゃが、それももう、終わりにしてよいのじゃろう。こうして、玉を託すべき者に出会えたのじゃからな」
 三太の正体。それは力を与える玉を受け継ぎし者。
「そして、天草四郎も玉を持つ一人じゃ‥‥なぜ、鬼が、玉を宿していたのかはわしにも不明じゃがな。じゃが、玉は主を選ぶ。四郎に玉が宿り続けている以上、それにはなにか理由(わけ)があるのじゃ。だから、お前さんらに頼みがある‥‥」
 何か、三太の声が弱くなっている気がする。
「四郎を導いてやってくれ。そして、残る6つの玉を探し出すの‥じゃ」
「三太さん!」
 呼び掛ける澄香の手にした玉が光を放つ。
 それは、澄香の体に吸い込まれていくのだった。
「‥‥」
 そして、三太の容態を確認した矢塚が首を振る。外傷は無い。強いて言うなら死因は『老衰』、である。

 三太はその永き役目を終え、力を次代に託したのであった。

◆導き人Tの驚愕
 三太の言葉は遠話を通してギルドにいた来世人や鬼たちにも伝えられることとなる。
 ざわつくギルド内。
「8つの玉じゃと!? わらわの神眼がピリピリしておるぞ! そうじゃ、8つの玉を探すのがわらわの使命! ‥‥のような気がしないでもない‥‥多分」
 使命に目覚めた! とはまだまだ言えない感じの十人ではあるが、どうも玉と関係があるような感じだ。
「なにー! このちんちくりんがホントにー?」
「ええぃ! お前にちんちくりん呼ばわりされたくはないのだ!」
 驚くブナの言葉に十人はムキになって言い返す。
「いや、ホントにそんな存在なのかねぇ‥‥」
 煌尚が皆の想いを代弁し、そう呟くのであった。
 と、その時、不意に四郎が背を向ける。
「なんですの? 逃げるということですの?」
 座り込んだ四郎に隙無く刀を突き付けていた蘭子が問う。今にも斬りかからんとしそうな気配だ。だが、四郎から、敵意の一切は消えていた。
「不満があるのを承知で頼む。来世人たちよ、俺とその同胞のため、その力を貸してほしい」
「‥‥‥‥」
 蘭子は返事ができない。いまだ四郎は信用がおけない。だが、倒すにはまだ力が足りず、一方で、同胞たる鬼を救うためには、前向きな検討をせねばならないからだ。
 そして、その四郎は――これまでにない表情をした。ごく僅かにだが、微笑んだのだ。
「そうか、そういうことか‥‥蘭子よ、今さらながら、自分の『理と情』を理解した」
「‥‥どういうことです?」
「正直にいえば、今回、ギルドへ単騎で挑んだことに、俺自身、理由がよくわかっていなかったのだ。同胞を救うためだったのか、来世人を試すべきだったのか‥‥それらはむろん、そうだ。しかし、それだけでは説明がつかなかった」
 四郎は口元に手を当て、自分に言い聞かせるように語る。
「そう‥‥俺はあるいは、死ぬつもりでここへ来たのだろう。虐げられし同胞の救済。それを第一目標とした時点から、俺の中で変化が生じた‥‥自己の生存は、優先順位の最上ではなくなっていたのだな。俺は、もしもだが、ここで来世人に討たれたならば、それが同胞を救うことになると、どこかで承知していたのか。もし俺を殺すほどの連中なら、同胞を託すに足る戦力を有する。それに俺を殺せば、その負い目が、善たる鬼の保護に強力に働くからな。そうか‥‥」
 四郎の独白を、ただ聞くギルド員。やがて四郎は、なにか整理がついたように、再度語る。
「情がわからぬ俺だからこそ、情の動きは理解できぬ。自分自身のそれを含めてな。もし、お前らに討たれていれば、俺は同胞と、この『智』の玉を、お前らに託していたのだろう。だが、お前らはそれほど強くはなかった。だから同胞は結局、俺自身が導く。ただし、それにはお前らの協力が必須だ。情は不安定な要素だ。だが、情なければ、お前らの協力が得られないのも事実‥‥俺は情をよく学び、従うよう努める。詳細は、再び、報せを送る」
 そう言って、四郎は消えた――転移したのだ。
「さてさて、どうなることやら」
 何ともいえぬ展開だが、まぁこれでも聴いとけ。鰤々之進の琵琶の音だけがギルドに響くのだった。

「むむむ、玉の1つを逃したか‥‥じゃが、悩んで仕方あるまい。残る玉を探すのじゃ、そうじゃ」
 十人はそう言って、自信ありげに皆を見やった。根拠のないドヤ顔を、十房がベロベロなめた。
「そうそう、澄香に宿った玉じゃが‥‥使命を一つとするギルド員の皆じゃから、状況に応じて、宿主が変わると思うぞよ」
 十人はそう語った。要するに、今は『澄香にしか宿らない玉』も、いずれ、別の人に移動するかもしれない、ということらしい。

 ――その後、四郎、あるいは守全よりしばしば連絡があり、匿っている善良な鬼の処遇について検討がなされた。
 結果、当座の措置ということで、多摩の山奥に隠れ住むこととなった。これが幕府も公認である。こうして、捕虜となっていた鬼は、ギルドより解放され、密かに山奥へと消えていった。まだまだ安住の地とは呼べないが‥‥
 なお、鴉翁と若黒曜は、ギルドの食客として残りたい、と強く訴え、四郎もそれを認めたため、今も江戸のギルドに身を寄せている。表向きはもちろん、人間のような格好をして、だ。来世人自体ヘンな格好が多いので、あんまり目立ってなかったりする。
 こうして、『善良な鬼問題』と、四郎との因縁は、ひとまずであるが、解決した。
 しかし、8つの玉(残り6つ?)を探すこと、善良な鬼の行く末を追加でなんとかすること――なにより、徐々に凶暴化しつつある化身や鬼にどう対処するか。課題も謎も、まだまだ尽きぬ、寛永世紀末であった。

※余談
 守全を慕っていた柴犬の伊豆丸は、結局、四郎へついていこうとしたものの、四郎に諭され、来世人ギルドへ預けられることになった。
 今は、十房や、自分の子供(という説のある子犬)らと、元気よく過ごしている。



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参加者

c.道は一つじゃないはずです!四郎さんだけじゃなくみんなが選ばなきゃ!
陣内秋葉(ka00318)
Lv138 ♀ 15歳 武忍 来世 傾奇
サポート
e.薬師バラ撒きます。サポートの楡さんは前衛です~
空木椋(ka00358)
Lv262 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
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g.三太さんに亀甲車に乗って貰えれば守り易いかと。砲撃は妖怪烏に向けますね
水上澄香(ka00399)
Lv226 ♀ 17歳 陰傀 来世 異彩
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a.あんたが知らねぇ情って奴が、力になる事を教えてやるぜ!
鈴城透哉(ka00401)
Lv256 ♂ 15歳 武僧 来世 傾奇
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a.若黒曜様達の生存に四郎の守護は不要!私は貴方の行いを否定する!
高杉蘭子(ka00512)
Lv299 ♀ 20歳 武神 来世 傾奇
サポート
a.捕虜連れてきて貰って話し合いができれば。人質扱いとかはなしで
藤枝桜花(ka00569)
Lv269 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
サポート
f.此方で。月読で攻撃して、少しでも鬼官兵衛の体力や法力削れたらと思うよ。
潤賀清十郎(ka00609)
Lv271 ♂ 27歳 神忍 来世 異彩
サポート
f.レッドファイッ!!
アイナ・ルーラ(ka00830)
Lv158 ♀ 24歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
a.あの実験、貴方が得たのは何かしら。私達が失った物は遥かに多いの
升田千絵代(ka00869)
Lv232 ♀ 25歳 武陰 来世 異彩
サポート
d.寛永はつらいねえ。来世人諸君!頑張って行こう
越中団次郎(ka01138)
Lv354 ♂ 32歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
f.サンタって本当にいるのだよー。僕だってサンタになれるのだよ
藤あきほ(ka01228)
Lv280 ♀ 20歳 陰僧 来世 異彩
サポート
g.サンタさん守っちゃうよー☆彡 適宜結界張る予定だよ♪
霧ヶ峰えあ子(ka01260)
Lv138 ♀ 16歳 神僧 来世 麗人
c.会談の内容を伝えて、鬼達を説得してみます
大門豊(ka01265)
Lv88 ♀ 15歳 武忍 来世 質素
サポート
g.三太さま、仕組みましたね?
カミラ・ナンゴウ(ka01313)
Lv131 ♀ 23歳 忍僧 来世 大衆
サポート
a.奴の行動は腑に落ちんが、全力で戦うしかないようだな…!!
村正一刀(ka01389)
Lv136 ♂ 23歳 武神 来世 異彩
サポート
d.セリザワさんから「玄武砲の流れ弾が鬼黒田に行くんで注意して」だって。
田中カナタ(ka01429)
Lv138 ♀ 18歳 武陰 来世 異彩
サポート
c.本気でやったら全然字数が足りんそうだ。すまんな皆。表は頼む
マルグリット・ニッタ(ka01516)
Lv81 ♀ 18歳 神忍 来世 大衆
c.……まだ足りないそうだ。言い訳はない。表は頼む
田中真司(ka01525)
Lv79 ♂ 18歳 武神 来世 異彩
b.いつもの如く地中から小反閇で援護するので、みんな頑張れ…。
小冷煌尚(ka01631)
Lv141 ♂ 23歳 陰忍 来世 質素
c.斑鳩占術で各自と連絡を取りながら対応しましょう。暴徒が一番恐ろしいしね
クリスタル・カイザー(ka01634)
Lv219 ♀ 29歳 忍流 来世 大衆
d.覚悟完了、上から来るなら叩き落とす!下から来るなら踏み潰す!
遠前九郎(ka01660)
Lv113 ♂ 19歳 武流 来世 大衆
サポート
b.前線に出たら即殺られるけえ後ろからチクチク行くんじゃ。
暦紗月(ka01738)
Lv118 ♀ 29歳 流誓 来世 麗人
e.後衛っつてもアイアイはとっこうするんだけんどな。中衛がな?
牧葉真夏(ka01759)
Lv111 ♀ 25歳 神誓 来世 異彩
サポート
c.拙者もこちらで、要らぬ騒ぎを起こさぬで済むよう尽力するでござるよ
御前輔兵衛(ka01901)
Lv125 ♂ 23歳 僧水 大和 質素
a.某の命をかけても、貴様を生かすつもりは毛頭ない。
細山三次郎(ka01914)
Lv150 ♂ 36歳 武水 大和 異彩
 どう出る、来世人‥‥そして、俺は‥‥
天草四郎時貞(kz00012)
♂ ?歳 化身