【神代】白い夢、黒い夢

担当 美園ゆかり
出発2018/10/08
タイプ ショート C(Lv無制限) 神代
結果 成功
MVP 潤賀清十郎(ka00609)
準MVP 空木 椋(ka00358)





オープニング

◆それは突然
「待って、白ウサギさん!」
「待てと言われて待てるわけないだろう! 遅れる、遅れる!」

 あなたが目を覚ましたのは、よく晴れた野原。
 どこかから花の香り、柔らかな日差しと心地よい風が吹き抜ける。

登場キャラ

リプレイ

◆神代にて
 夢枕に降りてくる、バクの群れ。
 ‥‥夢を見たのは、どちらでしょう?

◆優しい夢 
「? 白ウサギを追いかけてた気がするが‥‥」
 ここは雲の上に浮かぶ夢の世界。そこかしこにいい匂いが漂っている。
 いつの間にか、大きなシルクハットと真っ白なタキシードに身を包んでいた由良 悠頼。なぜこの格好なのかは、夢の主のみぞ知る。
「お茶会の時間ですよ~。みなさ~ん、お集まりくださぁい」
 ピンクのクマ‥‥桃月 かおるの声に呼ばれて、着いた先は虹の広場。

 白いクロスが敷かれた大きなテーブルには、様々な色と形のティーカップやポットが大量に置かれている。
 動物たちが勝手にお茶やお菓子を楽しんでいる。
 小さなネズミが、頭からケーキに突っ込んで、そのまま眠っている。
 3段のケーキスタンドに、マフィン、スコーン、パステルカラーのマカロンがこれまた山と積まれている。
 銀の皿にはきらめくフルーツタルト。
「‥‥こうなったら楽しむか」
 悠頼は、なんとなくわくわくしている自分に気づいていた。
「帽子屋さんですか? 僕はチェシャ猫を探しているのです」
 ライトブルーの半ズボンに、真っ白なシャツブラウス。襟元に瀟洒なリボン。
 サスペンダーにしましま靴下の空木 椋は、大きな瞳を瞬かせて。
「僕、アリスです」
「ようこそ、アリス。わしらのお茶会へ」
 二本足で歩く茶色いウサギが手招きする。
「ここにはたくさんのアリスが来て、たくさんの白ウサギを探すんだ。だから、みんなアリスだよ」
 言っていることの半分も意味がわからないが、歓迎してくれているのは確かなようだ。

「こんにちはー。一緒に遊んでくれますか?」
 可愛い動物たちに、美味しい雲。なんて素敵。はやる気持ちを抑えて、おずおずと。
 アステ・カイザーの声に、ぬいぐるみのような動物たちが、あれよあれよと寄って来て、丁寧にお辞儀する。
「おがねこさん?」
「おがねこさんだ! 喜んでー。何して遊びますか? 追いかけっこ? かくれんぼ?」
 猫、犬、ウサギ、狐に狸。クマさん、羊さん、ユニコーン。
「おがねこさん‥‥そう、私は、おがねこさんです!」
 ファンシーななまはげ衣装のすねこすり‥‥とでもいうべきなのか、奇妙な着ぐるみのアステ。
 だが、動物たちは何の違和感も持たずに、彼女を囲んで嬉しそうにしている。
「皆、私も仲間に入れてー☆」
「もちろん! 鬼ごっこしよう! おがねこさんが、鬼だよ!」
 わー! と、二足歩行の動物たちが走り出す。
「よーし、頑張って皆を捕まえますよー☆」
 きゃーきゃー、わーわー。雲の山に突っ込み、虹の噴水でずぶぬれになり、いつまでも続く追いかけっこ。
 なんて楽しいんだろう!

 椋と悠頼‥‥アリスと帽子屋は、派手なカップに延々と注がれる紅茶にストップをかけ、気まぐれなお茶会を楽しむ。
 半ばなだれ込むように、アステと動物たちがお茶会の席に着く。
「ふぇ~。もう走れませんです」
 長い追いかけっこから解放されたアステに提供されたのは、巨大なメロンソーダ。
 甘くて冷たくて、懐かしい味。
 ぷはー☆ と息を吐くと、きらきらした星屑が宙を舞う。
「はわ~。夢みたいです!」
「夢だと思うけどな。ほら、こんなのどうだ?」
 悠頼が器用に、綿菓子雲を捕まえて、動物の形にして見せる。
「わあ、クマさん、かわいいです!」
 誰かに似ていますね、とアステが見た先には、小首をかしげて笑うかおるの姿。
「ぼくも!」「わたしも!」
 夢の住人にせがまれ、次々と綿菓子人形を生み出す悠頼に、歓声が上がった。
 
 終わらないお茶会を抜け出し、悠頼は不思議な森を散策する。
 奇妙にねじれた木々は、赤と白のしましま模様で、枝にはチョコレートのリンゴが実っている。
 細い枝をポキっと折ってみれば、それは美味しいキャンディー。
「甘いものは、しばらくもういいかな」
 苦笑する悠頼の視界に、白い影が飛び込んでくる。あれは、白ウサギ?
 吸い寄せられるように、悠頼はそれを追った。

◆罪には罰を
「さあ、あなたの罪を教えて?」
 真っ赤なワインが満たされたグラスを片手でもてあそびながら、ハートの女王‥‥江藤 ぴり花が問う。
 豪奢なドレスは、血に染まったような、深紅のベルベット。

 暗く、淀んだ天には、真っ赤な満月が浮かんでいる。
 雲の合間を、コウモリの群れが飛んでいく。ざざ‥‥と、遠くに潮騒。生ぬるい風が、頬を撫でる。

 ここは、石の廃園。女王の晩餐会は、裁判も兼ねているのだ。
 禍々しい、大きな鎌を手にした狐面の女は、処刑人だろうか。いや、伊東 命だ。
「私の、罪‥‥」
「そう。あなたの罪。ワインはお気に召したかしら?」
 女王はくすぐるような含み笑いで、命を見る。ごくり、と彼女の喉が鳴る。
「私は、以前は命を救うことを生業としてきたにもかかわらず、今は狂戦士として敵を血の海に沈めている‥‥」
 仮面の女‥‥「M」と名乗る彼女の紡ぐ「罪」を、女王は妖しげな微笑みを浮かべ、聴く。
「成り行きのままに、乱痴気騒ぎの中心に居るのは」
「罪かしら」
「ええ。ある意味、本能に忠実になってしまっているのかもしれません」
「本能に忠実なのは美しいことよ。生きるか、死ぬか。食うか、食われるか」
 羞恥と理性。両方を知ったうえで、ヒトとして、あるまじき行為への、愉悦。
「それが、私の罪」

 命の大鎌が、月光を浴びて、艶めかしくぬらりと光る。
「獣におなり。狐は生きて、豚は死ぬのよ」
 女王の宣告。
 天を仰いだのもつかの間、命の姿がぐにゃりと歪む。その姿は、白い狐と化していた。
 本能に従え、と内なる声が呼ぶ。走り出す。月に向かって叫ぶ。
 女王が、声をあげて嗤う。
「さあ、お次はどなた?」
 命には、もう何も聞こえない。

「ん、洋物の酒もなかなか旨いよってに」
 常滑 蜜が、ぐびりとワインを飲み干して、語る。
「酒といえばな。あての家はそこそこ歴史のある造り酒屋なんやけど」
 注がれるワインをすぐさま空にする。酔ったそぶりは、全くない。
 こないな酒で酔うもんか。
「古い蔵元や。でな、頭堅いゆうか。女のあてには継がせん言うんや」
 けったくそ悪い、と吐き捨てる。女王は何も言わず、静かに、笑みを湛えて聴いている。
「しまいには決めた相手と結婚しろやて! 何が嫌やて、そいつの造りよる酒が旨ない!」
 まくしたてる蜜に、同情するような視線をよこす、女王。
「もう、なんもかんも嫌で。酒も、麹も、造りかけのもんも‥‥」

 代々受け継いだものをすべて売り払い、蔵を空にし、終わらせてやった。
 破滅させた。壊してやった。思い通りにならないもの、すべて。思うままに。
 それが罪なら、罪でええ。

「あては自分勝手やから、好きなよう生きよる! 罪はあての愛人やわ!」
 ぼう、とかがり火が燃え上がる。
 翅に炎を宿した蝶が、火の粉のように舞い踊り、蜜の頭上を飛んでいく。
「罪を愛して罪と生きる‥‥うふふ、美しいわ。額に隠した角は、罪の証ね」
 はっ、と手をやると、額を貫くように、ねじ曲がった角が伸びている。
 ぬるり。この感触は、血だろうか。誰の血だろう? 自分の? それとも‥‥
「これ‥‥血やのうて」
 酒や。
 覚えのあるこの味は、確かに。失ったはずの、愛おしいにおい。
「猶予期間を使い切った罰よ。あなたは、なにものにもなれない。だって、捨てたんですもの」
「違う。捨てたんやない。あては、あては‥‥!」
 何か言おうと振り絞る、開いた唇は、涙のように溶けていく。
「美味しいお酒におなり。静かな絶望に耐えてきたこと、褒めてあげる」
 手が、体が透けていく。重力に抗えず、崩れ、流れていく。
 蜜を形作るすべてが、ぱしゃ‥‥んと、音を立てて、黒い石畳を濡らす。
 カラン、と残るは、ねじくれた角、一本。
「さあ、お次はどなた?」
 指に滴る雫を赤い舌でちろりと舐め取り、女王は嗤った。

◆虹の橋
 椋は「チェシャ猫」を探して、森を抜ける。
「イモムシさん、チェシャ猫を見ませんでしたか?」
 大きなキノコの上に座ったイモムシが、キセルで指さした先に、花畑が広がっている。
「ごきげんよう、アリス。猫なら、虹の橋にいるよ。あんたが探しているのも、そこにいるかもなのだよ」
 ありがとう、と礼を述べ、椋は歩を進める。
 探してるのは、鍵しっぽの猫。自分の幸せを探しに行ったはずの男の子。
 賢い子だけど、途中で迷子になっているかもしれない。
 彼は、幸せになれたのかな?

 考え事をしながら、椋がたどり着いたのは、虹の橋のたもと。
 そこには、大きな猫、小さな猫。老いた猫、子猫。いろんな猫が、順番を待つように並んでいる。
 手に手に、花を持って。

「おや、アリスが来たよ」
「ここに来てはいけないよ、アリス」
「花がないと、虹の橋は渡れないよ」
 猫たちが口々に、椋に言う。
「僕、探してる人‥‥猫? がいるんです」
 知りませんか、と聞く椋に、にゃーんと声をかける、一匹の子猫。
 探していた、鍵しっぽの子だ。
「何か、ご用ですかにゃん?」
 ああ、よかった。迷わずに、ここに来られたんだ。椋の心を、安堵の気持ちが満たす。
「ぼくを探してくれてありがとう。見つけてくれて、ぼくは、しあわせだよ」
 猫は言う。手に、白い花を持って。
「虹の橋を渡って、天国に行くんだよ。ぼくは、だいじょうぶ」
 みんな、順番に橋を渡るんだ。猫はそう言って、橋を指さす。
 橋を渡る猫には、天使の翼。
「ああ、ぼくの番だ。きみも、迷わないでおうちに帰るんだよ」
 鍵しっぽのチェシャはニィ、と小さく鳴いた。
 白い花は、翼になり、空に舞う。
「さよなら」
「楽しかったよ」
「ありがとう」
 猫たちは、椋に手を振って、次々に虹の橋を渡って、見えなくなっていく。

「‥‥よかった」
 亡くなった猫は虹の橋を渡るという。
 見届けた。それだけでよかった。
 ぽろり、こぼれた涙を拭って。

「僕の家族も、僕を探しているでしょうか‥‥」
 そろそろ帰らないと。でも、どうやって帰ろう? 
 椋の目に、ちらりと入り込んだのは、白ウサギ。
 さあ、追いかけよう。走れ!

◆光の向こうへ
「かわいいお供を連れているのね。一人は寂しい?」
 潤賀 清十郎は、傍らに控える二人の少年に気づく。
「まめです」
「ころです」
 どこか見覚えのある、子犬のような少年たちが、清十郎の両脇を守っている。
 ああ、彼らには幾度も支えてもらった。夢に翻弄され、現実との境を疑った時も。
 今も、もしかしたら。
 清十郎は、重い口を開く。
「罪は、たくさんあるけれど‥‥なあ、己の手に載り切らんもんを求める事は、罪やろか」
「うふふ、傲慢ね。見せてごらんなさい、あなたの手を」
 彼の両手を、慈しむように包み込み、女王は問う。
「あなた、人を殺したことがあるかしら?」
 びくりと心臓が跳ね上がる思いがした。押し黙る清十郎。
 くすくすと女王が笑う。
「あなたは、逃げてばかり。後悔ばかり。それが誰かを傷つけているのは、重々知っているくせに」
 幸せになってほしい人を、傷つけた。守りたいものを、守れなかった。
 手に余るものを、救おうと、掬おうとした。掌から零れ落ちるものを、どうしようもなく見送って。
 そうして思い知ったつもりだった。
 清十郎はかぶりを振る。
「望んでそうした訳じゃないんや‥‥選んで、できることを積み上げて‥‥」
 この手で救いたい。
 でも、もしかしたら血に汚れてしまった、この手で救えるものはあるのだろうか?

「無知は罪。弱さは罪よ。あなたが自信を持つ頃には、取りこぼしたたくさんの魂が泣き叫ぶわ」
 いつしか清十郎の周囲には、多くの影が纏わりついては離れ、ぐるぐると回って取り囲んでいた。
 宙を泳ぐ魚のような影たちは、半身が人の女の姿をしている。ああ、あれは。
 足元に波の音。昏い海が、清十郎を呑み込もうとしている。
 
 ざざん、と波が打ち寄せる。
 引きずり込まれる。叶わない現実に、このまま溺れるのか。
「‥‥それでも」
 わかっている。僕の罪を。僕は知っている。
 諦めかけたその時、彼の耳朶を打つ声が、響いた。
「清さん、呑まれてはだめです!」
「ぼくらがついてます!」
 少年らが、清十郎の両腕を掴む。押し寄せる波に抗い、救い出そうとしているのだ。
「まめ、ころ‥‥」
 生きなければ。目覚めなければ。
 現実は厳しい。それでも、かみ砕いて、理解して、少しでも前に進まなければ。
 しっかと手を取り合うと、纏わりつく水は赤い花に変わる。
 満開の躑躅(つつじ)の花が、ぱん、と音を立てて、彼らの周りに散った。

「自分の罪は、自分で裁く。いつになるかは、わからへんけど」
 ばらばらに散らばる花びらのなか、心を決めた清十郎が立っていた。
 もう悔やまない。目を逸らさない。向き合うのだ、すべてに。罪に。罰に。
 彼は舞う。ひょう、と風が沸き、天を清浄な光で満たす。強い法力の光が、影と光を分かつ。
「!」
 清い光に、目が眩む。やめて、と女王の叫び。
「きみは、女王? それとも、アリス?」
「? わたしは‥‥」
 闇の衣を剥ぎ取られた女王は、金切り声をあげた。世界が歪む。破裂する。

 むぃ~。
 女王だったものは、ポン、とバクの姿になって、光の中へ逃げて行った。

◆現実
 一同が目を覚ましたのは、湯屋の休憩所だった。
 むぃ~、と妙な鳴き声を残して、大きなバクの姿をした夢神様が、うっすらと湯気のように消えていった。
 
 妙な夢を見た。今は、それだけ。



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参加者

a.じゃあ、僕もアリスです。チェシャ猫を探すのです。
空木椋(ka00358)
Lv157 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
b.罪か…。罪は、たくさんあるけれど…。
潤賀清十郎(ka00609)
Lv268 ♂ 27歳 神忍 来世 大衆
a.白ウサギを追いかけてた気がするが…、こうなったらこの時間を楽しむか
由良悠頼(ka00943)
Lv263 ♂ 17歳 陰忍 来世 大衆
b.私の、罪…
伊東命(ka01412)
Lv243 ♀ 27歳 忍傀 来世 大衆
a.わー、皆、私も仲間に入れてー☆
アステ・カイザー(ka01612)
Lv172 ♀ 16歳 神陰 来世 異彩
b.モラトリアム……やな…
常滑蜜(ka01947)
Lv173 ♀ 22歳 武鬼 来世 婆娑羅