としわすれ/SUKIYAKI計画

担当 午睡丸
出発2016/01/23
タイプ ショート C(Lv無制限) 日常
結果 大成功
MVP 升田千絵代(ka00869)
準MVP 森住 ブナ(ka00364)
鬼頭 貴一郎(ka01182)





オープニング

◆歳忘
 忘年会――その正確な起源は明瞭としない。

 室町時代に記された『看聞日記』において、大いに盛り上がった連歌会を指して「其興不少歳忘也」――つまり「としわすれ」のように盛り上がったと記した一文が存在する。
 これは、この時代すでに「としわすれ」と呼ばれる民衆行事が存在していた事を示しているのだ。
 そうした様々な由来を持つ会合が長い時間をかけて融合し、明治以降になって現在の我々が知るような宴会へと姿を変えていったと考えられているのである。

登場キャラ

リプレイ

◆集う人々
「うおおおーっ! お肉っスよお肉ーっ!」
「やっぱ肉だよねぇー!」
 船宿の二階では用意された七輪の周囲を城田 真子とはずむが奇妙な振り付けで舞い踊っていた。
 どうやら久々の肉に感謝を捧げる舞を即興で考えたらしい。
「先輩もいっしょに踊りましょうよー!」
 その様子を遠巻きに眺めていた森住 ブナは、はずむの誘いにフッとニヒルな笑みを浮かべる。
「甘いよはずむん……確かに肉は美味しい。しかし時代は野菜なのだよ……」
 抑揚のない声でとつとつと語り始めるブナ。
「なにしろ食物繊維は腸内善玉菌のエサになって腸を整えてくれるし、肥満の防止にコレステロール上昇抑止、エトセトラエトセトラ……とにかく野菜は素晴らしいのだよ……」
 野菜を讃えるブナの様子に怪訝な視線が向けられる。
(これでまさか私が肉を狙っているとは夢にも思うまい……)
 不敵な笑みを浮かべるブナ。
「あわわ、ブナちゃん先輩が壊れました……。ど、どうしましょう鬼頭先輩……」
 助けを求められた鬼頭 貴一郎も普段のブナとは思えない言動に目を白黒とさせた。
「ま、まぁお肉ばっかり食べるのが良くないのは本当だしね……バランスよく食べるのが医学的にも良いんじゃないかな……そうだよね、升田さん? ……升田さん?」
「……え? ええ、そうね。すき焼きなんて久しぶりね」
「う、うん。それはそうだけど……大丈夫?」
 心ここにあらずといった様子の升田 千絵代は貴一郎の言葉に曖昧に微笑んで頷くだけだった。
「すまんすまん遅うなった。急に診てくれぇて頼まれてな。しかし美味ぁ肉が食えるいうのはホンマじゃろうのう?」
 ドスドスと階段を上がる気配に続いて、毒島 右京が開口一番ドスの効いた挨拶を告げる。
「バッチリっスよ先生。おいしそーな猪肉をゲットしてますよー!」
「おっ、猪すきなんぞ来世じゃ娑婆でもなかなかお目にかかれんけぇのう……って、この二人ぁどしたん?」
 右京はその風貌と相まって何か誤解を受けそうな例えをしつつ、普段とは明らかに様子の違う二人を指して疑問符を浮かべたのだった。

「はーい、おまたせー。準備オッケーだよー!」
 一階で下ごしらえをしていた遠田 きゆ遠野 絃瑞が具材や割下を抱えて上がってきた。
「お肉さまのご到着だしぃー!」
「まってましたー!」
 真子とはずむが中断していたお肉さまの舞を再開すると、きゆもそれに加わって踊り始める。
 期待が高まるなか、絃瑞が手際よく調理を進めていく。
「関東風ということで、醤油、日本酒、砂糖のシンプルな割下をご用意いたしました。すき焼きに大根を使うのは初めてなので、とりあえず軽く下茹でをしてありますが……」
「それで大丈夫っスよ。使える野菜が少ないんでギルドで聞いて回ったら、大根入れるって人がそこそこ居たんで思わず真似しちゃいました!」
 ちなみに、すき焼きに大根を入れるのは瀬戸内海沿岸の中国・四国地方と九州の一部で見られる食文化である。
 すき焼きは具材だけではなく調理法も各地方で違いが見られるがそれはさておき――。
 七輪にかけられた鉄鍋にまず猪肉と葱が投入され、程よく熱が通ったところで割下が注がれた。
 なんともいえない醤油の香りが室内に漂うと、来世人たちのボルテージは最高潮へと達する。
「あの……お手伝いします」
 邪魔にならないようにか千絵代がためらいがちに申し出ると、
「では、お願いします」
 と、絃瑞は快く微笑ったのだった。

◆激戦
「「「うーまーっ!!」」」

 全員が同時に舌鼓を打った。
「猪のお肉ってもっと硬いイメージだったけど、すっごい柔らかいね。んー! 幸せ……」
 きゆが瞳をきらきらさせつつ、もぐもぐと肉を頬張った。
 冬場の猪は脂肪と水分の蓄積量が四季を通じて最も多くジューシーで柔らかい。加えて処理が適切だったのだろう、臭みもなく濃厚な旨味が口のなかに広がった。
「いやー、これはたまんないっスね……って先生! お肉ばっかり取らないでくださいよー!」
「わしゃあ『肉肉野菜肉野菜』は絶対に譲らんぞ!」
「せんせい、おやさいもいっぱいたべないとだめなのですよ」
「……うっ」
 子供だけでなく、膝に乗せた座敷童子の槐にも窘められる35歳の姿であった。
「これは真子ちゃんもうかうかしてられないしぃ……って、あれ? いつの間にか大根が山盛りなんだけど?」
「あっ、あたしにも! 一体誰が……」
 真子とはずむが取った覚えのない野菜に驚く。
(ふふふ……気付いていないようだね!)
 それは全てを制する神の菜箸使い、きゆによる仕業であった。
「あ、でも大根もホクホクでおいしーっス! ……ってそれよりお肉を確保しないと。よし、もういい頃かなー?」
 鍋底に隠して密かに育てておいた肉を回収しようと目論むはずむの眼前で、その肉は何者かの箸に攫われてしまった。
「あっ! 誰っスか!? ……ってブナちゃん先輩? さっきから野菜ばっかり食べてると思ったのに!」
「ば~れ~た~か~! 耐えがたきを耐え忍び難きを忍び、いまNIKUが目の前にあるんだよ! 食べずにいられるわけがないじゃない!」
 ついにその本性を現したブナ。彼女は少量の野菜をカモフラージュにして大量の肉を裏でコッソリ食べていたのである。
「やれやれ。大事なお肉です、平等にお願いしますよ」
 絃瑞が具材を追加しながら苦笑した。彼は具材の量や割下の加減に常に気を配り、鍋を完璧に管理している。
「……千絵代様? あまり箸が進んでいらっしゃらないようですが?」
「……えっ? そ、そんなことはありませんよ」
「そうですか……? この辺など食べ頃ですよ」
 ぼんやりと絃瑞を見つめる千絵代に彼は頃合いの肉を取り分ける。『平等に』という言葉とは裏腹にそれはあきらかに大量であった。
「ありがとうございます……なんだか胸が一杯で」
 千絵代は取り皿を受け取るも、やはり心ここにあらずといった様子である。
「むむっ、千絵ちゃんに隙あり! その肉もらったー!」
 千絵代与し易しとみたブナが取り皿へと箸を伸ばすも絃瑞にぺしりと手を叩かれてしまう。
「それは千絵代様の分です。いま追加しますのでお待ち下さい」
「うおー! 肉だー! 肉をよこせーっ!! こうなったら呪禁道術でみんなの野菜の回避を禁じてやるぞー!」
 肉によって理性の破壊されたブナはもはや暴走寸前であった。
「な、なんじゃなんじゃ!」
「ブ、ブナちゃん落ち着いてー!」
「これはもう駄目っス! 無理矢理にでも野菜を食べさせないと!」
 ブナに組み付くはずむ。
「そ、それって逆効果じゃないの?」
「これ以上お肉を与えて野生を呼び覚ましたらダメっスよ!」
 納得したきゆも一緒になってブナに組み付いた。
「よし、俺に任せてよ!」
 貴一郎は阿修羅王真言を使って野菜を一気に放り込む実力行使に出る。
「……ハッ! 私はいままでいったい何を……いい味しみてるねこの野菜」
 口いっぱいに野菜を放り込まれたブナはようやくにして我に返り、人としての尊厳を取り戻したのだった。

◆あーん
 波乱の肉争奪戦も終わり、一同はゆっくりとすき焼きを味わっていた。

「冷えると思ったら雪が降ってきとるのぅ」
 船宿の主人に熱燗を用意して貰っていた右京が戻った。
 腹の落ち着いた彼は呑みに移るつもりらしい。槐はその膝を離れ、はずむと一緒に真子の指導でお肉さまの舞を練習している。
「大根と春菊だね……はいはい」
 貴一郎は連れの座敷童子である椿の世話でなかなか自分の分まで手が回らない状態だった。
「ちっちゃい子がいると大変だよね。……そうだ! 貴一郎さん。はい、あーん」
「えっ! いいの? ……なんか照れるなぁ。あーん……」
 気を利かせたきゆが貴一郎にも何か食べさせてあげようと、世に言う『はい、あーん』を始めていた。世の男性から妬まれること請け合いの光景である。
 しかし。
「……んむっ! はひっ! はひっ!」
 貴一郎の口内へと押し込まれたのはあっつあつの豆腐であった。
 猫舌の彼にとってこれはもはや凶器にも等しい。
「どう? 美味しい?」
「う……うん。ほいしぃ……よ」
 それを知ってか知らずかにっこり微笑むきゆ。貴一郎は天国と地獄を同時に味わったのだった。
「あーっ、いいな! きゆちゃん、私にも『あーん』してよー」
 先程散々『あーん』してもらった記憶はすでに消えたのかブナがせがむ。
「いいよー! じゃあ目をつぶってね」
 きゆはブナが目を閉じたのを確認すると、副菜に作っておいた千切り大根サラダを食べさせる。
 ポリポリと音を立てて生の大根を齧るブナ。
「こっ……これは!」
 クワッと開かれる目。
「ふっふっふっ……そうよ大根泥棒ブナちゃん! これは貴女が盗んだものと同じ畝作ブランド生大根。記憶になくとも舌は覚えているはず! 言い逃れはできないはずだよー!」
 セリフと共にビシっと指さし、ブナの隠された(?)犯罪を暴いたきゆ。
 果たして彼女は断罪の女神なのか?
 対するブナは俯いたまま小刻みに震え、一見過去の過ちを反省しているようにも見えるが……。
「わーっはっはっはっ! 甘いよきゆちゃん! これが忘年会なのを忘れているようだねっ! どんな悪事も年忘れ……私は過去を振り返らない主義なのさっ! そう、決して学習しない女なんだよー!」
 そう宣言しつつ大根サラダをポリポリと完食するブナの前に、きゆの作戦は儚く敗れるのであった。

◆告白
 そんな宴会芸状態を背に、千絵代は窓辺に座って雪の降る外と絃瑞とを交互に眺めていた。
 手にしたグラスに注がれたウィスキーは一向に減る気配がない。
「大丈夫? やっぱり変だよ、今日の升田さん」
 あきらかにおかしい千絵代を見かねた貴一郎が声をかける。
「うん……私ってダメね。今日こそは勇気を出そうって思ってたのに、あの人の近くにいるだけで幸せで……逆に怖くなったのよ。このまま何も言わずにいれば、少なくともこの関係のままなんじゃないか……って」
 普段とは違い弱々しい笑みを浮かべる千絵代と、その視線の先にいる絃瑞の姿を繋ぎ、貴一郎はようやくに彼女の煩悶の正体が解った気がした。
「……俺が口を出す事じゃないかも知れないけど……升田さんはいまのままでもいいの?」
 貴一郎の問いかけに、千絵代は目を伏せると弱々しく首を振った。
「だったらたぶん、その先に待ってるのは後悔だよ。なら……行動するのとしないのとじゃ、後悔の質が違うんじゃないかな?」
 無責任なこと言ってごめんね、と貴一郎は謝った。
 千絵代は暫く目を閉じてその言葉を反芻していたが、唐突にウィスキーをグラスになみなみと注ぎ、それを一気に飲み干した。
「ちょ、ちょっと升田さん!」
「貴一郎君、ありがとう」
 急速に赤みのさした頬で立ち上がると、千絵代は変わらず鍋の管理を続ける絃瑞の元へと歩み寄る。
「千絵代様……? よかった、お加減はよろしいようですね。なにか召し上がりますか? もう具材は少ないですが、ご主人に言えば何か用意して……」
「わ、私を具材にしてください! ……っ、いえ、あの……」
 しどろもどろになりつつも絃瑞の手を握る千絵代。
「か、身体の丈夫さには自信があります。子供も大好きです。化粧も料理も下手だけど一生懸命頑張ります……。だ、だ、だから、生物学的に私とツガイに……いえ」
 ようやく千絵代は今日初めて正面から絃瑞の目を見た。

「私と結婚しませんか?」

 数秒の静寂が、まるで永遠に続くように思われた。
 室内の全員が二人の姿を固唾を呑んで見守っている。
「具材……そう、具材でしたね。わたくしも……千絵代様が他の誰かに食べられてしまっては困ります……いえ、そうではありませんね……」
 傍目には解らないが絃瑞は混乱していた。千絵代が何を言ったのかまったく理解らなかったのだ。
 しばしの沈黙の後、絃瑞が口を開いた。
「千絵代様のお気持ちは、確かに。ですがいまはこのように宴の席。……少しお時間をいただけますか? 必ず、改めてお返事をいたします」
 その言葉を最後まで聞いたか聞かずか。
 千絵代は顔を真っ赤に染め上げながら後ろに倒れ込んだのである。

◆二人
「申し訳ございませんが、後はお願いします」
 完全に酔い潰れた千絵代を背負った絃瑞が一同に告げる。一足先に送っていけと皆に急かされたのだ。
「ああ、気にすんな。雪が酷ぉなる前にいったいった」
 右京に追い立てられ、絃瑞が一礼すると船宿を後にした。
「よろしくねー! ……って、千絵ちゃん大丈夫かなー」
 二人を見送るブナが心配そうに言った。
「きっと大丈夫っスよ! さぁ椿ちゃん槐ちゃん、きゆちゃん先輩の作ってくれた大根餠があるから食べよっか。あ、城田先輩、何か踊りを教えて下さいよー!」
「ふふーん、お安いご用だしぃ!」
 座敷童子らと連れ立って二階へ戻っていく来世人たち。
「さて、じゃあ俺は後片付けをすましてこようかな」
「……ふふっ」
「……どうしたの?」
 貴一郎が振り返るときゆが微笑っていた。
「忘年会なのに、忘れられないことが増えたなぁって」
「いいんじゃないかな。忘年会って、嫌なことは忘れて良かったことは忘れないようにする意味もあるって聞いたよ」
「そっか。うん、それがいいね!」
「きゆちゃんはどんな年だった?」
「そうだなあ。このままずっと続けばいいなって思うような……とっても良い年だったよ!」
 再び外に目をやると、道を行く二人を雪が覆い隠してしまっていたのだった。



 6
ツイートLINEで送る

参加者

a.美味しいものを美味しく食べたい、故に。きゆ、いざ参らんっ!(菜箸構え)
遠田きゆ(ka00206)
Lv261 ♀ 15歳 神傀 来世 異彩
z.肉、肉と言ったかーっ!!(肉を狙い撃ちにしようと目論みます
森住ブナ(ka00364)
Lv166 ♀ 15歳 神陰 来世 異彩
a.仕切るつもりはございませんが、皆様愉しく過ごせたら幸いに存じます。
遠野絃瑞(ka00651)
Lv153 ♂ 28歳 武忍 来世 質素
z.真子ちゃんも肉食べるんだし!邪魔すんなし!(肉争奪戦参加します
城田真子(ka00801)
Lv169 ♀ 21歳 神陰 来世 麗人
b.私、具材になりたい…。でもきっと硬くて塩味で美味しくないかな…肉食だし
升田千絵代(ka00869)
Lv178 ♀ 25歳 武陰 来世 異彩
a.仕切るつもりはないけど、ある程度バランスよく食べようよ、ね?
鬼頭貴一郎(ka01182)
Lv119 ♂ 17歳 忍僧 来世 大衆
a.野菜も食べちゃるが、「肉肉野菜肉野菜」は譲らん!肉優先じゃ!
毒島右京(ka01318)
Lv221 ♂ 35歳 陰僧 来世 大衆