夕暮御碕

担当 恵雨人
出発2016/02/02
タイプ イベント C(Lv無制限) 日常
結果 成功
MVP 潤賀清十郎(ka00609)
準MVP 遠野 絃瑞(ka00651)
升田 千絵代(ka00869)





オープニング

◆日御碕にて
 みゃあ、にゃあ、と声がする。
 確か、ウミネコとかいう鳥の鳴き声だ。誰かが思い出したようにそう言った。
 空はけぶったような色をしていた。澄んでいるようないないような、冬の夕暮れの色であった。まだまだ青みは強いものの、空の下に広がる青に比べれば、随分とくすんだような色をしていた。
 そしてその、空の下に広がる青。その正体は海であった。しかしこちらも、抜けるような青さとは縁遠い。重い重い、黒ずんだ青。波の穂の白の際立つ青。冬の、鉛のような色をした海。
 それらを見渡すこの場所も、砂浜などという生易しい環境ではなかった。岩の上。それも、切り立った岩の上。水面は遠く、当然ながら空も遠い。岩はひたすら鈍色をして、ところどころ、明るい灰色や白色をした、柱のような石が立ち並ぶ。

登場キャラ

リプレイ

◆舞
「行ったな」
「行きましたねぇ」
 ウミネコを見に行くと言い、駆け出していった二人分の背中。とはいえ勢いの良かったのも最初だけで、十数秒後には、二人は走るのを止めていた。そんな姿ですらどことなく微笑ましい。
 遠ざかる背中を見送って、村正一刀は改めて境内を見た。同じく振り返る茂呂亜亭萌瑠。二人は親類であり、先程までここにいた二人もまたそういった関係の者であった。
「まさか、一刀さんたちまで来てたとは」
「萌瑠もな」
 再会はあまりにも思いがけないものであった。萌瑠としては、寛永に来て行方不明になっていた妹と再会したと思ったら‥‥という事態だったのだ。一刀にしても、状況はさほど変わらない。
「いやはや、こういうのも世界は狭いというべきですかねぇ」
「如何せん、時代が違うからな。その上でこうして出会ったのだから、世界が狭いというよりは‥‥」
 何か違う気がする、と一刀は首を傾げる。が、それではどのようなことばで表わせばいいのか。それは果たしてわからない。人が違う時代に飛ばされて、飛ばされた先の時代がたまたま同じで、そこでまためぐりあうだなんてこと。
 そんな取り留めもない話を、しかししみじみと、ゆったりとした空気の中で交わしつつ、二人は境内を進んでいく。
 神殿はどうやら工事中で、あまり長居はできないようであった。が、参拝は問題なく済ませることができ、二人は工事の邪魔にならない、多少ひらけた場所に出る。
 そこで、一刀が呟いた。
「神楽舞の奉納、やってみるか」
「奇遇ですね、私も考えておりまして」
 神凪らしく、興も乗ってきたことであるし。一刀の提案に、萌瑠はきょろきょろと周囲を見遣る。
「舞っても問題はないでしょうか」
「迷惑にならないようにだけ、気をつけようか」
 楽の調べは一切ない。ふと気が向いたからそうしよう、と実行することであるから、ないものだらけなのは確かであった。
 しかし、ないものばかりだけではない。何かがなければ、別の何かで代用することだってできる――海辺より聞こえるウミネコの声。みゃあ、にゃあ、とばらばらに鳴いている声が集まると、まるで一種の曲のようにも聴こえてくる。
 自然の生み出した律動。それに耳を傾けて、静かに舞ってみせるのはどうだろう。
「では‥‥一刀さんほど、踊りは上手ではありませんが」
 巫女装束の裾を揺らし、萌瑠も舞の姿勢に入る。舞に込めるものは、必勝祈願と安全祈願。何やら不穏な気配も漂っている。そうした憂いを少しでも断てるように、と。
 彼は、それから彼女は舞う。神社の中でこそなかったが、どこからか、誰かが見守ってくれているような、そんな気分が胸中にはあった。

◆描
 風間太郎は、神社の裏手の坂を上り、経島をとてもよく見渡せる場所に荷物を降ろした。
 坂道ではあるが、その中途に、ちょっとした空間がひらけている。ここなら通行人の邪魔にもならないだろう。その上、島がよく見える――島の頂上に堂々と、真っ直ぐと立つ鳥居も。
(あれを生かしたいな)
 彼の目的は絵を描くこと。彼の中での名作と呼べるような仕上がりになればいい。脳内で構図を練りながら、太郎はキャンパスを広げていった。
 最優先は全体の構図。のどかでありながら、ウミネコや、先の鳥居などを生かした緊張感も持たせたい。目指すは写実的な一枚だ。
 頭の中で案を練り、少しずつ、画布の上にもそれを組み立て、積み上げていく。折角こんなにもいい景色があるのだ、いい加減に描くのはもったいない。
 描く速度はのんびりであっても、絵自体の完成度は完璧に近づけていきたい‥‥いざとなったら機巧を飛ばすのも手かもしれないと考えていた。連れてきたのはオニヤンマの形をしたそれであり、大きな眼でもって景色を見たら、それはそれで新たなる視点を得られそうであった。
(ある程度描けたら、誰かに見てもらおうかな)
 そうすることで、彼の絵は完璧に近づくだろうから。
 太郎は改めて島を見て、それから、飛び交うウミネコたちを描きはじめた。

◆語
 さくり、さくり。
 現世であればきっとそれなりに舗装もされているであろう坂道を、田中カナタは歩いていく。今の足元は土と石、それから枯れた草の色をしていた。
「まさか、映画の主人公みたいに、タイムスリップして鬼退治していたとはねー」
「鬼だけじゃないですけどね。それより、カナタさん」
「ん?」
 隣を歩くのは土方萌。こういった道は寛永の世では珍しくなく、一周回って歩きやすい、とも彼女は感じてしまっていた。この時代に来てから、ちょっとした時間が経ってしまったものだから。
 カナタと萌は親戚同士で、かつ、歌手の仲間でもあった。アイドルユニット『Frsh!GUMI』‥‥そのメンバーが、来世から突如消えてしまった。そうとなれば、来世で何が起こるかの予測はそれなりに立ってしまうもので。萌は恐る恐るカナタに問う。
「私らがいなくなって、来世は大丈夫なのかな?」
「あー‥‥そのことだけどね」
 問われたカナタは「やっぱり」という顔をしつつ、彼女が来世からこちらへやってくるまでのことを話し始めた。勿論、話の始点は萌の行方不明事件からだ。
 今を時めくアイドルの消失。彼女がいなくなってから、ファンの人々は大掛かりな捜索活動をしている。
「そうしたら、私までこっちに来ちゃったわけでして‥‥」
「うーん‥‥帰ることができれば、すぐにでも帰りたいですけど」
 それができないから困りものなのだ。
 萌が吐息を吐きだせば、それは真白いもやとなる。それからすぐに、空中にとける。
「帰れないんじゃ、しょうがないしなー‥‥」
 できないものはできないのだ。だから、仕方がないと切り替える。
 それが萌という人のやり方。他方でカナタという人は、萌よりもう少し、いやかなり呑気な想像に耽っていた。
「でもさ」
「うん」
「これ、もしも元の時代に帰れたら映画化決定じゃない?」
「えっ」
 映画化決定。来世でやたらと耳にしたフレーズであるが、まさかここでそんなことばを聞くことになるとは。萌はカナタの熱弁に耳を傾けざるを得ない。
「突如、寛永の世にタイムスリップしてしまった二人のアイドル! ステージの上で魅せていた戦いを、今度はー‥‥えっと、何相手にしようか。鬼?」
「鬼でもいいけど‥‥それじゃあ、例えば‥‥」
 が、聞くだけの時間はあっという間に終わってしまう。
 この時代に降り立ってからまだまだ日の浅いカナタのために、彼女はこれまでの事件を大雑把に説明していく――このまま話が続くようなら、どこかで座ってゆっくり語ろう。萌はそう思い、まだまだ続く路を見上げた。

◆奏
 ジャジャンッ、とアコースティクギターの音が鳴り響く。
 そこにいたのは九条鰤々之進であった。視線の先には経島とウミネコ。
「相手はきみたちしかいないかもしれないが‥‥いい感じのカップルを見かけたんだ」
 彼らがこのあたりまでやってくるには、もう少し時間がかかるかもしれない。
 しかしそれで構わなかった。楽の音は、ちょっとした距離を渡ることができるから。
「聴いてくれ、来世の歌を」
 そう言って、彼は一曲目を弾き語り始める。
 贈り物。それは、形にできるものばかりではない。それから、贈り主の心もまた大切である。
 如何に相手を思っているか。それがそのまま、贈り物としての輝きになる――とはいえ、この歌を聴いてくれているのは、主にウミネコたちなのだが。
 果たしてウミネコは贈り物をするのだろうか? なんてことを考えつつも、鰤々之進は止まらずに、次なる一曲を口ずさむ。
 人には己おのれの事情もあり、胸に抱えた思いもある。そういったものを伝えるのには、きっと勇気だって要るだろう。
(こうやって一人で歌うのだって、勇気が要るっちゃ要るけれどもな)
 だがそれは、今の鰤々之進にとっては些細な勇気だ。自分の紡ぎ出した旋律によって、誰かの勇気の後押しができたらそれでいい。
 彼の奏でる熱い音色は、赤い夕暮れに響き渡った。

◆結
 彼女の花のバレッタは、冬の景色の中でも凛と咲き誇っていた。
 升田千絵代の前に差し出されるのは、遠野絃瑞の手。
「足元にお気を付けを」
「‥‥はい」
「夕陽の見える場所につきましたら、温かい紅茶を、と」
 あまりにも自然に差し出された手に、千絵代もまた、自然と手を差し出してしまう。重なる瞬間、その時だけ微かに指先が震える。
 彼女は震えていた。愛していると告白したのはナマハゲの前、それから酒の席で勝手に求婚をして今に至り‥‥勢いのまま、ここまで転がってきてしまった。
 ウミネコの鳴き声がする。足元は決して安定してはいない。悠長にお喋りしながらの道行きとは程遠い。けれどもことばがあふれてくる。
「ウミネコの求愛は、ミュー、ミューっていう鳴き声なの」
「そうなのですね」
 語りだされたことばの列を、絃瑞は丁寧に拾っていく。
 千絵代は沢山のことばを胸に秘めていて、歩きながら、それを一つずつ解いていく。
「ごめんなさい。遠野さんが、私のこと、好きだと思ってた」
 自分のことになると周りが見えなくて、相手の気持ちも考えず、彼女は思いを伝えてしまった。
「ウミネコみたいに求愛して‥‥いきなり結婚して、なんて、いい迷惑ですよね」
「‥‥」
「大丈夫。迷惑だったら言ってください、私は打たれ強いから」
「‥‥いえ」
 絃瑞はそこで口を開いた。続けてください、と。
 ウミネコの声、楽器の音色。音に音が重なる世界で、千絵代は真っ直ぐに絃瑞を見た。
「私は貴方を愛してます。何時までも、貴方の側にいたい」
 その頃にはもう、二人の歩みは止まっていて――先にことばを放ったのは、絃瑞であった。
「わたくしは、うぬぼれてもよいのでしょうか」
「え‥‥」
「こうして寛永の世で貴女と出会うなど、普通の人生を歩んでいたならあり得なかったかもしれません」
 ですから、これは運命と思ってよいのでしょうか。
 偶然とも運命とも解せる出会いを、彼は後者として解釈した。
「必ず、お返事すると申し上げました。約束を反故にすることはございません‥‥が、婚姻に至るには、まだ少しお時間が必要かと存じます」
「え‥‥それは、つまり‥‥」
 千絵代の顔が赤いのは、夕陽のせいか、それとも別か。
 絃瑞のことばの真意を辿り、彼女は己の導きだした答えが正解であるように祈りながら、眼前の男のことばを待つ。
 彼の提示した答えに、曰く。
「まずは結婚を前提としてお付き合いを、で如何でしょう。改めまして、不束ではございますが」
「‥‥」
「こんな男で、宜しければ」
 夕陽を前に、二人は並ぶ。絃瑞の肩に、バレッタの咲く千絵代の頭がもたれかかる。
 二人は景色に願いを乗せる。来年もまた、二人でここに来られますように、と。それから――どんな夜であろうとも、二人で越えていけるように、と。

◆歩
(今年も、もう終わりなんやねぇ)
 潤賀清十郎は、そんなことを思いながら階段を上る。
 日御碕といえば、素盞嗚尊と天照大神とを祀っている。二柱の名を冠した舞を習い得ている彼にとり、お世話になっていると言っても過言ではない。
 社はどうやら工事の手が入っているらしく、あちらこちらに名残りが見られる。木材、工具、しかし人影は見当たらない。年末ゆえの状態であろう。
 社は平成のそれとは違い、少し離れたところの灯台も当然存在しない。
(けど、鳥居はある)
 ここから先は神域であると、訪れたものへと告げるために。
 堂々と立つそれは、いくら時を経ても変わらないような錯覚を彼に抱かせた。こんな風に、記憶にあるものとないものが混ざり合うこと自体が、まるで不思議な感覚なのに。
 すべきことも特になく、あまりにも静かでたまらない時。彼は、無性に叫びだしたくなる。
(‥‥少年でもなし)
 人の目もあるため、そんなことができる訳はないが。
 それでも、思いは胸の中で熟し続ける。帰る道は近づいているのかどうか。そういった方向へと、己は歩めているのかどうか。
 しかし、清十郎にはそれしかできない。それしかできないものだから。
(いつか彼方へ戻った時、同じこの場所に来る、ためにも)
 明日――来年からも、歩み続けていこうと思うのだ。



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参加者

c.カナタさんとウミネコを見に行きますね。
土方萌(ka00069)
Lv140 ♀ 18歳 武神 来世 異彩
a.寛永15年も、もう終わりなんやねぇ…。
潤賀清十郎(ka00609)
Lv231 ♂ 27歳 神忍 来世 異彩
b.こちらこそ。喜んでご一緒させていただきます。宜しくお願い申し上げます。
遠野絃瑞(ka00651)
Lv156 ♂ 28歳 武忍 来世 質素
b.この間はごめんなさい…。迷惑かけて…。あの一緒に海猫眺めませんか?
升田千絵代(ka00869)
Lv181 ♀ 25歳 武陰 来世 異彩
z.ウミネコよ、俺の歌を聞いてくれ!(勝手に一人で弾き語り)
九条鰤々之進(ka00875)
Lv199 ♂ 30歳 武忍 来世 傾奇
a.このいい景色を絵に描こうかと
風間太郎(ka01079)
Lv198 ♂ 19歳 忍傀 来世 質素
b.よろしくお願いします。
茂呂亜亭萌瑠(ka01356)
Lv145 ♀ 23歳 神傀 来世 麗人
b.神社で、舞神楽を奉納するかな。
村正一刀(ka01389)
Lv181 ♂ 23歳 武神 来世 異彩
c.よろしくお願いします。
田中カナタ(ka01429)
Lv148 ♀ 18歳 武陰 来世 異彩