地獄より、君へ捧ぐ

担当 灯弥
出発2016/05/11
タイプ ボイス B(Lv150以下) 冒険
結果 大成功
MVP 花織ひとひら(ka00978)
準MVP 藤枝 桜花(ka00569)
ヤームル・アイマーヴィ(ka00918)





オープニング


 絵筆を取ったきっかけは覚えていない。
 ただ、物心ついた時にはすでに自分にはそれしかなかった。
 楽しみがあれば、哀愁を覚えれば、感じた感情を狭い紙に描いた。

 少年には絵の才能があり、それを見抜いた彼の両親は彼の将来に期待をしていた。

登場キャラ

リプレイ

◆全編通して再生



◆オープニング




「あれが例の絵師の家……か」
 荒れ果てたあばら家を見留め、由良 悠頼が声を洩らす。
「男は家からは出ないって話だが――何かの拍子にって事もある、これ以上誰かが犠牲になる前に終わらせよう」
「外道に落ちた絵師か……」
 悠頼の言葉に呟いたのは、難しい顔をした藤枝 藤花だった。
「ただ己の理想を絵に託していただけなんでしょうが……その果てがこの結果か」
 自らも画家であるから、物を描く身であるから、此度の件には思う所がある。
「じゃあ行きましょうか」
「待って下さい」
 藤花の言葉を遮ったのは、花織 ひとひらだった。
「彼を外へ誘き出す事は出来ないでしょうか? ……彼を眠らせる前に、家の中を調べてみたいんです。何故彼がそんな凶行に至ったのか……何か、彼がそうなってしまった出来事を示すものがあるかもしれません」
「それはわしも気になっていたのじゃ。生前も死後も非道を働いた者ゆえ退治するのはやむなし、としても、何故そう至ったのか、分からぬままではスッキリせぬ。モデルになったおなごの事や絵師自身の手記などがないか探してみたいぞえ」
 ヤームル・アイマーヴィが彼女に続けば、他の者らもそれに同意する。
「なら、絵師の成れの果ては私が引きずり出すわ。獲物が近付けば襲ってくるんでしょう? むしゃくしゃしてるから手荒になるかもしれないけどね」
 田中 愛鈴がそう申し出、戦闘は外で行う事となった。
「まあ中で戦って家が倒壊しても困るしな……」
 悠頼らは女幽霊を、愛鈴らが絵師を担当する。幾つかの打ち合わせの後、来世人らは絵師の家へと足を踏み入れた。
「……埃っぽいですね。絵を描くだけで、保存する概念というものは残っていないのでしょうか……」
 先行して室内へ入るのは藤枝 桜花だった。さして広くもないその中で、『彼』を見つけ出すのは至極簡単だった。
 酷い匂いが鼻を突く。生き物の腐るようなそれの奥に、絵師だった男は座っていた。
 黙々と、ただ、何かを描く姿は、きっと生前の彼と何も変わらないのだろう。
(あの絵師の次は、私の番でしょう……でも、その前に、この地に平和を取り戻してみせる)
 その姿に、大門 豊は心中で思う。
 あれは、人だ。人間であったものだ。
 物言わぬ骨の塊となっても尚、その行動には意思がある。
 その意思を奪い、断罪する。彼女が自ら選んだ道だった。それは自分が生きる限り、貫き通すべき道だった。
「さあ、相手して貰いましょうか。……あんたには言いたい事もある。嫌も拒否も却下よ!」
 愛鈴がつかつかと歩み寄り、その汚れた絵筆を取り上げる。
 ぎぎ、と見上げられた二つの空洞は暗く、奪われた筆を取り戻そうと狂骨が立ち上がった。
「作品を汚す事は本意じゃないでしょう? 外に出ましょう。……同じ絵師としてこの物語に終止符を打ってあげる」
 言いながら、藤花は室内に散らばる無数の絵を目に留めていた。
 言葉を理解しているのか、いないのか。
 物言う器官を亡くした男は、駆け出した愛鈴を追って、動き出した。



(かの女性の血で絵を描いて以降のことは……彼にとっては、酷い話ですが蛇足なのではないでしょうか)
 殺害に関して思う所は実はあまりない。モデルであった彼女が死して尚も傍に居ると言う事は、同意の上の殺人であった可能性もある。
「自我がまだ残っているのなら……聞いてみたい所ではありますが」
 始まった戦闘の中、桜花は骨の男の動きを冷静に観察していた。
「蛇足ならば終わらせてあげないと――、それが私に出来る最善ですから」
「そうね」
 刀を構える桜花に、答えたのは彼女の母である藤花だ。
「……より自分の求める絵を。同じ画家として正直その心情分からなくも無いけど……でも私は外道に落ちる程柔じゃ無い。誰も傷つけず最高の作品を作り上げてやるわ。貴方にその作品を見せられないのが残念だけど、此処で落とし前つけさせて貰うわ」
 襲いかかってくる狂骨を迎え撃つ二人の前方、丁度男を挟むように布陣した愛鈴が、不機嫌さを隠しもせずに強化の魔法を成就させる。
「血で絵を描くなんてトチ狂ったことしてた理由、私にはわかんないわよ。美学? 芸術? 正直どーでもいい。……けどなぁ、それがどんなに素晴らしくても、そーゆーのは他人様の迷惑にならない範囲で……自分で責任がとれる範囲でするべきっていうのが私の信条なんだよ」
 元より退魔の力を持つ三鈷杵を握り締め、煮えくり返るような感情のままに、骨の男に叩き付ける。
 骨を守る肉は最早なく、その一撃は男の左手首を簡単に砕いた。それでも怒りは収まらない。
「その絵のモデルになった被害者さん? その人は個人的に関係があったみたいだから、調べたら特別な事情とか浮かんでくるのかもしれねーけどな、他の被害者にとっては、絵の具にされるとか大迷惑だからな? そんなに血が使いたいなら、まず自分の血でも使ってろ!」
「全くね。……貴方はやり方を間違えた。生きてる内に、それに気付くべきだった」
 彼と同職である藤花は気付いていた。今の一瞬、『彼』が利き手を庇った事を。
 自分でもきっとそうしただろう。右手が無ければ筆が持てない。彼は、今この時でも、絵師であるのだ。もう、何もかも遅すぎる事なのだけれど。
「自我があるかの判断は付きませんが……対話は不可能でしょうかね。まあ、話は足りぬくらいで終わるが重畳、……さっさと終わらせてしまいましょう」
 元より大した敵では無い。一思いに、と告げた桜花が太刀を向ければ、髑髏は本能的にか、一歩後ずさった。
「何の未練があって、髑髏になってまで絵を描いてるのかは知らないけども、公害以外の何ものでもないから大人しく成仏しとけ! 陰気くさい!!」
 愛鈴が再度、武器を振るう。――その時だった。
 現れた黒髪の女が、男を庇うように手を広げ、愛鈴の前に立ちはだかった。
「……こちらは、私達が。狂骨を逃がさぬよう、お願いします」
 動きを止めた愛鈴の代わりに、女に対峙したのは豊だった。
 その後方には、支援に徹する悠頼が控えている。
(同意の上か、それと今も縛られているのかと思っていたが……どうやら望んで男の傍にいるみたいだな)
 女の腕には火の玉を纏った赤子が抱かれている。
 ああ、ひょっとしてと、誰もが事実を感じ、けれどそれを口にする事は無かった。
「……皆さんを調伏に来ました、大門豊です。ごめんなさい。殺された皆さんの無念は察するに余りあります。痛かったでしょう。辛かったでしょう。でも」
 始めに口を開いたのは豊であった。それは予め用意して来た言葉。けれど、最後まで紡ぐ事なく、一度長く息を吐いた。
「……やめた。やることやるけどごめんなさいも無いですね。私は平和の為に皆さんを討ち、私の正義を貫きます。たとえそれが、血塗られた覇道であっても!」
 どんな理由があれ、引き返す訳にはいかない。
 それは自分達も、彼らとて同じだろう。
 犠牲者はもう出てしまった。ならば、その芽を摘み去るのが、来世人である彼らにとっての使命であった。



「これも……、これも、血で描かれて……そんな、ことが」
 外の喧騒を聞きながら、ひとひらは室内の絵に祈るように目蓋を伏せる。
 至る所に散らばる絵は、聞いていた通り一人の女性を描いたもので、たった今描かれていた絵の中にも、同じ女性が佇んでいた。
「こんなにも優しげな絵を描ける者が……」
 絵を手に取ったヤームルが思わず呟く程に、女性の表情は美しく、穏やかであった。
 これは事実か願望か――どちらにせよ、こんな絵を描く者が、この彼女を殺すなど、考えられないと思った。
「死してなお絵を描き続ける程の……強い想い、執着するものがあったのかの……?」
「探しましょう、彼の想いや理由が……きっとある筈です」
「うむ」
 朽ちかけていたこの屋敷であったが、外観に比べ室内はさほど荒れてはいない。
 きっと、彼が死んだその時のままなのだろうと、二人は室内を調べ始めた。
「ひとひら、これを」
「随分汚れていますが……日記、でしょうか?」
 そうしてヤームルが見付けた紙の束は、日記帳とも言えぬ程お粗末な紙の束だった。
 物を描く人間の性なのか、それとも自らの想いを語る相手がいなかったのか――分厚いそれには、生前の『彼』の想いが記されていた。
「……さやに上手だと誉められた。赤い色は嫌いだと言った俺に、赤は朝日の色だと。一日が始まる色で愛しい色だと笑った。赤は秋の色だと。季節の巡りを教えてくれるその色が恋しいのだと。嫌いだった赤色が、少しだけ好きになった」
「……っ」
 ヤームルの読み上げる男の手記に、ひとひらの眉が下がる。さや、と言うのは、きっと――きっと彼女の事であろう。
「さやはよく笑う。口下手な俺の話を飽きもせず聞いて、その度楽しそうに笑う。俺が絵を見せるととびきり喜んだ。俺には絵しかなかった。だから絵を描いていた。だけど、さやが喜ぶのなら、さやの為に絵を描こうと思う」
「……お二人は、好き合っていたのでしょうか」
「そのようじゃな、……その後二人は夫婦となり、子供も産まれたと書いてあるぞえ」
 長い長い手記は、幸せに満ち溢れていた。
 如何に彼が彼女を想い、愛していたか、そんなものは、この絵を見れば痛い程に伝わってきた。
 そして幸せは突然、無くなってしまう。
「文字が随分荒れておるな……なになに、さやが、血を吐いて倒れた。俺に心配かけまいと元気に振る舞っていたようだ。医者にかかる金なんてない。どうすればいい。信じられない。――おいていかないでくれ」
 息を飲んだひとひらが、言葉を飲み込んだヤームルの手元を覗き込み、代わりに荒れた男の字を読み上げる。
「……さやが笑わない。俺の絵が好きだと言っていたのに笑ってくれない。この赤は嫌いか? ならもっと綺麗な色を探すから、そうしたら笑ってくれるか」
 きっとこの頃には狂い始めていたのだろう。彼女を喪った悲しさで、寂しさで。
 手記は更に続く。それは男の叫びのように思えた。
「さやが腐っていた。虫が湧いて痛そうだ。とってやると、中からも虫が這い出てきた。腹が立つ。赤子の泣き声が煩い。さやは静かな場所が好きなのだ。泣き声のもとを押さえ付けたら静かになった。ああ、さやはまだ笑わない。俺の絵が下手なせいだ。昔はもっと上手だった気がするのにな。何が悪いのだろう」
 手記は、そこで終わっていた。
 そこからは自分達が知る結末なのだろう。狂った彼は凶行に走り、人を殺した。そして絵を描き続けた。死した今も尚。



「何故その男を庇う? 殺されたんじゃないのか?」
 男と違い、女幽霊に戦う意思は無いように見える。
 対話は可能かと悠頼が声をかけるも、女は悲しげに目を向けてくるだけであった。
「同情はしますが、見逃す訳にもいきません。せめて、安らかに送ってさしあげましょう」
 豊が、愛剣カトラスに力を籠める。彼女に戦う意思が無いとしても、恐らく狂骨の凶行は彼女がいる限り止まらない。
 骨の男を仕留めれば、この彼女とてどう動くかも解らない。
 元より死んでいる身ならば、あるべき場所へと送る事が、彼女に出来る唯一の誠意だった。
「待って下さい!!」
 剣が振り下ろされる瞬間、ひとひらの叫びが響き渡った。
 女の姿を見留めた彼女は、一心にそちらへと駆ける。
「貴女は、さやさんですね?」
 ひとひらの言葉に、初めて女の表情が変わる。はっとしたようなそれに、声は届いていると確信する。
「おぬしも苦労したな。……己のせいで夫があんな風になったとあらば、おちおち寝てもいられなかったじゃろう」
「……さやさん、笑ってあげて下さい。彼は、貴女の笑顔が大好きだったんです。……それだけを守りたかったんです」
 何かを知った様子の二人に、悠頼と豊は手を止める。 
 言葉を理解したのか、さやと呼ばれた幽霊は、男に向けて――悲しげに、けれど、確かに微笑んだ。
 その頬には涙が流れていたが、その顔は、絵に描かれた赤い着物の彼女と同じように見えた。
「……っ、動きが」
 その瞬間、藤花らと対峙していた骨の男の動きが止まった。
 一瞬の隙を逃さず踏み込んだのは、桜花であった。
「あなたの末期の絵、いい絵でした。……よくぞ描いたと、誇りなさい」
 横薙ぎの剣戟が、男の身体を砕き斬る。
 最早動く事の出来ぬ彼に、女が寄り添うのを見て、ひとひらが大日如来真言を唱えた。
「おやすみなさい……」
 彼女が、そう望んでいるように見えたからだ。
 成仏へと導く真言。日輪の光に包まれる瞬間、女は来世人達らに向け、ゆるゆると頭を下げた。

「そんな事があったのか……」
 事の顛末を聞いた悠頼が、今は無人となった家を見つめ、そっと黙祷を捧げる。
 幾人かがそれに習い、起こってしまった悲劇に口を閉ざした。
「例えどんな理由があっても、関係無い他人を絵の具にして良い理由にはなんないわよね」
 起こした事実は変わらないと、愛鈴は続ける。
 これは確かに悲劇だったのだろう。けれど自分には解らない。愛しい人を喪ったからといって、他の誰かの命を奪おうとは思わないからだ。
「人の数だけ道があるって事ね」
 呟いた藤花は、自分の荷物から絵画セットを取り出した。
 黙祷代わりに絵を描こう、と。それが彼女の道である。
 道を外れた彼であったが、死した先ではせめて望んだ笑顔と共にある事を祈って、顔も知らぬ彼が彼女と笑う、そんな一枚を描きあげた。
「絵の中では、幸せでいられるなら。きっと、天国でも……」
「ええ。救済されていることでしょう」
 悠頼と豊は、じっと絵を見つめた。それは、生前の二人のようにも、天国の二人のようにも、あるいは、転生した二人のようにも見えた。


◆スタッフ◆

藤枝桜花(ka00569) :因幡うさもち
田中愛鈴(ka00816) :鏑木はる
ヤームル・アイマーヴィ(ka00918):鏑木はる
大門豊(ka01265):美鈴唯
由良悠頼(ka00943):mugikon
藤枝藤花(ka01346):伊菜
花織ひとひら(ka00978) :桜月 秋姫
ナレーション:大和 稟

原作:灯弥
編集:大和 稟
企画:才川貴也(REXi)



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参加者

a.死んでなお共にいるのなら殺害は同意の上でしょうか?とまれ終らせましょう
藤枝桜花(ka00569)
Lv230 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
a.とりあえず、正面からボコすわね。:VAは鏑木はるさん希望。
田中愛鈴(ka00816)
Lv172 ♀ 25歳 武僧 来世 傾奇
c.わしもひとひらと一緒に家を調べてみるのじゃ!/VAは鏑木はる殿じゃ!
ヤームル・アイマーヴィ(ka00918)
Lv207 ♀ 15歳 忍傀 来世 異彩
b.何かの拍子にって事もある、これ以上誰かが犠牲になる前に終わらせよう。
由良悠頼(ka00943)
Lv160 ♂ 17歳 陰忍 来世 大衆
c.何が、あったのでしょうか…。/VAは桜月秋姫さん希望です。
花織ひとひら(ka00978)
Lv181 ♀ 17歳 神僧 来世 異彩
b.……せめて、安らかに。
大門豊(ka01265)
Lv110 ♀ 15歳 武忍 来世 質素
a.同じ絵師としてこの物語に終止符を打って上げる。/VAは伊菜さん希望よ。
藤枝藤花(ka01346)
Lv178 ♀ 40歳 武僧 来世 大衆