【SH05】鬼将・元親を討て

担当 北野旅人
出発2016/05/08
タイプ グランド A(Lv250以下) 冒険
結果 成功
MVP 升田千絵代(ka00869)
MVS 薬師寺勢司(ka01337)





オープニング

◆元親は退かず
 女木島の人工洞窟。そこは来世人からは、来世にあやかって『鬼ヶ島大洞窟』と呼ばれる、鬼水軍の本陣であった。
 その奥の間に、颯爽と現れた青き影――三本角の鬼武者・荒鬼(こうき)。
「元親様、人間どもが上陸してきました」
「わかっている」
 答えるは、この島を支配し、鬼の水軍を指揮する者――鬼として復活した戦国武将・長宗我部元親であった。元親は背を向けたまま、心ここにあらず、というふうであり、それが荒鬼に「おやっ」と思わせる。

登場キャラ

リプレイ

◆洞窟入口:門番
 鬼ヶ島大洞窟――その大仰な名は、来世に観光目的でつけられたものだったが、この時代の今の状況を鑑みるに、それはまことにふさわしいもののように思えた。
「ま、鬼ヶ島のまんまにしておくつもりはまったくないのですけどね」
 藤枝 杏花。陸上用ユニフォームと、それを押し上げるバスト。格好も雰囲気も場違いな若き娘は、やはり空気を読まぬ口調でのほほんとしていた。それでも彼女は、洞窟を攻める一人であった。
「歴史の勉強では習ったけれど‥‥まさか、鬼若子さんが本当に鬼さんになっていたなんて‥‥うん、驚いた」
 なんとも幼げな栄相 セイワもまた、どこかのんびりと言う。なお、鬼若子(おにわこ)とは元親の異名であり、もとは姫若子と呼ばれていたことも付け加えておく。
「姫のような武士が、鬼と呼ばれ‥‥死して再び、本物の鬼になるとは」
 伊達政宗の具足の中から、佐藤 長行が鋭い視線を放っていた。彼はこの因果に、示すべき言葉を見出せずにいた。これが御仏のしめしなのか、これが末法ということなのか。
「俺らの体は死なねぇ。鬼の生に人の命が必要でも、俺らのはやれねぇんだ」
 吐き捨てるように言うのは、鈴城 透哉。若く、もろく、あやうい少年。
「そして俺らは他人の命差し出して交渉できるほど偉くねぇ。それがあの停戦に乗れなかった理由だ‥‥」
 言いながら、透哉は空を見上げた――眩しいはずの太陽は、木々によって遮られ、複雑な影を透哉の顔に落としていた。
「あとはもう、参るだけ、ですね。千絵代さんも、どうかご無事で」
 遠野 絃瑞。忍者装束を纏いながらも、どこか紳士然とした男は、恋人の升田 千絵代を、背中からそっと抱き締めた。千絵代の耳から、ボンッとなにか水蒸気爆発めいたものが噴出したように見えたがそれはさておき。
「この温もりを、生きて再び迎える為に‥‥」
「そのために‥‥升田千絵代、人類の未来の為、今は手を貸そう!」
 絃瑞に続き、大門 豊も勇ましくそう言ったのだが千絵代には聞こえていなかったシカタナイネ。
「けど、その前にまず、アレをどけてしまいませんと」
 藤枝 桜花は、揺るがぬ視線で前方を見据えた――そこには、身の丈5メートルはあろうという、巨大な青鬼が身構えていた。

「グラァ!」
 巨大棍棒の恐るべき一撃が振り下ろされ、荒戸 美乃をペチャンコにした――その分身を。
「甘いわ、このでくの坊が!」
 猿飛ノ術により、高々と跳躍した美乃は、鳶加藤の忍者刀で大鬼の顔を切り裂いた。致命傷にはならぬが、その想定外の攻撃に、大鬼は顔を押さえ、よろめき――そして、さらにバランスを崩して膝をついた。
「後ろから失礼」
 その足の腱を切り裂いたのは、大狼 忍であった。卓越した土遁ノ術を用い、地面を岩を悠々とくぐり抜け、あっさりと洞窟内、すなわち大鬼の背後に入った彼の一撃は、致命傷には程遠くとも、混乱させるには充分すぎる。
 むろん、凄まじい再生力を有する大鬼だ。攻撃をもろに受けてなお、傷はみるみる癒えてしまうのだが――
「だが、それもおしまいだよ」
 バキィン。二本の角の、片方が砕け散った。
「グガァ!?」
 大鬼は思わず睨む――鍛え上げられ、源氏の『三枚打弓』と並ぶ力を得た、雷上動を構え続ける蓮美 イヴを!
「千絵代、道中はあたし達が盾になるから絶対荒鬼を倒すんだ。頼んだよ」
 そのイヴが、再び矢を放つ。雷の法力を帯びた矢は、大鬼に残された最後の角へと飛び込み、そして、それも撃ち破った。
 アガァ、と頭を押さえのたうつ大鬼。千絵代はその胴体に、M4アサルトライフルを注ぎこむ。銃弾に穿たれた腹部は――もはや再生しない、角を失った鬼の悲しき宿命。
「こうなればこっちのもの! 六郎!」
 鏑木 奈々は、弐尾ノ鎌鼬に攻撃を命じつつ、自身も和弓を構え、放った。大鬼のあちこちに矢が突き立ち、斬り傷が増え、それが巨大な体を満たしていく――そいつが倒れたのは、赤井 狐弥の放った虎徹の縄ひょうが、足首に巻きついたためだった。くい、と引いただけで、大鬼はひっくり返った。もはやそれほど疲弊していたのだ。
「さらば」
 ミスト・カイザーは跳び上がり、漆黒の剣を大鬼の喉に付き立てた。それっきり、巨大な脅威は、粗大な遺体と化した。

◆集落:対峙
 女木島に上陸した、来世人のもう一派――向かうは、島民が抑圧され続けている集落。
 船着場からそこまでは、そう遠くない。火蓋はすぐに切られるだろう――歩を進めるたび、皆に緊張がみなぎってくる。
「鬼との最終決戦となりましたか‥‥しかし敵の数は膨大です」
 ヒデコ・ルーラ、多少ズレてるものの、たぶんルーラ一族の中では相当マトモなほうと思われる彼女は、誰に言うでもなく、真面目に言葉を紡いでいた。
「ならば数を減らす事が急務! 戦士としてはまだまだ未熟な存在ですが、姉のサポートもありますのでがんばって鬼の数を減らし、皆さんがボスクラスと戦えるように致しますわ!」
「やぁ~やぁ、その通り、で、R!」
 (聞かれてもいないのに)大仰にうなずくは、白羽瀬 倫太郎。彼はなんというか、ややいわくつきのサンタ衣装を身にまとっていた。あと、なんか金槌とか握っていた。
「いったいナニを届ける気ですのん‥‥」
 三ツ橋 春椛、なんというか、ややタヌっぽい少年があきれ気味に聞くと、倫太郎は金槌を振り回し。
「やぁ、やぁやぁやぁ我輩こそは『玉狩人』で、R! 鬼、の急所(一部検閲削除)で、R! 金、金、粉、ごぉーるてぃーん、(一部検閲削除)(一部検閲削除)(一部検閲削除)な、の、で、アー‥‥アッバー!?」
 突如、倫太郎は股間を押さえて転げまわった。高杉 蘭子先生が、「これはワタクシの役目」とばかりに鋭いツッコミ(物理)を入れたためである。
「こうしてめでたく倫太郎は出オチで終わりましたとさ、ってか」
「しかし世の中そううまくは事が運ばないものだよね‥‥」
 村正 一刀銀 煌人がなんか言い合うなか、心優しき空木 椋は、ちゃんと倫太郎に手を差し伸べてやり。
「今は倫太郎さんの手も借りたい状況です。人質の皆さんもギリギリの状態で助けを待っているはずですから‥‥希望となれるよう頑張りましょう――わわっ?」
 と、起こした倫太郎の後ろから、ずずりと何か浮上してきた。
「ごめんごめん、驚かせちゃった?」
 地面から顔を出したのは、ミア・カイザーであった。上級の土遁ノ術を用い、先行して偵察しにいっていたのだ。
「ま、謀鬼には丸解りになるっぽいので、近づきすぎないようにしといたけどねー。たぶんバレてないはず。で、やっぱり島民さんは、盾にされたり閉じ込められたりしてるみたいだねー。場所は――」
 そんな偵察情報を元に、一行はすぐに、集落を見渡せる場所へと辿り着いた。

 鬼達はすっかり、来世人の接近を予期していたようだ。集落のほうが、やや高台となっており、そこから見下ろす鬼ども。
「きやがったかァ。じゃ、正々堂々と勝負するかァ?」
 黒き鬼武者・謀鬼。そう言いながら、その脇にぐったりした子供を抱えている。その光景に、花織 ひとひらはぎりりと歯噛みする。
「ひどい‥‥どこが正々堂々ですか‥‥!」
「私、知ってる! こういうのを、悪あがきって言うんだよね。無駄な抵抗はヤメロー!」
 森住 ブナは両手をバタバタさせて叫んだが、返ってきたのは鬼の嘲笑のみ。
「ひゃっはー、このエセドードーどもめ! 人質いないとヤラレちゃうって、不安なんだね! よかろう、ならば人質とってない自信ある鬼を狙って、ブチこんでやろう! 来いやぁ! それともホントにビビってんのかあ?」
 ブナはクネクネと踊って挑発した。これには、ちょっとカチンときた青鬼なんかもいたが、でもやっぱり、いろんな意味で笑われてしまった。
「ブナちゃん、ここは俺に任せな」
 そう言って肩を叩いてきたのは、九条 鰤々之進。その頭には、挑発に役立つというムカつくツバメのヘルメット(?)がはまっていた。
「お前ら鬼は俺にかかれば屁の河童ぁ♪ 勝てる訳がないのさー♪」
 鰤々之進は歌う。ブナも踊る。だが――鬼は動かない。
「たしかに、この時代なら挑発だって戦争に効果があるかもしれへん」
 しかし――と、モーラ・ズメウは思わずにいられない。奴らは烏合の衆ではない、よく統率された軍隊なのだ。
 と、そこへ。醒刃 清萌が、悲しげな顔で前に出た。
「清萌にどうにかできそうにありませぬが、どうしても‥‥」
 どうしても、言わずにはおれぬ。
「鬼の皆々様ともお友だちになれると思っていましたが、人を食べ、盾にするなど もうどうしようもありませぬ‥‥でも‥‥謀鬼様、せめて敵対しない道はありませんの?」
「あるとも。武器を捨て、我らに従えば、そう悪いようにはしない‥‥なんなら、お前は最後に喰ってやってもいいぜ、約束してやる」
 謀鬼が言うと、鬼たちは再び、ゲラゲラ笑った――越中 団次郎は、肩を落とす清萌をそっと後ろへ押しやり、代わりに、言った。
「阿野の河童くん達に頼まれたのよ、仲間の助けてくれって。和気の狼のお嬢様にも頼まれたのよ、鬼どもを倒せってなあ。だから僕はてめえらを倒す、命つきようともな。漢・団次郎ここにあり‥‥なんてな」
「バカめ。河童も狼も喰ってしまえばいいものを、その使いぱしりに甘んじるような連中が、鬼を倒せるものかァ!」
 謀鬼は刀を抜いた。鬼どもも身構えた。奴らのそばでは、島民が苦しみ、怯えていた。
「僕が皆が戦いやすい場を作るよ。時間かかるけど耐えるのだよー」
 藤 あきほが小声でそっと言った。なにか策があるらしい。蘭子はそっとうなずくと、火の神・加具土命(かぐつち)の総面を装着し、言った。
「ワタクシは鬼を狩る鬼。ワタクシが此方に現れて残念ですこと。その角ごと忘却の彼方へお逝きなさい」
「もちろん忘却するさ、喰った人間のことなどいちいち覚えてなぞいないわァ!」
 謀鬼が叫び、そして火蓋が、切られた。

◆洞窟:荒波を正面に受けて
 内部は、部分的にだが、かがり火が焚かれていた。内部に精通したものなら、これで充分なのだろう――しかし来世人は、そういうわけにはいかない。
 そこで長行は、天照大御神ノ舞をおこない、内部を明るく照らした。その灯りのもと、成清 聖は、手元の地図をジトーっと見つめた。
「人質がいるとしたら‥‥このへん、もうちょい先かしらね」
「人質か‥‥厳密には、見つからないようにそこへ向かいたいものだが‥‥」
 銅 蒼桜のオッドアイが、かがり火を受け激しく揺れる。懸念材料は尽きない、が、すべてをクリアすることはできない。
「あと暴れすぎて洞窟をぶち抜く危険は‥‥まあ俺ならそういう心配は無いだろう」
「俺はあるかもしれないがな‥‥いや冗談だ」
 声はトランシーバーからした。忍が、土遁ノ術を効果的に使って先行偵察しつつ、その結果を伝えてきているのだ。
「で、鬼さんそちらに向かってるぞ。赤鬼に黒鬼だな」
「くっこいつらのおかげで大豆を捻じ込む隙間が無いじゃないかゆるさん」
 蒼桜はぼやきつつ退魔剣を構えた――彼はときたま、大豆のことしか考えられなくなる哀しい宿命を背負っているのだ。
「来るのじゃ‥‥頼むぞ、ゴンスケ、チビ、マロ!」
 ヤームル・アイマーヴィは、すでに3体の機巧を展開していた。優れた白柴犬型のチビ。ナイスな茶柴型のマロ。そしてそれらのアニキ的存在、ゴンスケ(良業物)。皆に先駆けて飛びつき、噛み付き、切り裂く彼らは、すでに地ノ秘伎法により魔的な身体を得ており、鬼の反撃を許さない。鬼も再生するため、相手が機巧だけならそうはやられはしないが、その足並みは完全に乱れた。

「くそっなんだあの犬‥‥グワッ!?」
 角を曲がった黒鬼は、その鼻っ面にいきなりパンチを浴びてのけぞった――そしてそのまま、投げ飛ばされた、無遠慮に飛び込んできた猛き影に!
「どすこぉい!」
 不知火 焔羅。我ながら完璧なコンビネーションに、思わずにやける。
「こちらの狂犬にもご注意あそばせってんだ!」
 吉弘 龍重の祢々切丸が、その黒鬼の角を砕いた。おそるべし狂犬コンビ。
「とどめよ、母の愛の恐ろしさじっくり見ると良いわ」
 藤枝 藤花は、阿修羅のごとき幻影をまとったまま、その黒鬼を連打でねじふせた。母として、杏花の前に立ち、そして退く気はない。
「こういう奴等にはなァ、喧嘩で語り合うのが一番なんだよ!」
 大文字 渚もまた、狂河童のごとき勢いで駆け出し、鍛神の金鎚を青鬼にぶっつけた。いまや鬼の迎撃班は、すっかり腰くだけになっていた。
 そこへさらに、ムチャなものが飛び込んでいく。唸る轟音、まさかのオフロードバイク――豊であった。
 洞窟内でバイクを乗り回しても、そう戦闘に役立てることはできない――現代的な考えならば。しかし、その謎のカラクリ兵器を知らぬ鬼にとっては、脅威にしか見えず、恐慌をさらに加速させる。
「さあー、次に喰われたいのはどいつじゃあ?」
 薬師寺 勢司は、のっしのっしと歩を進めた。総崩れの鬼は、それでも果敢に攻めてくるが、その打撃をまともに受けてなお、涼しい顔をする勢司を見ては、もう――仙級の光世音菩薩真言、そのハッタリを最大に活かす元プロレスラーは、仲間のため、決戦のため、その身を張って、さらに前へ。
「よし、六郎も援護を!」
「あたしだって!」
 奈々の鎌鼬が、聖の剣豪機巧が、鬼の追撃に加勢する――こうして鬼の第一波は、ほとんどなにもできぬまま、来世人の堤防にかき消された。

「今回は、狭さが有利に働いたのかのう」
 奈々はそうつぶやいた。が、今後はどうだろうか、と危惧する――ここでは、なゐふる霊迎えノ舞は、仲間を巻き込まずに使用するのは無理かもしれなかった。

◆集落:鬼の戦略
 錯綜し始める、人と鬼の闘気――その中の一点、平口 工助は、武田信玄の具足にバトルコート、そして桃太郎の大太刀を構えつつ、光世音菩薩真言を唱え終え、そしてまっすぐに突撃していった。
「俺の仕事は道作っ事か。まずは切り込んで手下の連携を乱してぇ」
 刀を振りかぶる。しかし、赤鬼はそばにいた島民を盾にするかのように身をすくめたため、工助の『角狙い』の手が止まる。
「くそっ‥‥ぐっ」
 そこで金棒を受け、よろめく工助。やはり『肉の盾』を前には、思うようには立ち回れない。
「卑怯者‥‥けど、堕落した鬼には負けませんわ!」
 ヒデコは魔王神璽ノ舞をおこなう。なんとも読みづらい、不可思議な戦の舞。
「ナ、ナンダ‥‥グワッ」
 一瞬、あっけに取られた青鬼は、人質を使うことを忘れたため、ヒデコの退魔剣をもろに受けた。しかしその傷はすぐに再生を始める。
 その向こうでは春椛が、黒鬼と一進一退の打撃戦をしていたが。
「どわぁ! こいつは厄介やな‥‥」
 やはり島民を盾にされ、蹴り飛ばされ、転がる。鬼ノ体を持つ相手、一気に攻めたいところだが、それを許さぬ鬼たちの戦略。
「地蔵菩薩慈悲真言――大丈夫?」
 霧ヶ峰 えあ子は春椛を癒しながら問うた――彼女も神楽舞でまとめて攻撃するわけにもいかず、歯がゆい思いをしていたところだ。
「おおきに‥‥俺が元々得意なんは情報戦で肉弾戦やあらへんのや!」
「あたしも、もうちょっと優雅なダンスがいいな!」
 春椛とえあ子の愚痴。城田 真子も「同感だし」とうなずいたが、その顔はまだ余裕――そんなふうに愚痴ってられるうちは、まだ大丈夫だと思ったから。
「みんなー、うまく吹雪を避けてねー! ってさすがにムリか。そんな時は転ばぬ先の太上神仙秘法道術だよ!」
 ブナは陰陽の風羽根を飛ばし、着実に前方の鬼を痛めつける。のけぞったその赤鬼の角が、今度は矢を受けてふっ飛ぶ。
「よし‥‥このまま、順に」
 煌人の放ったものだった。大業物のガーンディーヴァを、ぶれることなく構えたまま、矢を引き抜き、つがえ、そして構え、また放つ。
「お願いします、助けた人は、順にこちらへ‥‥!」
 その横でひとひらは、祈るように戦局を見守る。島の人達を助けたい――早く、あの危険な状況から解放してあげたい。だがそのためには、まだまだすべきことがあるようだ。
「支えます、どうか頑張って!」
 椋も、仲間を案じた地蔵菩薩慈悲真言を唱えた。善女龍の独鈷杵のおかげで、傷ついた仲間全員を、ほぼ無傷にまで回復させる。それは鬼ノ体にも劣らぬ強さ。
 そのとき、集落の側面から、大音量の声が届いた。しかもエコーつきで。
「おらぁ鬼ども、こっちだぁ!」
 ミアだ。ハートなハンドマイクで撹乱を狙ったのだ。鬼の一部はそちらを見たが、謀鬼は首を回しもせず。
「単なる陽動だ、気にするなァ!」
 と、一喝してしまった。
「くっ‥‥完全に相手のペースやね」
 モーラは仕方なく、自分が率いる仲間に通常援護を指示する。秋津州 真姫はモーラを守るように立ち(なお、座敷童子は争いと遠出の気配を察し、船にさえ乗ってくれていなかった)、ドーラ・キグルミンは大筒で鬼を威嚇する。
「‥‥ダメね」
 ヴィオラ・イリューシアは、威嚇ではなく弓で謀鬼の角を狙いたかったが、子供を盾に使う可能性があり、とても狙えない状況。
 範囲の広い魔法は論外。狙撃や射撃や、うかつな鬼相手くらいにしか使えない。接近戦も言うまでもなくやりづらい。
「こりゃあちょっと‥‥つらいなあ」
 団次郎は眉をひそめる。すでに数体の鬼を倒したものの、仲間の消耗ペースが激しく、このままでは、相当きついことになるな、と思わざるをえなかった。

◆洞窟:人質解放へ向けて
 奥に進むにつれ、第二波、第三波が襲ってきたが、基本的には第一波と展開は変わらない。忍は襲撃者の様子を伝え、ゴンスケーズはやられる心配なく足並みを乱し、そして戦意高き来世人らは、確実にそれらを葬り去った。
「細かいことは知らん。やる事は、単純で、明確だ。元親の首を取る。何かを築きたければ戦い、何かを守りたけりゃ戦う。こうして戦うのも巡り合わせってヤツさ」
 龍重は祢々切丸をぶんと振って血を払いつつ、言った。
「めぐり合わせで、鬼の根城に乗り込んで鬼退治って、昔話かよ!」
 東雲 燎は、戦を終えた狼機巧をチェックしながら言った――いまのところ、栄相 サイワやセイワを守れているので、その顔には余裕があった。
「そのままの調子でなんとかしてね、兄さん達」
 東雲 渓は最後尾で警備をしたまま、そう声をかけてきた。東雲 凪は肩をすくめ、だがしかし、再び忍の情報が入ったため、退魔剣を構え直した。
 だが、忍の情報は、襲撃のことではなかった。
「人質発見だ」

 そこには4名が拉致されていた。まだ幼い子供と、うら若い娘だけ。
 見張っていたのは、黒鬼が3体。その黒鬼たちは、ぼうとした灯りが迫ってくるのを見た。それは聖が放つ、天照大御神ノ舞による光であった。
「なにやつ!」
 黒鬼が叫ぶ。聖は答える。
「来世人だよ、あたし達が来たからにはもう大丈夫!」
「おっとそれ以上近づくな、こいつらがどうなってもいいのか――なにっ!?」
 振り向いた鬼らは、そこにいるはずのない来世人の姿に驚愕した。忍と狐弥。共に、岩の中を抜けてきた2人であり、彼らはいまや、人質を守るように身構えていた。
「くそっいつの間に! おいこいつが――」
 黒鬼の1体が、手近な若い娘を引っ掴まえて、引き寄せ‥‥だがそこで、違和感を感じる。
「あれ、なんで囚人が5人‥‥ぐおっ!?」
 突然、その娘に刺された。いや、よく見れば先ほどの娘ではない、武装した女!
「化けていたのか!?」
 黒鬼はその事実を推察できたが、時すでに遅し。黒井 華麗の策略はとっくに成功していた。人遁ノ術で人質になりすまし、神代の蓑で透明化し、まんまとそこに滑り込む策略!
 華麗は続けて、投網を放った。狐弥も業物の虎徹縄ひょうを放った。黒鬼たちは完全に混乱させられ、なんとか態勢を整えようとしたときにはすでに、入口から来世人らが大挙して迫っていた。

「楽な仕事でしたね」
 狐弥は黒鬼の死体を踏んだまま、鳶加藤の血のりをぬぐった。
「しかし、女子供ばかり‥‥とはねぇ」
 霧原 矢塚は目を細めた――いちおう、見鬼道術を成就してあるが、人質に化身が混ざっている気配はない。狐弥もわざと隙を見せて誘っていたのだが、殺気も感じられない。まず安心していい、と判断した。
「地蔵菩薩慈悲真言は‥‥おっとと」
 篠倉 和馬が構えるより早く、華麗がそれを人質にかけてやっていた。目に見える傷は癒された。
「で、診察は‥‥嬢ちゃんらにまかすかね」
 和馬に言われるまでもなく、聖は子供らへ向け膝をついていた。
「怪我はないけど、体力が‥‥ごはん食べてる?」
 その問いに、皆は首を振った。満足に食べさせてもらえていないのは一目瞭然だった。
「ショックもひどいな。おい、父さんや母さんはいるか?」
 矢塚の問いに、皆、ますます押し黙り、うつむいてしまった――娘が一人、代わりに答えた。
「数日前に、連れていかれました‥‥」
「‥‥そうか」
 矢塚は察した。おそらくは、喰われるために連れ去られ、そしてそのことを子供らも察しているのだろう、と。
「‥‥おなか、すいたでしょう?」
 若桜 涼は、ランチポットからおにぎりを取り出した。小さめのおにぎりを。
「食べる元気もないかもしれないけど、食べなきゃだめですよ。ほら、梅干しも入ってるよ」
 涼に言われ、子供らはゆっくりと口に運び、そしてすぐに、ガツガツと食べてしまった。それから――泣き出してしまった。
「おい泣くな‥‥わかったわかった、残りは外でな。大豆も食わせてやるから」
 蒼桜は子供らを抱いて起こした。そして涼は、彼らを出口へと導いていった。

 その後も、3つの小部屋から人質を救出できた。手際は問題なく、彼らに怪我はなかったが――誰もが幼く、そして傷ついていた、心が。
「‥‥聞きました? 若い子や子供を残してたのは、それがごちそうだから、なんですって」
 涼は青い顔で言う。
「僕には、おにぎりを作るくらいしかできません‥‥だからたくさん、作ってきました」
「ええ、それは役に立ったと思います」
 水上 澄香はそう答える。そう答えるしか、言葉が浮かばないでいた。
「‥‥鬼を、退治してください」
 涼は仲間に言った。言われるまでもない話だったが、皆、神妙にうなずいた。
「あの子らの親を食ったのはどいつじゃ? 元親か? かまわん、まとめてブチ転がしたる」
 毒島 右京はドスの利いた声を出した。忍は無言でうなずき、また地中へ潜ろうとしたが、鳴神 九龍に呼び止められた。
「待ってください。そろそろ、これを」
 除傷形代道術。身代わりの型代を貼られ、忍は、再び無言でうなずいた。
「行きましょう。奴らには死すら生ぬるい」
 桜花は真顔で言った。このときばかりは、誰もが同じように、氷のような目をしていた。

◆集落:力比べ
 どうやら、はんぱな挑発や陽動では効果がないようだ――そこでミアは、土遁ノ術を用い、あえて敵陣の真ん中へ出現した。
「ヒャッハー、鬼の角切だー!」
 すでに分身ノ術も、猿飛ノ術も成就してあった。そうそうやられるつもりはない。意表をついた鳶加藤の一撃は、青鬼の角を砕く。即座に3体の鬼が棍棒を振り上げたが、ミアはすべてかわした、あるいは分身が身代わりとなった。
「今です!」
 ヒデコは、わずかに浮き足立った鬼どもを見逃さなかった。天女の羽衣で浮き上がり、敵陣の真上に進むと、敵の動揺はさらに加速。
「おっと、我が妹に仇なす鬼は、この私が許しはしない、これがな!」
 その隙をつき、アイナ・ルーラは大胆に距離を詰めた。倒すため、ヒデコを守るため――巨大な力太郎の金砕棒をぶんぶんと振り回せば、さしもの鬼たちも腰が引ける。
「いまだ、人質の救出へ向かってほしい」
 煌人は絶え間なく矢を射かけ、鬼を牽制した。島民に当てるわけにはいかない、しかし、鬼を押さえ込まねば、どのみち救えない。
「っても、まだまだぎょうさん鬼がいてはりますなぁ‥‥」
「僕も手伝うから、気張ってよね、春椛君!」
 春椛をけしかけるかのように、琴平 久遠は言った。しかし実際には、彼を守るかのように突進し、漆黒の拳を赤鬼に叩きつけるのだった――春椛を守るために。
「うおおっ、大鬼はこっちだぜ!」
 工助は大鬼の介入を警戒し、あえてその矢面に立つ。今のところ、鬼武者や大鬼が前に出てはこないが、鬼の陣形が崩れればそうもいかないはずだ。
「よーし、ちょっとここで、ぶちかまさせてもらうぜよ」
 鰤々之進は鬼や島民に向け、尻をペロンっと向けると、おもむろに凄まじい放屁をした。屁ひり女房の装束からひり出されたるは、【弩尻烈風】。その勢いで、みんなまとめてゴロンと転んだ。慈悲は無い。
「あっ今です、こっちへ‥‥!」
 ひとひらは駆け寄り、倒れた島民を慌てて起こす。止めようとする鬼には、ブナが「もんげー」と矢をぶっつけてなんとかした。
「チャンスでしょうか‥‥ロンリーミナライ、攻撃フルスロットルです!」
 椋も動いた。業物の狼機巧が飛び込み、混乱気味の鬼たちを惑わせる。
「持ちこたえられるか心配だけど やるしかないかー」
 あわせて相葉 楡も、雪ダルマな機巧から吹雪を撒き散らし援護。団次郎も両手を漆黒の炎に染めて、目を見開いて突撃し島民の盾となる。

「こっちこっち、こっちなんだしー」
 逃げてきた島民を招くのは真子だ。すでに中反閇道術により、魔法に対抗する結界を生み出していた。
 なかにはかなりの怪我を負った者もいた。蓑下 海里はそんな者に地蔵菩薩慈悲真言をかけてやり、癒すと。
「‥‥昔取った杵柄っちゅーか、学んでた杵柄って奴や」
 もともと、救急救命士の卵だった海里。その顔は、戸惑いこそあったが、迷いは一切なかった。真子はそれを認めると、憔悴した人々へ向け、クネクネッと腰を振り。
「元気出すんだしぃ。鬼は人のやる気無くさせる作戦なんだし、怖い気持ちは真子ちゃんの踊りを見れば消し飛ぶと思うし♪」
「‥‥ぷっ」
 島民の一人、疲れ切ったようなおじさんが吹き出した。するとそれが伝播し、皆もくすくすと笑い出す。
「よかった‥‥ほらほら、あたしも踊っちゃう! こっちだよって!」
 えあ子もダンスがてら、癒された人々を港のほうへと導いた。島民は逃げていく、我が家を一時的に捨てて、いくさのないところへと。
 そして来世人らは、再び前を向く。いくさが残る、鬼の支配域へと。

「ちっ‥‥」
 莱堂 凌駕は舌打ちした。人遁ノ術により、逃げる島民の一部になりすまし惹きつけようとしたのだが、鬼は『人質の確保』にはあまり興味がないらしく、追ってこない。
「なら、こうだ!」
 反転し、投網。青女鬼がそれを受けたところ、そこへ。
「ナムアミダブツ‥‥金がなくとも、慈悲はなし」
 倫太郎の金槌が打ち込まれ、よろめいたところへ、さらに工助が大太刀を振るい、その角を切り捨てた。
「雑魚の黒鬼は一気に滅しますわよ」
 蘭子の大太刀は、力強い光を宿していた。それが黒鬼への強力な一打となる。
「どれ、エロ助さんにもあげようかね」
 池袋 春子は仙級の天照大御神ノ舞を踊り、工助の大太刀にも【日射】を付与した。
「さんきゅ。エロ助、いざ参るってか!」
 ずばり。ずばり。工助と蘭子の輝く太刀筋が、黒鬼を同時に切り裂いた。
 形勢は徐々に、来世人側へと傾きつつあった。すでに大鬼は倒し、島民のかなりを離脱させ、体力は椋やひとひらなどが維持させていた。黒鬼も想定以上のペースで打ち倒している。
「おっと、このまま蘭ちゃんだけにいいカッコはさせないわ。あたしだって少しは目立ちたいのよ!」
 神宮寺 咲夜が備前国包平の太刀を振り上げ、あえて金棒を受けつつカウンターでそれを振り下ろすと、赤鬼の角を破壊できた。一ノ太刀、強し。そこへ一刀がとどめを刺すと、ちょうど、鬼武者が歩み寄ってくるのが見えた。
「オイオイオイ、思ったほど役に立たねェなあこいつらはよ‥‥」
「あらあら、やっとボスのお出ましかしらね」
 咲夜が睨むと、一刀もニヤリと笑って。
「気をつけろ。これからが本当の勝負だ」

◆洞窟:犬達の声を聞け
 奥の広間に、元親と青鬼武者、そして他の鬼達が待ち受けていることは、偵察によりすでに知れていた。あとは準備をして、そこへ向かうのみ。
「強くどんな力を持つかもわからない鬼。少しでも皆さんを守れるように‥‥」
 澄香は、ありったけの法力を使い、効果上昇術を用いた、上級の除傷形代道術を成就させ、その型代を仲間に託した。
「これならほぼ、どんな攻撃も防げるはずです、透哉くん」
「助かる。ぜってーに‥‥死ぬもんか」
 透哉は闘犬のような目をしたまま、その奥の間へと、ためらうことなく――

「わざわざ御足労なことだ‥‥さあ、喰われたい者から名乗りを上げよ!」
 元親が言うと、鬼達はげらげら笑った――対峙する来世人らはしかし、一向に動じず。
「喰われる気はないが名乗ってやるぜ! 鈴城透哉! あんたを倒す猛者の名だ!」
 透哉は闘志を激しくぶつけた――洞窟の中で、人と鬼の覇気がぶつかり合う。
「‥‥本当に鬼若子さんだ‥‥歴史で勉強した通り‥‥」
 サイワはぽかんとしつつも、セイワに型代を貼り備える。大好きな妹を守るために。
「喰われる前に、元親様の真意を知りとう存じます。あの日の、三枝様と同じ質問をもう一度」
 絃瑞が穏やかに言うと、元親は片眉を吊り上げた。
「三枝‥‥? ああ、あの幕府の犬か」
「あなたは、何処から来て何処へ行くのか。そも、鬼とは何なのか」
「地元の坊主にでも聞いたらどうだ? 人はどこから来てどこへ行くのか。そも、人間とは何なのか、とな」
 元親の皮肉には、青鬼武者・荒鬼だけがニンマリとした。だが絃瑞は微笑みもせず。
「あなたなりに、今とは違った秩序で、人と共に生きる事を模索しておられるのでしょうか。また、あなたと同様に、かつて戦国の世を生きた武将が鬼として蘇る事はあり得るのか。そして我ら来世人は、それとどう関わるべきか」
「ああ、人と共に生きられれば、と願わずにはいられないな」
 元親は、さも当然というふうに答えた――だが、ミストは気づいていた。
(人間と同じ‥‥牛や豚、家畜と共に生きる、という時と同じでござる)
「――で、武将が鬼になるのは、お前らも聞いているだろう? 天草四郎。あれを武将と呼んでいいかは知らぬがな。この近くにも来ているようだぞ、くく‥‥」
「という事はつまり、死んだ天草四郎に、鬼が乗り移ったと‥‥?」
 涼の問いに、元親は「さぁな」と肩をすくめた。
「で、その天草四郎はどこに?」
 桜花が問う。
「知らん。俺と組む気はないようだったしな」
「なぜ今さら天草が接触してきたのでしょうね? 様子を窺うには遅く、恩を売るでもないならなぜ今なのか」
「奴に直接聞くがいい。俺とて奴の狙いは聞いてないからな‥‥そうそう、言い忘れていた。四郎は俺に言ってたよ、この戦で俺は負ける、とな」
 しれっと、元親は言った。だがその顔に、自信に、揺らぎはない。
「ほう、四郎とは気が合いそうじゃのう。わしもまったく同意見なのじゃ」
 ヤームルはフフンと胸を逸らした。元親もにやりとした――そんな様子、戦いの前の不思議な空気に、焔羅は、ぽりぽりと頭をかきながら、訊ねる。
「ここまで来るのはめっちゃ大変だったぜ。元親ったけ。俺は歴史とか詳しくねーからアレだけどよ、お前が強い奴だってこたぁわかった。でもよ、悪い奴って気がしねぇんだ。なんでだろうなぁ? ホントはお前、死んで蘇ってまで、なんか守りたいもんでもあるんじゃね?」
「お前、頭悪そうだな」
 元親が言うと、焔羅も、その仲間さえも、ウンウンとうなずいたりした。
「いいか、この肉体は元親のものを使っているが、俺という存在は『お前らの知る元親』ではない。だから、俺にとり、死から蘇った、という感覚さえない。ただ、ここに存在した。ゆえに、最良を目指す。俺が俺でいられるための、な」
「‥‥わかんねえ。俺も馬鹿なのかもしれねえ」
 口を挟んだのは、透哉だった。
「俺は来世人として必要とされなけりゃ価値がない。あんたはどうなんだ? 鬼は生き延びるために、人以外も食えると聞いた。歩み寄る価値がある猛者と認めたら、壱か零じゃねぇ話をしてくれるか」
「自分で自分の価値も見出せぬ弱者が戯言を‥‥冥土の土産に教えてやろう。何もないクズはな、命を張り、ただ命を張り、戦い続け、殺し続け、そうしてやっと自分の力を確認できるのだ」
「‥‥」
「狂犬になるがいい、若造。他者の都合に振り回されて満足するな。最期、ここで死ぬ時くらい、一人前の戦士らしく死んでいけ」
「ざっけんなぁ!」
 透哉はがむしゃらに駆け出した。すると元親は、両足をぐっと開き、右手をまっすぐ透哉にかざし――そこから、強烈な水流を放った!
「うわっ!?」
 もろに浴びた透哉、しかし型代が燃え尽きることで無傷。ところが水流は彼だけでなく、後方の来世人数人をも巻き込んだ!
「このぉ!」
 透哉の一寸法師の鉄拳が元親を殴る。手応えはある、しかし相手は涼しげな顔で、槍の一撃を繰り出し透哉の頬をかすめる。
「ようし、合戦開始だ」
「やっぱそうだよなー。男ならコブシで語り合うしかねーかな? 勝てる気はしねぇが、負ける気もしねぇ!」
 焔羅も負けじと飛び出す。鬼達も一斉に動き出す。
「じゃあ、元親さん。お互い譲れないもののため、勝負しようか! 制圧!」
 セイワは水龍神霊迎えノ舞を踊る。阿修羅王真言では魔法の手数は増やせないので、一度ずつだ。
「水には水で、くらえー!」
 それが鬼を、元親を巻き込む。
「ええい、雑魚はさがれぃ!」
 ヤームルはゴンスケと痛快な仲間達を鬼達へとけしかける。仲間の立ち回りを援護するために。
「どついたるわぁ!」
 右京は被弾覚悟で突進し、焔羅に続いて元親の顔を狙った。相手は余裕でそれを受け、そして刀の一閃で反撃されたが――右京は意味深な笑みを浮かべ、下がった。

 戦いは一気に流動化した。広い間とはいえ、お互いが入り乱れるや、戦場は一挙に狭く感じられた。
 荒鬼は、元親につかず離れずの位置で、来世人を切り裂いている――それを見た豊は、千絵代へ声をかける。
「『彼』の所へ行きたいのではないかな?」
「ええ」
「行くがいい‥‥後は私が引き受けます」
 その声に押され、千絵代はまっすぐに、青鬼武者へと歩んでいった。

◆集落:謀るは人か鬼か
「謀鬼というぶん、どんな仕掛けを準備しているか分からんが、こちらの大将首を討ち取れば、他の鬼どもが浮足立つのは間違いあるまい」
 一刀の言に、土方 萌は、彼や仲間の武器に斬鉄ノ太刀を付与しつつ。
「はいはい、見事とってきてくださいね」
「うおおっ!」
 魔王神璽ノ舞。一刀は澄肌と之定の二刀を華麗に振り回したが、手応えはかんばしくなく、いずれにせよみるみる再生されてしまう。
「弱いッ!」
 そして、謀鬼の鋭い一閃。舞のおかげでかろうじてタイミングを外せたが、まともに喰らえばやばいな、と思わせる太刀筋。
「対等な関係を築く約束ができるなら戦いをとめたいですが、あくまでも人を支配する考えでしたら戦いますの!」
 清萌の二念仏が、鬼武者の刀とぶつかり、火花をあげる。そのまま押し――いや、あっさりと押し返され、清萌は尻もちをつく。
「清萌はん、ほんまムチャやなぁ。人助けはエエんやけど自分のこと考えてへんのちゃう? ‥‥ま、それやからほっとかれへんのやけど!」
 道摩 歌留多の地蔵菩薩慈悲真言が、清萌や周りの仲間を癒す。まだ回復させる余力はあった。しかし――
「このまま一進一退、いや一退しっぱなしだと、きついかも‥‥」
 モーラは眉根を寄せた。が、その直後、情勢が変わった。

「!?」
 謀鬼の表情が揺らいだ。その動きは、明らかに鈍くなっている。
「貴様ら、なにをした?」
 わからない――知恵の回る鬼武者といえど、これは『なぜ急に身動きが抑制され、どうすればそれを回避できるか』がわからないでいる。
 それも当然だ。あきほは、『それ』のために慎重に準備をしてきたのだから。
「小反閇道術‥‥成功かな?」
 足によって描かれた、赤い光線。それは集落の大部分を取り囲み、その内部に不可視の結界を張った。その中では、鬼の動きは大きく制限される。
 もし彼女が、堂々とこれを仕掛けていたら、カンのいい謀鬼ならすぐに察していたかもしれぬ。だが、神代の蓑で姿を消し、音のしづらい西洋の鎧をまとい、歩行速度をあげて素早く仕上げたゆえに、見抜かれる可能性を極力抑えられたのだ。
 そして、見抜かれぬ前に。
「これまでですわね‥‥ぶちのめしてさしあげますわ、塩飽の人名と金比羅様に約束したから」
 蘭子はその機を逃さない。一ノ太刀を成就させ、大業物の備州長船、桃太郎と呼ばれる大太刀で、角を狙った。
 ガィイン。動きが鈍り、わずかに動揺していた謀鬼は、それをかわせず、角に直撃。そして。
「なッ」
 割れた。頑丈な角が、その3本のうち1つが、折れた!
「貴様ァ!」
 反撃の一閃。蘭子はもろに受ける――だが効かぬ。
「全く無茶しやがるねえ‥‥ま、あたしがさせてるようなもんだけど」
 春子の言う通り。彼女の貼った型代が、代わりに燃え上がっただけ。
「バカな‥‥うぐっ?」
 謀鬼が顔を押さえた。工助がサバイバルナイフを投げつけたからだ。その隙を、蘭子はもちろん利用する。再度の一閃、再び角を捉え、そしてへし折る。
「残るは1本」
「おのれぇ‥‥」
 謀鬼の頭脳がフル回転する。勝てるか? 否、可能性薄し。逃げられるか? 否、すでに囲まれている。
「ならば‥‥せめて、女!」
 謀鬼は蘭子に跳びかかり、その首筋に鋭い牙を立てた――だが、それは通らなかった。またも、型代が燃えただけ。
 蘭子は、無理に押しのけようともしなかった。むしろ、どこか穏やかな目で、鬼武者を見つめていた。
「‥‥人間の勝利、ですわね?」
「否、元親様は負けぬ。さて、地獄へ同行したい奴はどいつだ?」

 勝負は、まだついたわけではなかった。最後の1本は、最初の2本ほど簡単には折れなかったのだ。
「往生際が悪い、でR!」
 倫太郎も跳びかかるが、ざっくりと斬られた。 煌人も矢を命中させたが、それでも角は折れぬ。
 蘭子は警戒され、なかなか角を狙わせてもらえぬ――それでも、仲間がいた。
「!?」
 角が割られる感触。振り返る謀鬼。そこには、太刀を構え震える清萌の姿。
「まさか、この甘っちょろいガキに‥‥!」
 怒りの反撃。清萌は斬られ、激しく転げる。
「清萌さん! 皆さんも、あと少しです!」
 ひとひらが射程を伸ばした地蔵菩薩慈悲真言を成就し、皆に最後の奮起を促す。
「さあ、ここで決着をつけるぞ!」
 一刀が言うや、茂呂亜亭 萌瑠田中 カナタは同時にうなずいた。
「えー、榊樹女ノ舞は済んでますんで、あとはひとつよろしく」
「なら、これでっ!」
 萌瑠はそう言いつつも機巧を操り、カナタは風羽根を飛ばし鬼の体を焼く。もう再生しない、角はもうないのだ。
「とっておきのをいくよ!」
 団次郎は阿修羅王真言による脅威の六連打。それが面白いようにヒットし、謀鬼はぐらつく。
 それでも謀鬼は刀を振るい、来世人を斬り裂き続けた、最期まで。しかし椋は治療し続けた、最後まで。
「とどめだっ!」
 アイナの長大な金砕棒が、謀鬼を吹き飛ばし、地に叩きつける。鬼武者はそれっきり、立とうとしない。
「‥‥なにか、言い残すことは?」
 えあ子はつい、そう口に出していた。だが謀鬼は、にこりともせず、その場の全員に怨嗟の視線を飛ばすと、ふところから短刀を抜いて、自分の喉に突き刺し、死んだ。

◆洞窟:血戦の行方
「面倒なのは若いのに任せるぜ!」
 望月 栄一郎の招いたスサノオの息吹。赤鬼がうめき、よろめき、そこへ安芸津 真理亜がM16を撃ちこむ。
「雑魚め、右京先生の邪魔はさせんのじゃあ!」
 真理亜が叫ぶ。合わせて栄一郎も、
「ああ、焔羅の邪魔も‥‥ってオイオイ」
 っとそこへ、その足元へ、焔羅がド派手に転がってきた。
「いっでえぇ‥‥蹴りパネーし」
「さすが元親さん、強いね‥‥!」
 セイワは焔羅や凪などに「いたいのいたいのとんでいけー!」と地蔵菩薩慈悲真言を成就。これで凪も刺し傷を癒し、ついていた膝を起こすが。
「なんて強さだ‥‥しかし、気になる。誰か復活させた奴がいるのか?」
「鬼復活の儀式、ですか。ぞっとしませんね」
 長行はそう答えつつ、かろうじて荒鬼を押さえていた。
「もう少し数を減らすぞ。勝つんだ、絶対に」
 忍は目潰しの忍び玉で、ザコの一団を牽制。
「絶対に勝てるならさいわいですね。分の悪い賭けは嫌いですから」
 九龍はそこへ太上神仙秘法道術の風羽根を注いだ。足止めする必要があるのだ、少しでも。そう、仲間が、千絵代が、今――

「軟弱めらが! ‥‥ん?」
 荒鬼は、珍妙なドレスに両腕をつっこんだ女を見やった。まっすぐに向かってくるようだ。
「貴方は、私の大切な友達を傷つけ四国の民を蹂躙した元親の仲間。貴方だけを倒す為に私は此処に来たのよ」
 千絵代である。その確信的な物言いに、荒鬼は素早く思考を巡らす。
(なんだ、この女‥‥絶対的な自信でもあるのか? いや、少し頭が足りてないのだろう、自分がすぐに殺されるということを)
「千絵代さん‥‥」
 絃瑞の不安げな視線。だが、きっと、あの人は、やる。
「何をするつもりだ、女!」
 荒鬼が叫んだ。
「言ったでしょう?」
 千絵代は言うなり、ふところから両手を引き抜いた。その指には、太上神仙秘法道術による霊符が挟まれていた――なんと20枚も!
 それらが、一斉に風羽根となった。そして、すべてが、荒鬼へ向け、飛んだ。
「なっ‥‥?」
「避けろ荒鬼!」
 元親が突如、声を荒げた。だが千絵代に焦りはない。避けられるはずがない、あれを。
 そして、それらが続々と、青鬼武者の体に貼り付いた。
「ぐおお‥‥ぐおおおおお!?」
 一挙に注ぎ込まれる法力――荒鬼は身もだえし、膝をつき、そして‥‥そのまま動かなくなった。
「なっ‥‥皆が、あれだけ苦戦した相手が、一瞬で‥‥?」
 杏花も、ぼーぜん。これは何かのドッキリなのか?
 だが違う。千絵代は変わらぬ確信の表情で、吐き捨てた。
「言ったでしょ。貴方を倒す為だけに来たと」

「既に鬼との問答の時は過ぎた。為すべきは鬼を退治する、ただ一点。最早、真っ向勝負あるのみ!」
 ミストは、漆黒の鴉のごとき西洋鎧姿で、これまた漆黒の剣を振り下ろした。
「未熟者が」
 が、元親は余裕の表情で身をひねると、長い槍を目にもとまらぬ速さで振り抜き、ミストは吹き飛ばされる。
「つえー‥‥よっし、真正面、全力で行くぜ! じゃねーと、いろいろ失礼だろ? 俺の鉄拳、躱せるもんならやってみな!」
 焔羅も臆すことなく拳を構え、シュッシュと挑発するや。
「こないだはビビったけど、なんか親近感みてえなもんがあんだよな。互いの男気、見せ合おうぜ!」
「ハハッ、いいぞ、若造! 腕を見せてみろ!」
 元親は槍を素早く足元の岩に突き立てた。そこへ焔羅のストレートパンチ、がしかし、元親は槍の柄を軸にポールダンスでもするかのようにグルリと回り、そして蹴りを繰り出し、焔羅だけでなく燎と沖田 芽衣子をも蹴り飛ばした。
「まさに猛将‥‥敵に不足なし!」
 それでも怯えぬ、龍重の眼光よ。
「ま! 戦法なんてのも単純でいい。ハデに斬りあえれば、それで十分だ。手を打ち策を練るのが兵法とはいえだ。そんなものは俺には不要だ!」
 龍重は大太刀をグルリと回しながら、下から斬り上げるように攻め込んだ。元親は素早く抜いた刀でそれをはじく。
 が、その元親がよろめいた。頭上に相当な衝撃、刺さったのは、光の矢!
「ぐっ‥‥」
 思わず押さえる、角。だが――すぐにその手を放した。角、健在。
「さすがは鬼の大将‥‥でも、ここは負けられんね」
 放ったのは潤賀 清十郎。極めし月読命ノ舞は、強烈な威力を誇るはずだったが、それでも、元親の角は割れなかった。
 そしてその角に、今度は銃弾が直撃した。のけぞる元親。
「ぐおっ‥‥」
「‥‥割れません、か」
 絃瑞は良業物の八咫烏(火縄銃)を持ち上げると、素早く再装填を開始する。
「一度で落とせずとも同じ箇所を狙えば目はあるはず。危険な時ほど良く狙え、と。映画でも聞いた台詞でございますね」
「ええ、でも危険はなるべく取り除きましょう――地蔵菩薩慈悲真言」
 カミラ・ナンゴウは、元親に振り回される仲間たちの傷を癒した。ありがてぇ、と勢司は笑った。助かった、と蒼桜は一息ついた。
 しかし。これだけの波状攻撃を浴びせなお、元親は危険に陥るという気配を見せないでいた。
「余裕の体力と、凄まじい再生力の賜物ですか」
 桜花は冷静に分析していた。このままでは負ける、と。結局は、角を折るしかないのだろう、と。

「皆さんが鬼武者退治に集中できるよう精一杯援護します!」
 澄香は、鷹の機巧に持たせた催涙手榴弾を鬼の群れに落とし、その行動を妨害。
「ガハッ、ナンダコレハ‥‥」
「鬼も生きるのに必死なのかもしれません。でも人の命を差し出すなんてできない。女木島は島の皆さんの故郷、島と皆さんの安心は返してもらいます!」
「そういうことだ」
 忍はそこへさらに、狙撃ライフルの銃弾を注ぐ。狙うは角。バキッ。悪くない展開。
「ですが‥‥あちらはどうでしょうね」
 九龍はちらりと後方を見やった。仲間を、元親と対峙する来世人を――もはや元親に援護はなし。しかし、見たところ、人間優勢とはどうしても思えず――

「なんなのよもう! どうすればいいの!」
 聖はいらいらと声を荒げた。ここまでの優勢ムードが、一気に冷めていくのを感じているのだ。
 優位な状態で鬼達をしりぞけ、人質を救出し、鬼武者を秒殺し、いまや大将を隔離した状態だ。だが、それなのに、追い詰められつつあるのは、まるで自分たちのような感覚。
「あれが一騎当千の武将、ということでしょうか」
 長行は、その四字熟語が誇張でもなんでもないのかもしれぬ、と思い始めていた。そう、元親は余裕の表情だ。
 しかし、それが、ふいに揺らいだ。
「どうした人間ども! ‥‥ぐあっ」
 突然、元親は腹を押さえ、腰を折った。すぐさま顔をあげ、闘志をむき出しにして見せたが――そこにはあきらかに、驚きと戸惑いが浮かんでいた。
「今、なにかしたか‥‥ぐっ」
 再び、ぐらつく。勝手に悶え始める姿に、来世人たちさえ戸惑う。が。
「なにボサーッとしとんじゃあ! このスキにぶっこまんかい!」
 叫んだのは、同じくぐらついていた右京だった。その手には――ワラ人形が握られている。
「あ、あれはまさか、元親さんの‥‥?」
 サイワはハッとする。魘魅道術。さきほど右京は、元親にパンチをクリーンヒットさせていた――その時に髪をわずかにちぎり、それを媒体に、ワラ人形を生み出していたのだ。
 そして、それを手にした者がダメージを受けると、その2倍のダメージが元親に――
「「ぐああっ」」
 元親と右京が同時に苦悶した。なぜなら――奈々が強烈な地震を起こしたからだ、効果を上昇させた、仙級のなゐふる霊迎えノ舞で!
 それはとてつもないダメージを右京に与え、そしてそれはそのまま、元親にもデリバリーされる。本当なら、この地震に元親ごと巻き込めれば完璧だったが、仲間を巻き込む可能性が高くそれは断念。それでも、右京の苦悶と引き換えに、無条件に大ダメージを与えられるこの戦法は、元親には相当な驚きであったろう。
「六郎、先生を!」
 奈々が、お供の弐尾ノ鎌鼬に治癒を頼む。六郎はひらりと舞いながら癒しの波動を送るが、それだけでは追いつかない。
「平気じゃ、わしのことはいい‥‥皆が癒してくれる! だから、今じゃあ!」
 そう、皆が慌てて地蔵菩薩慈悲真言を唱えたため、右京が倒れることはなかった。一方、元親だが、戸惑いを受けつつもいまだ立っている。これでなお再生力がまさっているのか。
 だが、追い詰めるなら今しかない。
「いざ、木偶(でく)人28号!」
 杏花。その試作人型機巧が飛びかかる。元親は刀でそれを両断する。
「そこよ!」
 芽衣子がそこへクナイを投げつける。元親はハッとした表情を見せるが、肩でそれを受け、はじく。
「まだまだ! 姉妹の絆見せてやります!」
 藤枝 梅花がさらにいく。太上神仙秘法道術、その風羽根が10セット、まとめて襲う。荒鬼を始末したそれを見るや、元親はカッと目を見開き、なんと三歩脇へワープし、それをかわした!
「なっ、まだ能力を隠していたなんて‥‥!」
 美乃は愕然とした。しかし直後、さらにあぜんとさせられる――その、転移した元親の背後に突如、何者かが出現したからだ。
「そう来ると思ってましたよ」
 声に振り向く間もなく、元親に首に縄が絡む――狐弥。地中から隙を窺っていた彼は、ここぞと姿を現し、虎徹の縄ひょうを完璧なタイミングで絡めたのだ!
「こ、このっ‥‥」
 元親は、縄を解くべく両手を首へ持っていく――しかしそこへすでに、桜花は肉薄していた。
「しゅっ」
 鋭い呼吸と共に、良業物の地蔵切は振り抜かれた。上級一ノ太刀の力を乗せて。家族の、仲間の絆と期待を背負ったその一閃を、桜花はまるでスローモーションであるかのように感じながら振るった――完璧な一刀だとわかった、会心の太刀筋だと。
 しゃくっ。
 元親が縄を脱したとき、その右の角は、綺麗に切断されていた。元親はこの日一番の、驚愕の表情を浮かべると、折れた角と折れてない角の両方に手を当て、そして壁際までワープし、そこで慌てたように水流を放出して来世人を威嚇した。
 その動転ぶりよ。来世人は誰もが思った――物理的に追い詰めたかはさておき、精神的には完全に優勢に立った、と。
「見たか、俺達の力! 独りで立つ猛者じゃなく船を操るように全員で、あんたに勝つ!」
 透哉やその手に、漆黒の炎を宿した。
「よもや逃げはすまいな?」
 ミストは、冷たい声音でそう言いつつ、ブレードオブブラックを構え直した。
「ここまで来たら、最後までやろうぜ。カラリと笑ってきりあって、カラリと笑って死んでこうや、お互いな! それで生き残ったやつが、死者の想いも背負って夢を追えばいい」
 龍重が不敵な笑みでそう言うと、元親もニヤリと返し、ハッハッハ、と豪快に笑い出した。
「面白い! この程度の手勢、単騎で充分と思っていたが‥‥やるな、来世人よ!」
「ふっ、わかればよいのじゃ。鬼チカの最期も見届けてやろうぞ。鬼の成り立ち、生き方、実に興味深いものであったしの」
 ヤームルはじりりとゴンスケを送り出す――だが、けしかける気は、あまりなかった。元親の能力や、その表情から、『逃げる気であり、それが可能なようだ』と察せられたからだ。
 清十郎もしかり。だから、皆に目配せし、しばし手を出さぬよう、うなずきかける。
「ここは俺の負けだ。だが、ここで死ぬわけにはいかない。俺は生き延びる、なんとしても。そして鬼を集め、必ずお前らを倒す」
「もし、わしが倒されても、来世人もまた一人ではないぞえ。何百、何千ものわしが控えておるぞ」
 ヤームルはフフンと言った。
「つまりは、同じ穴のムジナか。俺達はどうしても戦争する運命にあるらしいな」
 元親は嬉しそうに言った――それが、セイワには、納得できなかった。だから言った。
「‥‥もしかして、いつか鬼さんと共存して生きていける時代が来たら、お互いを倒す戦いじゃなくて、お互いを守る戦いが出きるのかもね!」
「俺達が共存するとしたら、それはこの世が、もっと死と腐敗にまみれた時だろうな。考えてもみろ、鬼がいなくとも来世人がいなくとも、この国の連中は血みどろの戦争に明け暮れてきたではないか‥‥ついに天下泰平の世を迎えた、だと? バカめ、人間が人間を抑圧しているにすぎぬ、一時的にな。暴力が拮抗している静止状態、それが幕府のもたらしてくれる平和とやら、だ。結局、それが業よ‥‥人であろうと鬼であろうと、どんな時代であろうと、闘争こそが真理」
「なら、その拮抗に、この力を使うまで。暴力が静止した状態が続くべく努力する、それこそが来世人の真理」
 豊は決然と言い返した。元親は「そうか」というふうにうなずくと、それ以上言い返すこともなく、「さらば」とだけ言い残し、その場から、パッと消滅した。

◆集落:無事、の大切さ
 ひとひらは独鈷杵を優しく握り、綺麗な指を振って印を結んでみせると。
「――地蔵菩薩慈悲真言。さあ、これで大丈夫ですよ」
 豊富な法力を最後まで使い、仲間だけでなく傷ついた島民も大勢、癒してみせた。
「被害はこれで‥‥大丈夫ですね」
 椋もそう言って、治療後の一息をつく。
「さあ、お茶でも飲んで落ち着いてくださいね」
 庚 閑が茶をたてると、島民の少年は、おそるおそるそれに手をのばし、そしてすすった。
「みんな助かってよかったよかった♪」
 えあ子は、ついついダンスをしてしまう――そしてそれにつられて、ブナもなんか謎の踊りをクネクネやり、これに負けじと真子も腰を振って参加。
 一方で。蘭子は、おごそかな神楽を舞っていた。金比羅様の加護に感謝し、踊りを奉納しているのだ。
「倫太郎ちんは混ざらないの?」
 ミアは、ブナをクイクイ指差しながら訊ねた。倫太郎は、サンタ衣装もボロボロで、いつものようにフンドシを露出させ腕を組んでいたが、その顔はいつもより神妙だった。
「我輩の大日如来真言は、鬼を成仏させるものではない‥‥で、R」
「うん、そーだね」
「しかし、今は、強者の死に、冥福を祈りたいので、R」
「そうだね‥‥冥福を祈るべきは、それだけではなさそうでもあるし」
 その声は隣からした。いつしか煌人が、倫太郎の隣に立っていたのだ。
 煌人は見ていた。ぽつりぽつりと、事情を打ち明ける島民たちの姿を。

 マジかよ、と一刀はこめかみを震わせた。
 この集落は、洞窟の人質を除けば唯一の生存者たちだそうで、そのほとんどが、もともと女木島に定住していた島民であったとわかった。
 しかし、その数は半分以下になってしまったという――ある者は連れ去られたまま帰らず、またある者は、家族の目の前で殺され、喰われたのだという。
「ひでぇ事しやがる‥‥!」
 拳を震わす一刀に、カナタはそっと寄り添い、うなだれる。
「囮か人質のためだけに、ある程度だけ生かしておいた‥‥とか、そんなとこやろな」
 モーラはぼそぼそと言った。むろん、島民には聞こえぬように。
「そんな‥‥どうしてそんな‥‥」
 清萌はがっくりとうなだれ、膝をついた。島民たちも、助かった歓喜や安堵よりも「どうして?」という表情が浮かんでいた。
「どうして鬼はそんな‥‥ひどい事ができるのです‥‥?」
 そんな清萌、その肩を、萌はそっと叩いた――そして、萌瑠と無言で視線を合わせ、無言でうなずきあった。その目は語っていた。「そんなひどい事ができるのは、なにも鬼だけじゃないんだけど」と。
 そしてあきほもまた、覇気なくうなだれていたのだが、団次郎はその背中をぱんと叩いて。
「あきほちゃん、悪いけどもう一仕事残ってるよ」
「えっ‥‥?」
「島のどっかに河童がいるはずなんだよね。生きてるなら、どこかに隠れてるはず」

 そしてそれがうまくいったころ、工助は。
「あれっ春椛がいねえ?」

◆解放後の女木島:陽はまだ高くそこにあり
 岩の中さえも潜れる狐弥と忍が、『元親が使ったとおぼしき岩の割れ目』を発見するのにそう時間はかからなかったが、しかし元親を追う材料にはならなかった。
「隠し通路も、秘密の出口も奴には要らなかったのさ。自然にできた割れ目さえあれば」
 忍はそう言って肩をすくめる。
「転移能力がどの程度かは不明ですが、この空間を経由したとするなら、何キロも遠くまで転移はできないのでしょうね」
 狐弥はそう分析した。
「であれば‥‥この島から逃げることはできないんじゃねえか? 島内の鬼は全滅と聞いてるし、周囲は海、船だってもう全部把握してるだろ」
 和馬の言い分はもっともだった。しかし藤花は、かすかに首をかしげると。
「どうかしらね。女鬼みたいに誰かに化けることもできるかもしれないし、あるいはすごく泳ぎがうまいのかもしれないし」
「もちろん、念のため山狩りはするさ‥‥ムダだと思うけどね」
 イヴは首を振りながら言った――そして、その予言は後に証明される。
「よくわかんねーけどよー。大将は逃げて、それ以外の鬼はぶったおして、俺ら勝ったんだよな?」
 焔羅の言に、栄一郎は「そういうこと」と答えた。
 そう、来世人の犠牲も、囚われ人の犠牲も出すことなく勝利したのだ。それは誇るべき戦果であった。
「でも‥‥元親さん、これからどうするつもりなんだろう‥‥一人で‥‥」
 セイワは空を見上げた。洞窟の外は、まだ昼だった。
「そうですね、運命は何処へ‥‥っとと」
 絃瑞は最後まで言えなかった。千絵代に「絃瑞さーん、ふにゃーん」と抱きつかれてしまったから。

「しかし右京さんのアレ、すごかったですねえ。ムチャというかなんというか」
 杏花が感心したふうに言うと、右京はガハガハと笑った。
「なあに、皆を信じ、力を合わせれば、なんだってできるっちゅうこっちゃ。次はもっとうまくやって、くそったれモトチカなんぞ潰してやるわい」
 右京は、真理亜の、勢司の、奈々の肩を豪快に叩いた――奈々だけは、ケホッとむせた。
 と、そこへ春椛が走ってきた。
「こうなったら鬼チカのこと洗いざらい調べたるわ。ここが本丸やろ‥‥って、もう終わった!? んでお宝は? ない? なぜ!?」
 春椛は天に向けて吠えた。豊は、よくわからないものの、そんな彼へと敬礼した。

 ふたたび、集落。
 被害の――つまり『すでに殺された者達』の全容がわかってくると、元親をしりぞけた来世人らも、あまりはしゃぐ気分にはなれなかった。
 長行は淡々と、鎮魂の祝詞を唱えていた。犠牲者の無念を、親しき者を喪った悲しみを、少しでも昇華できるようにと。
 その調べのもと、涼は、痩せた島民へと、おにぎりを配り始めた――これは島で作った、炊きたて握りたてのものだ。
「悲しみは、そう簡単には癒えませんけど‥‥けど、お願いです。生きてください」
「‥‥ありがとうよ、お嬢ちゃん。うん‥‥うまい」
 おじさんは、泣きながらそれをほおばった。澄香も、涙をこらえながら、皆にお茶を配って回った。
「どうか、平穏を取り戻してください。もう二度と‥‥鬼たちが近づかないように、しますから」
「ああ‥‥煎り大豆もあるぞ」
 蒼桜も、おごそかに大豆を配るのだった。

 やがて、来世人らは島を去る。来た船に乗り込む者もいれば、八咫烏で帰る者もいた。
「あらっ、隠れてた河童さんもどこかへ帰るのー?」
「お、俺はちげーっての!」
 久遠と渚のやりとりはさておき。
 聖は、洞窟から解放された島外の人々を、いくつかの船へと案内していた。それぞれおおむね、行き先が決まっており、それで自分達の家に戻れるはずだった。
「あ、守全君。手配ありがとうね」
 聖は、人質の移送について三枝に頼んでいたのだ。三枝は小さくうなずき返した。
「‥‥マロも、直してやらねばの」
 ヤームルは、元親に破壊された機巧を抱き締めていた。ヒデコは、寡黙な三枝に、そっと訊ねてみた。
「この事件は‥‥どうなるのでしょう?」
「元親のことは全国に手配させる。いずれにせよ鬼の水軍はほぼ全滅したとみていい。残党を狩れば、瀬戸内は元に戻るだろう」
「元に‥‥ですか」
 桜花は海面を見つめた。言うほど簡単に、元に戻るはずはない、と内心つぶやきながら――大きなものを喪った人たちは、とくに。
 しかし、被害はとても少なかった、という言い方もできるかもしれない。あの、少し前の、戦乱の世に比すれば、はるかに少なかった、と。
 桜花は海面を見つめた。瀬戸内の海は太陽をきらきらと反射させ、穏やかにたわむれているように見える。だが、その水面の下では、ときに恐るべき潮流が渦巻いていることも、すでにみな、知っていた。
 来世人は、この先どこへ流されてゆくのだろうか。桜花は空を見上げた。太陽はまぶしく、頼もしく、そして暖かかった。願わくば、こんな日和が続かんことを、と、多くの仲間たちが、同じ空を見上げていた。



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参加者

d.ここはコブシで語り合うかなー?
不知火焔羅(ka00012)
Lv238 ♂ 23歳 武僧 来世 異彩
サポート
g.灯りの確保、応急処置・医療や回復魔法、人質避難時の護衛などサポート歓迎
成清聖(ka00061)
Lv233 ♀ 20歳 神傀 来世 麗人
サポート
f.地中から戦闘支援、洞窟内の警戒とかやってみよう。
大狼忍(ka00063)
Lv153 ♂ 20歳 忍傀 来世 真影
サポート
b.んじゃ、俺はここか。
平口工助(ka00157)
Lv299 ♂ 22歳 武僧 来世 婆娑羅
サポート
d.悩んだけれど元親さんに会いに行きたいのでここで・・・!
栄相セイワ(ka00188)
Lv131 ♀ 15歳 神僧 来世 異彩
サポート
g.人質の安全確保(救出)に対応します。
赤井狐弥(ka00215)
Lv126 ♂ 20歳 忍僧 来世 影
サポート
b.鬼の金的目がけ、金、金、粉、ごぉーるてぃーん♪なの、で、R♪
白羽瀬倫太郎(ka00283)
Lv163 ♂ 19歳 武僧 来世 傾奇
d.細かいことは知らん。やる事は、、単純で、明確だ。
吉弘龍重(ka00291)
Lv148 ♂ 17歳 武忍 来世 大衆
c.変更して人手が足りない集落の回復要因をしにいきます
空木椋(ka00358)
Lv184 ♂ 20歳 傀僧 来世 大衆
サポート
b.たぶん大騒ぎして、奇襲の後押しかな? もんげー
森住ブナ(ka00364)
Lv157 ♀ 15歳 神陰 来世 異彩
サポート
f.が少ない様なので此方で。形代札で皆さんを守ります!
水上澄香(ka00399)
Lv138 ♀ 17歳 陰傀 来世 異彩
d.さぁ、決着をつけようぜ! 真っ向勝負だ!!
鈴城透哉(ka00401)
Lv142 ♂ 15歳 武僧 来世 傾奇
サポート
c.指令[超越]で後方から支援するどすえ。
モーラ・ズメウ(ka00467)
Lv129 ♀ 23歳 忍傀 来世 異彩
サポート
a.最大の誤算は、鬼を狩る鬼のワタクシがここにいることですわね
高杉蘭子(ka00512)
Lv259 ♀ 20歳 武神 来世 傾奇
サポート
d.桜花姉さんの支援特化に変更なのです。
藤枝杏花(ka00565)
Lv155 ♀ 15歳 傀僧 来世 大衆
サポート
d.潮目はもうありません。お覚悟を。
藤枝桜花(ka00569)
Lv220 ♀ 23歳 武忍 来世 大衆
サポート
d.然らば、大将首を狙わせて頂くでござる。
ミスト・カイザー(ka00645)
Lv298 ♂ 24歳 武忍 来世 質素
サポート
d.諸所、真意をお伺い致したく。主に援護射撃を行います。
遠野絃瑞(ka00651)
Lv144 ♂ 28歳 武忍 来世 質素
c.うーし、土遁の術を借りたんで、不意打ちごめんだぜー☆
ミア・カイザー(ka00679)
Lv161 ♀ 24歳 陰忍 来世 異彩
g.人質となってる方へ、食事を作ろうかと思っています。
若桜涼(ka00758)
Lv131 ♀ 18歳 神傀 来世 異彩
e.元親戦に影響が出ないように雑魚を減らすことを目指します。
佐藤長行(ka00775)
Lv172 ♂ 25歳 神僧 来世 大衆
c.真子ちゃん、治療する場所結界で作っとくんだし。利用して欲しいんだし!
城田真子(ka00801)
Lv160 ♀ 21歳 神陰 来世 麗人
サポート
e.痒いところに手が届く。それが私の役目かしら
升田千絵代(ka00869)
Lv163 ♀ 25歳 武陰 来世 異彩
サポート
f.うににー…しばし考え中なのじゃ!
ヤームル・アイマーヴィ(ka00918)
Lv197 ♀ 15歳 忍傀 来世 異彩
c.治療での支援と、島民の方の避難誘導を行います。
花織ひとひら(ka00978)
Lv171 ♀ 17歳 神僧 来世 異彩
c.人質救出優先で、射撃で味方を援護…になるかな。
銀煌人(ka01137)
Lv118 ♂ 32歳 武傀 来世 大衆
a.ここに馬鹿が通りますよ!
越中団次郎(ka01138)
Lv280 ♂ 32歳 武僧 来世 婆娑羅
a.鬼退場の支援するのだよー
藤あきほ(ka01228)
Lv231 ♀ 20歳 陰僧 来世 異彩
g.よろしくお願いします。
銅蒼桜(ka01232)
Lv145 ♂ 20歳 武神 来世 異彩
c.鬼は追い返しちゃうよ。島民のみんなを助けるんだから♪
霧ヶ峰えあ子(ka01260)
Lv251 ♀ 16歳 神僧 来世 麗人
サポート
e.升田千絵代……人類の未来の為、今は手を貸そう!
大門豊(ka01265)
Lv99 ♀ 15歳 武忍 来世 質素
f.願わくば、使う事にならなけりゃいいなぁ。
鏑木奈々(ka01307)
Lv234 ♀ 18歳 神陰 来世 麗人
a.…本当は鬼様ともお友だちになれればと…でも今は………!
醒刃清萌(ka01317)
Lv203 ♀ 15歳 武神 来世 異彩
サポート
d.どんな手使ってでも頭ぁ殺っちまえばこっちの勝ちなんよ。
毒島右京(ka01318)
Lv212 ♂ 35歳 陰僧 来世 大衆
サポート
a.戦力が偏りそうなんで、謀鬼に回るぜ。
村正一刀(ka01389)
Lv308 ♂ 23歳 武神 来世 婆娑羅
サポート
b.勝利を得るためには小さな事からこつこつと!
ヒデコ・ルーラ(ka01440)
Lv221 ♀ 16歳 武神 来世 異彩
サポート
b.荒事は苦手なんですわ…。大将は任せますよって、俺は露払いさせて貰います
三ツ橋春椛(ka01473)
Lv221 ♂ 18歳 忍僧 来世 質素
サポート
 わざわざ御足労なことだ‥‥さあ、喰われたい者から名乗りを上げよ!
長宗我部元親(kz00070)
♂ ?歳