担当MS:庭野 桜空

白の婚礼

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
15/03/16 24:001300 Rexショート日常竜宮自由お任せプションEXオプションフレンドプション 15人

◆参加者一覧

チェイニー・リシュ(ta0027)H火
キョウ・ミツルギ(ta0035)W月
アーク・レイクウッド(ta0476)W風
ナチュール・ゼダー(ta0505)P地
イヴ・オークウッド(ta0601)H月
レア・ナチュール(ta1113)P風
マウリ・オズワルド(ta4409)H水
シャルル・フランドル(tb4332)H風
レフ・ドラガノフ(tb8429)H水
シオ・カチヅキ(tc0759)H地
マリア・レッドブレス(tc8335)P火
アーシャ・アルトゥール(td6602)H火
レイナー・ハルフォード(td6768)E陽
エパーティカ・フィアーバ(tf6366)W地
セイ・ミツルギ(tj4453)E陽

オープニング

◆結婚式
 白い日に、白い衣装。
 赤絨毯の上に立つのは一組の男女。
 純白のドレスを身に纏った花嫁が、飾り立てられた花婿が、揃って神父と観衆に向けて愛を宣誓する。
 そして花婿は花嫁のヴェールを上げ、幸せな気持ちをたっぷり込めて、愛しいその顔に口づけた。

 天竜宮の大教会で行われる、愛を深めた者たちの儀式。
 三月十四日。誰かが、白の日にかこつけて結婚式をしたいと言い出した。
 それを聞きつけた他のドラグナーたちが、我も我もと挙式を希望し‥‥愛のお返しの日である今日、何組ものカップルがここで結婚式を挙げることになったという。
 控室は着付けや化粧で大わらわ。会場も、飾り付けを変えたり客席の数を調整したりで大慌て。
 ドラグナーたちの出身地はバラバラだ。同じ女神教の結婚式といえど、地方が変われば常識も変わる。結果、色んな地方から色んな慣習が持ち込まれるため、彼ら教会関係者は一組毎に違う様相の式を用意せねばならなくなった。
 一般的な結婚式で良いのであれば、その道具‥‥花束や衣装などの貸し出しも利用できるが、他の人と同じを好まなかったり、こだわりがあったりなどの理由で、自分で持ち込む者も多い。管理に追われた教会関係者は、ちょっとの間違いもあってはならぬと、一生懸命気を引き締める。
 だが、大教会にいる者の多くは、顔に満足そう、或いは幸せそうな表情を浮かべていた。
 忙しくたって構わない。
 同じ島に暮らす仲間が愛を実らせる。それは歓迎すべき幸せな出来事だから。

 煌びやかな靴、美しい化粧。いつもと違う花嫁の様相に、花婿が釘づけになる。
 緊張した顔、幸せそうな顔。色んな表情を見せる花婿に、花嫁も幸せに笑う。
 今日はそんな、幸せな日。

◆マスターより
 白の日シナリオです。
 参加者は結婚式を挙げるか、見学に来たかどちらかになります。
 参加者に結婚するカップルがいない場合はモブドラグナーの結婚式見学会になります。

 結婚式の常識は出身地方や個人の常識によって異なり、今回は希望通りの式を挙げられます。
 特に希望がなければ、基本の結婚式となります。
 基本とは、『聖職者が司会をする。カップルに証人となる会衆の前で愛の誓いをさせたり、祝福を祈ったりする』です。
 ブーケトスや指輪交換、誓いのキスなどは基本に含まれませんので、希望者はプレイングにご記入ください。また、アイテムとしての指輪交換をする場合は、プレゼント企画やアイテム譲渡などで予めの交換をお願いします。

 同性婚・異種族婚もどうぞ。
 これらは地上ではマイノリティですが、今回の舞台は天竜宮であり、モブ見学者にも理解のある者が多いとします。よって、大っぴらに結婚式を挙げても特に不都合はありません。

リプレイ

◆白の婚礼
 鐘が鳴る。
 祝いの言葉が飛び交う。
 今日は愛のお返しの日、そして婚礼の日。
 二人でいることは、今もこれからも変わらず‥‥でも少しだけ、変わる日。
 恋する相手と正式に結ばれて、恋人から夫婦へと――。

◆葡萄畑の向日葵
 花嫁であるエパーティカ・フィアーバ(tf6366)の故郷は、スラヴォ地方の寒村だった。
 出自故か、彼女のイメージする式は、手を掛け心を尽くした素朴なもの。だから彼女自身、この時を迎えるまでに出来うる限りの小物に手を入れた。
(ドレスはさすがに完全な手作りは出来なかったけど‥‥に、似合うかな)
 ドギマギしながら、鏡を見て。不安げに視線を落とした後、それを振り払うように、彼女は諸々最後のチェック。指輪よし、指輪を乗せるピローよし、参列してくれた人への贈り物よし‥‥あ、贈り物のリボン歪んでるかな? 直さなくちゃ――‥‥。
「エパさん、支度は済みましたか? ‥‥おや」
 彼女の様子を見に来たレイナー・ハルフォード(td6768)は、その姿に驚き、目を瞠った。
 すっかり身支度を終え、いつでも式に出られそうな姿の彼女が、お菓子を詰めた袋のリボンを結び直している。彼女の周りには、彼女が手作りしたたくさんのお菓子、小物。よくよく見ると、リボンには、参列者への御礼の言葉の縫い取りまでしてあって。
 どこまでも細やかな配慮を見せる妻の姿に、レイナーは密やかに感服した。そして、それを口に乗せようとした時‥‥彼はふと気づいてしまった。
 対外的な段取り以外の準備を、ほとんどエパーティカに任せ切ってしまったことに。
「‥‥すみません」
 冠婚葬祭の知識に長けていながら、いざ自分の結婚式となれば浮かれきってしまって。別に何もしなかったわけではないが、何となく申し訳ない気持ちになって、レイナーは後ろから彼女の肩に額を付ける。
「えっ、えっ? れ、レイナーさん? 何が?」
 慌てる妻の首裏から、ふわりと甘い林檎の香りがした。‥‥レイナーが以前贈った、香油の香りだ。
 胸が、暖かい気持ちで満ちていく。爽やかな甘みは、贈り主の想像通り彼女によく似合っている。
 彼女自身の素朴さも、贈ったものを晴れの日に付けてくれる細やかさも、全てが愛おしい。
「何でもないですよ。刺繍、素敵ですね」
「あ、こ、これはね、せっかく見に来てくれるんだし、
 少しでも感謝が伝われば、って思って‥‥」
 照れから来る言い訳は、レイナーによる更なる賞賛の契機となった。

 野の花と乳白色のリボンで彩られた大教会は、普段の厳かさを幾分か和らげていた。気温すら、普段より暖かいように思える。
(ちゃんと暖かい雰囲気になっているかな)
 緊張の面持ちで辺りを見渡すエパーティカ。参列客には笑顔が多く、少し安堵して‥‥今度は別のことが心配になり、隣の様子をそっと伺う。
 理知的な光を宿す、端正な顔。
(隣に並んで、おかしくないかな)
 乙女心が不安を訴える。
 けれど式が進み、レイナーが愛の宣誓を口にすると、不安はゆっくりと霧散していった。
 レイナーの声が、いつもより少しふわふわしているように聞こえる。確かに彼は愛を誓ってくれて‥‥自分を望んでくれている。
 今日この日を喜んでくれているんだ、そんな実感がふつふつと湧き起こる。
「誓います――」
 緊張しながら、レイナーに倣って、生涯の愛を誓う。
 そして指輪を交換する。するすると指に填まっていく金属の環を眺めながら、エパーティカの心は昔へと跳んだ。
『エパが嫁に行く日をみたい』
『そのうちお前さんを祝える日が楽しみだ』
 思い描いたのは、そう言って笑う領主の顔と、賛同する村の人々。親代わりの彼と、家族のように愛した人たちの姿。
 彼らを襲った悲劇によって、その願いは叶わなかった。もういない人に、自分の晴れ姿を見せることはできないけれど。
 こうして天空に近い場所で式をあげられたから、喜びの気持ちだけでも届くといい‥‥などと思う。
(今、こうして幸せだよ)
 淡く滲む涙。すると隣に佇むレイナーが、気づかわしげにエパーティカの名を呼んだ。
 振り向けば、彼の手が頭上に伸びてきて‥‥髪を乱さないようにか、壊れ物にするように優しく、エパーティカの頭を撫でる。
 先ほどまでは、ただただ喜びに身を浸していたレイナー。それが今は、いつもの理知の光を灯し、エパーティカを気遣っている。
 それは浮かれた中でもエパーティカの様子をしっかりと見て、その変化を敏感に察知してくれた証拠‥‥愛され慈しまれている証。
「幸せになりましょうね」
 そして、彼は指輪を填めた手を優しく引いた。
 エパーティカは涙を振り切り、少し屈んで目を閉じる。
 ベールの上がるシュルリという音。頬に添えられる指の温かさに、顔に熱が上るのを感じる。耳まで熱くて仕方がない。
 ――どんな風に息をしていたっけ? それすら分からなくなって、頭の中は大混乱。
 予想通り‥‥予想以上の幸せな感触がエパーティカの唇を塞ぐまで、彼女は微動だにせず固まっていた。

 最後、参列してくれた人々に、エパーティカのお菓子が配られた。
 さすがに全員分は作れず。そこはレイナーが即席でちょっとした運試しの余興を提案し、勝った者に配られた。敗けた者にも、エパーティカは抜かりなく感謝を伝える。
「えへへ、ありがとう〜」
 イヴ・オークウッド(ta0601)もそれを受け取り、お礼代わりに彼女の周囲に花びらを舞わせる。魔法の花束から摘みとった四季の花びらは、色とりどりにエパーティカを飾った。
 そんな様子を隣に立ちながら、じっと無言で見つめるレイナー。
「レイナーさんも、食べる?」
 手に持ったのは、贈り物にするには不格好になってしまった失敗作。
「はい、あーん」
 冗談交じりでそれを掲げると、意外にもレイナーは、躊躇いなく齧り付いた。
「えっ」
「美味しいですね」
 おどけてぺろりと舌を出すレイナー。お菓子と共に齧られた指の感触、その名残を感じて恥じらいと戸惑いが一気に押し寄せ、エパーティカの顔がまたも全力で赤くなった。

◆水晶と翠玉
 眩い白。
 ベールもドレスも、上から下まで全て、純白。淡く塗った薄桃色の唇も、キラキラと輝く翠玉のような瞳も、普段は結って長く垂らした髪も‥‥今は纏めて、霞のような白の向こう。
 手に持つローデと、胸に宿る琥珀だけが、色を宿しているように見えた。
「どう?」
 チェイニー・リシュ(ta0027)は悪戯っぽく問い、自分の晴れ姿を愛しい伴侶に見せびらかす。
 ――くるり、ただ普通に一回転する様すらも。
「よく似合ってるよ。綺麗だし、可愛い」
 ナチュール・ゼダー(ta0505)から飛び出た素直な言葉に、チェイニーは両手を広げたまま固まった。
 綺麗にめかしこんだ顔を驚愕で彩って、時間を掛けてゆるゆると両手を降ろす。
「‥‥可愛いって、初めて言ってくれたよね」
「本当は、最初に会った頃から思ってたよ。チェイニーは可愛い、って」
 続いた言葉に、チェイニーは手に握った花束で、顔を隠す。白い霞の向こうですら、ローデの花よりずっと赤いその顔を、ナチュールは目を細めながら見つめた。
「僕が素直じゃないの、知ってるでしょ?」
 この機会を逃したら、一生言えない気がした。だから、今日。特別なこの日くらいは、素直に。
「変?」
 慣れないことをしたのだ、違和感を覚えられたって仕方ない‥‥そんな風に気遣えば、チェイニーはぶんぶん首を横に振る。
「嬉しいよ? 嬉しいに決まってるじゃん! えへへ、ありがとねっ」
 そして世界一可愛い、満面の笑顔を見せた。

 式が始まる。いざ会場へと足を踏み入れると、見物客が予想よりも多く、二人は揃って緊張を浮かべる。
 硬くなる心を一生懸命押し隠し、式を進めていたが‥‥愛の宣誓に至ると、万感の思いが押し寄せて、緊張は隅へと追いやられてしまった。
 誓いを口に乗せた後、ナチュールは改めて、チェイニーを見る。
 ――僕の事を許してくれて。
 好きで居させてくれて。
 好きになってくれて。
 「夫婦になってくれない?」って差し出した琥珀のペンダントを、受け取ってくれて。
 愛の篭った贈り物を、たくさんくれて。
 不安がる僕を「大丈夫」と励まし続けてくれて。
 一緒に、子供を授かりに行ってくれて。
 「ずっと一緒にいよう」って言ってくれた、大切な人。
「チェイニー」
 ベールをそっと、繊細な宝石を扱うかのように優しく上げて。
「‥‥う、わぁ」
 薄桃色の唇から、極々小さな呻き声。緊張からも、照れからも、ベールはもう彼女を守ってくれやしない。隔てるものがなくなって、改めて見る花嫁の顔は、可愛くて可愛くて、綺麗で。
 近づくと殊更に強く感じる、ジャスミンの甘い香り。揺れるイヤリングは‥‥随分前に贈ったもの。ナチュールがチェイニーに贈った、初めてのプレゼントだ。
「‥‥」
 たまらない愛しさがこみ上げて、高鳴る心臓に急かされるように口づけを落とす。
 唇同士が触れ合う時間は、そう長いものではなかった。温もりが離れると、チェイニーはたまらなく恥ずかしそうな、それでいて決して嫌ではないような、そんな顔をしていて。
(‥‥ああ、もう!)
 恥ずかしすぎて如何にかなりそうなのはこちらも同じ。だが、自分よりも更に恥ずかしそうな彼女の顔を見れば、ナチュールの胸は満足感で埋め尽くされていく。
 聖職者が指輪を持ってきた。チェイニーが作った、内に石を秘めたシンプルな金の指輪。以前贈りあったそれを、改めて交換し合うのだ。
 たくさんの作品を創りだす、魔法のようなチェイニーの手。そこにナチュールは、するすると環を填める。
 深い位置にそれを収めると、今度は、彼女がナチュールの手を取って。
 内側に並んだ二つの石を煌めかせながら、金属の環が指の表面を這って、奥へと進む。しっくりと収まったそれをもう一度しげしげと眺め、ナチュールは笑う。
 そして、少し身を屈め――。
「わ、ひゃっ!?」
 彼女をグイと抱き上げた。
 口づけの時と同じ程度に近くなった彼女の顔。慌てて、照れて。ああ、本当に可愛い。世界中の誰より可愛い。
(彼女の幸せの為なら、なんだって出来る)
 花びらの舞う中。
 ナチュールは最愛の人を抱く手に、グッと強く力を込めた。

 会場を出た二人は、顔を見合わせて大きく息をついた。緊張から一気に解放されて、張りつめていた気持ちが弛緩したのだ。‥‥そしてすぐに、同時の溜息に笑い合った。
 くすくすと笑い声を零しながら、チェイニーは相変わらず至近距離にあるナチュールの横顔をそっと窺い見る。
(女装してた頃が嘘みたい)
 きっちりと決めた彼を見て、嬉しくなる。しあわせで胸が満ちていく。
「よう、お疲れ。お互い来るべき時が来たなあ」
「あれ、キョウにシオ。奥さんは?」
 声を掛けられ、ナチュールと同時にチェイニーもまた顔を上げた。
「今、支度中だ。だからその前にな」
 そこにいたのは、着飾って立つキョウ・ミツルギ(ta0035)にシオ・カチヅキ(tc0759)。彼らもこれから式をあげる身なれど、友人の晴れ姿もしっかり目に焼き付けていたようだ。
「奇しくも今日ナツの他に、シオやシャルルやアークも式を挙げるのだな‥‥
 これも『縁』というやつか」
「色々あったが、来てよかったと思ってる。
 お互い色々背負うものが増えたが、これからも宜しくな」
 感慨深げなキョウ。笑うシオに対しては、はいはいと受け流すナチュール。
 ‥‥そういうものだとは思いつつも、抱き上げられている現状をじっくり見られるのはとても恥ずかしい。重くないかな、という乙女としては無視できない心配事もあり――思い切り頬を染めたチェイニーを優しく眺め、キョウはナチュールへと向き直った。
「本当におめでとう、ナツ。その幸せはお前が掴んだものだ、誰に憚る事も無い」
 間近にいるチェイニーには、ナチュールが息を飲む様子が伝わってきた。
「お前の幸せこそお前を愛した全ての人達の願いなのだから」
 ――本当だよ、ナツ。
 びっくりしている夫の顔。それを下から見上げて、チェイニーはくすりと笑う。

 ナツと思い出を作る度に、こんなにもたくさんしあわせになれる。
 そんな人と出会えて、本当に良かった。
 これからも、ずっといっしょだよ。

◆奥様は泣き虫な
 シオが自分の控室に戻ると、妻マリア・レッドブレス(tc8335)が茫洋と虚空を見つめていた。
「ついにこの日が来たんですねぇ‥‥」
 ぽつりと零した彼女は、何だか茫洋としている。いつもは悪戯っぽく輝く魔女の瞳も、静かな光を湛えているのみだ。
 自分と同じく、緊張しているのだろうか?
「結婚、結婚式か‥‥なんか今更ながらいよいよかって感じだな」
 凝り固まる気持ちを吹き飛ばすように、敢えて陽気に声を張る。
 改めて彼女の装いを見て――自分の贈った花束をブーケとしているところも含めて――自分のためにこんなにも美しく着飾ってくれたことが嬉しくなる。
「ん、マリア。その、すごく綺麗だ」
「‥‥シオ」
 反応したマリアが、顔をあげて何かを言いかけて――。
「シオ様、マリア様。お時間です」
 聖職者に呼ばれ、言葉は止まった。

 赤絨毯の上を歩きながらも、シオは先ほどのマリアの態度が気にかかっていた。
 一体どうしてしまったのだろう。マリッジブルーというやつだろうか。晴れの舞台のはずが、シオの胸に宿るのは不安。
 それでも、シオの気持ちが揺らぐことは無い。愛の宣誓を促されたシオは、躊躇いなく誓いを口にした。
 すると、ふと。隣のマリアの肩が、震えているのに気が付いた。
「マリア?」
「私‥‥貴方に釣り合うような人になれたんでしょうか‥‥
 とても自信がなくて‥‥」
 ベールの下で、マリアは涙を零していた。
「お、おい」
 ギョッとするシオ。宣誓の場で泣き出されては焦るのも無理はない。
 だが、ようやく理解した。マリアの元気がなかった理由。
 シオにとっては何も心配の要らないと、分かり切っていること。でも、マリアにとっては深刻な悩み。
「でも‥‥貴方が好きで‥‥愛しています‥‥」
「おい、待てってばマリア」
「ずっと‥‥ずっとそばにいさせてください‥‥お願いします‥‥」
「マーリアー‥‥いいから聞けって」
 ぐいと肩を掴み、可愛い花嫁を自分へと向き直らせる。
 だが涙を拭おうにも、目前に掛かるベールが邪魔をする。
「ああもう、取るぞ!」
 ベールをまるで剥ぎ取るように上げると、シオは丁寧な手つきでマリアの涙を拭う。
「‥‥泣くなよ、まったく」
 化粧が僅かに滲んでしまった。それでも、シオには目の前の彼女が、誰よりも、何よりも一番だ。
「お前でよかったというか、お前がいいんだ」
「‥‥シオ」
 両肩に手を置いて向き合う。何気なく口づけるには遠い、恋人同士の距離。口づけするぞと意気込んで、ようやく唇が届く距離だ。
「どうにも気恥ずかしいな、しかし。
 しゃあない、覚悟決めてやるかな‥‥じっとしてろよ」
 照れが手伝って、花婿の唇は素早く降りる。
 僅かに遅れて、花嫁の眼が閉じ――目の端からは、先ほどとは少し違う涙が、零れていた。

 順番が前後してしまったが、改めて愛を誓う。するとマリアは、シオの逞しい腕に抱きかかえられた。
 ‥‥夢なんじゃないか。
 お姫様抱っこのふわふわとした感じも手伝って、そんなことを思う。
 随分前に、結婚式の夢を見たような気がする。だからこれも‥‥と。
 だが、背中には確かにシオの腕の感触があり、頬にはシオの胸板が触れていて。夫から貰った四季の花束は、マリアの腕の中で確かな芳香を伝えている。
 夢じゃない。
 それを確かめるように、マリアはシオの耳元に唇を寄せた。
「実を言うと‥‥もう怪しい本の蒐集にはあまり興味がないんです」
「!?」
 驚愕する夫。見開いた目がこちらを向く。
「見つかれば貴方がしかってくれるから‥‥
 構ってくれる口実を増やしたくて、つい」
「‥‥、‥‥」
 言葉もない夫が可笑しくて、マリアは微笑む。
「でももうそれも必要ありませんね」
 回りくどく演じなくても、素直に気持ちを伝えればいい。
 そうしたら、シオは確かにこっちを見てくれるから。
「シオ‥‥大好きです」
 花束に顔を埋めて、マリアは炎色の瞳を細めた。

◆掛け値なしの幸せ
 ようやくこの日が来た――結婚という名の誓いを儀式により胸に刻む日が。
 夫婦ともに、この日を随分と待ち焦がれてきた。
(‥‥なのに、不思議ですわね)
 レア・ナチュール(ta1113)の心は、不思議と和いでいた。
 喜びも、幸せも‥‥僅かに気恥ずかしさも。全てがレアの心の中に詰まっているというのに、溢れ出る気持ちは不思議と穏やかなのだ。
 静かに顎を上げ、辺りを見る。
 客席の、一等いい席には、息子のセイ・ミツルギ(tj4453)が参列していた。
 あんなに大きな息子が、まだうら若い自分の結婚式を祝ってくれる。それもまた、天竜宮の不思議の一つ。まっすぐに見つめてくる少年に、レアはベールの向こうから穏やかな笑顔で答えた。
 宣誓の時がやってきた。キョウは黒いタキシードの裾を翻し、客席へと振り返った。そして腰に佩いた剣を抜き、天高く掲げる。
「キョウ・ミツルギ、我が剣と双月に誓約する。
 私は生涯を懸けて妻レアを愛し、守り抜き、いかなる時も彼女と共に在ると!」
 まるで劇のような言葉は、いかにも彼らしいとレアは思う。
 息子の視線は、父親に移っていた。頷いてみせる夫と、背筋を伸ばす息子に、レアはくすりと笑って――抜身の剣に、そっと触れた。
「でしたら、わたくしは貴方と言う剣を収める、鞘であり続けましょう。
 振るわれた剣が、何時も戻り、帰るべき場所である鞘に」
 剣の腹を、つと撫でて。そしてレアもまた、高らかに宣誓した。
「わたくしは、キョウ・ミツルギの妻として、永遠にその傍で、貴方を愛する事を誓います」
 最初はまばらに、じきに割れんばかりの拍手が響く。
「父上、母上! おめでとうございます!」
 拍手の音を割って、セイが声を振り絞った。
「そして、僕をこの世界に生んで下さって、本当にありがとうございます!
 父上、母上! 末永く御幸せに歩み続けて下さい!」
 美しい光景。
 本来ならば滅多なことでは見られはしない、紛れもない自らの父母の結婚式。
 それを見たセイの胸は、強く熱く、滾っていた。
「僕も、二人の子として恥じぬ様、
 そして父上と母上が誇れる息子である様、精一杯歩んで行きます!」
 最後に少年は、折り目正しく頭を下げる。
「そして、本日挙式される皆様、本当におめでとうございます!
 月並みですけど、皆様の末永き幸せを祈らせて頂きます!」
 セイの言葉に、またも拍手が起こる。
 立派に育った息子を誇らしく見つめ、そして夫婦は再び向き合った。
「たとえ幾千の星が煌めく夜でも、君を見つめさせて欲しい。
 どんな闇の中でも、君を見つけて照らしていたい」
 熱烈な愛の言葉に、レアの心は沸き立つ。
 求められている、愛されている‥‥確かなその喜びを胸に秘め、レアはあくまで淑やかに、そっと頷く。
「この絆は永遠に、深く強くいつまでも‥‥愛してるよ、レア」
 触れ合う唇。
 美しい恋物語を見た時のように、拍手は永く永く、響いていた。

 そして式は終わりとなり‥‥夫は妻の手を引いて、控え室へと優しくエスコートする。
 揃いの指輪を確かめながら、控えに戻る廊下を歩んでいると、セイもほどなくやってきた。息せき切って駆けてきた息子は、夫婦に近づくにつれ、顔に驚きの色を浮かべる。
 どうした? 訝しみながら視線を辿ると、少年の瞳は母レアに注がれていた。そちらを見て、キョウもまた驚きに目を開き‥‥そして、繋いだ手にやんわり力を込める。
 ぽた、とドレスに滴が落ちる。透き通り、煌めく滴は、レアの瞳からぽたぽたと零れ落ちていた。
「キョウ様、セイ‥‥わたくしは、コモンヘイムの誰より、幸せ過ぎる女でございますわね」
 人目がなくなった途端に、感情が溢れ出た。淑女らしい振る舞いは崩れ落ち、彼女を支配するのは年相応の、女性らしい気持ち。
 頬に涙を光らせながら、レアは誰より美しく笑った。

◆並ぶ細い肩
 大教会は一転、荘厳な雰囲気に包まれていた。
 元貴族であるシャルル・フランドル(tb4332)の様式に合わせた結果、式はとても厳かなものとなったのだ。品のある高貴な雰囲気の飾りつけに、参列客も静謐を守る。
「この日を心待ちにしていました」
 だが、花嫁の心に緊張は見られない。祭壇の前、伴侶たるマウリ・オズワルド(ta4409)の隣に並び、大きく広がる裾を常と同じ、美しい立ち居振る舞いで捌く。
 聖職者が、誓いの言葉を促した。
「僕の人生をシャルルさんの青春に捧げることを誓います」
 その言葉に驚いて、シャルルはベールの中からそっとマウリを伺い見た。それはプロポーズの言葉を少し、アレンジしたものだ。懐かしい気持ちが湧き、それに結婚式というこの場で改めて告げてくれた彼の気持ちを思えば、シャルルの胸に熱が灯る。
 シャルルは知っている。
 彼は決して豪胆ではない。身体は細く、精神的にもタフなわけではない。
 そんな彼が、双肩に多大な重荷を背負っている。
 家伝の使命。モンスター研究とその広い伝達。それを自らの子には背負わせず、当代である自分で完遂しようという決意。
 だから、シャルルはブーケの花に白薔薇を選んだ。『心からの尊敬』――その花言葉を、優しく胸に掲げた。
(マウリ様は、人間)
 そして自分は、エルフ。
 天竜宮という特殊な環境下においても、寿命差は大きい。恐らく、マウリの方が先に亡くなることだろう。
 それでも生涯を掛けて彼を想い、亡き後も偉業を語り継いでいく。
 死が二人を別つまで。いいえ、例え別たれた後も。
 夫よりも更に細く小さなシャルルの肩。深い愛によって、そこに彼の志を背負う。
「――誓います」
 シャルルもまた、宣誓した。
「ここに永遠に変わらぬ愛を誓います。マウリ様と苦楽を共に歩んでいきますわ。
 そして、偉大なる業を成し遂げたマウリ様を語り継いでいきましょう」
 彼の研究に、自分もまた生涯を捧げることを。
 そして繊細で優しい彼への、永遠の愛を。

 マウリが想いを込めて作った指輪を、互いの指へと収める。
 しっくりと馴染むそれを改めて眺めるマウリ。彼女の指にも同じものが填まっているのを見て、彼は微笑んだ。そして、その手でベールを上げる。
 妻の美しい顔が灯りの下に晒されると、マウリは息を飲んだ。
 白い衣服に囲まれているためか、薔薇色の頬が殊更に引き立つ。瞳は潤んでいて、マウリをまっすぐに見つめている。
 容姿が美しいだけではない。聡明で、機知に富む。まるでオリュンポス神話の女神アテナのようだと、掛け値なしに思う。
「この様な日をマウリ様と迎えられるなんて夢の様ですわ」
 シャルルの言葉に、かぶりを振る。
 それはこちらのセリフだ。
「女神のようなシャルルさんを僕のものにできるなんて、世界一幸せな男だね」
 キスの予感だけでも頬は茜に染まっていたのに、更にそんなことを言われては――。ますます赤くなるシャルルの頬を、マウリは優しく両手で包んだ。
「愛しております」
 なめらかな頬。長い睫毛が伏すのを待って、小さな顎を僅かに持ち上げ、そっとキスを落とす。
 シャルルの細い肩が、羞恥か喜びか、ぴくりと震えた。

 抱き上げようと屈みこむ夫の姿を見て、シャルルは慌ててパンプスの力を使った。
 ふわりと浮きあがり、マウリに寄り添えば、彼はシャルルの身体を横抱きに抱える。
 マウリの身体は、しっかりとシャルルを支えてくれていて‥‥。シャルルは彼の胸元に、そっと頬を摺り寄せた。

◆空舞う想い
 ここに至るまでに、色々なものを失った。
 アーシャ・アルトゥール(td6602)の胸には、ずっとずっと寂寥が宿っていた。亡くしたものが、多すぎた。
 だから、自分が結婚できるなんて‥‥考えてもいなかった。
「ようやく式を挙げることが出来るな」
 それが、来るべき幸せだったように言うアーク・レイクウッド(ta0476)とは、対照的な想い。
 気持ちを通わせてからの月日を思えば、アークの気持ちも分かるのだ。
 でも、まだアーシャには実感というものが湧いていなかった。今まで、そんな幸せは縁遠いと、思いすぎていたのだ。
 だが、いざ式が始まり、愛の誓いを行う段になって。
 永遠の愛を宣誓すれば、その実感はワッと一気に湧き上がってきた。
 この人と生涯を共にするのだ。改めて自分が幸福を得られた驚きを胸に、アークの方を伺い見れば、アークは口の端をあげた笑みを浮かべつつ、ベールを上げる。
 白い幕が取り払われると、アークの様子がよく見えた。獅子の礼装が、自信ありげな態度によく似合っている。
 影が一つに重なる。薄い唇の感触に、アーシャはますます実感を強めることとなった。

 用意されたのはケーキとサーベル。二人でケーキをカットして、彼らは参列客へとプレゼントした。
「おめでとー!」
 イヴや、その他参列客からわあわあと、口々に祝福の言葉が飛ぶ。深々と礼をしそれに応えると、アークは花嫁の手を掴んだあと、ひょいとその身体を抱え上げた。二対の魔法の指輪が効果を表す。陽光が煌めき、桜の花びらが二人を包み込む。ドレスの長いスカートも、風を飲み込んでふわりと舞った。
 それらを纏ったまま、彼と彼女はソレルで宙に躍り出た。花びらがひらひらと、二人の軌跡を残す。
 わっ、と沸く参列客。ぐんぐん小さくなっていく彼らに向けて、アーシャは手を振った。大きく手を振り返してきてくれる彼ら。
 その傍、大教会の白い壁はほんの少しだけ黄色味を映している。そろそろ、陽も斜めになりかけているのだ。
 青い空に宿るほんのりとした黄色味。眼下の世界は、花嫁の二つ名‥‥黎焔を思わせた。
 アーシャを抱いたまま少しだけ身体を離し、アークは彼女の瞳を覗き込む。
「俺で良ければこれからもずっと共にいよう、愛してる」
 甘い言葉に、アーシャの胸がぎゅうっと締め付けられた。
 ――知っている?
(本当は、アークさんに思いを伝えるつもりはなかったんですよ?)
 整った顔、輝く銀の髪――容姿も美しければ、実力も兼ね備えている。そんなアークのことを想う人は、他にもきっといただろう、とアーシャは思っている。
 でも、同じ想いだと知ったら。
(我慢できなくなっちゃったんです)
 この温もりを、諦められなくなってしまった。
「今、私は幸せです。愛してます、心の奥深くから」
 儀礼はさっき済ませた。
 だから、改めて――今度はあなたに誓う。
「ずっと、ずっと一緒に‥‥あなたの傍に寄り添わせてください」
 空に舞う影は、再びぴったりと寄り添った。

◆いつかの約束
 多くの結婚式を続けざまに見たら、流石に少し疲れが出た。
「今日の式、素敵だったねぇ。みんな、幸せそうで」
「ン、凄かったな」
 すっかり日も暮れ、参列客もまばらになった大教会。そこの長椅子に並んで座り、レフ・ドラガノフ(tb8429)とイヴは今日の様子を思い出す――。

(こういうの好きなンかな)
 式の最中。
 どの結婚式を眺めている間も、イヴは終始はしゃぎっぱなしだった。
(やっぱ服とか花とかに興味あるのか?)
 そう思って観察すれば、どうやらそれだけではないことが分かる。凝ったドレスを見ては感動の呟きを零し、誓いのキスにはまるで我が事のように恥じらい、幸せそうな笑顔には揃って幸せそうな顔をしていた。
 くるくる変わる様子は、見ていて飽きない――。
「ああして、皆の前でずっとを約束できるのっていいなぁ。
 すきなひととだから尚更なのかな」
 何を思ったか、そのタイミングでイヴはふと、レフの顔を伺い見た。
 前を――式の様子を見ていると思っていたのだろう、こっそりレフを盗み見ようとした様子だが‥‥レフはイヴこそをしっかり見つめていて。それに気づき、びっくり顔で前へと向き直る、イヴ。
「でもいいなぁ」
 その言葉が何に対する羨望なのか、レフには分からなかった。
 分からなかったけれど‥‥少女の可愛らしい憧れの正体を、レフは知りたいと思った。

「‥‥ねぇねぇ、レフ君」
 語り掛けられて、回想から返る。
 レフはゆっくりと、イヴの顔を見た。ペンダントを指先で撫でながら、イヴはたくさんの花嫁が歩いた赤絨毯を眺めている。他人を幸せそう、と評するイヴこそたいそう幸せそうなのだが、彼女はそれに気づいていない。
「私もね、レフ君のこと、今日のみんなみたいに幸せに出来たらいいなって思うんだ」
 まるでプロポーズのような言葉に、ギョッとした。
 ――イヴの視線が、今はレフに向かってなくてよかった。
 平静を取り繕えば、いましがたのイヴの言葉が、もっと大きなたとえ話だと分かる。‥‥分かった結果、レフはまた混乱した。
 それはつまり――自覚のあるなしは別にして――好意を示していることには変わりないからだ。しかも、多分に恋愛的な意味を含めて。
「レフ君が笑顔だと、私も嬉しいの。
 ずっと、幸せにできたらって。レフ君が私に思ってくれたのと同じ気持ちだね」
 そして続く言葉で、その意味は補強された。
「‥‥ン」
 どうしていいか分からない。視線が彷徨い、膝に落ちる。
「この気持ちは、たぶん‥‥愛の日のお返事になると思うんだけど、
 こう思うの初めてで。まだちゃんとした形には出来てないから」
 だが、更なる続きの言葉に、レフは妙な安心を覚えた。
 待ってほしいという彼女の言葉に従うならば、今日、決定的に何かが変わるわけではない。
 まだ、今の関係の、まま。
「そういや‥‥白の日、過ぎちまったけど」
 無造作にアネモネの花を一輪、取り出して。紫のそれを、イヴの髪に挿す。
 ありがとう、と笑うイヴ。こちらをふり仰いだ彼女の顔は、ちょっとだけレフよりも下にあって。そう、ちょうど誓いのキスを待つ花嫁の位置に、近くて。
「‥‥『もう一回』までには、ちゃんと形にしておくね」
 笑う彼女に重ねて――想像してしまった。
 もっとたくさんの白い花と、白いベールと‥‥それらに囲まれて、花のように笑うイヴの姿を。
「‥‥似合ってる」 
 ポケットに手を突っ込み、顔を逸らすレフ。
 いつか、自分の気持ちにもっと前向きになれたなら。
 渡せるといいな。そんな風に思いながら、レフは小さな指輪を、ポケットの中で転がした。