担当MS:深空月 彩

Horror houseへようこそ?

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
16/04/03 24:00800 Rexショート冒険地上初級お任せプション 10人

◆参加者一覧

ケトラ・アトリー(ta0567)W水
セーユ・エイシーア(ta2083)E陽
シエル・ラズワルド(tb6111)H風
レイナス・フィゲリック(tb7223)H陽
エターナ・クロウカシス(tc7434)P月
ルフレット・マクスウェル(ti9324)P風
シルフィ・レオンハート(tj6032)E風
ヘルマン・ライネケ(tj8139)P水
シース・アイーサワ(tk1851)H陽
ケレス・アルスター(tk4014)E火
バルト・クリューガー(tz0053)W地

オープニング

◆悲劇の一家
 ―――此度の悲劇の舞台は、カスティラ地方ゼスアレオ王国。
 問題となる屋敷は、賑わう町の中心からは、少し離れた場所にある。かつての名門貴族の屋敷のひとつであるそこは、病弱な家族が美しい自然の中で療養できるよう、建てられたものだという。
 然しその貴族はお決まりの権力闘争の果てに、失脚。悪いことは重なるもので、身内に不幸な事故や不慮の死と立て続けに悲劇に見舞われ、家は没落した。
 上流社会は、魑魅魍魎の跋扈する場所。そこにおける権力闘争など珍しくはない。
 ――奴の陰謀だ、呪いだ、と。死の間際に主は謎めいた言葉を残したが、真相を明らかにする事は出来ず。
 屋敷もまた亡くなった貴族らに関わりのある、欲深い誰かの手に真っ先に渡るかと思われた。けれども―――

◆掃除婦のリタ
 私の名は、リタ。ブラウニーのしがない掃除婦でございます。
 私の一族は、代々アベラルド家にお仕えしておりました。お家に不幸があり皆が散り散りとなったあとも、敬愛の念は何一つ変わる事はございません。
 この泉の畔に建つお屋敷は、元々は我が主君が病弱な若君のために用意した、大切な場所です。
 そこはアベラルド様が密やかに残された遺言通り、主のご友人が相続されました。けれどもそのブルーノ様が主になったのは名目上のこと、主はこの屋敷に住まわれてはいらっしゃいません。
 それといいますのも、この御屋敷には―――、ある秘密があるのでございます。

◆彼らの命を奪うのは?
「その屋敷で起きる惨劇を、防ぐこと。それが今回の任務です」
 バルト(tz0053)がそう切り出し、不幸な貴族アベラルド家のことを、皆に教えた。
「現在屋敷に人は住んでいないようで、悲劇の映像に映ったのは屋敷に侵入した若者達と、ひとではないモノだけです。どうやら不埒な試みをした彼らは、返り討ちにされるようですね」
 無人の屋敷、侵入者を襲った人ではないものとは、まさか―――驚きながらもドラグナー達が推測したそれを肯定するように、バルトは頷き。
「水瓶には子息と思しき男性が、侵入者達に襲いかかる光景が映った様です。どうやら死霊となり館に留まっている、と見た方がよさそうですね」
 詳しいことは、現地で調査した方が良さそうでしょう、と言ったバルト。話を聞いた貴方がたも、ゼスアレオ王国のかの屋敷へと飛ぶことにしたのだった。

◆泥棒?肝試し?
 その屋敷に足を運び、皆はある掃除婦と出逢う。ブラウニーという種族である彼女は、リタと名乗った。元々このお屋敷で勤めていた彼女は、現在の所有者であるブルーノという貴族の下で働いているらいしい。現在の主の指示もあり、定期的に屋敷の掃除へと訪れているらしく、色々と話してくれた。
 現在の主は、相続はしたもののこの屋敷には住んでいないことも。そして、その理由を―――
「ぼっちゃまは、亡くなられた後も、今もこのお屋敷にお暮らしなのでございます」
 憂えた様子のブラウニーの発言に、やはり、とバルトは顔を引き締め、別のドラグナーが問う。
「ブルーノさん、だっけ。貴方の今のご主人はそのことを知っているから、移り住まず、ご子息をそっとしておいているのかな」
 考え込んだ後、おそらく、と掃除婦は頷いた。
「誰かが泥棒に入るようなことは、今迄は?」
 バルトの問いに、首を振り、脅えた様子で掃除婦は縮こまる。
「そういえば、このお屋敷に纏わる不幸が、町の一部の若い方の間で噂になっているようだ、と知人が言っておりました」
 泉の畔に建つ屋敷は少しずつ老朽化してはいたけれど、目を覆いたくなる程の惨状ではない。酷く薄汚れることもなく美しい外観を保っているから、誰かが興味を持つのもありえない話ではない。
「そうですか‥。ご子息の下へ、案内をお願いできますか」
 バルトの頼みに、リタは頷いた。

 刺激しないよう願うリタ約束を交わし、彼女に案内されて子息の部屋へと向かったドラグナー達。
 黄昏時の薄暗い部屋の窓際に佇んでいる、半透明の男。悪霊ではなく、普通の霊のようだ。相手に害意が無ければ襲ってくることはないのか、彼はこちらに反応しない。
 静かに何処かへと視線を向けている彼の姿を見て、皆は考え込む。
「‥そうか」
「なーに、バルト?」
「リタさん達は、ご子息をそっとしておきたい。水瓶に映った若者達の様子を見ると、窃盗に入ったとも肝試しに侵入したともとれるような微妙なところのようですね。更生も期待できる――ならば」
「???」
「この屋敷を超常現象で溢れ返る、手を出したら危険な幽霊屋敷だと思わせるのはどうかな、と」
 バルトの妙案に、皆は手を打った。シフールがはいはいっと手を上げる。
「それって思いっきり脅かせばいいってことー?悪戯魔法とかでー??」
「ええ! 大いに驚いていただいた後、穏便にお引き取り願うというのはどうでしょう? 屋敷に二度と近づく気が失せるように、徹底的にやるのは」

◆登場NPC
 バルト・クリューガー(tz0053)・♂・ヴォルセルク・地・人間

◆マスターより
こんにちは、実はお化け屋敷が大大好きな深空月がお届けします、久々のカスティラシナリオです。
若者達はどうやら幽霊が出るかもしれないと承知の上で、金目の物を持ちだそうと考えているようです。肝試しのつもりも、あるようですね。
なので、怪奇現象を目にして驚いても、迷惑なことに多少のことでは逃げていきません。
悪いことをすれば報いがあるのだと、しっかり教えてやりましょう。
『屋敷に二度と近づく気が失せる様に』できれば、そしてその結果この屋敷に纏わる新しい噂が生まれるくらいになれば、成功です。

悪戯魔法を始めとする、様々な魔法や道具‥あらゆるものを駆使し、怖いお化け屋敷を作り出しましょう。
バルトは隠密スキル等を使って、裏方っぽいことを何かしてると思います。

皆様のご参加、楽しみにお待ちしております!

リプレイ


 ――町外れの林ん中に、屋敷があるだろ。ほら、持ち主の貴族が不幸な死に方を遂げたとかいう。あそこには幽霊が出るらしいんだ――
 半信半疑でいた者達も、謎の人影や奇妙な物音といった話を聞くうちに、興を惹かれていく。
 そこに集うのは、親の脛を齧り怠惰に日々を過ごしているとわかる若者達である。
 非日常への誘惑。常ならぬことをすれば退屈な日常を打破できるような、そんな期待。
 肝試しを行うことは決定した。金目の物があれば少しくらい持ちだそう、などと。軽率な発言からは、その短慮が透けて見える。
「けど幽霊、かー‥」
「何だよ怖いのか。よく言うじゃねぇ? 生きてる人間の方が怖いんだ、ってさ‥」


 しがない掃除婦にすぎないリタには、皆様のお話全てが理解できたわけではございません。ただ皆様から感じる善意が、私にそのお話を信じさせました。
「驚かして追い返すか、バルト(tz0053)面白そうなアイデアじゃない、アタシも手伝うよ!」
「ふふ‥肝試しなんて、本当に怖いものを知らないから出来るんですよ‥! そんな奴等、思い切り怖がらせてもう二度とそんな気がなくなるようにしてあげましょう!」
「そうだNE、悪いことする人にはオシオキなんだYO! よーっし! 頑張って驚かそうNE」
 楽しげにルフレット(ti9324)様が、そしてシース(tk1851)様が少々黒い笑顔で、その傍らではシルフィ(tj6032)様が拳を突き上げ、無邪気にそう仰いました。
「よかった。貴女がたなら、そう言ってくれるんじゃないかと思いました」
 乗り気の皆様に、嬉しげなバルト様です。
「悪戯は好きだよ、年甲斐もなくね。さて、方法は色々と思いつくが。どういうのが、より効果的かな」
 ヘルマン(tj8139)様もまた提案を耳にし、イキイキと楽しげなご様子です。
「うーん、暮らしている方のお邪魔をしたら駄目だよね‥。お互いのためにも、怖がってもらおう!」
「はい。執着、愛着、人を引き留め幽鬼に変える心‥興味、恐怖、人を動かし怪物とする心。私は彼らを引き裂いて差し上げましょう。静寂を乱す無粋に裁きを‥姿すら見せず、隠密と魔法と精霊の力で‥」
 気合いを入れるセーユ(ta2083)様、傍らではどこか神さびた雰囲気のエターナ(tc7434)様は、あらぬ方へ視線をやりうっとりと呟かれていました。
 ――‥それにしても、屋敷が悲劇の舞台になるなんて!
 坊ちゃまが未来で引き起こすという惨劇の知らせは、私めを落ち着かない気持ちにさせるのに、十分でございました。
「悪戯していいとか何それ絶対楽しい!! 全力でやってもいいんだよね‥! あっ、大丈夫、真剣に悲劇を防ごうとしているからね!」
「大丈夫です! 皆、守ってみせますから!」
 シエル(tb6111)様が、続いてセーユ様が私の不安を取り除くように仰ってくださいました。

 ――事件は夜に起こる、とのことで。皆様は、速やかに準備に取り掛かられました。
「危ない場所に入ったり、他人の場所に入ったり、ダメ絶対。です」
「そうよね、軽率に人様の場所に入りこんじゃあ、ダメよね〜」
「はい! なのでめいっぱい、脅かしましょう! ‥けど、お化粧ってくすぐったいですね」
「そう? はい、ケレス(tk4014)さん、じっとしててね〜」
「あ、はい」
 肌色を死者のそれのように変え、時には傷口のように見せたり、と。ケトラ(ta0567)様は、メイク道具と『あるもの』を使用してまずケレス様に、続いてご希望を確認しながら、シルフィ様や仮装し脅かし役をすると名乗りを上げられた方々にお化粧をしていきました。また躊躇なく肌を青く塗るシエル様の仕上げを、手伝われたりも。
「単純なお洒落の為のお化粧と違うけれど、なかなか面白いわねぇ〜」
 渾身のメイク、そして工夫を凝らした仮装。皆様が恐ろしい姿に変身されていく様に、リタはもう驚くばかりでございました。
「はは、これは凄いですね。‥。‥平穏な日々のため、頑張りましょう」
 少し考え込むようなご様子を見せたレイナス(tb7223)様でしたが、私の視線に気づき力付けるように頷いてくださいました。
「っと‥バルトさん、さっきは変な所見せちゃってごめんなさい。よろしくお願いしますね!」
「はい? ええ、こちらこそよろしくお願いします」
 シース様の仰る変な所とは、先程の少し怖い発言のことでしょうか。
「実は、いつかお話して仲良くみたいと思っていたんですよ」
 バルト様は軽く目を丸くした後、光栄ですと笑顔で仰いました。
「あ、そうそう。せっかくだから、バルトさんに1つ、問題を。一番怖いもの、ってなんでしょうか。人によりますけれど」
「一番、怖いものですか? ‥何だろう」
 首を傾げるバルト様に、「正解は、後で」と悪戯っぽく、仰いました。
「――そうだ、複数であれば脅かしにくい。どうだろう、若者達を分断する、というのは。それに‥遠くから仲間の悲鳴が聞こえる、なんて演出も素敵だろう?」
「賛成です、バラバラに出ても脅かせ辛いでしょうし。何処で誰が出るか、誘導についても打ち合わせをしておきましょう」
 ヘルマン様とシース様の提案に、皆様異論がないご様子で、細かな打ち合わせが始まりました。
「うん。他の皆もやる気まんまんだし、アタシも負けてられないね!」
 ルフレット様に喉元を擽られ、可愛らしい黒猫がミャアと鳴き声をたてました。
 皆様の存在が頼もしく、いつしか私も落ち着きを取り戻していきました。
 かくして若者達はその夜、屋敷の敷地へと侵入しました。皆様の、予言の通りに。



 ――その夜。静寂に包まれる屋敷へと、近づく若者達。風のせいで木々は不気味な音を立て、泉の水面は波立っていた。
 月や星の光は流れる雲に遮られ。予め話し合った通り持ち込む明かりは最小限としている為、辺りは一層暗い。
「あの‥」
「誰だ?!」
 ランタンを翳し確認できたのは、小柄な女性。
 安堵も束の間、生じたのは疑念。何故一人で、こんな場所にいるのだろう?
「あの、もしかして、肝試しに来た方達ですか?」
「!? ‥そうだけど‥」
「良かった! 私もなんですけど、友達と逸れちゃって。良かったら、一緒に回らせてもらえませんか?」
 男達は目を見交わし、僅かな逡巡の後に頷く。
「別に、いいけど――‥」
「‥。きみは?」
「セーユです」
 男達が押せば、軋む音を立てながら容易く、館の扉は開いた。愚かなる侵入者を招き入れるように。


 館に入るとすぐに広間が、あった。
 侵入当初、若者達は楽しげな様子だった。
 そんな最中感じた、暗がりで何かが動く気配。
「!?」
 驚き男達がそちらを見れば、黒猫の姿が。
 死霊ではないことにホッとしかけたのも、束の間――。
「おや‥、新しいお客さんかい? さあ、こっちへついておいで」
 男達の背筋を、冷たいものが這う。
 猫が笑うように口を動かし、はっきりとそう言ったのだ。
「ね、猫が喋ってやがる‥!」
 猫はミャアと鳴き、誘うよう闇の中へと消えた。
 然し驚く彼らは、ついていくどころではない。
「ぐっ‥な、何だぁ!?」
 何処からか、この上なく耳障りな音色が。
「が、楽器‥?!」
 酷くデタラメな曲調で、頭痛を齎すような嫌な音だ。
 広間に飾られた、石像。乏しい明かりでははっきりと見えなかったが、ぼさぼさ頭で薄汚れた服を纏う娘が居るのが確認できた。
「こ、子供の霊がいるっ!!」
 男の声に驚いたのか、パタリと音が途絶え、そして――。
「あの、ここには変な噂があって‥入る人が消えてしまうっていう‥」
「せ、セーユちゃん、何言って」
「ひ人が消えるって‥?!」
「もしかして、友達も‥はぐれた後に‥どこからともなく、悲鳴が。それと、何だか床に汚れが‥」
「へ、ヘンな事言うのやめようぜ!」
「!? 誰かいるぞ‥!」
 広間の中央奥の階段、そこに誰かが佇んでいる。
「あっ‥きっと友達です!」
 娘の笑顔にほっとした男達は、彼女の後を追う。そして――
「うわあああああっ!!」
 顔を覗き込むと、自然目に入ったのは胸に深々と突き立てられた短剣で。
 ワンピース姿の若い娘は、虚ろな目で何処かに向け、微動だにしていない。そしてやがて――‥消失した。
 血の気の失せた彼らが、聞こえた物音に振り返れば――
 そこに横たわっていたのは、血塗れの体。
「いやあ! 怖いっ!!」
 男達がどよめき、脅えきったセーユが涙声で叫ぶ。
「っ‥! 言っただろ、死んだ奴に何ができるってんだ!」
 恐れを隠す為か怒鳴った若者が、その遺体を蹴飛ばそうとしたその時。
 不可視の力で体を撓められた彼は後方に吹っ飛び、階段の方へと転がる。
「な、な‥!」
 床に這い蹲ったまま口を開け閉めする彼の姿に、暗がりの中誰かが微笑う。
「まさか、本当に、ここ、呪われて‥! ‥! シースさん‥!」
 その娘がセーユの友人かと察した男達は、顔を引き攣らせた。
 中途半端に開いた扉、暗がりに立つ娘。血塗れの姿で居るその‥姿。
「返して‥返して、私の命‥!」
 必死の形相で手を伸ばしながら、髪を振り乱す少女の姿に、何名かが堪らず逃亡を試み入口に駆け戻る。しかし。
「!! 開かないっ?!」
 先程軽々開いた扉が、重い岩に変わったようで。
「シースさん、ま、待って‥」
「セーユちゃん!」
 脅えながらも友へと歩み寄った娘もまた、闇へと消え。その場には点々と、光る足跡だけが残った。
 少しして何処からか女の悲鳴が聞こえ、男達の肌が粟立つ。それは先程娘が言った言葉、通りだ。
「あっ、あの子まで、まさか‥!」
「く、くそ‥! ほ、他に出口は‥!」
 乏しい明かりに照らされた、広間。左右に、奥へと通じる通路も薄ら見えた。
 ――その彼らへ更なる恐怖が、忍び寄る。

「だから嫌だったんだ! 無理矢理連れてきやがって‥! 大体お前はいつもそうなんだよ!」 
 突如喚き出した一人に、嫌そうに顔を顰めるリーダー格の男、驚く友人達。
(この館には魔物がいる、死が充満している‥)
(恐い、暗い、辛い、もう帰ろう、もう戻ろう)
(憎い、憎い、憎い、こんな場所に連れて来た奴が憎い)
 続けて若者達は次々と喚き、頭を掻き毟る。
「帰る!」
「くそっ、何なんだよこの屋敷は‥!」
 皆が次々湧き出る黒い感情に震え、走り出す。
 残された者達は何だぁ!? と怒鳴り舌打ちしたりしながらも、放置はできずに二手に分かれ追いかけた。

 分断された彼らを待ちうけていたのは、更なる悪夢のような光景だった。
 左の通路を進んだ男達がある部屋の前に来た時には、頭上から滴る生温い液体が頭や体にかかり、悲鳴があがった。光を吸収する程濃い闇の塊が過った時も、悲鳴が。うち一人は発声できなくなったり、音が聞こえなくなったりと異変が生じた。
 右の通路を進んだ男達を待っていたのは、恐怖をかき立てる女の歌声。慄く彼らを更に襲ったのは、飛び回る白い布。絡みつかれて転倒した男は、暗がりから現れた仮面をつけた何者かに至近距離から、目を覗きこまれた。男の胸に広がる絶望。彼目がけ、霊は刃物を容赦なく振り下ろす。服が裂け失禁した男は、霊の消失を目撃した。
「うわああああああああっ!!」
 遠くからも仲間の悲鳴が、聞こえ。足先で生温いものが弾け、薄暗い中転倒する者も。
「こ、ここはヤバい! 出ようぜ!!」
 館に棲む何者かが、自分達に害をなそうとしているのは明白で。男達は侵入したのを悔いながら、走った。
 通路は魔物の巣窟。広間に逃げ帰った彼らは、床をぐるぐると回転し動き回る奇妙な物体を見た。
 吃驚し足を止めれば続けて目に入ったのは、浮遊する何者かの周囲に、淡く光を纏い舞い踊る蝶の幻影。
 それは幽玄の美しさだ。妖しく、そして恐ろしい。嫌な汗が噴き出してくる。
 束の間気を取られた彼らを、中央階段をゆっくりと降りてくる存在が見下ろす。
「‥あら、何方かしら? こんなところまで来られるなんて」 
 良く通る、女の声だった。振り向いてはいけないのに、振り向かずにはおれない力に満ちた、それ。
 微かな灯に照らされるのは、青い肌に青のドレスを纏った、異質なもの。
 薄ら見える姿、シルエットの異様さに、男達は唇を引き攣らせた。
「ここには、誰も住んでいないとでも思ったのかしら。失礼な話ね。私達が住んでいるというのに‥」
 近づいて来ようとする意思を感じ、生唾を飲み込む男達。
「そうだわ。先程、とても美味しい食事を戴いたの。‥ただ、まだ足りないわ」
 この上なく、楽しげに。青い唇の両端を吊り上る。
「貴方達‥と っ て も 美 味 し そ う ね ?」 
 触手と髪が、ぞわりと動く。
「「「うわあああああああああああああああああああああああっ!!!」」」
「ぴゃあああああああああああっ」
 屋敷を揺るがす最大級の悲鳴。何故か先程開いていなかった入口の扉が、開け放たれている。
 我先にと逃げ去る男達のうち数名は、突如発生した竜巻に巻き上げられ落下。屋敷を出た直後の為地面が受け止め重傷には至らなかったのか、足を引き摺ったりしながらも辛くも逃げていく。
「一応、ね。入ったら逃がさないような現象起きた方が来る気なくなると思うから」
 黒猫を抱き上げ、風の魔法を発動したルフレットが満足げに頷く。
「ええ、容赦する必要はありません」
 聴く者を不安へ誘う歌声と精霊憑依で、先程彼らを恐怖に突き落としたエターナもまた、頷く。
 吃驚しながらも目を凝らし死人が出ていなさそうだと確認、吐息したバルトにシースが澄まして言った。
「さっきの問題の答えですが。一番怖いものは、幽霊‥じゃなくて、人間の恐怖心‥と女性、ですよ」
「‥そうかもしれませんね‥」
「なんであたし達を見るのかな?」
「うう、皆、恐かったよー」
「みんなも上手に仮装して‥うっうっ‥僕も怖いの苦手なんだYO」
 誘導役等を引き受けたセーユは半泣きで、自分もまた幽霊姿のシルフィも震えており、入口へ集った仲間達が苦笑交じりに慰める。
「ふふ、昼間同様、私も上手くいきましたよね?」
 ナイフの柄を胸につけスウォースの残響を使用、というのはシエルの助言。依然血塗れのまま、ケレスがそう笑顔で。昼間裏方の打ち合わせ中の自分達に近づき脅かしてきたのを思い出したのか、バルトが苦笑しケトラも笑う。
 レイナスも微笑み、カラになった水ガンを見下ろす。
「ひと肌程度のお湯を使用して、正解だったかもしれませんね」
 彼の案で、わざと温水を使用した水ガン。恐らく気持ちの悪さも倍増したことだろう、と皆が頷く。
 また裏方班で動くケトラ達がムーンカムで状況を伝えることで、スムーズに事を進ませ。また扉の開閉の制限等、そういった活躍もあったことを明記しておく。
「皆様お疲れ様でございました‥!」
 終わったと察したリタが皆の前に現れ。頭を下げてきた彼女の肩を、皆で叩く。
「上手くいったねー!」 
 少々動き難い為転ばぬ様に近づいてきたシエルもまた、嬉しげに。良い反応をするシルフィ達をその演技でまた驚かせた後、ニコニコと言った。
「ごめんごめん、スィラ様の仮装、驚かすのにはちょうどよかったよね!」
「シエルさん相変わらずの熱の入りっぷりだったわよね〜。流石〜」
「ケトラさん、ありがとう! ‥演技指導をありがとう、ヘルマンさん!」
「どういたしまして。いや、君はなかなか良い生徒だったよ」
 見事な演技を思い出したのか、そう楽しげに。戻ってきた白い布の幽霊を軽く撫でた後、侵入者らの驚きぶりを思い出したのかヘルマンは満足げに笑った。
 二階の窓のすぐ傍に佇む霊が皆を見下ろしていた。その視線に気付いたレイナスが会釈すると、その霊は微笑って屋敷の何処かへと姿を消した。







 泉の畔の屋敷には、新たな噂が立った。
 事件後、討伐などという話が持ち上がらぬよう。敷地内に、ゼスアレオの貴族ブルーノの名と彼の所有を示す看板を立てることで、屋敷の安寧を守った。

 いつかドラグナー達は、館を再び訪れることになるかもしれない。
 ―――皆様、ようこそいらっしゃいませ。
 その時は半透明のブラウニーの掃除婦が迎え出て、あの時皆に見せたのと同じ笑顔を向け、館の中へと誘うだろう。



 ‥‥to be continued?