担当MS:旭吉

あなたを忘れない

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
16/07/15 24:0010000 Rexコミック冒険地上中級お任せプション 8人

◆参加者一覧

セーユ・エイシーア(ta2083)E陽
ユニコ・フェザーン(ta4681)P地
パシフローラ・ヒューエ(ta6651)E火
シオ・カチヅキ(tc0759)H地
ウリエン・エレクトラム(tc2839)E陽
ティナ・オーリア(td7542)P陽
クセル・クルヴァイト(th5874)P陽
ルネット(tj2664)P地
キュリロス・プロント(tz0039)W火

オープニング

◆拝啓、天来の英雄の皆様
 彼がドラグーナ島からの手紙を受け取るのは、かなり久しい事だった。
 最後は、確か――こちらの時間で二年ほど前だ。
 ドラグナー達がまだアルメリア大陸に到達するよりも前の事。
 ゼスアレオからアトランティック洋を西へ行けばグリーヴァへ辿り着けると信じ、ドラグナーがその船路を共にした女冒険家、アニタ・コロンボからのものだった。
 あの時の彼女は、正確にはドラグーナ島の総督となった彼女であったが。

 今回の手紙の送り主はアニタではなく、その娘マリンからのものだった。
 マリンもドラグナーとは浅からぬ縁があり、アルメリア大陸をドラグナー達と探検したのは彼女だ。
 ドラグナー達の記憶に残るマリンはまだ20代の快活な女性であったはずだが、あれから地上では何年が経過しているのか。

『天来の英雄ドラグナーへ。お久し振りです。お元気ですか。皆様には大変お世話になりながら長らく連絡もせず、申し訳ない事をしました。
 私は今、ドラグーナ島に住んでいます。皆様にお話ししたい事、お見せしたい物、色々な物があります。つきましては、ドラグナーの皆様をご招待いたしたく――』

「‥‥あれから37年、になるのか‥‥」
 手紙に目を通していたキュリロス・プロント(tz0039)が、最後にマリンと行動を共にした冒険を思い出す。そして、37年という長い年月の経過がもたらすものを、嫌でも思い知らされる。
 しかしそれを口にする事は無く、彼はドラグナー達を呼び出すべくその場を後にした。

◆湿っぽいのはナシだぜぇ!
 キュリロスの誘いに応じたドラグナー達が、久し振りのドラグーナ島の空気を満喫――する間もなく。
「ヒャッハー! ゼスアレオの船を狙えーっ」
「ヒャッハー!」
「ヒィーハァー!」
 沖の方からやってきた海賊船から続々と海賊達が飛び降り、ドラグーナ島の船を襲おうとしているではないか。
 マリンに会うのも、ドラグーナ島を満喫するのも、まずはこの空気も読めない場違い共を退場させてからだ!

◆母が遺したもの
「これで良かったんだよね‥‥母さん」
 南風が吹き抜ける部屋で静かに腰掛けた老婆は、一つの箱に語りかけていた。
 箱には封蝋までされながら送られなかった手紙が一通。
 できれば自分の手で送りたかったと、さいごまで残念そうだった彼女の顔を今でも覚えている。
「あたしも今まで忙しくてさ。‥‥気が付いたら、母さんの歳も近くなってたよ」
「マりン」
 奧からやってきた、同じくらい年老いた男が相変わらず片言なコモン語で名を呼ぶ。
「あんたは結局、その変なコモン語直らなかったねぇ」
「すまナい‥‥」
「そういう所もね。さて、ご馳走と花の準備をしないとねぇ。母さんも、ドラグナーの皆に会いたいだろうし」
 老夫婦はそれぞれ分かれると、ドラグナー達を迎える準備を始めた。


◆補足
 アニタは過去の【TC05】【TC06】関連イベントに、マリンは【TC10】〜【TC12】関連イベントに登場しています
 (夫のプアルコは【TC11】から)
 必要であれば参考にしてください(このオープニングを読むだけでも問題なく参加できます)
 また、マリン達は島のご馳走として、以下の物を用意してくれています
 (これらの他に皆さんがお土産を持ち込んでも構いません)
 ・ギニーピッグの丸焼き
  要はモルモットの丸焼き。見た目まんまネズミで迫力がある。肉は赤みがかった癖のある鶏肉のような味で、皮がコリコリしている。
 ・島で獲れる蛇やワニの肉をローストしたもの
 ・近くの海で獲れる魚・海老・貝を焼いたもの
 ・トルティーヤ
  島に自生していたトウモロコシを粉にして水で練って薄く焼き上げたパン。
 ・島で採れたさまざまな野菜と芋を煮込んだスープ
 ・ピーナッツ
  島で栽培している殻付き豆。元々自生していたものを作物化する事に成功した。
  軽く炒ったものは、酒のオツマミに最適。
 ・ヤシの実ジュース
 ・ラム酒
  島で栽培しているサトウキビで作った蒸留酒。元々自生していたものを作物化する事に成功した。
  甘い香りのする琥珀色の液体で辛みが強い。
 ・パインアップル
  島で栽培している果実。元々自生していたものを作物化する事に成功した。
  焼いてシナモンと蜂蜜で味付けしたものも美味しい。

◆登場NPC
 キュリロス・プロント(tz0039)・♂・ヴォルセルク・火・メロウ

◆マスターより
旭吉です
皆ー! 自分のキャラがかっこよくかわいく動く所をー! 見たくはないかー!!

〇状況
十二月のドラグーナ島 
ただし南国ですので水着でも余裕です
「◆母が遺したもの」はスタート時点では皆さんの知らない情報です

シーンとしては
開幕海賊戦→アニタ墓参り→ご馳走 の流れです
ご馳走は、飲み食いよりも海辺で遊びたい場合はそちらも可能です
(マリン達もドラグーナ島を楽しんでくれていると好意的に受け取ります)
ただし構成上、飲み食い&海辺遊びの両方はご遠慮ください

〇NPC
何かあればプレイングにて

・キュリロス
久々のドラグーナ島はあつい
ちょっとしみじみ

・マリン、プアルコ
それぞれ58歳、61歳
南アルメリアで出会い長く一緒に冒険する内に夫婦に
今は子供達の数人がアルメリアを探検、開拓中

(・アニタ(故人))
享年66歳 ドラグーナ島の開拓者でマリンの母
23年前に病死
ゼスアレオと天竜宮の戦争を避けられなかった事を悔いながら逝ったという

◆コミックリプレイとは
 このシナリオは「夏期特別企画」の一つである、「コミックリプレイ」です。
 参加するには、参加するキャラが美術室(STARS)にて作成された透過全身図をもっている必要があります。
 コミックリプレイは、ショートシナリオのリプレイに加え、オープニングコミックでお馴染み「牛丸恵助」絵師によるコミックが作成されます(参加人数×1頁、4〜8頁)。
 プレイングには、キャラに行わせたい行動内容と共に、外さないで欲しい外見特徴やこだわり(刺青、ホクロ、水着デザイン等)を記入してください。服装・装備は出発時に装備しているアイテムやMYページに表示されているイラストを元に制作します。

リプレイ



◆いつの世も
 季節の上では真冬の時期であるはずなのに、久方振りに訪れた常夏の島は相変わらずの緑碧の海が広がっていた。どこまでも青い空からは眩い日差しが照り付け、耳には浜に打ち寄せる波音と海鳥の声が別天地の楽園を思わせ――
「「ヒャッハー!」」
「‥‥何だ、海賊かあれ? 感傷に浸る間もありゃしねぇ」
 海風に乗って聞こえてきた無粋な声の集団にシオ・カチヅキ(tc0759)がDGS[ファーサイト]越しに念じると、海賊船と思しき船が島に停泊しているゼスアレオの船を目指して進んできているのが見えた。乗船している人数も多いようだ。
「こういう事は、よくあるの、かな?」
「早く何とかしないと!」
 迎撃の構えを取るユニコ・フェザーン(ta4681)達に、セーユ・エイシーア(ta2083)やパシフローラ・ヒューエ(ta6651)、ウリエン・エレクトラム(tc2839)がグッドラックで援護すると、ドラグナー達は浅瀬に小舟で乗り付けようとする海賊達に駆け出していく。
「綺麗な浜辺を汚してほしくないんだよ! ティー! ブレスで援護よろしく!」
 躍り出たティナ・オーリア(td7542)が魔法の杖[フレイヤ]を翳しプリズマティクフィールドを成就すると、虹色の光が辺りに奔る。海賊達が驚く間に、『ティー』と呼ばれたキティドラゴン[Gold]が大きく息を吸って光のブレスを放った。
 別の舟から回り込もうとする海賊には、まずユニコの柴犬『ゴンスケ』が走り寄って激しく吠えたて足を止めた所をユニコがマジカルショックを打ち込む。ここに来たドラグナー達の中で唯一のヴォルセルクであったキュリロス・プロント(tz0039)も他の男と斬り結び、僅かにできたその隙間にクセル・クルヴァイト(th5874)が軽やかに滑り込むと、彼の周囲にフィアクリスの誘いの光が無数に浮かんだ。
「前衛が少ないから、少しでも隙を作って攻めないとね」
 幻想的な空間の中でクセルが躍り始めると、付近の海賊達の多くは自分でも理解できない内に一緒に踊り出してしまう。身体が言う事を聞かない事に彼らが苛立ち始めると、自分よりも大きなゴーレム[メイドラゴン]と共に現れたルネット(tj2664)が海賊達を指差す。
「行け! メイドラゴン! ですのー!」
「がおー!」
 主と同様に愛らしい外見とは裏腹に、メイドラゴンは大理石製の爪で襲い掛かる。
「何やってんだお前ら! ルミナ使いったって相手は九人なんだぞ!?」
「‥‥彼が頭領でしょうか」
 海賊からの反撃の発砲を、弾を装填しているシオの盾となってウリエンがシールドディフェンスEXで防ぐ視線の先、船上から声を荒げる一人の男がいた。
「頭領が倒れりゃ戦意も喪失してくだろう」
 周囲では、合身したティナが攪乱するように空を飛びながら真夏の陽光をぶつけるようにソルを浴びせたり、シオの隣りに控えたパシフローラがダーツ[ケラウノス]を次に投げるタイミングを伺ったりしている。個々の能力は圧倒的にドラグナー達が上回っているのだが、海賊達も本気なのかドラグナー達を包囲できてしまう程度には人数も多いのだ。
 その彼らの合間から、ロングシューティングEXとシューティングPAMAで狙いを澄まし、更に効果を上昇させたシューティンググラスを成就させるとシオは火縄銃[八咫烏]の引き金を引いた。
 弾は頭領の三角帽を弾き飛ばし、彼の頭部に大きな怪我を負わせたようだ。耐え切れず仰向けに倒れた頭領とその銃声に、海賊達は一気に落ち着きが無くなっていく。
「引くなら、無理に追いはしない、けど。引かないなら」
 魔法の杖を構えたユニコとルネットが一歩詰めると、怖気づいた海賊達は一歩引き、次の瞬間には背を向けて浅瀬に乗り上げた小舟へと戻っていった。その頃にはプリズマティクフィールドの効果時間も切れ、小舟で瀕死状態になって倒れている仲間達を気遣いながら海賊達は海へと引き揚げていった。

◆あなたを待ってた
 ドラグナー達を招待したマリンが住んでいる家は、島の住人に聞けばすぐにわかった。尋ねてきたドラグナー達を出迎えたマリンとプアルコの姿は、面識のある者にとってはどこか若い頃の面影を残しつつも随分と年老いた老夫婦のそれだった。
「俺の感覚じゃまだ三年か四年ってとこなのに、地上じゃもうここに到達してから五十年は経ってるのか‥‥そりゃ歳も取るよな」
「呼んで貰えて、本当に、良かった、よ。ありがとう、ね」
 きっと、これが最期になるかも知れない――シオやユニコだけでなく、ルネット以外の皆が改めて地上の時間や人々に置いていかれるドラグナーの立場にそれぞれ寂寞感を覚えた。ルネットがそれを感じなかったのは、生まれた時から時間の流れから外れているシフール故だろうか。
「マリンさんのお話、聞きたいわ。あれからマリンさんやアニタさんがどう過ごしたのか、今のドラグーナ島がどうなっているのか‥‥」
「今日、ここへ来られなかった方へお話しする機会もあるかもしれませんので」
 パシフローラやウリエン達がマリンに話を求めると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。もう一度、どうしても皆に会いたかったんだ。空の上のあんた達に」

 マリン夫婦に導かれて島の墓地へ向かうと、他とは明らかに雰囲気が違う墓があった。女神教の墓には違いないのだが、貴族のものほど豪華でも無く、他の住人達の物よりは重みを感じる。ドラグーナ島の開拓者にして初代総督であった、アニタ・コロンボの墓だ。
「この島の、偉い人のお墓ですの? 綺麗な島をありがとうですの!」
 他のドラグナー達と共に、ルネットも花と祈りを捧げる。
「立派な墓なんていらないって、母さん言ってたんだけどねぇ。島の皆の方からそれじゃ困る、なんて言われてさ」
「アの頃、マりンすごく忙しカった」
 プアルコと結婚し、子供が生まれてじきの頃だったらしい。折悪しく同時期に権力を握っていたドラグーナ島提督のロドリゲス家主導によるゼスアレオと天竜宮の全面戦争も始まり、とにかく悪い事が重なった時期だったようだ。
「心労もあったろうな‥‥」
「本当は、開戦前にあたし達から知らせる事もできなくはなかったんだけど‥‥っと、そうだ」
 しみじみと零したシオに、マリンはプアルコから封蝋のされた手紙を受け取るとそれをシオに渡した。
「母さんが皆に言いたかった事、そこに全部書いてあるからさ。読んであげてよ」
 彼女の言葉に従い、少し日焼けした手紙の封を切ると待ちきれなかったとばかりに中身が零れてきた。

『親愛なるドラグナーの皆へ。
 あんた達がこれを読む頃には、あたしはもうくたばっちまってるんだろうけど。
 これをどこで読んでるのか、読んでくれるのかもわからないけど。

 ありがとう。本当にありがとう。あたしに夢と、勇気と、幸せをくれて。
 それから、ごめんよ。本当にごめんよ。恩を、返せなかった。この言葉を、伝えられなかった』

 手紙は更に続き、マリンの母であるアニタはドラグナーに大恩を感じていたが、同じくらいゼスアレオにも恩と義理を感じていた為、暴走を知りつつも止められなかったという。最後の最後で役に立てなくてすまないという悲痛な後悔と、今生の別れを告げられない無念、そして勿体無い程の人生を送らせてくれてありがとうという溢れんばかりの感謝が、紙面いっぱいに弱い筆跡で綴られていた。
 アニタの手紙は、次の文句で締められている。

『天来の英雄に幸あれ。その航路に女神の祝福があるように。
 私は、あなたを忘れない。
  あなたの友 アニタ・コロンボ』

「‥‥オレ達も忘れないよ。他の人にも教えてあげる。‥‥そうやって知っている人が増えてくれるのは、嬉しいよね」
「貴女の想い、確かに受け取ったわ」
 クセルとパシフローラが手紙からアニタの墓標に目を移すと、ウリエンとティナも向き直った。
「アニタさんとは‥‥サンディーナの灯台を作った時以来だよね。あの時の鎮魂歌、歌っていいかな」
「差し支えなければ、教えて頂いても?」
 ティナがかつてこの島で歌った鎮魂歌を教えると、ウリエンと二人で墓に贈った。
(あれからゼスアレオとの関係も軟着陸できて、本当に良かったと思ってる。後は俺達に任せて、ゆっくり休んでくれ)
 もう一度手紙に視線を落として、シオは心の中で伝えた。

◆あなたを忘れない
「ねね、誰か一緒にビーチバレーで遊ばない? 食事前にかるーい運動って感じでさ!」
 墓地から戻ってきたドラグナー達は自分達の為に島のご馳走を用意するというマリン夫婦の好意に甘える事になったが、せっかく南国の島に来たのだから海で遊ばないかというティナの提案が出るとマリンは喜んだ。
「母さんも湿っぽいのは嫌いだからさ。流石にあたし達はもう無理だけど、久し振りのドラグーナ島を楽しんでってよ」
「よーし、それじゃあビーチバレー頑張るぞ!」
「私もご一緒したいわ」
 セーユとパシフローラが応じると、ティナはビーチボールを抱えて煌めく海を指差す。
「じゃあ、水着に着替えて浜辺に集合っ! 競争だからね!」
 はしゃぎながら駆け出していく彼女達を見送った後、シオやウリエンはキッチンを借りたいと申し出た。
「来るたびに色々してもらってる気がするからな。俺も土産というか、あれから覚えた料理があってな」
「何をどう調理したものか、自分の知識として覚えておきたいのです。見慣れない食材が多いですので」
「好きに使いなよ。ヘビ肉やワニ肉料理も昔よりは味が良くなってるはずだよ、確か‥‥どこに仕舞ったかな、プアルコー?」
 呼ばれたプアルコもキッチンに並び、なかなかに賑やかな料理風景となった。

 一方、料理を待つ席では先に並べられていたフルーツを手に取っていた。
「ゴンスケ、ヤシの実ジュースだって。飲んでみる?」
 キッチンへ移動する前にプアルコが割ってくれたヤシの実のジュースを、ユニコは『ゴンスケ』と分け合っていた。仄かに甘いこのジュースは、周囲を海に囲まれたこの島では開拓当初から水のように飲まれていたらしい。
「そう言えば、南アルメリアではマリン達と色んな実を作った事もあったけど‥‥まさかあの時のは混じってないよね‥‥?」
 ヤシの実を見ていたクセルが思い出す。マリンやプアルコ達とグリモアールを冒険した際に、ドラグナー達が多くの新種のフルーツを作り出した事があったのだ。結果としてはまともな物もあったが事故級の物もあった事をクセルは覚えており、彼はフルーツが乗った籠を恐る恐る調べていた。
「どう、だろう‥‥見た感じ、変なのは無さそう、だけど」
(よかった‥‥顔っぽいのとかは無さそう)
 二人でひと通り探してみたが、この籠にあるのはパインアップルのみのようだ。
「あ、これはアスワド好きかな。ルネットも‥‥」
「美味しそうですの‥‥!」
 クセルの頭にルネット、更にその上にクセルのキティドラゴン[Black]『アスワド』が乗りトーテムポールのような状態になっている為クセルから一人と一匹の表情はわからないのだが、その声や喉の鳴らし具合から期待しているのであろう事は何となく予想できる。
「‥‥皆で分けよっか」
 パインアップルを切り分けて頭上の一人と一匹に分けると、何とも美味しそうな歓声と鳴き声が返ってきた。

 さて、緑碧の波が打ち寄せる浜辺では。
「いっくよー、それっ!」
 ティナが何回目かのビーチボールを高く空へ打ち上げると、パシフローラがその下へ回り込み高く打ち上げる。
「はい、セーユさん!」
「よーし、つなげるぞー‥‥!」
 落ちてくるボールの下に回り込んで待つが、太陽が眩しくてボールとの距離が掴めない。その内、ボールは構えていた手を通り越して顔面へ直接落ちてきた。
「うきゃー!」
「「セーユさん!?」」
 思わず浜辺に尻餅をついてしまったセーユに二人が駆け寄るが、ボールが軽かった事もあり大したことは無いようだ。
「あ‥‥お花も綺麗だね、ここ」
 ふと、転んだ拍子に目に留まった真っ赤な花を見る。ユーロでは見られない、鮮烈な赤だ。
「そうね‥‥ここにしか無いものは沢山あるわ。ここの花も、海も、空も、私は好きよ」
「また来れてよかったよね。そうだ、ラムネ飲む? キンキンに冷えてるからリフレッシュできるよ♪」
 パシフローラと共に島を眺めながら、ティナが錬金水[冷却ラムネ]の栓を開ける。三人でラムネを分け合ってひと息ついた頃に、料理を作っていたウリエンが彼女達を呼びに来た。
「できあがりましたよ。食後のデザートも僕なりに頑張ってみましたので、良ければ」
 ビーチバレーも島の景色も十分に楽しめたが、料理が完成したとなれば話は別だ。
「わぁ、ありがとう! もうお腹ぺっこぺこだよ!」
「ふふ、楽しかったわ。皆の元へ戻りましょうか」
「マリンさん達ともお喋りしたい事いっぱいあるしね!」
 波音を背に、海風と共に。一人先を行くウリエンの手も引いて彼女達は宴会の席へと走り出す。

 テーブルを所狭しと彩るのは、マリン達が用意した島の料理の数々、そしてシオが調理した自信作、羊肉のブラッドワイン煮込み。メインの料理が片付いた後にはウリエンがプーアル茶と、ファンシェンの饅頭風に仕立てたデザートが用意される手はずになっている。
「今日は本当にありがと!」
 全員でテーブルを囲み、マリンの音頭で乾杯をする。中身はウリエンの桂花陳酒だ。
 乾杯後、皆で盛りだくさんの料理に手を伸ばす。初めて目にするルネットには圧倒的なインパクトを見せるギニーピッグも、シオなどの知る者にとっては懐かしい味だ。彼女も一口食べて不思議な食感に興味を持ったらしい。
 楽しい宴会は、終始笑い声が絶えなかった。


 デザートもあらかた終えた頃、テーブル下で『ティー』や『アスワド』も交えてじゃれ合っていた『ゴンスケ』はメイドラゴンに見守られながら寝ていた。その様子にマリン夫婦とユニコ達主が和んでいると、マリンは改めて「ありがとう」と口にした。
「あたしは、名前まであんた達にもらったからさ。母さんの手紙の事もあったけど、どうしてももう一度会いたかったんだ」
 悲劇が起きなければ、ドラグナーとはまず会えない。今回のように手紙を送るのも、このような離島からでは容易な事では無いのだ。
「あたし、今日を忘れないよ。皆を忘れない」
 穏やかに笑うマリンの目尻と頬に刻まれた皺の深さを、思い出の深さに重ねて。
 数多の生が、思い出となって自分のなかを通り抜けてしまうのだとしても。

 ――あなたを、忘れない。