担当MS:畑下はるこ

空飛ぶ魚に連れられて

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
16/12/30 24:0010000 Rexコミック冒険竜宮上級お任せプション 8人

◆参加者一覧

ユニコ・フェザーン(ta4681)P地
パシフローラ・ヒューエ(ta6651)E火
アシル・レオンハート(tb5534)P火
レイナス・フィゲリック(tb7223)H陽
アンリルーラ(tj5260)E水
ヘルマン・ライネケ(tj8139)P水
エリウ・アルスター(tk4085)H地
ヴァイス・ベルヴァルド(tk5406)E月

オープニング

◆天竜宮の年越し
 様々な地方からの出身者、多様な文化の流入。現在の天竜宮は、誰にとっても目新しいことで溢れていた。
 とはいえ、人口は未だユーロ圏やオリエント圏の者が多くの割合を占めている。それに、最初に天竜宮へ根付いた者たちのほとんどがユーロ圏出身者だったため、天竜宮の文化は今でもユーロ的な色をベースとして形作られている。
 年越しに関してもそうだ。
 ユーロ圏の人々は、12月24日から翌年1月6日までの期間をXmas(クリスマス)と呼び、聖なるシンボルXの下に集ってノルン降臨日や新年を祝う風習がある。
 つまり天竜宮でも、降臨日から新年の6日までをひと繋がりのお祭りとして祝う者たちが多い、ということだ。

 そんな天竜宮にて。
 このお話は、1月6日‥‥クリスマスの最終日に、ひっそりと始まる。

◆空を飛ぶ魚の話
 時間は丁度日付が変わった頃だろうか。降臨日から始まった一連の大騒ぎが締めくくられる日。
 商店街の酒場は喧噪に溢れていた。店の中にいるのはほとんどがドラグナー、店員の中に一般人が少しだけいるくらいか。とはいえ最近のドラグナーは芸達者だから、あそこで店員をしているのも、出し物として歌い踊っているのも、本来は戦いに優れた英雄かもしれない。

「空飛ぶ魚?」
 賑やかな空気を割るように、客の男が素っ頓狂な声を上げた。
「そうそう、それが最近ちらちら目撃されてるんだってよ」
 まあ、天竜宮には空飛ぶ何かはたくさんいる。シフールとか、精霊とか、亀とか、あとヒラメっぽい何かとか、タイっぽい鳥とか。‥‥それとも、鳥っぽいタイか?
 魚が空中を舞い踊ろうと、今更そこまで珍しいものでもないかもしれないが‥‥。
「今までにないことが起きてるってのは、ちょっと心配だな」
 ――酒を煽る男の頭には、世界で急速に蔓延し始めた黒化病のことがあるようだ。
 天竜宮にまでそんな深刻な事態が広がるとはこの男とて思っていないが‥‥異変とは、必ずしも良い兆しというわけではないから。
「密林の領域にいるっていうメガピラニアが、進化して空を飛べるようになったんじゃねえの」
「そいつ結構強いんじゃなかったっけ? 笑えねえよ」
 そう言って、男たちは笑っていた。

◆噂の魚
 天竜宮でじわりと広がる、空飛ぶ魚の噂。
 そんな噂を聞いたかどうか、定かではないが。
 ともあれ、5時間後。つまり朝の5時過ぎ。ドラグナーたちは商店街にいた。
 酒場にいてその帰りか、或いはどこかへ行くところか。早起きか夜更かしか。事情は様々だろうけれど。
「――――」
 場に集ったドラグナーたちは、揃って空中を凝視していた。
 視線の先にあるのは、薄暗い中で輝く背ヒレ。
 そう。噂の魚が、いまドラグナーたちの頭の上を浮遊していたのだ。
「‥‥‥‥」
 見たこともない、優美な魚。
 それは長い身体をしならせると、ドラグナーたちを招くように空中を泳ぎだした。

◆マスターより
 魚は商店街から、大聖堂のある島へと繋がる長い階段の方へ飛んで行きました。速度はシフールと同じくらい。
 当シナリオは魚を追いかけ、捕まえたり正体を調べたりを目的とします。

 魚を追いかける動機ですが、キャラには基本的に『異常現象だったらまずい』という意識があると思います。他、何となく綺麗だから、好奇心で、など何でも構いません。
 また(キャラは知らないことですが)、黒化病云々はキャラ動機の例示で描写しているだけで、当シナリオの結果がどうあれ世界に悪い影響を及ぼしたりはしません。安心してご参加いただければと思います。

 服装はプレイングである程度ご説明ください。直前に何をしていたかとか、どこに行く予定だったとかで変わると思います。パジャマでもドレスでも、フル装備でもラフでも。装備アイテムも服装の参考となりますので、見た目重視のチョイスを推奨します。

 では、よろしくお願いします!

◆コミックリプレイとは
 このシナリオは「冬期特別企画」の一つである、「コミックリプレイ」です。
 参加するには、参加するキャラが美術室(STARS)にて作成された透過全身図をもっている必要があります。
 コミックリプレイは、ショートシナリオのリプレイに加え、「ウラシマツシマ」絵師によるコミックが作成されます(参加人数×1頁、4〜8頁)。
 プレイングには、キャラに行わせたい行動内容と共に、外さないで欲しい外見特徴やこだわり(刺青、ホクロ、服装等)を記入してください。服装・装備は出発時に装備しているアイテムやMYページに表示されているイラストを元に制作します。

リプレイ



◆それぞれの事情
 薄明りの中、並んで歩く影3つ。
「まだ早いですね」
 念のためにとランタンを点して、ゆったりと歩くレイナス・フィゲリック(tb7223)。
「起こしてしまったかしら」
「いえ、元より目覚めていましたよ」
 気づかわしげに隣を歩くパシフローラ・ヒューエ(ta6651)に笑い掛け、レイナスは後ろへ視線をやる。そこには寝ぼけ眼でふらふらと二人を追う、アシル・レオンハート(tb5534)の姿。
 レイナスとパシフローラは、昨晩友人であるアシルの家へ泊まりに行っていた。酒精に彩られた談話の時間は楽しく穏やかで、気付けばアシルは眠りに落ちていた。
 残った2人も程々にして床に就き‥‥パシフローラが日課である祈りのため早朝に目覚めると、レイナスも既に起きていた。
 そしてせっかく目が覚めたのだからと、こうして仲良く散歩に出かけた、というわけだ。
「早くに目覚めたのは、噂話が頭に残っていたせいでしょうか」
「うわさばなしー?」
「おや?」
 頭上を飛び来る影。朝から元気な可愛い声は、アンリルーラ(tj5260)のものだ。
 その小さな姿を追いかけるように、3人の後ろからヘルマン・ライネケ(tj8139)の声も響く。
「おはよう、君も魚の噂に誘われたのかね?」
「そんなところです。そちらも?」
「あ、あのね!」
 事情を問われたアンリルーラは、張り切って答える。
「なにか、こっちでキラッとしたものがみえたきがしたのだよっ!」
 力説する彼女の声は響き渡り‥‥その興奮具合に驚いた犬がいたのか、辺りにワンワンと大きな鳴き声が響く。
「ちゃ、チャッピー! あんまり吠えたら、みんな、起きちゃう」
「わんっ!」
 大型の黒犬チャッピーを伴ってエリウ・アルスター(tk4085)が現れた。どうやら朝の散歩中だったらしい。その後ろからは鳴き声に惹かれたか、くるんと丸い尻尾をふりふり、ゴンスケ(ta4681)までもがやってきていた。
「何かあったのか?」
 そして、わんわん大騒動を聞きつけて、ヴァイス・ベルヴァルド(tk5406)も。犬だけではなく人も集まっていると気付き、ヴァイスは片手を小さく上げて挨拶する。
「む、おはよう。奇遇だな」
「おはよう〜。ヴァイスも散歩かNA?」
 愛娘のぬいぐるみを抱え、むにゃむにゃと問うアシル。ヴァイスは肩を竦めて答えた。
「‥‥聞くだけ野暮だろう?」
 風体からいって、ヴァイスは朝帰りのようだが‥‥気づかなかったのか、エリウがすまなさそうに肩を縮める。
「ごめんね。鳴き声で、起こした、かも」
 あんまり吠えちゃめっだよ、とチャッピーを躾けるエリウ。
 別に何が起きたわけでもないらしいと知り、ヴァイスは目の前で繰り広げられる微笑ましい光景を穏やかに見つめる。
 ‥‥そうして、7人と2匹が集まったところに。
「――――?」
 あの魚は、現れた。

◆追いかける
 視線の先にあるのは、薄暗い中で輝く背ヒレ。半分閉じかけていたアシルの瞳も、驚きに大きく開かれた。
「これっ! これなのだよっ!!」
 興奮した声を上げるアンリルーラ。先程見えたと言う『キラッとしたもの』は、どうやら魚の姿だったようだ。
「もしかして、噂されていた魚なの?」
 目を丸めるパシフローラの足元で、見知らぬ生き物にチャッピーとゴンスケが興奮してぐるぐると回りだす。リードを引っ張られ、エリウが忙しなく愛犬を追いかけた。
「キレーだねっ!」
「美しくはあるが、そこに在る事で災禍を招く。というのも否定は出来まいよ」
 無邪気なアンリルーラに対し、ヴァイスは眉間に皺。見たこともない出で立ちの魚は、どこか禍々しくも見えた。それは彼の頭に、世界の異変に対する危機感が宿っていたからかもしれない。
 ヴァイスほどには警戒心を強めてはいないものの、ヘルマンもまた慎重に成り行きを見守る。
「女神の使いか、それとも滅びへの水先案内人か」
「精霊力の塊のようなもの、タイコやマイのようになる前段階、という可能性も」
「わんっ!」
 ヘルマンとレイナスの推測を破るようにゴンスケがひと鳴き。すると、魚は尾をゆるりと揺らして泳ぎ出す。
 右に左に身体をくねらせるその姿には、どこかオリエンタルな雰囲気も感じ取れた。
「あの輝く背ビレを考えるとグリーヴァに由来するかもしれませんね」
 レイナスがふむふむと考えながら言い。
「天竜宮の光満ちた天の岩遺跡は、和之国様式の物が見受けられています。それら遺跡の影響を受けて自然発生したなら、魚の姿にもまた和之国の――」
「あーっ、にげちゃうにげちゃう!!」
 長話を遮ってぴゅんと飛び出すアンリルーラ。
「おやおや」
 彼女につられて、大人たちも魚を追い駆け走り出す。

 ヘルマンは箒で、アンリルーラは自前の羽で、空から。残った者たちは地面を駆ける。
「クッキー、だめかな」
 伸ばした手に、魚は見向きもしない。エリウはうーんと首を傾げた。砕いて餌にし、おびき寄せられればと思っていたけれど、そうしている間に逃げてしまいそうだ。思い直し、袋の口を閉じて走るのに集中する。
「はぁ‥‥はぁ‥‥結構、早い」
 追いつけない速度ではないが、小走りは必須だ。それにかの魚はエリウと違い、商店街の路に置かれた樽や木箱、立て看板に引っかかりはしない。
 だが大丈夫。エリウが上を向く分、チャッピーが先導してくれる。
(お姉ちゃんにも見せてあげたいし、ここまで来たら捕まえる)
 気合いを入れなおすエリウを揶揄うかのように、魚は細い家々の隙間にするりと入っていく。
 身体がつっかえそうな細さ。だがそこへゴンスケが滑り込み、抜け出た場所を他の面々にわんわんと知らせる。
「ん‥‥? ゴンスケ、どうした?」
 無駄吠えはしないゴンスケが激しく鳴いている‥‥異変に気付いた飼い主ユニコ・フェザーンも、建物の陰から現れて。
「ああ、実は」
 かくかくしかじかと事情を聴けば、ユニコもまた魚追跡の列に加わった。
 やがて魚の姿は建物の居並ぶ商店街から、左右を花と草原が埋め尽くす道の上へ。そして更に、大聖堂の浮島へと繋がる長い階段へと進む。
「あの速度で階段は‥‥!」
 それなりの速度で階段ダッシュ。寝起きの身には辛い未来が頭を過り、アシルが苦しげな声をあげた。
「それ、頑張れ」
 ヘルマンが楽しそうに笑うと、アンリルーラと並んで先を飛ぶ。
「走るのでは限界がありそうですね」
 レイナスが寸時、立ち止まった。空飛ぶ2人がいれば見失うことはなさそうだが、一応、自分も常に目視しておきたい。
 薄暗闇の中、合身によって同時に2対4枚の翼が現れた。1対はレイナスの、白鳥に似たもの。もう1対はパシフローラの炎の翼だ。
「待って、俺も!」
「チャッピー、おいで」
 一拍遅れ、娘のぬいぐるみを担いだアシルの背にも炎が生える。そしてエリウはセブランラッピングを成就させ、鳥らしき着ぐるみ姿となった後に愛犬を抱いて飛び上がった。
「ならば私は先回りをしよう。大聖堂に行く」
 ヴァイスの大きな体、その肌表面に虎縞の紋様が浮く。大切な人物から贈られた剣を片手に、目を閉じ念じるヴァイス。
 脱兎転移――合身によって得られる力だ。およそ30秒後に彼の巨躯は掻き消え、大聖堂の前に現れるのだろう。
 ‥‥特殊な階段登りの方法を持たないのは、ユニコひとり。
「えっ」
 彼女の前には、長い長い白階段。元気よく駆け登るゴンスケの後ろ足が、何だか少し恨めしかった。

 魚と並んで飛ぶ、5人。
「どうしてここにいるの?」
 いかにも優しげなパシフローラの問いかけに、魚は反応を見せなかった。
 害意はないが、興味もない。彼女らのことなど気にも留めない様子で、魚はすいすい自由に泳ぐ。
「貴方は空を、まるで水の中のように優雅に泳ぐのね。名前はあるのかしら?」
 やはり反応はない。どうしたものかと仲間たちを見回して、ふとパシフローラは思う。
(まるで、みんなで泳いでいるみたいだわ)
「‥‥よしっ」
 害はなさそうだし、と判断したアシルは幻影を追い越して通せんぼをする。そして腕を伸ばし、思い切ってその体に触れてみた。
 だが触れた指先に感触は無く――アシルの手は、魚の体へ突き立った。
「え!?」
 魚はそのまま、アシルの体をすり抜ける。
「幻影か」
 なるほど、と得心のいったヘルマンの声。
 そう思って見てみれば、確かに幻影のような気もする。薄暗いのと見知らぬ生物なのとで分かりづらかったのだろう。
「ええーっ、おさかなじゃないの? ベリーたべないの?」
 エリウと同じく餌をあげようと考えていたアンリルーラは、不満げに唇を尖らせる。
 愛らしい仕草に瞳を細めながら、ヘルマンは彼女の止まりかけた進みを促すように、魚を追い続けた。
「まだ何かあるかもしれないよ」
 何が起こるか分からない天竜宮だから、断言はできないけれど‥‥幻影は大抵の場合、自然発生はしないものだ。
 幻影の発生には、切っ掛けがある。魔法の成就、錬金アイテムの使用。空舞う恋人2人の指に填まるラブリングもそうだ。
「そう、つまり。幻影とは誰かが意図を持って生み出すものだ」
 ――魚の行く先に、幻影を生み出した犯人に繋がる何かがあるかもしれない。

◆もう少し
 陽が上り始め、暗闇が薄明りに変わった。
 魚はくるくると大聖堂の周囲を泳ぎ回る。まるで何かを待つような魚の態度を不思議に思って眺めていると、ある時を境に魚は急に動き出した。今度は大神殿の方向だ。
 元気に駆けてきたゴンスケ、先んじて転移していたヴァイス、息を切らせて階段を登ってきたユニコとも合流し、彼らは魚の尾びれを追う。
「何か此方に向かう理由があるのだろうか‥‥」
 慎重に慎重を重ね、魚のみならず辺りも注意深く観察しながら、ヴァイスは進む。

 天竜宮にある島の外周は、大抵小さな森のようになっている。それは開拓時に敢えて残された、居住者を守る天然の柵だ。
 そこへ、魚は跳びこんで行く。鬱蒼と茂る葉は、幻影である魚の進みを留める要因にはならなかった。
「待ってYO! そっちの先に何が――」
 追いかけ、茂みへ身を投じるアシル。他の者たちも勿論続く。
 膝丈の下草と葉の多い木々。緑の中で魚を見失いそうになって、8人と2匹は足を急がせる。
 すると突然、ヴァイスが「待て!」と鋭い声を上げた。
「え?」
 先頭を行くアシルがくるりと振り返った、その時。彼は体が傾くのを感じた。
 魚を見失わないように、抱えたぬいぐるみが汚れないように――注意すべきことが多かったアシルは、一瞬気付くのが遅れてしまった。
 自分の踏み出した先に、もう地面がないことに。
「うわああぁぁあ!?」
「アシル!」
 浮島から落ちかけたアシルの服を、ヴァイスとゴンスケが慌てて掴む。そのまま後ろへ転げるように座り込む2人と1匹。
 アシルの心臓は早鐘を打ち、冷や汗がぶわっと噴き出して――。
 だが。
「‥‥え」
 次の瞬間には、焦りなど吹き飛んでいた。
「うわあーっ!!」
 アンリルーラの無邪気な声が、目の前に広がる感動的な光景へ吸い込まれていく。

◆顛末
 木々や下草の向こうに、生まれたての朝陽が輝く。
 そしてその朝陽は、天竜宮を包む美しい幻影を映し出した。
 虹色に輝くシャボン玉のような泡と、陽光の中を泳ぐ大小さまざまな魚たち。天竜宮のあちこちで大量発生したそれらは、やがて仲間と合流し、大神殿のある浮島の周りを舞い泳ぎ始める。
「おひさまがひかってるのだよー!! キラキラだね!」
 喜ぶアンリルーラの声を耳にしながら、息を飲むヴァイス。
「海の中、のようだわ」
 パシフローラが、吐息のような呟きを零した。――水底から見上げた海は、こんな感じだった。
 種々様々な魚たちの饗宴。舞い踊る彼らと天竜宮を、朝陽が紅に橙に照らしている。
「リュウグウ伝説を思い出しますね」
 何のことかと訝しげな面々に、レイナスはそっと説明を添える。リュウグウ、それはグリーヴァ‥‥和之国に伝わる海神の宮の伝説だ。
 そこには全てがある。姫が来訪者を持て成し、宝を与える。魚たちは美しく舞い踊り、多大な満足と幸せを与えられる。
 そして、複数ある伝説のいくつかに共通する点として。
「リュウグウを訪れた者は、時から置き去りにされるんです」
「――」
 どこか切なげに顔を見合わせる、一同。
 言い終わったレイナスは、そっと目を閉じた。新年の祝い、最後の日。そんな時に現れた神々しい光景に、願わずにはいられなかった。今年がより良き方向に進むように、大事な人たちに幸せがあるように、と。
 ――魚たちの幻影が消えるまで、彼らはずっとそこへ佇んでいた。

 やがて幻影は消え、いつもの朝が戻ってくる。
「ゴンスケ、落ちないようにな」
 ユニコが背を撫でてやると、ゴンスケは嬉しそうに尻尾を動かす。
「チャッピー、朝からいい運動になったね」
 エリウもまた、愛犬を撫でた。家族は今の光景を見ただろうか? 夢中になって追いかけている間に、魚は常春の領域中から湧き出ていたようだから、起きていればきっと見えたに違いない。
 それでも、きっとどこよりも美しく見える特等席にいられた誇らしさを、エリウは早く家で共有したかった。
「早朝から彼らに振り回されてしまったけれども‥‥いや」
 魚たちを示しての『彼ら』という言葉――かと思いきや。ヘルマンはくるりと後ろを振り向いた。
 視線の先には、複数の上位精霊。フィディエルであるエストリア・サモナー(tz0003)とサンディ、そしてスフィンクス。
「あ、バレてる?」
 サンディが悪戯っぽく笑う。
「日付が日付だからね」
 そう、今日はクリスマスの最終日。
 ユーロ圏の一部では、この日にこそ子どもたちの枕元へプレゼントが届けられる。
 悪戯の犯人であるサンディたちは語った。先程の光景は精霊によるシンクロアルケミーの産物で、8人2匹が追い駆けてきた魚もそのうちの1匹。また、今までちらちらと目撃され噂になっていた魚は、今日に至るまでの予告と練習を兼ねたものだと。
「お菓子とかお酒とか、みんなへのプレゼントを色々考えたんだけどね」
 多様な文化・種族を擁する天竜宮で、共通の何かをばらまくのは難しい。物質的なものであれば量を確保するのも大変だ。
 その点、綺麗な光景を披露するだけなら、一度に大人数を楽しませられるから、と。今日の幻影は、そんな理由で用意されたらしい。
「迷惑だった?」
「いや。美しいものを、恋しい相手と一緒に見られたのは嬉しいね」
「えへへっ! ボクもいっしょでうれしいっ!」
 寄り添うアンリルーラを見て、ふと息を吐くヘルマン。
 ――不穏な空気流れる世界。
 ここに集った彼らもまた、過酷な運命の中へ身を投じることになるだろう。
 だからこそ安息のクリスマス、その最終日に――昨年「イイコ」だった竜宮人へ、精霊たちから祝福のプレゼントを。
「メリークリスマス&ハッピーニューイヤー!」
 イベントの成功に笑う精霊たちを、竜宮人たちは苦笑して見守った。