担当MS:風揺 遥

【TC27】ヴァラヒア調査

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
17/05/18 24:00800 Rexショート冒険地上中級お任せプションフレンドプション 8人

◆参加者一覧

アーク・レイクウッド(ta0476)W風
デューク・レイクウッド(ta8358)W月
メリィ・ニコル(ti2413)H月
カイエン・シュルズベリ(tj4060)W月
ジルヴァ・ヴェールズ(tj8140)W月
ジェイド・ナイトノイズ(tk3078)W火
アイン・バーレイグ(tk6291)W陽
ローズ・クアドラード(tk8590)H火
ソニア・サーパティス(tz0046)W水

オープニング


 精霊歴1635年。
 ティルノギア発動から地上では1年ほど経った頃。スカイドラグーンで半月ほど過ぎたか否かという頃の話である。


「暇してる人いるー?」
 その日、ソニア・サーパティス(tz0046)は集会所の談話室に飛び込んできた。首を傾げるドラグナーたちにソニアが言う。
「地上に降りるんだ、手伝ってよ」
 その言葉に驚く一同。
「地上に何かあれば、介入して被害を抑える。それがボクたちドラグナーのお仕事じゃない?」
 例え、その地上がその在り方を変えても。生き方を変える必要まではないのだ、と。ソニアはそう笑った。


 バーヴァン。
 吸血鬼の一族にして、通常ならざる特殊な種族。
「ティルノギア発動前に、スカイドラグーンを訪れたバーヴァンがいてね」
 その目的は襲撃ではなく。ティルノギア発動後のバーヴァンの行く末を案じていたのだという。その彼曰く、バーヴァンは、スラヴォ南方のヴァラヒアに多数棲んでいる、らしい。
「ちょっと気になっててさ。何回か地上に降りて、調査してたんだ」
 その調査で、どうもキナ臭い雰囲気が漂ってきた。ゆえに本格調査に行きたい、ということなのだ。

「気になったのは、今、バーヴァンがどうなってるかってことなんだ」
 ティルノギア発動後、通常の生物に類するものは地上に残り、精霊や魔法的存在はその姿を消した。
 だが、バーヴァンはどうなのか? デュルヘイムへ落ちたのか。あるいはその力を失ったのか。それならまだいい。だが、もしも『バーヴァンのまま』でいたなら。
「間違いなく脅威になるし、魔法が無い地上じゃ対抗手段がない」
 そこで、ニッと笑うソニア。
「そこでボクらの出番ってことなのさ」


「ボクたち、ドラグナーには利点がいくつかある」

 ひとつ、地上では、ドラグナーや魔法と縁がない、あるいは信じない人には姿が見えない。これはつい最近わかってきたことだ。言葉を声にして届ける場合などは、ドラグナーが見える代理人を立てる必要があったりする。

 ひとつ、魔法が使える。
「これは『地上でも』だ」
 ソースはソニアの調査時。
 魔法を使用でき、その効果も発揮される。ただし、使用回数はスカイドラグーンでなければ回復しない。
 魔法のアイテムは地上ではその効果を発揮しない。
「守護精霊たちはシーリーヘイムに戻っちゃったので」
 どこであっても精霊合身、竜霊合身はできなくなってしまった。

「というわけで、これらの利点を活用しつつ、早速行こう」
 頼むよ、とソニアは微苦笑する。


 ヴァラヒアに潜入したドラグナーたち。
 そこで見たのは、武器を手に虐殺を行う人々であった。
「バーヴァンを、バーヴァンを殺せぇぇぇぇ!!」
 口々に叫ぶ言葉に違いはあれど、想いはそのひとつに集約される。叫ぶ人々の身なりは痩せぎす、やつれ、ボロボロで、しかし目だけがギラギラと輝いている。

 そんな人々が、敵と思しき、身なりの良い相手を追い込み。
「ま、まて。まつんだ。そんなことをしてもなにも‥‥」
 狼狽する相手に。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
 剣を、斧を、槌を振り下ろす。相手が絶命するまで、何度も、何度も。

「完っ全に予想外だ!!」
 ソニアが叫ぶ。
「どういうことなんだこれ」
「奴隷の武力蜂起ってヤツかな!」
 叫んでいる言葉、その行動。殺す側と殺される側の身なり。
 そこから察するに、『バーヴァンたちvsその奴隷たち』という構図で、奴隷たちが反旗を翻したというところか。
「まずはこの戦いを止めよう! 話はそれから!」
 ソニアの言葉に頷きを返すドラグナーたち。


 しかし疑問もある。
 奴隷たちは標的である『バーヴァン』を殺して回っている。

 忌まわしき過去は決して消えはしない。何が起ころうと、例えティルノギアが発動しようとも。ゆえにバーヴァンに虐げられた怨恨を元に、このような事態が起こることは不思議ではない。

 ‥‥が。今、地上には魔法や魔法を元にする力は存在しない。なら、『目の前で行われている虐殺』はどういうことなのか?


「ドラグナー‥‥来てくれたのか‥‥」
 突如後ろから聞こえてきた声。ドラグナーたちが振り向くと、そこには血塗れの女性を抱えたひとりの男がいた。

 男の名は、ジョン・ブレナー。かつてスカイドラグーンを訪れた、己が血族の行く末を案じたバーヴァンである。
「‥‥頼む、ドラグナー。我らに助力を‥‥」
 ずるっ‥‥と不愉快な音を発して。血塗れの手をドラグナーの方へ伸ばす。その手が求めているのは明らかな助け。
「我らの夢が‥‥潰えてしまう‥‥」


 血塗れの手を取るか、払うか。それはドラグナーたちの意思にかかっている。

 地上は変わってしまった。『これまでの常識』は通じない。しかし全てが無かったことになるわけではない。記憶は、経験は、そして縁は残り、続いていく。

 この事件を解決するには‥‥ドラグナーたちのそれらを頼るしか、方法は無い。


◆登場NPC
 ソニア・サーパティス(tz0046)・♀・ヴォルセルク・水・メロウ

◆マスターより
RealTimeEvent[Tirnogear Chronicle27]後日談シナリオ
 もうひとつ後日談をお届けします、風揺です。

 補足をします。
 当シナリオの成否は『奴隷たちの武力行使を止める』ことで判断します。戦闘が発生します。基本的に生死は問いませんが、全員殺せばオッケー、は無しで。

 ジョンに協力するかどうかは皆さんが決めてください。いずれにせよ奴隷たちを止めることは彼の助けになります。
 彼の言う『夢』とは何なのか。OPにヒントを散りばめたので、そこから推察してください。ちょっとした言葉遣いも気にして頂けると。

 元ドラグナーが参加した場合はドラグナーの協力者になります。姿が見えるため、わかりやすい『第三勢力』として戦場を制圧することができ、説得要員として直接交渉が可能です。姿の見えないドラグナーからこっそり支援をもらうなんてことも。

 それでは皆さんの参加をお待ちしております。

リプレイ

◆ティルノギアが成された後
 世界の歴史は、過去は保持されている。魔法が『無かったこと』にはならず、今は無き技術となったのみ。

 個人の記憶は保持されている。魔法やドラグナーに縁ある者は、それを忘れることはなく。また、魔法の知識や詠唱も。自身の忘却以外に頭の中から消えることは無い。

 ただ。魔法の素となるルミナが。それをエネルギー源とするものが。魔という存在が消えてしまった。

 これはその消えた『モノ』の、一端を担う話である。

◆一瞬、交錯する想い
 ヴァラヒアにバーヴァンの調査に訪れたソニア・サーパティス(tz0046)たち。
 その中にはたまたま周辺を旅していたり。あるいはきな臭さを、または運命を感じ取った、地上で過ごしていた元ドラグナーたちもいて。

 だが、遭遇したのはバーヴァンの奴隷たちの一斉蜂起。それによる惨劇。
「この事態は早急に鎮圧しなければなるまい」
「うん、まずはこの戦いを止めよう!」
 デューク・レイクウッド(ta8358)の言葉にソニアが方針を叫び。

 その矢先、ジョン・ブレナーと遭遇する。伸ばされる血塗れの手。それは救いを求める手。

 一瞬の逡巡、あるいは思索の時間があった。
(単身敵地に来た此奴はそこそこ信用できそうな奴だが)
 アーク・レイクウッド(ta0476)が視線を巡らす。

(夢ってのはわかんねぇけど)
 だがメリィ・ニコル(ti2413)は思う。平和や幸せは誰でも望むものだ、と。その方向、形が違うがゆえに、相容れぬ者たちと衝突することはあっても。それは奴隷の人々も同様で。

 カイエン・シュルズベリ(tj4060)は、ジョンを――過去に一度出会ったことのあるバーヴァンを見つめ、そして想う。
(私たちはドラグナーとしての任を解かれたわけではないのだから)
 ならば、助けを求める手を取るのは、当たり前で。伸ばした手を確りと掴み、肩を貸すのは当然だ、と。
(悲劇を防ぐのはドラグナーの務めですもの)
 父であるカイエンの側に立つローズ・クアドラード(tk8590)もまた、同じ気持ち。そして、もう一人の父であるジェイド・ナイトノイズ(tk3078)に視線で合図する。

◆其は闇より求められる手
 ジョンの救いとは、夢とは。『共に人を滅ぼそう』などという物騒な可能性もあった。
(もしそれが世界やコモンに仇なす類ならばこの場で全員叩き斬る)
 現にアイン・バーレイグ(tk6291)はそう考えていた。それでも。
「何にせよこの狂乱を止めねば話にならん‥‥少し斬ってくる」
 アインが踵を返す。カイエンがジョンの血塗れの手を握る。

 ジョンが言葉を絞り出した。
「‥‥頼む。我らが仲間を救ってくれ」
 カイエンが頷きを返し。
「‥‥後ほど」
 今度はジョンが頷きを返す番だ。

 ジョンを護衛しながら移動させる者、暴動の鎮圧に注力する者。それぞれに想いを抱き、散開する。

 この事件を、暴動を治めようとしている彼らは。
 今がいかな立場であっても。例え魔法が使えなくとも。
 この事件に首を突っ込もうとしている時点で、その本質はティルノギア発動前と変わっていまい。
 ゆえに、敬意を表して、この場では、こう記そう。

 彼らは皆『ドラグナー』である、と。

◆廃城へ
 アークを先頭に駆け抜ける一団。ジョンが仲間たちと合流し、そしてそこから声をあげて、避難を誘導する。目的地は街を出たところにある廃城。
 それを許さないのは、奴隷たち。だが、その前に立ち塞がるのは、アーク、そしてデューク。
(しかし‥‥察するにバーヴァンも普通のコモンになったという事か?)
 奴隷たちが振るう武器は、そこらに転がっている棍棒と大差ない。その攻撃で死ぬということは、最早‥‥。
「ならば黙って見過ごす訳にもいくまい」
 アークが振るう刀身は、淡い燐光の上に、黒い霧を纏い。明らかに、今の地上には無き魔法の力は、隣を駆けるデュークのものだ。
「大人しくしててもらおう」
 放つのはアークの十八番、トリプルアタック&ソニックブーム。スタンアタックとミタマギリの力も乗せて、ある意味強引に、そして迅速に奴隷たちを昏倒させていく。
「地上に降りてもアークは変わらないのだな」
「何か言ったか?」
 アークの戦いっぷりを横目に、自分の武器にもルミナパワーとミタマギリを付与したデュークは返事を返さず、奴隷たちに接近。
「ハッ!」
 ソードボンバーにブラインドアタックとフェイントアタックを織り交ぜて。確実に奴隷たちの意識を奪っていく。

◆無双
 それは一番の激戦区だった。大多数の奴隷たちとそれに狙われるバーヴァンたちが入り乱れていた。

 まさに横っ面から不意の一撃。

 アインのソードボンバーが奴隷たちを吹き飛ばす。目的は、暴動に動揺を、付け入る隙を与えることだ。

 浮き足立つ戦場に、アインは距離を詰める。
(どうせ此方を認識出来ん。ツマランが楽な戦いだ)
 この場でアインを認識している者はいない。ゆえに、その攻撃は全てが不意打ちとなり、ソードボンバーが奴隷たちを巻き込んでいく。

 元々健康とは遠い生活を、奴隷生活を送っていた者たちだ。気力で体を奮い立たせていたとしても、体に追った傷は容赦なく体力を奪い、そして意気消沈へ導く。

◆水晶の舞い
 既に地上で生活をしていた者は、奴隷たちからも認識できる。それは分かり易い闖入者であった。
 ハーフエルフの外見も利用して。ジルヴァ・ヴェールズ(tj8140)は奴隷たちの注意を引きつける。

「キミ達にとって、何がバーヴァンなんだい?」
 そう問いかけながら。
 不思議な力などない、ただの暴力で死に至る存在なのに。
「アイツ等に決まってるだろう!!!」
 奴隷たちが指差す先には、かつて、彼らを奴隷として扱い、貪り、そして弄んだ者たち。
(‥‥なるほど)
 その言葉に、ジルヴァは察知する。彼らにとって、バーヴァンとは種族では無く、能力では無く、一種の集団を指す単語なのだと。

 殺到してくる奴隷たちの攻撃を、受け、かわし。そしてクリスタルの剣を振るう。

(おなかがすいて、苛立って‥‥な気もするね)
 この暴動を鎮圧した後に、その辺も調べておこう、と。ジルヴァは剣を振るうことに集中する。

◆家族の連携
 地上に降りていたカイエン、ジェイド、ローズが、暴動の中を駆け抜ける。3人の中で、推測が巡る。ジョンたちは最早人と変わらないのだろう。そのジョンたちを殺そうとする行為。
「ならばこれは、純粋に私刑の類でしょう」
「だが、だからこそ止めねばならない」
「無為な虐殺は絶対あっちゃいけない事よ」
 ジェイドの言葉に、カイエンとローズが続く。
「無理に誤解を解くことは難しい‥‥ならば」
 この場を制圧するしかない。3人の考えはひとつの答えに収束した。

 奴隷たちの暴動に遭遇する3人。
「猟犬のように追い立てて制圧するとしましょう」
 ジェイドがミドルボウを構え、素早く矢を射る。
「魔法が失われても、弓の腕は鈍っちゃいないわ!」
 ローズのカスタムされたミドルボウから矢が飛ぶ。鍛えた腕は、身に着けた戦技は衰えを見せていない。武器を叩き落とし、無力化していくローズ。
 二人の射撃によって、狩りの獲物のごとく、追い込まれていく奴隷たち。
 そこへ、カイエンが突っ込む。左右の曲刀を順番に、素早く、戦意を刈り取るように振るっていく。

◆錬金
 それはホーキポーキのとっておきにして、少々博打要素を含む諸刃の剣。
(魔法のアイテムとは違うっても上手くいくかわかんねし)
 元々不確定要素を含む錬金に、さらにティルノギアの影響もある。
(魔法がみえねぇ人たちさ効果があるかもわかんねぇ)
 けれど、上手くいけば。その効果は。
(デッケェよなぁ)
 そのでっかさが、この場を救う妙手となるかもしれない。その想いがメリィを突き動かす。

 姿が見えないことを利用し、戦場全体を見渡せる場所に陣取ったメリィは、ムーンストーンの欠片を手に、アルケミーの魔法を唱え‥‥成就。
 それは淡い月の光を感じさせる霧であった。それがゆっくりと戦場に広がっていく。

 劇的に戦況をひっくり返す効果があったわけではない。しかし、広範囲に、着実に。奴隷たちの頭を冷やし、冷静になったものから、自制を、周囲を押し留めていく。

 霧が消える頃。他のドラグナーの奮戦もあって。戦いの声はこの街から消え去っていた。

◆夢の続き
 廃城に退避したバーヴァンたちは、ようやく一息ついたのか、ほっとした表情を見せていた。

 ジョン・ブレナーの前に、カイエンが片膝をつく。お互い、顔は知っている。何故なら、過日、ジョンがスカイドラグーンに訪れた時に。
「疑ったうえ、期待に沿えず、すまなかった」
 無礼や誤解があった、というカイエンの気持ちは、その言葉となって、流れ出た。
 当時は、ティルノギア発動のために、全体的にピリピリしていた、ということもある。だが、ジョンは命を懸けてまで赴いたというのに。
 しかしジョンは首を振る。
「過ぎた事だ」
 詫びは不要、と言わんばかりに。

「バーヴァン共の夢とやらを詳しく聞かせてもらおう」
 アインの言葉に、ジョンは一度逡巡し、そして言葉を紡ぐ。
「‥‥それは少々否定せねばなるまい」
 そう前置きしてジョンは話し出す。

 ここに残った者たちは、ジョンの想いに、生き方に賛同した者たちだ。
「我らの夢‥‥それはコモンとの共存」
 その言葉に目を見開くのは、ドラグナーたち。
「我らは血を吸うことを止め、共存の道を図っていたのだ」
 バーヴァンの中ではかなりの少数派。だが、諦めず、道を模索していた中、ティルノギアの儀式魔法が発動した。

「つまり、闇の住人でありながらも、善良な魂を持つものが世界に残った、というわけか」
「それも、違う」
 カイエンの言葉にジョンは首を振る。
 バーヴァンたちは悉くがティルノギアの影響を受けた。その結果、彼らの中から『呪われた血』が失せ、呪いから解放され、ただのヒューマンへと生まれ変わった。

「危険が無ぇなら、自分やライトエルフと同じなんでは?」
 メリィの言葉に、賛同を示しつつ、ジョンは街の方角を見遣る。
「彼らには、関係あるまい」
 奴隷たち。彼らはバーヴァンに『家畜』や『餌』として飼育・支配されてきた。抑えつけていた力や恐怖、それが無くなったら?
 報復されても文句が言えぬ、貴族や領主は真っ先に殺された。そして勢いづいた奴隷たちは、共存を図ろうとしていたジョンたちも手にかけようとした。
「我らが積み上げたものが無為に帰すところだった」
 一瞬の間。それはジョンの安堵を表わす、沈黙。
「改めて、礼を言う」
 ジョンが頭を下げる。

 さて、そうなると、次は具体的にどうするか、という話になる。

「どうしてもここで暮らしたいのか?」
 メリィからの問いかけ。奴隷たちの心を考えると、今すぐの共存は難しいだろう。
「他の地で‥‥か」
 それは良い案かもしれない。
「奴隷たちの考えもあるだろう」
 カイエンが言葉を添える。互いに望むこと、これからの世界の在り方。
「場合によっては、緩衝地帯を設けるなども必要かもしれん」
 掛け合うための道標や人脈のツテ。様々なモノが必要になってくるはずだ。それに協力は惜しまない、とカイエンは言う。
「俺は‥‥無駄な血が流れない平穏な世界を、心から望んでいる」
 カイエンの真摯な視線がジョンに。
「夢なぁ‥‥叶うといいなぁ」
 そして、メリィが笑いかけた。

◆目指す先
 暴動が鎮圧された後。奴隷たちは広場に集められていた。

 そこでスープを作るアーク。『興奮していては話も出来まい』と落ち着かせるための手段であったが、それは別の意味でも奴隷たちを安堵させる。
 ジェイド、ローズ、ジルヴァがスープを奴隷たちの手に配っていく。姿の見えないソニアとデュークは材料集めに駆け回っていたりするけど。

「お前達にも言い分はあろうが‥‥」
 アークが話しかける。
「ただ殺した後、お前達はどうするつもりか考えているのか?」
 例えば、今後の生活基盤。衣食住の当て。生業。これからのことだ。
 返ってくる答えは何もない。

「もう‥‥誰も、傷ついたり、傷つけたりしなくていい世界なのよ」
 語りかけるローズ。理不尽に命を脅かす魔はもう存在しない。
「お互いに、静かに‥‥穏便に暮らせる世界を、これから作らなきゃいけないの」
 じっと見つめる視線。暴動を起こしていた身で耐えられる者は少ない。
「あなた方が戦っている『敵』は、なんですか?」
 ジェイドが問いかける。
「斬れば血が出て、死ぬような『人』が、憎しみ殺し合い、それで満足ですか?」
 辛辣ながら、真っ直ぐに。奴隷たちに問いかける。

 答えは‥‥無い。しかし、奴隷たちの俯いた表情が、漏れてくる嗚咽が。彼らの心を表わしている。
 バーヴァンはバーヴァンでは無くなり、奴隷たちもまた奴隷から解放された。
「あたしたち、同じ『ひと』なのよ!」
 ローズの言葉が奴隷たちに染みわたっていく。
「すぐに仲良くなれ、なんて言えないし、無理なことだってある」
 過去は覆らない。例え、取り返しのつかないことがあったとしても。
「でも、人同士が殺し合って、いいはずがないもの! そうでしょう?」
 ローズが言っていることは限りなく正論で、そして込められた想いも熱意も本物だ。

 だからこそ、奴隷たちは返事ができない。頭では理解できても、心が納得しない。

「殺すよりも生活基盤を構築する為に協力させればどうだろう?」
 現実的に物事を。そう考えたアークの提案にも。

(長きに渡る支配から生まれた怨嗟や絶望を取り払うことは、そう容易ではないでしょう)
 ゆえに完全な説得は難しい、とジェイドは考える。
「ならば、離れて生きるよりほかありません、か」
 互いに争わない境界を持ち、長い時間をかけて、『忘却』を待つ。

 奇しくもドラグナーたちがジョンたちと話し合った結果と同じ結論。

「まあ、まずは、お腹を満たすのが良いと思うよ」
 ジルヴァが指差すのは、先にアークが配っていたスープだ。

 奴隷たちがひとり、またひとりとスープに口をつけ、飲み干していく姿を、ジルヴァは優しく見守っていた。

◆いつの日か
 話を終えたドラグナーたちは、合流し、お互いの情報を共有しあう。しかし、事は一朝一夕で片付く問題ではなさそうだ。今は‥‥時間を置くことが最良かもしれない。

 でもそれは決して『逃げ』ではない。
 魔法がこの先、御伽噺のような存在になっていくと共に、元バーヴァンと元奴隷たちの、忌まわしき因縁も薄れていくだろう。その記憶が遠くなっていくにつれ。

 その時。彼らはきっと共存できる。

◆ドラグナー
 それは、メルというスカイドラグーンの主に集められ、世界の危機を救った英雄たちだ。『その』ドラグナーはもう消えゆく未来にある。

 だが。
 遠い未来。もしかすると‥‥それは『違う意味を持つ』、そんな可能性も‥‥もしかしたら。