担当MS:旭吉

いつかあなたに

開始料金タイプ分類舞台難易度オプション状況
17/05/23 24:0010000 Rexボイスドラマ日常竜宮自由お任せプション 8人

◆参加者一覧

パシフローラ・ヒューエ(ta6651)E火
アシル・レオンハート(tb5534)P火
レイナス・フィゲリック(tb7223)H陽
クレア・ジェラート(tf3225)E水
アーシェ・フォルクロア(tj5365)H風
ナヴィ・アルティシア(tj5711)E水
ヴァイス・ベルヴァルド(tk5406)E月
エミリア・ユーリ(tk5497)E火

オープニング

◆永久の平穏
 滅びの道を辿るしか無かった世界は救われた。
 コモンヘイムからカオスは一掃され、デュルヘイムともシーリーヘイムとも完全に分かたれた。
 魔法も失われる事となったが、お陰で今の平穏がある。
 心地よい草原に身を横たえて、常春の微風に微睡んでも何の危険も無い――

「――士、博士。‥‥起きたまえタウザー博士!」

◆あやしい実験?
 コモンヘイム上空、天竜宮。
 ティルノギア発動後の世界で唯一、魔法が残されている場所。

 天竜宮に住んでいた精霊はほぼシーリーヘイムへ去ってしまったが、それ以外の魔法的な生物は残っており、その能力も残されている。
 ここ、『精神の領域』に住まうドゥーミン達もそのひとつだ。
「いやぁ、よく集まってくださいました皆さん!」
「今日はちと実験したい事があってな」
 赤茶のあご髭が印象的なタウザー博士と、白髪の老人パーゼン教授。彼らはかつて『三賢者派』と呼ばれていた学者達である。多くの職人や商人達が地上へ降りる中、ドラグナーでない彼らがこちらへの残留を望んだのは、単純に知的好奇心が勝った故らしい。
「世界の再構築からこちらでひと月。地上では二年か三年か、それくらいですかね。
 地上と天竜宮、シーリーヘイムは分かたれましたが、今の所ニコラさん達の錬金装置でまだ連絡は可能である、という事はご存知ですか?」
 詳しい仕組みは不明だが、タウザー博士の言う事は事実だ。
 天竜宮に住まう者達は七精門で地上との行き来が可能だが、地上に戻ったりシーリーヘイムへ昇華された者達は二度と天竜宮へ戻る事はできない。しかし、最後にニコラやタイコが完成させた錬金装置によって、あと数か月程度は離れた世界の者達とも言葉を交わす事ができるのが今の状態だ。
「実はこの錬金装置の話を聞いた時から、わしらも進めておった研究があってな。君達にとっても悪い話では無いと思うのじゃが、協力してみる気は無いかね?」
 パーゼン教授達の近くで待っているのは、数体のドゥーミン達。
 ドゥーミンは二足歩行するカバのような妖獣で、テレパシーのような手段で意思疎通もできる。最大の特徴はコモンに夢を見せる事ができる能力で、バクやサンディといった夢を操る精霊がいなくなった今の世界では、意図的に夢を見せられる唯一の存在と言えるだろう。
 そのドゥーミンの一体が、念話で直接話しかけてくる。
(たのしい、おもしろいゆめをおみせします。はかせたちがてつだってくれるので、もっとおもしろくなるとおもいます。だいじょうぶです)
 元々ドゥーミンとは、夢で人間を喜ばせる為に作り出された生物だ。彼ら(?)の意思に偽りも悪意も無いのは確かだろう。博士達も悪い話ではないとは言っていた。
 具体的にどのような夢になるのかは、タウザー博士から茶目っ気たっぷりに「見てからのお楽しみです!」などと言われて秘密にされてしまったが。

 とにかく自分達は、この領域で博士達の言うタイミングで眠ればいいらしい。
 楽しみ半分、疑い半分ながら、穏やかな春風に誘われるまま眠りの底へ――。

◆ゆめであえたら
 あなたはシーリーヘイムの花畑にいたか。
 それとも天竜宮の常春の草原にいたか。
 あるいは、地上の自室かどこかで眠っていたか。
 ふと、人の気配を感じた方へ向かってみると景色が変わっていた。

 ――ああ、忘れもしない、七精門。ドラグナー達が集い、旅立った場所。
 そこには懐かしい、あるいは初めて見る顔があったが、皆ドラグナーである事は確かだろう。
 最近は装置を介してでないと会えなかった顔も、今は手を伸ばして触れる事ができる。
 香りも温もりも景色も味も、今は同じものを共有できるはずだ。

 最近、あなたは何を見たのだろうか。
 素晴らしいものを見たなら、教えて欲しい。
 あなたが望めば、望むままに。景色はその姿を変えるから。
 あの時、あなたは何を伝えたかったのだろうか。
 忘れられないものがあるなら、教えて欲しい。
 あなたが望めば、望むままに。あなたの心も映し出そう。

 全てが思い出になる前に。
 もう一度、あなたと。

◆マスターより
旭吉です
ラスト特別企画、ボイスシナリオを担当させて頂きます

〇状況
ティルノギア発動から精霊歴で2、3年後 竜宮歴でおよそ1か月後
地上組も、シーリーヘイム組も、天竜宮組も問題なく参加可能ですが、
シナリオ内の行動は夢シナリオの扱いになります
(夢から覚めた後は何となく覚えてるような覚えてないような、程度の記憶です)

夢の中での地上組の皆様は多少成長した姿・声でも、天竜宮を去った当時のままでも構いません
普段の錬金装置越しでは音声と映像による通話ですが
この夢では直接対面できる上に周囲の景色ごと変えられます
地上の風景でも良し、実在しない心象風景でも良し
思い出話や近況を話したり、久し振りに剣を交わしてみてもいいです
参加キャラ以外の『声』は、人混みや動物の鳴き声程度なら可能ですが、地上での知人など第三者との会話は再現できません

夢のような、本当のような、懐かしく不思議な時間を
できればさよならではなく、またね、と

◆ボイスリプレイとは
 このシナリオは「ラスト特別企画」の一つである、「ボイスリプレイ」です。
 ボイスリプレイは、ショートシナリオのリプレイに加え、STARSボイスアクターによるボイスドラマが作成されます。
 プレイングには、キャラに行わせたい行動内容と共に、第三希望までのSTARSボイスアクター名、声や発音に関する補足などを記入してください。レクシィ株式会社の担当者が希望順に直接打診を行い、担当声優を決定します。希望クリエーターへの打診が承諾されなかった場合、希望クリエーターがいない場合は、担当者が選出します。

リプレイ

全編通して再生




オープニング


◆いつかの再会

 穏やかな春風が、髪と耳をくすぐった気がした。
 いつしか瞼越しに感じていた眩しさに目を開けてみると、そこは――
「白い石の道‥‥それにこの門は‥‥あぁ! 七精門です〜!」
 ドラグナーとして何度もくぐり、その先で出会った様々な思い出がクレア・ジェラート(tf3225)の胸に去来した。
「クレアさーん!」
 更に懐かしい声がした時、周囲の風景が変化を始める。
(あれ? 景色が滲んでいくような〜‥‥雲が泡になって上に浮かんで‥‥って、青空も太陽も水面の向こうになってませんか〜!?)
 自分もいつの間にか青いメロウ姿になっていたが、声がした方向に振り向くと赤いメロウがいた。
「えっ? パシフローラさんですか!?」
「本当にクレアさんなのね、会えて嬉しいわ」
「うちも嬉しいです〜! お元気でしたか?」
 両の掌を重ね合い、互いの存在を確認し合う。彼女は確かに親友のパシフローラ・ヒューエ(ta6651)だった。
「水中でも息ができる‥‥不思議ではありますが、何だか嬉しくなりますね」
「レイナス!? パシフローラに、クレアも? 何でこんなところに!?」
 メロウではないレイナス・フィゲリック(tb7223)とアシル・レオンハート(tb5534)も、いつもの姿のままでこの水中にいた。アシルは初めこそ混乱していたが、やがて見覚えのある場所である事に気付いた。
「ここは‥‥そうだ、ミューズ湖の中だNE。何度も皆で潜った」
「ああ、懐かしいですね。釣りやピクニック、色々と来ましたからね」
「畔でもたくさん遊びましたよね〜」
「あの神殿もあるかしら? 一緒に行きましょう、皆さん。何だかわくわくするわ」
 懐かしい記憶に想いを馳せながら、水中を歩く二人に合わせてメロウの二人が泳ぐ。湖を潜っていくと、懐かしい神殿が見えてきた。
「天竜宮に来て、間もない頃でしたね〜。うちが天竜宮に来た理由の『空に眠るお宝』、早々に見つけちゃったんですよ〜‥‥」
 それからの生活がクレアにとって退屈であったかと言えば、決してそんな事は無く。ただただ、ここでの日々は楽しかったと思い出す。
 水底に差し込む陽光が波に揺れるのを見て、レイナスは再び水面を見上げた。
「魔法の品も無くなった今は、こうしてゆったりと並んで水中を泳ぐ事も、景色を眺める事もできなくなりましたからね‥‥」
「そうね‥‥地上ではもう、一緒には‥‥あら?」
 ふと、陽光の欠片がはらはらと落ちてきたような気がして。レイナスとパシフローラが手を伸ばしてみると、欠片は花弁のように次々と降ってきて景色を変えていく。

「あれ? 俺達今までミューズ湖に‥‥ここは?」
 視界を埋め尽くす程の光は白い花弁へと変わっており、アシルの両手に握られていた。水面越しだった青空ははっきりと見えており、水中に浮かんでいた足元には見渡す限りの白花の花畑がある。
「この花は‥‥アシル、ここはアルピニオの白花の丘ではないですか?」
「そうだ! ねえレイナス、みんなもうちにおいでよ! 家族みんなで、ここに喫茶を開いたんだ」
 今度はアシルが先頭になって友人達を誘う。温かく白い景色を抜けていくと、こじんまりとした店が見えてくる。
「初めてですが、懐かしい‥‥キミの作り上げた空気ですね」
「亡くなった父親と‥‥それと、地上に降りた時奥さんと過ごした思い出の場所だったから。ここでも、皆が集まれる大切な場所を作りたかったんだ」
 レイナス達を店の席まで案内すると、アシルは早速茶の準備に取り掛かる。その出来上がりを楽しみに待ちながら、パシフローラは窓の外を見た。
「本当に、綺麗な景色ね‥‥そう言えば、この丘の教会でレイナスさんと結婚式を挙げたわね」
「そうでしたね‥‥」
「あの時はアシルさんも、クレアさんも祝ってくれて‥‥とても嬉しかったわ。改めて、ありがとう」
「パシフローラさん、とっても綺麗でしたよ〜!」
 レイナスとパシフローラの薬指に光る結婚指輪に当時の祝福を思い出していると、アシルがやってきて茶を運んでいく。
「このお茶も、いつぶりになるでしょう。懐かしくて、ほっとします」
「そう言ってもらえてよかったYO」
「景色もいいから、余計に美味しく感じるわ。家ではできない、特別な味ね」
「キミが家で淹れてくれるお茶も、勿論ほっとさせてくれますよ」
「ふふ、レイナスさんたら。家庭の味‥‥なんて、自惚れていいのかしら」
 同じテーブルにつき、レイナス夫婦の惚気を聞いていても幸せに思える。あの日祝福した友人夫婦がうまくいっているのを目の当たりにして、アシルもクレアも嬉しかったのだ。
「アシルさん、あの教会ってこのお店から近いんですか〜?」
「うん! お茶が終わったら案内してあげ‥‥あれ?」
 クレアに答えたアシルが窓の外を見ると、白花に混じって薄紅の花弁が散っているのが見えた。
「ここって、桜は無いんだけど‥‥?」
 窓から身を乗り出してみると、桜は一本ではなかった。店を囲むようにずっしりと生えていた満開の桜は花弁を散らしきると夏の葉桜へ変わり、やがて色づいて鮮やかな枯葉を落とした後、春を待つ蕾をつけた枯木へと姿を変えていく。
「とっても綺麗な桜ですね〜!」
「もしかしたら、自分の想いが混ざってしまったのかもしれません。こうして皆でテーブルを囲んで、お茶をしながら桜を眺めたいと」
「ローレックで皆と染めた桜染めのハンカチ、今も大切にしているわ。見て、ほら! 素敵な色でしょう?」
 パシフローラが桜色のハンカチを広げると、皆懐かしさに声をあげた。
「今住むローレックの桜。そしてグリーヴァの桜‥‥アシルやパシフローラと共に和之国の地を踏めたのも良い思い出です」
「そうだね‥‥良かったよね‥‥、ほんとに‥‥」
「桜って別れのイメージもあれば、新たな出会いのイメージもあって、嬉しいような寂しいような〜‥‥って、アシルさん?」
 声を震わせて必死に堪えていたアシルが、ついに手で目を覆う。反射的に出されたレイナスのハンカチを受け取ると、アシルは何とか笑おうとした。
「ふふ‥‥だめだNE。泣いちゃいけないって、思ってて‥‥」
「泣いていいのよ、アシルさん。私達、親友じゃない。我慢はしないで」
 パシフローラに優しく声をかけられると、もう限界だった。
「今も凄く幸せなんだけど‥‥。時々、皆と過ごして笑いあってた天竜宮での暮らしが‥‥とても懐かしく感じるんだ。大切な家族と暮らしているけど、それでも‥‥今、『ここ』が‥‥とっても温かくて‥‥っ」
 きっと、もう二度と実現しないであろうこの場所が、アシルにはどうしようもなく愛おしく感じられてしまったのだ。
「この桜は、きっと別れの桜じゃないです〜! またいつか、この桜が咲いた時に、皆で会えるってうちは信じてますよ〜っ」
「ええ、またお会いしましょう。今度は『ここ』ではなく、ちゃんとアシルの店で。勿論、店でなくても会えるかもしれませんよ」
「皆の想いが重なって、繋がって‥‥今だけじゃなくて、いつまでもそうだって、思えるから」
「ぜったいぜったい、約束です〜!」
 四人で固く手を重ねて誓う。離れていても繋がっていよう。きっとまた会おう、と。
(あの時、皆別の道を歩いていたと思ってた‥‥でも違ったんだ)
 例え違う道を歩いたとしても、いつか再び道を同じにする事もある。同じ想いを持っている限りずっと、その希望は続くと信じて。

◆夢から覚めても

 記憶が確かであれば。ローレックの新たな住まいで、今夜も二人で寝ていたはずで。
(ここは‥‥水中‥‥? だが、息ができる‥‥ナヴィが宿していたケルピーの影響か?)
 正しい所は何もわからないが、とにかくメロウでないアーシェ・フォルクロア(tj5365)でも水中で息ができて、歩く事もできるのは確かだ。
「ドラグナーの頃は、このような事もよくあった気がしますが‥‥久々だと新鮮ですね♪」
 穏やかな水流にドレスの裾を揺らしながら、腕に抱きついてくるナヴィ・アルティシア(tj5711)。彼女もヒューマンの姿のままだった。
「私はもう、この姿ではお水に浸かれない‥‥でも、今はできているから。いい思い出を作りたいの」
 メロウリングはもう使えない。大量の水に指先で触れただけで、彼女は人魚に戻ってしまう。それが本来の姿とは言え、アーシェにとってはもどかしかった。
「少し、お散歩しましょう。お水の中での結婚式も夢だったのですが、今となってはですね」
「ここならできそうだが、そういった作法には疎くてな」
 手に手を取って、水面に向けて泡が浮かんでいく水中を歩いていく。
「あら‥‥お魚の群れですよ、アーシェ♪」
「そうだな。‥‥まさかとは思うが、あれも美味そうに見えるのか」
「まるで私が腹ペコさんみたいじゃないですか。確かにお魚は一番好きですけど、可愛いと思う事だってあります」
 泳ぎ去っていく群れを見送って、また歩き続ける。
「最近は魚以外も食べるようになったよな」
「はい♪ アーシェがお魚味を付けてくれますから。それに、食べないといじわるしますし‥‥」
「さて、何の事だか。あまり好き嫌いせず、長生きしてくれ」
「逆ですよ。長生きできるように頑張りますから、あんまりいじわるしないでもらえると嬉しいです」
 悪戯っぽく笑うナヴィに、アーシェは溜息と共に肩を落とす。
 ライトエルフとメロウでは、どうしても覆らない種族の壁がある。できるとしたら、世界を作り変えたあのティルノギアくらいだったかもしれないが。
(ティルノギア自体は、宝ではなかった。元々それを求めていた訳では無いが、天竜宮で俺は多くを得られた。失ったモノもあるにはあるが‥‥)
 ナヴィと寄り添いながら、心地よい水音と共に更に歩き続ける。
(盗賊時代から時は過ぎた。過去は無くならないが‥‥やり直す機会を得た。ナヴィを得た。新たな家族と、故郷と‥‥大事なモノの為、生きる時間を与えてくれた。ナヴィとの新たな子だけはもう望めないが‥‥)
「ねえ、アーシェ」
「どうした」
「いつか‥‥親の無い、寂しい子がいたら。私、育てたいです。エルフとメロウの所では嫌がられるかも知れませんが‥‥広い意味で、私もあなたに拾って貰った子ですから♪」
「‥‥そうだな」
 指通りのいい髪をひと梳きして、アーシェはナヴィに向き直る。
「その時は‥‥静かで落ち着いた森近くに住もう。できれば、こんな池があるような森の近くに」
 二人で見上げた水面は遥か遠く、ただ陽光が煌めくばかりだったが。それでもきっとここが、二人で夢見た場所なのだろう。
「お家に帰ったら‥‥また物語にしたいです」
「今度はどんな話だ」
「昔々‥‥ううん、ちょっと違うような。彼方へ続く、書きかけの物語‥‥でしょうか」
「相変わらずよくわからないな、お前の話は」
 大きな泡が水面へ散っていくのを見ながら。ナヴィは物語の続きを綴る。

◆あなたに伝えたくて

 不思議と、現実では有り得ない場所にいる事に違和感は覚えなかった。ヴァイス・ベルヴァルド(tk5406)がアルピニオ上空から地上を見下ろしていると、雲の向こうからエミリア・ユーリ(tk5497)も歩み寄ってきた。
「ヴァイスさんもいたんですね。こんな風に、空から見るのも結構面白いですね‥‥ヴァイスさんの住んでる街はどこですか?」
「あの湖の近くだ、見えるか?」
 彼が指差す場所を正確に見ようと、エミリアは体を寄せる。
「私の街はあそこですよ。こうして見ると結構近いですね‥‥時計塔が建設中なの、わかりますか?」
「おお、あそこか。確かに、そう遠くないのだな‥‥。そうか‥‥」
 言葉の意味を噛みしめるように、その視線に何かを想うように、彼はエミリアの街をずっと見ていた。
「あの‥‥ヴァイスさん。普段だったら、多分言えないんですけど」
 天竜宮から降りてから数年。それぞれの道を歩むようになって、二人が会う事は無かった。今何をしているのかも把握していないが、大体予想は付いた。
「ヴァイスさんはやっぱり、貴族として‥‥今も家の為に?」
「そうだ。‥‥不服そうだな?」
 そして、予想通りだった。
「‥‥ヴァイスさんは真面目な人ですから。けれども、私は貴方がそれに縛られてるような気がします」
 不安げに見つめるエミリアに、ヴァイスは風で流される雲を見送ってから答える。
「私には天竜宮に発った時から今まで健在の者が少なからずいる。重ねた記録と手紙は消えぬし、彼らにも助けは必要だ。これは私だけがやれる事だろう?」
「確かに、ドラグナーとしての責務を全うしようとする貴方は素敵です。でも、そこまでして貴族という事に拘らなくても」
「エミリア」
 彼は見てほしいとでも言うように、腕を広げてアルピニオ全土を見せた。リーガとウニオンに分かれ、ユーロ全土が争った戦場――ここはその中心だった。街の復興は進んではいるが、その爪痕もまだ深く残っている。
「あの戦争は人々の記憶から薄れても、状況まではな。元ドラグナーとしても、見捨てる事はできない」
「それは‥‥私も、復興は必要だとは思います。ですが、ヴァイスさんは三十年以上も家を空けていたんでしょう? もう少し、自由に‥‥楽に生きてみては如何ですか?」
 エミリアの訴えにヴァイスは肯定も反論もできず、黙ってしばらくアルピニオの街並みを眺めた後――彼はやっと肩の力を抜いた。
「どうも私は、昔から気を張りすぎている所があるらしいな。‥‥気を休められる場所がエミリアの傍であれば、どれだけ幸せか‥‥」
「私の傍でヴァイスさんが休めるなら、私は嬉しいです」
 ヴァイスなりに精一杯伝えてみたつもりだが、どうやら正確には伝わらなかったらしい。
「‥‥今は、お互い道を違えてしまっている。だが、その道が近いのであれば寄り添う事は‥‥できるのではないかと‥‥」
「確かに、住んでいる街も近いですからね。いつでも会いに行けそうです」
「ああ‥‥いや、その‥‥だからな」
「ヴァイスさん?」
 駄目だ。これは、覚悟を決めねば一生伝わらない。観念して、ヴァイスは咳払いをひとつすると向き合った。
「‥‥エミリアを妻に迎えたい。私と結婚してほしい」
「‥‥!」
「苦難は多いだろうし、私の方が先に旅立つだろう。だが、それでもエミリアが私を求めてくれるなら‥‥私は命が尽きるまで、エミリアだけを愛したい」
 誠心誠意、彼らしい真面目な告白。
「‥‥勿論、喜んで」
 彼の誠意に、最大限の敬意と愛情を込めて。エミリアが彼の手を取ると、ヴァイスは穏やかに微笑んだ。
「‥‥ありがとう。頼りない私だが、これからも支えてほしい」
 エミリアの記憶に残る中で、それが彼の一番の笑顔だった。

◆あなたに


『懐かし貴方へ、祈り届いて あふれる想い、永遠に、永遠に』

 祈りの歌と共に、眠りは醒める。
 しかし、繋いだ心は離れない。
 別れた道も、時も超えて、いつか必ず。

 ――いつかあなたに。




◆スタッフ


パシフローラ・ヒューエ(ta6651):桜月秋姫
アシル・レオンハート(tb5534):大和禀
レイナス・フィゲリック(tb7223):mugikon
クレア・ジェラート(tf3225):瀬良ハルカ
アーシェ・フォルクロア(tj5365):影鴉
ナヴィ・アルティシア(tj5711):青柳るう
ヴァイス・ベルヴァルド(tk5406):真マクロ黒
エミリア・ユーリ(tk5497):桜月秋姫
ナレーター:ケント

原作:旭吉
編集:ケント
企画:福龍之介(REXi)